Category Archives: コントロールアンプ - Page 5

マランツ Sc1000, Sm1000

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 マランツの製品は、創業期から現在にいたるまで、比較的に、コントロールアンプとパワーアンプのバランスがよいモデルを送り出していることに特徴があるようだ。
 いまも聴きたい音という意味からは、かつての管球アンプ時代の♯7コントロールアンプと♯2モノパワーアンプ×2の組合せは、私個人にとってはマランツの最高傑作と信じている黄金のペア、いや、トリオである。
 コントロールアンプは、ステレオタイプとなり♯7で完成の域に達したが、パワーアンプは、♯5、ステレオタイプ♯8B、♯9と発展をする毎に、製品としての合理性、商品性、安定度などは確実に向上をしているが、パワーアンプとしての魅力は、次第に後退し、♯2の印象は♯5ですでに消失しているように感じられる。
 ソリッドステート化第一作の、♯7Tコントロールアンプ、♯15パワーアンプは、第一作という意味での不安感が少なく、完成度も充分にあり、現在でも少し古いディスクを再生するときにはなかなか楽しめる音を聴かせるペアである。
 ♯15に続く、♯16以後、しばらくの期間は、パワーアンプは、♯250、♯510と続くが、コントロールアンプが不作の時代である。
 基本設計を米国で、実際の開発と生産を国内で行なおうとする、いわば新世代のマランツの製品は、不巧の名作といわれたプリメインアンプ♯1250が代表作になるわけだが、トップランクのセパレート型アンプを目指して、より良き伝統を受継ぎながら最新のテクノロジーとデバイスをマランツらしく生かして久し振りに開発された第1弾作品が、400W+400Wのパワーを備えたステレオパワーアンプSm1000である。
 パワー段は、メタルキャンケース入りのパワートランジスター3個パラレルに対して1個のドライバーを組み合せたものを1組とし、これを、3個組み合せて、3段ダーリントン方式の出力段としている。つまり、3×3=9が+側と一側にあるわけだから、片チャンネル18個のパワートラジスターを使っていることになる。
 ハイパワーアンプの放熱対策は、重要な機構設計上のポイントになるが、Sm1000では、空冷用ファンを組込んだ、風洞型の放熱器を♯510から受継いで採用している。この方式により、400W+400Wの定格出力を持ちながら、外形寸法面でのパネルの高さを抑え、比較的に薄型にすることを可能としている。
 風洞内部には、両チャンネル用の36個のパワートラジスターと12個のドライバーが組込まれているが、風洞内で均等に各トランジスターを冷却するために、風下にいくに従って冷却効果を高めるために長さが次第に長くなっているサブ冷却フィンが整然と並んでいる様は、視覚的にも美しく、一見に値する眺めではあるが、容易に外側から見られないのが大変に残念な点である。
 電源部は、伝統ともいうべき強力タイプで、左右独立した800VAの容量をもつカットコア採用の電源トランスと20000μF、125Vのオーディオ用コンデンサーを+側と一側に2個採用したタイプで、一部を積上げ電源として使うスタック型パワーサプライ方式である。
 入力系は、レベルコントロール付で、アンバランス型のRCAピンジャックと、1と2番端子がコールド、3番端子ホットのキャノンプラグ付、出力系は、ダイレクト端子と切替可能なSUB1とSUB2の3系統をもつ。
 Sm1000は、基本的には、無理に帯域を広帯域型としないナチュラルなバランスと、クッキリと粒立ちがよく、音の輪郭をクリアーに描き出す、ダイナミックで力強い♯510系の延長線上に位置する音をもっている。いかにも、マランツらしいイメージをもつ、ストレートさが最大の魅力と思う。後継モデルのSm700の、しなやかで明るく、音場感を広く再現する性質とは対照的で、安定感のある力強い長兄と、伸びやかで、現代なフィーリングをもつ次男といったコントラストが面白い。
 コントロールアンプSc1000は、Sm1000に続くパワーアンプSm700と、ほぼ同時に開発されたマランツのトップランクコントロールアンプである。
 基本構成は、シンプル・イズ・ベストであり、ディスク再生における最高の音楽表現を目指し、入力から出力までのスイッチなどの接点数を極少とし、裸特性を極限まで追求した増幅回路、負荷電流の変動にいかなる影響も受けない超低インピーダンス化した理想的電源部などがポイントだ。
 フォノイコライザーは、A級動作、全段プッシュプル構成DCアンプを2段使ったNF・CR型、機械的に連動と非連動に変わるバランスコントロールを省いたボリュウムコントロールと、それ以後は、2系統に分かれ、それぞれ専門の出力端子をもつフラットアンプとトーンコントロールアンプをパラに設置したユニークなブロックダイアグラムを特徴としている。なお、電源部は筐体の半分を占める、各ユニットアンプ間チャンネル間の干渉を排除した8独立電源で、事実上のインピーダンスを0としたシャントレギュレ一夕一方式を採用している。また、TUNER、AUX用とTAPE入力用にバッファーアンプを備えているのも特徴である。
 基本的には、アナログディスク再生に焦点を合せたコントロールアンプではあるが1981年当時の設計としては、フラットアンプの性能が追求されており、ハイレベル入力系に対してカラレーションのない音を聴かせるのが本機の特徴である。特徴の少ない音だけに、最初の印象は薄いかもしれないが、使込んで次第に内容の高さが判かってくる。これこそ、いま、聴きたい音である。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 C2301というサンスイのコントロールアンプはぼくが目下、大いに興味をもっている製品である。まだ新しい製品なので、ぼくも、それほど長くじっくりと使ったわけではないし、恐らく、これからファンが増えてくるアンプだろう。ぼくにとっては、国産、海外製を問わず、多くのコントロールアンプと接触する中で、これは、本気になってつき合ってもいいなという気を起こさせるアンプなのだ。
 ぼくの部屋にはアンプ棚がある。ここには六段の棚があって、一段に2台ずつのアンプが置けるから、計12台の収納が可能である。そのうち、コントロールアンプのためのスペースとしては、使用上の高さなどからして最上段や最下段は不適当だから、中三段ぐらいということになる。しかし、他にも、CDプレーヤーやチューナーも置かなくてはならないから、4〜5台というところがコントロールアンプのためのスペースだ。ここにある時期、継綻的に収まるものは、結果的にいって、ぼくの好きな製品ということになる。もちろん、好きなものでも、古いものは他の場所に片づけたり、あるいは、一時的に他のものと入れ替えたりすることがあるし、ほとんどが使わないのに、JBLのSG520とマランツの7Tは飾り物と化して居坐ったままというのが現実である。このJBLとマランツは、コントロールアンプのデザインの、偉大で対照的なクラシックだと自分では思っているので、想い出も含めて、どうも片づけてしまう気がしないのである。それはともかく、この棚には、こんなわけで、長年、収まりかえっているものや一日か数時間で取り出されてしまうものがあって、
ぼく自身も、結果的に、自分との関わり合いの濃淡を感じさせられることになるのである。ここにひと月以上入っているというのは、明らかにぼくの気を惹いた製品、三ヵ月になると、愛の芽生えたもの、半年を超えると相思相愛、一年以上同じ場所に居続けた製品は、伴侶である。なんとなく、こんな因果が、この10年くらいの間に出来上がってしまったようなのだ。コントロールアンプのアウトプットをつなぐパワーアンプ群は、ほとんど、この棚の裏部屋に収まっているので前からは見えないが、ここにも、これと似通った状況が見られるのである。
 サンスイのC2301は、まだ、合計で数時間しか、この棚に収まったことがない。しかし、その数時間で、それっきりになってしまわないなにかが、このコントロールアンプにあることを、ぼくはずうっと意識させられていたのである。本誌70号の新製品紹介記事を書くために聴いたC2301の音の魅力が頭から去らないのであろう。あの時、ぼくは、その音を耽美的な情感に満ちていると書いた。また、音楽に人間の生命の息吹きや、感情的高揚を求め彷徨している快楽主義者であるぼく……などと気恥ずかしい告白もやってのけた。天上の音楽を奏でるに相応しい無垢の音とは感じなかったけれど、それだけ暖か味のある魅力を、このアンプから感じ取ったことはたしかである。そして、〝ぼくにとってはこれでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから…〟と書いたのを覚えている。C2301は、明らかにぼくの情感を刺戟した。リビドーを感じさせた。アンプによっで、こうしたレスポンスを心の中に呼び起こすものと、そうではないものとがあることは一つの不思議である。その不思議ゆえにオーディオは面白く、また、その不思議と、科学的な技術問題の関連をさぐること、識ることが、オーディオの尽きない興味である。
 ルドルフ・フィルクスニーの慈愛と高潔の精神に満ちた音が、月並みな甘美さにしか聴こえなかったり、ひどい時には脆弱で鈍い音にしか聴こえなかったりする経験をぼくは知っている。この名ピアニストの、しかも、ぼく自身が録音したレコードによってさえ、ぼく自身にあれこれ聴こえるオーディオの音は、時として面白さを越えて恐ろしくすらある。C2301は、フィルクスニーを甘美に、そして、セクシーに響かせる。そこに、ぼくはこのアンプの魅力と不安を感じているのである。この稿を書く気になったのも、その魅力と不安からであった。そして、今、再び、C2301はぼくの部屋の棚に収まっている。一日ゆっくり、いろいろなレコードを聴いてみた。そして、ぼくは、一段と大きな魅力を、このコントロールアンプに感じ始めているのである。基本的には、ぼくの第一印象は間違っていなかった。しかし、聴けば聴くほど、そのヒューマンな暖か味と、情感の魅力の再現に惹かれていく自分を発見した。

