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ヤマハ HX-10000

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 端正に引き締まった、あいまいさのない響きは涼しげな空気感、透明感があっていい。じめじめしたウェットな暗さのない、明るい音場には、健康的でクリーンな雰囲気がある。演奏家のコンセントレーションがさらに高まって求心力もついてくる。時に、やや硬質な輝きがつくこともあるが、たとえばMC70のセラミックボディのくせをそれとなく聴かせてしまうあたり、情報処理能力の高さを物語るものだろう。
 パルシヴな響きに付随する余韻の爆風のようなエネルギー感もかなりのもの。しかも、その飛散する響きの方向性を正確に再現し、かつ強い音が重なっても音像の崩れや音場の揺れがないのは立派。強力な電源、不要共振を排除した大袈裟ともいえる凝ったコンストラクションが功を奏しているのだろう。しかし、このチカンカラー、ゴールド、木目の配色や大仰なデザインは個人的にはやや違和感を覚える。

ラックスマン E-06

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 音が出た瞬間、おやっと思わず身をのりだし、音楽を聴く心のテンションが高くなってくる、あるいは音楽そのものに、うっかり聴き惚れてしまう──、そんな響きが、ここにはたしかにあった。ディティール再現の高い精度が、楽器のアコースティックな響きを明確かつ自然に鳴らしわける。特定帯域につっぱりやたるみがなく、つながりが自然。倍音成分が素直な余韻を引きながら、音場の隅々まで自然にひろがる。音楽の立体構築がようやくみえはじめた。パルシヴな響きは凝縮されたエネルギー感をもち、透明な空間に飛散する様がスリリングだ。響きの行間に潜む闇の深さ、沈黙の意味を語りうる数少ない製品の一つといえる。ぎらつきがちな響きさえ、ややくすんだ上品な陰影感でまぶしさを巧みに抑えてくれる良さがあり、厳格なアナログディスク派のみならず、アナログ回帰を考慮中のあなた、これは必聴です。

オーディオクラフト PE-5000

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 独特の外観をもつ同社製ラインアンプPL1000とシリーズをなす製品で、それとの併用が推奨されている。シンプルな抵抗負荷2段差動NF型イコライザーで、初段はデュアルFET構成カスコード接続としている。
ゲイン36dBという数字からもわかるように、入力はMM用端子1系統のみ。一切のセレクター類およびレベルコントロールを省き、回路を単純化することによって、音楽信号の劣化を防いでいる。

ラスク R-5430AL

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 サーフェイスノイズは、粒子が細かく、軽く、さらっとしたタッチとなる。音場の空気はあたかも清浄器を通したごとく、あるいは紫外線殺菌燈を照射したごとく透明感が増し、クリーンで静かな感じだ……つまり、やや人工的なニュアンスを伴う。高域もすっきりして、響きの表面もよく磨かれ、毳立ちも少ない。が、艶やかで質感ゆたかな、あるいは、色彩感豊かな、といった表現は、なぜか思い浮かんでこない。どちらかといえば、やや半艶消的な印象があった。
 総じて醒めた感じの演奏となるのは、アンプの物理特性が一桁良くなったような、高いS/N感によるものだろうか。各パートの動きは、おそろしくよく見え、ピークでも音がからまることもない。バスドラムのアタックの迫力も充分。シンバルのディスパージョンも、その方向が見えるほどだ。
 しかし、しいて言えば、向かってくる響きの勢いよりは、むしろマイナスのエネルギー感とでもいうべきか、スーッとひいていく感じが際立つ。そのせいか、制動感、フラット感はある反面、スピード感、ドライブ感がやや弱まる印象を受けた。全体の機械的強度はヤマハに軍配があがる。個人的には、この漂白されたような清潔な響きは好きだが、いかにして響きに、生命感を注ぎこむかが、使いこなしのひとつのポイントになりそうだ。いっそのこと、スタティックで、ストイックな、ひっそりとした響きを強調して、独特の世界を演出してみたくもなる。

