Category Archives: スピーカーシステム - Page 61

ワーフェデール Kingsdale 3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 フロアにじかに置き、次にブロック1個分上げて、さらに2個にしてもまだ音がこもって抜けが悪い。ついに50センチの台に乗せて、さらにインシュレーターを噛ませて、おまけにEMTのカートリッジとマークレビンソンLNP2/ヤマハBIのシャープな音で引締めて、まあ納得のゆくバランスになった。イギリスの音の長所も短所も合わせ持った音とはいえ、たとえばバルバラのシャンソンなど、瑞々しい艶で唇のぬれたような感じまで出てくるが、ピアノは弱腰というか上澄みだけというか、実体感の薄い音だし、オーケストラも大編成は無理で、しかしバロックや室内楽など、ややひっこむ感じながら一種独特の柔らかい雰囲気を出す。しかし一般的にいえばそういう特徴を生かすには相当に手間のかかるスピーカーというべきで、いい素質を持ってはいるが、正面切って音楽を鑑賞するのでなく、一家団らんの場で、気にならない音を鳴らしておくというような目的に使うのがせいぜいかと思う。

採点:76点

デッカ London Enclosure

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 小型のスピーカーの割に、オルガンのペダル音、バスドラム、ベースの低音などで、意外なほど低音のファンダメンタルがよく延びているように聴こえる。もちろんそういう音を出すスピーカーはほかにもたくさんあったが、この大きさにしては、という印象が強い。ただしこのときは、ゆかから約15センチほどの低い台で、背面を固い壁に近づけて置いた。トーンコントロールで多少の補正も加えている。しかしそうやっても、ファンダメンタルの出ないスピーカーではこうはいかない。ところで全体の感じだが、イギリスのスピーカーが概して中~高音域に強調感のある作り方が多いことを頭に置いて聴いてみても、どうもやかましさすれすれのところでこしらえてあるように思われ、ことにパワーに弱く、音量を上げると総体にキャンつくので、平均80dB以下ぐらいの音でひっそり鳴らさないとだめのようだ。面白半分にデッカMKVのカートリッジで、デッカ録音のレコードをかけてみたら、当然とはいえ、個性が強いながら楽しい音がした。

採点:82点

リーク 2060

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中音域の上の方から高音域にかけて、鈍い金属の光で隈どったような特有の線の細い光沢感がある。あるいは彫りの深い目鼻立ちのことさら強調されたような音ともいえ、そういう特徴に惹かれもする反面、部分的には辟易かもしれない。いわば好き嫌い分かれる音質かもしれない。高音域に線の細い艶が乗るのはイギリスのスピーカーに概して共通の特色だが、リークの音はその中でもやや硬質の艶が目立つ。それが良い面に働いた場合、たとえばピアノでUL6よりもスケール感が出るし、またBCIIよりも現実感があるオーケストラの斉奏では、硬質の光沢が彫りの深い立体的な構築を聴かせる。オルトフォンVMSやB&Oの4000等、音の柔らかな系統のカートリッジの方が、短所を抑えてくれる。また、あまりパワーを上げないときの方がいい。ハイパワーでは音のキャンつく傾向が出てくるし、スクラッチノイズを部分的に強調するクセがあり、決して万能型ではないが長所の多いスピーカーだと思う。台はブロック1~2個程度がよさそう。

採点:88点

ブラウン L715

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 たとえばリークの音に艶があるという印象が、ブラウンと並べて聴くとリークがどこか湿っぽく聴こえる。そのくらい独特の艶があって当然これはドイツのスピーカーが昔から持っている特徴だが、そのドイツの音という枠の中では、従来の製品より全音域でのバランスがより自然に、音域ごとの強調感や欠落感が少なく、たいへんみごとにコントロールされた製品であることを感じる。ステレオの音像の定位やひろがりや奥行きも、明確に再現する。この独特の艶は、弦合奏にもピアノにも、われわれの耳にはときとして過剰気味に思える場合があるが、そこに一種の透明な──といっても空気の透明というより上等の硬質なクリスタルガラスの光沢のような──感覚が生じ、鳴っている音楽の鮮度を上げるような働きをする。むろんそれはこの製品に限った話ではないが、エンクロージュアの大きさからいっても、本もののスケール感を望むのは無理で、あくまでも虚構の枠の中での話だが、高め(50センチ)の台、左右に広げる方がよかった。

