Category Archives: プリメインアンプ - Page 8

オンキョー Integra A-717

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このアンプは今回のテストにすべり込みで間に合ったというオンキョーの新製品。オンキョーのアンプというのは、数年前から一つの音の方向付けを探り当てたようで、大変透明度の高い、そして雰囲気のある半面、多少、女性的あるいはウェットという表現を使いたいようなアンプを送り出している。この新製品にもその特徴はいい意味で受け継がれている。
音質 いろいろなプログラム・ソースをかけていくと、大変雰囲気がいい、音楽を聴く気にさせてくれるいいアンプだ。さすがに新しいだけあって、音の透明度が大変高い。澄んだ音がする。そういう透明度の高さ、雰囲気描写のよさということが相乗効果になって、レコードを聴いても、聴き手がスッとそこに引き込まれるようなよさを持っている。一言でいえば、大変グレードの高い、クォリティの高い音だといっていいと思う。
 細かいことをいうと、このアンプばかりではなく、オンキョーの今までのアンプに共通する性格のようだが、プログラム・ソースすべてを通して、音のバランスが中~高域に引きつけられる感じがある。しかし、このアンプには、もう一つの面として、それを支える低音のファンダメンタルがなかなかしっかりしており、そういう点で決して上ずった音にはならない。そこがこのアンプの長所であり、大事な部分だと思う。
MCヘッドアンプ オルトフォンのMC20MKIIの場合には、やはりゲインがいっぱいで、ボリュームを相当上げないと十分な音量が得られない。しかも、そのボリュームを上げたところでは、ハム、その他の雑音が耳障りで、結局オルトフォンではあまり大きな音量は出せないということだ。実はこのMCヘッドアンプには、ハイMCと何もないただのMCというポジションがあり、オルトフォンの場合にはやはりハイMCにしないと当然音量が不足するわけだが、それでも雑音の点でちょっと不利になる。ところがデンオン103DでもただのMCポジションでは少しゲインが不足し、ハイMCの方で聴きたくなる。ハイMCの方にすると、ボリュームを目盛り6以上まで上げると、相当ノイズが耳障りになるが、そこのところでも中以上ぐらいの音量が出る程度だから、103Dの場合でも少しゲインが足りない。もう少しSN比をかせいでほしいと思う。付け加えておくと、このアンプは試聴に間に合わせた試作最後のサンプルということなので、あるいは量産品に移る場合、そこが改善されるかもしれないし、できればそこを改善してもらうことを期待したい。
トーン&ラウドネス 次にトーン・コントロールの効き方だが、これはオンキョーのアンプが他の機種でもやっている独特のトーン・コントロールで、ボリューム・コントロールの位置によって、トーンの効き方が変わるというタイプ。ボリュームをいっぱい近くまであげた時にはトーンはほとんど効かなくなる。真ん中以下に絞った時に、普通の効き方をする。それも比較的軽い効き方で、いっぱいに回し切っても、そう不愉快な音はしない。ごく自然に低音、高音が増減できる。
 それからもう一つは、トレブルのトーン・コントロールを絞り切ったところで、ハイカット・フィルターを兼ねている。これもオンキョー独特の方式である。ディフィート・スイッチはもちろんない。それからラウドネス・スイッチの効き方もごく普通で、軽く効くという感じ。サブソニック・フィルターは20Hzと15Hzと二点ある。
ヘッドホン スピーカー・スイッチはロータリー式だ。A+Bのポジションはない。A、Bどちらかしか選べない形になっている。ヘッドホンはスピーカーから出てくるレベルよりもやや低いが、標準的。音質もスピーカー端子からじかに聴いた印象とほとんど変わらない、大変いい音で聴けた。

★★

ソニー TA-F55

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このソニーのF55は、見た目にも大変独特のデザインで、内容的にもいろいろな工夫がしてある。ユニークなアンプだ。
 まず電源回路がパルス電源ということ。これは従来の電源より、非常にスペースが小さく、実効消費電力も少なく、しかも大きなエネルギー供給ができるということで、未来の電源といわれている。
 それからボリューム・コントロールが大変ユニークで、普通の回転ツマミでもレバーツマミでもなく、パネルのほぼ中央に位置した割に大きめのボタンに右向きと左向きの矢印が付いており、そのボタンを押すことによって音量の造言をする、と同士にパネルの左手の細長い窓に、そのボリューム・レンジが光で表示される。これは大変楽しい。しかもなかなか手がこんでいて、そのボリュームの上げ下げのボタンを軽く押すと、ゆっくりボリュームが上下し、強く押すとそのスピードが倍速になる。これは大変にエレクトロニクス的に凝っていて面白い。一種の遊びには違いないがなかなか便利なフィーチャーだ。その他、外からは見えないが、トランジスタの放熱にソニーが最初に開発したヒートパイプを使っている。これもスペースの節約になっている。このアンプは見た目には大変薄形で、しかもローコストにもかかわらず、このクラスでは抜群の70W+70Wというパワーを得ているというところが、このアンプの大きな特徴だ。
音質 音質はこのクラス全部をトータルして聴いた中では、やや異色の部分がある。一つ一つの音がどっしりと出てくる。そういう意味で線の弱いというような音が少しもなく、全部音がしっかりしている。例えば、『サンチェスの子供たち』のオーバーチュアにしても、あるいはクラシックの『春の祭典』のフォルティッシモの部分でも、非常に迫力のある音がする。
 そういう点で大変聴きごたえがするといえるが、ただしその迫力といのと裏腹に、何かひとつ透明感、あるいは透明感と結びつく音の美しさといったところで、個人的には物足りなさを感じる。それに、どちらかといえば音場が狭い、広がりにくいという印象もある。
 もっとスーッとどこまでも伸びる透明な美しさ、あるいはたとえばキングス・シンガーズのしっとりしたコーラスなどは、もっとなにかしみじみとハモってほしいと思うところがある。
 それに二つのスピーカーの間に音像がフワッと広がる、いわゆるステレオ・イフェクトも、もう少し広がりと明るさがほしいと思った。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプはなかなか性能がいい。3Ωと40Ωとの切り替えが付いていることをみても、きめ細かく設計されたものであることが、うかがえる。オルトフォンのMC20MKIIの3Ωの方で、ボリュームをいっぱいに上げてみても、このクラスとしては抜群のSNの良さだ。もちろんボリュームをいっぱいに上げれば、ノイズが聴こえるが、ノイズは割合に低い。
 ボリュームはかなりいっぱい近くまで使えるので、MC20MKIIでも音量としては十分に出せるということがいえる。
 DL103Dは40Ωの方で使えるが、ゲインとしては十分だ。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールの効き方は、はっきりと効く。ラウドネスも同様で、これはやはり、ビギナー向きに、はっきりわからせるというような効き方をするように思う。ところでこのアンプの一番の特徴のボリューム・コントロールだが、人間の心理としてはダウンのスピードはもっと早い方がいいのではないかと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方は、スピーカーをつないで聴いた時の音量感よりも、やや抑えめだが標準的な音の出方といえる。

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 前号での試聴記で、とてもいいアンプだと思ったが、今回、ローコストのアンプを並べて聴いてみても、相変らずいいアンプの一つだという印象を持った。
音質 いいアンプという表現はかなり抽象的だが、とにかくクラシック、ポップス、そのほかいろいろなソースを随時、任意に片っ端からかけて音を聴いてみる。どこか薄手なアンプでは、プログラム・ソースによっては、いいところと悪いところが目立ってきて、何となく聴いていることがつまらなくなってくる。ところが、このテクニクスのV6はいつまででも音を聴いていられる。どんなプログラム・ソースでも、すべての音がきちんと聴こえるということが大変すばらしい点で、一言でいうと、比較的ローコストのアンプにもかかわらず、いわゆるコストダウンの手抜きをほとんどしていないのではないかと思う。
 例えばストラヴィンスキーの『春の祭典』のティンパニーとバスドラムが活躍するフォルティッシモの連続の部分でも、このアンプは少しも混濁しない。すべてのおとがきちんと分離し、よく調和しながら聴こえてくる。それからキングス・シンガーズのように、それと正反対の大変柔らかい美しいエレガントなハーモニーを要求するようなコーラスでも、その魅力が十分伝わってくる。とにかく一つ一つの曲について言い出せばきりがないが、すべてのプログラム・ソースがきちんと聴こえてくるということが言える。
 特にこの五万九千八百円という価格帯の一つ下のグループ、例えばビクターのA-X3、トリオのKA80、それぞれにいいアンプだが、それがここにくるとグンとランクが上がる、つまり音の品位が上がったという感じがする。
 このクラスではヤマハのA3も大変いい音を聴かせてくれたが、このV6とA3を比較すると、なかなか対照的な音を持っている。ヤマハのA3は比較的明るい、よく乾いた、応答の早い音がするのに対して、V六は少しウェットだ。それとヤマハの明るさに対して、少し音に暗さがある。
 それからもう一つ、ヤマハに比べると高域が少し線が細い気がする。しかし、それは音の繊細感、きめ細かさという印象を助ける部分なので、そのことは決してネガティブな意味で言っているわけではない。
MCヘッドアンプ このアンプもMCヘッドアンプが内蔵されている。オルトやぉんのMC20MKIIのようなローインピーダンス(低出力)のカートリッジでは、このアンプではさすがに能力いっぱい。ボリュームをかなり上げなくては無理だし、そこのところではかなりノイズに邪魔される。
 やはりデンオン103Dのようなハイインピーダンス(高出力)のカートリッジがMCヘッドアンプの設計の基準になっているように思う。デンオンの場合にはもちろん十分にMCのよさが味わえる。
トーン&ラウドネス このアンプにもオペレーションというボタンがあり、ストレートDCとリアトーンというポジションがある。ストレートDCではトーン・コントロールは効かない。トーンを使う時にはリアトーン側に倒すが、その場合にごく注意深くきかなければわからないわずかな差だが、このアンプの持つ基本的な音のよさから比べると、ほんの少し音が曇るような気がする。
 トーン・コントロールは大変軽い効き方をして、あまり低音、高音を強調しないタイプだ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方だが、これは同じボリュームの位置でスピーカーからの音量とヘッドホンをかけての音量感とが、割合近いところまで、うまくコントロールされている。ヘッドホン端子での音の出方は大変よい部類に属する。