トーレンス TD321 + SME 3010-R

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 個人的偏見で、わがシトロエン2CVとは異次元の存在たるドイツ車嫌いの僕なれど、なぜかドイツの響きにはひかれるものがある。シーメンスしかり、H&Sしかり。トーレンスは元来スイス産なれど、このドイツ製TD321は一聴して、はからずもドイツの響きを感じさせつつ、「完璧」をひけらかさない「可愛いさ」がある。サーフェイスノイズはさらっと軽く、ややブライト。響きは秋の空を想起させるほど、澄んでいる。
 涼しい表情は「知」が勝った印象で、スケール感こそやや小振りながら、それなりにアルゲリッチの鋭角的な表現もこなしてしまう。引き締まって、凛々しいフィッシャー=ディスカフの口許。奥に素直にひろがる音場。総じて辛口の味わい。暗騒音も、けっこう明瞭に聴かせてしまうディティールへのこだわりもある。チャーネット・モフェットのベースも運指がはっきりしてくる。メリハリがありながらメタリックな付帯音はなく自然だ。さすがにリファレンスプレーヤー、マイクロのドスンと来る本物の重量感はないものの、リズムに乗ってくる反応の速さはある。エモーショナルな激しさは、やや距離を置いて表現してくるクールな面も覗かせた。それだけに、『シエスタ』では、かすかに醒めたところを残したような理知的な響きが、むしろ内向する哀愁を際立たせた。
 軽量級とはいえ、トーレンスは依然としてトーレンスであり、プレーヤー作りの伝統的ノーハウが随所に散りばめられている。ディスクと聴き手のあいだに、より緊密な繋がりが生まれ、使い手の意志に鋭敏に寄り添い馴染んでくれるシステムでもあろう。

H&S EXACT

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 音が出た瞬間、その気負いをそぐような、静かで醒めた鳴り方に驚く。妙に柔らかく、自己主張を喪失した、突き放すような無表情、冷たい違和感の漂う響きは聴きなれたエグザクトの音ではなかった。
 そう、きっとS/Nの良さが圧倒的であるがゆえに、周辺機器のマスキングをまともにくらって、拒絶反応を起しているに違いなかった。極度に神経質なのだ。折り目正しく丁重なる忌避、寡黙なる拒絶の壁が慇懃無礼に目の前にそり立つ。しかし、これはけして本来の音ではない。音楽の、響きの行間に潜む透明な震え、沈黙の、底なしの静寂感がここでは何かによって犠牲がなっているのだ。物理的には申し分ない。耳を測定器にして聴けば、これだけでも他をさりげなく圧倒するに充分である。しかし、この鏡のような抽象性は、使い手が何かを写しこむことを強烈に要求するがゆえの無表情のようにも思えてくる。

ヴェンデッタリサーチ SCP-2A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 一聴して温かい温度感をもった柔らかい音でほっとさせられる。弾力性に富みながら反応の速さを兼ね備え、ハイエンド、ローエンドともよく延びたワイドレンジ感が、優しい繊細感を伴って再現される。
 柔軟でありながら現実的な存在感を失わず、音楽の立体構築を明らかにする卓抜な表現力は、同社のヘッドアンプのもつ良さを継承していると聴けた。多様な組合せにも鋭敏に反応しつつ、自らの美点を巧みに維持する包容力がある。響きには有機的なつながりが濃密に存在するが、情報量の多い緻密さがあるために、使いこなし次第では分析的な細密描写も可能である。
 C280Lとの組合せでは、やや過剰な粘りけがつく部分もあり、透明感、鮮度感がやや弱められる傾向があった。ウォームな表現の中に、組み合わせるシステムのクォリティをさりげなく聴かせてしまうあたり、潜在能力の高さの証左と聴いた。