採点:94点

ダイヤトーン DS-50C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 DS38Bとおそらく同じユニットをフロアタイプにまとめた製品だと思うが、念のため、38Bと一緒に比較試聴してみた。まず大づかみにいえば同じ範疇の音である。そのことをまず言っておいてこまかな比較をすると、38Bではことに重く鈍く感じた低音域に、開放感ともいえる軽さ、(といってもあくまても同じ兄弟という枠の中での話だが)が出てくる。また全音域を通じて、38Bよりも音が空間に浮かび漂う感じが出てくる。それらの差はわずかとはいっても、総体には38Bより聴き疲れしにくい。あるいは38Bほど自己主張が強くないといおうか、ランクが上がった音質といえる。なお、この製品にかぎらず、フロアタイプであっても概して台の上に乗せた音が、音のもやつきがなくなる傾向があるが、50Cの場合も、ブロック1~2個分上にあげた方がよい。カートリッジについては38Bのところで書いたと同じことがいえる。これだけの音の密度にさわやかさが加わったら、もっと好ましい音になるのにと思う。

採点:85点

Lo-D HS-400

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 低音から高音にかけて音域上の欠落感はほとんどなく、たとえばHS500で中低域にやや音の薄い部分があったのにくらべると確実に改善されている。国産でたとえばテクニクスやトリオの音の輪郭に毛羽立ったような、またはどこか粉っぽいような感じのつきまとうのにくらべると、HS400の音はきわめてクリアーという感じがする。ところがこのクリアーさは、私にはとても独特で奇異な音に思える。というのは、たとえば弦楽器の合奏の際に、いわばざわめきのような、楽器の周囲に漂うような雰囲気が生じ、それはレコードにもたしかに録音され、たいていのスピーカーではそれが再現されると私は思うが、HS400からはそういう音がまったくといっていいほど聴こえてこない。もうひとつ、すべての音に独特の色がつく感じで、いわば音楽を淡い黄色の半透明ガラスを通して眺めるような、あるいはゼリーで練り固めたような、土産物によくあるプラスチックで鋳固めた置き物のように音楽が聴こえる。奇妙な体験だった。

採点:65点

テクニクス SB-6000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右に思い切り広げて設置して、適度に壁から離し、ブロック1~2個程度の頑丈な台に乗せる。そして、両スピーカーから等距離の正しい聴取位置で聴くと、眼前に、幕を一枚取り除いたような空間の広がりと奥行きが展開する。こういうエフェクトを楽しく聴かせるのが、今回のSB5000と7000を含むテクニクスの新シリーズの共通の特徴だ。この感じは、最近のヨーロッパ系の優秀なスピーカーシステムが聴かせてくれるエフェクトと同質だがSB6000の場合、この価格、ということを考えに置くと、音質の方に2~3注文をつけたくなる。第一二、SB5000のところでも書いたが音を隈どる輪郭の質感に、なんとなくザラつく感じ、この価格としてはもうひとつ磨きが不足しているような感じが残ること。もうひとつ、小音量のときは良いがパワーを上げると、弦や声で中域に多少きつい感じが出てくることだ。むろん、それらは水準以上のスピーカーシステムであることを認めた上での注文だが。

採点:88点

ダイヤトーン DS-38B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 DS28B(36号237ページ)やDS261で、ダイヤトーンのスピーカーにしては中域をおさえてよりナチュラルな方向に近づいていることを書いたが、38Bになると、再び中域に密度を持たせてがっしりと構築した特徴のある音色が出てきている。楽器の音ひとつひとつが、ほかのスピーカーよりも重く聴こえる。眼前に奥行きをともなって爽やかに展開する傾向のレコードをかけても、厚手の緞帳を通して鳴ってくるような、鈍い錆色のような音に聴こえがちだ。ジャズのコンボでは中域の密度の高さが一種力強い迫力を聴かせるが、低域がそれにくらべて重く、高域ももっと爽やかに延ばしたくなる。総じてハードなタイプのポピュラー系が最も無難で、それもオルトフォンVMS20EやB&O・MMC4000のようなカートリッジだと音がベタついて鈍くなるので、シュアーV15/IIIのようなアクの強いカートリッジで強引にドライブする方が合うと感じた。台はあまり高くない方(20~30センチ)がよかった。