Do me wrong Do me right Tell me lies But hold me tight Save your goodbyes For the morning’s light But don’t let me lonely tonight

 ローズマリー・クルーニーの歌う一節である。この人生経験豊なべテラン歌手の歌唱は見事という他はない。まさに熟女の官能とペイソスである。都会的である。
〝今夜だけは私を一人ぼっちにしないで……。しっかり抱いて……。さよならは夜が明けるまで云わないでほしいの……。〟
 理性と感情が、官能の虜の中でゆれ動く、この円熟した女の心と身体を深く美しく歌いあげる彼女、ローズマリー・クルーニーの表現は、このC2301の音の魅力と同質である。これ一曲を聴くためだけでも、このアンプの存在価値は高いといってもよいほどだ。
 このアンプが、これから、どんな音を聴かせてくれるかは大きな期待である。B2301とのバランス接続で聴いてもみたい。まったく異質なアンプとの組合せの妙も試してみたい。私のアンプ棚で、どんな存在になるのかは、私自身にも、今はわからない……。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サンスイのアンプは、AUシリーズのプリメインアンプ群の充実したラインが確固たる基盤を築き、すでに8年にわたって基本モデルを磨き上げ、多くの技術的特色を盛り込みながらリファインにリファインを重ねるという、地道な歩みを続けている。初期のものと、8年後の現在のものとでは、中味は別物のアンプといってよいほど充実していながら、型番やデザインを変更せずに、また、音のポリシーも一貫したサンスイの感覚で練り上げるという地に足のついた姿勢は誰もが認めるところであろう。まさにオーディオ専門メーカーらしい自信と頑固さといってよく、また、それゆえに、今回の信頼と成果が得られたといってよい。当然、より上級のセパレートアンプの開発は技術者の念頭に常にあったにちがいないが、安易に商品として出さない周倒さも、このメーカーらしい用心深さというか、今か今かと待っていたこっちのほうが、じりじりさせられたほどである。
 82年暮に、パワーアンプB2301が発表され、続いて翌83年初頭に、その弟分ともいえるB2201が満を持して発売された事は記憶に新しい。このパワーアンプは、さすがに実力のある内容で、その分厚く、どっしりとした音の質感は、豊かな量感を伴って、音楽の表現の暖かさと激しさを、そして、微妙な陰影に託した心のひだを、よく浮彫りにしてくれる優れたアンプである。内容の充実の割には、見た目の魅力と、品位に欠けるのが憎しまれるが、部屋での存在として必ずしも表に現われることのないパワーアンプの性格上、容認できるレベルではあった。しかし、その時点においても、このパワーと対になるコントロールアンプは遂に姿を見せることはなかったのである。
 C2301としてベールをぬいだのが、その待望のコントロールアンプであって、去年のオーディオフェアの同社のブースに参考出品として展示されていたのを記憶の方もあるかもしれない。本号の〆切に、その第一号機が間に合って、試聴する機会を得たのは幸いであった。
 C2301。パワーアンプのB2301と共通の型番を持つこのモデルは、どこからみてもサンスイの製品であることが一目瞭然のアイデンティティをもっているのが印象的で、パワーアンプで苦情をいったアピアランスは、コントロールアンプでは一次元上っている。どうしても、目立つ存在であり、直接操作をするコントロールアンプとして、しかも、かなりのハイグレイドな製品ならば、使い手の心情を裏切らないだけの雰囲気を持っているべきだ。
 細かい内容は余裕があれば書くことにして、まずこのコントロールアンプの音の印象を記すことにしよう。サンスイのアンプの音の特徴はここにも見事に生きている。それは音の感触が肉厚であること。弾力性のある暖かい質感だ。脂肪が適度にのっていて艶がある。それでいて決して鈍重ではない。低音はよく弾み、ずーんと下まで屈託なくのびている。中域から高域は、決してドライにならず、倍音領域はさわやかだが、かさつかない。ブラスの輝やきは豪華だが薄っぺらではないし、芯がしっかりと通る。弦の刺戟的な音は、やや抑えられ過ぎと思えるほど滑らかになる傾向をもつ。どちらかというと解脱には程遠い耽美的な情感に満ちている傾向のアンプである。音楽は宇宙だから、そこにはすべての世界を包含するが、このアンプで天上の音楽を奏でることは無理だろう。正直なところ、筆者のように俗物として、音楽に人の魅力や生命の息吹きを求め彷徨している快楽主義者にとっては、これでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから。しかし、あまりに強くこういうことをいいたくなるというのは、長く聴いているとやや食傷気味になるような個性なのかもしれない……などと思ってみたりしている。なにしろ、きわめて限られた時間の試聴だから、完全に自信のある印象記は書けない。
 オーディオ的な表現をつけ加えるならばプレゼンスはたいへんよいし、定位感も立派なものだ。奥行きの再現、音場の空気感も豊かだし、見通しのよい透明度もまずまず。肉感的な音の質感だから、音像のエッジはそれほどシャープな印象ではない。シャープさを望むなら、他に適当なアンプもあるから、このほうが存在理由があると感じられる。紙数がなくなったが、このアンプも、最近のサンスイ・アンプの技術的特徴であるバランス回路方式をとっていて、出力はアンバランスとバランスの両方が得られる。
 コントロールアンプとしての機能はよく練られ、随所に細かい気配りとノウハウのみられる力作である。

