Tag Archives: 4344

JBL 4344MkII

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 4344の最新モデルだが、内容には見た目以上の新しい技術によるリファインが感じられる。ユニット、ネットワークからターミナル、線材などなど、あらゆる箇所が見直されている。しかし全体の形状、4ウェイ4ユニットの基本は変らず、さすがに原器の持つ良さを残し、より洗練した音に仕上がっている。

JBL 4344MkII

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 JBLの超ロングセラーを誇るプロフェッショナルモニターの4344が、同社最新の技術が投入された新ユニットを採用し、4344MkIIとして発売された。
 基本的に、ホーン型とコーン型を組み合わせた2ウェイ構成システムをプロフェッショナルモニターとして開発するJBLのラインナップのなかで、4344のような4ウェイ構成のシステムは例外的な存在のようだ。かつては38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355、46cmウーファー採用の4345も存在はしたが、現在残っている4ウェイ構成のモデルは、この4344MkIIのみである。
 4344の系譜は、プロフェッショナルモニター・シリーズの初期の4341に始まり、ユニット構成はそのままにエンクロージュアを大型化した名作4343が第2世代の製品である。本機は、ハイエンドオーディオのリファレンススピーカーとして最高の評価が与えられ、これほど数多くの愛用者を獲得したスピーカーシステムはないといっても過言ではない。内容の濃い製品であった。
 この4343の後継機として’82年に登場したモデルが4344で、それ以後、すでに14年の歳月が経過したことになる。
 4ウェイ構成のシステムは、ユニットが多いだけに、そのシステムプランにはほぼ無限の組合せが存在することになるが、平均的には3ウェイ構成のシステムをベースに、最低域を加えたサブウーファー型や、その逆に最高域を加えたスーパートゥイーター型の構想が多く採用されている。とくにプログラムソース──SPからLP、LPからステレオLP、そしてCD、さらには現在のようにハイサンプリングDATやDVDなど──の進化に伴って、高域再生周波数が改善されるようになると、その高域を再生可能とするために、高域レスポンスに優れたユニットを従来のシステムに追加するという、システムプランが考えられるようである。
 4ウェイ構成は、100Hz〜10kHzを2ウェイ構成でカバーし、それに最低域と最高域を加えるシステムプランが理想的だが、指向周波数特性、歪率などを考えると、予想外にその実現はむずかしいものがある。
 JBLの4ウェイ構成は、基本的には低域と中域のクロスオーバー周波数を、比較的近い周波数に設定可能な大口径を採用し、その高域にドライバーユニットとホーンを組み合わせたユニットを使い、これにスーパートゥイーターを加える、といったシステムプランによるものだ。
 したがって、中域(結果としては中低域になる)にはコーン型が採用されており、かつての38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355では30cmユニットが、38cm口径シングル仕様の4341/4343/4344では25cmユニットが、伝統的に用いられている。
 ちなみに、同様な構想になるシステムのウェストレイクBBSM15(これは3ウェイ構成だが)では、低域が38cm口径のダブルウーファー仕様、中域が25cmコーン型、高域がトム・ヒドレーホーン採用のドライバーユニットで、すべてJBLユニットで構成されている。これに、スーパートゥイーターを加えれば4ウェイ構成となるが、エネルギーバランス的には、中域(中低域)を30cm口径ユニットにサイズアップしなければならないだろう、というのがスピーカーの面白いところである。
 最新の4344MkIIは、前作の開発以来14年を経ているだけに、外観上印象や外形寸法こそ前作を受け継いではいるが、その内容は完全に基本からの新設計によるもので、前作を受け継ぐのは高域の2405Hだけといってもよいほどの全面的な改良が施されている。
 バッフル面のユニットレイアウトの基本はほぼ同一で、JBLのいうミラーイメージ構成によるものだが、低域用のバスレフ円筒型ポートの位置が、4343のように再び左右に振り分けられ、上下方向の位置も低域と中低域ユニットの間になった。この変更に伴って、ウーファー取付け用金具MA15が、前作の4個から5個に増加している。
 中高域ユニットのスラント型ディフューザーは、型名の2308に変更はないようだが、フィンが11枚から12枚となり、取付け方法もマジッククロスから、ディフューザーに取り付けられた4個のダボをエンクロージュアのキャッチで受けるタイプに変更された。これにより、使用中に脱落することはなくなったが、注意しながら脱着しないとダボが破損しやすいようである。また、ディフューザーを取り外してみると、エンクロージュア側に八方ウレタンCとが取り付けてあり、振動の防止と、エンクロージュアのバッフル面からの2次放射を防ぐキメ細かな設計が見受けられる。
 アッテネーターパネルは、外観上ではさほど変化はないが、中低域・中高域・高域の各レベル調整はすべて+側が1・5dBと、同じ変化量に変更されている。とくに感度の高い中高域では20dB程度のアッテネーションが必要なだけに、プリアッテネーターとしてのネットワーク内での減衰方法は不明だが、連続可変型アッテネーターでの減衰量が少なくなったと考えれば、音質改善効果が期待できるかもしれない。
 使用ユニットは、低域が従来の2235HからS3100システムに搭載されている大入力対応VGC(ヴェンテッド・ギャップ・クーリング)機構採用のME150HSに、中低域が2122Hから振動系が強化された2133Hに、それぞれ変更されている。また、中高域のドライバーユニットは、S5500システムに使われている、ダイアモンドエッジをはじめ、0・05mm厚50mm口径のチタンダイアフラム、25mm径スロート、ネオジウムマグネット搭載磁気回路などを採用した、275Ndに替えられている。
 さらに、外観上ではわかりにくいが、4344MkIIで最も大きく変更された点は、創業以来貫いてきたシステムのアブソリュートフェイズが、一般のスピーカーシステムと同様、正相となったことである。これは、JBLではK2システム以来の仕様変更だ。つまり、従来のほとんどのJBLシステムは、+側を意味する赤マーク付端子に電池の+側を接続したときにコーンが引っ込む、逆相仕様が標準だったのだが、本機では端子の+側に電池の+側を接続したときにコーンが前に出る、他者のほとんどのスピーカーと同じ正相仕様に変更されたのである。
 このアブソリュートフェイズの正相/逆相は、とくに音色面と音場感に違いが出てくるが、古くからカートリッジやスピーカー等の変換器で、よく使われている設計手法である

