Category Archives: スピーカーシステム - Page 61

ラウザー Auditorium Acousta

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 少し古い世代の製品で、独特の持ち味で聴かせるスピーカーだから、現代のモニター系を聴くような尺度とは正反対の聴き方をしないと、良さが理解しにくい。とくにこの製品は、正面と背面とに音を分散放射するタイプだから、部屋の音響条件や置き方の変化によって大幅に音色やステレオ効果が変化する。今回の試聴では必ずしも最適の配置ができたとはいいにくいが、それでも、ことにヴォーカルやコーラスの場合に、一種独特の温かみをともなって、多少の古めかしさはありながら品の良い響きで不思議に幸福感のようなものにひたることができる。オーケストラも、あまりパワーを上げずに、トーンコントロール等でうまく補整すると、端正な、音を分析するよりも全体にくるみこんでしまうような、滑らかで品の良い響きで聴き惚れさせる。古い録音、小編成の曲、渋い曲に向いている。反面、新録音のスケールやダイナミックス、或いは解像力の良さなどを鳴らすだけの力はない。アンプ、カートリッジもそういうカテゴリーから選ぶとよい。

ヤマハ NS-1000M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 テクニクス7といろいろな意味で対照的。総体に抑制を利かせてゼイ肉のない、鋭角的かつ鮮鋭な音。テクニクスの暖かさ、豊かさに対して細身で冷徹。箱の共鳴音もほぼ完全に抑えているので、ハイパワーでも音のくずれや濁りが少なく、低音のファンダメンタルの音域でも音階の動きが明瞭に再現される。反面、低音楽器の低次倍音領域(200~500ヘルツ附近)でやや抑えすぎのような印象もある。音の肉附きを少しそぎ落しすぎのような印象もある。要するに総体に抑制を利かせた細身の音質。しかし音の品位はすばらしい。Nす690などと切換えて聴くと、こちらの方が金属的な音がするが、これにかぎらずJBLでもタンノイでも、金属系の振動板を持ったスピーカーは、角がとれてこなれるまで一年あるいはそれ以上を要する。したがって本当に長期に亘って鳴らし込まないと正当な評価ができないわけだが、しかし現状でも、クリアーそのものにすべての音を正確に鳴らし分ける解像力が、新しい魅力だといえるだろう。

KLH Classic Four

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 AR・MSTのところでも、アメリカ東海岸の製品がハイを落して作ることを書いたが、同じボストン生まれのKLHのこの新型が、偶然そのことを説明してくれる。というのは、端子板のところにトゥイーターのレベル切換スイッチがついているがこの製品ではそれが二点切換えで、一方にNORMALの表示がある。問題はもう一方のポジションで、そこには何と、FLATと書いてあるではないか! つまり彼らの耳には、フラット即ノーマルではなく、ボストンの彼らの耳、ないしは東海岸のかなり多くの人たちの耳には、フラットよりもやや高音を落しかげんにセットした音が「ノーマル」に聴こえるという事情を、この製品が物語ってくれる。私はFLATのポジションで聴いた。モデル5や6のやや乾いたしかし暖かい音色をこの新型も受け継いでいるが、どういうわけか、音のバランスでは6型が、総体的な響きの良さでは5型の方が、それぞれ完成度が高いように、私には思えた。カートリッジでは、シュアーやエンパイアが良さを引き出す。

エレクトロボイス Interface:A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 キャビネットの背面の音の一部を放射するという、オーソドックスな製品とは違う作り方なので、ふつうの評価尺度をそのままあてはめるわけにはいかない。が、EVのスピーカーが昔から持っていた耳当りの良いまろやかなバランスはこの製品にも受け継がれている。東海岸系の一部のスピーカーのような反応の鈍さがない。音量を絞ってもハイパワーを放り込んでも、一貫して過不足のないやわらかなバランスの良さで、クラシックでもジャズでも、適度に渋い表現で楽しませる。構造上、バックの壁面から離す距離によって音のエフェクトが変るが、試聴時は壁から50センチほど離し、あまり低くない台(50センチ~60センチ)に乗せたときが、部屋の中いっぱいに音が広がる感じでよかった。ただし、こういう音質ではオーソドックスなスピーカーのようなシャープな定位は出にくい。その反面の、やわらかくひろがる響きを楽しむというタイプだから、居間などで上等のステレオの響きをムードとして楽しむという目的にその本領を発揮しそうだ。

