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オンキョー Integra A-717

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このアンプは今回のテストにすべり込みで間に合ったというオンキョーの新製品。オンキョーのアンプというのは、数年前から一つの音の方向付けを探り当てたようで、大変透明度の高い、そして雰囲気のある半面、多少、女性的あるいはウェットという表現を使いたいようなアンプを送り出している。この新製品にもその特徴はいい意味で受け継がれている。
音質 いろいろなプログラム・ソースをかけていくと、大変雰囲気がいい、音楽を聴く気にさせてくれるいいアンプだ。さすがに新しいだけあって、音の透明度が大変高い。澄んだ音がする。そういう透明度の高さ、雰囲気描写のよさということが相乗効果になって、レコードを聴いても、聴き手がスッとそこに引き込まれるようなよさを持っている。一言でいえば、大変グレードの高い、クォリティの高い音だといっていいと思う。
 細かいことをいうと、このアンプばかりではなく、オンキョーの今までのアンプに共通する性格のようだが、プログラム・ソースすべてを通して、音のバランスが中~高域に引きつけられる感じがある。しかし、このアンプには、もう一つの面として、それを支える低音のファンダメンタルがなかなかしっかりしており、そういう点で決して上ずった音にはならない。そこがこのアンプの長所であり、大事な部分だと思う。
MCヘッドアンプ オルトフォンのMC20MKIIの場合には、やはりゲインがいっぱいで、ボリュームを相当上げないと十分な音量が得られない。しかも、そのボリュームを上げたところでは、ハム、その他の雑音が耳障りで、結局オルトフォンではあまり大きな音量は出せないということだ。実はこのMCヘッドアンプには、ハイMCと何もないただのMCというポジションがあり、オルトフォンの場合にはやはりハイMCにしないと当然音量が不足するわけだが、それでも雑音の点でちょっと不利になる。ところがデンオン103DでもただのMCポジションでは少しゲインが不足し、ハイMCの方で聴きたくなる。ハイMCの方にすると、ボリュームを目盛り6以上まで上げると、相当ノイズが耳障りになるが、そこのところでも中以上ぐらいの音量が出る程度だから、103Dの場合でも少しゲインが足りない。もう少しSN比をかせいでほしいと思う。付け加えておくと、このアンプは試聴に間に合わせた試作最後のサンプルということなので、あるいは量産品に移る場合、そこが改善されるかもしれないし、できればそこを改善してもらうことを期待したい。
トーン&ラウドネス 次にトーン・コントロールの効き方だが、これはオンキョーのアンプが他の機種でもやっている独特のトーン・コントロールで、ボリューム・コントロールの位置によって、トーンの効き方が変わるというタイプ。ボリュームをいっぱい近くまであげた時にはトーンはほとんど効かなくなる。真ん中以下に絞った時に、普通の効き方をする。それも比較的軽い効き方で、いっぱいに回し切っても、そう不愉快な音はしない。ごく自然に低音、高音が増減できる。
 それからもう一つは、トレブルのトーン・コントロールを絞り切ったところで、ハイカット・フィルターを兼ねている。これもオンキョー独特の方式である。ディフィート・スイッチはもちろんない。それからラウドネス・スイッチの効き方もごく普通で、軽く効くという感じ。サブソニック・フィルターは20Hzと15Hzと二点ある。
ヘッドホン スピーカー・スイッチはロータリー式だ。A+Bのポジションはない。A、Bどちらかしか選べない形になっている。ヘッドホンはスピーカーから出てくるレベルよりもやや低いが、標準的。音質もスピーカー端子からじかに聴いた印象とほとんど変わらない、大変いい音で聴けた。

★★

ソニー TA-F55

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このソニーのF55は、見た目にも大変独特のデザインで、内容的にもいろいろな工夫がしてある。ユニークなアンプだ。
 まず電源回路がパルス電源ということ。これは従来の電源より、非常にスペースが小さく、実効消費電力も少なく、しかも大きなエネルギー供給ができるということで、未来の電源といわれている。
 それからボリューム・コントロールが大変ユニークで、普通の回転ツマミでもレバーツマミでもなく、パネルのほぼ中央に位置した割に大きめのボタンに右向きと左向きの矢印が付いており、そのボタンを押すことによって音量の造言をする、と同士にパネルの左手の細長い窓に、そのボリューム・レンジが光で表示される。これは大変楽しい。しかもなかなか手がこんでいて、そのボリュームの上げ下げのボタンを軽く押すと、ゆっくりボリュームが上下し、強く押すとそのスピードが倍速になる。これは大変にエレクトロニクス的に凝っていて面白い。一種の遊びには違いないがなかなか便利なフィーチャーだ。その他、外からは見えないが、トランジスタの放熱にソニーが最初に開発したヒートパイプを使っている。これもスペースの節約になっている。このアンプは見た目には大変薄形で、しかもローコストにもかかわらず、このクラスでは抜群の70W+70Wというパワーを得ているというところが、このアンプの大きな特徴だ。
音質 音質はこのクラス全部をトータルして聴いた中では、やや異色の部分がある。一つ一つの音がどっしりと出てくる。そういう意味で線の弱いというような音が少しもなく、全部音がしっかりしている。例えば、『サンチェスの子供たち』のオーバーチュアにしても、あるいはクラシックの『春の祭典』のフォルティッシモの部分でも、非常に迫力のある音がする。
 そういう点で大変聴きごたえがするといえるが、ただしその迫力といのと裏腹に、何かひとつ透明感、あるいは透明感と結びつく音の美しさといったところで、個人的には物足りなさを感じる。それに、どちらかといえば音場が狭い、広がりにくいという印象もある。
 もっとスーッとどこまでも伸びる透明な美しさ、あるいはたとえばキングス・シンガーズのしっとりしたコーラスなどは、もっとなにかしみじみとハモってほしいと思うところがある。
 それに二つのスピーカーの間に音像がフワッと広がる、いわゆるステレオ・イフェクトも、もう少し広がりと明るさがほしいと思った。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプはなかなか性能がいい。3Ωと40Ωとの切り替えが付いていることをみても、きめ細かく設計されたものであることが、うかがえる。オルトフォンのMC20MKIIの3Ωの方で、ボリュームをいっぱいに上げてみても、このクラスとしては抜群のSNの良さだ。もちろんボリュームをいっぱいに上げれば、ノイズが聴こえるが、ノイズは割合に低い。
 ボリュームはかなりいっぱい近くまで使えるので、MC20MKIIでも音量としては十分に出せるということがいえる。
 DL103Dは40Ωの方で使えるが、ゲインとしては十分だ。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールの効き方は、はっきりと効く。ラウドネスも同様で、これはやはり、ビギナー向きに、はっきりわからせるというような効き方をするように思う。ところでこのアンプの一番の特徴のボリューム・コントロールだが、人間の心理としてはダウンのスピードはもっと早い方がいいのではないかと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方は、スピーカーをつないで聴いた時の音量感よりも、やや抑えめだが標準的な音の出方といえる。

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 前号での試聴記で、とてもいいアンプだと思ったが、今回、ローコストのアンプを並べて聴いてみても、相変らずいいアンプの一つだという印象を持った。
音質 いいアンプという表現はかなり抽象的だが、とにかくクラシック、ポップス、そのほかいろいろなソースを随時、任意に片っ端からかけて音を聴いてみる。どこか薄手なアンプでは、プログラム・ソースによっては、いいところと悪いところが目立ってきて、何となく聴いていることがつまらなくなってくる。ところが、このテクニクスのV6はいつまででも音を聴いていられる。どんなプログラム・ソースでも、すべての音がきちんと聴こえるということが大変すばらしい点で、一言でいうと、比較的ローコストのアンプにもかかわらず、いわゆるコストダウンの手抜きをほとんどしていないのではないかと思う。
 例えばストラヴィンスキーの『春の祭典』のティンパニーとバスドラムが活躍するフォルティッシモの連続の部分でも、このアンプは少しも混濁しない。すべてのおとがきちんと分離し、よく調和しながら聴こえてくる。それからキングス・シンガーズのように、それと正反対の大変柔らかい美しいエレガントなハーモニーを要求するようなコーラスでも、その魅力が十分伝わってくる。とにかく一つ一つの曲について言い出せばきりがないが、すべてのプログラム・ソースがきちんと聴こえてくるということが言える。
 特にこの五万九千八百円という価格帯の一つ下のグループ、例えばビクターのA-X3、トリオのKA80、それぞれにいいアンプだが、それがここにくるとグンとランクが上がる、つまり音の品位が上がったという感じがする。
 このクラスではヤマハのA3も大変いい音を聴かせてくれたが、このV6とA3を比較すると、なかなか対照的な音を持っている。ヤマハのA3は比較的明るい、よく乾いた、応答の早い音がするのに対して、V六は少しウェットだ。それとヤマハの明るさに対して、少し音に暗さがある。
 それからもう一つ、ヤマハに比べると高域が少し線が細い気がする。しかし、それは音の繊細感、きめ細かさという印象を助ける部分なので、そのことは決してネガティブな意味で言っているわけではない。
MCヘッドアンプ このアンプもMCヘッドアンプが内蔵されている。オルトやぉんのMC20MKIIのようなローインピーダンス(低出力)のカートリッジでは、このアンプではさすがに能力いっぱい。ボリュームをかなり上げなくては無理だし、そこのところではかなりノイズに邪魔される。
 やはりデンオン103Dのようなハイインピーダンス(高出力)のカートリッジがMCヘッドアンプの設計の基準になっているように思う。デンオンの場合にはもちろん十分にMCのよさが味わえる。
トーン&ラウドネス このアンプにもオペレーションというボタンがあり、ストレートDCとリアトーンというポジションがある。ストレートDCではトーン・コントロールは効かない。トーンを使う時にはリアトーン側に倒すが、その場合にごく注意深くきかなければわからないわずかな差だが、このアンプの持つ基本的な音のよさから比べると、ほんの少し音が曇るような気がする。
 トーン・コントロールは大変軽い効き方をして、あまり低音、高音を強調しないタイプだ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方だが、これは同じボリュームの位置でスピーカーからの音量とヘッドホンをかけての音量感とが、割合近いところまで、うまくコントロールされている。ヘッドホン端子での音の出方は大変よい部類に属する。