★★

デンオン PMA-530

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 デンオンのアンプはセパレートアンプの2000、3000というシリーズで、独特のAクラス・オペレーションを打ち出しているが、この530という新しいプリメインアンプにも、基本的には同じ考えが取り入れられているようで、ボンネットの上にダイレクトAというシールが貼ってある。価格の割に見た目が薄形にできており、外観からは、ローコストで手抜きをしたアンプかなという印象を受けかねないが、実際に持ってみると、このアンプは意外にずっしりと重い。かなり中身の濃さそうなアンプという気がする。
 比較的ファンクションも充実している。MシートMMの切り替えも付いており、スピーカーもA、Bが使える。そしてもう一つ、ダイレクト・カップルのボタンが付いている。これはヤマハのA3や、トリオのKA80と同じようにトーン・コントロール、その他のファンクションを飛び越してダイレクトで使えるという機能だ。
音質 このアンプの音質だが、一つ一つの音が、大変コントラストを強く、力を持って出てくる割には、全体の音域を通してのバランスというものが、どうもこの値段にしては、物足りないという気がした(理由はあとでわかった)。
 例えば『サンチマスの子供たち』のオーバーチュアの部分。この部分は非常に音域が広く、音の強弱も激しいところだが、ドラムスの低音の音がかなり力と重量感を持って聴こえてくるのに加えて、シンバルの音は、割合に鋭くシャープに出てくる。にもかかわらずいわゆる中低域のところのエネルギーがちょっと薄くなるような感じだ。
 少し細かい物の言い方をしすぎるかもしれないが、強いて説明しようとするとそういうことになる。
MCヘッドアンプ オルトフォンおよびデンオン、両方のタイプのカートリッジをつないでみたところが、やっぱりオルトフォンでは、少しゲインが足りない。音質が割合にいいから、比較的激しい曲ではオルトフォンでもSNが比較的いいのでフルボリューム近くでも、使えなくない。デンオン103Dの方は、これはもうデンオンのアンプだから当然とはいうものの、実に103Dをよく生かす音がする。ゲインも非常にうまく配分されており、手ごろなボリュームできちんとした音がする。最初のうちあまり音質についていいことを言わなかったのは、エラックの794Eをつないだ時の話で、実はこの103Dを、このMCヘッドアンプを通して鳴らした時の、このアンプの音というのは、最初に言ったような、気になる部分がかなりうまく抑えられて快適な音がした。ということは、当然のことかもしれないが、このアンプは、デンオンのカートリッジで相当音が練り上げられているという感じだ。
トーン&ラウドネス ダイレクト・カップルのボタンをオフにして、トーン・コントロールを動作させると、注意深く聴かなくてはわからない程度だが、音質はほんのわずか変化する。
 心もち音の伸びが損なわれるかな、という感じだ。トーン・コントロールを動作させた時の効き方というのは、ごく普通だ。ラウドネス・コントロールはトーンと無関係に動作させるものだが、これはごく軽く効くというタイプ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での出力は、ごく標準的でヘッドホンで聴いた音量感と、スピーカーを鳴らした時の音量感がだいたい同じボリュームの位置で聴ける。ヘッドホン端子がやや低いかなという程度。このアンプはヘッドホン・ジャックを差し込んだ時にスピーカーが切れるタイプで、スピーカーのオフがない。スピーカーのAB切り替えがボタンのオン、オフで行われているので、このアンプに関しては、スピーカーのA+ビートいう使い方はできない。

サンスイ AU-D7

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 サンスイの全く新しいシリーズ。今までわれわれは、サンスイのアンプを、もう十数年来、黒いパネルで見慣れてきたが、突然、白いパネルの全く新しいデザインが出てきて、ながめてテストして聴いていても、まだサンスイのアンプだという実感がわかない。そういう個人的な感想は別として、これもこの価格としては、良くできたアンプの一つだという印象を持った。
音質 聴いた感じは、音が大変華やかで、明るい感じがする。そして、反応が軽い。これは最近の新しい設計のアンプに共通の特徴かもしれないが、大変透明感のある美しい、そして鮮度の高い、いかにも音楽に対する反応が早い、新しい音という気がする。強いていえば、少し軽すぎ、明るすぎ、あるいは華やかすぎ、という、表現を使いたくなる部分もあるが、それは決して音楽を殺す方向ではなく、このアンプの一つの性格、あるいは特徴という方向で、このアンプの音を生かしていると思う。
 アンプの音が華やかであろうが、鈍かろうが、そのアンプを通してレコードを聴いていて、なにか音楽を聴くことを、楽しくさせるアンプ。あるいは何となくその聴いていること自体がだんだんと楽しくなってきて、魅力を感じさせるアンプというのは、ある水準を越えたアンプだと思う。
 おそらくこのアンプの作り方、デザインを見てもクラシックの愛好家よりも、むしろポピュラー・ファンを楽しませるために作ったアンプではないかという気がする。しかし、これは決してクラシックが聴けないという意味ではない。テストでは、JBL4343とエラックの794Eという相当シャープな音の組合せで聴いたが、普通にこのアンプ相応の組合せをした場合でも、このアンプの音を一つ一つ大変弾ませて、美しく、フレッシュに生かすという特徴は十分に発揮されるだろうと思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプの性能は、これは後で出てくるAU-D607と大体性能的には近いと思う。つまり、オルトフォンMC20MKIIの場合は、ゲインはもうほとんど目いっぱいという感じ。ノイズもそう少ないとはいえない。
 ただし、大変クリアーな音がするので、ボリュームを絞りかげんならば、MC20MKIIの良さも結構楽しめるのではないかと思う。デンオン103Dに関しては、ゲイン、音質とも十分楽しめるところまでいっている。
トーン&ラウドネス このアンプは、トーン・コントロールに大変特徴がある。トーン・コントロールは普段はプッシュボタンでディフィート、つまり、はずされている。オンにすると、トーン・コントロールのツマミが全部で四つ、二個ずつ二段になっている。下の方は普通の低音と高音のコントロールだが、その上の左側はスーパーバス、超低音。それから右の方はプレゼンス、つまり中央のコントロールで、これをうまく効かすことによって、プログラム・ソースの面白さをかなりのところまで引き出すことができる。
 スーパーバスとプレゼンスに関しては、非常に微妙な効き方をするので、これをいわば味の素をきかせるような形で、うまくコントロールすることに成功すれば、大変面白いと思う。
 ラウドネスの効き方は普通という感じ。もう一つこのアンプは、今回テストした七、八万円までのアンプを含めて、数少ないアウトプット・インジケーターの付いたアンプで、パワーの数値が空色の窓に出ており、その内側を赤いバーが上に登っていくということで、パワーが読みとりやすい。
 これはこのアンプを使ってみて楽しいところだ。
ヘッドホン このアンプのヘッドホンは出力、音質ともにごく標準的なもの。

