20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 二十万円コンポシリーズも、前号、前々号での総論を卒業し、いよいよ各論に移るが、今回トータル二十万円の予算でコンポーネントを組むのに適当であろう価格帯のプリメインアンプを一同に集めてテストしてみた。テストの対象にしたアンプは四万五千円から十万円迄のアンプで、まず市販品の中で比較的人気の高い製品、そして新しい製品を中心に集めた。人気という点からいうと、決して新製品とはいえないアンプも何台かまじっている。そのことは逆にの一年ないし二年の間でのアンプの性能がどれだけ進歩したか、しなかったか、ということを知るものさしともなるわけで、これだけアンプがそろうと、二十万円コンポ族にとっていろいろおもしろいことがわかってくるだろう。
 試聴アンプは一応編集部からメーカーに試聴テストするという話をしたうえで、貸してもらった。メーカーから辞退してきたもの、あるいは諸般の事情でテストの対象にならなかったものもあり、このクラスの市販品全部を網羅するというわけにはいかなかったことをあらかじめお断りしておく。

アンプは3時間以上エージングした
 さてテストの方法だが、まずテストに先立ち、アンプを十分にエージングするということを心がけた。すでに一、二年前からよく知られた始めたことだが、アンプに電源スイッチを入れ、音を鳴らし始めると、スイッチを入れた直後よりも一時間、二時間後にだんだんと音が柔らかくこなれてくるアンプが近ごろ増えている。いまとなってみるとすべてのアンプがそういう性質をもっていたのだが、そういう違いが聴き分けられるほど、最近のアンプ自体の基本性能あるいは周辺の機材というものが向上してしまったということにもなる。そこでテストに当たってはそういうハンデを避けるためにすべてのアンプを少なくとも三時間以上十分に鳴らし込んだ状態でテストすることにした。写真にもあるようにテストするプレイヤー以外に三台のプレイヤーを用意し、常にその次にテストするアンプを鳴らし込んでおくような配慮をした。
なぜJBL4343BにエクスクルーシヴP3なのか
 アンプのテストをする場合にはスピーカー、プレイヤー、カートリッジあるいはテストソースとしてのレコードといったものの選び方については多くの意見が出るところだが、今回のテストに関しては、アンプの持っている性質そのものをできるだけ十分に聴きとろうということで、アンプの価格帯にふさわしい機器を選ぶのではなく、むしろ現在市販されている中から得られる最高水準のスピーカー、レコードプレイヤー、カートリッジというものを用意し、アンプをベストの状態で聴き取るようにした。したがって、これから後の試聴記に出てくるアンプの音質というのは、このアンプのもっているほぼ基本的な性質と考えていただいて差し支えない。それを後でどんなスピーカーやどんなカートリッジと組み合わせると一層生きるかということは、試聴記の中に二、三ヒントを述べてはあるが、また改めて別の機会にこれらのアンプを中心とした組合せとしてさらに詳しく取り上げてみたいと思う。
 そういうわけでスピーカーにはJBLの4343の新しいBタイプ、レコードプレイヤーにはエクスクルーシヴのP3という、ともに市販されている中でも最高のグレードのものを組み合わせた。
カートリッジはMMとMCを用意
 次にカートリッジだが、大きく分けてMM系のカートリッジとMC系のカートリッジ、これを両方用意した。というのは、現在四万五千円あたりから上のアンプになると、大半のアンプがMCヘッドアンプを内蔵しており、そのMCヘッドアンプのテストをするためには、ぜひともMCカートリッジが必要だからだ。さらにMCカートリッジについてはオルトフォンのMC20MKIIとデンオンのDL103Dという二つのタイプを用意した。その理由というのはMCカートリッジにも大きく分けるとインピーダンスの高いMC型と、比較的インピーダンスの低いMC型の両極端があり、出力が低いタイプと出力が高いタイプの両方あるということから、どうしても二つのタイプが必要となる。オルトフォンのMC20MKIIはインピーダンスが3Ωであるのに対して、デンオンDL103Dは33Ωとほぼ十一倍のインピーダンスの差がある。また出力電圧もこれはカタログデータの公称だから、そのまま比較にはならないが、オルトフォンが0・09mVに対してデンオン103Dが0・3mVというように、これも三倍以上の差がある。こういう違いがMCヘッドアンプの性能に大きく響いてくる。特にオルトフォンの3Ωという低いインピーダンス、そして0・09mVという非常に低い出力電圧は、MCヘッドアンプに対しては非常にきびしい条件なので、これが十分に鳴らせるMCヘッドアンプは相当なものであることがいえるわけだ。半面、デンオンの33ΩというようにMCとしては比較的高めのインピーダンスと0・3mVという、これもMCとしては大きめの出力というのは、大方のMCヘッドアンプに対しては十分であろうということがいえる。そしてまた出力とインピーダンスの違いだけでなく、MC20MK20IIとデンオン103Dとは音質もだいぶ違い、これを含めてアンプのテストに利用した。
 さてMM型のカートリッジだが、これは西ドイツのエラックの新シリーズ794Eと、アメリカのスタントン881Sという、西ドイツとアメリカという全く違った国の、違ったキャラクターをもったMMカートリッジを用意した。というのは、エラックの方は非常に繊細で切れ込みがよく、多少ウェットな面ももっており、どちらかといえばクラシックのプログラムソースを非常に美しく、ハーモニー豊かに聴かせてくれるカートリッジであるのに対して、スタントン881Sはどちらかといえば現在の新しいポピュラー・ミュージックに本領を発揮する音の厚み、力強さ、そして音の明快さをもったカートリッジであるということだ。さらに比較参考用としてもっとローコストなカートリッジということで私がよく性質をしっている同じエラックの793Eも併用し、随時それを比較の参考にした。