★★

デンオン PMA-530

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 デンオンのアンプはセパレートアンプの2000、3000というシリーズで、独特のAクラス・オペレーションを打ち出しているが、この530という新しいプリメインアンプにも、基本的には同じ考えが取り入れられているようで、ボンネットの上にダイレクトAというシールが貼ってある。価格の割に見た目が薄形にできており、外観からは、ローコストで手抜きをしたアンプかなという印象を受けかねないが、実際に持ってみると、このアンプは意外にずっしりと重い。かなり中身の濃さそうなアンプという気がする。
 比較的ファンクションも充実している。MシートMMの切り替えも付いており、スピーカーもA、Bが使える。そしてもう一つ、ダイレクト・カップルのボタンが付いている。これはヤマハのA3や、トリオのKA80と同じようにトーン・コントロール、その他のファンクションを飛び越してダイレクトで使えるという機能だ。
音質 このアンプの音質だが、一つ一つの音が、大変コントラストを強く、力を持って出てくる割には、全体の音域を通してのバランスというものが、どうもこの値段にしては、物足りないという気がした(理由はあとでわかった)。
 例えば『サンチマスの子供たち』のオーバーチュアの部分。この部分は非常に音域が広く、音の強弱も激しいところだが、ドラムスの低音の音がかなり力と重量感を持って聴こえてくるのに加えて、シンバルの音は、割合に鋭くシャープに出てくる。にもかかわらずいわゆる中低域のところのエネルギーがちょっと薄くなるような感じだ。
 少し細かい物の言い方をしすぎるかもしれないが、強いて説明しようとするとそういうことになる。
MCヘッドアンプ オルトフォンおよびデンオン、両方のタイプのカートリッジをつないでみたところが、やっぱりオルトフォンでは、少しゲインが足りない。音質が割合にいいから、比較的激しい曲ではオルトフォンでもSNが比較的いいのでフルボリューム近くでも、使えなくない。デンオン103Dの方は、これはもうデンオンのアンプだから当然とはいうものの、実に103Dをよく生かす音がする。ゲインも非常にうまく配分されており、手ごろなボリュームできちんとした音がする。最初のうちあまり音質についていいことを言わなかったのは、エラックの794Eをつないだ時の話で、実はこの103Dを、このMCヘッドアンプを通して鳴らした時の、このアンプの音というのは、最初に言ったような、気になる部分がかなりうまく抑えられて快適な音がした。ということは、当然のことかもしれないが、このアンプは、デンオンのカートリッジで相当音が練り上げられているという感じだ。
トーン&ラウドネス ダイレクト・カップルのボタンをオフにして、トーン・コントロールを動作させると、注意深く聴かなくてはわからない程度だが、音質はほんのわずか変化する。
 心もち音の伸びが損なわれるかな、という感じだ。トーン・コントロールを動作させた時の効き方というのは、ごく普通だ。ラウドネス・コントロールはトーンと無関係に動作させるものだが、これはごく軽く効くというタイプ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での出力は、ごく標準的でヘッドホンで聴いた音量感と、スピーカーを鳴らした時の音量感がだいたい同じボリュームの位置で聴ける。ヘッドホン端子がやや低いかなという程度。このアンプはヘッドホン・ジャックを差し込んだ時にスピーカーが切れるタイプで、スピーカーのオフがない。スピーカーのAB切り替えがボタンのオン、オフで行われているので、このアンプに関しては、スピーカーのA+ビートいう使い方はできない。

サンスイ AU-D7

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 サンスイの全く新しいシリーズ。今までわれわれは、サンスイのアンプを、もう十数年来、黒いパネルで見慣れてきたが、突然、白いパネルの全く新しいデザインが出てきて、ながめてテストして聴いていても、まだサンスイのアンプだという実感がわかない。そういう個人的な感想は別として、これもこの価格としては、良くできたアンプの一つだという印象を持った。
音質 聴いた感じは、音が大変華やかで、明るい感じがする。そして、反応が軽い。これは最近の新しい設計のアンプに共通の特徴かもしれないが、大変透明感のある美しい、そして鮮度の高い、いかにも音楽に対する反応が早い、新しい音という気がする。強いていえば、少し軽すぎ、明るすぎ、あるいは華やかすぎ、という、表現を使いたくなる部分もあるが、それは決して音楽を殺す方向ではなく、このアンプの一つの性格、あるいは特徴という方向で、このアンプの音を生かしていると思う。
 アンプの音が華やかであろうが、鈍かろうが、そのアンプを通してレコードを聴いていて、なにか音楽を聴くことを、楽しくさせるアンプ。あるいは何となくその聴いていること自体がだんだんと楽しくなってきて、魅力を感じさせるアンプというのは、ある水準を越えたアンプだと思う。
 おそらくこのアンプの作り方、デザインを見てもクラシックの愛好家よりも、むしろポピュラー・ファンを楽しませるために作ったアンプではないかという気がする。しかし、これは決してクラシックが聴けないという意味ではない。テストでは、JBL4343とエラックの794Eという相当シャープな音の組合せで聴いたが、普通にこのアンプ相応の組合せをした場合でも、このアンプの音を一つ一つ大変弾ませて、美しく、フレッシュに生かすという特徴は十分に発揮されるだろうと思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプの性能は、これは後で出てくるAU-D607と大体性能的には近いと思う。つまり、オルトフォンMC20MKIIの場合は、ゲインはもうほとんど目いっぱいという感じ。ノイズもそう少ないとはいえない。
 ただし、大変クリアーな音がするので、ボリュームを絞りかげんならば、MC20MKIIの良さも結構楽しめるのではないかと思う。デンオン103Dに関しては、ゲイン、音質とも十分楽しめるところまでいっている。
トーン&ラウドネス このアンプは、トーン・コントロールに大変特徴がある。トーン・コントロールは普段はプッシュボタンでディフィート、つまり、はずされている。オンにすると、トーン・コントロールのツマミが全部で四つ、二個ずつ二段になっている。下の方は普通の低音と高音のコントロールだが、その上の左側はスーパーバス、超低音。それから右の方はプレゼンス、つまり中央のコントロールで、これをうまく効かすことによって、プログラム・ソースの面白さをかなりのところまで引き出すことができる。
 スーパーバスとプレゼンスに関しては、非常に微妙な効き方をするので、これをいわば味の素をきかせるような形で、うまくコントロールすることに成功すれば、大変面白いと思う。
 ラウドネスの効き方は普通という感じ。もう一つこのアンプは、今回テストした七、八万円までのアンプを含めて、数少ないアウトプット・インジケーターの付いたアンプで、パワーの数値が空色の窓に出ており、その内側を赤いバーが上に登っていくということで、パワーが読みとりやすい。
 これはこのアンプを使ってみて楽しいところだ。
ヘッドホン このアンプのヘッドホンは出力、音質ともにごく標準的なもの。

★★

ヤマハ A-3

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 A3は型番からもわかる通り、A5の上級機種ということだが、今回テストしたアンプの中では発売時期が一番古く、七八年の四月。この本が出るころにはそろそろ二年目を迎える。
 まず結論を一言でいうと、これは大変に良くできたアンプの一つだという印象を持った。ヤマハのアンプには、A5のところでも言ったように共通の明るさ、清潔感といったものがある。どこかさっぱりしており、変にベトベトしない、いい意味での乾いた一種の透明感を感じさせる。このA3は一番そこのところをよく受け継いでいる、いいアンプだと思う。
音質 耳当たりがさっぱりしているから、どこか物足りなさを覚えるかと思って、いろいろ聴いてみたが、音の一つ一つがよく練り上げられており、いわゆるごまかしのない大変オーソドックスな音がする。いくら聴いても、聴きあきない、聴きごたえがする。五万九千円という価格、しかも開発年代がそろそろ二年目を迎えるということを、頭に置いて聴いても、なお良くできたアンプだという印象を持った。
 一つ一つの曲について、これは細かく言うと、いくらでも言える、また言いたいアンプだが、ちょっと紙面が足りないので、要約して言うと、例えばピアノの強打音、あるいはパーカッションの強打音のように、本当の意味で音の力、内容の濃さを要求されるような音の場合でも、このアンプがそこで音がつぶれたりせず、大変気持ちがいい。
 そしていろいろなプログラム・ソースを通して、音のバランスが大変いい。音域によって、音色や質感、あるいはバランスといったものを、時々変えるようなアンプがあるが、このA3に関してはそういう点が全くない。それだけでも大したものだと思う。
 ただ一つお断りしておくと、このアンプはヤマハの上級機種にも共通した一つの作り方の特徴だが、パネル上半分のボリュームの隣のディスクという大きな、押すと薄いグリーンの色がつくボタンを押すと、トーン・コントロールその他を全部パスしてしまい、ダイレクトなアンプになる。その状態で、いま言ったようないい音が聴こえるわけだ。
 ダイレクトにしないで、トーン・コントロールを使おうとすると、いま言った特徴は、注意深く聴かなくては、という前提をつけなくてはならないが、ごくわずかながら、いまの良さは後退するという点を一つお断りしておく。
MCヘッドアンプ このアンプもMCのヘッドアンプが付いている。例によってオルトフォンMC20MKIIとデンオン103Dと両方テストした。
 MC20MKIIの方はボリュームをかなり上げないと十分な音量が出ない。しかし、ボリュームをいっぱいに上げてもノイズが比較的少なく、ノイズの質がいい。MC20MKIIが一応使えるということ、これにはむしろびっくりした。
 五万九千円というこのクラスの中では、なかなか良くできたMCヘッドアンプではないかと思う。もちろんデンオン103Dに関しては、問題なく、十分力もあるし、音質もいい。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールの効きは比較的さっぱりした効き方だが、もちろんその効き方は耳で聴いてはっきりと聴き分けられる。トーン・コントロールのターンオーバー切り替えが付いているということも、さらに一層きめの細かい調整ができるわけで、非常に便利だと思う。ファンクションは充実しており、スピーカー切り替えもA、B、A+Bとある。いろいろ機能も充実しているということを考えると、これは総合的になかなか良くできた、買って大変気持ちのいい思いのできるアンプではないかと思う。
ヘッドホン ヘッドホンについては紙数が尽きてしまい残念。特に問題はなかった。

