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オルトフォン論

菅野沖彦

オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)
「信頼と憧憬 オルトフォン論」より

 オルトフォンといえば、カートリッジの代名詞といってよいぐらい人口に膾炙している名ブランドネームである。とくに我が国においては神格化されるほど、この名前はオーラを放つ。しかも、それは、1950年代にまで遡って、多くの人々の絶大な信頼と憧憬の対象となってきたのであった。ご承知のように、LPレコードの45/45のステレオ方式が実用化したのが1957〜58年のことであるが、この方式が世界規格として普及し始めたと同時に、オルトフォンはSPUシリーズのカートリッジを開発し発売したのであった。以来35年を経た今日まで、このSPUシリーズの人気は衰えることなく、92年に発売されたSPUマイスターにいたるまで同シリーズはたえず改善に改善を重ね、驚異的なロングランを続けているのである。オルトフォンのステレオカートリッジとしては、このSPUの他にSLシリーズ、VMSシリーズ(M、MF、F型など)、MCシリーズなど、それぞれ構造の異なるシリーズが存在することもいまさらいうまでもないことだが、SPUシリーズの日本での存在感の大きさは特異といってよいもので、日本のオーディオ文化のひとつの象徴として捉え、考慮するのに値する現象だと思うのである。
 本書の発刊にあたり、その巻頭のオルトフォン論を書くように命じられたわけだが、僕としては、このSPU現象を自身のオーディオ歴を通して振り返りながら、その私的考慮をもって代弁させていただこうと思うのだ。
 SPレコード時代からオーディオマニアでもあった僕の装置は、ステレオ実用化の成った1958年当時は当然モノーラルであって、それは、かなりの大がかりなものであったため、おいそれとステレオ化する気持ちも、また財力も持ち合わせなかった。なにしろ、中学生時代から、高校〜大学を通して、自作システムでレコードを聴くことに最大の楽しみを見出していたオーディオマニアであったから、そのころには一応、自分としては終着に近い満足出来る再生装置になっていたのである。記憶をたどって大ざっばにそのラインナップを記そう。スピーカーシステムは12インチ口径のフリーエッジコーン型ウーファーで、磁気回路はフィールド型だ。ダイナックス(不二音響製)FD12というユニットで、これを自分で図面を書いて近所の家具屋さんに注文して作ってもらったコーナ型の密閉箱に収めたものだ。この低音部にコーラル(福洋音響製)D650、6・5インチユニットを3個をスコーカーとして使ったが、これはウーファーエンクロージュアの上部に平面バッフルを使って、3方向に振って固定した。そしてトゥイーターは東亜特殊電器製のHW7+AL1(ホーン+ディフユーザー)を使い、3ウェイシステムを構成したものだ。アンプは、プリ/パワー/電源と分離した。いまでいうセパレート型で、もちろん、管球式の自作だ。プリが12AX7を2本使ったCR型イコライザーで、当時のLPレコードの録音特性に5種類のカーブで対応させたマニアックなもの。RIAA、AES、CBS、NAB、FFRRという5種の異なったイコライザー特性に対応させたものだ。しかもロールオフとターンオーバーは別々の独立した多接点ロータリースイッチによるもの。パワーアンプの初段は6SJ7、位相反転に6SN7(1/2)もう1/2はパワー管のスクリーングリッドの定電圧用。終段のパワーは5932×2のプッシュプルでオートフォーマーは日本フェランティ製だった。電源部はアンプ用とスピーカーのマグネット励磁用とあって、整流にはアンプ用に5V4、スピーカー用にKX80を使ったと思う。肝心のプレーヤーシステムだが、これが一番思い出せないので困っている。ターンテーブルは、はじめは不二音響製のP6というリムドライブ型を使い、トーンアームがグレースのオイルダンプ(アメリカのグレイの製品のデッドコピーで、カートリッジも同じグレースのF2かF3(アメリカのピッカリングのコピー)だったと思う。しかし、この当時から、この道の先達が、オルトフォンのカートリッジについて技術雑誌にかかれていたのを見たりしてすでにこのブランドは知っていた。しかし、とてもとても身近に感じられるはずもなく、外国製のコピー段階にしかなかったが、国産のグレース製品の高性能で満足していたのだった。
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 こんな装置であったから、ステレオのレコードが登場したからといって、このアンプ系とスピーカー系を2チャネルにすることは夢の夢。ここまでくるにも、〝ひいひい〟言いながら工面したお金であるから、とても無理な話。意地を張って、モノーラルで十分、否、モノーラルのほうが音の密度が高く、リアリティがあって、フワフワしたステレオ感や、左右への拡がりなどの効果に堕するステレオなんか……と頑張っていた。事実、どこでステレオを聴かせてもらっても、自宅のシステムを2倍にして対応したレベルのものがなく、カートリッジやトーンアームも45/45システムに経験が不足するせいか、実体感のないエフェクト走りの音が多かった。スタート時のことだから録音もステレオ効果の演出に気をとられたものが多かったように思う。
 しかし、レコードは新しいものが、どんどんステレオで発売され、それらの演奏を聴きたいとなると、プレーヤーからステレオ化を始め、L+Rのモノーラルで聴くのがよいと思い始めるようになるのである。この辺からが、プレーヤーの記憶が混乱し始めるのであって、スピーカーシステムやアンプ群は明確に記憶しているわりには、プレーヤーシステムのそれがあやふやなのである。
 ところが、いつかは、はっきりしないけれど、オルトフォンのSPU−GTカートリッジを買った記憶は実に鮮明なのである。たぶん、’63〜’64年ぐらいの時期だと思う。トーンアームは

ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 当初のセッティング、部屋の音響的処理、試聴などの全プロセスを加えると、ほぼ24時間ほどS9500を聴いたが、デザイン的な制約のある独自な構成の2ウェイシステムとしては使いやすく、モニター的に前に出るJBLの音に、奥深い音場感のプレゼンスと素直に立つ音像などの新しい魅力を加えた、見事なシステムであることを実感できた。
 プロトタイプで聴いた時の、必要帯域内のエネルギーをビシッと聴かせたナローレンジ型の音が印象に鮮明に残るが、最新モデルでは、やや低域の量感重視型と変り、量感はあるが音の芯が甘く、軟調な低域となり、この部分をいかに制御するかがポイントで、ここが使い難いシステムという印象につながっているようだ。しかし、駆動側のアンプを、今回聴くことができたグレードのモデルとすれば、極限を望まなければ、この試聴条件でも、すべて調整範囲にある。
 スピーカーシステムとしては、公称インピーダンスが3Ωであるため、駆動するアンプは低負荷時のパワーリニアリティが要求され、今回の試聴でもアンプとスピーカー間が有機的に結合した音を望むと、8Ω負荷時のパワーが200Wは必要である。また、TV電波の外乱が少ない平均的な場所での條用では、高域のクォリティは明らかに1ランク高くなり、8Ω負荷時100Wあれば、本誌試聴室の200W級よりは、明らかに優れた結果が得られると思う。
 TV電波の外乱による音の劣化は、単一の症状として表われるものではないが、全般的に、電波障害が少ない環境の良い地区で作られる海外製品は、電波対策が施されていないのが普通のようで、かなり中高域以上が乱れ、高域が遮断されたナロ−レンジ型の音となることがほとんどである。
 国内製品は、電波対策は必須条件として設計されるが、非常に強力な電界下では、当然影響は避けられず、音の透明感、鮮度惑をはじめ、音の表情が抑えられ、マットになるのは止むをえないことであろう。
 高級アンプにとり、ウォームアップによる音質、音色などの変化は、現状では必要悪して悠然と存在する事実で、これを避けて通ることは不可能なことと考えたい。
 このウォームアップ期間の変化を、どのようにし、どのように抑えるかは、まったく無関心のメーカーもあり、今後の問題といわざるをえないが、アンプを選択する使用者側でも、どの状態で今アンプが鳴っているかについて無関心であることは、寒心にたえないことである。
 今回は、各アンプとも、試聴数時間以上前に電源を入れプリヒートを行ない、試聴時間はそれぞれ2時間程度を要している。
 各試聴アンプの設置場所、AC100V系の電源の取り方、などの基本的な部分はステレオサウンド試聴室の標準仕様ともいうべきもので、同誌連載中のトリヴィアのリポートとして掲載したものを参照していただきたい。
 接続用ケーブルは、トーレンスCE100スピーカーケーブル、平衡/不平衡(バランス/アンバランス)ケーブルは、オルトフォンの7Nケーブルであり、すべて試聴室常用のケーブルである。
 CDプレーヤーは、アキュフェーズの新製品DP90とDC91の組合せで、これはすべてのアンプに共通に使用したが、出力系の平衡/不平衡は適宜、そのたびにケーブルを差し替えて使い、平衡/不平衡間の干渉を避けている。
 プログラムソースは、1960年代の録音から最新録音にいたる、各ジャンルを用意した。