テクニクス SB-7000 (Technics7)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 かなり複雑な構成のオーケストラ曲でも、パートごとの音の動きや和音の積み重なりや、一音一音のニュアンスに至るまで、みごとに解像して聴かせてくれる。当り前といいたいところだが、こういう鳴り方のスピーカーはそんなにザラにあるわけではない。ステレオのひろがりも音像定位もきわめて満足すべき結果を示した。ただ、この製品は、フロアータイプであるにもかかわらず、ブロックなど堅固な台を30センチ以上積んで、できればスピーカーとの間にインシュレーターを挿入して、キャビネットの振動を床に伝えないようにすることが望ましい。また、背面及びキャビネットの両サイドを左右の壁面から十分に離した方がいい。あらゆる面でヤマハ1000Mと対照される製品だが、ヤマハのクールな鳴り方に対して暖かい音。ただし低音の豊かさが楽器によってはやや締りの不足を感じさせたり、わずかながら箱鳴り的な鳴り方に聴こえる。9万円の製品には高望みかもしれないが、さらにここに極上の品位やつやがくわわれば最高水準に仕上がるはず。

トリオ LS-700

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 少し前までの国産スピーカーが総じて持っていた饒舌さをこの製品はまだ持っている。たとえばオーケストラを鳴らしてみると、実際の演奏以上にスピーカーの各ユニットがよく鳴り響くという感じで、スケールの大きな反面、騒々しさと紙一重のところまで音を派手やかに鳴らす。また、総体にピッチを上げたような感じにも聴こえる。一言でいえば、にぎやかな音、とでもいう感じである。バランス的にはいわゆる逆カマボコ型あるいはドンシャリ型と呼ばれるタイプで、低音と高音の両端をやや強調して中域をおさえる方向にまとめられている。この意味では少し前のイギリス系のスピーカーなどに聴かれた作り方を意識しているのかもしれない。この系統の作り方には、やや手綱をゆるめた感じの鳴り方がともなうため、よけいに音の締りが不足のように思える。ただLS700の音には、どこか硬い芯があって、そこが何となくチグハグな印象であった。音のバランスや音像の立ち方を引き立てるには、組合せや置き方を十分研究する必要がある。

アルテック X7 Belair

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 いままでのアルテックの音という先入観で聴くとちょっと戸惑うほど、違った音質になっている。むろん昔から一貫している音の味わいの濃さ、あるいは一種脂の乗ったような線の太い、表情の豊かな表現というアルテックの特徴は十分に受け継いでいる。が、以前のアルテックからみると、高音のレインジが別もののように拡張している。そのために、アルテックにしてはびっくりするくらい、楽器の高次倍音のニュアンスや、演奏にともなうざわめきのような雰囲気を鳴らしてくれる。ただしその鳴り方は必ずしも繊細緻密という感じとはいいきれず、どこか大掴みで、まだ十分に練れているとはいえない元気の良い感じがつきまっているが。このスピーカーは割合低目にセットする方がいい。トゥイーターのレベルセットが連続可変なので、大掴みなバランスがとれたあとは、やや時間をかけて細かく合わせこんでゆく必要がありそうだ。ヨーロッパ系の品位やデリカシーを重んじる作り方とは正反対の大味な表現が、好きか嫌いかの分れ目になる。

パイオニア CS-T88

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 T66と並べて鳴らしてみた。低音から高音までの全域にわたってバランスのいい、やかましさのない音質は明らかに同じ兄弟だが、そこに練り上げられた音のまろやかさ、スケール感、音像の再現の確かさが加わって、すばらくしよくこなれた、完成度の高いスピーカーに仕上っていることが感じられる。総体にいわゆるカマボコ特有の、つまり中域の密度の高いそして高域のオーバートーン領域にかけてやや抑えこんだ感じの、丸味のある緻密な音で、それはことにピアノの音など、打鍵の音に余分な夾雑音をつきまとわせたりしないで、コロンと鳴る丸味のあるタッチが気持よく鳴ってくれる。ヴォーカルも、上ずったりハスキーになったりせずに、キメこまかくニュアンスもよく出てくれる。ただ、木管の音や肉声の持っている一種あたたかく湿った、ふくらみのある艶、のような要素が、どうも十分に鳴ってくれるとはいえず、そこがもうひとつ何か足りないと感じる要素のひとつかもしれない。レベルセットは指定どおりが最良。高めの台が良好。