採点:79点

サンスイ SP-6000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 SP4000と並べて切り替えながら比較試聴したが、当然のことながらまったく同じシリーズとして、よく似た音質につくられていることがわかる。その上でこまかな比較をするなら、エンクロージュアやウーファーがひとまわり大きくなったために音にゆとりが生じている。たとえばピアノの音が、SP4000よりもピアノという楽器の大きさにいっそう近づいている。低音域での音のスケール感が改善されることによって、中~高音のユニットはほとんど同じものらしいにもかかわらず聴感上では、たとえばシンバルのような楽器の場合にも4000よりも楽器の大きさがよりよく再現され、迫真感あるいは現実感が(その差はわずかであるが)確実に増している。しかしその反面、たとえばバルバラの唱うシャンソンなどで彼女の声がいくらか重くあるいは太くなる傾向があって、比較上は4000の方が線が細いが演奏されている場の空気感のような要素がいくらか優れていることがわかる。他の点は4000の項を参照して頂きたい。

採点:82点

ビクター SX-5II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 どちらかといえばスタティックで控えめな、彫りの深さや音の艶に不足を感じる柔らかな音色だが、ことにクラシック系のオーケストラを鳴らしたときの、弦の自然な響きには、国産の攻撃的な音の多い中で改めて評価をし直した。細かいことをいうと、弦のオーヴァートーンにややケバ立つところがあったり、そのせいか倍音だけがやや離れるというか、または基音と倍音との間に僅かな不連続があるともいえるが、クラシックのコンサートプレゼンスとでもいうべき自然な柔らかい響きは、国産スピーカーの多くについて最も不満な部分であるだけに、多少の弱点はあっても価格とのかねあいその他で、良いスピーカーのひとつに数えてよいと思った。ピアノや打楽器のアタックには少し弱い。また、スピーカー自体の音は平面的な傾向なので、カートリッジやアンプの方に、表象の豊かさ、彫りの深さ、音の艶など生かす製品をうまく組み合わせて弱点を補う方がいい。高い目の台、左右にひろげて、背面は壁面から離した方がいい。

採点:91点

セレッション UL6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 外形の小さいこと、それに価格を頭に置いて聴くと、小型らしからぬ低音の厚みやスケールの豊かなことに驚いてしまう。といってもたとえばアルゲリッチの新しい録音(36号120ページ)を鳴らすと、グランドピアノの実体感を鳴らすのはとても無理なことがわかる。が、その点を割引いても、十分広い全音域に亘って上品な艶と品位を保って、イギリス製品にありがちの中域の薄手なところも感じられず、みごとなバランスで聴き惚れさせる。あまり神経質でないところがいい。しかしそれでいて、トーンコントロールでハイを上げるとおもしろいほど敏感に反応するし、カートリッジやアンプの音色の違いにも正確に応える。私個人の聴き方からすると、EMTのような解像力の鋭いカートリッジや、そういう傾向のアンプでドライブする方がいっそう音が生きてくる。大きさから考えても、ピアノの再生能力から考えてもサブ(セカンド)スピーカー的な存在だが、しかしそれではもったいないと思える程度のクォリティを示す。