JBL 4344(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「4344 ベストアンプセレクション」より

 JBLの4344は、’82年に発売されて以来ずっと、わが国において、スピーカーの第一線の座を守り続けている製品であると同時に、わが国のオーディオを語るうえでも決して忘れてはならないきわめて存在意義の大きな製品である。本機は、4ウェイシステムならではのエネルギー感溢れる音が魅力であり、機器をチェックする際のリファレンススピーカーとして、いまでも数多くのオーディオメーカーやオーディオ関連の雑誌社が使用している事実は、このスピーカーの実力のすべてを物語っているともいえよう。4344はJBLを代表するスタジオモニターであるばかりでなく、スピーカーのなかのスピーカーとして位置づけられるきわめて重要な製品である。
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 JBLの4344は、スタジオモニターシリーズとして、’82年に発売されて以来、JBLを代表する製品であるのはもちろんのこと、日本におけるあらゆるオーディオ製品の基準(リファレンス)として、このスピーカーが果たしてきた役割と実績は、もはやここでは語り尽くせないほど大きい。10年以上のロングランを続けているということは、初期の生産ラインと比べて、いまの生産技術は格段に向上しているため、特性面では確実にクォリティアップしている。実際それは音の面に現われおり、現在の4344は、ざっくりとしたダイナミックな表現力を基盤とする、メリハリの利いた音が特徴であり、モニターライクにディテールを描きわける、使いやすいスピーカーとなっている。
 4344をこれまで何百種類のアンプで鳴らしてきたかは定かではないが、ここでは、3種類のアンプを選択し、その音の表情の違いをリポートしようというものである。

アキュフェーズ C280V+P500L
 まず最初に聴いたのは、アキュフェーズのC280VとP500Lという組合せである。アキュフェーズのアンプは、私自身、国内製品のリファレンスのひとつとして捉えている。リファレンスの定義づけは、まず第一に安定した動作を示すこと、第二にあまりでしゃばらないニュートラルな性格をもっていることである。このふたつの要素を兼ね備えた製品が国内アンプでは、アキュフェーズであると思う。そのなかでもこのペアは、いつ聴いても安定感のある信頼性の高いものだ。このペアと4344の組合せというのは、ステレオサウンドの試聴室のみならず、あらゆる場所でのリファレンスとして私が考える組合せである。

ラックスマン C06α+M06α
 次に4344を鳴らすアンプは、ややゴリッとしてエッジの立ったきつい音をもつこのスピーカーの特徴を少し抑え、音楽を雰囲気良く聴く方向で選択した。アキュフェーズとの組合せの場合は、リファレンスシステムという色合いが濃いために、音楽が生々しく聴こえすぎて疲れるため、あまりゆったりと音楽を楽しむことができない。しかし、これはあくまでもアキュフェーズのアンプを私がリファレンスアンプとして捉えているために、ここではこういう言い方になるのであり、決してアキュフェーズのアンプがオーディオ・オーディオした音楽性に乏しいアンプであるようなイメージを抱かないでほしい。アキュフェーズのアンプは、リファレンスアンプであるという、確固たる存在として認めたうえでの話である。そこで、肩肘はらずに音楽を楽しもうというのがここでのプランである。
 この狙いに相応しいアンプとして、ラックスマンのC06α+M06αを選択した。このペアの音は、穏やかでしなやかな感触のなかに、鮮度感の高いフレッシュな響きを聴かせるラックスマン独特のものである。4344との組合せでは、この特徴がストレートに現われた、いい意味でのフィルター効果を伴った音を聴くことができた。国産アンプならではのディテール描写に優れた面と4344の音の輪郭をがっちりと出す面が見事にバランスした音は、単に音楽をゆったりと聴かせてくれるだけでなく、細かい音楽のニュアンスさえ再現してくれた。

マランツ PM99SE
 最後は、4344をセパレートアンプではなく、よりシンプルな形で鳴らしてみたいというのが狙いである。これは、使いこなしの面を含めた意味で一体型のプリメインアンプがセパレートアンプの場合ほど、気を使わずに音楽を楽しむことができるというメリットを優先したプランだ。
 ここで選択したプリメインアンプは、マランツのPM99SEだが、この選択にはそれなりに理由がある。それは、かつて4344の前作である4343を納得できる範囲で鳴らしてくれたプリメインアンプが同じマランツのモデル1250(130W+130W)であり、このPM99SEはその1250の現代版であると私が認識しているからだ。現代のようにドライヴ能力の高いプリメインアンプが数多く揃っていなかった時代の話である。
 前記のように、現在市場に出回っている4344は、非常に鳴らしやすいスピーカーとして生まれ変っているため、わざわざセパレートアンプを使ってラインケーブルや電源ケーブルを引き回したり、いい加減にセッティングして鳴らすよりは、プリメインアンプ一台でシンプルにドライヴした方が好結果を引き出しやすいはずだ。
 その結果は、当然のことながらセパレートアンプで鳴らしたときと比べれば、聴感上の拡がりや奥行き感は一歩譲るものの、一体型アンプならではのまとまりの良さのなかで、安定感のある再現を示してくれた。この一体型というプリメインアンプの良さは、一体型CDプレーヤーにも共通するものだが、安定感という点に関しては、セパレートアンプでは決して得られない世界なのだ。
 また、もうひとつプリメインアンプのメリットとして挙げられるのは、ウォームアップの速さである。現代の大型パワーアンプの場合は、パワースイッチをONにしてから、アンプ本来の音を引き出すために何時間ものウォームアップが必要であることは、ご承知の通りである。このPM99SEは、最初にA級で鳴らしてどんどん発熱させられるため、他のプリメインアンプよりウォームアップタイムがさらに速い。この点も、このアンプを選択した理由のひとつだ。

 現在の時点で、この4344ほど、さまざまなアンプと組み合され、また、オーディオ機器の各々の個性を引き出してくれるスピーカーもないだ

ゴールドムンド Mimesis 2a + Mimesis 9.2(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 S9500のヨーロッパ系アンプに対する適応性をチェックするとともに、彫りが深く、力強く、輪郭のクッキリとした方向の再現性をも調べるためのアンプ選択である。
 各アンプの設置場所は、本誌試聴室の標準位置、結線関係はすべてアンバランス型ケーブルを使っている。
 信号を加えると、小ぢんまりとしたごく普通の音が聴かれる。数分間も経過すれば、次第に水準を超えたある種のまとまりのある音の姿、形が顔を見せ始めるが、もともとこのアンプは寝起きが悪いタイプなので、徐々にではあるが、あまり右往左往せずに、本来あるべきであろう音の方向にウォームアップしてくるのを待つのは、それなりの忍耐力のいるところだ。
 ほぼ30分間も待てば、音の精度感が高く、安定感があり、充分に磨き込まれた本格派の音を印象づける。ゴールドムンドらしい特徴の音が出はじめる。
 しかしまだ、全体に音のコントラストが弱く、やや光沢を抑えたスッキリとした爽やかな音の範囲を超えず、音場感的にも奥行き方向のパースペクティヴは、やや不足傾向である。
 ゴールドムンドのパワーアンプのように、AC電源側のレギュレーションに依存する電源設計では、供給電源側の状態が直接的に音を左右するため、電源事情は、常に意識していなければならぬ。
 今回の試聴では、各アンプは可能な限り電源スイッチをONとして、信号を加えないでプリヒートさせているためへ、もともとの部屋の電源容量の制約、AC電源自体の歪の増加、さらにTV、FMなどの強力な電波が電源に乗っていること、などが相乗効果的に働き、この種の外乱に弱いアンプでは、直接結果としての音質を左右する。
 この意味では、今回の電源事情はゴールドムンドのペアにとってはかなりのデメリットになっているに違いない。
 ウォームアップはゆるやかに進むが、安定した内容の変化で、ほぼ2時間近くになればやっと安定したかな、というイメージの音となる。
 帯域レスポンスはナチュラルに伸びた、過不足感のないものではあるが、中域はやや薄く、量的にも抑えた印象がある。
 低域はやや軟調で音色が暗く、中域から中高域は磨き込まれてはいるが粗粒子的な粗さがあり、慣れた耳にはホーン型の固有音とわかるキャラクターが聴き取れる。
 2ウェイ方式の特質を明確に聴かせるアンプの力量は見事ではあるが、性格は厳しく、使う側の資質が要求されるようだ。

