瀬川冬樹
ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より
これを聴いたあとしばらくのあいだは、何かほかのことで気分転換をしてから次のスピーカーの試聴にかからなくては、ほかの音がすべてピンボケのように聴こえる。それくらい特徴のある、ものすごくメリハリの利いた、艶々しい、彫りの深い、そして聴き手をいつの間にか引きずり込んでゆくような、説得力というのか深情けというのか、それともインティメイトというのか、どうも言葉の方が上すべりしているような、何しろ独特の音を聴かせる。ではこれが不自然に作られた人工的な音なのかというと、そうもいえない。聴いているうちに、たしかにナマの楽器の音にはこういうシャープな艶があるとおもえてくる。おそろしく化粧の濃い顔かと思ってよくよく観察するとそれが彫りの深い化粧気のない健康な顔であることに気づく、というような感じで、もういちど自宅でゆっくり聴き込んでみたい気がするし、この音にとりつかれたらほかのスピーカーなんか嫌になるのじゃないか、という気にもなる。なにしろびっくりした。
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