瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第26項・『モニタースピーカー』とは?」より
たとえば7項から11項までかなりのページを割いたJBLの4343のネームプレートには「スタジオモニター」と書いてある。また18項のヤマハNS1000Mの〝M〟はモニターの頭文字をあらわしている。17項のUREIもモニタースピーカーであることをはっきりと宣言している。20項のダイヤトーン2S305も、そしてこれらの例にとどまらず、ここ数年来、世界的に、ことにヨーロッパなどで、型名に「モニター」とはっきり書いたり、それほどでなくとも広告やカタログに「モニター用」と書く例が増えている。
では「モニター」とは何か。実をいうと、はっきりした客観的な定義なり想定なりがあるわけではない。とうぜん、「モニタースピーカー」と名乗るための規格や資格が、明示されているわけでもない。極端を言えば、メーカーが勝手に「モニター」と書いても、取締る根拠は何もない。
だが、そうは言っても、ごく概念的に「モニター」の定義ができなくはない。ただし、モニターにもいろいろの内容があるが……。
その最も一般的な解釈としては、録音あるいは放送、あるいは映画などを含めたプログラムソース制作の過程で、制作に携わる技術者たちが、音を聴き分け、監視(モニター)するための目的にかなうような性能を具備したスピーカー、ということになる。
粗面からこまかく分析してゆくと膨大な内容になってしまうので、この面を詳しく研究してみたい読者には、季刊「ステレオサウンド」の第46号(世界のモニタースピーカー)を参照されることをおすすめする。
しかしひとことでいえば、すでに何度もくりかえしてきた「正確(アキュレイト)な音再現能力」という点が、最も重要な項目ということになる。ただし、いわゆるスタジオモニター(録音スタジオ、放送スタジオの調整室で使われるためのモニタースピーカー)としては、使われる場所の制約上、極端な大型になることを嫌う。また、プロフェッショナルの現場で、長期に亙って大きな音量で酷使されても、その音質が急激に変化しないような丈夫(タフネス)さも要求される。
「モニタースピーカー」には、こうした目的以外にも、スタジオの片隅でテープの編集のときに使われるような、小型で場所をとらないスピーカー、だとか、放送局の中継所などで間違いなく音が送られていることを単に確認するだけの(つまり音質のことはそううまさく言わない)スピーカーでも、プロが使うというだけで「プロフェッショナル用モニター」などと呼ばれることさえあるので、その目的について、少しばかり注意して調べる必要はある。
けれど、前述のスタジオ用のモニターは、一般的にいって、ほどほどの大きさで、できるかぎり正確に音を再生する能力を具えているわけで、しかも長期に亙っての使用にも安定度が高いはずだから、そうした特徴を生かすかぎり、一般家庭でのレコードやFMの鑑賞用として採用しても、何ら不都合はない理屈になる。
少し前までは、スタジオモニターは「アラ探しスピーカー」などと呼ばれて、とても度ぎつい音のする、永く聴いていると疲れてしまうような音のスピーカーであるかのように解説する人があった。事実、そういうモニタースピーカーが、いまでもある。けれど、JBLやヤマハやKEFやUREI等の、鑑賞用としても優れたスピーカーが次第に開発されるようになって、こんにちでは、モニタースピーカーの概念はすっかり変わったといってよい。
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