試聴テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 コントロールアンプ26機種を聴いた。我々は、音の試聴だけで、使い勝手や、作り、デザインなどは評価から全く除外したことになっている。とはいうものの、眼の前に置かれたアンプを見ながら聴いたわけだから、それらが持つ、音以外のイメージが、全く、なんらの影響をもたらしていないとはいいかねる。しかも、ほとんどの製品は、今までに、いろいろな機会に接したことのあるもので、すでに自分の内に総合的なイメージが出来上っているものが多いので、ブラインドテストのような性格ではない。しかし、それがかえって、個々のアンプの音を浮彫りにするにあたってプラスになっていると思うのだ。仮に、ブラインドで、試聴室で聴いた感じだけで判断をすると、限られた条件だけでの結果になるわけで、かえって危険があるだろう。いまさらいうまでもなく、コントロールアンプ単体は、ありとあらゆる条件での組合せで使われるものであり、特定のパワーアンプやスピーカーとの組合せで、そのアンプの音の傾向を断じ切ることは出来ない。この試聴でも、二つのパワーアンプとスピーカーを用意したわけだが、それは、現実の組合せの中でのごく限られた条件にすぎないのである。対照的な二台のパワーアンプとスピーカーを用意することによって、最低限の条件設定としたのである。少々、口はばったいいい方になるが、こうした条件の制約があっても、長い経験と、過去に同製品を聴いた印象の総合での今回の判断は、個々の製品の性格や傾向をかなりの確度をもって把握できたと思っている。極端なことをいえば、今回の試聴で、それまでもっていた印象と全くちがったアンプがあったわけではないので、改めて聴かなくても印象記は書けたといってもよい。私が聴いたことのないアンプについては、よく知っているアンプと同時に聴けたことで、いっそう明確に、その素性を知り得たと思うのである。ただし、表現上、この試聴の実際に即した書き方をしているので、マクロ的な印象記にはなっていない。これが、話者に、あまりにも特定の条件下だけの印象記として受け取られる危険があるようにも感じられ、心配されるのである。読者諸兄の御賢察をお願いする次第である。
 オーディオコンポーネントの中で、スピーカーなどの変換器のように、個体差があるものではないが、コントロールアンプも、こうして26機種も連続的に比較試聴すると、個々の音の違いには驚かされる。何故? こんなに違うのだろうと不思議に思うほどである。そして、単体のコントロールアンプとなると、いずれもが、ただ機能をはたすということ以上の、個性的魅力を価値観の中に入れてこなければならない。同時に、たとえ、音の美しさや魅力が感じられたとしても、特性・機能などのハードウエアーとして問題のあるものは、当然チェックしなければならないとも思う。高価な単体コントロールアンプにもかかわらず、数万円のプリメインアンプのプリ部にも劣るSN比の悪いものなどは、いかに音がよくても問題である。この辺は個人によって考え方が違うと思うが、ノイズレベルが、CDの登場によって大幅に低減した現在、単体コントロールアンプとしてのSN比の条件は、かつてより厳しくあるべきだと思うのである。安定性や信頼性も大事な問題だが、今回は私の判断の条件の中には入れていない。試聴時に正常に動作している以上、音だけの担当という立場で、それらは無視することにした。ノイズは耳に聴こえる音のうちであるから無視するわけにはいかなかった。
 こうして特選と推選を選んだ。
●特選
①ウェスギU・BROS1
②アキュフェーズC280
③マッキントッシュC30
④マーク・レヴィンソンML7L
●推選
①メリディアンMLP
②デンオンPRA2000Z
③マランツSc11
④アキエフエーズC200L
⑤カウンターポイントSA3
⑥サンスイC2301
⑦H&Sエクザクト十エクセレント
 私の個人的嗜好は、強く出していないつもりである。いずれも、現時点での高い水準にあるものばかりであり、いわば、コントロールアンプの頂点に位置するものがほとんどである。しかし、オーディオは、頂点はワンポイントではなく、その頂上には、いろいろな花が咲く。どの花を求めるかがオーディオの楽しみでもあり、意味でもある。裾野に咲く草花も結構だが、単体コントロールアンプを求める人は、いずれも、そこからスタートして、頂上を目指す人達であるはずだ。

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