★★

ビクター A-X3

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このビクターA-X3も前号の試聴の中に入っており、これも価格の割にはなかなかいい音だという印象を持っていたアンプだが、今回のテストでも、やはり大づかみの印象は変らなかった。
音質 このアンプはビクターの新しいアンプのセールス・ポイントであるスーパーA、つまりAクラスの新しい動作方式を回路に取り入れたアンプの中での一番下のランク。そのAクラスという謳い文句に対する期待を裏切らないような、とてもみずみずしいフレッシュな音が聴ける。チャック・マンジョーネの「サンチェスの子供たち」のオーバーチュアの部分は、かなりパーカッションの力強さを要求されるところだが、このアンプはローコストとしては、かなり聴きごたえのある音を聴かせてくれた。これはおそらく、前回の試聴記の時にも書いたことだと思うが、このアンプは低域が少し重量感を持って聴こえてくる。これがこのアンプの持っているひとつの性格かな、という気がする。
 言い換えれば、このアンプがそういう期待を抱かせるような、まず大づかみにいっていい音がするから、ついこちらが五万三千円という比較的安い価格を忘れて過大な期待を持ってしまうわけで、五万三千円という価格を考えると、むしろこれはよく出来たアンプといって差し支えないと思う。
MCヘッドアンプ このアンプもMCヘッドアンプが内蔵されているが、オルトフォンMC20MKIIとデンオンDL103D両方試してみると、これはやはり……と言わざるを得ない。オルトフォンの場合には、多少ゲインが不足する。ボリュームをよほど上げないと、十分な音量が楽しめない。しかも当然のことだが、そこまでボリュームを上げると、ややヘッドアンプのノイズが耳障りになる。結果からいうと、オルトフォンはつないで聴けなくはないという程度だ。これは仕方がないことだと思う。
 ただオルトフォンをつないだ時のMCヘッドアンプの音質は、こういう価格帯としては意外に悪くない。それからDL103Dの方は、もちろんこれはゲインも十分だし、大体MMのカートリッジの平均的なものをつないだ時のボリュームの位置が同じなので、このアンプは、デンオンの103Dあたりを想定して、MCヘッドアンプのゲインを設定しているのだろうな、というように思う。
 ところでMMカートリッジの方は、他のアンプのところと同じように、エラックの794Eを一番多く使った。このアンプはエラックの持っている中域から高域のシャープな音の部分が、プログラム・ソースによっては多少きついという表現の方に近くなるようなところがある。それはこのアンプが持っている性格かもしれない。割合に細かいところにこだわらないで、大づかみにポンと勘どころをつかんで出してくれるという点で、作り方がうまいなという印象がした。
トーン&ラウドネス そのほかのファンクションだが、トーン・コントロールの効き方は割合に抑え気味。あまり極端に効かないという感じだ。ただ、トーン・コントロールのトーンオフが付いている。トーンオフしても、トーン・コントロールのフラットの状態での音があまり変わらないので、これはなかなか設計がよくできていると思う。
 ラウドネス・コントロールの方は、トーン・コントロールと同様に、軽く効き、あまり音を強調しないタイプだ。
 このアンプで一つ感心したのは、ボリュームの・コントロールのツマミを回した時の感触の良さだ。いくらか重く、粘りがあり、しかも精密感のある動きをする。よくこういう感触が出せたなと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音、これはなかなかうまいバランスだ。スピーカーで聴いた時とヘッドホンで聴いた時の音量感が割合に合っており、そのへんはよく検討されている。

トリオ KA-80

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このトリオのKA80も、前号の組合せの時に試聴したアンプの一つで、その時なかなか好感をもったアンプだ。
 これは四万八千円という価格をかなり意識した上で、いわゆる内容本位、実質本位というか、細かなファンクションをできる限り整理して、必要最小限のファンクションでまとめて、そのぶんをおそらく音質向上に回したのではないかと思われる。例えば、このアンプにはフォノもスピーカーも一系統しかないし、MCヘッドアンプも入っていないし、ヤマハのA5などのようにMCヘッドアンプを内蔵していたものから見ると、いわゆるカタログ上のメリットは薄いが、それだけ割り切って中身を濃くしたアンプではないかということがうかがわれる。 もちろんそれはこのアンプを見た上での先入観ではなく、むしろ音を聴いた後に感じたことだ。
音質 このアンプの音というのはローコスト・アンプにありがちな、音の芯が弱くなったり、音の味わいが薄くなったりということが、比較的少ない。あくまでも四万八千円という価格を頭に置いた上での話だが、これは相当聴きごたえのある音を聴かせてくれたと思う。
 例えば、キングス・シンガーズのポピュラー・ヴォーカルのような場合でも、しみじみと心にしみ込むようないいムードを出してくるし、美しくハモる。そういうところが聴きとれて、ローコスト・アンプにしては、かなり音楽を楽しめる音のアンプだというように思う。このアンプは、他のトリオの上級機種とも多少共通点のあるところだが、いくらか音のコントラストを強くつけるというか、音が割に一つ一つはっきりと出てくる傾向がある。そこのところは多少好き嫌いがあるかと思う。
 たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」のフォルティッシモの連続のような部分では多少派手気味になり、金管もきつくなるように聴きとれる場合もあった。しかしそれが手放しの派手な方向へ走っていかないのはさすが。
 フォーレのヴァイオリン・ソナタの第二楽章なども、ヴァイオリンの音が若干細くなるが、フォーレ的ムードをきちんと出すというところもある。
 ただしやはりクラシックでもポピュラーでも、編成の大きなスケール感を要求するものになると、さすがにこのアンプでは、そこまではきちんと出してくれない。これは価格を考えれば、ある程度仕方のないことではないかというように思う。あくまでもこの価格としては、非常によくできたアンプだということが言える。
トーン&ラウドネス このアンプはフタを閉めると、ボリュームとインプット・セレクターだけ。フタを開けるとトーン・コントロールが現れる。トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールともに、ビギナー向きというか、わかりやすいというか、つまりよく効くというタイプ。
 トーン・コントロールを操作する時には、そのわきにあるストレートDC、およびトーンという切り替えスイッチをトーンの方向に押すわけだが、トーン・コントロールを使った場合には、いま言った音の魅力がごくわずかに減るという感じ。ストレートDC、つまりトーン・コントロールが働かないようにストレート・アンプにしておいた方が、音が一層クリアーのように思う。
ヘッドホン それからヘッドホン端子の出力。これはかなり抑えめになっており、ヘッドホンで腹いっぱいの音量を楽しみたいという場合には、相当ボリュームを上げなくてはならない。
 言い替えればパワーアンプの飽和ギリギリの方向に持っていくことになるので、ヘッドホン端子にはもう少しタップリとした出力を出してくれた方がいいように思う。

★★

ダイヤトーン M-U07

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このアンプは一見してわかる通り、いわゆるミニアンプの系統に属する。今回のテストのように、ごくスタンダードのプリメインアンプをテストの対象としている中に、ミニアンプを混ぜるということは、テストとしてはあまりフェアーではない。これを承知のうえで取り上げた理由というのは、現在ダイヤトーンのアンプのカタログの中に、この価格ランクのものがほかにあまり見当たらない、ということと、これが比較的新しい製品であるということなので、あえて取り上げてみた。そのミニであることのハンデというのは、何かというと、当然同じ価格で極力小型化するためには使うパーツ、あるいはそれに付随する回路設計にいろいろ制約が出てくる。同じ価格でより小型化した場合に、無理に小型化しないで普通にゆったり作ったアンプに比べてどこか性能が劣るということは、これはやむを得ないことだ。したがって、ミニアンプは、ミニアンプの仲間の中に混ぜて、ミニアンプ同士のテストというのをすべきで、このアンプに関しては多少そういう点、ハンデをあげた採点をしようと思う。
音質 まず音全体の印象だが、割合に柔らかい、フワッとした、どちらかといえば甘口とも言えるような聴きやすい音が第一印象だ。これは実はダイヤトーンのアンプということをわれわれが頭に置いて聴くと、意外な感じを覚える。ダイヤトーンのアンプというのは、比較的カチッと硬めの音を出す。これがダイヤトーンのスピーカーにも共通する一つのトーン・ポリシーだと思っていたが、このミニアンプでは反対に割合に柔らかい音が聴こえてきた。
 柔らかい音というのは、また別な言い方をすると、少し音の芯が弱いという感じがする。これは繰り返すようだが、ミニアンプだからそう高望みをしても仕方がないことだと思う。この価格、そしてこの大きさ、それから公称出力が25Wということを頭に置いて聴くと、意外にボリュームを上げても音がしっかりと出てくる。これはミニとしてはむしろよくできた方のアンプだという印象を持った。
トーン&ラウドネス このアンプにはMCヘッドアンプは入っていない。そういう点は非常に作り方としては、割り切っている。スピーカーもA、B切り替えというものはなく、一本きり。その割にはテープが二系統あるというようにテープ機能を、かなり優先させている。また、トーン・コントロールの効きは、比較的大きい方で、ラウドネスも割合にはっきりと効く。ということはこういうミニサイズのアンプにはミニサイズのスピーカー組み合わされるというケースが多いだろうということを考えると、特に低音の方で効きを大きくしたという作り方は妥当だと思う。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音の出方というのは、ヤマハA5のところでも言ったように、ボリュームの同じ位置で、スピーカーを鳴らしていると同じような音量感で、ヘッドホンが鳴ってくれるのが理想だが、このアンプもヘッドホン端子での出力をやや抑えぎみにしてある。
 テストには主にエラックのカートリッジ794Eを使った。多少シャープな感じのするカートリッジだ。それよりはスタントンの881S、比較的音の線が細くない厚味を持った音のカートリッジだが、その方がこのアンプの弱点を補うような気がする。つまりカートリッジには線の細いものよりは、密度のある線の太い音のカートリッジ、スピーカーも含めてそういう組合せをすると、このアンプはなかなか魅力を発揮する音が出せると思う。
 最後に、このアンプのマイクロホンの機能が充実しており、レベル設定やミキシング、それにリバーブが付けられるなど、カラオケを意識したようなファンクションもあり、楽しめる。