★★

ヤマハ A-3

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 A3は型番からもわかる通り、A5の上級機種ということだが、今回テストしたアンプの中では発売時期が一番古く、七八年の四月。この本が出るころにはそろそろ二年目を迎える。
 まず結論を一言でいうと、これは大変に良くできたアンプの一つだという印象を持った。ヤマハのアンプには、A5のところでも言ったように共通の明るさ、清潔感といったものがある。どこかさっぱりしており、変にベトベトしない、いい意味での乾いた一種の透明感を感じさせる。このA3は一番そこのところをよく受け継いでいる、いいアンプだと思う。
音質 耳当たりがさっぱりしているから、どこか物足りなさを覚えるかと思って、いろいろ聴いてみたが、音の一つ一つがよく練り上げられており、いわゆるごまかしのない大変オーソドックスな音がする。いくら聴いても、聴きあきない、聴きごたえがする。五万九千円という価格、しかも開発年代がそろそろ二年目を迎えるということを、頭に置いて聴いても、なお良くできたアンプだという印象を持った。
 一つ一つの曲について、これは細かく言うと、いくらでも言える、また言いたいアンプだが、ちょっと紙面が足りないので、要約して言うと、例えばピアノの強打音、あるいはパーカッションの強打音のように、本当の意味で音の力、内容の濃さを要求されるような音の場合でも、このアンプがそこで音がつぶれたりせず、大変気持ちがいい。
 そしていろいろなプログラム・ソースを通して、音のバランスが大変いい。音域によって、音色や質感、あるいはバランスといったものを、時々変えるようなアンプがあるが、このA3に関してはそういう点が全くない。それだけでも大したものだと思う。
 ただ一つお断りしておくと、このアンプはヤマハの上級機種にも共通した一つの作り方の特徴だが、パネル上半分のボリュームの隣のディスクという大きな、押すと薄いグリーンの色がつくボタンを押すと、トーン・コントロールその他を全部パスしてしまい、ダイレクトなアンプになる。その状態で、いま言ったようないい音が聴こえるわけだ。
 ダイレクトにしないで、トーン・コントロールを使おうとすると、いま言った特徴は、注意深く聴かなくては、という前提をつけなくてはならないが、ごくわずかながら、いまの良さは後退するという点を一つお断りしておく。
MCヘッドアンプ このアンプもMCのヘッドアンプが付いている。例によってオルトフォンMC20MKIIとデンオン103Dと両方テストした。
 MC20MKIIの方はボリュームをかなり上げないと十分な音量が出ない。しかし、ボリュームをいっぱいに上げてもノイズが比較的少なく、ノイズの質がいい。MC20MKIIが一応使えるということ、これにはむしろびっくりした。
 五万九千円というこのクラスの中では、なかなか良くできたMCヘッドアンプではないかと思う。もちろんデンオン103Dに関しては、問題なく、十分力もあるし、音質もいい。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールの効きは比較的さっぱりした効き方だが、もちろんその効き方は耳で聴いてはっきりと聴き分けられる。トーン・コントロールのターンオーバー切り替えが付いているということも、さらに一層きめの細かい調整ができるわけで、非常に便利だと思う。ファンクションは充実しており、スピーカー切り替えもA、B、A+Bとある。いろいろ機能も充実しているということを考えると、これは総合的になかなか良くできた、買って大変気持ちのいい思いのできるアンプではないかと思う。
ヘッドホン ヘッドホンについては紙数が尽きてしまい残念。特に問題はなかった。

★★

ビクター A-X3

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このビクターA-X3も前号の試聴の中に入っており、これも価格の割にはなかなかいい音だという印象を持っていたアンプだが、今回のテストでも、やはり大づかみの印象は変らなかった。
音質 このアンプはビクターの新しいアンプのセールス・ポイントであるスーパーA、つまりAクラスの新しい動作方式を回路に取り入れたアンプの中での一番下のランク。そのAクラスという謳い文句に対する期待を裏切らないような、とてもみずみずしいフレッシュな音が聴ける。チャック・マンジョーネの「サンチェスの子供たち」のオーバーチュアの部分は、かなりパーカッションの力強さを要求されるところだが、このアンプはローコストとしては、かなり聴きごたえのある音を聴かせてくれた。これはおそらく、前回の試聴記の時にも書いたことだと思うが、このアンプは低域が少し重量感を持って聴こえてくる。これがこのアンプの持っているひとつの性格かな、という気がする。
 言い換えれば、このアンプがそういう期待を抱かせるような、まず大づかみにいっていい音がするから、ついこちらが五万三千円という比較的安い価格を忘れて過大な期待を持ってしまうわけで、五万三千円という価格を考えると、むしろこれはよく出来たアンプといって差し支えないと思う。
MCヘッドアンプ このアンプもMCヘッドアンプが内蔵されているが、オルトフォンMC20MKIIとデンオンDL103D両方試してみると、これはやはり……と言わざるを得ない。オルトフォンの場合には、多少ゲインが不足する。ボリュームをよほど上げないと、十分な音量が楽しめない。しかも当然のことだが、そこまでボリュームを上げると、ややヘッドアンプのノイズが耳障りになる。結果からいうと、オルトフォンはつないで聴けなくはないという程度だ。これは仕方がないことだと思う。
 ただオルトフォンをつないだ時のMCヘッドアンプの音質は、こういう価格帯としては意外に悪くない。それからDL103Dの方は、もちろんこれはゲインも十分だし、大体MMのカートリッジの平均的なものをつないだ時のボリュームの位置が同じなので、このアンプは、デンオンの103Dあたりを想定して、MCヘッドアンプのゲインを設定しているのだろうな、というように思う。
 ところでMMカートリッジの方は、他のアンプのところと同じように、エラックの794Eを一番多く使った。このアンプはエラックの持っている中域から高域のシャープな音の部分が、プログラム・ソースによっては多少きついという表現の方に近くなるようなところがある。それはこのアンプが持っている性格かもしれない。割合に細かいところにこだわらないで、大づかみにポンと勘どころをつかんで出してくれるという点で、作り方がうまいなという印象がした。
トーン&ラウドネス そのほかのファンクションだが、トーン・コントロールの効き方は割合に抑え気味。あまり極端に効かないという感じだ。ただ、トーン・コントロールのトーンオフが付いている。トーンオフしても、トーン・コントロールのフラットの状態での音があまり変わらないので、これはなかなか設計がよくできていると思う。
 ラウドネス・コントロールの方は、トーン・コントロールと同様に、軽く効き、あまり音を強調しないタイプだ。
 このアンプで一つ感心したのは、ボリュームの・コントロールのツマミを回した時の感触の良さだ。いくらか重く、粘りがあり、しかも精密感のある動きをする。よくこういう感触が出せたなと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音、これはなかなかうまいバランスだ。スピーカーで聴いた時とヘッドホンで聴いた時の音量感が割合に合っており、そのへんはよく検討されている。

トリオ KA-80

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このトリオのKA80も、前号の組合せの時に試聴したアンプの一つで、その時なかなか好感をもったアンプだ。
 これは四万八千円という価格をかなり意識した上で、いわゆる内容本位、実質本位というか、細かなファンクションをできる限り整理して、必要最小限のファンクションでまとめて、そのぶんをおそらく音質向上に回したのではないかと思われる。例えば、このアンプにはフォノもスピーカーも一系統しかないし、MCヘッドアンプも入っていないし、ヤマハのA5などのようにMCヘッドアンプを内蔵していたものから見ると、いわゆるカタログ上のメリットは薄いが、それだけ割り切って中身を濃くしたアンプではないかということがうかがわれる。 もちろんそれはこのアンプを見た上での先入観ではなく、むしろ音を聴いた後に感じたことだ。
音質 このアンプの音というのはローコスト・アンプにありがちな、音の芯が弱くなったり、音の味わいが薄くなったりということが、比較的少ない。あくまでも四万八千円という価格を頭に置いた上での話だが、これは相当聴きごたえのある音を聴かせてくれたと思う。
 例えば、キングス・シンガーズのポピュラー・ヴォーカルのような場合でも、しみじみと心にしみ込むようないいムードを出してくるし、美しくハモる。そういうところが聴きとれて、ローコスト・アンプにしては、かなり音楽を楽しめる音のアンプだというように思う。このアンプは、他のトリオの上級機種とも多少共通点のあるところだが、いくらか音のコントラストを強くつけるというか、音が割に一つ一つはっきりと出てくる傾向がある。そこのところは多少好き嫌いがあるかと思う。
 たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」のフォルティッシモの連続のような部分では多少派手気味になり、金管もきつくなるように聴きとれる場合もあった。しかしそれが手放しの派手な方向へ走っていかないのはさすが。
 フォーレのヴァイオリン・ソナタの第二楽章なども、ヴァイオリンの音が若干細くなるが、フォーレ的ムードをきちんと出すというところもある。
 ただしやはりクラシックでもポピュラーでも、編成の大きなスケール感を要求するものになると、さすがにこのアンプでは、そこまではきちんと出してくれない。これは価格を考えれば、ある程度仕方のないことではないかというように思う。あくまでもこの価格としては、非常によくできたアンプだということが言える。
トーン&ラウドネス このアンプはフタを閉めると、ボリュームとインプット・セレクターだけ。フタを開けるとトーン・コントロールが現れる。トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールともに、ビギナー向きというか、わかりやすいというか、つまりよく効くというタイプ。
 トーン・コントロールを操作する時には、そのわきにあるストレートDC、およびトーンという切り替えスイッチをトーンの方向に押すわけだが、トーン・コントロールを使った場合には、いま言った音の魅力がごくわずかに減るという感じ。ストレートDC、つまりトーン・コントロールが働かないようにストレート・アンプにしておいた方が、音が一層クリアーのように思う。
ヘッドホン それからヘッドホン端子の出力。これはかなり抑えめになっており、ヘッドホンで腹いっぱいの音量を楽しみたいという場合には、相当ボリュームを上げなくてはならない。
 言い替えればパワーアンプの飽和ギリギリの方向に持っていくことになるので、ヘッドホン端子にはもう少しタップリとした出力を出してくれた方がいいように思う。

