井上卓也
ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
AU−D707F EXTRAは、従来の707Fに較べ、シャーシの機構設計面で上級機同様の銅メッキシャーシを全面的に新採用しており、その内容的な変化は、大幅な変更と考えてよい。
シャーシの銅メッキ処理は、以前から一部の高周波関係の機器では採用されていたが、オーディオアンプにこれを導入したのは、おそらくサンスイが最初で、AU−D907リミテッドが第一弾製品だ。
オーディオでの銅メッキの効果は、鉄板の電磁誘導フラックスの抑制、アース間電位差の低減、シャーシ自体の振動の抑制などの相乗効果で、聴感上で歪感が減少しSN比が向上して、いわゆる今までノイズに埋れていた音が聴きとれるようになること、ステレオ再生で最も重要な音場感的情報が多くなり、パースペクティブな奥行き感やクリアーな音像定位が得られるようになるようだ。ただし、データとして現われる計測値は、未だ確実に得られてなく解析方法も手探りの状態にあるが、聴感上の効果は容易に誰でも判別可能なほど変化量がある。
現在、アンプ関係のエレクトロニクスの技術発展はめざましく、各社各様のアブローチでその成果を挙げているが、このエレクトロニクス系を組み込むシャーシの機構設計面では、従来からのいわゆるケースという意味でしか考えられてなく、優れたエレクトロニクス系が非常に悪い環境条件に置かれているために、その本来の性能が結果としての優れた音質に結びつかない例が多いのは、省エネルギー時代に大変に残念なことである。この銅メッキ処理もさしてアクティブな対策ではないが、低迷状態にある機構設計に甘んじている設計態度を標準とすれば、現状の壁を破るひとつの手段として正当に評価されるべきものと思われる。
他の変更は、共通のデザイン的な見直し、高域300kHzまで偏差を抑えた超ワイドレンジRIAAイコライザー、パワーアップがあるが、MC型対応はヘッドアンプ使用だ。
AU−D707F EXTRAは、従来からの素直で安定感のある音を一段とリファインし緻密でリッチな音としたタイプだ。厚みのある低域ベースの音は、穏やかで質も高い。聴き込むほどに本質的な長所が判ってくるタイプで信頼度は大変に高い。
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