アキュフェーズ C-280

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 アキュフェーズの新しいコントロールアンプ、C280を我が家で聴いたのは、1982年の秋であった。その清澄無垢な響きに、このアンプの音の純度の並々ならぬものを感じ、精緻な音色の鳴らし分けに感心させられた。繊細なハーモニックスから、音の弾力性や厚味の立体感、そして合奏の微妙なテクスチュアがよく再現され、間違いなく現在の最高品位のコントロールアンプであることが確認出来た。たった一つの不満といえば、パネル中央のイルミネーションディスプレイの色調に、洗練と風格が欠けることぐらいで、パーシモンウッドケースを含めて、そのフィニッシュの高いクォリティも内容にふさわしいものであった。この色合いは、しかし、アキュフェーズの製品に一貫した感覚であるから、私はこの社のアイデンティティとして尊重し、あえて苦言は呈さなかったのを記憶している。その後機会あるごとに、このコントロールアンプに接し、その優れたクォリティを確認させられる度に、ディスプレイの色調への不満が大きくなっていく自分の気持を抑えることが出来ないのだが、これは枝葉末節としておこう。
 C280の内容は、現在の水準で最高の性能をもったものといってよく、回路構成は同社のお家芸ともいえる全段A級プッシュプル僧服を、さらに、全段カスコード方式で実現している。これにより裸特性の高水準を確保し、安定した動作とハイゲインを得ている。ステレオアンプ構成は、完全独立型のツインモノーラル構成を基本に、左右6個のユニットアンプを別ケースで独立させ、それぞれに専用の定電圧電源をもたせるという徹底ぶりである。いうまでもなくDCアンプだが、DCドリフトの発生は完全にサーボコントロールされ、MCのヘッドアンプ入力から、出力までの全信号系はダイレクトカップリングで一貫している。コントロールアンプの必須機能である、ファンクションスイッチは、最短信号経路で確実におこなえるように、ロジックコントロールのリレーによるもので、ロスや影響を最小限に抑えているし、信頼性の高い部品の使用により万全を期している。厚手のアルミハウジングに収められた6個のユニットアンプの整然とした美しさはメカマニアにはきわめて魅力的な光景で、内部の仕上げの美しさも最高級アンプにふさわしい緻密なものだ。
 従来のアキュフェーズアンプの音の、豊潤甘美な個性は、より節度をもったものにリファインされていて、私にいわせれば、毒も薬といい得る癖と個性の限界領域を脱却した品位の高い再生音といえると思う。現在のアンプのテクノロジーは高度かつ精緻であるから、頭で考え眼で追っても相当高度な製品を作ることは可能である。しかし、なおかつ耳と感性による見えざる問題点の実験的解析と追求の努力が、これに加わった時に、製品は確実に差をもつことになる。そしてその差は、正しい理論と技術の裏付けをもったものならば、必ず音の洗練として現われることをこのアンプは教えてくれるかのようであった。

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