★★

ダイヤトーン M-U07

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このアンプは一見してわかる通り、いわゆるミニアンプの系統に属する。今回のテストのように、ごくスタンダードのプリメインアンプをテストの対象としている中に、ミニアンプを混ぜるということは、テストとしてはあまりフェアーではない。これを承知のうえで取り上げた理由というのは、現在ダイヤトーンのアンプのカタログの中に、この価格ランクのものがほかにあまり見当たらない、ということと、これが比較的新しい製品であるということなので、あえて取り上げてみた。そのミニであることのハンデというのは、何かというと、当然同じ価格で極力小型化するためには使うパーツ、あるいはそれに付随する回路設計にいろいろ制約が出てくる。同じ価格でより小型化した場合に、無理に小型化しないで普通にゆったり作ったアンプに比べてどこか性能が劣るということは、これはやむを得ないことだ。したがって、ミニアンプは、ミニアンプの仲間の中に混ぜて、ミニアンプ同士のテストというのをすべきで、このアンプに関しては多少そういう点、ハンデをあげた採点をしようと思う。
音質 まず音全体の印象だが、割合に柔らかい、フワッとした、どちらかといえば甘口とも言えるような聴きやすい音が第一印象だ。これは実はダイヤトーンのアンプということをわれわれが頭に置いて聴くと、意外な感じを覚える。ダイヤトーンのアンプというのは、比較的カチッと硬めの音を出す。これがダイヤトーンのスピーカーにも共通する一つのトーン・ポリシーだと思っていたが、このミニアンプでは反対に割合に柔らかい音が聴こえてきた。
 柔らかい音というのは、また別な言い方をすると、少し音の芯が弱いという感じがする。これは繰り返すようだが、ミニアンプだからそう高望みをしても仕方がないことだと思う。この価格、そしてこの大きさ、それから公称出力が25Wということを頭に置いて聴くと、意外にボリュームを上げても音がしっかりと出てくる。これはミニとしてはむしろよくできた方のアンプだという印象を持った。
トーン&ラウドネス このアンプにはMCヘッドアンプは入っていない。そういう点は非常に作り方としては、割り切っている。スピーカーもA、B切り替えというものはなく、一本きり。その割にはテープが二系統あるというようにテープ機能を、かなり優先させている。また、トーン・コントロールの効きは、比較的大きい方で、ラウドネスも割合にはっきりと効く。ということはこういうミニサイズのアンプにはミニサイズのスピーカー組み合わされるというケースが多いだろうということを考えると、特に低音の方で効きを大きくしたという作り方は妥当だと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方というのは、ヤマハA5のところでも言ったように、ボリュームの同じ位置で、スピーカーを鳴らしていると同じような音量感で、ヘッドホンが鳴ってくれるのが理想だが、このアンプもヘッドホン端子での出力をやや抑えぎみにしてある。
 テストには主にエラックのカートリッジ794Eを使った。多少シャープな感じのするカートリッジだ。それよりはスタントンの881S、比較的音の線が細くない厚味を持った音のカートリッジだが、その方がこのアンプの弱点を補うような気がする。つまりカートリッジには線の細いものよりは、密度のある線の太い音のカートリッジ、スピーカーも含めてそういう組合せをすると、このアンプはなかなか魅力を発揮する音が出せると思う。
 最後に、このアンプのマイクロホンの機能が充実しており、レベル設定やミキシング、それにリバーブが付けられるなど、カラオケを意識したようなファンクションもあり、楽しめる。

ヤマハ A-5

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このヤマハのA5は、四万五千円というプリメインとしてはかなりローコストの部類だが、この製品をいろいろな角度からながめてみると、高級プリメインが備えている機能を最小限に集約して、できるだけ安い価格で提供しようという作り方がうかがえる。
 例えばMCのヘッドアンプを内蔵しているということも一つ。それからインプット系統がなかなか充実しており、テレビの音声チューナーを接続できるようにもなっている、といったことだ。見た目は一連のヤマハのアンプのデザインの系統で、大変さっぱりして清潔感のある印象を与える。
音質 この製品は前号でも試聴した製品なので、音は前にも聴いていた。今回改めて同じような価格ランクのアンプの中に混ぜてみて、どういう位置づけになるかというところが大変興味があったわけだが、この価格の中で、もしヘッドアンプまで入れて機能を充実させようと考えて作ると、やはりどこかうまく合理化し、あるいは省略しなくてはならない部分が出てくるということは、常識的に考えて当然だと思う。実際に音を聴いてみた結果、大づかみに言えば、これはヤマハの一連のアンプに共通の明るさ、軽やかさ、それから音が妙にじめじめしたり、ウェットになったりしない一種渇いた気持ちの良さ、そういった点を共通点として持ってはいる。
 ただ、いろいろなレコードを通して聴いてみて、一言で印象を言うと少し薄味だということだ。それからの音の重量感のようなもの、あるいはスケール感のようなものが十分に再現されるとは言いにくい。
 前号でプレイヤーのテストをした時に、レコード・プレイヤーが三万九千八百円というような価格でまとめたものから四万円台に入るとグーンと性能が上がるという例があったように、アンプでもやはり中身を充実させながら、コストダウンさせるためには、どこか思い切りのいい省略が必要ではないかということは当然考えられる。
 そういう見方からすると、このA5はいろいろな面からかなり高望みをして、本質の方はほどほどでまとめたアンプという印象がぬぐえない。トータルとしての音のまとめ方としては、さすがに経験の深いヤマハだけに大変手慣れたものだが、そのまとめ方の中身の濃さが伴っていないという感じだ。
トーン&ラウドネス ところでこのアンプをいろいろ操作してみての感じだが、トーン・コントロールの効き方は、低音、高音ともいわゆる普通の効き方をする。ラウドネス・コントロールは割合にはっきりと効く感じで、わかりやすい効き方をする。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプだが、MC20MKIIはボリュームをあまり上げたところでは使えない。つまりあまり大きな音量が出せない。ゲインも足りないし、ボリュームを上げていくと、ヘッドアンプのノイズのほうが、かなり耳障りになってくる。これはかろうじて使うに耐えるという感じ。しかし、デンオンの103Dの方は十分に使える。ゲインもたっぷりしているし、ヘッドアンプとしての音質も、四万五千円ということを考えれば、まあまあのところへいっているだろうと思う。
ヘッドホン ヘッドホンの端子での音の出方の理想というのは、ごく標準的な能率のスピーカーをつないで、ボリュームを上げて、適当な音量を出しておく。その音量感とそのボリュームの位置で、ヘッドホンに切り替えた時の音量感が、大体等しくなることが理想だ。その点、このアンプのヘッドホン端子で出てくる音量が、スピーカー端子よりもやや低めという印象がした。
 ヘッドホン端子での音質は、スピーカー端子で聴く音とほぼ同じで統一がとれている。

パイオニア A-900

パイオニアのプリメインアンプA900の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

A900

トリオ KA-8300, KT-8300

トリオのプリメインアンプKA8300、チューナーKT8300の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

KA8300

オンキョー Integra A-810, Integra A-808, Integra A-805

オンキョーのプリメインアンプIntegra A810、Integra A808、Integra A805の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

A810

ビクター A-X9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 ここで価格ランクが一段変わる。このビクターと後のラックスが15万円クラスの代表ということになる。
 A−X9は新しい回路構成を採用し、外観のデザインも一新したビクター久々のニューラインの最高機種だ。このアンプは、わたくしのリスニングルームでの試聴では、かなり個性的な音を聴かせた。もちろんいままでに聴いたマランツ、アキュフェーズ、トリオ、それぞれに個性を持っているのだが、その中にまぜても、ビクターは一種独得な音だと思わせる個性をもっている。具体的には、同じレコードでも音の表情、あるいは身振りをやや大きく表現する。別な一面として、鳴ってくる音に一種独得な附帯音──この表現はとても微妙でうまく言い表せないのだが──というか、プラス・アルファがついてくる印象がある。「魔法使いの弟子」で、フォルティシモの後一瞬静かになってピアニシモでコントラファゴットが鳴り始める部分、このレコード自体にホールトーンあるいはエコーが少し録音されているのだが、そのエコー成分が他のアンプよりはっきりと意識させられる。このアンプには、エコーのような、楽音に対するかくれた音を際立たせる特徴があるのかもしれない。「ザ・ダイアログ」でも、シンバル、スネアー、ベース……多彩な音が鳴った時、それらがリアルに目の前で演奏されているというより、少し遠のいた響きのあるステージで演奏されているかのように再現される。ことばにするとオーバーなようだが、これは他のアンプでもいえることで、本当に微妙なニュアンスの問題だが、それにしてもわたくしには、独得な雰囲気感がつけ加わっている不思議な音、と受けとれた。あるいはこういう音は、極端にデッドなリスニングルームで聴くと、評価が高くなるのかもしれない。