 次に試聴レコードだが、なるべく広い範囲のレコードから選択した。新旧の録音あるいは非常に大きな編成からデリケートな編成のものまで、そしても内容も弦あり、管あり、ボーカルあり、パーカッションあり、また編成の大きなものでもクラシックの場合とポピュラーの場合と、できる限り多彩なソースを用意したつもりだ。ただテストに要する時間を考えるとできるだけレコードは少数に絞りたいということもあり、私がここ数年来テストに使っているレコードに最近の新しいレコードを何枚か加えた。このレコードの中のそれぞれたいてい三分以内の部分がテストに使われている。
八畳間の感じにセッティング
 試聴の場所は本誌で使っているかなり床面積の比類試聴室を使わせてもらった。アンプのテストをする場合、あまり広くていい音のする試聴室だと、アンプの隠れた欠点を全部覆い隠してしまうという恐れがあるので、私の主義だがなるべくスピーカーに近づいて聴くようにした。もう少し具体的にいうと、和室で六畳ないし八畳ぐらいの広さの部屋でスピーカーとリスナーの関係位置が保てる程度に近づいて聴くということが必要だと思うわけだ。二つのスピーカーの中心から中心の間隔を約3m弱、スピーカーから聴き手の位置もそのくらい。八畳の中でこの程度のセッティングができるだろうというような関係位置をこしらえて、試聴にのぞんだ。
 アンプのテストにあたって切り替えスイッチを一切用いていない。というのは現在の最新アンプをテストする時に、切り替えボックスを通してしまうと、どうしても接点の抵抗、あるいはそこに要するコードの余分な長さなどで、アンプの本当の性能が発揮できないということがいわれており、アンプはすべてプレイヤーから直接コードをつなぎ、スピーカーに直接つなぐということで確実な接続をし、一台一台入念なテストをした。
 また、何台か聴いた後でもう一度前のアンプに戻るといういわゆるクロステストを行い、十分に念を入れて聴き落しのないようにしたつもりだ。MCヘッドアンプのテストをするアンプ以外の電源をすべて切って、周囲の漏えいなどの影響を受けないようにしたことはもちろんのことだ。
試聴を終わって
 結果をちょっと大ざっぱにいうと、大半のアンプにMCヘッドアンプが組み込まれていた。もうひとつは、アンプの音質をできるだけぎりぎりのところまで追求しようということで、多くのアンプに、メーカーによって違いはあるが、各種のスイッチでアンプのトーン・コントロールその他の付属回路を飛ばして、イコライザーとパワーアンプを直結するという、非常にシンプルな構成にするという考え方が取り入れられていた。これは確かに現在の時点でアンプをより一層ピュアーに改善するための手段であることは認める。音質を劣化させる回路を飛ばしてしまって、できるだけアンプの構成を簡潔、シンプルにして音質を改善しようという純粋な発想であるということはわかるが、半面それはトーン・コントロールその他の回路の音質向上に対する技術的努力を怠っているという見方ができなくはないと思う。少なくともそうした回路を積極的に音楽を聴くときに生かしたいという人にとっては、アンプの音質を犠牲にせざるを得ないわけで、そこのところは次の段階ではぜひともトーン・コントロール回路を入れて、なおかつ音質が劣化しないような方向で、さらに技術的な追求をしていくのが本筋ではないかと思う。付属回路を飛ばしてしまうということは極端ないい方をすれば、アンプの回路を片輪にしてしまうことだ。言いすぎといわれそうだが、私はそう考える。
 MCヘッドアンプもテストした結果からいうと、少なくとも半数以上がただカタログの上にMCヘッドアンプ内蔵と書きたいためのつけ足しにすぎないのではないかという印象をもたざるを得ないようなアンプが少なからず合った。こういうものが無理してカタログ・データを充実させるために組み込まれるのであったら、MCヘッドアンプなど入れないで、そのぶんだけ音質向上に振り替えるか、あるいはそのぶんだけコストダウンするか、という方がユーザーにとっての本当の親切になるのではないかと思う。もし付けるのならばもっと本当の意味で実用に耐えるものを付けてほしい。少なくともMCヘッドアンプ以外のアンプの性能のよさと見合うだけのものが組み込まれなければ、これは片手落ちではないかというように思う。
 それからもうひとつ、今回はヘッドホン端子での音の出方、音質ということについてもテスト項目に入れている。というのはやはりわれわれはこの狭い、住宅事情の悪い日本に住んでいる限り、どうしても深夜など音楽を十分に楽しむためにはヘッドホンのお世話にならざるを得ないわけで、ヘッドホン端子はやはりアンプそれぞれのもっている音質の傾向をはっきり出し、同時に、ヘッドホン端子で十分に音量が楽しめるだけの出力が出てくれないと困るわけだ。これもテストした結果からいうと、概してヘッドホン端子での出力を少し抑えすぎているように思う。それからすべてのアンプではないが、何台かのアンプがヘッドホン端子ではずいぶん音質が劣化するものがある。ヘッドホン端子での音の出方というものをもう少し真剣に検討する必要があるのではないだろうか。その点をメーカーへ要望したい。
 細かくはこれ以後の試聴記をみていただくことになるが、試聴したアンプの出来栄えについて星が付いている。これは星の数が一つ、二つ、三つ、それから星印なしというように分かれており、星印がないからといって決して悪いアンプということではない。少なくとも星が一つ付いたということはその価格帯で印象に残ったアンプであり、二つ付いたアンプというのは、その価格帯の中で大変出来栄えのいいアンプであり、三つ付いたアンプは文句なく大変いい、音楽を実に音楽らしく聴かせてくれるという意味で、テストをし終わった後々まで、いいアンプだなという印象を残した優れたアンプだというような意味に受けとっていただきたい。

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