Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 8

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧1・5gでは、暖色系の豊かな低域と程よくエッジが効いた中域から中高域がバランスした安定感のある音だが、やや、音場感は狭い。上限の1・6gでは、彫りが深く、芯が安定した音となり、表情も豊かで帯域バランスも伸びやかだ。ただ、中高域の少し輝かしさが顔を出すが、これを除けばグッドサウンドだ。下限1・2gでは、変化量は少ないタイプだが、表面的な音となり、スクラッチノイズが気になり、中高域もメタリックで少し浮いた印象となる。
 標準針圧以上に狙いを定め、細かく、1・625g、1・75g(針圧目盛での値)と追込むと、針圧1・75g、IFC1・6あたりで程よくスッキリとした安定感のある音とプレゼンスが得られる。
 ファンタジアはライブハウス的な響きが豊かで低域も柔らかく、一応の水準の音だ。
 アル・ジャロウは、重く力強い低域は粘りがあり好ましいが、昇圧手段を選びたい音。

SAEC XC-10

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、暖色系の安定度重視型のまとまり。fレンジは少し狭いタイプだが、穏やかで聴きやすく、雰囲気のあるレコードらしい音だ。
 針圧上限では、音の芯がクッキリとつき、適度に活気がある思い切りの良い音に変わる。音に焦点がピタッと合ったような変わり方だ。中高域は、硬質さの一歩手前の範囲。
 針圧下限では、スクラッチノイズが浮き気味で濁った音となり、全体にソフトフォーカスで表面的な軽薄な音だ。標準針圧との格差大で要注意。
 試みに針圧を上限からSMEの半目盛0・125g上げてみる。急激に穏やかで暗い音になり、上限がベストだ。併用した昇圧トランスU・BROS5/TYPELとの相性に優れ、鮮度感も適度で、帯域バランスも良い。
 ファンタジアは暖色系の安定したまとまり。表情は抑え気味だが、楽しい音だ。
 アル・ジャロウは、帯域バランスが良いメリットで、予想以上にまとまり、安心する。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、適度な広帯域型のバランスでスッキリと線を細く、クリアーに聴かせる。標準の針圧1・5g、IFC1・5では、平均的なまとまりで、描写の線は少し太く、音は少し奥まって聴こえる。音色は暖色系で、低域は軟調、高域は少し硬質で、中高域に輝かしさが感じられる音だ。上限の1・8gでは安定感は増すが、鮮度感が減り、ディフィニッションも不足する。下限の1・2gではやや、音が浮き気味となるも、音色の軽く、フワッとした雰囲気と爽やかさは、ムード的だが、十分に楽しめる。結果は、1・35g、IFCも同量で、軽快さもあり、鮮度感のあるフレッシュな音となる。MCらしい良い音だ。
 ファンタジアでは、ベースは、軽量級だが、ピアノは程よくキラめき、抜けのよい、響きの豊かさが楽しめる。
 アル・ジャロウは、音色が暖色系に偏り、音場的な見通しに欠けるが、ライブハウス的プレゼンスは楽しめる。

ヤマハ MC-505

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧は、中低域ベースの穏やかな音。低域は軟調で、奥に音が引込み、ホール後席の音の印象で、鮮度不足だ。針圧上限で安定感が向上し、明快でプレゼンスが出てくる。針圧下限は、軽いが、浮いた印象で、表面的な華やかさだ。雰囲気は独特なものがあり、フワッと拡がる音場は面白い。標準から上限がポイントで、1・75gにする。安定感のあるクリアーな音で、少し線は太いがプレゼンスもあり、ベストに近い音だ。SMEの針圧目盛で標準と1・75gの中間にする。音に伸びやかさが加わり、エッジも適度に張った線のシャープな音だ。IFCを1・5にもどす。音場感が爽やかに拡がり、これがベスト。
 ファンタジアは、響きが豊かで、ライブ的な印象となる。ベースは柔らかく少しふくらみ軟調だが、ブックシェルフ型には好適なバランスだ。
 アル・ジャロウはやや大柄なイメージのボーカルで、力強さが今一歩、必要だろう。