トリオ KA-9900

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 トリオの最新のアンプの音──より正確にいうなら、前作KA9300あるいはKA7300D、その後あいついで発表されたL05/L07シリーズあたりを境にして──は、目指す方向がはっきりしてきた。トリオならではの性格が確信を持って表現されるようになった、とわたくしは思う。トリオのアンプだけがもっている独得の音。それはレコード、FM、テープどんなプログラムソースを聴いても、聴き手に生き生きとした感覚をつたえてくれる。同じレコードをかけても、その演奏自体がいかにも目鼻だちのクッキリして目がクリクリ動くような表情がついてくるように聴こえる。裏返していうと、音楽の種類によっては、ほんの心もちわずかといいながらも表情過多──という言葉を使うこと自体がすでにオーバーだが──と思わせる時がないでもない。しかし全体としてみると、音楽の表情を生き生きとつたえてくれるという点で、わたくしの好きな音のアンプといえる。このKA9900はそうしたトリオの最近の特徴をたいへんよく備え、セパレートL07シリーズにも匹敵するクォリティさえもつプリメインの高級機といえる。
 音を生き生きと、コントラストをつけて表現するためか、音の輪郭がはっきりしていて、それは時として、音が硬いかのように思わせる場合がある。このアンプを長期間、自宅で個人的にテストして気がついたのだが、他の多くのアンプと比べると、スイッチを入れてから音がこなれていくまでの時間が長く、その変化が大きい。長い時間音楽を聴けば聴くほど、音がこなれてきて、柔らかくナイーヴになって、聴き手をひきつける音に変化してゆく点が独特といえる。
 内蔵MCヘッドアンプの音もかなりグレイドが高く、オルトフォンMC30を使うと、E303に比べ少々ノイズが増すようだが、アキュフェーズとの5万円の価格差を考えれば優秀といってよい。かなり豊富なコントロールファンクションを備えているが、それぞれの利き方がたいへん適切で好ましく、中間アンプをバイパスしてイコライザーアンプとパワーアンプを直結したDCアンプ構成にしても音質の変化が少ないことから、中間アンプ自体の設計も優れていることを思わせる。あらゆる点から高級機らしさを備えているといえよう。
 しかしこのデザインは何とかならないものか。このパネル面を見ていると、自家用の常用機として毎日使おうという気がどうしてもおきない。マランツにしろアキュフェーズにしろ、出てくる音とアンプ全体の雰囲気はイメージ的に似ていると思うが、トリオは一種男性的な──若さゆえに粗野が許されるといった──イメージだが、出てくる音はナイーヴなエレガントな面ももっているのだから、外観にも音と同じくらいのデリカシーがほしい。

価格帯別にサウンドの傾向をさぐると

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 25万円から6万円弱と、4倍以上の価格差のあるプリメインアンプを集中的に聴いてみると、さすがに20万円以上の製品はそれぞれに優れていると思った。このクラスでは、パワーもチャンネル当り100W、150Wと、プリメイン型としては少し以前までは考えられなかったような、ハイパワーを安定に発揮し、SN比の良さ、内蔵MCヘッドアンプのクォリティの高さ、コントロールファンクションの充実、そして見た目の美しさや信頼感を含めて(今回試聴した以外の製品の中にはいくつかの例外があるものの)、愛好家にとって良い製品を手に入れたという満足感を与えてくれるものばかりだ。
 少し値段が下がって15万円クラスになると、さすがに各社の高級機が揃っているクラスだけに、♯4343を鳴らして相当音量を上げても、量感、スケール感での不満はあまり感じない。ごく最新のアンプではより一層その感が強い。プリメインとして割り切るのなら、このクラスがねらいどころだろう。逆にいうと、先ほどのマランツ、アキュフェーズ、トリオ・クラスで、20万円以上も出してこれだけの大きさ、機能とパワーをもったプリメインアンプを手にしてみると、もう少し奮発してセパレートにした方がよかったのじゃないか、と迷うことがあるのではないだろうか。事実このクラスから上のセパレートアンプには、比較的(セパレート型としては)ローコストでも結構良い製品もあるのだ。
 10万円のクラスはどうだろう。この価格帯のプリメインアンプは、♯4343を鳴らすために買ったとしたら、買った後でいちばん迷いが出てくるのではないだろうか。このクラスの製品を買おうというからには、いろいろ前後の製品を研究してのことだろう。15万円までは出せないが7万円以下では満足できそうもないということで、奮発して10万円というランクに考えが落ち着いたのではないだろうか。今日一流メーカーの製品で10万円も支払えば、中身に裏切られることはない。価格相当の、あるいは価格以上の音がする。が、今回のテーマのように、♯4343を最終的にはできるかぎり良いアンプで鳴らしたいが、当面はプリメインアンプで実力のせめて60ないしは70%の音を抽き出そうと考えて選んだ場合、できることならこのクラスは避けた方が良さそうだ。もう少し予算を足してもう少し音を善くしたいと思う反面、もう少し安いランクのプリメインで聴いていて、あとで一挙にセパレートにグレードアップした方が……とも考えられる。やはり10万円という価格ランクは、もう少し出しておきたい、あるいはそこまで出さなくてもよいのではないかという印象を、今回の試聴ではうけた。誤解しないでいただきたいが、これはあくまで「♯4343をとりあえず鳴らす場合」なのであって、10万円のプリメインにバランスのとれたスピーカー、プレーヤー、カートリッジを組合わせてシステムを構成する場合は、先に述べたように価格相当以上の音が楽しめる。そういう良いアンプが多いといえる。
 アンプの性能で差がつくのは、価格で√2倍または1/√2というわたくし流の説によれば、10万円クラスの下は7万円以下ということになる。つまり6万円から6万9千8百円といった価格帯のアンプを思い浮かべていただければよい。するとこのクラスが、♯4343を鳴らすためのプリメインとしてまあ最低の限界だろう。他の機会に試みたことがあるが、これ以下のアンプでは♯4343は鳴らせないと思って間違いない。これ以下のアンプでは、いくら包容力のある♯4343でも、アンプの性能をカバーしきれない。逆に、♯4343だからこそ、6万円クラスのプリメインの、時としてクォリティの手薄になりがちな部分をスピーカーの方で積極的にカバーして聴かせてくれることを知るべきだ。しかしこのクラスのアンプに見合った組合せを作れば、それなりの音が楽しめるにしても、かえって、あまり価格の高くないアンプであることをゅ♯4343で鳴らしたときよりもょはっきりと意識させられてしまうことが多い。
 日頃わたくしの部屋で、プリメインで♯4343を聴くときは、ほとんど最高級機で聴くのが常だったが、今回かなりローコストの製品でも鳴らしてみた結果、スピーカーに不相応なほどアンプのランクを落しても、♯4343の持っている良さが一応出てきて、けっこう音楽を楽しませてくれることが改めて確認できた。けれど一通りの試聴が終って、最後にもう一度、マーク・レビンソンの組合せに戻した時は、わたくしばかりでなく居あわせた編集部員数人が、アッと声にならない驚きを顔に現わして、互いに顔を見合わせたのだった。桁外れて価格が高いとはいえ、アンプのクォリティはいうにいわれずスピーカーの音の品位、密度を支配するものだということも確認できた。
 JBL♯4343は、はかり知れない可能性をもったスピーカーであるだけに、費用や手間を厭いさえしなければ、今日考えうる最高クラスのアンプと組合わせて、プレーヤーシステムからプログラムソースまででき得る限りクォリティを高めて鳴らせば、再生音楽とは思いもよらない凄みさえ聴かせてくれる。それでいて、スピーカー1本の1/10の価格のプリメインで鳴らしても、バランスを崩すことなくスケール感も楽しませてくれる。♯4343以前の大型フロアータイプ・スピーカーでは、なかったことといってよいだろう。