採点:91点

オンキョー M-6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 オンキョーのスピーカーが、また変身を試みた。まず感心したのは低音のよさだ。楽器の動きが実に軽やかで自在。箱鳴り的なブーミングがほとんど感じられず、ベースやピアノの低域の実体感をニュアンスをこめてよく再現する。ただし以上のような低音を聴くには、ブロック1~2個分の(低めの)台に乗せて背面を壁に近づける方がいい。高い台で壁から離すと低音が不足する。2ウェイにもかかわらず、中音域の抜けた感じが全くないという点、低音・高音両スピーカーの中音のコントロールがうまくいっているのだろう。ただ、手放しで感心してもいられないのは、中~高域以上の音色に、硬い頑固な表情がつきまとう点で、ことに弦やヴォーカルを不自然に聴かせる。反面、コンボジャズ等のスネアやシンバルの音が、腰くだけにならず実感豊かに輝くあたり、ふっと聴き惚れさせる良さがある。ただしこの製品も試作の段階で、市販までに中~高域はもう少し改善されるそうだから、期待のもてるスピーカーのひとつといってよいだろう。

採点:88点

サンスイ SP-4000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中域の密度が濃く、音がよく張り出しながら抑制を利かせたやや硬質な音。これは日本人の持っている音の感覚のパターンの中のひとつの典型といえるのかもしれないが、音をコントロールしてゆくにつれて、中域を張り出させ、しかもピークやディップなどの欠点をおさえこんでゆくプロセスで、どちらかといえば音楽の柔らかな表情をも少々抑えこみすぎてしまう傾向を生じる。また、ポピュラー系の音でなくクラシックのオーケストラを鳴らしたとき、中~高域の倍音の方に引きずられて音がハスキーになったり厚みを欠く傾向を聴かせやすい。非常に凝ったホーントゥイーターだがオーヴァートーンの領域でもう少し爽やかさを出して欲しい。ただし試聴の当日、本機が量産試作の段階であったことをお断りしておく必要がある。ビクターJS55と同様、とても良い素質を持っている。いままでの山水のスピーカーとはずいぶん変って、オーソドックスにアプローチした製品だ。うまく仕上げて久々に喜ばせて欲しい。

採点:82点

ビクター JS-55

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 とても輝きのある積極的な音、とまず感じたが、聴き込んでゆくにつれてその輝かしい音は、どうやらトゥイーターの部分でつくられた音で、それ以下の中音や低音の音域では意外に渋い音色を持っていることに気がつく。ただし試聴当日の製品は期日の関係でまだ量産に移る前の試作品だったそうで、市販までにもう少し音の変わるというコメントつきであったが、試聴記についていえば、コーン型の低音や中音の表情の豊かで、しかし中庸な音色に対して、ホーン型トゥイーターがひときわ線の細いキラキラ輝く倍音を乗せてゆくという感じで、それが曲に酔ってとても効果的に聴こえたり、低~中音に対して高音の倍音領域だけ音色がかけ離れて鳴る感じがしたりで、まだ十分に練り上がった音とはいいかねた。ただ本質的にはなかなかいい素質を持っている。この特徴のある高域の輝きと爽やかさ、または音の切れこみのよさを、表面の華やぎでなく内面の魅力として生かすことができたら、かなり特徴のあるスピーカーが生まれそうだ。

採点:82点

トリオ LS-101

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 すべての音にやや響きをつけ加えるという感じから、あるいはヨーロッパ系のスピーカーの良さを手本にしているのか、と思われる。DS261と較べるとその点がまず対照的で、三菱がすべての音に抑制を利かせて音の輪郭をかっちりとくまどってゆくのに対して、トリオの音には手綱をゆるめた自在さが聴きとれ、華やかさ、明るさを感じる。そういう音色のせいか、音像の定位は比較的シャープだが奥行きが出にくい傾向があり、やや張り出しぎみの平面上に定位する。ただ、音の響きのつき方は、たとえばフルートのソロでいえば息の漏れる音が少々サワサワとノイズっぽくなる傾向で、中~高域にもう少しまろやかで滑らかな磨きをかけて欲しい気がする。そういう音のせいだと思うが、このスピーカーは、価格的にはやや不相応の品位の高いアンプやカートリッジで鳴らしてやらないと、右の傾向が裏目に出やすく、組合せに失敗すると、汚れっぽい音を出すことがありそうだ。しかしこういう、弱点スレスレのところでまとめた音は国産には珍しいといえそうだ。