フォステクス A-300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 こまかな一音一音に鋭敏に反応するというタイプとは正反対の、いわばおっとり型というのか。総体に音像を大掴みにとらえて、線を太く鳴らす傾向である。だからといっていわゆる耳あたりの良さとか柔らかさというのではなく、たとえばオーケストラを鳴らしたとき、全体のバランスは一応過不足なく捉えているものの、演奏の微妙な表情あるいは繊細なニュアンスをも、どことなく一色に塗りつぶしてしまうという傾向があるし、パワーを上げてゆくと、おっとり型にしては意外にどこか硬い芯があって、どうやら相当に自己主張の強い、いわゆるカラーレイションの強いスピーカーであることがわかってくる。聴感上の周波数バランスでいうと、ハイをどこまでものばすというタイプでなく、むしろおさえこんでしまう方向で、爽やかさの出にくいタイプである。この傾向は、スピーカーのレベルコントロールでは直すことができなかったので、やはり製品自体の個性だと思う。置き場所の変化にはあまり敏感でない方。

アコースティックリサーチ AR-MST

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 梅雨の長雨の最中で、ARにとっては非常に具合の悪い環境であったにちがいないが、どことなくいじけた、明るさや弾みに欠けた音で鳴りはじめた。もうひとつ困ったのは、極端にハイが落ちたバランスで鳴ることで、これはARやKLHなどアメリカ東海岸の製品に共通の作り方だということは知っていても、少なくとも現代のハイファイスピーカーの流れの中では、高音を落しすぎではないかと思う。言いかえれば、この音は、アメリカ東海岸の一地方色とでもいうべきで、日本やヨーロッパの現代のスピーカーの音の掴え方からみるともはや異色の作り方である。こういう特徴のある音は、この音を好むか嫌うか、聴き馴れるか馴染めないかという問題になるのだろう。レベルコントロールを最大(インクリーズ)、カートリッジをエンパイア4000DIII、アンプのトーンコントロールでハイを上げて、バランスとしてはまあまあ整ったが、それとは別に音の余韻あるいは響きを抑える感じの、あるいは艶を消す傾向の鳴り方が、私にはどうしても馴染めない。

JBL L16 Decade

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 小柄なくせに、ハイパワーで鳴らしてみると、信じがたいような堂々としたスケール感を聴かせて、少しも音がくずれない。JBLの一連の製品に共通の、クリアーで芯のしっかりした、カリッと詰まった音色をやはり受けついでいて、ことに打楽器を主体としたプログラムに対して、右のような偉力をみせる。ところが中音から高音にかけて、やや線の太い、どこか鼻にかかったような独特の音色を持っていて、弦やヴォーカルの音色に相当に個性の強い色をつけて鳴らすし、その鳴り方が本質的にドライなところがあるため、弦や声の内包している情感のような面を一切断ち切ってしまう。JBLの製品は、総体に贅沢の上に成り立っているので、ここまでコストダウンするのはもはや無理なのではないか。トゥイーターのレフベルセットをいろいろいじってみたが、結局「0」(ノーマル)以外にやりようがなかった。カートリッジはオルトフォン(VMS)系よりもシュアー、エンパイア系が合う。やや低めの台、壁にあまり近づけず、左右に拡げ気味にセットしたときがよかった。

ビデオトン D402E Supermax

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 これを聴いたあとしばらくのあいだは、何かほかのことで気分転換をしてから次のスピーカーの試聴にかからなくては、ほかの音がすべてピンボケのように聴こえる。それくらい特徴のある、ものすごくメリハリの利いた、艶々しい、彫りの深い、そして聴き手をいつの間にか引きずり込んでゆくような、説得力というのか深情けというのか、それともインティメイトというのか、どうも言葉の方が上すべりしているような、何しろ独特の音を聴かせる。ではこれが不自然に作られた人工的な音なのかというと、そうもいえない。聴いているうちに、たしかにナマの楽器の音にはこういうシャープな艶があるとおもえてくる。おそろしく化粧の濃い顔かと思ってよくよく観察するとそれが彫りの深い化粧気のない健康な顔であることに気づく、というような感じで、もういちど自宅でゆっくり聴き込んでみたい気がするし、この音にとりつかれたらほかのスピーカーなんか嫌になるのじゃないか、という気にもなる。なにしろびっくりした。