JBL 4344

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 JBLの3文字ほど説得力の強いスピーカーもあるまい。ジェームス・バロー・ランシングという人の名前のイニシャルであることはいうまでもない。イタリア系移民の子として生まれた彼だが、名前を変えたらしい。ジェネレーションからして、オーディオの創成期から発達〜円熟期にかけて生きて、この名門の基礎を作った天才的な人物であった。
 JBLの商標は1950年代中頃に有名になったものだが、それを生み出したランシング・サウンド・コーポレーテッドという会社の創立は1946年だ。1902年生まれの彼だから44歳の時ということになる。もっとも、それ以前に彼はランシング・マニファクチェアリングという会社を創立し、すでにスピーカー作りに手を染めていた。1927年のこと、彼が25歳の頃だ。
 このJBL初の会社が後年、ウェスタン・エレクトリックから別れて出来たオール・テクニカル…つまりアルテック・サービス・コーポレーションと一緒になり、アルテック・ランシング・コーポレーションとなったわけで、ここから、さらにJBL・サウンド・インコーボレーテッドとして独立したのが、現在のJBL社の始まりなのである。したがって、そのルーツは1927年にまで遡ることができるから、実に67年もの歴史を持つメーカーだ。その彼も1949年に47歳で死んでいるが、その後今日まで45年間も彼の技術を基本としたスピーカー、アメリカを代表するスピーカーとして生き続ける。
 4344は、JBL全盛期を作った傑作モニターシステムで、わが国ではベストセラーを記録した。現在でも、このユーザーはJBL愛好者の中で最も多いのではないだろうか。4ウェイ4ユニット構成で、中高域にJBLらしいコンプレッション・ドライバーを持つ代表作。
 現在も現行製品としてカタログにあることは心強く、この製品へのユーザーの支持が強いことを証明している。素晴らしい製品だ。

JBL 4344(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「4344 ベストアンプセレクション」より

 JBLの4344は、’82年に発売されて以来ずっと、わが国において、スピーカーの第一線の座を守り続けている製品であると同時に、わが国のオーディオを語るうえでも決して忘れてはならないきわめて存在意義の大きな製品である。本機は、4ウェイシステムならではのエネルギー感溢れる音が魅力であり、機器をチェックする際のリファレンススピーカーとして、いまでも数多くのオーディオメーカーやオーディオ関連の雑誌社が使用している事実は、このスピーカーの実力のすべてを物語っているともいえよう。4344はJBLを代表するスタジオモニターであるばかりでなく、スピーカーのなかのスピーカーとして位置づけられるきわめて重要な製品である。
     *
 JBLの4344は、スタジオモニターシリーズとして、’82年に発売されて以来、JBLを代表する製品であるのはもちろんのこと、日本におけるあらゆるオーディオ製品の基準(リファレンス)として、このスピーカーが果たしてきた役割と実績は、もはやここでは語り尽くせないほど大きい。10年以上のロングランを続けているということは、初期の生産ラインと比べて、いまの生産技術は格段に向上しているため、特性面では確実にクォリティアップしている。実際それは音の面に現われおり、現在の4344は、ざっくりとしたダイナミックな表現力を基盤とする、メリハリの利いた音が特徴であり、モニターライクにディテールを描きわける、使いやすいスピーカーとなっている。
 4344をこれまで何百種類のアンプで鳴らしてきたかは定かではないが、ここでは、3種類のアンプを選択し、その音の表情の違いをリポートしようというものである。

アキュフェーズ C280V+P500L
 まず最初に聴いたのは、アキュフェーズのC280VとP500Lという組合せである。アキュフェーズのアンプは、私自身、国内製品のリファレンスのひとつとして捉えている。リファレンスの定義づけは、まず第一に安定した動作を示すこと、第二にあまりでしゃばらないニュートラルな性格をもっていることである。このふたつの要素を兼ね備えた製品が国内アンプでは、アキュフェーズであると思う。そのなかでもこのペアは、いつ聴いても安定感のある信頼性の高いものだ。このペアと4344の組合せというのは、ステレオサウンドの試聴室のみならず、あらゆる場所でのリファレンスとして私が考える組合せである。