ヤマハ GTR-1B

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 ヤマハのGTR1Bは、オーディオファイルのスタンダードのラックとして、その使用実績は相当に高いはずだ。しかし、これとて「完璧」ではありえない。盲信しては前進はない。ステレオサウンドの試聴室に常備されたGTR1Bは原則として、試聴時、ラック内には何も収納せず、天板上に試聴機を置くのみとしている。なぜ?
 それは、ラックを含んだ全体の振動モードをできるだけ単純化しようという考えからである。現実の使用では物を入れる。そのとき、いかなる工夫をすべきか、どうしたら効果的な共振の整理ができるか(あるいは響きのコントロールの一手段として「振動」をどう取り込んでしまうか)、そういった、ケースバイケースの思考のヒントを導くためにも、とりあえずラック1台に対して試聴機は1つ、つまり1対1の関係を崩さないことを原則として守る。
 ある程度音量をあげていくと、音圧の影響を受けやすいボックス状の、このラックは見た目以上に共振していることが、手を触れてみるとよくわかる。天板の裏や側板は、音楽の複雑な空気の振動を受けて、あるいは床を伝わってくる振動によってあおられ、驚くほど共振している。こうした分厚く堅い、つまりQ(共振峰)の高い材質は、相対的に「カンカン」したピッチの高い共鳴、共振を起こしやすい。事実、このラックは、機器にそういった付帯音をのせる傾向がある(したがって、本誌の通常の試聴時には、その対策を独自に施している)。

エレクトロ・アクースティック EL160

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 西独のエレクトロアクースティックといえば455EというMM型カートリッジを思い出す。ふっくらとした温かみのある響きながら、骨格の確かな造形力、重厚な色彩感があった。
 同社のスピーカーシステムは、すでに上級機、170ー4πが紹介されたが、無指向性リボントゥイーターを天板上にいただいたユニークな外観とその高い完成度、確固たる響きに驚かされたのも記憶に新しい。
 今回試聴したEL160は型番からもわかるように、170ー4πのすぐ下位に位置する製品である。
 20cm口径ウーファーのトリプルドライブ、10cm口径コーン型スコーカー、そして2・5cm口径のチタンドームトゥイーターによる4ウェイ・5スピーカー構成をとる。写真ではわかりにくいが、エンクロージュアの作りは精度感があり、質感の高いものだ。
 これは、ドイツ音楽あるいはロマン派の音楽を愛好する人たちにとって、必要の存在である。こうした構成のスピーカーで、かくも引き締まった音像とオーケストレーションの音楽的構築性を、良き時代の剛直さ、典雅さとともに再現しうるスピーカーは少ない。たとえば4344などの大型システムのようなスケール感はないものの、トールボーイ型のプロポーションが活き、音場の広がり感が自然である。特に高い天井を想起させる気配、漂う空気の重層感が見事に再現された。
 ミクロ的に聴けば、音の粒子は特別超微粒子というわけではないが、充分に磨かれ、しっかりした芯をもっている。そのため、音像の輪郭には、脆弱な細さ、曖昧さがない。決然たる硬質感のある潔癖な響きで、ここで聴いたヴァイオリンコンチェルトでは、オーケストラとソリストの位置関係に歪みやぶれがなく、ビタッときまる定位感にも潔い快感があった。弦の響きには厳格な艶がのり、けして倍音過多のうわずった輝きがない。歌い上げる情感には、己を律する厳しさが影のようにつき、オーバーエクスプレッションへ墜落することがない。そうした抑制のきいた表現のためか、聴き手が音楽の内面に自然に吸い込まれていく過程をスムーズなものにしてくれる。
 格別ワイドレンジ・ハイスピードではないが、そんなことはどうでもいい。そう思わせる音楽的な訴求力がある。
 こうした傾向は、ベートーヴェンやブラームスといった硬質な悲しみが浸透した音楽では、他のスピーカーでは得難い世界を聴かせてくれるに違いない。
 その一方で、ジャズ系のソースに対しても、やわなワイドレンジスピーカーでは出し得ない、冷たく、暗い闇にうずくまる、孤独な魂の震えを抉りだすような鳴り方は貴重だ。これは音楽を心で聴くための存在といえる。

グリフォン Phonostage

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 デンマーク2R社製。フォノ1、ライン1の入力切替と、24ポイントの左右独立型アッテネーター、バイパススイッチをもつフロントパネルには、完全にL/Rを分離したシールドケースに収められた増幅部が独立して取り付けられている。デュアルモノ構成、純A級ノンNFB方式のアンプはディスクリート構成だが、線材による配線は廃され、かつプリント基板は信号系と電源系を分離した構造をとる。別筐体の電源部も左右独立型としている。

