試聴テストを終えて

瀬川冬樹

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 55機種のトゥイーターのそれぞれに、最適のクロスオーバーポイントを選び最適のレベルセットのポジションを、それも短時間のうちに探し出す、そのオペレーターの役割を私が担当したが、これはまったく気骨の折れる仕事だった……。
 どのトゥイーターの説明書にも、一応は周波数レンジと推奨クロスオーバー周波数が書いてある。また、出力音圧レベルも海外製品の一部を除いてほとんどが新JISの表示に統一されているから、それを参考にしてレベルセットなど容易にできる……と思えそうだが、実際に鳴らしてみるとこれが意外に計算どおりにいかない。
 たとえば、クロスオーバー周波数が2ないし3kHzあたりに指定されているのは、トゥイーターとしては割合に低い周波数までカバーできる製品のはずだ。しかし実際にそのクロスオーバー周波数にセッティングして、うまくいく例は少ない。
 うまくいかないというのは二通りのケースがある。第一は、指定のクロスオーバーでは低域の許容入力に無理が生じて、やかましい、または圧迫感のある音になりがちのトゥイーター。第二は、たとえば2kHzといえばまだ一部の楽器の基音(ファンダメンタル)領域をカバーしているのだから、かなり力強い音も再生しなくてはならないはずなのに、そのあたりの出力エネルギーが十分でないせいかクロスオーバーをもっと高くとったときと比べて、そんなにエネルギーの増えた感じの得られない製品。
 もう一つのレベルセットに関していえば、概して良いトゥイーターは、音のクセ(カラーレイション=色づけ)が少ないために最適範囲が割合広く、レベルセットにそれほど神経質にならないで済む。ところが、質のよくない製品、またはタフさに欠ける製品ほど最適レベルの範囲が狭く、ちょっとレベルを上げれば音が出しゃばるし、少し絞れば引っ込んでしまう。良いトゥイーターにはそういう現象が少なく、やや上げすぎてもやかましくはならないし、絞りかげんでも音の芯を失うことがない。
 ……というように、オペレーターをやってみると、クロスオーバーやレベルを調整してゆく過程ですでにそのトゥイーターの性格が大まかに掴めてしまうという点はありがたかった。素直でクセが少なく高域が十分に伸びて透明な音。トランジェント(過渡特性)がよくその結果スクラッチノイズやヒス成分が耳ざわりでなく軽い感じで、楽音とはっきり分離して聴こえる。大きな入力や低域の少々無理な入力にもよく耐える。しかも受持帯域のすべてにわたって十分に緻密でエネルギーもある。というのが、結局のところ良いトゥイーターということになり、そういうトゥイーターは、また結局のところ使いやすい組合せもしやすいという理屈になる。
全体を通じて感じたこと
 いま2から3kHzと書いたのは一つの例だが、試聴した全機種を通じてみると、これは厳密な計算の結果ではなくごくおおまかな見当だが、5ないし6kHzあたりから上を受け持つというのが平均的な製品だと思う。ピアノの高音のキイの基音が約4・2kHzだから、5kHz以上というのはほとんど楽器の倍音の領域だ。そういう高音域だけを次々とつけかえて聴くわけだから、完成したスピーカーシステムのように全音域を交換するのにくらべたら、音の差はよほど少ないと思われるかもしれないが、事実は全くそうではない。倍音の領域の音色が変われば、当然のことにそれは基音を含めた全体の音色を大きく変える。昔からスピーカーユニットを組み合わせて苦労してきたユーザーならとうに経験したことだろうが、トゥイーターを交換することによってウーファーの音色まで変る。そして、これは驚くべきことなのか当然の結果というべきなのか、とにかく55機種のトゥイーターを次々と交換して音を聴き比べて、二つとして同じ音色では鳴らない。だが、同じメーカーのトゥイーターは、価格や構造が違っても大づかみには似た傾向の音色で鳴ることが多いし、もっと大づかみには、生まれた国の違いによってそれぞれに鳴り方の傾向が違う。
 そのことから、たとえトゥイーターといえども、常々他のオーディオ機器やさらには音楽について言われていると同様に、メーカーにより国により、音のとらえ方や音の作り方への姿勢の違いが、明確に反映されることがわかる。
 簡単にいってしまえば、トゥイーターの音色は「高音」という概念をどうとらえるか、によって決まるといえそうだ。たとえば繊細、たとえばキメの細かさ、音の切れ込み、たとえば音の輝き──。
「高音」というイメージをどうとらえるかという姿勢は、ひいてはトゥイーターの受持帯域や耐入力パワーやエネルギーバランスや指向性や……などの構造にも大きく影響を及ぼす。比較的低い高音域のエネルギーしっかりと支える作り方。反対に、いわゆる超高音域をどこまで細やかに伸ばすかという作り方──。
 そこで、メーカーの求めている方向を感じとり、自分の望む音に合致する製品を選び出すことが、トゥイーター選びの成否の鍵になる。
印象に残った、または使ってみたいトゥイーター
 かつて、テクニクス5HH17(いまの17Gではない)というローコスト・トゥイーターの名作があった。あれから十年余を経た今日なら、ローコストのグループの中にもう少し優秀なトゥイーターが出現してもよさそうなものだと思っていたが、結果的には五千円以下のグループの中には印象を深く残した製品は一つもなかった。もう少し拡大していえば、一万円以下の国内製品の中には、これならと思える製品が残念ながら見あたらなかった。このあたりの価格帯では、イソフォンのKK/10、KEFののT27、それに、フィリップスのAD0161/T8という、それぞれに構造も価格もよく似た(6千円〜6千五百円)三つのヨーロッパ製のトゥイーターが、それぞれの性格を持ちながらとてもよくできていると思った。
 一万円以上、二万円までの間では、これも新製品ではないのがやや意外だったが、ヤマハのリング・ホーン型JA0506が素直で音でびっくりした。国産のホーン型トゥイーターの中には非常によい製品が少ないながら見つかったが、ヤマハを除くとほかには、たとえばコーラルのH100、フォステクスのT725、あるいはマクソニックやYLのなどのようにもっと高価なグループに入ってしまう。そのことから逆にヤマハが価格対性能で抜きに出ていることが印象的だった。
 高価なグループの中でホーンタイプ以外では、パイオニアのPT−R7、テクニクスのリーフ型EAS10TH1000がそれぞれに惚れ込んだ製品で、どちらも一度じっくり使いこなしてみたいと思った。
 海外製品では、先ほどのヨーロッパ三社のドーム型を除けば、これはと思ったのはJBLの♯2405(077を含めて)と、もう一つおそろしく高価な点がやや納得がいかないがピラミッドのT1の二つだった。♯2405は、スーパートゥイーター的な作り方にもかかわらず、クロスオーバーポイント以下のエネルギーのしっかり出てくる点が見事だったし、ピラミッドはおよそいままで聴いたことのない滑らかな音で、これに関しては機会があればもっといろいろな条件で組合せを試してみたいと思った。
 ただ、今回のようにLE8Tの上にだけトゥイーターをのせてのテストでは不十分ではないかとの最初の不安は、テストを進める間に解消してしまった。最近のLE8Tの高域は非常に素直なので、それぞれのトゥイーターの性格を掴むにはこの方法で十分だったと思う。

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