ラックスマン C06α+M06α
 次に4344を鳴らすアンプは、ややゴリッとしてエッジの立ったきつい音をもつこのスピーカーの特徴を少し抑え、音楽を雰囲気良く聴く方向で選択した。アキュフェーズとの組合せの場合は、リファレンスシステムという色合いが濃いために、音楽が生々しく聴こえすぎて疲れるため、あまりゆったりと音楽を楽しむことができない。しかし、これはあくまでもアキュフェーズのアンプを私がリファレンスアンプとして捉えているために、ここではこういう言い方になるのであり、決してアキュフェーズのアンプがオーディオ・オーディオした音楽性に乏しいアンプであるようなイメージを抱かないでほしい。アキュフェーズのアンプは、リファレンスアンプであるという、確固たる存在として認めたうえでの話である。そこで、肩肘はらずに音楽を楽しもうというのがここでのプランである。
 この狙いに相応しいアンプとして、ラックスマンのC06α+M06αを選択した。このペアの音は、穏やかでしなやかな感触のなかに、鮮度感の高いフレッシュな響きを聴かせるラックスマン独特のものである。4344との組合せでは、この特徴がストレートに現われた、いい意味でのフィルター効果を伴った音を聴くことができた。国産アンプならではのディテール描写に優れた面と4344の音の輪郭をがっちりと出す面が見事にバランスした音は、単に音楽をゆったりと聴かせてくれるだけでなく、細かい音楽のニュアンスさえ再現してくれた。

マランツ PM99SE
 最後は、4344をセパレートアンプではなく、よりシンプルな形で鳴らしてみたいというのが狙いである。これは、使いこなしの面を含めた意味で一体型のプリメインアンプがセパレートアンプの場合ほど、気を使わずに音楽を楽しむことができるというメリットを優先したプランだ。
 ここで選択したプリメインアンプは、マランツのPM99SEだが、この選択にはそれなりに理由がある。それは、かつて4344の前作である4343を納得できる範囲で鳴らしてくれたプリメインアンプが同じマランツのモデル1250(130W+130W)であり、このPM99SEはその1250の現代版であると私が認識しているからだ。現代のようにドライヴ能力の高いプリメインアンプが数多く揃っていなかった時代の話である。
 前記のように、現在市場に出回っている4344は、非常に鳴らしやすいスピーカーとして生まれ変っているため、わざわざセパレートアンプを使ってラインケーブルや電源ケーブルを引き回したり、いい加減にセッティングして鳴らすよりは、プリメインアンプ一台でシンプルにドライヴした方が好結果を引き出しやすいはずだ。
 その結果は、当然のことながらセパレートアンプで鳴らしたときと比べれば、聴感上の拡がりや奥行き感は一歩譲るものの、一体型アンプならではのまとまりの良さのなかで、安定感のある再現を示してくれた。この一体型というプリメインアンプの良さは、一体型CDプレーヤーにも共通するものだが、安定感という点に関しては、セパレートアンプでは決して得られない世界なのだ。
 また、もうひとつプリメインアンプのメリットとして挙げられるのは、ウォームアップの速さである。現代の大型パワーアンプの場合は、パワースイッチをONにしてから、アンプ本来の音を引き出すために何時間ものウォームアップが必要であることは、ご承知の通りである。このPM99SEは、最初にA級で鳴らしてどんどん発熱させられるため、他のプリメインアンプよりウォームアップタイムがさらに速い。この点も、このアンプを選択した理由のひとつだ。

 現在の時点で、この4344ほど、さまざまなアンプと組み合され、また、オーディオ機器の各々の個性を引き出してくれるスピーカーもないだ

JBL 4344

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❸でのコントラバスがコントラバスならではのひびきの余裕を感じさせてこのましいが、いくぶん音像的にふくらみぎみである。そのことと関係してのことかどうか、❶から❷にかけては、ヴァイオリンより低い弦楽器の方がきわだってきこえる。総じて弦のアンサンブルによる演奏ならではの、しかもその点でのあじわいをうまくとらえた録音のよさをうまく示しえているとは、残念ながらいいにくい。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音が前の方でくっきり提示される点に特徴がある。❸ではギターよりベースの方がきわだつ。ギターの音はもう少しきめがこまかく、輝きがあってもよかったように思う。❺でのバックコーラスがいくぶん手前の方にせりだしぎみにきこえる。このスピーカーならではの積極性のあかしと考えるべきかもしれない。❷での声も輪郭をしっかり示して独自のなまなましさを示す。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
迫力にとんだきこえ方である。さまざまな音の力感をよく示せているからである。❸での音の動き方などにしても効果的である。ただ、奥の方からきこえるべき音も前の方にせりだしがちなので、前後の音場感ということでは、多少ものたりなさがある。❷でのティンパニの音などは、もう少しきりっとまとまってもよかったのではないかと思う。いくぶん音像がふくれ気味になっただけ、鋭さに不足している。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶ではピアノの音よりベースの音の方に耳がひきつけられがちである。❷でのピアノのひろがり方はほどほどである。❺での管楽器が加わっての音色的対比は十全であり、さすがと思わせる。❸でのシンバルの音は、もう少し輝きがほしいと思わなくもないが、くっきり示す。ただ、ここでも、奥へのひきという点で、いま一歩と思わなくもなかった。このレコード特有の音色的な特徴は十全にあきらかにした。