ジェフ・ロゥランドDG Consummate + Model 9(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 パワーアンプのモデル9は、2ブロック構成のアンプ部と電源部を、同じ床面に左右チャンネル間も、相互干渉のないように十分に離して設置することが、本来の音質を得るための必要条件であるが、通常のこの試聴室のパワーアンプの設置位置では、スピーカーの音がアンプ筐体に反射をし固有音が発生することがあって、仕方なく左右スピーカーの内側に電源部、アンプ部二段重ねとした。しかしこの状態でも左右がやや近接しているため、モデル9の本来の音を聴くためには不十分な置き方ではある。接続はすべて平衡ケーブルを使い、パワーアンプの利得切替えはローである。
 最初の音は、視覚的イメージに反し、小型な50Wクラスのパワーアンプを思わせる、スッキリと爽やかで、可愛らしい音であり、音場感的拡がりも、標準より狭く小さくまとまる傾向である。ウォームアップでの変化は、3分間ほどで中低域の豊かさが加わった反面、線の細いクリアーさが薄れ、中域をも少し抑えた穏やかな音に移行する。5分間ほど経過すると高域が目覚めはじめるが、表情は抑え気味で温和な聴きやすい音である。さらに高域の見通しのよさが加わると、中高域から高域に独特のしなやかで濃やかでナイーブな印象となり、非常に魅力的、かつ、耽美的ですらある。
 さらに約3分間ほど経過すると、全体行きにわたり、いかにも目覚めたような音に移行し、徐々に穏やかに同じ方向にウォームアップは進む。トータル約20分間でほどよく音のエッジが張ったクリアーさが加わり、このあたりが最低限度のウォームアップタイムとなるが、音場感的に聴けば左右の拡がり、奥行き方向のパースペクティヴでも不満な面が残っている。
 音のディテールをさりげなく聴かすだけの、海外製品としては優れた聴感上のSN比の高さが、このシステムの大きな魅力である。帯域バランスはフラットで、ワイドレンジ感は意識させないが、ほどよく密度感を保ちながら、低域、高域とも必要にして充分なレスポンスを聴かせる。音色はやや沈んだ傾向を示すが、これは、CDプレイヤーのアキュフェーズDP90/DC91との組合せによるものかもしれない。
 1時間半ほどたてば、次第に力強さ、反応の速さが顔を出し、オーソドックスでナチュラルな本来の魅力が聴かれ、低域と高域のユニットの形式の違いによる質感の差も感じさせず、よく鳴りよく響く正統派の音は実に魅力的である。やや色彩感を抑える傾向はあるが見事な音だ。パワーアンプの利得をハイにするとスッキリと広帯域型となるが薄味だ。

マッキントッシュ C40 + MC1000(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せはプリアンプがランク的にはパワーアンプに見合わないが、最初はプリアンプにC34Vを使い、C34VがニューモデルC40にチェンジするとのことで、再度、C40で聴いたため、両者の比較をも交えてのリポートすることにしたい。
 穏やかで、十分に熟成された大人の風格をもつC34Vと比べ、C40は、明らかに新しい世代に変ったと思わせる、ストレートで鋭角的、情報量が一段と増えた音を聴かせる。ウォームアップにしたがい、生硬い表情のドライな音から、まず低域の量感に始まり、中高域の明瞭度、中域の充実というように階段的に、かつ交互に内容が濃くなり、積極的に音楽を聴かせる新しい魅力を発揮しはじめる。しかし、基本的には伝統を正しく受け継いだ、同社の文法に則ったというほかはない音である。
 パワーアンプMC1000は、まさに王者の貫禄を示し、プリアンプからの音を余裕タップリに受け止めているようで、ウォームアップ中の自らの変化は、時折垣間見せるにすぎないようである。
 基本的には、アンプを御するS9500も、MC1000ともなれば逆にスピーカーが掌に乗る印象になり、2ウェイシステムの極限に近い情報量を送り込まれるが、決して限界を超えてドライブしないあたりは、さすがにマッキントッシュのパワーアンプらしい、優しさともいうべき美点であろう。予想以上にアンプとスピーカーシステムが調和を保ちながら、それぞれの個性を穏やかに色濃く聴かせるのは、好みを超えた素晴らしさというほかにない。
 柔らかく豊かで、しなやかに歌いあげる音は、マッキントッシュのS9500の独自の世界ではある。周波数特性的な聴き方では、高域と低域の両エンドをわずかに抑えた安定型のバランスで、かなりフラットなレスポンスを示し、音のコントラストは全般に抑えたタイプだ。この音は、C40のイコライザーを活用し、音に抑揚をつけ、調和を保ちながら好みの音色に溶け合せるための素材に最適であろう。さらに、C40は連続可変型ラウドネスコントロールも備え、音の躍動感、鮮度感を満たすためには、エキスパンダー機能が決定的なアシストをするだろう。これらを抑え気味に使えば、快適に表情豊かな音楽が楽しめるが、モニターライクな音像定位、位相関係をチェックするには、不向きというリスクは残る。しかし、それらの問題を超えた音の魅力は絶大で、各種プログラムソースを新旧の区別なく見事に聴かせるこの音は、オーディオ的な面と音楽的な面が両立した見事な世界だ。

カウンターポイント SA-5000 + Natural Progression Monaural Power Amplifier(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せは、ふところの深い、格調が高く、雰囲気のよい、サロン風の音を求めての選択である。
 プリアンプのSA5000は、ハイブリッドタイプならではの、ソリッドステートと管球方式の魅力を併せもたせる、という至難な技を実現した稀有の存在ともいうべき見事なモデルである。
 ペアとしたパワーアンプNPAは、ナチュラル・プログレッション・モノーラル・パワーアンプの頭文字をモデルナンバーとした新製品で、入力段に真空管、出力段にバイポーラトランジスターとMOS−FETの両方の特徴を備えるという、IGBTを採用したモノーラルパワーアンプだ。
 結線は、不平衡である。
 標準的なプリアンプ出力(ダイレクト出力)からの結線では外乱によるノイズ発生があり、バッファーアンプ出力からパワーアンプに送るが、許容限度のノイズは残っており、高域のディフィニッションが低下した音になるだろう。
 最初の音は柔らかく、モヤッとした音だ。
 ウォームアップは、NPAではかなりな時間はさして大きな変化を示さず、その後比較的短い時間で、音質、喜色の変化がステップ的に変る傾向があるようである。
 初期段階の20〜30分間あたりのウォームアップで聴けば、柔らかさの内側にかなり硬質なコントラストの強い部分があり、そのどちらを重視するかで、音の印象度は大きく変る。
 しかし、2時間ほど鳴らし込めば、雰囲気がよく上品で耽美的ともいわれるカウンターポイントの音に、反応の速さ、鮮食感、ソリッドな表現、といった新しい魅力が加わった音が聴かれるようになる。
 かなりの音を整理し、音楽の聴かせどころを巧みに摘んで聴かせるような、スケールはやや小さいが、ほどよく音楽に反応をし、サラッと雰囲気よく空間の拡がりを感じさせる鳴り方は、これならではの魅力がある、ひとつの世界だ。
 予想よりも、細部のディテールの描き方や表情のみずみずしさが音として出しきれていないが、起強力なTV電波が7波もある立地条件下での高周波妨害にょるマスキングと、CDプレーヤー系の長時間使用での、ある種の音のニジミ、ベール感が相乗効果的に働いているようで、ここでの結果は、かなりハンディキャップを背負ったものではあるが、それなりにカウンターポイントらしさのある音でS9500を鳴らしたあたりは、カウンターポイントのポリシーの根強さを知る、ひとつの尺度のように
思われる。

JBL S5500(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より

 旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
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 JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
 本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
 こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。

マッキントッシュ C40+MC7300
 まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
 可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
 S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
 その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。

カウンターポイント SA5000+SA220
 S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
 結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。

ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
 次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
 結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
 モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。

 S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している

ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この企画のタイトルは「ハイエンドアンプでプロジェクトK2/S9500を堪能する」となっているが、オーディオシステムはスピーカーがその頂点に立つものであって、この意味からは、「S9500はハイエンドアンプの音をどのように聴かせたか」となるはずである。
 ここで少しばかりこだわった理由は、試聴に使ったステレオサウンド試聴室は、リファレンススピーカーシステムに、JBL4344を使っており、ほぼ10年の歳月を通して部屋とスピーカーがなじみ、経時変化に合せて、それなりの音響処理を施しながら部屋のチューニングをしきているからである。つまり、今回のように、S9500をリアァレンススピーカーシステムとする場合には、現在のチューニングに関係なく、最初から部屋をS9500の専用チューニングとしなければ、超弩級アンプの音を聴くことにはならないであろう。
 今回の試聴は、辛か不幸か、編集部で前もって4344用に位置決めしてあった位置に、S9500のベースのフロント面と4344のフロントバッフル面が等しくなる位置にセッティングされていた。
 ご存じのように、基本的に4ブロック構成になっているS9500は、一度セッティングをしてしまうと、位置の移動はもとより、聴取位置に対する角度の付け方といった、スピーカーシステムに必須のコントロールが非常に困難であり、これが使いこなしの上で大きな制約になっでいくるのである。結局、今回の試聴はスピーカーのセッティング位置は変更しないこととした。また、組み合されていた最初のアンプがマッキントッシュのペアとなっていたために、この個性的なアンプを通しての使いこなしは、想像を超えて大変なことになった次第である。
 ちなみに、アンプに信号を通してからのウォームアップによる音の変化を確かめながら聴きとった、おおよそのこの試聴室におけるS9500の音の印象は、必要帯域内のエネルギーを十分に聴かせる2ウェイシステムらしいものであった。そしてその特徴をベースに、柔らかく豊かで、JBLモニター系とは対照的な低音と、ホーン特有のメガフォン的な固有吾が少なく、やや粗粒子型で、ゆるやかに穏やかにロールオフする高域がバランスした、おっとりとした大人っぽい、細部にこだわらぬ音だ。同社のモニター系の音の明るさとは逆に、やや抑制の効いた穏やかな喜色が特徴である。したがって音の反応も穏やかで、ふところの深い、ゆったりとしたキャラクターが、このシステムの本質であろう。
 ただし、この状態では、スピーカーが各アンプの個性をすべて受け止め、S9500の音として聴かせることになり、一段とスピーカーシステムの反応を速め、的確にアンプの音を聴かせるようにする必要がある。
 そこで、再生の基盤に戻り、部屋の音響コントロールで、目的であるアンプ試聴用というべき音にすることとした。
 S9500は、仮想同軸型といわれる、上下の低域ユニットが高域ユニットを挟みこむ方式を採用している。システムはモジュールで構成されており、下から、コンクリート台座、下部低域用エンクロージュア、ホーンブロック、上部低域用エンクロージュアと積み重ねる。各モジュールの接触部は、軽金属製の先端が尖った円錐形コーンの頂部を下側の軽金属製カップで受ける構造である。上下低域用エンクロージュアは、同じ内容積ではあるが、下側はホーンブロックと上側低域用エンクロージュアの重量で抑えられていることに比べ、上側低域エンクロージュアは、単にホーンブロックの上に乗っているだけで、非常にフリーな状態にあり、位置的にもかなり高い位置に置かれることとが特徴である。
 S9500の場合、上側低域ユニットの直接音、反射音を基準に、部屋の壁、コーナー、天井部分の反射と固有音の発生を総合的に、いかにコントロールするかが使いこなしのキーポイントとなる。このことは上側低域エンクロージュアを取り外し、シングルウーファーシステム(S7500)として使えば、使いこなしの要素が少なくなり、かなり簡単になることからも証明できる。
 部屋のコントロール用の材料は、試聴室常用の2個の中型QRDと、円形と半円形のチューブトラップの各種組合せである。基本的には柔らかく、ソフト側に偏る音質傾向はあるものの、かなり明解な準モニターサウンドから、ホームユースに相応しい、かなり陰影の色濃い音にいたる音質・音色の変化を示し、2時間あまりの時間でS9500は使いやすく親しみのもてる2ウェイシステムとしての性格を見せ、造型的に見事なデザインと、ホームユースに相応しいマイルドな音をもった素晴らしいシステムであることが実感できた。

私とJBL

菅野沖彦

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「私とJBL」より

 僕のオーディオライフにとってJBLはきわめて大きな存在だ。どう大きいのかとなると一口にはいえない……。まず、僕の人生の一大転換期と、僕がJBLを使い始めた時期が一致しているということは忘れ難い。
 それは1967年に遡る。もう26年も前で、今も使っている375ドライバーと537−500ホーン、そして075トゥイーターを手に入れたのがその年であった。この年まで僕は録音制作の仕事をサラリーマンとしてやっていた。独立を考え始めたのは’66年頃からだったが、その考えがいよいよ固まってきたのは,’67年後半。そして実際に会社を辞めて独立したのが翌’68年であったと思う。録音制作の仕事で独立するとなると、プロとして最低限の録音機械が必要だった。身一つでフリーになって、仕事は貸スタジオでやるか、必要な機械はレンタルで……というような考えは今の話で、当時はそんな世の中ではなかった。特に僕の場合、スタジオ録音をサラリーマンとしてやり続けてきた揚句、自分が本当にやりたい仕事は、対象となる音楽にふさわしい自然な音響環境を得ることからスタートするものだったから、録音機械は持ち込むのが原則。しかも、僕は子供の頃からのオーディオマニアであったから、機器への愛着が強く、自分の触角としての使い馴れた機械でこそ、自分の納得のいく仕事が出来るという考えを強く持っていた。そんなわけで、その都度レンタルで機器を調達する方法や、貸スタジオでの録音だけに依存して独立することは考えられなかったのである。当時、プロのカメラマンとして独立するのに必要最低限の機械購入にはどのぐらいの金額が必要かは、仕事のつき合いのある親しいカメラマン達から約100万円と聞いていた。ところが、録音となるとフリーの仕事としては全く前例がなかったので、自分で判断する以外になかった。絶対必要なテープレコーダーだけでも150万円はしたし、マイクロフォンも10万〜15万円はした。正確な記憶はないが、当時の僕としては相当な額の借金をしたのである。また録音機械もさることながら、自分の再生装置も趣味と仕事の両方にかなうものにしておくことが必要と考えていた。つまり、録音制作の仕事に加えて20歳代の頃からやっていたオーディオやレコードに関する評論も本格的に始めるつもりであったから、自分の音の基準として納得が出来る再生装置を整えることも仕事上の責任と考えていたのである。
 こんなわけで当時の僕の再生装置であったワーフェデールの3ウェイマルチアンプシステムをJBLのホーンドライバーによるものに変更し、客観的にも、より説得力のあるものにしようと思ったわけだ。ずっと、僕の自作システムは、コーン型のスピーカーユニットでマルチウェイを構成してきたのだが、その間、いつも一度は外国製のコンプレッションドライバーとホーンを使ってみたいものだと憧れ続けていたのである。
 ところで、こうしてJBLを自分で使い始める時期より前に、僕は375+537−500と075の組合せが聴かせる音に圧倒的ショックを受けた経験がある。それは、後に山水電気の社長になられた伊藤瞭介氏が、新宿ショールームの所長時代のことで、伊藤氏が当時ぞっこんほれ込んでJBLの代理権を取った直後のことである。ドラムスのスネアーの響き、タムの鳴り、ジルジャンのシンバルの倍音、ピアノのリアルなタッチ、そしてヴァイオリンの艶っぼく、ぬれたような擦過音の魅力に大ショックを受けた。その音は今でも思い出せるほどだ。それまで、その癖のために、ホーン嫌いで通してきた僕だったが、この体験で僕は目が覚めた。JBLは明らかに僕の耳を開き、オーディオの可能性についての認識を改める大きな役割を演じてくれたのだった。それ以前にもハーツフィールドやパラゴンなどの、あまりにも美しく立派なJBLの姿は知っていたけれど、その立派さ故に、若い僕には無縁の存在だと決め込んでいた。それに自作時代でもあったから、メーカー製のシステムには、ユニットに対するほど興味と関心がなかったのかもしれない。しかし、よく考えてみると、あの美しいデザインのエンクロージュアにはやはり畏敬の憧れは持っていたようだ。20歳の僕にとって、あの家具のような立派な装飾品は自分の所有物の範疇にはなく、社長さんや重役さん、あるいは大臣のような偉い人のものだという感覚があったのかもしれない。今のオーディオにはどうしてそんな風格のものがないのだろう? 今は、子供でも好きならJBLの3文字のついた商品を買える。コントロールマイクロでもJBLはJBL。ペアで3万6千円で買えるというのは羨ましいような、可哀相なような……。
 僕にはJBLの3文字は尊い尊いものである。異国文化の豊かな香りが馥郁と漂い、手の届かぬ神秘のようなテクノロジーへの憧れの象徴である。

