Speaker System (accurate sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第3項・アキュレイトサウンドはさらに二つの方向に分類される」より

 正確な音の再現を目ざして作られたスピーカーは、「モニタスピーカー(26項参照)」と名づけられた製品に多い。こんにちそれらの中でも世界的によく知られ、評価の高い製品として、たとえばJBLの♯4343や、KEFの♯105、あるいはヤマハNS1000MやテクニクスのSB7000などが例にあげられる。
 ところで、スピーカーに加えられた入力信号にできるかぎり忠実な再現、といっても、現実には、それがさらに二つの方向に分かれる。それは、音楽がすぐ眼の前で演奏されている感じが欲しいのか、それとも、良いホールのほどよい席で──演奏者から距離を置いて──聴く感じが欲しいのか、という問題だ。
 たとえばいま例にあげたスピーカーの中でも、JBLやヤマハは、どちらかといえば眼の前で演奏されている感じになるし、KEFやテクニクスは、ほどよい距離で聴く感じのほうに近づく。
 いうまでもなくこうした違いは、スピーカーの音よりもむしろレコードの録音の段階ですでに論じなければならない問題だが、しかし同じ一枚のレコード再生しても、スピーカーによって右のような違いを微妙に感じとることができる。ということは、原音、というイメージのとらえかたにも、大別してそのような二通りの態度がある、ということになるだろう。
 音を作る側、それを再生するパーツを作る側に、そうした態度の違いがあるのなら、とうぜんのことに、聴き手の側にも、そのいずれを好むかという好みの問題、ないしは音の受けとめかたの問題が出てくる。
 くりかえしになるが、眼の前で演奏している感じ、演奏者がそこにいる感じ、楽器がそこにある感じ、言いかえれば、自分の部屋に演奏者を呼んできた感じ、を求めるか。それとも、響きの良いホールないしは広いサロンなどで、ほどよい距離を置いて、部屋いっぱいにひろがる響きの美しさをも含めて聴く感じ、言いかえれば、自分がそういう場所に出かけて行って聴く感じが欲しいのか──。
 こうした違いを自分の中ではっきり整理しておかなくては、自分の望む音のスピーカーを的確に選びだすことが難しい。
 あまり高価でも大型でもないが、スペンドール(イギリス)のBCIIというスピーカーは、右の分類の後者──適度の距離を置いて美しい響きをともなって聴く感じ──の性格を色濃く持っている。だからもしこのスピーカーに、眼の前で演奏するような音の生々しさを求めたら、おそらく失望してしまう。ある人は「ピアノの音がひどくてがっかりしました」という。それは、ピアノをすぐそばで聴く感じを求めたからだ。逆に、演奏会場でのピアノを聴き馴れた人は、このスピーカーに大層満足する。
 部屋の条件という面からこのグループ──アキュレイトサウンド──のスピーカーに共通して言えることは、棚にはめ込んだりしないで周囲を適度にあけて、スピーカーがその性能を十二分に発揮できるように、設置の方法をいろいろくふうする必要のあることだ。つまりインテリア優先の場合には、避けたい──とまでは言いすぎにしても、このグループはあまり適当でない。あくまでも、シリアスな鑑賞のためのスピーカーだ。

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