デンオン PRA-2000Z, POA-3000Z

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのセパレート型アンプの新世代を意味する製品として、PRA2000とPOA3000が登場してすでに5年の歳月が経過している。今回、その安定した評価を一段と高めるために、最新のアンプ技術が投入され、新しく型番末尾にかつてのプリメインアンプPMA700Zで使われた、栄光のZの文字がついたPRA2000ZとPOA3000Zとして新登場することになった。
 デザイン的には、当然のことながら従来の製品イメージを受継いではいるが、操作性を向上するために細部の改良点は数多くある。たとえば、PRA2000Zでは、セレクタースイッチのパネル面の凹みへの移動、パネル下側の扉部分の開閉にロック機構が追加されたことなどだ。
 PRA2000Zは、パワーアンプに先行して発売されたモデルである。前作が発売以来5年というロングラン製品であり、その間に、PCMプロセッサー、CDプレーヤーなどのデジタルプログラムソースが登場したこともあって、アンプとしての内容は完全に一新され、現時点での最新のコントロールアンプに相応しいものがある。
 基本構成は、アナログ系のフォイコライザーにCR型を採用するデンオン独自のタイプであることは前作と同様だが、今回はフォノ入力系が3系統独立したタイプに発展し、スーパーアナログ対応型としている点に特徴がある。イコライザーの構成は、入力部に約1対7の昇圧比をもつステップアンプトランスを備えたヘッドアンプ①、MC型力−トリッジをダイレクトに使用できるヘッドアンプ②とMM型に代表される高出力型力−トリッジ用のヘッドアンプ③の後に切替えスイッチがあり、これに続いてCR型RIAAイコライザー・ネットワークとフラットアンプが置かれる。
 イコライザー出力と、チューナー、DAD、AUXの3系統のハイレベル入力は、電子スイッチと高精度リレーによるソフトタッチ作動方式により切り替えられ、この部分にはプリセット機能をもち留守録音などに対応可能である。
 ファンクション切替え、テープモニター、サブソニックフィルター、バランス調整、ボリュウム調整に続き、フラットアンプ兼リアルタイムトーンコントロール部と出力のバッファーアンプが信号系の通路となる。
 フラットアンプは、最高級機PRA6000で開発された無帰還技術を発展させたハイスルーレイトなダイレクトディストーションサーボ回路による無帰還型で、トーン使用時には、ディストーションサーボ回路内組込みの素子を使うリアルタイムトーンコントロールとして動作する。なお、出力部のバッファーアンプも無帰還型ハイスピードの低出力インピーダンス型だ。
 また、電源部は、従来の2倍の容量をもつ90VA級の大型トロイダルトランス採用。AC電源コードは、デンオン伝統のPMA500以来採用されている大容量型の新開発コードで、これらの部分はコントロールアンプの死命を決定する要点である。
 POA3000ZはPRA2000Zより根本的に設計変更が行なわれていることは、定格出力が250W+250W(8Ω)とハイパワー化されていることからも明瞭である。従来のPOA3000は、純Aクラスベースの高能率型アンプを特徴としていたが、今回は、その後のデンオンアンプに採用された、一般的なBクラスベースのノンスイッチング型に変わったとともに、独自の無帰還技術が全面的に新採用され、飛躍的に高度な性能を引出している。
 無帰還方式でNF技術を使わず歪みを除去するために、静的歪み除去のためのデュアルスーパー無帰還回路、信号のフィードバック、時間遅れ、スピーカーの逆起電力の影響などを排除するパワー段の新開発無帰還回路などが駆使されている。
 電源部は、左右独立トータル5電源型で、電源トランスは大型トロイダルクイブ採用。大型のピークレベルメーターは、0dBが200W(8Ω)表示で、内部に異状温度上昇と左右チャンネルの動作状態をチェックする自己診断ディスプレイを備える。なお、機能面には、CDプレーヤーをダイレクトに接続できるDAD IN端子を備える。
 PRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて試聴をする。
 従来のペアが、柔らかく、滑らかで、美しい音を聴かせながらも、内側にかなり芯の強いキャラクターをもち、これが程よい音の芯を形成したり、ある場合には、音の傾向から予想するよりも、はるかに強く輝かしい個性を示したりする傾向をもち、柔らかく、穏やかだが、芯の強さのあるアンプという印象であった。それと比較すると、固有のキャラクターが大幅に弱められて、プログラムソースの内容に素直に対応し、柔らかくもシャープにも音を聴かせるナチュラルさが感じられる点と、音場感的なプレゼンスやディフィニッション、音像定位のナチュラルさなどが加わったことは大変に好ましい新製品らしい成果である。
 アナログディスクをプログラムソースとする場合、とくにMC型カートリッジには、PRA2000Zの独特の3系統のフォノ入力が、積極的に使いこなせるようだ。
 昇圧トランスをもつフォノ㈰は、トランスの昇圧比が低いため、あまり、カートリッジ側のインピーダンスの差に影響されず、トランス独特の程よく帯域コントロールされた密度の濃い、いわばアナログならではの豊かな音を聴かせてくれる。いわゆる低インピーダンス型MCや、軽針圧タイプの空芯高インピーダンス型MCで、広帯域型であるために、力強さや、音の厚みに欠ける場合などはこのフォノ①が好適であり、一般的な嗜好からはこのサウンドのほうが熱い支持をうけるにちがいない。
 ダイレクトにMC型が使用できるフォノ②は、①とは対照的に、広帯域でディフィニッションの優れた、現代型の軽量級空芯MC型の特徴を引出すに相応しい音である。CDを使うことが多くなると、このポジションで使う音が、アナログディスクでも標準となるであろうし、最新のアナログディスクの質的な内容を聴くためには、このクォリティがぜひとも必要になるであろう。フォノ③は、MC型なら外附けの昇圧トランスやヘッドアンプ用に使いたい。
 CDなどのハイレベル入力で音質が優れているのは、PRA2000Zの魅力だ。一般的に、ハイレベル入力からプリアンプ出力までのアンプで音の変化が大きいのが常だが、この部分の質的向上を望みたい。