ヤマハ A-5

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このヤマハのA5は、四万五千円というプリメインとしてはかなりローコストの部類だが、この製品をいろいろな角度からながめてみると、高級プリメインが備えている機能を最小限に集約して、できるだけ安い価格で提供しようという作り方がうかがえる。
 例えばMCのヘッドアンプを内蔵しているということも一つ。それからインプット系統がなかなか充実しており、テレビの音声チューナーを接続できるようにもなっている、といったことだ。見た目は一連のヤマハのアンプのデザインの系統で、大変さっぱりして清潔感のある印象を与える。
音質 この製品は前号でも試聴した製品なので、音は前にも聴いていた。今回改めて同じような価格ランクのアンプの中に混ぜてみて、どういう位置づけになるかというところが大変興味があったわけだが、この価格の中で、もしヘッドアンプまで入れて機能を充実させようと考えて作ると、やはりどこかうまく合理化し、あるいは省略しなくてはならない部分が出てくるということは、常識的に考えて当然だと思う。実際に音を聴いてみた結果、大づかみに言えば、これはヤマハの一連のアンプに共通の明るさ、軽やかさ、それから音が妙にじめじめしたり、ウェットになったりしない一種渇いた気持ちの良さ、そういった点を共通点として持ってはいる。
 ただ、いろいろなレコードを通して聴いてみて、一言で印象を言うと少し薄味だということだ。それからの音の重量感のようなもの、あるいはスケール感のようなものが十分に再現されるとは言いにくい。
 前号でプレイヤーのテストをした時に、レコード・プレイヤーが三万九千八百円というような価格でまとめたものから四万円台に入るとグーンと性能が上がるという例があったように、アンプでもやはり中身を充実させながら、コストダウンさせるためには、どこか思い切りのいい省略が必要ではないかということは当然考えられる。
 そういう見方からすると、このA5はいろいろな面からかなり高望みをして、本質の方はほどほどでまとめたアンプという印象がぬぐえない。トータルとしての音のまとめ方としては、さすがに経験の深いヤマハだけに大変手慣れたものだが、そのまとめ方の中身の濃さが伴っていないという感じだ。
トーン&ラウドネス ところでこのアンプをいろいろ操作してみての感じだが、トーン・コントロールの効き方は、低音、高音ともいわゆる普通の効き方をする。ラウドネス・コントロールは割合にはっきりと効く感じで、わかりやすい効き方をする。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプだが、MC20MKIIはボリュームをあまり上げたところでは使えない。つまりあまり大きな音量が出せない。ゲインも足りないし、ボリュームを上げていくと、ヘッドアンプのノイズのほうが、かなり耳障りになってくる。これはかろうじて使うに耐えるという感じ。しかし、デンオンの103Dの方は十分に使える。ゲインもたっぷりしているし、ヘッドアンプとしての音質も、四万五千円ということを考えれば、まあまあのところへいっているだろうと思う。
ヘッドホン ヘッドホンの端子での音の出方の理想というのは、ごく標準的な能率のスピーカーをつないで、ボリュームを上げて、適当な音量を出しておく。その音量感とそのボリュームの位置で、ヘッドホンに切り替えた時の音量感が、大体等しくなることが理想だ。その点、このアンプのヘッドホン端子で出てくる音量が、スピーカー端子よりもやや低めという印象がした。
 ヘッドホン端子での音質は、スピーカー端子で聴く音とほぼ同じで統一がとれている。

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第11項・JBL4343の組合せ例(4)価格をほどほどにおさえて、穏やかで聴きやすい音に仕上げる」より

 4343の音が、正確で、クリアーで、生々しく鮮明で、ディテールを細かく分析してゆくばかりではないことは、すでに述べた。4343は、その本来持っている強い性格をおさえてゆくと、一面、おだやかでバランスのよい、神経質にならずにぽかんと楽しめる面をも聴かせる。モニター的な音ばかりでなく、そして、前三例のようなかなり高価な組合せばかりでなく、スピーカー以外のパーツをできるだけローコストにおさえて、あまりシビアな要求をしないで、しかし4343の持ち味を最少限生かすことのできるような組合せを作ってみよう。
 前の三つの例は、アンプリファイアーにすべてセパレートアンプを組合わせている。とうぜん高価だ。むろんセパレートアンプの中にも、とても廉価な製品もあるが、しかしローコスト・セパレートアンプを研究してみると、ふつうの組合せをするかぎりは、概して、同価格帯のプリメイン型のアンプの方が、音質の点からは優秀だという例が多い。ローコストのセパレートアンプは、厳格な意味での音質本位であるよりは、各部が細かく分かれていることによって、イクォライザーアンプや、マルチチャンネル用のエレクトロニック・クロスオーバーやメーターアンプ等々、複雑な機能を持たせたり、部分的な入れ替えでグレイドアップを計るなど、機能的な目的から作られていると考えたい。
 というわけでほどほどの価格で組合せを作る場合には、概して、セパレートアンプでなくプリメインアンプとチューナー、という組合せで考えるほうがいい。
 そして、この例の考え方のように、音の鮮明度や解像力よりは、全体として穏やかで聴きやすい音を狙うのであれば、たとえばラックスのアンプのような、本質的に粗々しい音を嫌う作り方のメーカーに目をつけたい。中でも、新しい製品であるL309Xは、こんにち的に改良されていながら、同クラスの他機種の中に混ぜると、明らかに、きわどい音、鋭い音を嫌った穏やかな鳴り方をすることが聴きとれる。このメーカー独特のリニア・イクォライザーのツマミを、ダウン・ティルトの側に廻しきると、いっそう穏やかな音が得られる。
 プレーヤーは、ものものしい感じの多い国産を避けて、英リン・ソンデックのモーターに、同じく英SMEのアームを組合わせる。とても小型にまとまる点がいい。ただし33一速度しかないのが難点で、もう少し安くあげることも含めて、ラックスのPD272を第二候補にあげておく。音質はむろん前者の方が優れている。
 カートリッジは、音をこまかく分析する傾向のMC(ムービングコイル)型を避けて、MM(ムービングマグネット)型の中から、ひとつは西独エラック(日本では商標登録の関係でエレクトロアクースティックと呼ぶが)のSTS455E。もうひとつ、アメリカ・スタントンの881Sを加えてもいい。455Eはどちらかといえばクラシック系のしっとりした味わいが得手だし、スタントンはジャズ、ポップス以降の新しい傾向の音楽表現が良い。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥580,000×2
プリメインアンプ:ラックス L-309X ¥158,000
プレーヤーシステム:ラックス PD272 ¥69.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS455E ¥29,900
カートリッジ:スタントン 881S ¥62,000
計¥1,416,900(エレクトロアクースティック STS455E使用)
計¥1,449,000(スタントン 881S使用)

Speaker System

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第2項・スピーカーの鳴らす音、二つの分類 アキュレイト・サウンドとクリエイティヴサウンド」より

 ここではデザインや価格の問題を抜きにして、スピーカーの「音」だけについて考えてみる。
「良いスピーカー」とは、必ずしも原音を再生するスピーカーばかりでないことに前項で触れたが、その意味をくわしく説明するためには、いま現実に市販されているスピーカーが鳴らそうとしている音がどういうものか、どんな考え方があるのか、を知るとともに、スピーカーを通じて音楽を楽しもうとしている聴き手の側が、どんなふうに聴き、どういう音を求めているのか、を対比させて考えてみるとわかりやすい。
          *
 まずスピーカーの鳴らす音(あるいはメーカーがスピーカーを作るとき、どういう音を鳴らしたいと考えているか)という面から、ごく大づかみに、二つのグループに分類してみる。それは、アキュレイトサウンド(正確な再現・註1)に対してクリエイティヴサウンド(創られた音)とでもいうべき両極の音、ということになる。
 レコードに録音された音。それがピックアップで拾い出され、アンプで増幅されて、スピーカーに送り込まれる。その送り込まれた電流(音声電流、とか入力信号などという)を、できるかぎり正確にもとの音波に変換しようという目的で作られたスピーカー。それが、いわゆるハイフィデリティ High Fidelity(高忠実度。ハイファイと省略されることが多い。忠実度がいかに高いか。言いかえれば入力信号にいかに忠実かという意味)のスピーカーだ。そして、市販されるスピーカーの大半は、このいわばオーディオの〝王道〟を目ざして作られている。
 これに対して、スピーカーを通してしか聴くことのできない音、言いかえれば、ナマの楽器では出せない音、を意識して、ナマとは違う音、スピーカーだけが作りうる音の魅力を、ことさら強調して作るスピーカーが、一方にある。ただ、はっきりさせておかなくてはならないのは、それが、ナマの(あるいはもとの)音楽の鳴らす音から、全然かけ離れた音であっては困るということだ。
 大づかみには、もとの音楽の鳴らす音にはちがいないが、それを、もとの楽器の出せないような大きな音量、逆に小さな音量で鳴らす、というのも、スピーカーにしか(というより録音・再生というプロセスを通じてしか)できないことだ。また、食事や歓談の妨げにならないよう、刺激的な音を一切おさえて、どこまでもまろやかに、ソフトに、耳ざわりの良い音で鳴らす、というのも、スピーカーだけにできることだ。あるいはまた、スペクタクルサウンドとでも言いたい壮大な、さらにはショッキングサウンドとでも言う迫力を聴かせることも、スピーカーなら可能である。
          *
 音楽の聴き方、受けとめかたに、一方で、シリアスな鑑賞の態度があり、他方に、おおぜいで歓談したりくつろいだりしながら楽しむ聴き方がある。スピーカーと一対一で、いわば読書するような形で音楽を鑑賞するには、前者の、いわゆるアキュレイトサウンドが向いているし、歓談やくつろぎのためには、後者のクリエイティヴサウンドを選ぶほうが楽しい。

註1
 アキュレイトサウンドというのは、最近のアメリカの若い世代の使いはじめた表現で、これは、第2項でふれたように、かつてのハイフィデリティに相当する。しかし、それが「Hi−Fi(ハイファイ)」という一種のスラングに近い言葉に堕落したことをおそらく嫌った結果だと思うし、また、以下に少しずつ解説するように、正確な意味での「原音再生」という考え方が、いまでは訂正されつつあって、この入力信号に対して正確な(アキュレイト)、という考え方のほうが好まれるのだと思う。たとえばアメリカのマーク・レビンソンも「私はモースト・アキュレイト・サウンドを常に心がけている」というような言い方をする。

Speaker System (floor type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第32項・市販品をタイプ別に分類しながら(5) フロアー型スピーカー」より

