トリオ KA-80

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このトリオのKA80も、前号の組合せの時に試聴したアンプの一つで、その時なかなか好感をもったアンプだ。
 これは四万八千円という価格をかなり意識した上で、いわゆる内容本位、実質本位というか、細かなファンクションをできる限り整理して、必要最小限のファンクションでまとめて、そのぶんをおそらく音質向上に回したのではないかと思われる。例えば、このアンプにはフォノもスピーカーも一系統しかないし、MCヘッドアンプも入っていないし、ヤマハのA5などのようにMCヘッドアンプを内蔵していたものから見ると、いわゆるカタログ上のメリットは薄いが、それだけ割り切って中身を濃くしたアンプではないかということがうかがわれる。 もちろんそれはこのアンプを見た上での先入観ではなく、むしろ音を聴いた後に感じたことだ。
音質 このアンプの音というのはローコスト・アンプにありがちな、音の芯が弱くなったり、音の味わいが薄くなったりということが、比較的少ない。あくまでも四万八千円という価格を頭に置いた上での話だが、これは相当聴きごたえのある音を聴かせてくれたと思う。
 例えば、キングス・シンガーズのポピュラー・ヴォーカルのような場合でも、しみじみと心にしみ込むようないいムードを出してくるし、美しくハモる。そういうところが聴きとれて、ローコスト・アンプにしては、かなり音楽を楽しめる音のアンプだというように思う。このアンプは、他のトリオの上級機種とも多少共通点のあるところだが、いくらか音のコントラストを強くつけるというか、音が割に一つ一つはっきりと出てくる傾向がある。そこのところは多少好き嫌いがあるかと思う。
 たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」のフォルティッシモの連続のような部分では多少派手気味になり、金管もきつくなるように聴きとれる場合もあった。しかしそれが手放しの派手な方向へ走っていかないのはさすが。
 フォーレのヴァイオリン・ソナタの第二楽章なども、ヴァイオリンの音が若干細くなるが、フォーレ的ムードをきちんと出すというところもある。
 ただしやはりクラシックでもポピュラーでも、編成の大きなスケール感を要求するものになると、さすがにこのアンプでは、そこまではきちんと出してくれない。これは価格を考えれば、ある程度仕方のないことではないかというように思う。あくまでもこの価格としては、非常によくできたアンプだということが言える。
トーン&ラウドネス このアンプはフタを閉めると、ボリュームとインプット・セレクターだけ。フタを開けるとトーン・コントロールが現れる。トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールともに、ビギナー向きというか、わかりやすいというか、つまりよく効くというタイプ。
 トーン・コントロールを操作する時には、そのわきにあるストレートDC、およびトーンという切り替えスイッチをトーンの方向に押すわけだが、トーン・コントロールを使った場合には、いま言った音の魅力がごくわずかに減るという感じ。ストレートDC、つまりトーン・コントロールが働かないようにストレート・アンプにしておいた方が、音が一層クリアーのように思う。
ヘッドホン それからヘッドホン端子の出力。これはかなり抑えめになっており、ヘッドホンで腹いっぱいの音量を楽しみたいという場合には、相当ボリュームを上げなくてはならない。
 言い替えればパワーアンプの飽和ギリギリの方向に持っていくことになるので、ヘッドホン端子にはもう少しタップリとした出力を出してくれた方がいいように思う。

★★

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