採点:85点

ダイヤトーン DS-261

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 型番からも明白だが音を聴いてみて、251の兄弟であることが明らかに聴きとれる。251もそうだったが261も、本誌標準の50センチの台よりも低めの、20~30センチ程度の台に乗せる方がバランス上好ましい。総体的に同社各型に共通の、中域のよく張ったやや硬質の音色だが、その範囲でどてプログラムソースも一応過不足のない音で聴かせる。ただ、音の硬い傾向にしてはステレオの音像がスピーカーの向うに引っこむ形で定位するし、音像にいまひとつシャープさを欠く。音の繊細な余韻をやや抑えすぎる傾向があるためかもしれない。そういう面が生きてくると、弦の音などにもっと漂うようなしなやかさが出てくるにちがいない。もうひとつ、解き放たれたような弾みのある楽器の低音に対して261の低音は(251と似た点だが)ごく僅かとはいえ、箱の中でこもって出きらないという感じが自然感をやや損う。しかしアルゲリッチのピアノなど、SB5000と比較すると音の品位という面ではこちらの方がやや上、という感じだ。

採点:88点

オーレックス SS-470DS

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 色でいえば薄ねずみ色を感じるような音。もう少し具体的にいえば、テストレコードの中の、ヴィヴァルディの協奏曲をヴェニス合奏団の演奏したエラート盤(36号120ページ参照)を鳴らしたとき、ヴェニスのあのどこまでも明るい澄み渡った空が、どんより曇ってしまったような、そんな感じの音に変ってしまう。おそらく物理特性的には周到にコントロールされたスピーカーであるらしいことが、たしかに聴きとれる。このメーカーのスピーカーは一貫して、耳ざわりなやかましい音を一切出さない方針のようで、中域を張らせずむしろおさえ込んだバランスに仕上っている。低音も共振がよくおさえられ、イヤな音を鳴らさない。音像定位の面でも、ややスピーカーの向うに引っこむ傾向だが、一応無難にひろがりと定位が聴きとれる。台の高さは50センチぐらいの高さの方が、分離もよい。つまり耳をいわば測定器的に働かせるかぎりでは欠点の少ない音なのだが、レコードにはもっと生きた鮮度の高い音、人間の情感が録音されている筈だ。

採点:73点

ソニー SS-3150

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 スピーカーの総体的な音の傾向とバランスを掴むために、私はまずクラシックのオーケストラのレコードをかける。この製品は、あまり明るい音がしにくい。というよりも何となく音に生気が欠けている。音の表情が硬い。次々にレコードをかけかえてみても、音楽の鳴り方がひとつの鋳型に無理にはめこまれるような感じで鳴る。やわらかい音ではないがやかましいという音でもない。けれど弦や女性ヴォーカルのしなやかさ、みずみずしさが聴こえてこない。最初50センチの台に乗せてみたが、これではシンフォニーの低音の土台が弱すぎるので、その半分の高さまで下ろしてみた。すると逆に低音がドロドロこもるので、結局50センチの台で背面を壁に近づける方がましなことがわかったが、ベースの音にどこかゴムを叩くような鈍さがつきまとって満足のゆく状態が得られにくかった。優等生的に注意ぶかく仕上げられた製品らしく思えなくもないが、私には、どういう製品に仕上げたかったか、その意図のつかみにくい音だ。

採点:70点

ヤマハ NS-470

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 どんな種類の音楽を聴いても、バランスの上でどこかおかしいとか出しゃばりすぎるというようなことがなく、ややマジメながらほどよく聴かせる点は、さすがに音楽をよく知っているメーカーの製品であることを思わせる。ただしあくまでも、この価格の枠の中でという前提つきでうまくまとめた音、というべきだが。テストレコードの中で、たとえばバルバラの唱うシャンソン(前号120ページを参照)から、人間の情感のようなものを、いちおう、と条件をつけてもまあそれほど不満なく聴ける。そういうプログラムの場合は50センチぐらいの高めの台の方が、音の立体感やプレゼンスがよく出てくるが、新しい録音のシンフォニーなどでは、もっと低い台で背面も壁に近づけ気味でないと、低音の土台の量感に不満が残る。全音域のバランスはそういうくふうで満足のゆくところまで合わせこめるが、本質的に生真面目なところがあって、いわばおもしろ味を欠く傾向がある。まじめサラリーマンといおうか。アンプやカートリッジでその面を補いたくなる。

