早瀬文雄
ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より
ゴールドムンドのスタジエットは、同社T5リニアトラッキングアームを最初から組み込んだコンプリートシステムで、この点が前二者と違っている。したがって良くも悪くもデザインに一環した主張がある。
一見してわかるように、これはアクリルの塊、なのだ。ガラスとは違った。微温湯的な温度感。熱くも、冷たくもない。堅くも柔らかくもない。音もまさにこの印象と一致する。響きの合間には何かヌルヌルとしたモノトーンな質感が付きまとう不思議。CD時代に世に問う、これぞフランス流エスプリ、なのだろうか、そうは思えない。なんともアイロニカルなムードが漂っている。どうしたことか。カートリッジとの相性が致命的に悪いのか。試みに別の製品に交換してみる。基本的には変化ない。ステージは天井が低くなり奥行きが浅くなる。紫煙たれこめる仄暗い頽廃的な雰囲気。アクリルの板を透かしてみるような蜃気楼的音像は、これでなくては聴けない世界。
組み合わせるアンプやスピーカーは他に適役がいるはずで、こうしたムードがもっと生きる使い方をしてあげれば、独特の世界が作れるに違いないと思えた。
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