オットー SX-661

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 551のところでも書いたが、OTTOのスピーカーは、このシリーズから注目すべき水準に仕上ってきた。551とくらべると、こちらの方がいっそう中~高域が抑制され、相当にパワーを上げて鳴らしても、刺激的な音の成分がきわめてよく除かれている。大編成のオーケストラを、フォルテのアベレージ90dBていどのパワーで聴き続けても、やかましくないし聴き疲れしない。発売当初の製品は、この面でやわらかさ、繊細さの度がやや過ぎた嫌いがあったが、今回試聴した市販品では、音の粒立ちも適度に改善され、こまやかなニュアンスが非常によく出て、音楽のバランスを失わずに、単に無難という線をたしかに越えたところで自然に色づけ少なく、いつまでも聴いていたい、と思うような魅力を保って鳴らす。総体には繊細型、おとなし型のヨーロッパ型だが、この価格の国産品としてぜひ一度は耳にして欲しい注目作だ。割合高い台に乗せて、壁面から離し気味にして、しかもやや低音を補整して鳴らすのがこれを生かすコツといえる。

デュアル CL172

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 とてもバランスの良い、上質の響きを持ったスピーカーだ。価格の割には小型で、低音弦の胴鳴りのようなスケールの大きい響きまでを実感的に鳴らそうというのは無理だが、たとえば、カラヤン/ベルリン・フィルのエグモント序曲の場合など、この価格帯の製品の中でもことに好ましいバランスで、適度の厚みもきめの細かさもあり、内声の動きも問題なくすべてバランスして、緻密に、ユニゾンの響きも美しく聴きほれさせる。低音から高音までのバランスのとり方は、国産でいえばSX551にどこか似ているともいえるが、それよりももう少し抑制の利いた光沢を感じさせるところがやはり海外製品だ。ただしブラウンやヘコーから予想するような、かつてのドイツのスピーカーに際立っていた硬質な音はこの製品からはあまり聴きとれない。それだけいわばインターナショナルな方向に磨きをかけた音になっているわけだ。低音のファンダメンタル領域の厚みを欠くためか、わずかながら冷たい傾向の音質だが、なかなかいい味わいを持った製品だった。

ビクター FB-5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 従来のバックロードホーンの大半は、ホーンの設計の不備による共鳴や箱の共振で、低音がどろどろと鳴り響いておよそ音楽と無縁の珍妙な音を鳴らすのが多かった。それで低音に関しておよそあらゆるいじわるテストを試みた。海外の名機といわれる製品でも、無伴奏のチェロなどで、低音域のどこかの音階で共鳴からくる不自然なふくらみが出てきやすいが、FB5は、実によくコントロールされた、明るくよく弾みしかも不自然さの少ない低音を聴かせる。小型のバックロードホーンの性質上、ブックシェルフのような重低音のファンダメンタルは出にくいが、ブックシェルフとはひと味もふた味も違うしっかりした低音が出る。ただ、低音をここまで注意深く仕上げたにしては、中~高域にもっと質の高いユニットを開発して、これより高価になっても、もう一ランク上の製品をぜひとも仕上げるべきだと思った。設置場所は共鳴をおさえたしっかりした壁面と床が必要。

デンオン S-270MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 S170よりもすべての点でスケールが大きく、音に厚みとゆとりが増してきて、S170で感じられた中域のおさえられた傾向も270ではなくなって、前帯域にわたってバランスがいい。VS270以来の改良のつみ重ねが実って、さすがに完成度の高いシステムに仕上ってきている。VSのころはトゥイーターがホーン型だったのをコーン型に替えているが、これは弦楽器やヴォーカル系では、音の鮮明さを失わずにしかもやかましさやクセの少ない、さわやかに目の前に展開するというコーン型の利点が生かされている。反面、ピアノ及び打楽器の系統での立上りの輪郭がわずかながら甘くなるのは止むをえないことなのだろうか。しかし全体として音のバランスの良さは、あらゆるプログラムソースが一応それなりに聴けることから評価できる。あとは、国産スピーカーに共通に望むことだが、音の艶あるいは思わず聴き惚れさせる魅力、またとの彫りの深さや雰囲気などのいずれかの魅力をこれに加えてゆくことだろう。