パイオニア Exclusive C5

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 現時点での世界のトップランクのコントロールアンプを目指して開発されたモデルだけに、C5は長期間にわたり培われたパイオニア独自のアンプ回路設計技術の集大成をベースに、ユニークで簡潔なコンストラクション、コンデンサー、抵抗、スイッチ類などの数多くの部品を非常に高い次元で吟味し選択して採用している。
 このように文字として書けば、ほとんどの新製品アンプのコマーシャルコピーと何の変りもない表現になるが、実際のEXCLUSIVE C5の内部を見てみると、平均的なオーディオアンプの要求度とは隔絶した、非常に高い次元での要求に基づいて開発された製品であることが、現在のアンプ設計技術の水準を適確に捉えている目をもってさえいれば、瞬時に認識できるだけの内容を備えている。
 まず外観から眺めてみると、基本的なデザインポリシーは、EXCLUSIVEの顔ともいえるパネル面の下側に、サブパネルを設けたパネルフェイスに、天然木キャビネットという流れを受け継いではいるが、手づくりのフロントパネルは、C5では一枚構成のシンプルなタイプに整理され、C3、C3aではサブパネルとなっていた下側のパネルは、実際には開閉できず、単なるデザイン上の処理となっている。
 特徴的なパネル左端の長方形の部分は、大型のパワースイッチで、本機独特のマルチトランス・パワーサプライ方式、ACアウトレットのON・OFF用として、音質上でも重要な部品であり、ここでは特殊なタイプが採用されている。
 内容的なアンプとしてのブロックダイアグラムは、入力部に3Ω/40Ω切替型のMCカートリッジ用昇圧トランスを持つフォノイコライザー部、TUNER、AUXなどのハイレベル入力用と、テープ入力用に独立したバッファーアンプ、フラットアンプ部、トーンコントロールアンプとサブソニックフィルター、出力用バッファーアンプ部で構成され、ボリュウムコントロールは、フラットアンプの前に、バランサーは出力用バッファーアンプの前に置かれるレイアウトである。
 これらの各アンプ部は、モジュールアンプ化されていることが本磯の大きな特徴である。280μ厚無酸素圧延銅使用のガラスエポキシ基板上にトランジスター、コンデンサー、抵抗などの構成部品をマウントし、これをポリプロピレン系の特殊な導電樹脂ケース内に、鉛ガラスフィラーを混入した高比重エポキシ樹脂で固め、音質上有害な振動や電磁波の除去と、熱的安定度をも含めた耐久性、安定度の向上をはかった設計であり、フォノイコライザー部のイコライザー素子も同様な構造のCRモジュールが採用され一般的なアンプの内部に見られる基板上に半導体、コンデンサー、抵抗、スイッチ類が林立するアンプらしさは皆無に等しい。
     *
 このところ、アンプの話題は、信号系の回路構成上の斬新さもさることながら、アンプの基本である電源部の見直しが各社でおこなわれ、それぞれにユニークな名称がつけられているようだが、C5の電源部もオーソドックスな手法によるマルチトランス・パワーサプライ方式を採用している。
 基本的な構想は、フォノイコライザーアンプ部、フラットアンプ部の左右チャンネル用4ブロックに、それぞれ独立した4個のパワートランスを使用する方式で、アンプにとっては理想的ともいえる電源方式であり、従来の巻線のみ独立したタイプににくらべ、電源による混変調歪やセバレーションの劣化に対して効果的な手法である。
 本機の電源部は、この4個のトランスに加えて、信号系制御用の主にリレー用に使う電源用の専用トランスを備えるため、これも音質に直接関係をもつAC100Vラインの配線が複雑化する難点をもつが、この解決策として、5個の電源トランスとACアウトレット用の6系統のACラインに対応した無酸素銅線使用の6本のAC用コードを束ねた新開発の電源コードが開発され、各電源トランス間の干渉を低減するとともに、電源インピーダンスをも低くしている。また電源プラグは、当然のことながらEXCLUSIVEらしく、極性表示付である。
 MC用昇圧トランスの採用も本機の大きな特徴である。昇圧トランスのポイントは鉄芯にあるが、ここでは独自の53μ厚リボンセンダストをトロイダル型として採用。パーマロイにくらべ広帯域であり、非結晶性材料のような経年変化のない特徴があるl。巻線はφ0・25mm無酸素銅線を2本並列巻としDCRを低くし、MC型独特の低電圧・大電流を活かしている。
 その他、BTS規格の0〜−90dBと−∞〜の40ステップのアッテネーターの採用、新開発のリレーによる入力セレクター、テープ関係などの信号切替、トーンフラット位置でリレーにより完全にトーンコントロールアンプがディフィートするトーン回路、22番線相当の無酸素銅撚線を芯線とし、低容量ポリエチレン絶縁物、同じく無酸素銅線と導電性ポリ塩化ビニール使用の高性能シールド線など、機構面での非磁性材料使用モノコンストラクション筐体、非磁性ステンレスネジなど、単体部品開発から手がけている点は、類例のないものだ。
 ヒアリングは、EXCLUSIVE M5をはじめ、2〜3機種のパワーアンプと組み合わせて使用したが、基本的にキャラクターが少なく、優れた物理特性をベースとしたナチュラルな音が聴かれる。聴感上のSN比に優れ、音場感的な定位やパースペクティブを誇張感なくサラリと聴かせる。M5との組合せでは、全体に滑らかに美しく音を聴かせる傾向を示すが、旧いマランツ♯510では、整然としたダイナミックな押し出しのよい音を聴かせる。
 現代の優れたオーディオ製品に共通する特徴は、これといった個性を誇示する傾向がなく、自然な応答を示すことだが、C5も同様である。いわゆる、シャープな音とか雰囲気のある音という表現は、結果では生じるが、使用条件、使用機器でかなり変化をするため、簡単にC5の音はこうだと判断するわけにはいかない。あくまでナチュラルで、正確な音といったらよいであろう。とくにコントロールアンプで音の差が生じやすいハイレベル入力からの性能が優れているようで、この点はCD、デジタルプロセッサー用として、現代アンプらしい特徴である。