JBL 4344

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 このスピーカーに対してこれまで抱いていたイメージといくぶんちがうきこえ方がした。カートリッジ、あるいはアンプとの関係があってのことと思われた。
 音の輪郭をあいまいにすることなくくっきり示し、しかも積極的に音を前に押しだすところに、このスピーカーのもちあじのひとつがうかがえた。ただ、総じて、音像がふくらみすぎる傾向があり、そのために鋭さがそこなわれているところもなくはなかった。
 ①のレコードなどより、②、 ③、④のレコードの方が性格的にこのスピーカーにあっているといえそうである。①のレコードを不得手とするのは、きめこまかさへの対応ということでいくぶんいたらないところがあるためかもしれない。
 それぞれのレコードのサウンドキャラクターを拡大して示す傾向があり、それはこのスピーカーの順応性のよさゆえといえなくもないであろう。

JBL 4344, 4345

JBLのスピーカーシステム4344、4345の広告(輸入元:山水電気)
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

4345

JBL 4344

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART2」より

 4344は基本的な外形寸法こそ、最初の4343から変化はないが、スピーカーシステムとしては内容を一新した完全な新製品である。43シリーズ中の位置づけとしては、既発売の4345系の基本設計を受け継いでおり、4343Bの改良モデルというよりは、4345からの派生モデルということができる。
 4344のバッフルボード上のユニット配置は、4345を踏襲したレイアウトで、左右対称型のシンメトリー構成を採用している。4343で試みられたバッフルボードの2分割構造(中低域以上のユニットが取り付けられた部分のバッフルを90度回転して、横位置での使用を可能としている)は採用されず、完全にフロアー型としての使用を前提とした設計・開発方針がうかがえる。ちなみに、4343系と比較すると、ウーファー取り付け位置が上に移動し、バスレフダクトの位竃が大きく移動して、中低域ユニットの横となっている、という2点が大きな相違点だ。このユニット配置は、4343系のウーファーが、バッフルボードの下端に位置するため、実際の使用では床面の影響を受けやすく、使いこなしが難しかった点が改良されたことを意味する。
 エンクロージュア内部構造の相違も、4344が4343系とは完全に異なるシステムであることを物語るものだ。まず、中低域(ミッドバス)ユニット用の、バックキャビティの形状が全く違う。4343系では、バスレフポートとの相対関係から、奥行きが浅い構造であったが、4344ではほぼ四角形の奥行きが深い構造となり、補強棧を併用することで、バッフルと裏板にまたがって保持されている(図参照)。
 また補強棧が多く使われていることも目立つ変化である。とくに、4343系と比較すれば、天板と底板に、横方向に大きな補強棧が使われているのが特徴である.、この補強棧の使用法は、低域の再生能力を改善する目的で使われる例が多く、国産のスピーカーシステムでは低域の改善方法として採用されている標準的な手法である。裏板の補強棧の使用法も4343系と大きく異なるが、エンクロージュア側板の補強棧が、横位置から縦位置に変更されていることも含み、エンクロージュアの鳴きを抑える方向ではなく、適度に響きの美しさをいかす方向のチューニングであることがわかる。これは、バッフルボードに約19mm厚の積層合板が採用されていることからも明らかなことである。積層合板がバッフル板に使用されたのは、正式に公表されたものとしては(筆者は以前JBLのエンクロージュアで、同じ型番のものでも、チップボードを使ったり、積層合板を使ったりしているものを見ている)、JBL初のことと思われる。

 ユニット関係は一新された。ウーファーは、従来の43シリーズで標準的に使用されてきた2231A、2231H系から、振動系を一新して、リニアリティの向上をはかり、2231Aで採用されたものと同様のマスコントロールリングをボイスコイルとコーン接合部に入れた2235H。中低域(ミッドバス)は、4345と同じコンベックス型センターキャップ付新コーン紙採用の2122H(従来の4343Bに使われていた2121Hのセンターキャップの形状はコーンケーヴ型という)。中高域のコンプレッションドライバーには、ダイヤフラムのエッジ構造が一新された2421Bが採用されている。2421Bで採用されたエッジ構造は、それまでの2420が、アルテック系のそれとは逆方向に切られたタンジェンシャルエッジであったのに対して、すでにパラゴン用の中域ドライバーとして採用されている376と同様な、JBLオリジナルの折紙構造のダイヤモンドエッジ付ダイヤフラムになった。2420系のコンプレッションドライバーにダイヤモンドエッジが採用されたのは、この2421Bが最初である。ホーンと音響レンズは4345、4343B等と同じ2307+2308の組合せだ。スーパートゥイーターは、4345の発表時に小改良を受けて高域特性がより向上したという、2405である。
 また、ネットワーク関係は、4345と同様に、プリント基板が採用されている。大容量コンデンサーに小容量フィルムコンデンサーを並列にする使用法や、アッテネーターのケースから磁性体を除いて歪を低減するなど、エンクロージュアとともに、技術的水準が非常に高い日本製品の長所が巧みに導入されていることが見い出せる。
 なお、既にユニット関係の資料で公表されていることだが、従来までの数多くのJBLスピーカーの使いこなしの上での盲点を記しておく。それは、JBLのユニットの端子は、赤が−(マイナス)、クロが+(プラス)であり、一般的なJISなどの観念からすれば、普通に接続すると逆位相で使っていることになる点だ。ここに、JBLサウンドの秘密の一端があるが、詳細は割愛する(どのくらい音が変わるかは、自分のスピーカーシステムの±の接続を左右とも逆にしてみれば確認できる。一度実験してみることをおすすめする)。