アキュフェーズ E-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 アキュフェーズ初期の音から、新シリーズは少し方向転換したという印象を受けた。セパレートのC240+P400などを聴いても、明らかに音の傾向を変えた、というより、アキュフェーズとしてより完成度の高い音を打ち出し始めたと思う。それがE303にも共通していえる。たとえば、弱音にいたるまで音がとても滑らかで、艶というとオーバーかもしれないが、いかにも滑らかな質感を保ったまま弱音まできれいに表現する。本質的に音が磨かれてきれいなため、パワーを絞って聴くと一見ひ弱な感じさえする。しかし折んょウを上げてゆくと、あるいはダイナミックスの大きな部分になると、音が限りなくどこまでもよく伸び、十分に力のあるアンプだということを思わせる。
 マランツPm8の音のイメージがまだ消えないうちに、このE303を聴くと、Pm8ではプリメインという先入的イメージの枠を意識しなくてすむのに対して、E303は「まてよ、これはプリメインの音かな」とかすかに意識させる。言いかえるとPm8よりややスケールの小さいところがある。しかし、そのスケールが小さいということが、このE303の場合は必ずしも悪い方向には働かず、むしろひとつの完結した世界をつくっているといえる。Pm8ではプリメインの枠を踏み出しかねない音が一部にあったが、E303はこの上に同社のセパレートがあるためかどうか、プリメインの枠は意識した上で、その中で極限まで音を練り上げようというつくり方が感じられた。たとえば、「ザ・ダイアログ」でドラムスやベースの音像、スケール感が、セパレートアンプと比べると心もち小づくりになる。あるいはそれが、このアンプ自体がもっているよく磨かれた美しさのため、一層そう聴こえるのかもしれない。これがクラシック、中でも弦合奏などになると、独得の光沢のある透明感を感じさせる美しい音として意識させられるのだろう。
 内蔵MCヘッドアンプのクォリティの高さは特筆すべきで、オルトフォンMC30が十分に使える。Pm8では「一応」という条件がつくが、本機のヘッドアンプは、単体としてみても第一級ではないだろうか。
 総じて、プリメインアンプとしての要点をつかんでよくまとまっている製品で、たいへん好感がもてた。

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 今回試聴したアンプの中で最もローコストの製品で、外観を眺め価格を頭におくかぎり、正直のところたいして期待をせずにボリュウムを上げた。ところが、である。価格が信じられないような密度の高いクォリティの良い音がして驚いた。ヤマハとオンキョーのところで作為という表現を使ったが、面白いことに、価格的には前二者より安いV6の音には、ことさらの作為が感じられない。
「つくられた音」ということをあまり意識させずに、レコードに入っている音が自然にそのまま出てきたように聴こえ、えてしてローコストのアンプは、安手の品のない音を出すものが多いが、その点V6は低音の量感も意外といいたいほどよく出すし、音に安手なところがない。
 他の機会にこのアンプを聴いて気づいたことだが、今回のテストのように、スイッチを入れてから3時間以上も入力信号を加えてプリヒートしておかないと、こういった音は聴けない。スイッチを入れた直後の音は、伸びのない面白みのない音で、もっとローコストのアンプだといわれても不思議ではない音なのだが、鳴らしているうちに音がこなれてきて、最低でも一時間以上、二時間もたってみると、聴き手をいつまでもひきつけておくような魅力的な音になっているのである。最近のローコストアンプの中でも傑出した存在だろう。内蔵のMCヘッドアンプも、価格を考えれば立派というほかない。
 しかし、あえて苦言を呈すれば、オリジナリティに欠けるデザインポリシーは、全く理解に苦しむ。この価格帯のアンプを買うであろうユーザー層を露骨に意識した──しかも当を得ているとはいいがたい──メカっぽさ。少し前の某社のアンプデザインを想い起させ、イメージもマイナスだし、いかにも機械機械した印象は、鳴ってくる音の美しさ、質の高さとはうらはらだ。

ラックス L-58A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

ラックス久々の力のこもった新製品だという印象をもった。15万円前後のプリメインアンプは、前記したビクターA−X9をはじめ、長いことベストセラーを続けているヤマハCA2000、最近のヒット商品サンスイAU−D907など、それぞれに完成度の高い製品がひしめているクラスに、あえて打って出たということからもラックスの意気込みが感じられる。それだけに前記のライバル機種と比較してもL58Aの音は相当に水準が高いといえるだろう。現時点での最新機種であるだけの良さがある。
ラックスのプリメインアンプから受ける印象として、ここ数年、たいへん品は良いのだがもう一歩音楽に肉迫しない、あるいはよそよそしくひ弱な感じがあった。本当の意味での低域の量感も、やや出にくかったように思う。しかしL58Aではそれらが大幅に改善された。たとえば「ザ・ダイアログ」で、ドラムスとベースの対話の冒頭からほんの数小節のところで、シンバルが一定のリズムをきざむが、このシンバルがぶつかり合った時に、合わさったシンバルの中の空気が一瞬吐き出される、一種独得の音にならないような「ハフッ」というよな音(この「ハフッ」という表現は、数年前菅野沖彦氏があるジャズ愛好家の使った実におもしろくしかも適確な表現だとして、わたくしに教えてくれたのだが、)この〈音になら
ない音〉というようなニュアンスがレコードには確かに録音されていて、しかしなかなかその部分をうまく鳴らしてくれるアンプがないのだが、L58Aはそこのところがかなりリアルに聴けた。
細かいところにこだわるようだが、これはひとつのたとえであって、あらゆるレコードを通じて微妙なニュアンスを、このアンプはリアルに表現してくれた。細かな、繊細な音さえも、十分な力で支えられた緻密さで再生してくれていることが、このことから証明できる。
低音に十分力があり、そして無音の音になるかならないかの一種の雰囲気をも、輪郭だけでなく中味をともなったとでもいう形で聴かせてくれることから、よくできたアンプだと思った。しかし、試聴したのは量産に入る前の製品だったので、量産機の音を改めて確認したいと思う。
今回聴いた製品に関しては、試作機的なものだからか、MCヘッドアンプの音は、L58Aが本来もっている音に比べ、もう一歩及ばないと聴いた。アンプ全体のクォリティからすれば、もう少しヘッドアンプの音が良ければと思わせる。しかし14万9千円のアンプにそこまで望めるかは微妙な問題で、価格を考慮すれば、この音のまま量産されることを前提に、たいへん優れたアンプといえる。

オンキョー Integra A-805

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 プリメインアンプの中級クラスとでもいえる価格の製品。しかしこの価格を頭において試聴をはじめるとオヤッと驚かされる。鳴らしているスピーカーはペアで116万円だが、百万円をこえるスピーカーを6万5千円のアンプで鳴らしたらどうなるか。おそらく多くの人がはじめから不安感を抱くと思う。わたくし自身も、このクラスのアンプで♯4343がどの程度鳴ってくれるか自信がなかった。しかし接続を終えボリュウムを上げて鳴ってきた音は、そんな心配を一瞬忘れさせる、たいへん好ましい音だった。滑らかで、独特に広がる雰囲気をともなった美しい音に、まずびっくりさせられた。
 むろん時間をかけて聴き込むと、たとえば「ザ・ダイアログ」のドラムスとベース、「魔法使いの弟子」のオーケストラのトゥッティで、音のクォリティやスケール感の上から、やはりローコストなアンプだということがわかる。しかしずいぶん聴き手を楽しませる、たいへんうまいまとめ方をしたアンプといえる。ヤマハのところで作為という言葉がなにげなく出てきたのだが、その意味でA805にも相当作為があるといってよいだろう。この価格のプリメインを即物的に設計・製作したら、これほど聴き手をひきつける好ましい雰囲気は出ないはずだ。細かな点を指摘すれば、バスドラムやスネアのスキンがピシッと張っている感じが少し湿り気をおび、いわゆるスカッとした音とは違う。反面、弦やヴォーカルはとても滑らかなイメージを展開することで、聴き手に好感をもたせるアンプだ。

ヤマハ CA-S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 ここで再び価格ランクが一段下がる。
 音の質感は相当高度だ。ヤマハがCA2000の頃から完成しはじめた音の滑らかな質感、クォリティバランスとでもいうべき音の質感の整った点は、9万5千円という価格以上の音と思わせる場合がある。しかし数多くのレコードを聴き込んでゆくにつれて、どこか音に「味の素」をきかせたとでもいおうか、味つけが感じられる。たとえば「ザ・ダイアログ」のドラムスの音。バスドラムの量感、スケール感、パワーを上げた時に聴き手の腹の皮を振動させるかのような迫力が、この上の15万円クラス、あるいは20万円クラスのプリメインでは、セパレートと比べると、本当の意味で十全に出にくい。ところが高価格の製品から聴いてきて、CA−S1まできてむしろそういう部分が一種の量感を伴って出てくるように感じられた。しかしこの価格のプリメインで本当にそういう音を再現することは、無理があるわけで、そこが、なんとなく「味の素」を利かせた、という感じになるのだ。このクラスのプリメインでは、その辺の量感が不足しがちなことを設計者自身が意識して、意図的に作為をもって量感を加えるように計算づくで味つけしたように、わたくしは感じた。それはあるいは思いす
ごしかもしれないが、プリメインを何台か聴いてきて、そういうことを意識させる点がまたCA−S1の特徴、といえないこともないだろう。
 中音域以上はクォリティの良い、たいへん滑らかな、密度の十分な安定感や伸びが、90W+90Wというパワーなりに感じられる音だ。しかし高域にわずかに──たとえばフランチェスカッティのヴァイオリンの高域で、弦そのものの音を聴いているというより、上質なPAを通して聴いていると思わせるところがある。あくまでも録音した音を再生しているのだと意識させる、その意味でもかすかな作為が感じられる。低音に関しても高音に関しても、つい作為ということばを使いたくなったという点が、このアンプ自体、一種上等な「味の素」のような調味料をうまく利かせてまとめられているという説明になるだろうか。