デンオン PRA-1000, POA-1500

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 安定感があり、信頼するにたる内容と音質で堅実なオーディオコンポーネントを開発しているデンオンから、新しく従来にないローコストなセパレートアンプ、PRA1000コントロールアンプとPOA1500パワーアンプが発売された。
 表面的に捉えれば、単に普及価格帯のセパレート型アンプで、セパレート型アンプの入門者用と評価されがちだ。しかし開発の基本コンセプトは、プリメインアンプの超高級機が数は少ないが存在する価格帯で、プリメインアンプに本質的に存在する、MCカートリッジ入力からスピーカー出力までを増幅する、ひじょうに高利得のアンプが単一筐体に組込まれているために起きる相互干渉による音質劣化の問題点を解決することだろう。電圧増幅機であるコントロールアンプと電力増幅機であるパワーアンプに分割し、現時点で高度に発達しているエレクトロニクス技術に基づく物理特性の良さを損うことなく、結果としての音質に、いかに引出すかにあると思われる。
 外観上の特徴は、上級機種PRA2000とPOA3000を受継いだ、いかにもデンオン製品らしいデザインにあり、仕上げも普及価格帯の製品といった印象が少ないのがメリットである。
 コントロールアンプPRA1000は、アナログディスクのハイクォリティ再生の重要な要素としてデンオンが主張しPRA2000、6000で実現したイコライザーアンプの超広帯域化を受継いでいる。一方、CD時代に対応して、高レベル入力のCDプレーヤーを受けるフラットアンプやバッファーアンプにも最新の技術を導入して、広帯域、高SN比化が図られ、ピュアフォーカスなサウンドが狙われている。ちなみに、現状のコントロールアンプでは、簡単に考えれば容易に見受けられる、高レベル入力からコントロールアンプ出力にいたるフラットアンプ、バッファーアンプ、トーンコントロールアンプだが、各社間、各モデル間の音質が相当に異なっていることを体験するのがつねである。
 イコライザーアンプは、低雑音、広帯域に加え、入力インピーダンスの変動による歪増加を抑える設計。これは内外各種のMCカートリッジとの対応性の幅を拡大した、MC/MM切替のCR−NFタイプで、RIAA偏差は±0・2dBで20Hz〜1100kHzを保証している。
 高レベル入力を受けるフラットアンプは、初段ボリュウムの影響による歪の増大を防ぎ、0・002%以下の低歪率が特徴だ。なお、トーンコントロールは、フラットアンプの帰還回路に素子を組み込み、音質上有害なコンデンサーを除去したリアルタイムトーンコントロールである。
  これにつづく、バッファーアンプは、動的歪の発生がなく、接続されるパワーアンプの入力特性の影響を受けずに信号を送り出す独自の無帰還バッファーアンプである。
 その他、高速応答強力電源回路、信号伝達ロスを極少に抑えた、超高周波機器用のポリエステル系基板採用などが目立つ。
 パワーアンプPOA1500は、デンオン独自の入力系への信号フィードバックや時間遅れがなく、動的歪が発生しない無帰還ハイパワー型で、最終段に採用したダイレクト・ディストーションサーボ回路は、出力側から得た信号と入力信号を比較して歪成分のみを検出し、これを入力側に位相反転をして加え歪を打消す本機の重要な回路である。
 電源部は、600VAのトロイダルトランスと6000μFのコンデンサー、強力なダイオードを採用し、8Ωで150W+150W、6Ωで200W+200W、4Ωでは、240W十240Wという優れたパワーリニアリティを確保している、なおフロントパネル中央部のディスプレイにはヒートシンク異常温度、左右チャンネルのパワー段の動作確認ができる自己診断機能を備え、入力系はノーマル入力と、CDプレーヤーダイレクト接続用に、CDサンプリング周波数に近い40kHz以上をカットするとともに−3dBのアッテネーターの入った、CDプレーヤーとのベストマッチを計ったハイカットフィルター付の2系統をもつ。なお、注目のアース関係の処理は、フローティング・ロード回路の採用で、小出力時のノイズと歪を低減している。
 新セパレートアンプを組み合わせた音はブックシェルフ型やフロアー型のスピーカーを問わず、従来のデンオン製品とは一線を画した広帯域でディフィニッションの優れた音を聴かせるのが新しい魅力だ。問題の低域特性も豊かに伸び、CD入力時でも質感の優れた活気のある低域を聴かせる。全体に安定度重視で少し音を抑えて聴かせるデンオンサウンドの傾向はなく、反応が早くナチュラルに拡がる音場感、定位感に加えて、活き活きとした音楽を聴く楽しみが味わえることが本機の大きな魅力だ。

ハーマンカードン Citation XII + Citation XI

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ステレオ初期に最高級管球アンプとしてハーマンカードンから登場したサイテーション・シリーズのIとIIは、当時としては先進の技術であった、NFブロックアンプを多段使用する内容に対する興味と、豪華なデザインとで注目を集めたが、価格的にも高価であり、いわばショーウィンドウで眺めるだけの憧れの製品であった。
 その後、マッキントッシュやマランツ、さらに新生JBLなどの陰にかくれて、国内では、陽の当らぬ存在という期間が長く続き、サイテーション健在という製品が話題にのぼり出したのは、それほど古いことではない。
 本来のサイテーションらしいサイテーションの復活は──つまり、時代の最先端をゆく技術的内容と豪華なデザインが両立した非常に高価格な製品という意味でのカテゴリーとしてなら──一昨年のサイテーションXXシリーズの発売であろう。マッティ・オタラ博士の独創的な頭脳から生まれた新理論に基づく回路設計は、強力な電源部にふさわしい強力なパワーステージとの連携動作で、HICCと呼ぶ瞬時電流供給能力にポイントをおいたパワーアンプと、裸特性そのものをRIAAイコライザーと同じとし、これに、RIAA補正定数をもつNFをかけたデュアルRIAAイコライザー方式を採用したコントロールアンプを生み、これに独自の機構設計が加わり、現状では、デザイン、内容そのもので非常にユニークな存在となっている。
 XXシリーズに続く、サイテーションシリーズの第2弾製品が、今回のX(シングルエックス)シリーズである。
 コントロールアンプのサイテーションXIは、基本的にXXシリーズと共通の開発方針でプロデュースされているが、構成上の変化として、一般的な高・低域のトーンコントロールが設けられている。回路的には、単体として充分の性能をもつMC用ヘッドアンプ、デュアルRIAAイコライザー、フラットアンプに独立したA級動作ヘッドフォンアンプという4ブロック構成である。電源部は強力であるべきとの理論に基づき、40W+40Wクラスのプリメインアンプの電源に匹敵する容量をもつという。
 パワーアンプのサイテーションXIは、出力150W+150Wであるが、瞬時電流供給能力は100Aに達し、電源部は左右独立巻線EI型トランスを採用している。特徴的な横能として、XXシリーズ同様に入力部には不要信号をカットするインフラソニック(1Hz)、ウルトラソニック(100kHz)のフィルターアンプを備え、不要信号入力時には表示ランプが点灯する。また、パワー段のアイドリング電流を2段に切替えるバイアスコントロールスイッチをフロントパネルに備えるのも一般的なパワーアンプと異なる点だ。
 試聴は、アナログソースがP3にDL305をメインに、デジタル系はソニー業務用とヤマハのCDプレーヤーを使う。いつものように、電源スイッチ投入後かなりウォームアップをしているので熱的にはバランスしているが、HICCをテーマとし巨大な電流を扱うタイプだけに、信号を入れてのエージングが必要である。
 基本的には柔らかいが質感に優れた低域をベースに、独特の豊かさをもち音場感情報をタップリ聴かせる中低域と、音の粒子が細かく滑らかでしなやかな対応をみせる中域、ナチュラルに誇張感のない高域が安定感のある帯域バランスを聴かせる。いわば暖色系の音色であるためソフトフォーカスな音と思われやすいが、内容は非常に豊かだ。基本的に分解能が不足するアンプならCDで馬脚を現わすが、Xシリーズは優れたCD独特の抜けのよい音場感をサラリと聴かせてくれる。ちょっと聴きには、やや古典的とも受け取れるタイプの音だが、質的な高さ、素直な音場感と安定した音像定位は、このアンプが基本的に広帯域型であることのひとつの証しだ。