JBL 4344

黒田恭一

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「4343のお姉さんのこと」より

 いま常用しているスピーカーはJBLの4343である。「B」ではない。旧タイプの方である。その旧4343が発売されたのは、たしか一九七六年であった。発売されてすぐに買った。したがってもうかれこれ五年以上つかっていることになる。この五年の問にアンプをかえたりプレーヤーをかえたりした。部屋もかわった。いまになってふりかえってみると、結構めまぐるしく変化したと思う。
 この五年の間に4343をとりまく機器のことごとくがすっかりかわってしまった。かならずしも4343の能力をより一層ひきだそうなどとことあらためて思ったわけではなかったが、結果として4343のためにアンプをかえたりプレーヤーをかえたりしてきたようであった。すくなくともパワーアンプのスレッショルド4000のためにスピーカーをとりかえようなどと考えたことはなかった。スレッショルド4000にしても4343のための選択であって、スレッショルド4000のための4343ではなかった。この五年間の変動はすべてがすべて4343のためであった。
 そしていまは、努力の甲斐あってというべきか、まあまあと思える音がでている――と自分では思っている。しかし音に関しての判断でなににもまして怖いのは独り善がりである。いい気になるとすぐに、音は、そのいい気になった人間を独善の沼につき落す。ぼくの音はまあまあの音であると心の七十パーセントで思っても、残りの三十パーセントに、これで本当にいいのであろうかと思う不安を保有しておくべきである。
 幸いぼくの4343から出る音は、岡俊雄さんや菅野沖彦さん、それに本誌の原田勲さんや黛健司さんといった音に対してとびきりうるさい方々にきいていただく機会にめぐまれた。みなさんそれぞれにほめて下さった。しかしながらほめられたからといって安心はできない。他人の再生装置の音をきいてそれを腐すのは、知人の子供のことを知人にむかって直接「お前のところの子供はものわかりがわるくて手におえないワルガキだね」というのと同じ位むずかしい。岡さんにしても菅野さんにしても、それに原田さんにしても黛さんにしても、みなさん紳士であるから、ぼくの4343の音をきいて、なんだこの音は、箸にも棒にもかからないではないかなどというはずもなかった。
 でも、きいて下さっているときの表情を盗みみした感じから、そんなにひどい音ではないのであろうと思ったりした。その結果、安心は、七十パーセントから七十五パーセントになった。したがってこれで本当にいいのかなと思う不安は二十五パーセントになった。二十五パーセントの不安というのは、音と緊張をもって対するのにちょうどいい不安というべきかもしれない。
 つまり、ちょっと前までは、ことさらの不都合や不充分さを感じることもなく、自分の部屋で膏をきけていたことになる。しかし歴史が教えるように太平の夢は長くはつづかない。ぼくの部屋の音はまあまあであると思ったがために、気持の上で隙があったのかもしれない。うっかりしていたためにダブルパンチをくらうことになった。
 最初のパンチはパイオニアの同軸型平面スピーカーシステムのS-F1によってくらった。このスピーカーシステムの音はこれまでに何回かきいてしっているつもりでいた。しかしながら今回はこれまでにきいたいずれのときにもましてすばらしかった。音はいかなる力からも解放されて、すーときこえてきた。まさに新鮮であった。「かつて体験したことのない音像の世界」という、このスピーカーシステムのための宣伝文句がなるほどと思える音のきこえ方であった。
 それこそ初めての体験であったが、そのS-F1をきいた日の夜、試聴のとききけなかったレコードのあれこれをきいている夢をみた。夢であるから不思議はないが、現実にはS-F1できいたことのないレコードが、このようにきこえるのであろうと思えるきこえ方できこえた。夢でみてしまうほどそのときのS-F1での音のきこえ方はショックであった。
 そこでせっかく七十五までいっていた安心のパーセンテイジはぐっと下って、四十五パーセント程度になってしまった。五年間みつづけてきた4343をみる目に疑いの色がまじりはじめたのもやむをえないことであった。ぼくの4343がいかにふんばってもなしえないことをS-F1はいとも容易になしえていた。
 しかしそこでとどまっていられればまだなんとか立ちなおることができたはずであった。もう一発のパンチをくらって、完全にマットに沈んだ。心の中には安心の欠片もなく、不安が一〇〇パーセントになってしまった。「ステレオサウンド」編集部の悪意にみちみちた親切にはめられて、すでに極度の心身症におちいってしまった。
 二発目のパンチはJBLの新しいスピーカーシステム4344によってくらった。みた目で4344は4343とたいしてちがわなかった。なんだJBLの、新しいスピーカーシステムを出すまでのワンポイントリリーフかと、きく前に思ったりした。高を括るとろくなことはない。JBLは4343を出してからの五年間をぶらぶら遊んでいたわけではなかった。ききてはおのずとその4344の音で五年という時間の重みをしらされた。4344の音をきいて、その新しいスピーカーの音に感心する前に、時代の推移を感じないではいられなかった。
 4344の音は、4343のそれに較べて、しっとりしたひびきへの対応がより一層しなやかで、はるかにエレガントであった。したがってその音の感じは、4343の、お兄さんではなく、お姉さんというべきであった。念のために書きそえておけば、エレガント、つまり上品で優雅なさまは、充分な力の支えがあってはじめて可能になるものである。そういう意味で4344の音はすこぶるエレガントであった。
