菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
アメリカのボーズ社については、もう今さら説明の必要もないほど有名なブランドになった。MITの教授であるアマー・ボーズ博士が創立したこのメーカーの理念といってよいのが、この901である。1966年に8分の1球体というユニークな呼吸球フルレンジユニット22個を使った2201がその原形として作られたが、翌年、これを商品性を高めてリデザインしたシステムが901である。つまり、901はすでに四半世紀の歴史をもつているが、その現行モデルが901VCである。
901というナンバーが示すように、システムは11・5cm口径の全帯域ユニットを9個内蔵し、その中でリスナーに向かって直接音を放射するユニットは1個だけ。残り8個はすべて後面に取り付けられている。アコースティックマトリックス型と呼ばれるエンクロージュアもユニークで、9個のユニットの内圧を実に巧みに処理してアコースティカルコントロールをしている。アクティヴイコライザーが付属しているが、スタンドや吊金具は別売である。ボーズ博士の直接音と間接音の比率が、自然な音の録音再生の重要なファクターとなるという理論を実践したのがこのシステムであるから、ボーズある限りこのシステムは存在し続けるであろう。小口径ユニットの高リニアリティの技術はボーズ社の得意とするところだが、それはこの901シリーズのために必要な技術であった。今や小型システムを一つのカテゴリーとして確固たるものにしたばかりではなく、そのハイリニアリティ性とパワーハンドリングの大きさでPAやSR用としても大きなシェアをもつボーズ社のシンボル的銘器といえるのだから、この901VCの存在感は大きい。一流品たる所以である。大き目の部屋で、このシステムと壁との距離をカット&トライで調整し成功した時の901の音の素晴らしさを知る人は意外に少ない。それだけ、取組み甲斐のある趣味的スピーカーでもある。
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