H&S EXACT

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 西独カートリッジ・クリニック社製ヘッドアンプ内蔵イコライザー。初段のみ差動増幅とし、以降全段ピュアコンプリメンタリー構成。イコライザーは低域をNF型、高域をCR型としたCRーNF型を採用。選別された高品位パーツを使用し、商用電源のノイズ対策にも充分な配慮がなされている。入力感度3段切替可能。入力抵抗、入力容量も変更可能だが、低インピーダンスカートリッジも100Ωの設定値で使用することを推奨している。

新藤ラボラトリー 7A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 ゴールドパネルに深みのあるグリーンのケース、それは写真でみるよりずっと美しく、不思議な調和さえみせていた。
 音楽が鳴り始めるや、あるかなきかの記憶を彩るほんのりと甘酸っぱい響きがあたりを満たし、あわてた。
 羊水に浮遊するような非現実的な暖かさと柔らかさ、耳は測定器として作動することを記憶喪失のように忘れはて、ただ流れる音楽に身をゆだねることに誘い込む。現代を生きるものが忘れた何かを呼び戻してくれる響き──。
 ハイフィデリティを第一義とする冷静な視線をもった、先端をいくものたちが、内に隠しもつ空虚。ここには、その虚をつく大切なものがひそんでいた。過去に失われたものたちの残像、現実から離れた速度感をもった時間の流れのなかで、おだやかにみつめようとする作者の柔らかな視線がここにはあった。

グリフォン Phonostage

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 およそ国産の製品からは絶対に聴くことができないような、あるいはアメリカやドイツの響きとも一線を画した、これは北欧の気候風土の影響を色濃く漂わせた個性豊かな響き、ということができる。オルトフォンのカートリッジがもつ独特の匂い、あるいはアクともいえるものを、けして浮き上がらせず、響きに溶け込ませてしまうことのできる貴重な存在だ。
 間接音成分のたっぷりした響きは、中間色的な複雑な響きが薄く幾重にも重なってできたような、独特の深みがある陰影感をみせ、あたかもアメ色のツヤがのった、贅沢な透明感を聴かせる。これは、ディテールを鋭角的に掘り起し、スケスケの薄いガラスのような透明感を聴かせるアンプとは、一線を画す、別世界の音だ。
 まさに暗がりの情念ともいうべきものがめらめらと燃えているような、くすんだ微光を感じさせる耽美的な瞑想感が魅力的。

ヴェンデッタリサーチ SCP-2A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 カリフォルニア州バークレーに本拠を置き、設計は初期のマークレビンソンのアンプ設計者としても有名なジョン・カールの手になる。FETによるシンメトリカル・カスコード回路を踏襲したノンNFB回路を特徴とする。カートリッジロードは最適値を10〜200Ωまで連続可変可能。独立型電源も含め完全なツインモノ構成をとる。本体は非磁性体シャーシによりL/Rに分離されている。電源部はヘッドアンプSCP1より格段に強化されている。