 低い音のひびき方のゆたかさと無関係とはいえないであろうが、音の品位ということで、4344は、4343の一ランク、いや二ランクほど上と思った。鮮明であるが冷たくはなかった。肉付きのいい音は充分に肉付きよく示しながら、しかしついにぽてっとしなかった。
 シンセサイザーの音は特にきわだって印象的であった。ヴァンゲリスとジョン・アンダーソンの「ザ・フレンズ・オブ・ミスター・カイロ」などをきいたりしたが、一般にいわれるシンセサイザーの音が無機的で冷たいという言葉がかならずしも正しくないということを、4344は端的に示した。シンセサイザーならではのひびきの流れと、微妙な揺れ蕩さ方がそこではよくわかった。いや、わかっただけではなかった。4344できくヴァンゲリスのシンセサイザーの音は、ほかのいかなる楽器も伝ええないサムシングをあきらかにしていた。
 その音はかねてからこうききたいと思っていた音であった。ヴァンゲリスは、これまでの仕事の性格からもあきらかなように、現代の音楽家の中でもっともヒューマニスティックな心情にみちているひとりである。そういうヴァンゲリスにふさわしい音のきこえ方であった。そうなんだ、こうでなければいけないんだと、4344を通してヴァンゲリスの音楽にふれて、ひとりごちたりした。
 それに、4344のきかせる音は、奥行きという点でも傑出していた。この点ではパイオニアのS-F1でも驚かされたが、S-F1のそれとはあきらかにちがう感じで、4344ももののみごとに提示した。奥行きとは、別の言葉でいえば、深さである。聴感上の深度で、4344のきこえ方は、4343のそれのほぼ倍はあった。シンセサイザーのひびきの尻尾ははるか彼方の地平線上に消えていくという感じであった。
 シンセサイザーのひびきがそのようにきこえたことと無関係ではありえないが、声のなまなましさは、きいた人間をぞくっとさせるに充分であった。本来はマイクロフォンをつかわないオペラ歌手の声にも、もともとマイクロフォンをつかうことを前提に声をだすジャズやロックの歌い手の声にも、声ならではのひびきの温度と湿度がある。そのひびきの温度と湿度に対する反応のしかたが、4344はきわだって正確であった。
 きいているうちに、あの人の声もききたいさらにあの人の声もといったように、さまざまなジャンルのさまざまな歌い手のことを考えないではいられなかった。それほど声のきこえ方が魅力的であった。
 クリストファー・ホグウッドがコンティヌオをうけもち、ヤープ・シュレーダーがコンサートマスターをつとめたエンシェント室内管弦楽団による、たとえばモーツァルトの「ハフナー」と「リンツ」という二曲のシンフォニーをおさめたレコードがある。このオワゾリールのレコードにはちょっと微妙なころがある。エンシェント室内管弦楽団は authentic instruments で演奏している。そのためにひびきは大変にまろやかでやわらかい。その独自のひびきはききてを優しい気持にさせないではおかない。オーケストラのトゥッティで示される和音などにしても、この室内管弦楽団によった演奏ではふっくらとひびく。決してとげとげしない。
 そのレコードを、すくなくともぼくの部屋の4343できくと、いくぶんひびきの角がたちすぎる。むろん4343できいても、その演奏がいわゆる現代の通常のオーケストラで音にされたものではないということはわかる。そして authentic instruments によった演奏ならではの微妙なあじわいもわかる。しかしもう少しふっくらしてもいいように感じる。
 そう思いながら4343できいていた、そのレコードを4344できいてみた。そこで模範解答をみせられたような気持になった。そうか、このレコードは、このようにきこえるべきものなのかと思った。そこでの「リンツ」シンフォニーのアンダンテのきかせ方などはまさに4343のお姉さんならではのきかせ方であった。
 ひとりきりで時間の制限もなく試聴させてもらった。場所はステレオサウンド社の試聴室であった。試聴者は、自分でも気づかぬうちに、喜聴者に、そして歓聴者になっていた。編集部に迷惑がかかるのも忘れて、えんえんときかせてもらった。
 そうやってきいているうちにみえてきたものがあった。みえてきたのは、この時代に生きる人間の憧れであった。意識的な憧れではない。心の底で自分でも気づかずにひっそりと憧れている憧れがその音のうちにあると思った。いまのこういう黄昏の時代に生きている人は、むきだしのダイナミズムを求めず、肌に冷たい刺激を拒み、音楽が人間のおこないの結果であるということを思いだしたがっているのかもしれない。
 4344の音はそういう時代の音である。ひびきの細部をいささかも暖昧にすることなく示しながら、そのひびきの肌ざわりはあくまでもやわらかくあたたかい。きいていてしらずしらずのうちに心なごむ。
 4343には、STUDIO MONITOR という言葉がつけられている。モニターには、警告となるもの、注意をうながすものという意味があり、監視、監視装置をいう言葉である。スタジオ・モニターといえば、スタジオでの検聴を目的としたスピーカーと理解していいであろう。たしかに4343には検徳用スピーカーとしての性能のよさがある。どんなに細かい微妙な音でも正確にきかせてあげようといったきかせ方が4343の特徴といえなくもない。しかしぼくの部屋はスタジオではない(と、当人としては思いたい)。たとえレコードをきくことが仕事であっても、検聴しているとは考えたくない。喜聴していると考えたい。4343でも喜聴はむろん可能である。そうでなければとても五年間もつかえなかったであろう。事実、毎日レコードをきいているときにも、検聴しているなどと思ったことはなく、しっかり音楽をたのしんできた。そういうきき方が可能であったのは、4343の検聴スピーカーとしての性能を信頼できたからといえなくもない。
