試聴テストの結果から私が選んだ特選/推選アンプ

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種セパレートアンプ44機種の実力」より

 いかなるスピーカーに対してもそのスピーカーの最良の面を示せるようなアンプがあれば、そのアンプが理想のアンプということになるのであろうが、理想は現実にならないから理想なのである。こっちをたてればあっちがたたず、あっちをたてればこっちがたたないしいうことがあるので、いわゆる「組合せ」に神経をつかうことになる。
 一般的な考え方ではアンプがスピーカーに歩みよるべきものとされているのではないか。つまりこのスピーカーにはどのアンプがあうのかと考えられることが多いように思う。数あるアンプの中にはしなやかにスピーカーに歩みよるアンプもあれば、わたしが主人公とばかりに自己主張をつづけるアンプもなくはない。どっちがどうとはいいきれないとしても歩みより方の巧いアンプの方がつかいやすいとはいえそうである。
 コンポーネントとはつまるところ、弦楽四重奏とかピアノ三重奏のようなアンサンブルである。個性的であっても一向にかまわないが、あわせもののうまいアンプやスピーカーを歓迎したい気持が、すくなくともぼくにはある。むろんクォリティの面を軽視したわけではないが、このスピーカーでなければ困るというアンプより、三つのスピーカーのいずれに対してもこのましい反応を示したアンプの評価の方が高くなった。
 似たようなことは試聴に用いたレコードに対しての反応についてもいえる。いかにダイナミックな音を特徴とするレコードにこのましく反応しても、しなやかな音を特徴とするレコードの反応にいたらないところがあれば、そのアンプのぼくなりの平均点は低くならざるをえなかった。基本的にはアンプについてだけいえることではなく、スピーカーをはじめとしてのその他の機器についてもいえることではあるが、一種のヴァーサタイル性が求められるということである。オーディオ機器はすべからく音楽の従順な娘であってほしいというのがぼくの考え方である。
 当然のことながらレコードはそれぞれ特徴のあるものを選んだ。責任の所在をあきらかにするために書いておけば、プリメインアンプの試聴でつかった三枚のレコードはぼくが選んだ。セパレートアンプの試聴でつかった五枚のうちのプリメインアンプでもつかった二枚以外の三枚は山中さんが選んだ。いずれのレコードもきかせる音の性格が極端にちがっていた。音楽としての性格もちがうし、音のとり方そのものもそれぞれ大変に個性的なレコードであった。かならずしもこれだけで充分とは思ってはいないが、アンプの可能性をさぐるためのレコードとして充分に変化にとんでいたはずであった。
 この試聴はアンプの魅力をさぐる目的でなされた、つまり「アンプテスト」ではあったが、結果として三種類のスピーカーの可能性をさぐることにもなった。ヤマハのNS1000Mが、その価格からおして、ある程度のところで限界を示すであろうと漠然と考えていたが、どうしてどうして、JBLの4343Bのほぼ6分の1の価格であるにもかかわらず、見事にがんばり通した。あっぱれとしかいいようがなかった。
 これまではこのヤマハのスピーカーに対してことさらこのましい印象は抱いていなかったが、おのれの不覚を恥じないではいられなかった。ヤマハのNS1000Mはすばらしいスピーカーです。むろんそのエンクロージュアの大きさからして、どうしても手にあまる部分があるとしても、さまざまな音楽への歩みより方、つまりヴァーサタイル性において底しれぬ力を内に秘めていることがわかった。一対で216000円のスピーカーを、たとえば2880000円のマーク・レビンソンML7L+ML3でならすというのは、おそらくありえないことなのであろうが、それでもNS1000Mはそこでまたあらたな可能性を示してききてをびっくりさせた。
 編集部の求めに応じて「特選」のアンプと「推選」のアンプをあげた。ぼくなりに自信をもっての「特選」であり「推選」ではあるが、その場合にいわゆる「価格帯」を無視できなかった。アンプとて商品であり、買い手には買い手としての予算もあるのであるから「価格帯」を無視するわけにもいかない。当然のことに価格もアンプ選びの際の重要なファクターである。
 しかしながら、もしぼくが価格のことなど無視できる大金持であったら、いささかのためらいもなくクレルのアンプを買うであろうということを、蛇足とはしりつつ、いいそえておきたいと思う。このクレルのアンプの積極的な「表現力」をそなえながら、しかも押しつけがましくならない提示をほれぼれときいた。もう少し時間をかけてじっくりきいてみたいと思ったのは、このクレルのアンプとエクスクルーシヴのアンプであった。クレルのアンプとエクスクルーシヴのアンプとは理想のアンプのすれすれのところまでいっていると思った。

特選プリメインアンプ
 オーレックス:SB-Λ77C
 ケンウッド:L02A
推選プリメインアンプ
 マランツ:Pm6a

特選セパレートアンプ
 ヤマハ:C50 + B50
 パイオニア:Exclusive C3a + M5
 クレル:PAM2 + KSA100
 スレッショルド:FET two + S/500
推選セパレートアンプ
 エスプリ:TA-E901 + TA-N901
 パイオニア:C-Z1a + M-Z1a
 マークレビンソン:ML10L + ML9L

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