サウンドオーガナイゼーション Z021

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 細いスチールパイプで組み上げられている構造上、音圧の影響は受けにくいだろう。しかし、けして皆無ではあり得ない。叩けば結構金属的な「鳴き」がある(当然ではあるが)。ひとつ不思議なのは、肝心のプレーヤーを直接置くトップパネルの材質で、とても薄く、とても軽いのだ。これはリンの主張で、LP12はとにかく軽い台に設置したほうがベターだという。なぜだろう。これまでの常識とは逆行する理論だ。堅くて重い物質がもつ、払拭し難い鋭い共振を嫌ってのことだろうか。真偽のほどは不明であり、謎として残った。たとえば異種金属をあわせたときにダンプ効果があるように、Qの異なった素材をうまく組み合わせ、しかもそれぞれが大きな質量を持たなければ、共振のエネルギー自体も弱く、コントローラブルになるのかもしれない。
 その音だが、たしかに音の輪郭にメリハリはつくし、中高域の分解能が向上したかのように聴こえるときもある。音楽的な抑揚もよくついて、弾みのある表情豊かな響きにはなる。他に、変化として、まず低域はやや軽くなる傾向をみせ、総じて響きの密度がわずかに「疎」になるような印象。弦の響きの表面に、わずかに金属的な響きがつく。音場のスケールがやや小さくなる。聴感上、音の反応がシャープになり、ハイエンドの伸びが増したようになる。サーフェイスノイズのピッチが上がる。強い響きに強引さがなくなる反面、求心力がやや後退する。冷たい響きの温度感が、やや上昇する。低域のリズム楽器の輪郭はつくが、実体感、押し出しがやや希薄化する。音像はふやけず、フォーカシングはシャープ。しかし、神経質な感じは全くない。以上のような傾向が、ミクロ的ではあるが聴取し得た。

ターゲット・オーディオ TT4

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 リン指定の台と、基本的には似た構造だが、ノイズのピッチをわずかに下がる印象がある。音場の空気感もいい。響きの輪郭に、ごく僅かに、華麗な輝きがつくようで、音楽がよく歌う。あるいは、表情の変化がよくつくような印象。響きに腰高感もなく、低域の骨格は結構しっかりしている。毎日出てくる、いわばプラスのエネルギーをもった響きの直進性もいい。スチールパイプに、薄く軽い化粧板を乗せた(ピンポイントで支持)だけなので、叩くと、ちょっとしたスラップスティックがはじまるが、きたない共振は意外に少なかった。
 ラスクのように、「負」のエネルギー感が醸し出す静寂感を出にくいが、反面、はつらつとした生命感を感じさせる良さがある。充分に明るさがありながら、陰影感の表現は、リン指定の台より深みがつく印象がある。全体にリンよりダークな雰囲気。これはリン同様、良い意味で響きに味をつけて、楽しく音楽を聴かせてくれる、いわば楽器的なラックといえるかもしれない。
 ちなみに、ヘイブロックのプレーヤーを設置して聴いてみたが、音楽に明るい表情がついて、根暗の少女がふっと、穏やかな微笑みをみせたような、いわくいいがたい雰囲気となった。

SOTA Star Sapphire + EMINENT TECHNOLOGY Tonearm 2

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 ステート・オブ・ジ・アートというものものしい命名からは想像しにくい、軽くて小粋な音をもったプレーヤー。音出しが始まって、安定度がたかまってくると、つい先程まで聴いていたステレオサウンドのリファレンスプレーヤー、マイクロSX8000IIとは音の語り口が大きく違うことが、良い意味で明確になってくる。マイクロといえば『高剛性、ハイイナーシャ』の代表的存在。アナログ全盛期の、いわば『究極』、『果て』と思われた存在で、誰もがそう思いこんでいた。だから、私自身、『信じ込んで』無理をして手に入れもした。と言うわけで、今回の4機種のアナログプレーヤーたちの音を実際に聴くまでは、『クォリティ』の『差』を聴く、という視点からみた『期待感』は、はっきり言ってなかった。むしろ、本格的な、CD時代にはいった今、もういちど『アナログ』を、ききかえしてみると、ちがった発見があるやもしれず、その点での興味をもっていたにすぎなかった。
 CDプレーヤー間の音の差の、予想を上回る大きさに妙な感慨をいだいてはいたが、そんな思いを吹き飛ばすほど、アナログ世界の変化量は絶大だった。 SOTAスター・サファイアの音。とりつけられたエミネントの『リニアトラッキングアーム』の音色が色濃く反映しているにせよ、その音にはまさにマイクロの対極をなすような、響きの柔らかさがあった。無論、マイクロから柔らかい響きが出ないわけではない。表現の方法がまるで違うのだ。マイクロには本質的に音の構築性を分析的に聴かせる生真面目さがあって、響きの『重さ』をはっきり提示し、堅い音はあくまでも堅く表現する。つまり、相対的コントラストの結果として響きの柔らかさ、軽さといったものを表現してくる。いいかえれば『正確』なのかもしれないが、やや直截的ともいえる。しかしそれは、ここでの使い方が『リファレンス』としての存在である以上、当然の結果かもしれないが……。したがって当然ソースの荒れは剥き出しとなる。
 一方スター・サファイアは『個性』を強くもっている。見ための印象どおり聴き手の気持ちを優しくしてくれるような、穏やかさ、響きの柔らかさを際立たせるところがある。色彩感の表現においても、ハーフトーンの曖昧さをうまく出してくる。響きに毳立ちはなくスムーズ。ソースの粗はむしろ隠す方向。脂切ったどくどくしさやぎらぎらしたまぶしさもない。反面、堅い音、重い音への対応がやや曖昧になるが、聴き手にそれをあまり意識させないのは、やはり美点でうまく聴かせてしまうからに違いない。まさにその名前のように、『ダイアモンド』ではない、『サファイア』の柔らかさをもっている、というところか。エミネントのアームは『アナログ』の楽しさを堪能させてくれた。なにしろ調整個所が多く、そのいずれを動かしても音はコロコロ変化する。ディスクの内周でも歪が増えないというリニアトラッキング型の特質さえ、下手に調整したのでは活かされない。音場の変化も大きい。

