菅野沖彦
ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より
サンスイのアンプは、AUシリーズのプリメインアンプ群の充実したラインが確固たる基盤を築き、すでに8年にわたって基本モデルを磨き上げ、多くの技術的特色を盛り込みながらリファインにリファインを重ねるという、地道な歩みを続けている。初期のものと、8年後の現在のものとでは、中味は別物のアンプといってよいほど充実していながら、型番やデザインを変更せずに、また、音のポリシーも一貫したサンスイの感覚で練り上げるという地に足のついた姿勢は誰もが認めるところであろう。まさにオーディオ専門メーカーらしい自信と頑固さといってよく、また、それゆえに、今回の信頼と成果が得られたといってよい。当然、より上級のセパレートアンプの開発は技術者の念頭に常にあったにちがいないが、安易に商品として出さない周倒さも、このメーカーらしい用心深さというか、今か今かと待っていたこっちのほうが、じりじりさせられたほどである。
82年暮に、パワーアンプB2301が発表され、続いて翌83年初頭に、その弟分ともいえるB2201が満を持して発売された事は記憶に新しい。このパワーアンプは、さすがに実力のある内容で、その分厚く、どっしりとした音の質感は、豊かな量感を伴って、音楽の表現の暖かさと激しさを、そして、微妙な陰影に託した心のひだを、よく浮彫りにしてくれる優れたアンプである。内容の充実の割には、見た目の魅力と、品位に欠けるのが憎しまれるが、部屋での存在として必ずしも表に現われることのないパワーアンプの性格上、容認できるレベルではあった。しかし、その時点においても、このパワーと対になるコントロールアンプは遂に姿を見せることはなかったのである。
C2301としてベールをぬいだのが、その待望のコントロールアンプであって、去年のオーディオフェアの同社のブースに参考出品として展示されていたのを記憶の方もあるかもしれない。本号の〆切に、その第一号機が間に合って、試聴する機会を得たのは幸いであった。
C2301。パワーアンプのB2301と共通の型番を持つこのモデルは、どこからみてもサンスイの製品であることが一目瞭然のアイデンティティをもっているのが印象的で、パワーアンプで苦情をいったアピアランスは、コントロールアンプでは一次元上っている。どうしても、目立つ存在であり、直接操作をするコントロールアンプとして、しかも、かなりのハイグレイドな製品ならば、使い手の心情を裏切らないだけの雰囲気を持っているべきだ。
細かい内容は余裕があれば書くことにして、まずこのコントロールアンプの音の印象を記すことにしよう。サンスイのアンプの音の特徴はここにも見事に生きている。それは音の感触が肉厚であること。弾力性のある暖かい質感だ。脂肪が適度にのっていて艶がある。それでいて決して鈍重ではない。低音はよく弾み、ずーんと下まで屈託なくのびている。中域から高域は、決してドライにならず、倍音領域はさわやかだが、かさつかない。ブラスの輝やきは豪華だが薄っぺらではないし、芯がしっかりと通る。弦の刺戟的な音は、やや抑えられ過ぎと思えるほど滑らかになる傾向をもつ。どちらかというと解脱には程遠い耽美的な情感に満ちている傾向のアンプである。音楽は宇宙だから、そこにはすべての世界を包含するが、このアンプで天上の音楽を奏でることは無理だろう。正直なところ、筆者のように俗物として、音楽に人の魅力や生命の息吹きを求め彷徨している快楽主義者にとっては、これでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから。しかし、あまりに強くこういうことをいいたくなるというのは、長く聴いているとやや食傷気味になるような個性なのかもしれない……などと思ってみたりしている。なにしろ、きわめて限られた時間の試聴だから、完全に自信のある印象記は書けない。
オーディオ的な表現をつけ加えるならばプレゼンスはたいへんよいし、定位感も立派なものだ。奥行きの再現、音場の空気感も豊かだし、見通しのよい透明度もまずまず。肉感的な音の質感だから、音像のエッジはそれほどシャープな印象ではない。シャープさを望むなら、他に適当なアンプもあるから、このほうが存在理由があると感じられる。紙数がなくなったが、このアンプも、最近のサンスイ・アンプの技術的特徴であるバランス回路方式をとっていて、出力はアンバランスとバランスの両方が得られる。
コントロールアンプとしての機能はよく練られ、随所に細かい気配りとノウハウのみられる力作である。
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