マークレビンソン No.26SL + No.20.6L(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 現在のハイエンドマーケットで、良くも悪くもリファレンスアンプとして常用されている、マークレビンソンの組合せである。
 No.26Lは、ステレオサウンドのリファレンスアンプの一部で、設置位置は十分に吟味して決めてあるため、テフロン基板タイプとなったNo.26SLもまったく同じ条件に置くことにした。一般に、電源部が独立したプリアンプでは、電源部はどこにどのような状態で置いても音は変らないと思われているようであるが、電源部の感度は相当に高く、置き場所の条件で、音質、音色ともにコロコロと変るものであることを是非とも覚えておく必要がある。パワーアンプは標準位置、結線は平衡型である。
 アウトフォーカスの写真が、徐々にクリアーなピントとなるようなウォームアップをするタイプで、アンプのウォームアップの典型的なパターンといえよう。帯域バランス的な変化は少ないため、ほぼ10分間も経過すれば、一応この組合せとおぼしき音にはなるが、音場感情報量は抑えられ、音の内容も新聞の写真のように粗粒子型のラフさが残っている。低域は軟調気味で、質感が甘く、高域も伸びきっていないため、ゆったりおおらかな魅力はあるが、やや締まらない制御不足の音ともいえるだろう。時間経過に伴い、内容が次第に充実し、音場感情報が豊かになると音の表情にも余裕が感じられるようになり、高級アンプならではの独自の世界が展開されるようになる。
 S9500は、いわゆるアブソリュートフェイズも、一般的スピーカーと同様に正相に変っているため、よく知られているJBLのモニター系(こちらは逆相である)の音質音色に比べ、かなり柔らかくしなやかで、マイルドな方向の音に変っているが、独特のプロポーションをもつエンクロージュアの特徴から、奥行き方向のパースペクティヴの再現能力や音像が浮かび上がって定位する魅力は、従来にない新しい魅力だ。
 No.26SLは、従来のLタイプから、滑らかに、艶やかに、の方向に音色が変り、独特の陰影が音につくようになった。このため、ここでの音はかなり柔らかく豊かで、色彩感を少し抑えた淡彩な音で鳴り、低域は量感はあるが軟調で甘く、全体に見事にコントロールされた、非常に巧みな、味わい深い、とてもオイシイ音として聴かせるパフォーマンスは、マークレビンソンならではの魅力であり、安心感、信頼感である。この程度、時間も経過すれば、スピーカーも部屋に馴じみ、当初のマットな表情から目覚めだしたようで、このアンプ用にセッティングを修正すれば、かなりの幅で自分の音とすることは容易であろう。

私とJBL

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「私とJBL」より

 JBL、ジェームズ・B・ランシングの名称を知ったのは1940年代の後半であったと思う。おそらく『無線と実験』誌であったかと記憶しているが、海外オーディオ製品の紹介記事を、現在の河村電気研究所の社長、河村信之氏がアームストロング信之という名前で執筆していた。ここでD130の紹介を目にしたのが最初だった。D130は15インチ全域型ユニットで、マキシマムエフィシェンシーシリーズの名称をもち、確か、0・008MWの入力が再生できることを特徴として謳っていた。
 もともと、私のオーディオ趣味は父親譲りの門前の小僧的なものであった。2A3は245のプレートを並列にしたタイプより、シングルプレートで脚部が白い、今で言えばセラミック的な材料のタイプが本当は音が良いとか、スピーカーは英国のローラーが、亜酸化銅整流器がついていて柔らかく豊かな音、これに対して米国ジェンセンは明るく歯切れが良い音、米国ウェスタンの陣傘スピーカーは箱がなくても立派な晋がする……などのことを、子供の頃から父を手伝いながら覚えた。
 当時スピーカーユニットは、フィールドコイルを使い電磁石を磁気回路に使う方式から、パーマネントマグネット方式への転換期にあり、AC電源なしに使えるようになったのは便利ではあったが、如何とも迫力がなく、実体感のない音に変りつつあった。国内製品のダイナックスHDSシリーズのユニットに慣れかかった耳には、フィリップスの特殊磁石を使った全域型や、化物のように巨大な永久磁石を組み合せた英フェランティのM1などの超高能率フルレンジユニット登場のニュースは、正に夢のごときもので、良いユニットほど高能率で音のディテールを聴かせると確信していた私は、まさにドリーム・カム・トゥルーの想いがしたのである。
 オーディオに限らずレコードも、親のストックを勝手に使えた高校生までは良かったが、大学に入り一人で生活するようになると、音楽のプログラムソースは、海外放送を聴くための短波受信機と、当時の巷の音楽が聴ける名曲喫茶がよりどころとなるだけだった。革新的技術といわれたLPが登場しても、ディスクが非常に高価格なうえに、それを演奏する装置として、サファイア針付のバリアブルレラクタンス型カートリッジとオイルダンプのトーンアーム、それに最低限の性能をもつターンテーブルを組み合せると、少なくとも2ヵ月分の生活費に相当したのである。もちろんJBL・D130など、単なる幻のフルレンジユニットに過ぎないものであった。
 その後、ジェンセンA12全域型、ユニバーシティQJYフルレンジユニットが海外製品として使った最後で、しばらくはYL製ホーンを、幻の加藤ホーンシステムに如何にして近づけ、自分の部屋で鳴らすかが最大の目的であった。
 ステレオ時代に入り、マランツ#7、サイテーションIV、これにジョーダンワッツA12を組み合せて、サブシステムとして使ったのが海外製品との再会であった。これが、ステレオサウンド3号の頃の話である。
 奇しくもJBLのC34を聴いたのは、飛行館スタジオに近い当時のコロムビア・大蔵スタジオのモニタールームである。作曲家の古賀先生を拝見したのも記憶に新しいが、そのときの録音は、もっとも嫌いな歌謡曲、それも島倉千代子であった。しかしマイクを通しJBLから聴かれた音は、得も言われぬ見事なもので、嫌いな歌手の声が天の声にも増して素晴らしかったことに驚嘆したのである。
 しかし、自らのJBLへの道は夜空の星よりもはるかに遠く、かなりの歳月を経て、175DLH、130A、N1200、国産C36で音を出したのが、私にとって最初のJBLであった。しかし、かつてのあの感激は再現せず、音そのものが一期一会であることを思い知らされたものである。
 そうして、JBLは素晴らしいが私にとって緑なき存在と割り切っていた頃、本格派のスタジオモニターJBL4320が登場する。C34を超えた、現代モニターらしいフレッシュでエネルギッシュな音を聴かされ、再び新しい魅力に感激したのである。その後JBL4341、4320が入手でき、一時は4チャンネル再生に使用したこともある。
 4320はJBLファンの知人に寄贈、4341をはじめ、ユニットの175DLH、130ALE30、LE10A、LE8T、2405、LE85などが、見果てぬ夢のシステム用として保存してある。実はその他にも理想の4ウェイシステム用ミッドバスユニットとするため、D131、D208などが複数個残してある。ただし、これらはいま現在、現実のシステムになっているわけではなく、何時の日に実現するかも全然予定にないだけに、JBLサウンドに対する私の憧れは、夢のまた夢で果てることがないようだ。