アキュフェーズ C-280

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 アキュフェーズの新しいコントロールアンプ、C280を我が家で聴いたのは、1982年の秋であった。その清澄無垢な響きに、このアンプの音の純度の並々ならぬものを感じ、精緻な音色の鳴らし分けに感心させられた。繊細なハーモニックスから、音の弾力性や厚味の立体感、そして合奏の微妙なテクスチュアがよく再現され、間違いなく現在の最高品位のコントロールアンプであることが確認出来た。たった一つの不満といえば、パネル中央のイルミネーションディスプレイの色調に、洗練と風格が欠けることぐらいで、パーシモンウッドケースを含めて、そのフィニッシュの高いクォリティも内容にふさわしいものであった。この色合いは、しかし、アキュフェーズの製品に一貫した感覚であるから、私はこの社のアイデンティティとして尊重し、あえて苦言は呈さなかったのを記憶している。その後機会あるごとに、このコントロールアンプに接し、その優れたクォリティを確認させられる度に、ディスプレイの色調への不満が大きくなっていく自分の気持を抑えることが出来ないのだが、これは枝葉末節としておこう。
 C280の内容は、現在の水準で最高の性能をもったものといってよく、回路構成は同社のお家芸ともいえる全段A級プッシュプル僧服を、さらに、全段カスコード方式で実現している。これにより裸特性の高水準を確保し、安定した動作とハイゲインを得ている。ステレオアンプ構成は、完全独立型のツインモノーラル構成を基本に、左右6個のユニットアンプを別ケースで独立させ、それぞれに専用の定電圧電源をもたせるという徹底ぶりである。いうまでもなくDCアンプだが、DCドリフトの発生は完全にサーボコントロールされ、MCのヘッドアンプ入力から、出力までの全信号系はダイレクトカップリングで一貫している。コントロールアンプの必須機能である、ファンクションスイッチは、最短信号経路で確実におこなえるように、ロジックコントロールのリレーによるもので、ロスや影響を最小限に抑えているし、信頼性の高い部品の使用により万全を期している。厚手のアルミハウジングに収められた6個のユニットアンプの整然とした美しさはメカマニアにはきわめて魅力的な光景で、内部の仕上げの美しさも最高級アンプにふさわしい緻密なものだ。
 従来のアキュフェーズアンプの音の、豊潤甘美な個性は、より節度をもったものにリファインされていて、私にいわせれば、毒も薬といい得る癖と個性の限界領域を脱却した品位の高い再生音といえると思う。現在のアンプのテクノロジーは高度かつ精緻であるから、頭で考え眼で追っても相当高度な製品を作ることは可能である。しかし、なおかつ耳と感性による見えざる問題点の実験的解析と追求の努力が、これに加わった時に、製品は確実に差をもつことになる。そしてその差は、正しい理論と技術の裏付けをもったものならば、必ず音の洗練として現われることをこのアンプは教えてくれるかのようであった。