 どこまで頑張ってみても、所詮ブックシェルフはブックシェルフ。どこか伸びの足りない音がするのにくらべて、フロアータイプの大型の、ナマの楽器そのもののスケールの大きさや、音場感や、悠然とした余裕のある鳴り方こそ、やはりスピーカーのゆきつくところだ、という感じがする。しかしフロアータイプは、とうぜん大型で設置のための面積が大きく占有される。また、部屋の中でどうしてもスピーカー最優先、という置き方が必要になり、視覚的にもスピーカーが部屋の主役の感じになる。価格には幅があるとはいえ、注目製品は概してかなり高価につく。そういう不利な条件をものともしない愛好家でなくては、とうぜん手を出しにくい。しかしくりかえすが、その点を承知であれば、フロアータイプの上質のスピーカーの聴かせる音楽の世界は別格だと断言していい。
           *
 フロアータイプの高級機を代表する製品は、すでに7〜12、19〜23などの項で紹介したのでそれとの重複を避けて、注目製品を列挙しよう。
 まずアメリカ製ではボザークのB410MOORISH(ムーリッシュ)。広い部屋で、たっぷりした音量で鳴らしたときの量感の快さはちょっと類がない魅力。しかし部屋が小さくてスピーカーに接近して聴かざるをえないとき、そして音量を絞って聴くときには、ボザークの良さは発揮しにくい。
 そういう目的にはむしろ、JBLのL300やそれのプロ用4333WXAがある。E−VのインターフェイスDも、このメーカー久々の良いスピーカーだと思う。アルテックのモデル19は、これらと大きさは近いが、その音はボザーク同様に広い部屋で生かされるタイプだ。
 イギリスは、すでに書いたようにスピーカーの大型化をあまり好まない国で、かつてのタンノイのオートグラフや、22項のヴァイタヴォックスCN191を除くと、いまや大型のフロアータイプはタンノイの〝バッキンガム〟と、セレッションのアンティークデザインの〝デッドハム〟ぐらいのものか。ヴァイタヴォックスの〝バイトーン・メイジャー〟は、アルテックA7Xのイギリス版という感じで、A7Xをぐっと渋くした音に特徴がある。
 イギリスでは、いまではこれらよりもう少し小型の、21項のディットン66や25のようなトールボーイタイプが好まれるらしい。ディットンの三桁ナンバーの新製品662は、551(29項参照)同様に新しい音を目ざした良い製品。スペンドールBCIIIは、モニター的なバランスの良い音質を愛好する人が多い。タンノイは全面的にモデルチェンジしてしまったが、さすがに日本で人気の高いアーデンとバークレイだけは、マークIIになったとはいえ、残している。
 ひとつぜひ紹介しておきたいのが、フランス・キャバスの〝ブリガンタン〟。やや個性的な音だが、いかにもフランスを思わせる華麗な音質は他に類がない。
 そして最後に国産だが、フロアータイプでは、これら海外の著名一流品の魅力にいまひとつおよばないというのが正直のところではなかろうか。

Speaker System (Bookshelf type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第28項・市販品をタイプ別に分類しながら(1) ブックシェルフタイプ──アメリカ編」より

 これまでに例にあげた以外にも、いろいろな意味で注目に値するスピーカーは数多い。そのひとつひとつについて、いままでのようなとりあげかたをしていては、いくらスペースがあっても足りないので、この辺から、内外の多くのスピーカーを、おもにその寸法や価格からタイプ別に分類しながら、特徴のある製品を拾って眺めていこう。まず何といっても、現在なお世界的に主流の座を占めているブックシェルフタイプから、ということになる。
          *
 ブックシェルフタイプとは、その名のとおり、欧米の家庭の居間や書斎によく見受けられる作りつけの本棚(ブックシェルフ)に収めやすいサイズであるところから生まれた呼び名だが、その呼び方と、こんにち世界的に最も多い長辺60センチ前後、短辺35センチ前後、奥行き30戦地前後、というサイズは、アメリカのARの初期の製品の25×14×11 3/8インチ(約635×355×290ミリ)が手本になった。これを横倒しに本棚に収めると、B4版やその変形版の大型書籍とうまく並ぶ。こんにちでは、本棚とは無関係にタテに置く方が一般化したが、このサイズが、使う側よりもむしろ作る側にとって経済的な寸法であったため、これほどまでに普及したといえる。
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 そのブックシェルフの元祖ARは、ボストンにあって、アメリカ東海岸を代表するスピーカーのメーカー。こんにちではAR10πがその代表製品といえるが、少なくとも10畳程度以上のなるべく広い、しかも響きの豊かな部屋で鳴らしたときに、そのマイルドで力強い音が楽しめる。どちらかといえば、音量を上げるにつれてその長所を発揮する。
 同じアメリカでも、西海岸のJBLや、比較的新顔のESSになると、ARと反対に、明るく鮮鋭で力強い音がする。ESSのam1ブックシェルフ、JBLの小型モニタースピーカー4311Aや4301WXがその例だ。JBLも、コンシュマー用のL40はもう少しソフトな味になるし、旧型のロングセラーSP−LE8Tなどの、こんにちではやや異色の、しかし捨てがたい製品もある。
 アメリカの中部を代表するE−V(エレクトロボイス)は西と東のまさに中庸をとったような、とてもバランスの良い音を聴かせる。インターフェイスA/IIはその代表作。また、これは西海岸のメーカーながら、同じくバランスのよいという点では、BSWのボリヴァー18に注目したい。有名メーカーでないせいかあまり話題にならないが、輸入品でこの価格としては、もっと騒がれてよい製品だと思う。
 アメリカ製のブックシェルフタイプで私が注目している製品は以上だが、もう少し追加するなら、AR10πのレベルコントロールのみを一部省略したAR11、JBLの4301のコンシュマー用L19を、同種のローコスト買徳版ということであげておこう。また、E−VのインターフェイスA/IIをひとまわり大型化して、これはブックシェルフというよりはフロアータイプに近くなってしまうが、同じ「インターフェイス」シリーズのB/IIやCも、それぞれに特徴のある製品といえる。

Speaker System (Mini type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第31項・市販品をタイプ別に分類しながら(4) ミニスピーカーと小型ブックシェルフ」より

 たとえば書斎の片すみ、机の端や本棚のひと隅に、またダイニングルームや寝室に、あまり場所をとらずに置けるような、できるだけ小さなスピーカーが欲しい。しかし小型だからといって妥協せずにほどほどに良い音で聴きたい……。そんな欲求は、音楽の好きな人なら誰でも持っている。
 スピーカーをおそろしく小さく作った、という実績ではテクニクスのSB30(約18×10×13cm)が最も早い。けれど、音質や耐入力まで含めて、かなり音質にうるさい人をも納得させたのは、西独ヴィソニック社の〝ダヴィッド50〟の出現だった。その後、型番が502と改められ細部が改良され、また最近では5000になって外観も変ったが、約W17×H11×D10センチという小さな外寸からは想像していたよりも、はるかに堂々としてバランスの良い音が鳴り出すのを実際に耳にしたら、誰だってびっくりする。24畳あまりの広いリスニングルームに大型のスピーカーを置いて楽しんでいる私の友人は、その上にダヴィッド50(502)を置いて、知らん顔でこのチビのほうを鳴らして聴かせる。たいていの人が、しばらくのあいだそのことに気がつかないくらいの音がする。
 ダヴィッド5000とよく似た製品に、西独ブラウンのL100がある。しかしブラウンなら、これと価格のたいして違わないL200のほうが、大きさで無理をしていないだけ音に余裕が出てくる。ミニスピーカーのチャンピオンは、やはりダヴィッドだと私は思う。ちなみにダヴィッドの名は、巨人ゴリアテを見事に倒した例のダヴィデから名づけられている。
 ブラウンL300は、外径はL200の奥向きがわずかに増しただけだが、このサイズで3ウェイを収めた強力型で一聴の価値がある。ブラウンとヴィソニックは、ともに西独の製品特有の、カチッと引締まった気持のいい音がするが、どちらかといえばブラウンの音のほうがやや弾力的だ。
 これらの製品に音質の点ではおよばないが、おそらくいま世界最小のスピーカーは、フォステクス(日本)のG700だろう。またアイデンのCUBEは、アメリカ・オーラトーンを真似た正方形のサイコロ型で、これも場所をとらない点がおもしろい。ほかに国産の注目製品を左にあげておく。
 これら超小型スピーカーよりもひとまわりサイズを増して、そのかわり無理をせずにまとめた小型ブックシェルフの中に、いくつかおもしろい製品があって、もしスペースが許せば、超小型の意外性を別としてこちらのほうがやはり音の伸びが自然だ。
 ロジャース(英)のLS3/5Aは、英国BBCがモニターに採用しているだけあって、音のバランスが自然で、繊細な音の美しさでズバ抜けている。
 これよりさらに少々大きくなるが、国産のヤマハNS10M、その成功に刺激されて後を追ったダイヤトーン、オンキョー、デンオンはそれぞれに出来がいい。ヤマハとダイヤトーンがやや真面目な音。オンキョーとデンオンは弾みのある豊かな感じ。そしてこれらほど音をうるさく言わずに、食堂の片すみなどに気軽に設定する製品として、フォステクスのG11Nは目をつける価値がある。

BOSE 901 SeriesIV

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「24項・ボーズ901/SERIESIV 独特の理論でつくられている間接音重視型」より

 間接照明──光源が直接目に入らないように、一旦、壁面や天井に反射させる照明──は、光が部屋ぜんたいをやわらかく包む。このたとえはすでに6項でも使ったが、アメリカのボストン郊外にあるユニークなメーカー、BOSE(ボーズ)の製品は、それと同じ原理で作られた独特のスピーカーだ。中でもこの901型は、同社を代表するモデルで、すでに四回に亙る改良の手が加えられた最新型だ。実物を目にすれば、エンクロージュアが小さいことが意外に思われるかもしれない。音を聴けばなおさらのことで、この小さなエンクロージュアから、びっくりするほど豊かな低音が朗々と鳴ってくる。それでいて、このエンクロージュアの中には、大型のスピーカーユニットはひとつもついていない。直径10センチ(4インチ)という小型ユニットが全部で9本。すべて同じもので、低音専用とか高音専用とかいう区別のない、いわゆるフルレンジ(全音域)型である。
 この9本のユニットのうち、1本だけは正面を向いているが、残りの8本は背面にとりつけられて、それがすべて壁面に反射した間接音で聴き手の耳に達する。言いかえれば、スピーカーユニットから出る音の11%が直接音として、残りの89%が間接音として耳に到達する。これは、このスピーカーの設計者であるドクター・ボーズが、コンサートホールでの音の聴き手に到達する割合を調査して得た結論から抽き出した独特の理論だ。この理論に対して、レコードに録音された音自体にすでにホールの反響音が含まれているのだから、そこからあとの再生装置で反射音をつけ加える必要はないという反論があるが、むしろ901の鳴らす音は、そんな反論に疑いを抱かせるほど、ときとして魅力的だ。
 左右二台のスピーカーを、専用スタンドにとりつける。反射音を有効に生かすためには、スピーカーの背面が、極端に音を吸収するような材質や構造であってはいけない。従来までの901型は、この店で、ふすまや障子など吸音面が多い日本の家屋では、なかなかうまくその良さを生かせなかった。しかしTYPEIVに改良されてからのニューモデルは、よほど極端な吸音面でないかぎり、ほとんど問題なく使えるようになっている。
 ひとつ大切なことは、このスピーカーは単独でなく、専用のイクォライザーアンプを必ず併用すること。このイクォライザーは、アンプのTAPE OUTとTAPE INの端子のあいだに接続する。そしてイクォライザーアンプのスライド式のツマミを左右に調整しながら、聴感上、低音と高音のバランスの最も良いと思われるポイントを探す。このツマミは、好みに応じて常用してもよいし、一旦調整ののちは固定してもよい。いずれにしてもイクォライザーをON−OFFしてみると、その変化の大きさに驚かされる。スピーカー背面と壁面との距離、そして左右のスピーカーの間隔のとりかたは、部屋の響きや大きさに応じて、聴感上最良の位置を探す。これは901を使いこなす際の大切な作業だ。また、反射音を有効に生かすためには、スピーカー周辺に大きな家具その他ものを置かないことを心がける必要がある。最良点に調整したときのボーズ901の、ひろがりのあるやわらかな響きは独特だ。