エレクトロコンパニエット ECI-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 ヨーロッパ系のプリメインアンプは古くからルボックスの製品が輸入されており、すでに高い評価を得ているが、最近では、コンパクトでそれなりに楽しく音楽が聴けるミュージカルフィデリティやオーラデザインなどの製品が注目を集めている。今回ご紹介するエレクトロコンパニエットのECI1は、このところ話題となっているプリメインアンプのもう一つの潮流である、アインシュタインを代表とするハイエンド指向の範疇に属する製品である。
 同社は74年にノルウェーのオスロで設立されたアンプメーカーである。初期の製品は、マッティ・オタラとジャン・ロストロが設計した25Wのパワーアンプで、一時注目を集めた動的歪をテーマとしたマッティ・オタラ理論のベースとなったアンプであったということだ。
 ECI1は同社のコンシュマー用アンプとして最初のソリッドステート式アンプで、高スルーレイト、優れたオープンループ特性や高い瞬間最大電流供給能力などをテーマとした設計である。定格入力は0・5Vで、ラインアンプとパワーアンプの2ブロック構成のシンプルな構成が採用され、各ブロックは無帰還型ではなくNF回路を最適条件に設定し、動的歪を低減するマッティ・オタラ理論に基づいた考え方が受け継がれている模様で、一種の懐かしさが感じられる設計思想である。
 電源部は600VA/chトロイダルトランスと整流用の2000μF電解コンデンサーは4・7μFポリカーボネイトフィルムと0・1μFポリプロピレン・フィルムコンデンサーを並列接続とした構成で、これは国内製品では、かつてサンスイのプリメインアンプの電源部に採用された実績があり、サウンドコントロールに効果的なテクニックである。
 パネルデザインは簡潔そのもので、厚みが十分にあるアクリルを使ったクリーンな質感は、現代アンプらしいよい雰囲気をもっている。
 信号を加えてからのウォームアップタイムは短く、100W+100Wのパワーをもちながら、50W+50W級のシャープで反応の速いクリアーな音を聴かせる辺りはかなりオーディオ的な醍醐味を味わえる。
 音色はナチュラルな帯域バランスでキャラクターも少なく、素直でわずかに薄化粧をしたような音の磨かれ方は独自の魅力である。
 音場感は見通しがよく、やや奥に広がる傾向で音像もリアルに定位する。試聴室で聴いた印象は全体的に心地良いものだったが、スピーカーがJBL4344では荷が重いようだった。これは組み合せるスピーカーを考慮すれば難なくクリアーできるものであり、アインシュタイン、パイオニアの高級プリメインと共に今後注目されることだろう。

ソニック・フロンティア SFL-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 カナダのオンタリオに本拠を置くソニックフロンティアは、管球式アンプを専門に製作しているブランドである。当初はキットのみを提供するメーカーであったようだが、その後完成品としてステレオパワーアンプSFS50、同80を発売。そして、今回ライン入力専用のプリアンプSFL1を発表した。
 なお、同社の製品はこれ以外にも今年のサマーCESで発表される予定の管球式モノーラルパワーアンプやフォノイコライザーアンプなどがある。
 やや色調を抑えたシルバーとゴールドの2トーンカラーのフロントパネルは、ボリュウム、バランス、セレクターの3個のツマミとレバースイッチをシンメトリカルに配置したシンプルなデザインにまとめられている。機能は4系統のライン入力とCD用のダイレクト入力および1系統のテープ入出力といった必要最少限に抑えられた設計で、その他にはミューティングスイッチがある程度だ。
 プリアンプとしての利得は20dBで、アナログ時代のラインアンプの標準的な値であるが、現在のプリアンプとしてはややハイゲイン型である。
 回路構成上の詳細は不明だが、アンプ構成はFETと6DJ8双3極管1本を使ったハイブリッド型で、当初のサンプルモデルでは12AT7が使われていたが、正式モデルには音質面から6DJ8が選ばれ標準仕様となっている。
 回路は当然のことながら基板上に組み込まれ、グラスエポキシ系の板厚3mmのやや厚い材料が使われているが、シンプルな構成のアンプであるだけに部品の選択が直接音質に関係をもつ。抵抗、コンデンサー、スイッチや配線材料はVishay、Cardasなどの銘柄を選択使用している。また、ボリュウムとバランスにはAPS製レーザートリムの可変抵抗を採用している。
 まずノーマルインプットからCD信号を入力してウォームアップを待つ。穏やかでウォームトーン系のやや音色が暗い音というのが最初の印象である。組合せたパワーアンプはアキュフェーズのA100である。試聴の際は、アンプの筐体が十分に熱くなるまでウォームアップはしてあるが、信号を入力してからの音の変化はかなりゆるや
かなタイプであり、15〜20分間ほどで次第にベール感が薄らぎ、音場感的な見通しも良くなり、柔らかい雰囲気のある音が聴かれるようになる。
 積極的に音を聴かせるタイプではないが、固有のキャラクターは少なく、ほどよい鮮度感を備えたしっとりとした音は、長時間にわたり音楽を聴くファンに好適なモデルといえる。惜しむらくは同社のパワーアンプSFS80との組合せが確認できなかったことである。

アインシュタイン Integrated Amp.

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 今年の秋に本邦にデビューしたドイツ製のプリメインアンプである。新しいメーカーの新しい製品を一流品として紹介するのは勇気のいることである。一流品は一流メーカーが作るものでなければならないが、一流メーカーとは一朝一夕に出来上るものとは限らない。もちろん、企業の規模とは無関係とはいうものの、あまりにも経営基盤が弱かったり、不安定であったりすれば、どんなに高邁な姿勢であってもユーザーに不信を与えることは畢竟だからである。また、いかに大資本であっても、その姿勢が営利の追求だけのようなメーカーは、ここで一流メーカーとして扱いたくないし、そういうメーカーの製品を一流品とするわけにはいかない。
 この会社は’87年の創業だから、まだ4年足らずの新しいメーカーだ。ロルフ・ハイファー(技術担当副社長)の開発になる同社の製品は、このアンプの他にチューナー、スピーカーシステムがあり、さらにスーパーD/Aコンバーターを開発進行中である。もう一人の副社長フォルカー・ボールマイヤーはハイファイ事業に経験の豊かな人らしく、この他にもいくつかの製品の開発製造にかかわっているという。社長のゲルハルト・ロルフ・ファン・ベルズワード・ウォールラブが財務担当の資本家らしい。また、管球式アンプやEMTとの提携によるカートリッジ製作など、強いハイファイ志向を持った企業であることがわかる。さらに、アインシュタイン社にはRIFFというレーベルのレコード制作部門もあるらしい。この25mm厚のアルミ削り出しフロントパネルにステンレスケースの美しいアンプを一目見れば、この社のオーディオへのセンスと情熱が理解できるはずだ。8Ω60Wのパワーは1Ω負何400Wまで保証される実力をもったもので、MC/MMのフォノイコライザーも備える完全なインテグラルアンプである。電源まわりを見ても本格派の設計であり、その音の純度の高さが納得できるものだ。

マッキントッシュ MC7150

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプが1946年出願の特許による基本回路の伝統の延長線上にあることはMC2600の項で述べた通りである。このMC7150は最新の製品であるが、伝統のオートフォーマーを搭載している。150W+150Wというパワーが2Ω、4Ω、8Ωで確実に得られるのはOPTのためだし、アンプ保護やスピーカーへの保証の役目も果すのがこのトランスのメリットである。しかし、さらに重要なことは、このトランスによる音質の有機感といおうか、暖かく血の通ったサウンドの質感にトランスが寄与しているという点である。トランスのもつバンドパスフィルターとしての性格は、良きにつけ悪しきにつけ音質に影響をもつものだが、マッキントッシュ・アンプの音の肌ざわりの自然感は、このOPTと無縁ではないと思われる。加えて、マッキントッシュのパワーアンプには〝パワーガード・サーキット〟という、許容出力以上になると動作する一種のリミッターがついていて、決してクリッピングを聴かせることがないことも大きな特徴だろう。ソリッドステートアンプのハードディストーションがわずかなピークでアンプの音の印象に与える悪影響に着目した、前社長のゴードン・ガウ氏時代に開発されたこの回路によって保証される安定した再生音は、特にこのMC7150のような小パワー?(それでも同社のパワーアンプとしては最小である)のアンプの場合に特に有効である。グラスパネルにブルーメーターとレッド、グリーンのイルミネーションは、この製品をさらに魅力的なものにしている。フルグラスパネルの不売僧こそマッキントッシュのアイデンティティとして高く評価され、多くのユーザーの憧憬となっているものだ。39万円で本物のマッキントッシュのパワーアンプが買えるというのがこの製品の最大の魅力だが、この明朗で透明なサウンドはスピーカーの能率さえ高ければ上級機無用のものである。