アナログの楽しみ再発見。

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 音の入り口たるプレーヤーシステムは、CDの登場で、以前ほど使い手の工夫が入り込む余地が少なくなった。素人が、カット・アンド・トライを繰り返して、自分の音を探し求める旅をさせてくれるアナログプレーヤーの楽しさは、忘れかけていたオーディオマインドを痛く刺激した。
一歩間違えると、ノイジーでヒステリックになりがちなアナログなれど、お手軽CDにはない、響きの自然さ、香り立つものがたしかにあって、いまだに『究めればアナログ』という思いをあらたにした。デジタル技術の発展とともに、見直しが加速されたアナログ世界は、いい意味で方向を変え、あらたに出発しようとしているようだ。CDで聴かれる音の座りの良さを聴き慣れた耳には、時としてアナログの音は不安定に揺れてるような感じを懐くことがある。CDには『光』という非接触がもたらすメリットがあるのだろう。かたや、あくまでも針で溝をこすりつけ音を掘り起こすといった、より原始的な動作が、調整の不備による不安定要素を入り込ませる余地をつくるのかもしれない。今、ニアトラッキングという武器を得て、カートレイジたちは、その基本動作をより忠実に行ないうるようになったともいえそうだ。出来のいいリニアトラッキングアームでは、相当に安定度の高い音像と揺るぎない音場を作ることが可能だ。CD時代を生き抜くアナログの活動の一つをこに見る。
 今回聴くことのできた四つの異なった製品の、その違いのあるようの中に、アナログならでは、といった『こだわり』を強くさせられ、まだまだ目がはなせそうにない。『完結』を知らないアナログの深遠は、じつはいまだにきわめられてはおらず、まだまだこれから、なのかもしれない。

ゴールドムンド Studietto

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 ゴールドムンドのスタジエットは、同社T5リニアトラッキングアームを最初から組み込んだコンプリートシステムで、この点が前二者と違っている。したがって良くも悪くもデザインに一環した主張がある。
 一見してわかるように、これはアクリルの塊、なのだ。ガラスとは違った。微温湯的な温度感。熱くも、冷たくもない。堅くも柔らかくもない。音もまさにこの印象と一致する。響きの合間には何かヌルヌルとしたモノトーンな質感が付きまとう不思議。CD時代に世に問う、これぞフランス流エスプリ、なのだろうか、そうは思えない。なんともアイロニカルなムードが漂っている。どうしたことか。カートリッジとの相性が致命的に悪いのか。試みに別の製品に交換してみる。基本的には変化ない。ステージは天井が低くなり奥行きが浅くなる。紫煙たれこめる仄暗い頽廃的な雰囲気。アクリルの板を透かしてみるような蜃気楼的音像は、これでなくては聴けない世界。
 組み合わせるアンプやスピーカーは他に適役がいるはずで、こうしたムードがもっと生きる使い方をしてあげれば、独特の世界が作れるに違いないと思えた。