採点:83点

テクニクス SB-5000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右のスピーカーの置き方と聴取位置の関係を正しく選ぶと(36号96ページの図d)、ステレオのひろがりと定位と奥行きを、みごとに展開して聴かせる点、やはりSB7000の兄弟の良さだ。音のバランスは、低音から高音までの出っ張り引っこみをよくおさえて、やかましさの少ない、欠点の指摘しにくいところまで仕上っている。価格の割にキャビネットの大きいせいもあるためか、国産のローコストグループの中では、低音も豊かだし音にふくらみも適度の艶も一応あって、楽しめる製品といえる。ただ、オーケストラでもソロでも、ベースの低音域あたりにやや箱鳴り的な締りのない色がついて自然感を損ないがちで、フロアータイプだがブロック1~2個分高く上げた方がいい。背面もあまり壁に近づけない方がいい。もうひとつ、価格からみて仕方ないかもしれないが、音の輪郭がたとえばコンテかパステルで描いた線のようにケバ立ってクリアーさを欠く傾向があって、他の面が良いだけに音の質感がもう一息、といいたい。

採点:88点

パイオニア CS-T5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 CS-T3よりはよい面を持っているがそれにしても、この音色は、私にはどうも〝尋常ならざる〟という感じで、自分自身にとって最も縁の遠いジャンルの音楽を考えてみても、こういうスピーカーの音が、どういうジャンルの音楽の再生に最も適しているのか、どうも理解の範疇を越えてしまっている。イギリスKEF社長レイモンド・クックの表現を借りれば日本のスピーカーの音は攻撃的(アグレッシヴ)だそうだが、クックほどは国産のスピーカーの音を異質には思わない私の耳にも、CS-T5やT3の音は、相当にアグレッシヴにきこえる。T3同様に、低めの台に乗せ、壁から背面を20~30センチ離したときの音が最もバランス的には納得がいった。レベルセットは中音、高音とも5の位置より動かさない方がよさそうだ。ステレオの音像のならび方もCS-T3同様に、平面的でしかもかなり音を太く表現する。したがって定位はややあいまいになる。腰の強い、線の太い、強情な音、というべきか。

採点:67点

Lo-D HS-323

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 このメーカーの一連の製品は、低音の特性に独自の主張があっていつも置き方に苦労する。本誌標準(36号「テストの方法」参照)の50センチの台ではうまくないのでその半分の台に乗せ、背面を壁にぴったり寄せるようにして、バランス上は一応納得のゆく量感が得られた。価格を考えれば多くを望むのは無理にしても、それで量的に整っても低音楽器の音階の動きや和音のつみ重なりやいろいろな楽器の音色のコントラストがもう少しはっきり出てきてくれないと音楽としての土台に不満が残る。全域を通じてみると高音から低音までのバランスは一応中程度の出来で、ヤマハ451よりも少し音の芯が硬く、音像をくっきりと形づくるが、前号
HS340MKIIで書いたと同じ意味で、たとえば女性ヴォーカルのバラードやシャンソンなどで、遊びや色艶が再現されにくく、どこかピンクヘルメット集団のような、しなやかさや情感に欠けた音でしか鳴ってくれない。音楽はもっと生きた表情を持っていると思うのだが。