相性テストの結果から選ぶコントロールアンプとパワーアンプのベストマッチ例

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 セパレートアンプ、つまり、独立したプリアンプ(コントロールアンプ)とパワーアンプの世界は、コンポーネントの組合せによる音のバリエーションをさらに細分化するものである。プリアンプとパワーアンプが、アンプとしての動作に本質的な違いがあることはいうまでもない。それは、電気的にも機能的にもいえることであって、むしろ、セパレートされていることのほうが自然の形ともいい得るかもしれない。解り易く整理した表現をすれば、プリアンプは、プログラムソース(レコードやテープなど)の変換器(プレーヤーといってもよい)を動作的に完成させるものであり、これに対して、パワーアンプはスピーカーの動作を完成させるものだ。したがって、同じような電子回路をもっているように見えても、この二つのアンプは、ただ、その回路を二分したという意味以上の必然性を持っているといえる。さらに敷衍するならば、プリアンプの設計・製造には、プレーヤーなどのインプット側の変換器の特質の理解が絶対に必要であるのに対し、パワーアンプのそれは、スピーカーの特質への対応性が条件となってくる。プリアンプは受動的要素が強く、パワーアンプは能動的要素が強いといってもよいであろう。こう考えてくると、このプリとパワーを一つにまとめたインテグレーテッドアンプ(プリメイン型)をユニットして考えるより、セパレートアンプとして、これを二分された個々のものとして考えるほうが自然であり、また、その相互のもっている音の個性を組合せによって厳密に選択追求していくことのほうが、より精緻な音質追求の方法として精巧な手段だということになるだろう。裏返していえば、セパレートアンプの世界は、まことに複雑精妙で、厄介で難しく、より高度な知識と熟練、そして時間と経費と努力を、使用者に強要することになるのは当然だ。
 しかし、音楽が複雑精妙なニュアンスに満ちた楽音を、人間の感性、情緒の洗練の極といってよい美学と、細やかな心の襞と肉体の力によって織りつめられた綾であり、聴き手は、表現する側に優るとも劣らぬ豊かな感性と、個々の資質や嗜好によってこれを受け取り、自身を満す喜びを求めるものである以上、そこに介在するメカニズムには寸分の隙をも許さない厳格さで対することは、むしろ当然であろう。だから、一度、この微妙な音色、音質の違いに心眼が開けたら最後、セパレートアンプによる精緻な音質追求こそ、汲めども尽きぬオーディオの楽しさとして感じられることになるだろう。周知のように、カートリッジ、トーンアーム、ターンテーブル、スピーカー、そしてアンプ系と、コンポーネントシステムの相互的な組合せと、その使いこなしの技術と努力によって、ありとあらゆる音の違いが存在するオーディオの世界であるが、セパレートアンプはそこに、さらに選択度と自由度と、高い可能性をもたらすのである。
 そしてもう一つの大きなポイントは、原則的にセパレートアンプは、プリメインアンプの水準を超えたパフォーマンスとクォリティをもったものであるということだ。多くの製品の中には、プリメインアンプに劣るようなセパレートアンプ、あるいは、セパレートアンプに優るプリメインアンプの存在も認められるが、私個人としては、それは正しい姿だと思わない。セパレートやブリメインを、単なるスタイル上の違いとして捉えることには賛成できない。セパレートアンプは、プリメイン型のプリアンプ部とパワーアンプの水準を、常にその時点での技術水準で凌駕しているものでなければ、存在の必然性がないという考え方である。この本質を持たない商業的商品を私は認めたくないのである。この考え方で厳格に判断すると、残念ながら、納得のできるセパレートアンプはそそう多くは存在しない。今回取り上げられたものの中にも、首をひねりたくなるものもなくはない。
 しかし、先述したように、音のバリエーションの選択度、自由度を考慮に入れると、ことは複雑になるわけで、オーディオの客観性と主観性の入り乱れた難しさ、面白さを思いしらさせるのである。例えば、ある種の管球式プリアンプのように、S/N比が決してよいとはいえないような製品は、技術的には全く問題にしたくない。製品の完成度の点では明らかに落第である。今時、プリメインアンプの安物でも、もっとS/N比は優れたものばかりだ。しかし、そのプリアンプのもつ音の魅力を個性的に好むなら、そしてそれがプリメインアンプでは得られない質だと判断するのなら、その存在を頭から否定できないのである。たとえS/N比が現在の水準で決してほめられたものではなくても、音の魅力と天秤にかけて、我慢できる範囲なら、存在の必然性を認めるべきだという気もする。メーカーには徹底的に客観性、つまり技術の正しさと高さを要求しても、これを使い楽しむ側にとっては、主観性、つまり好きか嫌いかという嗜好性が最も重要な条件となるからだ。
 セパレートアンプを使うというくらいのユーザーなら、当然、技術的に水準以上の再生音を要求する人にちがいない。つまり、再生音としてのプログラムソースへの忠実度、正確さを求める人達だろう。しかし、そうした物理的条件を満たしただけでは完成しないところが、オーディオの、レコード音楽の実態である。いやむしろ現実は、自身の好みの音を、より強く求めているようだ。好みの中に、物理的忠実度、正確さをもが含まれているというべきかもしれない。レコード音楽鑑賞という個性的音楽再創造行為として、複雑微妙な音色、音質への個人的要求の、きわめて強い人たちであろうと思う。したがって、セパレートアンプの選択は、知的に性能を判断すると同時に、情緒的に個々の感性で音を聴きとらなければならない。もちろん、これはセパレートアンプに限ったことではないが、他のものの選択より高度な判断力を必要とすると思う。また、すべてのものについていえることだが、機械は優秀な動作さえすればよいというものではないだろう。その優秀な能力にバランスした製品としての魅力が、視覚的にも触覚的にも味わえるものであってほしい。セパレートアンプは、その方式からして高級アンプであり、高級商品である。そして、それを手段として得ようとする音楽の世界は、当然並の水準よりはるかに高いものだろう。高度な音楽的欲求にふさわしい雰囲気を、使う人に感じさせてほしいと思うのは私ばかりではあるまい……。機械の品位は、材質の質的高さと、加工精度、その機械としての必然をもった形態、そして、色彩を含めたデザイン感覚の順で決まると私は考えている。つまり、どんなに洒落た色合いやスタイルでも、材質が安物では全く駄目だ。材質の品位が高ければ、それ自体でも品位が感じられるということだ。アメリカ人は、オーディオ機器についても、よくコスメティックという言葉を使う。いうまでもなく化粧である。どうも、この言葉の使われ方に私は良い印象を受けない。なんとなく、材質の品位や、工作精度といった本質的な意味とは遠い、ごまかし的イメージを受けるからである。日本ではデザインといわれるが、デザインというとむしろ中味の設計を意味するので、外観のフィニッシュはコスメティックといって区別しているのだろう。言葉の使い方の問題ではあるが、コスメティックという言葉から私が受けるようなニュアンス、イメージをもって、機械を仕上げるのを私は好まないのである。少なくとも、セパレートアンプのような高級製品には、あって欲しくない事だ。自動車のボディのように形態が、そのまま、性能や機能に影響を及ぼすものでさえ、千差万別の外観があり、品位の落差がある。本当に高級な車のボディは、例え全体のスタイルを見なくとも、せいぜい、10cm四方の部分だけをとっても、品位が解る。つまり、材質の品位と加工精度が違うのだ。また、このことは、いかなる部分といえども、ごまかしや手抜きがあってはいけないということにも通じる。昔とちがって、今は、車もオーディオも、こうした点では一抹の淋しさを禁じ得ない。
 今回、私が試聴したセパレートアンプは、海外製の7機種のプリアンプに、それぞれ4機種のパワーアンプを組み合わせるというものだった。この組合せは、考え得る組合せの、ごく一部にしか過ぎないが、それでも合計28種類の組合せである。千変万化とはいえないが、おおよその見当はつくかもしれない。7機種のブリアンプが、だいたいどういう傾向のものか、パワーアンプが同メーカーのものである場合、それを規準にして、他のアンプではどう変化するか、組合せとしてどれが最も好ましいか、といったことをさぐってみたわけだ。同メーカーにパワーアンプのないものもあるが、これは異質なパワーアンプの組合せの変化の中から、そのプリアンプ共通の個性をさぐるよう試みたつもりだ。しかし、この程度のことでは、決して明確に素姓を知ることにはならないので、他のパワーアンプとの組合せについては、知識と体験により類推していただく他はない。いわば、きわめて曖昧なテスト方法といわざるを得ないであろう。したがって、むしろ、今回の28種の組合せの試聴という限定の中で、個々の音のリポートとして受け取っていただくほうが無難である。テスト後の心境としては、テスターとして、まことにすっきりしないというのが偽らざるところであるが、今回は諸般の事情により、このような形をとらざるを得なかったようだ。また、この種のセパレートアンプでドライヴするスピーカーは、これまた個性の強い高級スピーカーが多いはずだが、これをJBL4344に限定しておこなったことも批判があるだろう。しかし現実に同じようなテストを数種のスピーカーについてやるとなると、なおさら大変なことになるわけで、一つの記事の中で、やりおおせることではない。したがって、ステレオサウンド本誌、別冊の総合的な企画の中での一つの角度からのリボートとして、このテストを受け取っていただくようにお願いする次第である。
 最後に、御参考まで、今回の28種の組合せの中で、特に好ましかった組合せをあげてみたいと思う。7機種のプリアンプの中で、私が素晴らしいと思ったものは、三つ。マッキントッシュのC33、クレルのPAM2、そしてマーク・レビンソンのML7Lであった。あとは、どこかに良さはあっても、それを相殺してしまう不満があって、総合的に価値を認め難かった。
 3機種のプリアンプは、いずれも同メーカーのパワーアンプとの組合せが規準というに足る良い結果であったが、ここで、他メーカーのアンプとの組合せで好結果の得られた3種をあげておくことにする。
①マッキントッシュC33+サンスイB2301
 テスト時には、やや低域過大であったけれど、この弾力性のある楽音の質感と、豊かなプレゼンスは素晴らしいものだと思う。
②マーク・レビンリンML7L+エクスクルーシヴM5
 この明晰な響き、透徹で精緻な音は魅力であった。難がないわけではないが、これは高く評価したい組合せである。
③クレルPAM2+エクスクルーシヴM5
 これも、同じM5との組合せだが、ML7Lの時より暖かい。そして鮮明である。重厚さではML7Lに歩があるが、これは、それを上廻る爽やかさであった。

スレッショルド FET two + SAE A1001

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 高域に強調感と、ややキメの粗さが感じられる。プリアンプの持味とパワーアンプのそれとが悪く重なり合ったようで、互いの良さが生きてこない組合せのようだ。音の表情は明るく積極性をもったものであるが、品位や風格は犠牲になったようだ。かといって、ジャズにおいても、ベースが弾まず、上から下へ押さえつけるようなリズムになってしまう。ローズマリー・クルーニーの声は、かなり濃厚で妖艶。この辺は好きずきだろう。

スレッショルド FET two + S/500

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 同じスレッショルドの製品だが、パワーアンプがこのS/500になると、S/300のときに気になった品位の低さがなくなる。マーラーの重厚で、しなやかなテクスチュアをもった響きが余裕あるスケールの大きさで迫ってくる。ヴォーカルの肉声部もより自然で、歌唱に毅然とした姿勢と風格が加わり、いかにもフィッシャー=ディスカウらしくなる。ジャズでは華美な響きが抑えられ、その分、押しのきいた充実した音で表現力が増してくる。

スレッショルド FET two + S/300

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 この組合せによる音の質感には不満がある。一つ一つを分析的に聴けば、とりたてて欠点はないのだが、音の感触にクォリティがない。説くに高域に違和感が感じられ、マーラーではかなり華麗ではなあルが、品の悪い音に感じられた。派手で、粒立ちのよい解像力に初めは魅力を感じるかもしれないが……。ヴォーカルも、厚味と暖かさの面で不満があったし、ピアノのソリッドな響きも不十分。ジャズがこの点、一番無難に楽しめた。