カートリッジ30機種のベストチューニングを探る試聴テストの方法

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 本誌では久しぶりのカートリッジのテストリポートである。
 このところ、やっと、安定期を迎えたCDプレーヤーが注目を集めだし、本格的な普及が期待されている現時点で、いまさらアナログのフォノカートリッジのテストでは、読者に対してのオーディオ誌としてのインパクトが弱いのではないか? という懸念もあったように聞いている。
 たしかに、いまさらアナログのフォノカートリッジに注目しよう、というテーマでは話題性も少なく、たいして興味のある結果とはならないだろう。
 しかし、この考え方には条件が必要だ。もしも、平均的なオーディオファンが、カートリッジを最少限でもよいから使いこなしているかどうかである。かりに、カートリッジについて十分な基本的知識を持ち、独自のノウハウをも含めて、使いこなし切っている、という自信のある方は、ぜひともCDに移っていただきたい。本誌CDプレーヤー別冊でも少し述べたように、容易にはCDは使いこなせる材料ではないようだ。大きな声では言えぬことだが、メーカーサイドでも正確にオーディオ製品としてのCDの実体を把握しているとは、現実の製品を見てみると思われないふしがあまりにも多すぎる。
 伝統的なフォノカートリッジの分野でも同様なことが散見されるが、さすがに長期間にわたりオーディオのプログラムソースのトップランクの位置を占めてきただけに、その完成度はかなり高い。
 では、これを使うオーディオファン側はどうだろうか。残念なことに、全オーディオジャンルにわたり各種の製品を正しく理解し、正常な状態で動作をさせ、さらに使いこなしているとは、まったく考えられないようだ。
 昨今の高度に発達した科学と技術により開発されるオーディオ製品は、非常に高度な物理特性を獲得しており、これを実際に使って、優れた特性をベースとしたステレオならではの優れた音を得るためには、必要悪的な問題点ではあるが、使うための知識と技術レベルが要求されるわけだ。
 本来、使いこなしは、各製品の取扱説明書で製作者自身が述べなければならないはずだ。しかし残念なことに、短絡的な表現になるが、技術者でないと判らない説明、つまり判っている人だけのための取扱説明である例がすべてだ。
 ではオーディオ・ジャーナリズムはどうだろう。各製品を使うための正確な情報を伝えていたであろうか。答えは否だ。結局、最大多数の最大公約数的に、例えばカートリッジなら、トーンアームの水平バランスをとり、平均的に1・5gほどの針圧をかけ、せめて針圧対応値が記されているインサイドフォースキャンセラー(IFC)の目盛を合わせるのが平均的な使い方の実体であろう。しかし、これでは単に音が出るだけで、よほどの幸運にでも巡り合ないかぎり、適度な状態の範囲にも入らない使われ方で、カートリッジのためにも、それを購入したファンのためにも、大変に残念なことである。
●使いこなしによる音質変化を聴きとる
 そこで今回のカートリッジテストは、カートリッジの特徴をベースに、簡単な使いこなしでどのように音が変化をするかを知り、使いこなしで、カートリッジ本来の能力をフルに引出そうということを最大のテーマとしている。逆説的にいえば、あなたのご自慢のカートリッジは、まだ、その半分も能力を発揮していませんよ。少しの使いこなしで、まだまだ音が凄く良くなりますよ、というわけだ。
 テストの対象としたカートリッジのブランドとモデルは、編集部で話題の新製品を中心にして選んだということだ。
●2段階に分けた読聴テスト
 試聴テストの方法は、第一次、第二次の2回に分けて行なった。第一次の試聴テストは、対象とした30機種のカートリッジを、編集部でリファレンスシステムとして選んだマイクロSX8000IIターンテーブルシステムにSME3012R PROトーンアームを組み合わせたシステムで行なった。
 カートリッジ試聴では、組み合わせるヘッドシェル、MC型では昇圧に使うトランスやヘッドアンプのキャラクターが問題になるが、まず、メーカーまたは海外製品については、輸入元で、基本的に指定してもらうことにしている。ただし、指定のない場合は、原則として、使用したコントロールアンプ内蔵の昇圧手段を使うことにしている。
●拭聴レコードは『幻想』を中心に3枚
 試聴レコードは、アバド指揮シカゴ交響楽団のベルリオーズ作曲『幻想交響曲』をメインに、ケニー・ドリュー・トリオの『ファンタジア』と、アル・ジャロウの『ハイ・クラム』の3枚を使った。幻想交響曲は、やや条件の悪い第2楽章でおおよその調整をし、第1楽章でも確認をし、交互に聴く方法をとり、最艮と思われる針圧とインサイドフォースキャンセラーの値を決定した後に、他の2枚のA面、第1曲を使い試聴をする方法をとった。
●徹底したチューニング主体の第2次拭聴
 第2次試聴は、10万円以下の価格帯については、第1次試聴であまり結果の好ましくないものを選び、使いこなしてみようという考えであったが、実際には、何らかの興味のある製品を選んで聴くという結果になっている。
 また、10万円以上の製品については、全機種を第2次試聴の対象とし、プレーヤーシステムを変えて聴くことにした。この詳細は、第2次試聴のまえがきを参照されたい。試聴に使った各コンポーネントは、適度に知名度があり、個体差が少なく、信頼性、安定性のあるものを条件として選んでいる。
●就聴に使用した機器について
 コントロールアンプとパワーアンプは、当初、各種のMC型に対して内蔵の昇圧トランスにヘッドアンプさらに外付けの昇圧手段が選べるデンオンPRA2000ZとPOA3000Zを使う予定であったが、パワーアンプに不測のトラブルが発生しために、第2候補としたアキュフェーズC200LとP300Lのペアを使うことにした。この組合せは、コントロールアンプとパワーアンプ間が通常のアンバランス型のみでなく、バランス型の結線で結べ、そのメリットとして、ナチュラルな音場感的情報が豊かである特徴がある。
 スピーカーは、本誌リファレンスのJBL4344であるが、カートリッジの測定の項で説明する、位相の正、逆に関連して、JBLが採用している一般とは異なる逆相設計(スピーカー端子の+(赤)に電池の+をつなぐとコーンが引込む)が、かなり大きく音質に関係することが、やや気になる。
●チューニングテストのポイント
 試聴にあたり重視した部分は、針圧変化による音質変化がどのくらいあるかという点だ。カートリッジの定格にある標準的な針圧と針圧範囲については、標準、上限、下限の3点で、針圧対応値のインサイドフォースキャンセラー値で使った場合の試聴をベースに、両者を最適値に追込んだ場合との2つのテーマに基づいて試聴しているのが、従来のテスト方法と大きく異なる点である。なお、基本性能を知るための測定データも興味ある部分だ。