採点:73点

ヤマハ NS-451

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 この価格やサイズやユニット構成の製品に、高価格帯のような音のスケール感や積極的な魅力を望むことは無理であることを断わった上で、正攻法に、まじめに取り組んで成功したスピーカーだといってよいと思う。弦、管、打、いずれの楽器にもヴォーカルにも、ことさらの強調も不足もあまり感じさせずに、一応納得のゆくバランスを聴かせる。音はどちらかといえばソフトな方で、たとえば1000Mのあの鮮鋭な音よりは690の系統に近いが、小型の割には音の肉づきがよく、やせた感じ、貧弱な感じがしないで、どんなレコードをかけても安心して音楽に身をゆだねておくことができる。当り前のことながら国産のこの価格帯には、このことひとつでもまだ満足できる製品が少ない。使いこなし上の注意としてはあまり低くない台(30~60cm)に乗せ、背面を壁にやや近づけて低音の量感を補う方がよさそうだ。カートリッジは、オルトフォンVMS系では弦に良いがピアノには少し柔らかすぎ。シュアーV15/IIIの系統の方がその面ではよかった。

採点:88点

パイオニア CS-T3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 同クラスの他社製品と比較して飛びぬけて能率がよく、ふてぶてしいほどアクの強い音を鳴らす。パワーをぐんぐん加えても腰がくだけない。きわめて攻撃的な音である。とうぜん弦や女性シンガーのやわらかな艶っぽさ、色っぽさなどという要求をまるで受けつけない。ためしにトゥイーターを絞りこんでみたがこれはウーファーそのものの性格で、むしろ逆にレベルセットを目盛4ぐらい(やや強調ぎみ)にセットしてこのハードな音色を徹底させてしまう方が救われる。高め(50cm)の台に乗せるより、ブロック1個分ぐらいの低い台の方が音が落ちつくが、それで本質が変るわけではなく、クラシック系は敬遠したいスピーカーだ。そういう音のわりには、音像の並び方が一列横隊的で、平面に投影されたようなきこえ方をする。二万円しか出せないユーザーはこんな音を好むだろう、みたいな作り方にはあまり好感が持てなかった。ロックやソウルの愛好家が、ほんとうにこういう音で満足できるのだとしたら、私は考え方を変えなくてはならないのだが。

採点:65点

アルテック Belair(組合せ)

岩崎千明

スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’76(1975年秋発行)
「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ25選」より

●組合せ意図、試聴感
 おそらくこれを見たマニアは、誰しもむしょうに欲しくなってしまうだろう。マニアとしての熱が高ければ高いほどに。マイクロの新型ターンテーブルDDX1000だ。
 いずれ新たに本誌をはじめ、多くの誌面を賑わすに違いないこの、ユニークなターンテーブルは、従来のプレイヤーの概念をまったく変えてしまった。
 手段と目的とを、豪華な形でこれほどまでに見事に結合した製品は、オーディオ界全般を考えてみても滅多にあるまい。まさにプロフェッショナルな現場で活躍する、カッターレース用のターンテーブルを、そのまま切り取ってきたとでもいえようか。プロフェッショナルな豪華さを、これほどまでに徹底的に意識して追求したターンテーブルは、他にあるまい。
 このマイクロのDDX1000を入り口に置いて、このコンポはスタートした。だから、メカニカルでプロフェッショナルなフィーリングを、コンポ全体に置こうと意識して、モニター的スピーカーを選び、マニア的マランツを選んだのだ。それも、プリアンプ、パワーアンプと確立した、セパレート型アンプだ。♯3200と♯140の組合せがそれである。
 さて、アルテックのベルエアは、すでにデビュー以来数ヶ月、しかし、商品の絶対数が足りず、よって日本市場での需要に応じ切れず、ディーラーはその対処に弱っているとか。ブックシェルフ型とはいえ、サウンドの上でも、またグリルを外した外観上にもモニター的な雰囲気をぷんぷんと生じる、オリジナル・アルテックの2ウェイ・システムの新製品なのである。
 このアルテック・ベルエアを思い切り鳴らしてくれるアンプに同じ米国西海岸(ウェスト・コースト)の、今や全米きっての強力きわまるアンプ・メーカー、マランツが登場するのは少しの不思議はないだろう。♯3200は、例の大好評の♯3600をベースとした、ジュニア型ともいえるプリアンプで、それとコンビネーションになるべき♯140は、先頃発売されたプリメイン・アンプ♯1150のパワー部を独立させたものともいえる、ジュニア型のパワーアンプだ。ともにデビュー早々で、特に日本市場の高いレベルのファンを意識した商品であろう。
 パワーアンプは、深いブルーに輝く大型VU計をパネルに備えて、みた目にもマニア・ライクだ。
 期待した通り、サウンドはマランツの共通的特長の力強いエネルギー感の溢れるものだ。それは70W+70W以上のパワー感をもってベルエアを、文字通りガンガンと鳴らしてくれた。ベルエアはそれ自体、朗々と鳴ってくれるシステムだが、その期待をさらに高めさせたのがこのマランツのサウンドだろう。ややもすると響きすぎのベルエアの低域は、マランツの力によって内容を充実した味を濃くしたといえそうだ。緻密なサウンドとなったこのベルエアのサウンドの響きは置き場所を選ぶこともなくなっただろう。
 プレイヤーのハウリングの少なさは構造上の特質としてアピールされるが、ベルエア-マランツによって得られる十分にしてパワフルな低域も、このシステムの低域の素晴らしさを一段と高める大きなファクターといえるし、試聴に使用したレコードをも申し分ない状態で再生できた。

