マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュから新しいコントロールアンプ、C30が発売された。マッキントッシュのコントロールアンプは、現在まで、C29とC33が多くのファンに愛用されているが、このC30の登場により、C29が消えることになる。この点からすれば、C30は、C29の系統をひく製品ということになるが、内容的には、むしろ、C32、C33の系統といえるものだ。ブロックダイアグラムは、ほとんどC33と変りはない。5分割のイコライザーは、30Hz、160Hz、500Hz、1・5kHz、10kHzとC33と同じものが採用されているが、これは、きわめて利用度の高いもので、よほど凹凸の激しい部屋でもない限り、音場補正としても有効である。パネルレイアウトは、この5つのイコライザーコントロールとヘッドフォンボリュウムの6つのツマミを中心にシンメトリックにまとめられ、マッキントッシュ伝統のシンメトリックレイアウトが生きている。もちろん、グラスイルミネーションの、あの美しい、グリーン、レッド、ゴールドのパネルデザインは、ユニ−クにして合理的、そして、夢のあるものだ。リアパネルは8系統のラインレベル入力をもち、フォノは1系統になった。さらに、エクスターナル・プロセッサーという、外部アクセサリーの入出力回路が2系統あって、きわめて豊富なファンクションを備え、出力端子も、ラインとテープををみても、マッキントッシュが、コントロールセンターとしてのユーティリティの高さを重視しているコンセプトがわかるのである。そもそも、マッキントツシュの製品の特徴は、高度な性能とクォリティサウンドを、使い易さの多機能性と結合させ、いささかも最高級品としての品位を犠牲にしないところにある。つまり、トータルパフォーマンスの高度な達成という点での完成度の高さが同社の主張であって、決して一部のマニアの要求に応えるために普遍性を失うようなことはしない。その意味では、俗にいわれるエソテリックオーディオの範疇に入るものではなく、多くの人達に使えて、しかも、並のマニアックな製品をはるかに超える優れたパフォーマンスを得ている真の大人の製品であるといえるだろう。これは、真のプロだけが作り得るものである。長いキャリアをもったメーカーでなければ作り得ないものともいえるだろう。この辺りが、巷間によくある、信頼性と、トータルコンセプトに乏しい、個人に毛の生えたようなガレージメーカ−の製品とは根本的に異なる点である。
 高性能な車といえばスポーツカーということになるが、多くのスポーツカーは信頼性に欠けるし、日常の使用に供し難いものがある。ぽくの知る限り、唯一、この点で高い完成度をもっているのは西独のポルシェである。もう、16年もポルシェに乗っているが、その信頼性は抜群で、まるで、フォルクスワーゲンと同じようなメインテナンスで、いつでも安定した調子がくずれない。イタリアンやブリティッシュのスポーツカーとは、この点が大違いである。年中、調整を必要としたり、あちこちがこわれたり、ガレージがオイルで汚れる……などといった心配は全くなく、それでいて、走りは、それらを上廻るのがポルシェの良さである。デイリーショッピングから、サーキットランまで一台で使えるのがポルシェなのだ。マッキントッシュも、それに似ている。ポルシェやマッキントッシュは、そうした理解のもとに買われるべきものなのだ。
 C30は、まだ手許で、一週間ほどしか使っていないが、その音は、まさに、マッキントッシュの重厚さと、滑らかさであって、C29の音より熟成した雰囲気をもっている。この点でも、C33の系統と考えて間違いない。C33から、モニターアンプや、エキスパンダー・コンパンダーを取り除き、ややコストダウンをはかったというのが、この製品であろう。入力切換などのファンクションスイッチは、信頼性を重視し、全て電子スイッチになり、機械的接点をもたない。このスムースなファンクションは、新しいだけに、C33をも上廻っている。外部機器との干渉には周到な注意が払われ、他からの影響は全くないといってよく、どう使っても、ハムなどの影響は受けない。些細なことと思われるかもしれないが、ノイズに悩まされる超高級機は意外に多いのである。マッキントッシュの製品には修理の出来ない不具合がないのである。ポルシェが手を油だらけにしないで乗れる唯一の高性能スポーツカーであるのと似ている。

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