マランツ Model Pm-8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 今回のテストの中でも、かなり感心した音のアンプだ。この機種を聴いた後、ローコストになってゆくにつれて、耳の底に残っている最高クラスのセパレートアンプの音を頭に浮かべながら聴くと、どうしてもプリメインアンプという枠の中で作られていることを意識させられてしまう。つまり、音のスケール感、音の伸び、立体感、あるいは低域の量感といった面で、セパレートの最高級と比べると、どこか小づくりになっているという印象を拭い去ることができない。しかしPm8に関しては、もちろんマーク・レビンソンには及ばないにしろ、プリメインであるという枠をほとんど意識せずに聴けた。
 デュカスの「魔法使いの弟子」で、オーケストラがフォルティシモになって突然音が止んでピアニシモに移る、つまり魔法使いの弟子が呪文をとなえて、箒に水を汲ませているうちに、箒が水を汲むのをやめなくなって、ついに箒をまっぷたつに割ったクライマックス、そして一旦割れた箒がムクムクと起きあがるコントラファゴットで始まるピアニシモの部分の、ダイナミックレンジの広さ。試聴に使ったフィリップス盤では、この部分が素晴らしいダイナミックスと色彩感をもって、音色の微妙な変化まで含めて少しの濁りもなく録音されている。また、菅野録音の「ザ・ダイアログ」冒頭のドラムスとベースの対話。この二枚とも相当にパワーを上げて、とくに「ダイアログ」ではドラムスが目の前で演奏されているかのような感じが出るほどまで音量を上げて楽しみたいのだがこれはアンプにとってたいへんシビアな要求だ。だがそのどちらの要求にも、Pm8はプリメインという枠をそれほど意識せずに聴けた。
 初期のサンプルより音がこなれてきているのだろう。最初にこの製品を聴いた印象では、華麗な、ややオーバーに言うと音が少々ギラギラする傾向が感じられ、それがいかにも表だって聴こえた。しかし今回聴いたかぎりでは、それらがほとんど姿を消し、一種しっとりした味わいさえ聴かせた。
 バッハのヴァイオリン協奏曲では、フランチェスカッティのヴァイオリンは相当きつい音で録られているため、本質的にきつい音のアンプだとこれが強調されてしまうが、Pm8は弦の滑らかさ、胴鳴りの音もかなりよく再現した。
 中間アンプのバイパス・スイッチをもつが、このスイッチをオン・オフしてみると、バイパスした方が音の透明度が増し、圧迫感、混濁感が減るようだ。こう書くとその差が実際以上に大きく感じられそうだが、バイパスすると前述した点が心もち良くなるという程度の違いでしかない。内蔵MCヘッドアンプは、オルトフォンMC30のように出力の低いカートリッジだと、いくぶんノイズは増えるものの、音質的には十分実用になる。
 総合的には、同価格クラス、あるいはもう少し高価なセパレートアンプと比較しても十分太刀打ちできる、あるいは部分的には上廻っているプリメインといえるだろう。

#4343はプリメインアンプでどこまで実力を発揮するか、価格帯別にサウンドの傾向を聴く

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 本誌51号の読者アンケート(ベストバイコンポーネント)の結果をみるまでもなく、JBL♯4343は、今日の輸入スピーカーの中でも飛び抜けて人気の高い製品だといえる。愛好家の集いなどで全国各地を歩くにつけて、行く先々のオーディオ愛好家、あるいは販売店などで話を聞くと、この決して安いとは言えない、しかも今日の水準では比較的大がかりな構成のスピーカーとしては、異例な売れゆきを示していることがわかる。それだけ多くの人達に理解され支持されているスピーカーだといえるだろう。
 最近、ある雑誌の企画で、音楽評論家の方々と、内外のスピーカーを数多く聴くという機会をもった。この企画に参加した各分野の方々がいろいろなスピーカーを聴き比べた上で、♯4343にはほとんど最高といってよいくらいの讚辞がよせられている。この一例からも、♯4343はあらゆる分野のあらゆる聴き方をする人達を、それぞれに説得するだけの音の良さを持っているといえるだろう。販売店などでよく聞く話だが、夫婦づれで来た、オーディオにはなんの興味もないだろうと思われる奥さんの方が、♯4343WXを見ると「これすてきなスピーカーね」と気に入ってしまうとか、歌謡曲や演歌のファンまでが♯4343の音の良さに理解を示す。あるいはオーディオに相当のめり込んだ、キャリアの長い人が聴いても、やはり鋸スピーカーは良いという。これほど広い層から支持されたスピーカーは、過去、歴代の高級スピーカーの中では例外的といえるだろう。例外的とはいったものの、それは何もこのスピーカーが高級機の中では特異な存在というわけではなく、むしろ、かつて♯4343が出現する以前の大型の高級スピーカーは、周波数レンジ、フラットネス、音のバランス、解像力、そして見た目のまとまりの良さ等々、いろいろな面から見てそれぞれかなり強い個性を持っていた。それだけにある特定の層に好まれる版面、どうしても好きになれないという反対意見を持つ人が多かったのも事実だ。しかし♯4343にはそういった意味での強烈な個性がないところが、おおぜいの人達から好まれる理由といえるのではないだろうか。
 これだけ日本国中にひろがった♯4343ではあるが、いろいろな場所で聴いてみて、それぞれに少なくとも最低水準の音は鳴っている。従来のこのタイプのスピーカーからみると、よほど間違った鳴らし方さえしなければ、それほどひどい音は出さない。これは後述することだが、アンプその他のパーツがかなりローコストのものでも、それらのクォリティの低さをスピーカーの方でカバーしてくれる包容力が大きいからだろう。反面、♯4343の持っている音の真価をベストコンディションで発揮した時の素晴らしさ。一種壮絶な凄みのある音を鳴らすことも可能でありながら、チェンバロやクラヴィコードなどといったデリケートな楽器の繊細さを鳴らすこともでき、音楽のジャンルを意識する必要なしに、それぞれの音楽の特徴をひきだしてくれるところにある。やはり名器といってよいと思う。
 ところで、♯4343のクォリティ的な可能性については、それを今日考えうるかぎり、最高にひき出す手段はいくらでもあり、その一つとして、マーク・レビンソンのアンプ群を使い、とくにパワーアンプはML2Lを6台、そのうち4台は2台ずつのブリッジ接続で低音用として使い、あとの2台は高音用として使うバイアンプ方式が考えられる。このバイアンプ方式についてはすでに、新宿西口にある「サンスイ・オーディオセンター」で公開実験をおこない、本来ならその実験結果を本号でリポートすることになっていた。しかし諸般の事情により、同じような実験をわたくしのリスニングルームでもう少し入念にすることになり、今回は少し切り口をかえて♯4343を研究してみようと思う。
 前述したように、♯4343というスピーカーは、それ自体が、スピーカー以外の周辺機器のクォリティが少々低くてもカバーしてしまう包容力のようなものをもっている。そこで今回は、♯4343からどこまで性能を限界を抽き出せるかということのちょうど反対の、組合わせるアンプリファイアーの価格をどこまで落としたら、というと語弊があるが、つまり、♯4343をいろいろなグレードの比較的ローコストのアンプで鳴らした場合、ごく高級なアンプと比べるといったいどのような違いが出てくるのかを実験してみようと思う。かなりローコストのアンプでも♯4343の特徴をはっきり出すか出さないか、そこに焦点をあててみることにした。
 ♯4343を前提とした場合、まず当然のようにセパレートアンプを組合わせることが考えられる。しかし今回のテストからはセパレートアンプは除外し、プリメインアンプの中から比較的最近の製品を選び、なおかつその中から試聴によって選抜した製品によってテストしている。試聴にはわたくしのリスニングルームを使っている。この部屋での♯4343のセッティングに関しては、わたくし自身このリスニングルームでの体験がまだ浅いので、最終的な置き方が決まっているとはいえない。ただし、♯4343のセッティングの基本パターンともいわれる、ブロックなどの台などにのせて、背面を壁から離して置く方法とは全く逆に、背面は硬い壁に近接させて、台などは使わずに、床の上に直接置いている。おそらく、一般のオーディオ愛好家が♯4343のセッティングとしてイメージしている置き方とは違うが、このリスニングルームでは右の状態で一応満足しうるバランスを得ている。一般にいわれているのとは全く異なったセッティングだが、こうすることによって、♯4343の弱点、あるいは♯4343に好感を持たない人には欠点としてさえ指摘される、低音の鳴り方の重さ、低音のほんとうに低いところが伸びずに、中低音域の量感が少し減る反面、あまり低くないファンダメンタル音域で一ヵ所重くなったままその下で低音がスパッと切れてしまったように聴こえやすいという点が、比較的救われているといえるだろう。わたくしにはかなり低いところまで低温化伸びているように聴きとれる。この同じ条件で、別項のためのセパレートアンプの試聴をおこなったが、その時たまたまIVIEの周波数分析器でチェックしてみたところ、菅野沖彦氏録音の「ザ・ダイアログ」のドラムスの音が32Hzで109dBの音圧に達していることが確認できた。
 わたくしの♯4343WXは、このリスニングルームで鳴らしはじめてから約6ヵ月たつが、ある程度鳴らし込んでから細かな調整に移るという目的から、トゥイーターの取り付け位置の変更もしていないし、レベルコントロールの位置もすべてノーマルポジションのままだが、ほぼ満足すべきバランスで鳴っている。
 試聴に使用した機材について補足しておくと、テストするアンプ自体はプリメインアンプクラスであるにしても、それ以外のパーツに問題があってはいけないと思い、わたくし自身が納得のゆくものを使用した。プレーヤーは、ここ数ヵ月の間いろいろテストした中で、音質の点で最も信頼をよせているマイクロの5000シリーズの糸ドライブターンテーブルに、オーディオクラフトのAC3000MC(アーム)を組合わせたものを使った。カートリッジはオルトフォンMC30とEMT/XSD15をメインに、その他代表的なカートリッジを参考のために用意してある。MC型カートリッジの昇圧には、マーク・レビンソンJC1ACを2台、モノーラル・コンストラクションで片チャンネルにつき1台使うという、いささかマニアックで贅沢な使い方をしている。プログラムソースはレコードで、代表的なものは別表に示しておくが、この他にも鳴った音から触発されて、思いつくままに相当数のレコードを聴いている。
 テストしたプリメインアンプは、価格的には最高が25万円、最低が5万9千8百円。これをランク別に分けると、①20万円以上25万円までの、いわばプリメインの最高価格・最高水準のグループ、②15万円前後の高級機、③10万円前後の製品、④6万円をはさんだ価格グループ、にせいりすることができる。今日市販されているプリメインアンプを広く展望し、その中で優れた製品を選び出してみると、まず6万円近辺に優秀な製品が集中している。このグループから性能の差をはっきりつけるためには、少なくとも8万円から10万円前後の製品でなくてはむずかしい。さらにもう一段性能の向上をはかるのなら、15万円クラスにしなくては意味がなく、その上は20万円以上になる。わたくしの昔からの主張だが、明らかに性能の差をつける──性能を向上させよう──としたら、価格体で最低でも√2倍の差をつけたい。本当に性能が向上したといえるのは、実は、2倍以上の価格差がつかなくてはいけない、というのがわたくし流の理論だが、この線にそってプリメインを分けてみたわけだ。これ以外のランクの製品も確認のために聴いてはみたが、結果的には、その前後の製品に比べて、必ずしも性能の差が目立つということもなかった。そこで今回取り上げた8機種に絞って話を進めることにしたい。
 試聴に入る前に、アンプの最高水準をつかむという意味で、マーク・レビンソンのLNP2Lの最新型と、ML2Lのこれもごく新しい製品の組合せを聴き、その後、プリメインの高級機から順次試聴していった。