●グレード・アップとバリエーション
──「ミンガス・アット・カーネギー・ホール」がすごくごきげんに鳴っていて、私達にしてもかなり楽しめたと思うんです。
岩崎 そうですね。でも、このベルエアというかなりの高能力スピーカーを持ってしても、なお♯140というマランツの70W+70Wのパワーアンプではドライブしきれない面がありました。どうしてももっとパワーが欲しいなと思いましたので、さらにパワー・アップを図るべく、同じくマランツの♯240を追加することで良好な成果がえられたと思います。♯240はメーターの付いていないタイプですがメーター付きの♯250と同規格製品です。予算とかデザイン、すなわち好みに合わせてどちらかを選べばいいと思いますが、ここでは実質一本やりで♯240としました。
──歴然と差が出ましたね。
岩崎 音の力強さが格段に違いますね。パワーの差だけではない、音のエネルギーそのもののグレード・アップだと思いますね。しかし、価格以上のものは得られていることの証拠に、音の出方そのものの、リアリティまでさらに一段と加わってきたと思うんです。本来はソウルフルな、黒い音楽を楽しもうということでプランをスタートさせたわけですが、パワーアンプを♯240に替えることで、さらに忠実度の高い、プレゼンスに富んだ、ジャズの熱演をより一層リアルにとらえることができましたね。
──そうですね。まさに狙い通りといったところでしょうか。加えて音そのものを一段と研ぎすまされたものにしようというお考えのようですが。
岩崎 音の輪郭をクリアーにし、エッジをとぎすますという意味ではカートリッジでのグレードを上げてみました。最初に用いたグレースのF9Lを最近発売されたピカリングのXUV4500Qにかえてみようと思いました。この他にも海外製品ではスタントン681EEE、エンパイアなど、いろいろ考えられるわけですが、現代的なサウンドを非常に広帯域で、しかも技術の新しさも感じるXUV4500Qを用いました。これは、この場合非常に成功したと思いましたね。一般に、このピカリングのカートリッジは、音がはね上ると言われていますが、決してそんなことはなく、確かにスタントンの方が落ち着いた音がしますが、XUV4500Qでは一聴してレンジの広さを感じさせる、フラット・レスポンスで、高域での解像力は抜きんでていますね。現代アメリカのハイファイ技術の最先端を行く、良さというものが各部にびっしりとうずめつくされているといった感じがしますね。
──そうですね。レコードの録音の良さがまさに明解に表現されているといった感じのサウンドのようですね。
岩崎 たとえばここで聴くキース・ジャレットにしましても、その透徹したサウンドが一段と透徹してくると申しますか、どちらかといえば、録音の良いレコードほどその真価を発揮するシステムだと思うし、またカートリッジをピカリングにすることでその傾向がさらに強まったと思うんです。音のメカニズムというものを、ずっと深くつきつめて考えていった場合、どうしてもこうしたシステムを組むことが私には必然性を持ったものに感じられますね。