トーレンス Reference、ゴールドムンド Reference

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「実力派コンポーネントの一対比較テスト 2×14」より

 トーレンス/リファレンスとゴールドムンド/リファレンス。恐らく、アナログディスク再生機器として最後の最高級製品となるであろう2機種である。その両者共にヨーロッパ製品であるところが興味深い。西ドイツ製とフランス製で、どちらもが〝リファレンス〟と自称しているように、自信に満ちた製品であることは間違いない。名称も同じだが、価格のほうも似たり寄ったりで、どちらも300万円台という超高価である。共通点はまだある。ターンテーブルの駆動方式が、両者共にベルトドライブである。アナログレコードプレーヤーの歴史は、ダイレクトドライブに始って、ダイレクトドライブに終るのかと思っていたら、そうではなかった。ベルトやストリングによる間接ドライブが超高級機の採用するところとなり、音質の点でも、これに軍配が上ったようである。ぼくの経験でも、たしかに、DDよりベルトのよく出来たプレーヤーのほうが音がいい。
 一般論は別として、この両者は共に、フローティンダインシュレ一夕ーを使って内外のショックを逃げていること、本体を圧倒的なウェイトで固めていることにもオーソドックスな基本を見ることが出来る。だが、プレーヤーとしての性格は全く異なるもので、それぞれに頑として譲れない主張に貫かれているところが興味深く、いかにも、最高の王者としての風格を感じるのである。
 この両者の最大の相違点は、ピックアップ部にある。
 トーレンス/リファレンスは、本来、アームレスの形態を基本にするのに対し、ゴールドムンドのほうは、アーム付である。いわば、ターンテーブルシステムとプレーヤーシステムのちがいがここに見出せる。そして、ゴールドムンドは、そもそも、リニアトラッキングアームの開発が先行して、T3というアームだけが既に有名であったことを思えば当然のコンセプトとして理解がいくだろう。このリファレンスに装備されているのはT3Bという改良型だが、基本的にはT3と同じものである。このリニアトラッキングアームは単体として評価の高かったものだが、実際にこれを装備するターンテーブルシステムとなると、おいそれとはいかなかったのである。そこで、ターンテーブルシステムの開発の必要にも迫られ、いくつかのモデルが用意されたようだ。このリファレンスは中での最高級機である。この場合、リファレンスという言葉は、T3リニアトラッキングアームのリファレンスといった意味にも解釈出来るが、広くプレーヤー全体の中でのリファレンスというに足る性能を持っていることは充分納得出来るものであった。
 これに対して、トーレンスのリファレンスは、ターンテーブルシステムが剛体、響体として音に影響を与える現実の中で一つのリファレンスたり得る製品として開発されたものであって、やや意味の異なるところがある。したがって、こちらは、コンベンショナルな回転式のトーンアームなら、ほとんどのものが取付け可能だ。それも、三本までのアームを装備できるというフレキシビリティをもたせているのである。結果的にターンテーブルシステムに投入された物量や、コンセプトは同等のものといってよいが、このプレーヤーシステムとしての考え方と、ターンテーブルシステムとしてのそれとが、両者を別つ大きなターニングポイントといえるのである。
 デザインの上からも、このちがいは明らかであって、ゴールドムンド/リファレンスは、コンソール型として完成しているのに対し、トーレンスのほうはよりコンポーネント的で、使用に際しては然るべき台を用意する必要がある。そのアピアランスは好対照で、ゴールドムンドのブラックを基調とした前衛的ともいえる機械美に対し、トーレンスのモスグリーンとゴールドのハーモニーはよりクラシックな豪華さを感じさせるものだ。
 両機種の詳細は、本誌の64号にトーレンス/リファレンスを私が、73号にゴールドムンド/リファレンスを柳沢功力氏が、共に〝ビッグ・サウンド〟頁に述べているので御参照いただくとして、ここでは、この2機種を並べて試聴した感想を中心に述べることにする。
 ステレオサウンド試聴室に二台の超弩級プレーヤーが置かれた景観は、長年のアナログレコードに多くの人々が賭けてきた情熱と夢の結晶を感じさせる風格溢れるものであって、たまたま、そばにあった最新最高のCDプレーヤーの、なんと貧弱で淋しかったことか……。これを、技術の進歩の具現化として、素直に認めるには抵抗があり過ぎる……閑話休題。