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のアンプの特質については、そのフラグシップモデルMC2600の項で述べた通りであり、総合的に同社のアンプは世界一の優れた製品だと思う。最近ますますこの信念を確認させてくれるのであるが、それは同社が一貫して伝統的な主張を曲げずに新しいテクノロジーでリファインしたニューモデルを出してくるからだと思う。新製品のための新製品を矢つぎ早に出したり、ただ昔のものを作り続ける姿勢ではなく、必然性をもった新製品を出すからである。この製品はMC7270という従来の代表モデルの後継機として6年ぶりに発売されるもので、すでに発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する製品だ。これでパワーアンプの新シリーズ3機種がそろったわけで、次は多分プリアンプの新シリーズが出てくるだろう。フルグラスパネルとなったMC7300は、外見上はパネル面がさらにマッキントッシュ・イメージを強く表現しているが、本体はカバーで被われたためトランスやコンデンサーが直接目に触れなくなった。この点、やや平凡な箱型アンプ化した感じでもあるが、中味は従来よりさらに充実し、ソリッド化している。新設計の出力トランスは大型化したため、今までのものとは逆向きにシャーシ底部にギリギリ下げて搭載され、トランス上にドライバー基板がおかれるという変更を受けている。全体のサイズを拡大しないで300W強/チャンネルに実力アップし、歪みを一桁以上低減した結果だ。カバーをとるとぎっしりつまった内容に驚かされる。無駄な空間は皆無。まるでソリッドな鉄の塊のようで、外から見た印象で持ち上げようとしても上がらないほど重い。しかし、その音はふっくらと豊かで、透明で、漂うような空間感を聴かせる。従来の同社のアンプの重厚さは実音のマスに十分現われているが、この明るく楽しい軽やかな空間感は新鮮だ。 価格は他の他の輸入品と比べるとこの倍でも十分通用する。

ボルダー 500AE

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 ボルダーは昨年から日本にも導入されたアメリカ製のアンプである。コロラド州ボルダーにあるメーカーで、ブランドは地名からとったらしい。製造者ジェフ・ネルソンはスタジオ・エンジニアとしてのキャリアの後、故郷のボルダー・コロラドで、この仕事を始めたと聞いている。いかにも、そうしたスタジオのプロとしての経験が生きているアンプ作りで、外観にもデザイン(回路設計)にも、そして音にもプロサウンドのイメージが濃厚である。メーカーとしては新しいので、背景やブランドを一流品として扱うのは早いと思うが、この製品に接してみて、一級品であることは間違いないところ。あとは、この製品がどう一般に評価されるか、そして、その結果このメーカーの存在がどう定着していくかによって、名実ともに一流品として認められることになる。それには、メーカーとしての技術レベル、フィロソフィ、そして企業としての堅実性などが問われるわけだ。一流品は出来ても、一流ブランドは一朝一夕にして出来上るものではない。しかも、オーディオのような趣味製品は一流企業ならよいものが出来るというものではをいから、一にも二にもユーザーの評価にかかっているといえるだろう。プリアンプとパワーアンプでスタートしたボルダーの成長を期待したい。このパワーアンプ5500AEは、500シリーズの基本モデルとでもいうべきものなのだが、発売順ではこれにボリユウムや各種インジケーターの付いた製品が先に出て、シンプルな500AEは後で発売された。プロ機らしいモジュール構成的思想はボルダーの特徴だが、非常に合理的で高性能なアンプだと思う。音もプロ機らしい安定感を第一の特徴とし、豊かな力感と厚みのある質感は、一聴して高いクォリティを感じさせる。陰影の濃密な立体的な音像の出方はリアリティが豊かで、ウェイトが感じられる。低域がしっかりしていてグラマラスなバランス感だが重すぎない。

マッキントッシュ MC2600

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプのオリジナリティとアイデンティティ……それは1946年にF・H・マッキントッシュとG・J・ガウの両名によって発表され特許出願されたマッキントッシュ回路にそのルーツがある。この回蹄の特許は1949年に下りて、マッキントッシュ社の創立、第1号機発売ということになるのであるが、この回路のポイントはSEPP回路での画期的な歪みの低減にあった。B級プッシュプルの高効率とNFBによる低歪率とを高い次元で両立させたこのマッキントッシュ回路には、バイファイラー巻きによるユニティカップルドのOPTが力を発揮した。1次線と2次線が同時に巻かれたこのトランスがあってこそ実用になった回路なのである。当時日本のアマチュアが、この回路を技術誌で見て製作に挑戦したものだが、トランスの入手が不可能なため失敗に終ったという話は有名だ。マッキントッシュとOPTはこのように誕生時より切っても切れない関係だし、もちろん同社の製品に使われるOPTはすべて自社製である。
 ソリッドステートパワーアンプに移行したのは1968年のMC2105からだが、OPTレスにメリットがありと信じられていたソリッドステートパワーアンプが、OPT付きで登場したことに世間はあっと驚かされたのである。当然議論百出したが、今ではOPT付きのメリットが完全に認められてしまった。一時はマッキントッシュの技術は古いからトランス付きなのだというデマも飛んだが、マッキントッシュは平然と安価な製品からOPTをはずしてしまっている。つまり高級アンプがOPT付きなのだ。MC2600は、マッキントッシュのフラッグシップモデルの最新ヴァージョンだが、OPTが新設計され、さらに低歪率化とワイドレンジ化が実現した。600W×2のハイパワーアンプとしては信じられないほど繊細で美しくもあり、当然重厚で力に満ちてもいる。しかもすごく安くお買得だ。

レステック Vector, Exponent

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 わが国には新しく紹介されるドイツの製品である。ドイツにはこのところきわめてエンスージァスティックなハイエンド・オーディオメーカーの台頭が目立っている。20年ぐらい前までは、プロ機器はともかく、一般用の再生オーディオ機器の分野にはテレフンケンやグルンディッヒのような大きなメーカーの一体型の製品が多く、いわゆるコンポーネントは目につかなかった。この理由として、ドイツ帰りの通と呼ばれる人たちは、どんな小都市にもオペラやコンサートホールがあるドイツではレコードやオーディオは趣味として成り立たないのだと説明してくれたものである。しかし、それは全くの誤りであって、当時ドイツはただ単にオーディオの後進国であっただけである。その証拠に、いまやドイツのハイファイは年々隆盛で、ドイツ製のコンポーネントの種類はメーカーの数とともに年ごとに増大している。わが国への輸入も徐々に増え、スピーカーシステム、アンプリファイアーともにドイツらしい造りのしっかりした高級品が見られる。このレステックというブランドも耳新しいが、製品を見ればその強固な主張と明確なコンセプトが理解できる一級品であって、トータルシステムが構成できる全カテゴリーの製品が用意されている。その一貫したフィロソフィを音として確認するためにはトータルで使用すべきかもしれないが、アンプを独立したコンポーネントとして使ってみても、このメーカーのクォリティへのこだわりと音への主張が理解できるであろう。ヴェクトルもエクスポーネントも一貫してソリッドで磨きぬかれた輝きの質感と、力感に溢れる音のウェイトをもっている。厚く丸く、きりっと締った魅力的な高密度な音である。 その外観の絢爛さはドイツ製品らしさであり、一時代前のメルセデス・ベンツの雰囲気だ。不思議なことだが、他のドイツ製高級アンプと共通のこの重厚なポリュウム感とソリッド感は、ドイツの音の特徴ともいえる個性である。

