早瀬文雄
ステレオサウンド 9号(1990年9月発行)
「マルチアンプシステムに挑戦! JBL 4344をバイアンプドライブする」より
マルチアンプというのは、一見そのあまりにも大掛かりな感じや、途方もないといった怖さや不安感が一緒になって、どちらかといえば敬遠されがちな方法ではある。
しかし、今回確認できたように、バイアンプにしただけでこれほどの効果が得られたのだから、誰にでも勧めるというわけにはいかないにしても、時間と労力、そして経済的な出費を覚悟の上で、ぜひトライしてみて欲しい。
手順は追ってわかりやすく解説していく予定なので、次号以降に期待して頂きたい。
ただ最初に宣言しておきたいが、システムとして完成しているスピーカーを破壊してまでマルチ化はしない、ということ。これは原則である。必ずオリジナルに戻せる範囲で工夫してマルチ化する、そういう枠を自分に課しておかないと大抵は失敗に終る。4344を例にいえば内蔵ネットワークはダイナミックな電気的変動する各ユニットの様々な挙動に合せ、綿密に設計されたものだということを忘れてはならない。単にネットワークの回路だけを眺めて、あるいは自分で良いといわれているパーツを使用し、電卓片手に設計した自分の理想のネットワークも、ユニットのボイスコイルのインダクタンスにはじまり、そのインピーダンス特性や周波数特性を考慮したJBLが設定したコイルやコンデンサーの定数の意味を、シロウトがそう簡単に理解し、乗り越えるなんてできっこないのだ。
さて、今回はバイアンプということで比較的単純な構成で済んだけれど、それでも結線はけっこう煩雑になる。基本的な使いこなしのセオリーを一つ一つ踏んでいかないと、結果をかえって悪くする可能性もあるのだ。ここでは、各機器を原則としてバランス接続とした。アンバランス接続しかできないものは二芯シールド線を使いアンプ側をRCAピン、チャンネルディバイダー側はピンケーブルの一端を切り落とし、線材をプラス/マイナス/アースにわけて5235のバリアターミナルに接続した。
また、バランス接続する場合、機種によってはXLRプラグの1〜3番ピンのホット(+)、コールド(−)、アースの使い分けが異なるケースがあるので、注意が必要だ。一般的には、アメリカでは3番ホット、ヨーロッパでは2番ホットが多く使われており、1番はアースである。
位相という言葉は日頃よく耳にする。ここではスピーカーを中心に考え、スピーカーシステムのプラス端子に(赤)にプラスの信号が加わったときに、ウーファーが前に出るものが正相、後に引っ込むものは逆相と考えておくことにする。
アナログレコードのカッティングについてもそれはいえる。本来逆相でカッティングし、逆相のカートリッジで再生することによって正相に戻すという取決め(1958年に、アメリカレコード工業会RIAAの規格で決まった)があるのに、それがかなり入り乱れていた。ちなみに、現在のカートリッジはほとんどが正相。逆相カートリッジはわずかにEMTやリン・アサックなどがあるだけだ。
CDでもそうで、有名な『カンターテ・ドミノ』はレーベルが赤いのは正相、黒いものは逆相になっている(嘘のような本当の話だ)。
なぜこんなこといったかというと、音の入り口からしてすでに『位相』の問題は錯綜しているということを知っていてほしかったからだ。
したがって、よくイージーに語られる位相合せ、というフレーズには想像を超える難しさや矛盾があることを知ってほしい。
JBLのユニットはほんの一部を除いて、そのほとんどが逆相になっているということは有名な事実だ。どうしてそういう風にしたのか、それはJ・B・ランシングが死んでしまった今、永遠の謎ではある。
システムとしての4344も、やはり逆相になっている。複雑なネットワークは各ユニットのインピーダンスを補正や同一バッフル上にある四つのユニットの位相を管理する工夫が成されている。
これを正相に戻すために、ただスピーカーコードのプラスとマイナス(端子の赤と黒)をひっくり返せばすむというほど、問題は単純ではない。その理由について触れるスペースがないが、簡単に言えば、パワーアンプの出力もネットワークも大抵はアンバランス回路になっているから、スピーカーコードのプラス、マイナスを逆に結ぶと、アンプとスピーカーシステム(のネットワーク)とのアースの関係が狂ってしまう、ということにつきる。
アンプでは、カウンターポイントSA3、同5・1、SMEのSPL-IIHEも逆相出力をもっているから要注意だ。
結局のところ、基準をきちんとしておかないと位相の違いを聴いているつもりでも、ぜんぜん別の現象を聴いているだけで、何をしてるのかわからないということにもなりかねない。自分の中で、いろいろな部分の基準を確かにしておくことが泥沼に落ち込まないための第一歩だろう。
原則として、音の広がり、音場感がより広がるほうをよしとして耳で追い込むことから始めれば間違いはないはずだ。
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