 ゴールドムンド/リファレンスは先述のように、リニアトラッキングアームT3BにオルトフォンMC200ユニバーサルを装着。トーレンス/リファレンスにはSME3012Rゴールドに同MC200を装着。プリアンプはアキュフェーズのC280(MCヘッドアンプ含)、パワーアンプもアキュフエーズP600、スピーカーシステムはJBL4344で試聴した。
 リファレンス同志の音は、これまた対照的であった!
 ゴールドムンドは、きわめてすっきりしたクリアーなもので、これが、聴き馴れたMC200の音かと思うような、やや硬質の高音域で、透明度は抜群、ステレオの音場もすっきり拡がる。それに対して、トーレンスは、MC200らしい、滑らかな質感で、音は暖かい。ステレオの音場感は、ゴールドムンドの透明感とはちがうが、負けず劣らず、豊かな、空気の漂うような雰囲気であった。温度でいえば、前者が、やや低目の18度Cぐらい、後者は22度Cといった感じである。低域の重厚さとソリッドな質感はどちらとも云い難いが、明解さではゴールドムンド、暖かい弾力感ではトーレンスといった雰囲気のちがいがあって、共に魅力的である。さすがに両者共に、並の重量級プレーヤーとは次元を異にする音の厚味と実在感を聴かせるが、音色と質感には全くといってよいほどの違いを感じさせるのであった。これは、アナログレコード再生の現実の象徴的な出来事だ。プレーヤーシステムの全体は、どこをどう変えても音の変化として現われる。この二者のように、トーンアームの決定的なちがいが、音の差に現われないはずはないし、ターンテーブルシステムにしても、ここまで無共振を追求しても、なお残される要因は皆無とはいえないであろう。それが証拠に、同じトーレンスでも、リファレンスとプレスティージとでは音が違うのである。だから、かりに、ゴールドムンドにSMEのアームをつけたとしても(編注:専用のアームベースを使用すれば可能)、同じ音になることはないだろう……。ましてや、このリニアトラッキングのアームとの比較は、冷静にいって、一長一短である。トラッキングエラーに関しては、リニアトラッキングが有利だとしても、響体としてのQのコントロールや、変換効率に関しては問題なしとは云い難い。これは、両者に、強引にハウリングを起こさせてみても明らかである。いずれも、並の条件では充分確保されているハウリングマージンの大きさだが(ほとんど同等のレベルだ)、非現実的な条件でハウリングを起こさせてみると、その音は全く違う。ゴールドムンドのほうが、周波数が高く、複雑な細かい音が乗ってくる。トーレンスのほうが、周波数が低く、スペクトラムも狭い。この辺りは確かに、両者の音のちがいに相似した感じである。不思議なもので、ゴールドムンドのアピアランスと音はよく似ているし、トーレンスのそれも同じような感じである。つまり、ゴールドムンドは、どちらかというとエッジの明確なシャープな輪郭の音像で、トーレンスのほうがより隈取りが濃く、エッジはそれほどシャープではない。この域でのちがいとなると、もう、好みで選び分ける他にはないだろう。正直なところ、私にも、どちらの音が正しいかを判断する自信はない。しかも、カートリッジやアンプ、スピーカーといった関連機器も限られた範囲内でのことだから、単純に結論を出すのは危険だ。
 操作性でも、どちらとも云い難い。どちらも、操作性がよいプレーヤーとはいえないだろう。ゴールドムンドは、プレーヤーシステムとしての完成型であるから、本当はリードイン/アウトもオートになっていてほしいと思った。エレクトロニクスのサーボ機構を使っているメカニズムであるし、プッシュスイッチによる動作やデジタルカウンターという性格などからして、そこまでやってほしかった。針の上下だけがオートなのである。指先で、カートリッジを押してリードインやアウトをさせるのは、この機械の全体の雰囲気とはどうも、ちぐはぐである。
 一方、トーレンスは、全くのマニュアルで、大型の丸ツマミによる操作であり、これもリフトアップ/ダウンだけはオートで出来るものの、決して操作のし易いものではない。ただ、これは、見るからにマニュアルシステムであるから違和感はないのである。しかし、どちらもアナログディスクの趣味性を十二分に満してくれる素晴らしい製品である。