 4344にも、”STUDIO MONITOR” という言葉がつくのであろうか。ついてもつかなくてもどっちでもかまわないが、4344のきかせる音はおよそモニター・スピーカーらしからぬものである。すくなくとも一般にスタジオ・モニターという言葉が思い起させる音から遠くへだたったところにある音であるということはできるはずである。しかしながら4344はモニター・スピーカーといわれるものがそなえている美点は失っていない。そこが4344のすばらしいところである。
「JBL的」といういい方がある。ぼくの部屋の4343の音は、何人かの方に、「およそJBL的でないいい音だね」といって、ほめられた。しかし、ほめられた当人は、その「JBL的」ということが、いまだに正確にはわからないでいる。さまざまな人のその言葉のつかわれ方から推測すると、おおむね鮮明ではあっても硬目の、ひびきの輪郭はくっきり示すが充分にしなやかとはいいがたい、そして低い方のひびきがかならずしもたっぷりしているとはいいがたい音を「JBL的」というようである。おそらくそのためであろう、根づよいアンチJBL派がいるということをきいたことがある。
 理解できることである。なにかを選ぶにあたってなにを優先させて考えるかで、結果として選ぶものがかわってくる。はなしをわかりやすくするために単純化していえば、とにもかくにも鮮明であってほしいということであればJBLを選び、どうしてもやわらかいひびきでなければということになるとJBLを選ばないということである。しかしながらそのことはJBLのスピーカーシステムが「JBL的」であった時代にいえたことである。
 4343にもまだ多少はその「JBL的」なところが残っていたかもしれない。そのためにぼくの部屋の4343の音は何人かの方に「およそJBL的でないいい音」とほめられたのであろう。もっとも4343のうちの「JBL的」なところをおさえこもうとしたことはない。したがって、もしそのほめて下さった方の言葉を信じるとすれば、結果として非「JBL的」な音になったということでしかない。
 4344にはその「JBL的」なところがまったくといっていいほどない。音はあくまでもなめらかであり、しなやかであり、つまりエレガントである。それでいながら、ソリッドな音に対しても、鋭く反応するということで、4344はJBLファミリーのスピーカーであることをあきらかにしている。
 この4344を試聴したときに、もうひとつのJBLの新しいスピーカーシステムである変則2ウェイの4435もきかせてもらった。これもまたなかなかの魅力をそなえていた。電気楽器をつかっていない4ビートのジャズのレコードなどでは、これできまりといいたくなるような音をきかせた。音楽をホットにあじわいたいということなら、おそらくこっちの方が4344より上であろう。ただ、大編成のオーケストラのトゥッティでのひびきなどではちょっとつらいところがあったし、音像もいくぶん大きめであった。
 4435は音の並々ならぬエネルギーをききてにストレートに感じさせるということでとびぬけた力をそなえていた。しかしいわゆる表現力という点で大味なところがあった。2ウェイならではの(といっていいのであろう)思いきりのいいなり方に心ひかれなくもなかったが、どちらをとるかといわれれば、いささかもためらうことなく、4343のお姉さんの4344をとる。なぜなら4344というスピーカーシステムがいまのぼくがききたい音をきかせてくれたからである。
 いまの4343の音にも、4344の音をきくまでは、結構満足していた。しかしながらすぐれたオーディオ機器がそなえている一種の教育効果によって耳を養われてしまった。4343と4344とのちがいはほんのわずかとはいいがたい。そのちがいに4344によって気づかされた。もう後にはもどれない。
 ぼくの耳は不変である――と思いこめれば、ここでどぎまぎしないでいられるはずである。しかしながら耳は不変でもなければ不動でもない。昨日の耳がすでに今日の耳とはちがうということを、さまざまな場面でしらされつづけてきた。なにも新しもの好きで前へ前へと走りたいわけではない。一年前に美しいと感じられたものがいまでは美しいと感じられないということがある。すぐれたオーディオ機器の教育効果の影響をうけてということもあるであろうし、その一年間にきいたさまざまな音楽の影響ということもあるであろう。ともかく耳は不変でもなければ不動でもない。
 そういう自分の耳の変化にぼくは正直でいたいと思う。せっかく買ってうまくつかえるようになった4343である。できることなら4343をこのままつかりていきたい。しかしながら4344の音をきいて4343のいたらなさに気づいてしまった。すでにひっこみはつかない。
 しかしまだ4344を買うとはきめていない。まだ迷っている。もう少し正直に書けば、迷うための余地を必死になってさがしだして、そこに逃げこんで一息ついている。いかなることで迷うための余地を確保したかといえば、きいた場所が自分の部屋ではなくステレオサウンド社の試聴室であったことがひとつで、もうひとつはS-F1のことである。ぼくの部屋できけば4343と4344ではそんなにちがわないのかもしれないと、これは悪足掻き以外のなにものでもないと思うが、一生懸命思いこもうとしている。
 それにS-Flの音が耳から消えないということもある。この件に関してはS-F1と4344の一騎討ちをすれば解決する。その結果をみないことには結論はでない。
 いずれにしろそう遠くはない日にいまの4343と別れなければならないのであろうという予感はある。わが愛しの4343よ――といいたくなったりするが、ぼくは、スピーカーというものへの愛より、自分の耳への愛を優先させたいと思う。スピーカーというものにひっぱられて自分の耳が後をむくことはがまんできない。