スピーカーシステム:BOSE 901 SeriesIV ¥340,000(ステレオペア)
コントロールアンプ:ヤマハ C-2a ¥170,000
パワーアンプ:マランツ Model 510M ¥525,000
チューナー:ヤマハ T-2 ¥130.000
プレーヤーシステム:パイオニア PL-L1 ¥200,000
カートリッジ:オルトフォン Concorde30 ¥29,800
計¥1,394,800

UREI Model 813(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第17項・アメリカの新しいモニタースピーカー UREI #813」より

 UREIはユナイテド・レコーディング・エレクトロニクス・インダストリーズの頭文字。日本語で発音するとあまり印象がよくないが、録音スタジオ等のプロ用器材の製造で、古くから有名なメーカーだ。つまり一般コンシュマー用ではないが、この会社の手がけた新しいモニタースピーカー813型は、日本のオーディオファンのあいだで、ちょっとした話題になっている。
 というのは、JBL4343の出現で、新しいモニタースピーカーの、音にぜい肉のない、つまり鋭利な刃物でスパッと切り割いてゆくような明晰な音に馴らされていた(しかしその点に多少とも不満をおぼえていた)人たちに、そうでないもうひとつのアメリカの音、肉づきの豊かな、神経質でない、人の好いアメリカ人のような屈託のない朗々とした豪華な味わいを、久々に聴かせてくれたスピーカーだという点で。
 なにしろ、音がいくらでも湧き出てくるような、弾みのついた明るい響き。雄大なスケール感。まるでコダカラーのような、つまりどこか人工的な味わいであることは感じさせながらも、しかしこれはアメリカでしか作ることのできない色彩のあざやかさと豊富さ。この音に馴らされたあとでたとえばJBLを聴くと、どこか禁欲的にさえ聴こえるほど、こちらの鳴らす音は享楽的だ。
 外形寸法は相当に大きい。とくに奥行きの深いことが、いっそう大きく感じさせる。そしてもうひとつ、低音用ユニットが上になるようにして、高音用ユニットが聴き手の耳の高さにくるように設置するという条件を満たすためには、高さが数十センチの頑丈なスタンドが必要だ。サイドボードや物入れのような共鳴しやすい材料は厳禁だ。また背後には共振しにくい堅固な壁面を選び、原則として背面を壁に密着させる。
 これは一般家庭用ではなくスタジオ用だから、家庭ではひどく扱いにくい。こういうスピーカーを家に持ち込むのは、日本の愛好家ぐらいのものかもしれないが、しかしこの音は他に得がたい魅力だ。ただ私は、ここまで楽天的な音を、毎日のように楽しむ気にはなれないが。
          ※
 このスピーカーを生かすのは、たとえばマッキントッシュのアンプの豪華な音だろう。そしてカートリッジもアメリカの製品。これで50年代のジャズをいっぱいのボリュウムで鳴らしたら、しばらくのあいだ陶然とした気分が味わえるにちがいない。輝きと生命力に満ちた豪華なサウンド。しかし、渋いクラシックのファンにはどう考えてもこの音は好まれない。
 このスピーカーの基本はアルテックの604−8Gというモニター用のユニットだが、UREIの技術によって、アルテックの音がなんと現代ふうに蘇ったことかと思う。同じ604−8Gを収めた620Aシステムでは、こういう鳴り方はしない。この813に匹敵しあるいはこれを凌ぐのは、604−8Gを超特大の平面(プレイン)バッフルにとりつけたとき、ぐらいのものだろう。
 UREI813を鳴らす組合せ例をもうひとつあけておく。国産で羽音の表情の最も濃いトリオの07シリーズを中心に、プレーヤーもカートリッジも結果的にスピーカーと同じ〝まっ黒け〟で統一できた。むろんそういうおもしろさより、音質本位に考えた結果である。

スピーカーシステム:UREI #813 ¥498,000×2
コントロールアンプ:マッキントッシュ C32 ¥690,000
パワーアンプ:マッキントッシュ MC2205 ¥668,000
チューナー:マッキントッシュ MR78 ¥490,000
ターンテーブル:テクニクス SP-10MK2 ¥150.000
キャビネット:テクニクス SH-10B3 ¥70,000
トーンアーム:テクニクス EPA-100 ¥60,000
カートリッジ:ピカリング XUV/4500Q ¥53,000
カートリッジ:エンパイア EDR.9 ¥50,000
計¥3,177,000(ピカリング XUV/4500Q使用)
計¥3,174,000(エンパイア EDR.9使用)

スピーカーシステム:UREI #813 ¥498,000×2
コントロールアンプ:トリオ L-07CII ¥160,000
パワーアンプ:トリオ L-07MII ¥1200,000×2
チューナー:トリオ L-07TII ¥130,000
プレーヤーシステム:テクニクス SL-01 ¥80.000
カートリッジ:エンパイア EDR.9 ¥50,000
計¥1,656,000

JBL 4343

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第7項・例えばJBL4343について少し研究してみよう」より

 JBLの四桁ナンバーで、43××というように上二桁が43……ではじまる製品は、すべてこの系列だと思っていい。JBLではこれを「プロフェッショナル・モニター・シリーズ」と呼んでいる。
 モニタースピーカーと呼ばれる製品は26項でくわしく説明するように、アンプから加えられた入力信号を、できるかぎり正確に音波に復元することが要求される。すなわち前項までの分類の第一の、アキュレイトサウンドそのものといえる音を再生する。
 中でもこのJBLの4343は、その性能の優秀なこと、どんな条件下でもみごとな音を聴かせることで、音を創る側の人たちばかりでなく、再生の側の、それも専門家筋にとどまらず、音楽家、音楽評論家や熱心な観賞家、はてはごく普通の愛好家まで、広い分野の人びとが一様にほめる、稀有なスピーカーだといえる。クロウト筋の評価が高いのに一般受けしない、とか、市場では広く売れているのに専門家はほめない、などという製品はけっこう少なくないが、どんな立場の人からも広く支持されるスピーカーは、どちらかといえば珍しい部類に入る。
 実際、このJBL4343というスピーカーは、プロフェッショナルの立場の人が、音をどこまでも細かく分析したいと思うとき、その要求にどこまでも応じてくれる。このスピーカーなら、まあ、聴き洩らす音はないだろうという安心感を与えてくれるというのは、たいへんなことだ。
 それでありながらこれをふつうの家庭に収めて、音楽を鑑賞する立場になって聴いてみても、4343は、それが音楽の研究や分析という専門的な聴き方に対しても、また逆に、面倒を言わずにただ良い音、美しい音を楽しみたいという聴き方に対しても、それぞれにみごとに応じてくれる。眼前で楽器を演奏するような大きな音量でも音が少しもくずれない。逆に、夜遅くなって、思い切ってボリュウムを絞って観賞するようなときでも、音はぼけたりしない。クラシックのオーケストラも、ジャズも、ヴォーカルも、ロックやニューミュージックも、どこにも片寄ることなく、あらゆる音に対して忠実に、しかもみごとに反応する。
 このスピーカーに、何の先入観も持たない一般のひとが聴いても、素晴らしい音だと感心する。逆に、4343にいろいろな先入観を抱いている専門家や、半可通のアマチュアのほうが、このスピーカーをいろいろとけなしたりする。もちろん完全無欠の製品どころか、4343といえど、いろいろと弱点も残っている。部分的には4343以上の音を鳴らすスピーカーはいくつかある。けれど、いろいろな音楽を、いろいろな音量で、あらゆる条件を変えて聴いたときのトータルなバランスの良さ、それに見た目の美しさも加えると(これは大切な要素だ)、やはり4343は、こんにちのベストスピーカーのひとつにあげてよいと思う。
 なお、型番の末尾にWXとつくのは、外装がウォルナット木目のオイル仕上げで、前面グリルが濃いブルー。何もつかないほうは、スタジオグレイと呼ばれるライトグレイの粗いテクスチュアの塗装に、グリルは黒。WXは、前面木部のふちを斜めにカットしてあるので見た目にいっそうやわらかいエレガントな印象を与える。
 さて、当り前の話だがスピーカーはそれ自体では鳴らない。アンプやプレーヤーやチューナー、必要ならテープデッキ……というように、さまざまのコンポーネントパーツを上手に組合わせて、そこではじめて、スピーカー本来の能力を発揮できる。いくら優秀なスピーカーでも、それを鳴らしてやる条件が十分にととのわなくては、せっかくの性能も生かされない。
 そこで、JBL4343の、すでに書いたような優れた能力を、十全に発揮するための使いこなしを、いくつかの実例をあげながら研究してみることにする。

QUAD ESL(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「25項・形状と使いこなしの面でこれまでのどれにも属さないイギリスQUADのESL(エレクトロスタティック・ラウドスピーカー)」より

