JBL 4344

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART2」より

 4344は、基本的にはワイドレンジ型のシステムであるが、各ユニットは、振動板材料の違いからくる質感的な違和感を感じさせずにスムースにつながっている。極端なワイドレンジ型というよりは、あくまでナチュラルな帯域、バランスが身上だ。以前の4ウェイシステムのシャープで鋭角的な解像力を特長とする明るさから、一段とこまやかで音楽のディテールを素直に聴かせる、フレキシブルな表現力をもつシステムに成長している。
 低域に関してこの4344は、このところ省エネルギー設計の打撃から立直りはじめた中級以上のプリメインアンプでも、比較的簡単にドライブでき、優れた低域再生能力を備えているといえるだろう。4343が登場した時点では、当時のアンプの低域ドライブ能力不足もあって、少なくとも200W+200Wクラス以上のパワーアンプを使わないと、低域のコントロールができなかった。その頃から比べると、4344の低域再生能力は隔世の感がある。
 アルニコ系磁石独特の軽くソリッドに引締まった低域の特長と、フェライト系磁石の豊かで低域から中低域にかけてスムースなエンベロープを聴かせる特長をあわせもつ低域が、この4344の開発の重要テーマだったと聞くが、ウーファーの改良と、エンクロージュアのチューニング技術の進歩で、実際にこのシステムを聴いた結果からも、この目的はほぼ達成されていると判断できる。
 4343は4ウェイ構成でありながら、予想より中低域の豊かさが少なく、ゴリッと重い低域と輝かしい中高域がバランスを保つ、個性的なバランスのスピーカーであった。これと比較すると、SFG磁気回路を深用した4343Bでは、解像力では4343に一歩譲るとしても、低域から中低域にかけての豊かでバランスのよいファンダメンタルトーンが新しい魅力となり、システムとしてのトータルなバランスは格段に向上したことが印象に新しい。4344では、新しいミッドバスユニット2122Hの受持帯域の高域側の特性と音質改善の効果と、エンクロージュアのチューニングの方向性の違いも相乗的に働いて、低域から中低域にかけてのリッチでクォリティの高い音のまとまりは、JBLの4ウェイシステムとしてトップランクのものだ。
 中高域から高域は、主にユニット関係の改善と、ネットワークのバックアップで、やや金属的な響きに偏ったダイレクトな表現から、音の粒子が一段と細かく滑らかな光沢をもつ、しなやかでスムースなタイプに発展している。
 したがって、4343をエネルギッシュで粗削りだが若々しい、爽やかでダイナミックな魅力とすれば、この4344は、それが熟成されて、まろやかな味わいがある一段と完成度の高い円熟した魅力を備えたということができる。それだけの深みがあるといえるだろう。
 全体の音の粒子が細かく滑らかなだけに、音場感的なプレゼンスは素直な遠近感を聴かせる。いわゆる「前に音が出る」JBLから、「奥行きのある」JBLへと、一段とリファインされたといえよう。

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