JBL 4344

井上卓也

ステレオサウンド 62号(1982年3月発行)
「JBLスタジオモニター研究 PART2」より

 4344は、基本的にはワイドレンジ型のシステムであるが、各ユニットは、振動板材料の違いからくる質感的な違和感を感じさせずにスムースにつながっている。極端なワイドレンジ型というよりは、あくまでナチュラルな帯域、バランスが身上だ。以前の4ウェイシステムのシャープで鋭角的な解像力を特長とする明るさから、一段とこまやかで音楽のディテールを素直に聴かせる、フレキシブルな表現力をもつシステムに成長している。
 低域に関してこの4344は、このところ省エネルギー設計の打撃から立直りはじめた中級以上のプリメインアンプでも、比較的簡単にドライブでき、優れた低域再生能力を備えているといえるだろう。4343が登場した時点では、当時のアンプの低域ドライブ能力不足もあって、少なくとも200W+200Wクラス以上のパワーアンプを使わないと、低域のコントロールができなかった。その頃から比べると、4344の低域再生能力は隔世の感がある。
 アルニコ系磁石独特の軽くソリッドに引締まった低域の特長と、フェライト系磁石の豊かで低域から中低域にかけてスムースなエンベロープを聴かせる特長をあわせもつ低域が、この4344の開発の重要テーマだったと聞くが、ウーファーの改良と、エンクロージュアのチューニング技術の進歩で、実際にこのシステムを聴いた結果からも、この目的はほぼ達成されていると判断できる。
 4343は4ウェイ構成でありながら、予想より中低域の豊かさが少なく、ゴリッと重い低域と輝かしい中高域がバランスを保つ、個性的なバランスのスピーカーであった。これと比較すると、SFG磁気回路を深用した4343Bでは、解像力では4343に一歩譲るとしても、低域から中低域にかけての豊かでバランスのよいファンダメンタルトーンが新しい魅力となり、システムとしてのトータルなバランスは格段に向上したことが印象に新しい。4344では、新しいミッドバスユニット2122Hの受持帯域の高域側の特性と音質改善の効果と、エンクロージュアのチューニングの方向性の違いも相乗的に働いて、低域から中低域にかけてのリッチでクォリティの高い音のまとまりは、JBLの4ウェイシステムとしてトップランクのものだ。
 中高域から高域は、主にユニット関係の改善と、ネットワークのバックアップで、やや金属的な響きに偏ったダイレクトな表現から、音の粒子が一段と細かく滑らかな光沢をもつ、しなやかでスムースなタイプに発展している。
 したがって、4343をエネルギッシュで粗削りだが若々しい、爽やかでダイナミックな魅力とすれば、この4344は、それが熟成されて、まろやかな味わいがある一段と完成度の高い円熟した魅力を備えたということができる。それだけの深みがあるといえるだろう。
 全体の音の粒子が細かく滑らかなだけに、音場感的なプレゼンスは素直な遠近感を聴かせる。いわゆる「前に音が出る」JBLから、「奥行きのある」JBLへと、一段とリファインされたといえよう。