●試聴に使用したレコード一覧
デュカス 交響詩「魔法使いの弟子」
ジンマン指揮ロッテルダム・フィルハーモニー(フィリップス X-7916)

ラヴェル 歌曲「シェラザード」
デ・ロスアンヘレス(ソプラノ) プレートル指揮パリ・コンセルヴァトワール管弦楽団(米エンジェル 36105)

バッハ ヴァイオリン協奏曲第2番
フランチェスカッティ(Vn) パウルムグルトナー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団(独グラモフォン 2530242)

デューク・エイセス・ダイレクトディスク
(東芝プロユースシリーズ LF95015)

孤独のスケッチ/バルバラ
(フィリップス FDX-194)

ザ・ダイアログ
猪俣猛(dr)荒川康男(b)他(オーディオ・ラボ ALJ-1059)

テクニクス SU-V6, ST-S5

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のアンプのジャンルでは、パワーアンプのB級動作の問題点であるスイッチング歪を軽減する目的で、B級動作のメリットである効率の高さをもちながら、本質的にスイッチング歪を発生しないA級動作と同等の低歪とする各種の新回路が開発され各社からその製品化がおこなわれていることが特に目立つ傾向である。
 テクニクスでは、さきにA+級と名付けられた新回路を採用した高級セパレート型アンプ、テクニクスA2を発売し、これにつづいてニュークラスAという、異なった発想による新回路を採用したプリメインアンプSU−V10を開発したが、今回は、最も需要層の多い価格帯に、このニュークラスA回路を採用したSU−V6を登場させ、低スイッチング歪を軽減しようとするテーマは、早くもプリメインアンプの分野にまで及び、今後とも各社から、それぞれの構想による低スイッチング歪軽減対策を施した回路を採用したプリメインアンプが、低価格帯と高価格帯に重点を置いて発売されることが予測できる。なお、ST−S5はSU−V6とペアとなる薄型にデザインされたクォーツシンセサイザーFMステレオチューナーだ。
 SU−V6は、B級動作の高い効率とA級動作に匹敵する低歪という、量と質を両立させたニュークラスA動作のパワーアンプを採用している点が特長である。ここでは、B級動作のスイッチング歪の原因となる出力トランジスターのON・OFF現象をシンクロバイアス回路で防止する方法を採用している。この回路は、パワートランジスターの入力にダイオードを使い、ダイオードの半導体としての特性を利用して信号をカットオフし、別のダイオードからバイアスを与えてパワートランジスターのカットオフを防止するタイプで、一種のダイオードスイッチング方式と考えられる。
 イコライザー段は、初段に超低雑音デュアルFETを差動増幅に使うICL構成で、アンプ動作モードスイッチをストレートDCに切替えるとフォノ入力からスピーカー端子までカップリングコンデンサーのないDCアンプとして使用可能であり、イコライザーのゲインを切替えてダイレクトにMC型カートリッジが使える設計である。
 電源回路は、電磁誘導歪みを防止するテクニクス独自の電源部とパワーアンプの出力段を一体化したコンセントレーテッドパワーブロックで左右チャンネル独立型2電源方式である。
 ST−S5は4連バリコン相当のバリキャップ使用フロントエンドをもち、6局までのプリセットが可能。RF系までを含めたDC増幅、DC・MPX回路などが特長。
 SU−V6は、やや音色は暗いが重量感のある低域とクッキリとシャープに粒立ちコントラスト十分な中高域がバランスした従来のテクニクストーンとは一線を画した新サウンドに特長がある。こだわらずストレートに音を出すのは新しい魅力。

パイオニア A-900, A-700

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアのパワーアンプのスイッチング歪を軽減する方式はノンスイッチング方式と名付けられ、この方式を採用した製品は、米国市場を優先して発売されているが、A級動作に類似した名称をつけていない点は、このあたりの問題に対して特にシビアな米国市場を考慮した結果でもあろう。
 A900は、サーボ回路方式を導入したMCヘッドアンプ、イコライザーアンプ、それにパワーアンプはカップリングコンデンサーがないDCアンプであり、別に独立したトーンアンプの4ブロックで構成する標準型ともいえるブロックダイアグラムをもっている。
 MCヘッドアンプは入力感度0・1mVで、負荷抵抗切替付。インピーダンスが大幅に異なっている各種のMC型に対応可能であり、別系統にMCポジション検出回路を備え、セレクタースイッチがMCの位置にあるときは、電源ON時にヘッドアンプ回路が安定化するまで約15秒かかるため、特別にミューティング時間を15〜25秒遅らせ、クリックノイズの防止をはかっている。
 イコライザーアンプは初段FET差動カスコードブートストラップ負荷とし、カートリッジ実装時の低歪化をはかり、2段目差動と3段目との間でカレントミラー差動回路を構成し、偶数時歪率を打消す設計。
 トーンアンプは、初段をFET差動カスコードブートストラップ負荷とし、初段と2段目でカレントミラー差動回路とするNF型で出力にはカップリングコンデンサー使用のAC構成でパネル面のラインストレートスイッチを切替えるとトーンアンプと出力部のモードスイッチ、バランサーまでを含みバイパスできる特長がある。
 パワーアンプは、基本構想はイコライザーアンプと同様な設計で、ノンスイッチングブロックを備えたDCサーボ型である。
 電源部は、各増幅部毎に専用安定化電源を置き信号の相互干渉を抑えるダイレクトパワーサプライ方式で左右独立型である。
 信号系の切替スイッチは、リモート操作型を多用し、パネル面での操作は周囲が照明された角形プッシュスイッチで、メモリー回路を内蔵し、最終便用状態を記憶し電源プラグを抜いても最低3日間はメモリー状態を保っている。
 A700は、A900同様の4ブロックのアンプ部を備えたシリーズ製品で、MCヘッドアンプがDCサーボ型でなくなり、フロントパネルの操作がフェザータッチスイッチでないことを除き、ほぼA900と同じ特長を備えた新製品である。
 A900は、音の粒子が全帯域を通じて細かく、滑らかであり、かつシャープであることに特長がある。低域は柔らかく豊かで音色が軽く、高域も自然に伸びている。音場感は前後、左右とも十分に拡がり定位もクリアーである。音の反応は速い。
 A700は、間接音が比較的に豊かな音で、滑らかで、細やかな表情が特長。