 イギリスという国は、22項のヴァイタボックスもそうだがたとえば二十年以上、といった永い年月、モデルチェンジせずにものを作り続けるという面を持っているが、QUAD・ESLもまた、1955年以来作り続けられている。おそろしく寿命の長いスピーカーだ。
 だが、CN191の音がこんにちの時点ではすでに古くなっていることを、愛好家の側では十分に承知していて、しかしその音の魅力ゆえに愛用されているのに対して、QUAD・ESLは、およそ四半世紀を経たこんにちなお、古くなるどころか、逆に、その音のいかに新しいか、というよりもいかに時代を先取りしていたかが、次第に多くの人々に理解されはじめ、むしろ支持者の増える傾向さえあるという点で、オーディオ製品の史上でも稀な存在といえる。それはESL(エレクトロスタティック=静電型、またはコンデンサー型ともいう)、独特の方式のためだった。
 向い合った二枚の電極の、一方を固定し他方を可動極(振動板)とし、直流の高い電圧(成極電圧という)を加えると、電極は静電気を蓄えて互いに吸引しあう。そこにアンプから音声電流が加えられると、電極には互いに吸引・反撥の力が生じて、可動極側が振動する形になり、音波を作り出す。これがエレクトロスタティック型の基本原理で(この方式をシングル型といい、QUADの場合はプッシュプル型を採用している)、その独特の方式は、ここ数年来、アンプをはじめとして周辺機器やプログラムソースの音質の向上するにつれて、その真価を広く知らせはじめた。ただ、パネルヒーターのような厚みのない薄型であることにもかかわらず、前後両面に音波を生じるために、背面を壁に近づけることは原則として避けなくてはならない。できることなら、上図のように部屋を二分して前後の空間を等分するか、せめて三等分として前方に2、後方に1といった割合に設置することが要求される。部屋の最適の広さは約50㎥以上が望ましい……というように、大きさの割に設置の条件がやかましく、意外にスペースを占有してしまう。二枚のスピーカーを、真正面一列に向けるのでなく、八の字状に聴き手の耳に正面を向け、その焦点のところで聴取すると、透明で繊細な感じの、汚れのないクリアーな音質と、ステレオの音像のピシリと定位して、たとえば歌い手がスピーカーの中央に立っているかのようなリアリティを聴きとることができる。
 音量があまり望めないといわれているが、スピーカーの正面2メートル程度の距離で鑑賞するかぎり、たとえばピアノのナマの音量、のような大きな音量を要求するのは無理にしても、けっこう十分のボリュウム感を味わうことができる。
 なお、構造上(成極電圧形成のため)、ACの電源が必要だが、消費電力は僅少なので、一旦入れたら(音を聴かないときでも)AC電源を入れっぱなしで切らないほうがよい。
 このESL一組では、打楽器やピアノの打鍵の叩きつけるような迫力は望めないが、二本をスタックにして使えば、意外にパワフルな音も得られる。マークレビンソンの〝HQD〟システムに採用されているのがその例だ。

スピーカーシステム:QUAD ESL ¥195,000×2
コントロールアンプ:QUAD 33 ¥98,000
パワーアンプ:QUAD 405 ¥148,000
チューナー:QUAD FM3 ¥98.000
プレーヤーシステム:トーレンス TD126MKIIIC/MC ¥250,000
ヘッドアンプ:トーレンス PPA990 ¥100,000
スリーブ:QUAD ¥15,000
計¥1,099,000

Speaker System

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第1項・スピーカーを選ぶ前に」より

 スピーカーを選ぼうとするとき、大別すれば三つの要素をまず考える。第一は言うまでもなく音質。できるだけ良い音が欲しい。自分の好みに合った音を探したい。第二は大きさやプロポーション、そしてデザイン。第三は価格──。
 この三つの要素は、人によってどの項目を重視するか、その比重の与え方がちがう。オーディオのマニアなら、価格や大きさを無視して音質本位で選ぶかもしれない。しかしいくら音質本位といっても、あまり大きすぎたり、あまりにも高価であったりすれば購入をためらうかもしれない。また、インテリアデザインを大切にする人なら、、音質よりは見た目の美しさや、部屋に合うサイズやデザインを最も重視するだろう。
 このように比重の置きかたはひとさまざまであっても、ともかく、スピーカーの選択にあたって、①音質 ②デザイン(大きさ、プロポーションその他) ③価格、という三つの角度から検討を加えることが必要になる。
          *
 ところで、第一の要素である「音質の良さ」という問題は、その基準がきわめてあいまいのまま論じられている。オーディオの専門家に向かって、「良い音」とは? と質問してみると、たとえば「生(ナマ)の音をそっくりそのまま再現すること」というような答えが返ってくるだろう。生の音そっくり、ということを「原音再生」などという。だが、原音の再生というテーマは、良いスピーカーの基準のひとつにすぎない。しかもその基準ひとつすら、まだ100%満たした製品はない。
「良い音」とは、なにも原音の再生という狭いひとつの目標に限定してしまうことはない。聴き手を快くくつろがせる音。思わず手に汗をにぎるスペクタクルな音。歓談の邪魔をしないように低く静かに、そしてどこから鳴ってくるかわからないような気持の良い音……。いくつもの「良い音」がある。この本では、それらの点をできるだけ明確に分別してみよう。
          *
 大きさ、プロポーション、デザインを論じるためには、スピーカーの置かれる部屋のことを抜きに考えることはできない。スピーカーのタイプによって、床の上に直接置くべきタイプ、床や壁から離して設置しなくてはならないタイプ、棚にはめ込んだ方がいいタイプ、反対に周囲を広くあけて設置しなくてはならないタイプ……等さまざまの製品がある。いくらスピーカー自体が小型でも、周囲を広くあけて設置しなくてはならないのだとしたら、部屋の中で占有する空間を無視できなくなる。パネルのように薄いスピーカーにも、背面を壁から充分に離して設置しなくてはならないような製品がある。
 スピーカーの置かれる部屋は、インテリアという視覚面よりもいっそう、部屋の響き、という音質面でスピーカーの音を生かしも殺しもする。部屋の音響条件に合わせてスピーカーを選ぶ。しかもそれがインテリア的にもよく合うなら、選ばれたスピーカーの能力は最大限に発揮されるだろう。
 次のページから、それらさまざまの要素を、できるだけ有機的に関連させながら、スピーカー選びのヒントを探ってゆく。

Monitor Speaker System

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第26項・『モニタースピーカー』とは?」より

 たとえば7項から11項までかなりのページを割いたJBLの4343のネームプレートには「スタジオモニター」と書いてある。また18項のヤマハNS1000Mの〝M〟はモニターの頭文字をあらわしている。17項のUREIもモニタースピーカーであることをはっきりと宣言している。20項のダイヤトーン2S305も、そしてこれらの例にとどまらず、ここ数年来、世界的に、ことにヨーロッパなどで、型名に「モニター」とはっきり書いたり、それほどでなくとも広告やカタログに「モニター用」と書く例が増えている。
 では「モニター」とは何か。実をいうと、はっきりした客観的な定義なり想定なりがあるわけではない。とうぜん、「モニタースピーカー」と名乗るための規格や資格が、明示されているわけでもない。極端を言えば、メーカーが勝手に「モニター」と書いても、取締る根拠は何もない。
 だが、そうは言っても、ごく概念的に「モニター」の定義ができなくはない。ただし、モニターにもいろいろの内容があるが……。
 その最も一般的な解釈としては、録音あるいは放送、あるいは映画などを含めたプログラムソース制作の過程で、制作に携わる技術者たちが、音を聴き分け、監視(モニター)するための目的にかなうような性能を具備したスピーカー、ということになる。
 粗面からこまかく分析してゆくと膨大な内容になってしまうので、この面を詳しく研究してみたい読者には、季刊「ステレオサウンド」の第46号(世界のモニタースピーカー)を参照されることをおすすめする。
 しかしひとことでいえば、すでに何度もくりかえしてきた「正確(アキュレイト)な音再現能力」という点が、最も重要な項目ということになる。ただし、いわゆるスタジオモニター(録音スタジオ、放送スタジオの調整室で使われるためのモニタースピーカー)としては、使われる場所の制約上、極端な大型になることを嫌う。また、プロフェッショナルの現場で、長期に亙って大きな音量で酷使されても、その音質が急激に変化しないような丈夫(タフネス)さも要求される。
「モニタースピーカー」には、こうした目的以外にも、スタジオの片隅でテープの編集のときに使われるような、小型で場所をとらないスピーカー、だとか、放送局の中継所などで間違いなく音が送られていることを単に確認するだけの(つまり音質のことはそううまさく言わない)スピーカーでも、プロが使うというだけで「プロフェッショナル用モニター」などと呼ばれることさえあるので、その目的について、少しばかり注意して調べる必要はある。
けれど、前述のスタジオ用のモニターは、一般的にいって、ほどほどの大きさで、できるかぎり正確に音を再生する能力を具えているわけで、しかも長期に亙っての使用にも安定度が高いはずだから、そうした特徴を生かすかぎり、一般家庭でのレコードやFMの鑑賞用として採用しても、何ら不都合はない理屈になる。
 少し前までは、スタジオモニターは「アラ探しスピーカー」などと呼ばれて、とても度ぎつい音のする、永く聴いていると疲れてしまうような音のスピーカーであるかのように解説する人があった。事実、そういうモニタースピーカーが、いまでもある。けれど、JBLやヤマハやKEFやUREI等の、鑑賞用としても優れたスピーカーが次第に開発されるようになって、こんにちでは、モニタースピーカーの概念はすっかり変わったといってよい。

Speaker System (accurate sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第3項・アキュレイトサウンドはさらに二つの方向に分類される」より

 正確な音の再現を目ざして作られたスピーカーは、「モニタスピーカー(26項参照)」と名づけられた製品に多い。こんにちそれらの中でも世界的によく知られ、評価の高い製品として、たとえばJBLの♯4343や、KEFの♯105、あるいはヤマハNS1000MやテクニクスのSB7000などが例にあげられる。
 ところで、スピーカーに加えられた入力信号にできるかぎり忠実な再現、といっても、現実には、それがさらに二つの方向に分かれる。それは、音楽がすぐ眼の前で演奏されている感じが欲しいのか、それとも、良いホールのほどよい席で──演奏者から距離を置いて──聴く感じが欲しいのか、という問題だ。
 たとえばいま例にあげたスピーカーの中でも、JBLやヤマハは、どちらかといえば眼の前で演奏されている感じになるし、KEFやテクニクスは、ほどよい距離で聴く感じのほうに近づく。
 いうまでもなくこうした違いは、スピーカーの音よりもむしろレコードの録音の段階ですでに論じなければならない問題だが、しかし同じ一枚のレコード再生しても、スピーカーによって右のような違いを微妙に感じとることができる。ということは、原音、というイメージのとらえかたにも、大別してそのような二通りの態度がある、ということになるだろう。
 音を作る側、それを再生するパーツを作る側に、そうした態度の違いがあるのなら、とうぜんのことに、聴き手の側にも、そのいずれを好むかという好みの問題、ないしは音の受けとめかたの問題が出てくる。
 くりかえしになるが、眼の前で演奏している感じ、演奏者がそこにいる感じ、楽器がそこにある感じ、言いかえれば、自分の部屋に演奏者を呼んできた感じ、を求めるか。それとも、響きの良いホールないしは広いサロンなどで、ほどよい距離を置いて、部屋いっぱいにひろがる響きの美しさをも含めて聴く感じ、言いかえれば、自分がそういう場所に出かけて行って聴く感じが欲しいのか──。
 こうした違いを自分の中ではっきり整理しておかなくては、自分の望む音のスピーカーを的確に選びだすことが難しい。
 あまり高価でも大型でもないが、スペンドール(イギリス)のBCIIというスピーカーは、右の分類の後者──適度の距離を置いて美しい響きをともなって聴く感じ──の性格を色濃く持っている。だからもしこのスピーカーに、眼の前で演奏するような音の生々しさを求めたら、おそらく失望してしまう。ある人は「ピアノの音がひどくてがっかりしました」という。それは、ピアノをすぐそばで聴く感じを求めたからだ。逆に、演奏会場でのピアノを聴き馴れた人は、このスピーカーに大層満足する。
 部屋の条件という面からこのグループ──アキュレイトサウンド──のスピーカーに共通して言えることは、棚にはめ込んだりしないで周囲を適度にあけて、スピーカーがその性能を十二分に発揮できるように、設置の方法をいろいろくふうする必要のあることだ。つまりインテリア優先の場合には、避けたい──とまでは言いすぎにしても、このグループはあまり適当でない。あくまでも、シリアスな鑑賞のためのスピーカーだ。