オルトフォン type 225

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 全体の構成、あるいはソフトな耳あたりのいいバランスのとり方、帯域をあまり広げないで穏やかな音に仕上げるという作り方にスキャンダイナのA25との共通点が聴きとれる。同じ国の、しかも同じ系統のメーカーの製品であるだけに、世界的にみれば同じ傾向の音に仕上るのが当然かもしれないが、後発の製品にしては少しおっとりしすぎる音質に思える。試聴したのがちょうど梅雨の最中であったには違いないが、その点では他のスピーカーも同条件。よくいえばソフトだがしかしちょっと曇りすぎというか鈍重な音がして、もう少し抜けを良く、解像力を鮮明にしてみたいといろいろ試みたがやはり本質的に持っている性格まで変えることは無理のようだった。カートリッジのオルトフォンの音を頭に置いて、少し高望みしすぎなのかもしれないがもう少しひらめくような魅力があってもよさそうだ。その意味では、355がもっとクリアーな響きを持っているし、455には重厚さがある。そっちの方を試聴に加えたかった。

ダイヤトーン DS-28B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 ダイヤトーンと聞くとまず中域のよく張った硬質な音を思いえがく。過去の一連の製品がそういう路線で作られていた。ところがこの287Bから、このメーカーにしては異色といいたいほど、中域をおさえて、新しいバランスを作りはじめた。初期のロットと比較しても、さらに中域をフラットにコントロールしはじめたような傾向が聴きとれる。また高域のレインジもよくのびてきて、したがって以前のダイヤトーンにくらべると、音に爽やかさが増して、キメのこまかな、楽器の音色や奏法上の音のニュアンスの変化がより正しく聴きとれるようになった。アンプやカートリッジの音色の差やグレイドの差をそのままさらけ出してしまう点、物理特性も相当に良いことが想像される。もちろんSX551のところでも書いたように、本質はやはりダイヤトーンである。国産のスピーカーのこの価格帯で、先発のヤマハのNS670やビクターのSX5/IIを追って、SX551と並んで好敵手あらわる、という印象。

オットー SX-551

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 注目すべき製品が現われた。失礼ながらオットーといえば、スピーカーの方ではまず三流以下、という印象が否めなかったが、今回のこのシリーズは、海外のスピーカーとならべて比較しても聴き劣りしない立派な作品だ。国産品の水準がここまで上ったのかと、感無量である。決してほめすぎではないだろう。第一に帯域バランスが非常によい。中域がややおさえかげんで、やかましさや圧迫感のない、力強さよりも細身で繊細な美しさを聴かせるタイプで、その意味ではヨーロッパ系の音に似ている。SX661よりは中域が張っているが、たとえばダイヤトーンの28Bとくらべるとずいぶん中域をおさえているなと思う。したがって圧迫感のない、軽やかな美しい音質に仕上がっている。パワーを上げてゆくと中~高域にややこなれない硬質の音が軽微ながら聴きとれ、そこが今後の改良のポイントになりそうだが、中程度以下の音量では品位の高い、質感の良い、聴き惚れさせるスピーカーである。音の品位に重点を置いてアンプやカートリッジを選ぶべきだ。

パイオニア CS-T66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 音のバランス、という点ではこの価格帯の製品としては欠点が指摘しにくいほどよくまとまっている。芯の強い、中味の濃い音質ともいえる。むろんキャビネットの大きさやユニットの構成から考えても、スケール感など十分とはいいかねるが、あくまでも価格とのかねあいで点数の上がるうまい作り方だ。しかし、総体には表情がやや硬い。音の余韻あるいは響きをややおさえすぎたような感じがあって、良くいえば抑制が利いているが、しかしもう少し柔らかく楽しい表情が生きてきてもよさそうに思う。たとえば金管など太さも腰の強さも適度に漂う感じが出にくい。総じてクラシック系の場合、目の前に幕を一枚引いたようなもどかしさがあり、たとえばダイヤトーン28Bと比較すると、28Bは突然眼の前がひらけたように爽やかに感じられる。レベルコントロールをパイオニアの指定よりも、高音で一目盛上げ、中音で一~二目盛おさえる方が、クラシック系では好ましかった。

Lo-D HS-340MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 日立のスピーカーは、従前の製品には一種弱々しい感じがあったが、新しい製品は一変して、硬質の、線の太い、力強い音を鳴らしはじめた。例えばHS500の高音には、金属の細い弦がピンと張りつめて振動しているのがわかる、というような、爽やかな濃やかこさが聴きとれたが、新シリーズのトゥイーターの音は、それより表情が固くいわば清涼感のような要素が出にくいし、ことに肉声の唇のぬれた感じ、声の艶、あるいは空間にひろがってゆくような又は漂うようなひろがりや繊細なニュアンスを、一切断ち切ってしまうような鳴り方をする。低音はたしかに以前のような薄手の弱々しい感じではなくなったが、しかし聴感上の低音の豊かさが不足している。このクラスとしてはファンダメンタルがよく出ているのだが、おそらく低音楽器の低次の倍音領域のエネルギーが不足しているのだろう、楽器の弾みや豊かな表情が出にくいタイプである。全域を通して歪みっぽい音をよく抑えているのはさすがローディストーションの命名に恥じない。