マッキントッシュ C34V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 1949年の創立になるマッキントッシュ社は、今やスピーカーもCDプレーヤーも製品群にもつ総合メーカーだが、もともとアンプの専門メーカーとしてスタートした。アンプの一流品としては現在最古のブランドといってよいだろう。初代社長フランク・マッキントッシュ氏の氏名がそのままこの社のブランドになっている。2代目の社長ゴードン・ガウ氏は創立時から実際にマッキントッシュアンプを設計した技術者であった。1950年代にはマッキントッシュとガウの連名で回路特許が見られるが、今や2人ともこの世を去ってしまった。しかし、マッキントッシュの製品は頑固なまでにオリジナリティとアイデンティティを守る体質によって、一貫してマッキントッシュらしさに満ちているし、このアンプの存在がオーディオの世界をここ30年余りにわたって豊かに彩り、重厚な深みを与えてきた功績は大きい。まさに一流メーカー、一流ブランドの見本のような足跡がマッキントッシュの歩んできた道である。昨年からこの社のオーナーシップが日本のクラリオン株式会社となり注目されたが、旧来のマッキントッシュ社の伝統と実績の延長上でさらなる発展飛躍に向けて意欲的な再出発を始めることとなった。パワーアンプMC2600、MC7300、MC7150の3機種はこうした新しいマッキントッシュから発売された最新機であるが、すべてマッキントッシュらしさをいささかも失うことなく、新しいテクノロジーでリファインされている。プリアンプも計画中と聞くが、現在のところこのC34Vが最高級機の位置にある。発売以来5年経つが、これだけ豊富な機能をもつ使いよいコントロールセンターとしての機能と、音質のよさを併せもっている製品は他に類がない。まさにマッキントッシュならではのプロの腕の冴えが感じられる製品で、美しいグラスイルミネーションには持つ喜びと使う喜びが満たされる。豊潤で明るく、かつ重厚な音だ。

BOSE 901VC

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 アメリカのボーズ社については、もう今さら説明の必要もないほど有名なブランドになった。MITの教授であるアマー・ボーズ博士が創立したこのメーカーの理念といってよいのが、この901である。1966年に8分の1球体というユニークな呼吸球フルレンジユニット22個を使った2201がその原形として作られたが、翌年、これを商品性を高めてリデザインしたシステムが901である。つまり、901はすでに四半世紀の歴史をもつているが、その現行モデルが901VCである。
 901というナンバーが示すように、システムは11・5cm口径の全帯域ユニットを9個内蔵し、その中でリスナーに向かって直接音を放射するユニットは1個だけ。残り8個はすべて後面に取り付けられている。アコースティックマトリックス型と呼ばれるエンクロージュアもユニークで、9個のユニットの内圧を実に巧みに処理してアコースティカルコントロールをしている。アクティヴイコライザーが付属しているが、スタンドや吊金具は別売である。ボーズ博士の直接音と間接音の比率が、自然な音の録音再生の重要なファクターとなるという理論を実践したのがこのシステムであるから、ボーズある限りこのシステムは存在し続けるであろう。小口径ユニットの高リニアリティの技術はボーズ社の得意とするところだが、それはこの901シリーズのために必要な技術であった。今や小型システムを一つのカテゴリーとして確固たるものにしたばかりではなく、そのハイリニアリティ性とパワーハンドリングの大きさでPAやSR用としても大きなシェアをもつボーズ社のシンボル的銘器といえるのだから、この901VCの存在感は大きい。一流品たる所以である。大き目の部屋で、このシステムと壁との距離をカット&トライで調整し成功した時の901の音の素晴らしさを知る人は意外に少ない。それだけ、取組み甲斐のある趣味的スピーカーでもある。

アクースティックラボ Bolero Grande

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 スイスのアクースティックラボから発売されているスピーカーシステム〝ボレロ〟シリーズのトップモデルである。この会社は1984年の創立だからまだ7年目という若い企業である。しかも社長のゲルハルト・シュナイダーは現在25歳というから、驚くべきことに18歳でこの仕事を始めたことになる。実際の製品は1986年から世に出たということだが、それにしても彼が20歳のときである。ベルン州レングナウ村の時計メーカーで働き、生来の音楽好きの性格から収入のほとんどをオーディオに注ぎ込んでいたらしい。時計製造の職人としての修行で精密な手仕事を身につけ、趣味のオーディオ機器の製造業で一本立ちしたというわけだ。彼の処女作〝アルゴン〟という小型システムは日本へは輸入されなかったが、スイスでは高い評価を得て順調なスタートを切った。昨年わが国に輸入された〝ボレロ〟はやはり小型システムであるが、その輝くように緻密でソリッドな音の質感に私は魅せられた記憶がある。ピアノフィニッシュの美しいエンクロージュアに納まった2ウェイシステムで、本誌の90年度コンボーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞にノミネートしたが、惜しくも入賞はしなかったものだ。その後、さらに小さい〝ボレロ・ピッコロ〟が輸入されたが、この〝ボレロ・グランデ〟は3ウェイのトールボーイ型の上級機種である。とはいっても、ウーファー口径が125mmだから決して大型システムではない。エンクロージュアはピアノフィニッシュのブラックとブルー、それにウォールナットとオークの4種あり、高剛性の緻密な造りだ。3ウェイとはいえ125mm口径の全帯域的な使い方によるスコーカーが中心であるため、自然な帯域バランスの美しいまとまりを持つ。〝ボレロ〟と共通のジュウェリーでクラルテな響きを持ちながら、無機的な冷たさを感じさせない魅力と高品位なクォリティは、このサイズのシステムとして間違いなく一級品である。

インフィニティ Renaissance 90

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 インフィニティのスピーカーシステムはEMIT、EMIMというトゥイーター、スコーカーを特徴としていて、あの美しい音のニュアンスは、豊かな低域に支えられた、これらの繊細な中・高域によるものである。プレイナー型と呼ばれる平面振動板による放射波は、そのトランジェントのよいメンブレン振動板のもつ軽妙さとともに魅力的な世界をつくっている。しかし、従来このEMIT、EMIMには高入力に対するダイナミックレンジに問題があった。つまり、大入力へのリニアリティの限界が意外に余裕が少なかったため、このユニットを多数使用したIRS−Vはともかく、それ以外のシステムでの中高域のダイナミックレンジに不満がなきにしもあらずであった。〝シズリング〟現象という癖が私には気になっていたのである。それを超えると明らかにクリッピングを起したものだ。
 これが、〝ルネッサンス〟シリーズから改良をうけ、大きく完成度を高めたのだからうれしい限りである。EMIT、EMIMの振動板並びにそのサスペンションが一新されたのである。この新ユニットは今後、すべての機種に使われることになるというから、インフィニティ・スピーカーシステムは一段と価値が上がる。あの繊細な中〜高域の透明感はやや薄らいだものの、新ユニットは十分なリニアリティをもちながら、インフィニティらしさは失ってはいない。天秤にかければ、これは明らかな改良である。こうして〝カッパー〟シリーズの後継機であるこのルネッサンス・シリーズは魅力を増すことになった。低域も従来の方式とは異なり、いわゆるワトキンス方式と呼ばれるデュアルボイスコイルによる新ユニットを採用し、エンクロージュア構造やデザインも一新されていて注目の新製品だ。姿態も美しく節度のあるトールボーイのファニチュア調に仕上げられていて、広い層に受け入れられるシステムであろう。

ソナス・ファベール Electa Amator

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 イタリアはヴィツェンツァの小さなメーカーで生産されるこのスピーカーは、まずその美しいエンクロージュアの造形と仕上げの魅力に惹かれるだろう。立体的でセクシーな造形は、いかにもイタリア的だ。ユニットのフレームがエンクロージュアの幅一杯に出ているが、これがこの造形の肉感的な魅力のポイントであると同時に、音響的にディフラクションを嫌った必然的形態であることに納得させられる。バッフル効果を避けた設計思想である。そして、そのウーファーのフレームが、トゥイーターのフロントパネルの下側へ深く食い込んでいるところも見逃せない。設計者はウーファーとトゥイーターをできる限り近づけたかったのに違いない。執念の現われである。かくしてこの製品は、見る人に強くアピールするオーラを獲得することになった。創る人の情熱が入魂の製品となったのである。そしてまた、その専用の木石台の味わいはどうだろう。画のキャンバスを置くイーゼルを彷彿とさせる木工の雰囲気がなんとも味がある。これだけ見た目に美しいたたずまいをもったスピーカーが悪い音を出すわけがない……と思いたくなるのだが、はたしてこのスピーカーの音がセクシーなのである。硬さや冷たさからはほど遠く、暖かく、時として熱く、流れるように歌い、小柄な体躯からは想像できない肉づきの豊かさで反応し歌い上げるのである。その外観のように豊かな凹凸と起伏の弾力感を感じるリズムの躍動がある。いつか、このスピーカーシステムを手に入れたいと思わせるに十分なセックスアピールをもっている。エスプレッシーボでアマービレなのである。2ウェイ2ユニット構成でウーファー口径は18cm、トゥイーターは2・8cm口径のドーム型だ。アッセンブルメーカーとして他社のユニット供給を受けても、これだけ自家薬籠中のものとして使いこなせば見事なものである。車好きな往年のアバルトを想起するかも……。