Speaker System (Bookshelf type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第30項・市販品をタイプ別に分類しながら(3) ブックシェルフタイプ──日本編」より

 日本のスピーカーは、ブックシェルフタイプに限らず、ほんの数年前までは、海外での評価はきわめて低かった。というよりも、まるで問題にされなかった。アンプやチューナーや、テープデッキ等を中心に、国産のオーディオパーツは欧米で十分に認められ、むしろその価格に対する性能の良さが怖れられてさえいる中で、残念乍スピーカーだけは、高音がひどくカン高い、とか、低音が話にならない、などと酷評されていた。
 けれど、日本のメーカーの努力が少しずつ実を結びはじめて、こんにちでは、ブックシェルフ型と次の31項の超小型に関するかぎり、欧米の有名品と互角に勝負ができるまでに、性能が向上してきた。
 アメリカのスピーカーが、カラッと明るい力強さを特徴とし、イギリスのスピーカーが繊細な艶やかさと上品な味わいを特徴とする中に日本のスピーカーを混ぜて聴くと、そこにやはり日本のスピーカーだけの鳴らす音の特徴を聴きとることができる。それは、アメリカやイギリス(を含めたヨーロッパ)の音にくらべて、総体に薄味に感じられる、という点である。
 欧米のオーディオ用語の中に「カラーレイション」という表現がある。音の色づけ、とでもいった意味で、音楽の録音から再生までのプロセスで、できるかぎり機器固有のクセによる音の色づけを排除しよう、というとき、カラーレイションのない(または少ない)……といった形で使われる。この考え方は日本の専売特許のように思い込んでいる人があるがそれは違う。カラーレイションを排除すべきだ、という考え方は、欧米の文献にも一九五〇年代以前からすでにあらわれている。
 ところが、日本の一部のオーディオ関係者や愛好家の中には、欧米の音は色づけが濃くて、日本の製品こそ、真のハイファイ、真のアキュレイトサウンドだ、とかたくなに信じている人がある。しかし自分自身の匂いは自分には感じとれないと同じ理由で、日本の音を聴き馴れてしまった人には、日本の音こそ無色に感じとれてしまうだけの話だ。フランスの国内専用の旅客機に乗ったとたんに、チーズの匂いに似た強い香りにへきえきしたことがあったが、たぶんフランス人にはそんな匂いは感じとれないだろう。そして、少し長い海外の旅をして日本に降りたったとたんに、日本という国独特の、まるでタクワンのような実に奇妙な匂いが感じる一瞬がある。
 それと同じことで、欧米のオーディオ専門家に日本のスピーカーを聴かせると、いろいろな表現で、日本のスピーカーがいかに独特の個性を持っているか、を彼等は語る。つまた日本のスピーカーもまた、決して無色ではないのである。
 しかしそういう前提をした上で、少なくとも無色を目指して、メーカーが真剣に作った製品の中に、国際的に通用する立派な製品が出てきたことはたしかだ。その代表が、たとえば18項でもとりあげたヤマハNS1000Mだが、そのヤマハではむしろ、NS690IIのほうが、いっそう日本らしいスピーカーといえそうだ。これを目ざしたライバルのビクターSX7IIとオンキョーMX7は、ヤマハよりやや味が濃いがそれぞれに完成度の高い中堅スピーカーといえる。ビクターのSX3/IIIはその弟分としてローコストの代表機。そのライバルのデンオンSC104II、そして新製品のラックスMS10、トリオのLS202がこれからの注目製品だろう。

Speaker System (Powered type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第34項・市販品をタイプ別に分類しながら(7) パワーアンプを内蔵したスピーカー、マルチアンプ用スピーカー」より

 前項で例にあげたメリディアンM1は、スピーカーエンクロージュアの内部に、トランジスターのパワーアンプを内蔵している。それも、低音・中音・高音とそれぞれに専用に分けたいわゆるマルチチャンネルアンプになっている。したがって、ここにプリアンプを接ぐだけで、そのまま鳴らすことができる。
 パワーアンプをスピーカーのエンクロージュアに内蔵させてしまうというのは、二つの意味がある。ひとつは、右の例のようにスピーカーとアンプを一体に設計して、音質をいっそう向上させようとする場合。もうひとつは、プロフェッショナル用のモニタースピーカーの一部にみられるように、録音スタジオのミキシングコンソールの出力をそのまま接続できる用にという、便宜上から(パワーアンプを)内蔵させるタイプ。この工社の代表例は、たとえばNHKでのモニター用として設計されたダイヤトーンのAS3002Pなどだ。
 どちらの考え方にせよ、このパワーアンプ内蔵型は、そこにプリアンプの出力を接ぐだけでよいという点で、他のスピーカーシステムとは、使い方の面で勝手が違う。少し前まではこのタイプはほとんど例外的な存在だったが、最近になってスピーカーシステムの性能が一段と向上してきたために、これ以上の音質を追求するには、いわゆるマルチアンプ方式で専用アンプを内蔵することが有利ではないかという考え方が、いわゆるコンシュマー用の製品にも少しずつ広まってゆく兆しがみえはじめている。そのひとつが、たびたび例にあげたメリディアンM1だ。
 メリディアンと同じく、マルチチャンネルアンプを内蔵した(そして音質の良い)スピーカーとして、西独K+H(クライン・ウント・フンメル)のOL10もあげておきたい。エンクロージュアの両側面に把手がついていたり、ほんらいスタジオモニターとして徹した作り方だが、このバランスのよい音は一聴の価値がある。
 パワーアンプ内蔵という形をいっそう煮つめてゆくと、オランダ・フィリップスの一連の新型のように、MFBという一種のサーボコントロールアンプで、スピーカーの動作を電子制御して、いっそうの音質の向上を計るという製品ができあがる。この一連のシリーズは、エンクロージュアが非常に小さいにもかかわらず、大型スピーカーなみの低音が再生されて驚かされる。また内蔵の電子回路を応用して、コントロールアンプからの入力が加わった瞬間に電源が入り、入力が2分以上途絶えると自動的に電源が切れるという、おもしろい機能を持たせている。これも、もともとはプロ用として開発された製品だが、価格も大きさも、一般の愛好家が使うに手頃なスピーカーだ。
 パワーアンプを内蔵はしていないが、はじめから高・低各音域を分割して2台のパワーアンプでマルチドライブすることを指定しているのが、JBLの4350Aだ。言うまでもなく名作4343のもう1ランク上に位置するスタジオモニターの最高峰だが、ウォルナット仕上げのWXAなら、家庭用としても十分に美しい。使いこなしは難しいが、うまく鳴らしこんだ音は、アキュレイトサウンドのまさにひとつの極を聴かせてくれる凄みを持っている。

Speaker System (Bookshelf type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第29項・市販品をタイプ別に分類しながら(2) ブックシェルフタイプ──イギリス編」より

 ブックシェルフの元祖ARを別にすれば、アメリカのスピーカーは、どちらかといえばもっと大型の高価な、いわば物量を惜しまない作り方のほうに特徴を発揮している。ブックシェルフタイプは、それぞれのメーカーの製品系列の中のお得用品、といったニュアンスがある。これに対して、ヨーロッパのスピーカーは、ブックシェルフサイズこそ本流で、概して欧州民族はスピーカーがことさら大げさになることを好まないらしい。たとえフロアータイプを作っても、32項であげるようにタテに長いいわゆるトールボーイ型が多く、部屋に置いたときに、スペースを占有しないような配慮がうかがえる。
 もうひとつ、アメリカとヨーロッパの大きなちがいがある。それは音量の問題だ。一体にアメリカのスピーカーにくらべて、ヨーロッパのスピーカーは、大きな音量に弱い。アメリカのARやJBLやE−Vやその他28項であげた製品たちが、それぞれに音触の傾向を異にしながらも、楽器が眼の前で演奏されているかのような音量に上げても、音が割れたりせずに危なげのない堂々とした量感で楽しめるのにくらべると、ヨーロッパ、ことにブックシェルフタイプにとても小粋な味を出すことの上手なイギリスのスピーカーは、ハイパワーに弱い、というひとつの弱点を持っている。ただ、イギリス人と話をしてみると、彼らはそれを弱点とは思っていない。それは彼らが、そんな大きな音量でレコードやFMを鳴らすことをまるで考えてもみないからだ。イギリスの家庭用のスピーカーは、ややおさえかげんの、控えめな、少しオーバーにいえばひっそり、といった感じの音量で鑑賞することが、どうやら使いこなしのカンどころのようだ。
 また、これはすでにくりかえしたことだけれど、アメリカのスピーカーが概して演奏者に近接して聴く感じで音を直接的に聴かせるのに対して、イギリスをはじめとするヨーロッパのスピーカーは、演奏者とやや距離を置いて聴く感じ、その結果。楽器の音が、それを演奏している部屋の響きをともなってきこえるような印象となる。そして、アメリカの音は概して乾いた感じで聴こえて、ヨーロッパの音は反対にやや湿り気を帯びて聴こえる。アメリカの音は良くも悪くもややドライだが、ヨーロッパの音には独特の繊細な艶がある。こういう違いが、スピーカーを選ぶときの大きな鍵になる。
 たとえばすでに紹介したスペンドールBCII、そしてそれをいっそう小造りにしたような音のロジャース〝コンパクトモニター〟はその代表例だ。しかし同じイギリスでも、KEFの103や104aBになると、明らかにもっと新しい世代の、イギリスにしてはパワーに強い、そしてクールな音を聴かせる。またセレッションの〝ディットン〟シリーズは、66や25ところでも書いたようにいくらか古めかしい独特の魅力を持っていたが、小型のディットン15XRは以前のものより音がフレッシュになってきたし、新しい551は、従来のディットンとはかなり違って、レンジの広いシャープな音に仕上ってきている。