デンオン S-170MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 きわめて大掴みに言えばビクターSX3IIと同じ傾向の音質。しかし細かく聴いてゆけばその性格には対照的といえるほどの違いがあり、その意味でSX3IIと比較しながらの方が説明がしやすい。第一にSX3よりも音の線が細い。たとえばオーケストラ曲で、SX3が音を渾然と溶合させて聴かせるのに対してS170は各パートあるいは各音を分解、あるいは分析的に聴かせる。中域をおさえぎみにバランスをとっているためか、やかましさや圧迫感のない、しかもよくひろがり、耳あたりの柔らかな割には音の鮮度を落さずに、明晰な鳴り方をする。オーケストラでもジャズでも、低音の土台となるベースや低音楽器のファンダメンタル領域の鳴り方では、SX3の方がピッチが低いように聴こえ、シンバルのような楽器でも170の方が帯域が上に寄る感じである。あまり高くない台に乗せ、場合によってはトーンで低音をやや補う方がよいと思う。ただ、このランクにしては聴感上の能率が非常に低いのはデメリットだろう。

サンスイ LM-033

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 011、022と聴きくらべると、さすがに大型になっただけのことはあって、低域の豊かさが格段に向上してくる。もちろん低音だけでなく全体のスケール感が大型になって、011が小型の割には朗々とよく鳴るという感じであるのに対して、033はもっと楽々と音が出てくる感じになる。中音域は011のやや抜けた感じよりも022のどちらかといえば張り出す印象に近く、022ほどではないにしてもクラシックのオーケストラの強奏でむずかにキャンつく傾向が聴きとれる。やはり本質的にポピュラー系の音感でまとめられたスピーカーであることを感じる。ただし中域から高域にかけての音のバランスや質感が改善されれば、クラシック系もこなせるだけの素質は持っている。この製品はあまり高くない(30~40センチの)台に乗せ、背面を壁に密着させて置く方がバランスがよかった。011との価格差を考えあわせると、022よりは033の方が、あきらかに高価になっただけの値打があると思う。

ビクター SX-3II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 良きライバルであるダイヤトーンのDS251/IIが中域のよく張った鮮明さで売っているのに対し、SX3/IIはどちらかといえばヨーロッパ的な柔らかな響きを大切にした作り方で、耳あたりよくソフトなバランスに仕上がっているので、ちょっと聴くとこもったような感じもするが、長い時間聴きこんでゆくにつれて、柔らかな中にも適度の解像力があって、ことにクラシック系の弦や声を主体としたプログラムに対しては、しっくり聴き込むに耐える完成度の高い音質だといえる。本誌28号でテストしたSX3に望んだ注文がほとんどかなえられて、以前の製品に比較して、中域の密度も増してきたし、やや抑えられているとはいうものの渋い艶も聴きとれる。この価格帯では内外を通じて眺めても、注目製品のひとつと言っていい。背面や側面を部屋の壁からなるべく離す方が音質の生きるタイプ。床の上に直接置いたり出窓や床の間に置いたりすると、音がこもってしまい、せっかくの音質が生かされにくい。

ヘコー SM625

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

『磨きあげたガラスのような硬質のクリアーな質感、張りつめた緻密な音、ショッキングなほど……』と表現した以前のシリーズ(本誌29号その他参照)のイメージを頭に置いて試聴をはじめて、しばらくのあいだは拍子抜けするほどがっかりした。全然変ってしまった。あの、爽快なほど気持の良い辛口の最右翼だったヘコーが、なんでこうも、ふつうの音に変ってしまったのか。こんな音ならなにもヘコーである必要がないじゃないか……。そういう感想が一応おさまってから改めてよく聴きこんでみたさすがに、クラシックのオーケストラを鳴らしても、音楽的なバランスは見事に整っている。ただ、くり返しに鳴るが以前のヘコーとは正反対のように、高域は丸くおさえこまれて、総体に甘口の、耳あたりのいい音に仕上がっている。小型、ローコストだから、低音の量感などは、使いこなしでカヴァーする必要がある。というわけでこの製品自体決して悪くないが、かつてのあのヘコー・サウンドを満喫したい向きは旧製品P4001を探すこと。