菅野沖彦
ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より
全35機種中、推選機種をあげるとなると難しい。線の引き方で、どうにでもなってしまうからだ。価格とのかね合いで、徹底的に主観的判断をもって音質の好みをとり、客観的に、デザインを含めた商品としての完成度とバランスさせて選んだのが13機種である。視点を変えれば20機種以上を選び出してもおかしくないし、極端に言えば一機種にしぼることもできるというのが、この種の選考である。
以下簡単に、13機種について推選理由を述べておくことにする。
ソニーのTA3650は、きわめて手馴れたアンプづくりのキャリアが生きていて使い勝手のいいパネルレイアウトと、万人向きのデザイン、音のよさはこのクラス随一といってよいし各種スペックも控えめながら信頼性が高い。
サンスイのAU607は、同社のアンプとしては飛躍的な佳作で、DCアンプ構成をとり、操作類は簡略化されながら、よく検討された機能とスムーズな動作で安心感がある。元祖のブラックパネルは現代的で緻密な感覚にあふれたデザインの高品質なアンプである。
パイオニアのSA8900IIは、IIになってやや音が無性格になったとはいえ、試聴記でも書いたようにあらゆるソースをこなすオールマイティと、よく練られた造形とセンスは第一級の製品だと思う。
ビクターのJA−S75は、大変オーソドックスで格調の高い音質、ややアンバランスなところはあるが嫌味のないデザインと、がっしり組まれた電源の質の高さなど、プリメインの模範的製品という感じである。
サンスイのAU707は、AU607をさらに充実させたもので、ここまでくると、あとはファンクションの豊富さと質を落とさずパワーアップという発展を残すのみ。85W×2というパワーと、この音質の両立は文句なく推選に値する。
ソニーのTA5650はTA3650のパワーアンプ・バージョンと考えるのは間違い。機能をより豊富にして質を上げたもので、私にはDCアンプの同社新製品をしのぐ音の品位が感じられた。
トリオのKA7700Dは、現在のアンプとしての特性のあらゆる点を盛りこんだ代表的なモダンアンプとでもいえるもので、DCアンプ構成、3電源方式の採用など、豊富なフィーチュアを持ち、それが単なるフィーチュアに止まらず、実質的に中味の濃い製品まで練られた徳用品である。高級プリメインアンプとして充分な質とパワーを備えた信頼度の高い製品だ。
オンキョー・インテグラA722nIIは、同社としては新しい製品ではないが、充実した内容と、オンキョーらしさをもった佳作である。新シリーズより安心して音楽が楽しめると思う。新しいものにそれなりの良さもあるが、このほうが音の品位、堅実味で好感が持てる。
ラックスのL309Vも同社の旧シリーズのイメージ・デザインだが、いかにもラックスらしいアピアランスと音の品のよさが魅力だ。マニアックな製品をつくるラックスの体質が感じられる趣味性を評価したい。
トリオのKA9300は、プリメインアンプとして同社の最高級に位置するのみならず、一般的にいって、代表的プリメインアンプとするに足る。音質については試聴記を参照していただきたいが、質に独特な弾力性のあるのが好みの分れるところだろう。力強く、よく弾む音と、トリオの経験が集積されたアンプ構成・レイアウトは、さすがに完成度が高い。
ヤマハのCA2000は一口にいって最高の機能と質をかねそなえた一級品だ。使ってみれば、その感触のデリカシーに高級品の味わいを感じであろう。
パイオニアのSA9900とマランツ1250は20万円近いプリメインの究極的な製品で、パイオニアのヴァーサタイルな信頼性、マランツの個性と風格は、互いに異質ながら、このクラスを求める人に充分な満足感を与えるはずである。
以上の他、上げればキリがないが、詳しくは試聴記から判断していただければ幸いである。
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