マークレビンソン ML-7L + ML-2L

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 この組合せで聴くマーラーのシンフォニーのヴァイオリン群のしなやかで、滑らかで、それでいて、しっかりした芯のある音は類がない。木管のやさしい響きも見事なものである。パワーが25Wとは信じられない堂々たる力感で鳴り響く。もちろん大パワーアンプのような大音量再生は無理だが、90dB以上の能率のSPで、普通の家庭の部屋なら、さしたる不満はないはずだ。ジャズでようやくパワー不足を感じるという程度であった。

マークレビンソン ML-7L + ML-3L

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 ワイドレンジで高域も低域も最高度の満足感が得られる。質感もよく再現し、しなやかで柔軟である。ただ、音として、特にマーラーでは、もう一つ熱っぽさが不足するし、重厚な響きが出るべきではないだろうか。これはもう、個人の美学の領域だ。フィッシャー=ディスカウの声も、もう少し暖か味が欲しいと感じるが、明瞭で透徹な響きにただものではないクォリティの高さを感じざるを得なかった。ジャズも客観的に最高点だ。

マークレビンソン ML-7L + クレル KSA-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 この組合せは、どちらのアンプの持味も強調されるといった感じであった。いずれも素晴らしいアンプだから、その結果の音が悪かろうはずはないのだが、一つの音として決っているとはいえない。つまり、KSA100のあの魅力的な高域は、さらに強調され、ML7Lの彫琢の深い厳格な音の陰影も、より隈取りが濃くなるといった印象だ。このように絶妙なバランスとはいえないが、客観的には、実に立派な音としかいえない。

マークレビンソン ML-7L + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 精緻な音。よく締まったソリッドな音像感、豊かに迫る押し寄せるかの如き力のある音の幕。ディテールの再現も緻密で透徹であった。少々、マーラーには情緒性に乏しい音の世界のように感じられたけれど、立派な音には間違いない。ストラヴィンスキーなどはもっとよいだろうと感じた。ヴォーカルは、透明で淡彩な中に粘りのある不思議な感覚で聴いた。これは男声にも女声にも感じた。これが正確な音色再現かもしれないが……?

マッキントッシュ C33 + MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 MC2255との組合せも高品位の音だったが、この組合せはいちだんと素晴らしかった。従来、質的なデリカシーでは、MC2255のほうに歩があるという印象であったが、今回の試聴では、質量ともにMC2500との組合せが勝っていた。マーラーの響きは、重厚で柔軟性に富み、絢爛としたオーケストラの細部も見事に浮彫りにしながら、圧倒的な安定感のあるトゥッティの迫力。ピアニッシモも、十分繊細でしなやかな弦の音。見事な音だ。

マッキントッシュ C33 + MC2255

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 元気潑剌とした鳴りっぷりでいて、決して荒くならない。ただ、いつも僕が聴くこの組合せでは、もっとキメの細かい透明な音だったが、ここでは勢いのよさのほうが前面に出た印象である。ピアノ伴奏ヴォーカルでは、この組合せでは、低域の盛り上りはなくなり、きわめて豊かだが締った低域で、ヴォーカルもかぶらない。ジャズのベースも弾力性に富み、決して混濁しないで、豊かで力強い。質感ともによいバランスだ。

マッキントッシュ C33 + デンオン POA-8000

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 やや肌ざわりの冷たい音だが、滑らかさはあるし、ワイドレンジにわたって締まった音。マーラーの響きとしては、もっと熱っぽい音がほしいと思ったが、これはこれで現代的な響きで決して悪くない。組合せとしては、少々異質であることが、ヴォーカルを聴くとよくわかり、どこといって欠点として指摘するほどのことではないのだが、声質にはやや不自然な感じが出る。中低域の力と量感に対して、高域が質的にうまくバランスしない感じだ。

マッキントッシュ C33 + サンスイ B-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 どういうわけか、低音が出すぎる。もの凄い量感だ。前にもこの組合せで聴いたことがあるが、そのときはこんなではなかった。しかし、音の質感はしっかりした骨格と芯の周囲に、弾力性のある適度な肉づきと、滑らかな皮膚がほどよくバランスした自然なもので、マーラーの響きの重厚さと絢爛さは素晴らしい。ヴォーカルの質感も暖かく、リアリティのあるもの。ジャズでは前述のようにベースが重すぎ、やや鈍重にすぎたようだ。

クレル PAM-2 + マークレビンソン ML-3L

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 キメの細かさ、滑らかさ、充実したソリッドな質感などでは、クレルKSA100に匹敵する高品位な再生音だと感じた。しかし、どこかに、こちらのほうがひややかな感触があって、マーラーの響きにやや熱さの不足を感じる。僕の受けとっているこのレコードの個性とは、やや異質なものを感じた。ピアノの低音が少々ダンゴ気味になり、ジャズのベースも、音色的に鈍さがあって、重くなりすぎる嫌いがあった。

クレル PAM-2 + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 明晰で、広い拡がりをもったステレオフォニックな響き、鮮かな音色の鳴らし分けは見事といってよい。このマーラーの音としては、やや厚味とこくに欠けるものとはいえ、大変魅力的なサウンドであった。フィッシャー=ディスカウの凛とした声の響きは立派。反面、彼独特の口蓋を生かしたふくらみのある響きは、やや不満がある。つまり、響きに硬さ一色に流れるような傾向があるようだ。ジャズではソリッドで明快な素晴らしさだ。

クレル PAM-2 + エスプリ TA-N900

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 KSA100のときのような特徴的な音ではなくなるが、大変よいバランスで、楽器の質感の響き分けもよい音。やや輝きの勝った音で、くすんだ陰影といったニュアンスには不足するが、明快な音が美しい。ただ、ごく細かいハーモニックスの再現には不十分なようで、楽音がどこかつるっとして、食い足りなさが残るのが気になった。ジャズのベースなど、中低域の質感に、ときにそうした感じが強く、力感は十分なのだがいま一つの不満。

AGI Model 511b + アキュフェーズ M-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 この組合せにおけるオーケストラの音は、豊かさや重厚さに欠ける。その代り、透明な中高音域の質感は、特筆に値する美しさであった。マーラーのシンフォニーの響きとしては必ずしも私の好みとはいえないが、これが古典派の曲なら捨て難い魅力だろうと思う。フィッシャー=ディスカウも、少々細身の声で、テノールがかる。ピアノの明瞭な響きは美しい。ジャズは、明瞭だが、低域の押し出すような重量感が物足らなくもう一つの感じだ。

クレル PAM-2 + KSA-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 KSA50のところでメモした〝クラルテ〟の魅力は、このパワーアンプも同じ。それにここでは同じクレルのプリとの組合せだけに、一段とその魅力は冴える。オーケストラのテクスチュアは、餅肌のような、しっとりと滑らかで、ふくよかだ。ちょっと聴きにはやや細身で、線の細さを感じるほどデリカシーをもった音ながら底力も十分。ヴォーカル、ピアノの音色の機微も鮮かに鳴らし分ける。ジャズも過不足なし。