瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第1項・スピーカーを選ぶ前に」より
スピーカーを選ぼうとするとき、大別すれば三つの要素をまず考える。第一は言うまでもなく音質。できるだけ良い音が欲しい。自分の好みに合った音を探したい。第二は大きさやプロポーション、そしてデザイン。第三は価格──。
この三つの要素は、人によってどの項目を重視するか、その比重の与え方がちがう。オーディオのマニアなら、価格や大きさを無視して音質本位で選ぶかもしれない。しかしいくら音質本位といっても、あまり大きすぎたり、あまりにも高価であったりすれば購入をためらうかもしれない。また、インテリアデザインを大切にする人なら、、音質よりは見た目の美しさや、部屋に合うサイズやデザインを最も重視するだろう。
このように比重の置きかたはひとさまざまであっても、ともかく、スピーカーの選択にあたって、①音質 ②デザイン(大きさ、プロポーションその他) ③価格、という三つの角度から検討を加えることが必要になる。
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ところで、第一の要素である「音質の良さ」という問題は、その基準がきわめてあいまいのまま論じられている。オーディオの専門家に向かって、「良い音」とは? と質問してみると、たとえば「生(ナマ)の音をそっくりそのまま再現すること」というような答えが返ってくるだろう。生の音そっくり、ということを「原音再生」などという。だが、原音の再生というテーマは、良いスピーカーの基準のひとつにすぎない。しかもその基準ひとつすら、まだ100%満たした製品はない。
「良い音」とは、なにも原音の再生という狭いひとつの目標に限定してしまうことはない。聴き手を快くくつろがせる音。思わず手に汗をにぎるスペクタクルな音。歓談の邪魔をしないように低く静かに、そしてどこから鳴ってくるかわからないような気持の良い音……。いくつもの「良い音」がある。この本では、それらの点をできるだけ明確に分別してみよう。
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大きさ、プロポーション、デザインを論じるためには、スピーカーの置かれる部屋のことを抜きに考えることはできない。スピーカーのタイプによって、床の上に直接置くべきタイプ、床や壁から離して設置しなくてはならないタイプ、棚にはめ込んだ方がいいタイプ、反対に周囲を広くあけて設置しなくてはならないタイプ……等さまざまの製品がある。いくらスピーカー自体が小型でも、周囲を広くあけて設置しなくてはならないのだとしたら、部屋の中で占有する空間を無視できなくなる。パネルのように薄いスピーカーにも、背面を壁から充分に離して設置しなくてはならないような製品がある。
スピーカーの置かれる部屋は、インテリアという視覚面よりもいっそう、部屋の響き、という音質面でスピーカーの音を生かしも殺しもする。部屋の音響条件に合わせてスピーカーを選ぶ。しかもそれがインテリア的にもよく合うなら、選ばれたスピーカーの能力は最大限に発揮されるだろう。
次のページから、それらさまざまの要素を、できるだけ有機的に関連させながら、スピーカー選びのヒントを探ってゆく。
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