バーサダイナミックス MODEL A2.0 + MODEL T2.0

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 存亡の危機にたっている、といいたくなるようなアナログの世界。大艦巨砲時代の終焉とも思える大型アナログプレーヤーの衰退。個人的には、手元にあるマイクロSX8000IIに『かじりつく』しかないと思っていた。アナログを究めるアプローチは、もうこれしかない、疑いを差し挟む余地は無い、そう信じていた。
 バーサダイナミックスのプレーヤーシステムをみた時から、その高いデザインの『密度』に、おや、と思った。VDのイニシャル・ロゴに、このデザインの面白さが象徴されているようでもある。写真では分かりにくい、実物を目にし手にしてみなければわからない独特の雰囲気がある。色も単なる黒ではない。木目仕様もあるらしいが、断然こちらがいい。独立したコントロールボックスの仕上げも丁寧。スイッチ類のフィーリングも繊細。エアフロート、ディスク吸着といったものものしいメカニズムは、巧みにシーリングされ、フラッシュサーフェイスのターンテーブル面などとあいまって、全体に繊細感が漂う。
 一歩まちがえると玩具っぽくなるところだが、ここでは細身の、華奢な女性特有の雰囲気にも似たニュアンスをもちあわせていることで、玩具になり下がらずにふみとどまっている。アームのつくりはかなりしっかりしているにもかかわらず、ゴリゴリした野蛮なところが微塵もなく、やはり繊細。使い手も思わず手つきが慎重になる。このアームには一目惚れだが、かといって、このアームだけをとって、SX8000IIに取りつけてみたいとは思えない。この繊細感がスポイルされてしまう。マイクロには、やはりSMEシリーズVのような、逞しいアームがよく似合う。
 ヒューンというモーターの起動も『唸り』というよりは『囁き、呟き』といった風情。しかし、いいところばかりではない、これはそうとうに神経質で、感受性の鋭い存在だ。ここにあるのは、傷つきやすい脆さと抱き合わせの、緊迫した透明感なのだ。したがって、使いこなしの腕しだいでは、ひどい結果にもなりかねない。繊細微妙な調整を要するところはいたるところにある。が、そうしたポイントをおさえていく過程には、少しずつ響きに、自分の色をつけていく楽しみがのこされている。当初まったくいい印象のなかったリファレンス・カートリッジが、へぇ、ここまで鳴るんだ、と驚かされた。音像はひきしまって低域もふやけたところがない。オーケストラのトゥッティでも『崩れ』を見せない安定度の高さがある。にもかかわらず、響きに強引さがない。あくまで繊細無垢で透明。独特の反応の早さ、鋭敏さが、音楽の官能的な響きをとりこぼさず、しかも上品に表現する。清潔感のある響きは、たんにそこにとどまらず、生まれながらに『あぶない響き』を身につけてしまっている恐ろしさ。ほんのりただようような香気が際立つ。これはいい、こんな世界もあったんだ、全く異なる方法論をもって、マイクロとは違った頂上をめざしている一つの結果だろう。
 CD包囲に囲まれたかにみえるアナログ世界の『水際の楽天地』、ウォーターフロントがここにある。まずいものをきいてしまった……。テフロンのターンテーブルシートの色合いといい、欠点も多々あるが、もうこうなるとあばたもえくぼで、どうやらこのスレンダーで、ストイックな表情をしたコに見事に誘惑されてしまったようだ。

マイクロ EQ-M1 + PS-M1

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 同社、アナログプレーヤーAPーM1組込み用として開発された製品。本体のほかに、外部電源として、充電式バッテリーを用いたDC電源DCーM1と、一般のAC100VをDC12Vに整流・安定化し、かつDCーM1のバッテリーチャージャーとして作動するAC電源、PSーM1の2種類が用意されている。出力をライントランスによるバランス型キャノン端子を採用。付属のキャノン/変換コードでアンバランス入力アンプにも接続可能である。