オーディオテクニカ AT-ML170

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、最初にボディに静電気が帯電し激しいパチパチノイズが出た。ボディを僅かに湿らせ帯電を除く。軽く爽やかに伸びた音で低域は柔らかく自然な帯域バランスが特徴。わずかに中高域にあるキャラクターが魅力で、音は奥に拡がるタイプである。
 針圧上限では、重く、反応鈍くNG。針圧下限では、広帯域型に変わり、軽快な音だ。低域は軟調、音場感に優れる。約1・125gで、程よく音の芯がクッキリとした、安定感と華やいだ軽さのあるスムーズな音が聴ける。低域は柔らかく、表情は穏やかで歪感が少なく、長時間聴ける音。スクラッチノイズは、このクラスとしては、質量とも可。
 ファンタジアは、やや女性的な印象のピアノで、適度の華やかさ、滑らかさが特徴。立上がりは甘いが、雰囲気が良く、サロン的なまとまりだ。
 アル・ジャロウは、低域が軟調傾向で、リズミックな反応が遅く感じられ、もう少しメリハリが必要であろう。

イケダ Ikeda 9、メルコア PHYSICS 95

菅野沖彦

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「いま真摯なアナログディスクファンのために クラフツマンシップが息づくふたつの手づくりカートリッジ」より

 私の手許に、今、新しい二種類のカートリッジがある。どちらも既成のメーカー製品ではなく、それぞれ手づくりの製品で、これを造った人の情熱と努力の結晶である。レコードから、より精緻に情報を拾い出したいと願う真摯な技術欲、とでもいった精神から、これらのカートリッジが生まれたことはいうまでもないが、この二つのカートリッジにまつわる技術的バックグラウンドが、きわめてユニ−クなオリジナリティをもつもので、私の知る範囲で、その製作者と、製品の特徴について記し、アナログディスクファンの御参考に供したいと思う。

 まず、時期としても先に登場した〝フィジックス95〟カートリッジから述べよう。
 平沢金雄氏が、その開発者である。私は氏を、ずい分昔から知っていた。一緒にヨーロッパ旅行をしたこともある。ギター演奏を専門とする音楽家であるが、オーディオへの関心の強い氏は、私が知己を得た10年以上も前から手造りでカートリッジを製作しておられた。私が録音したレコードを大変高く評価して下さり、特にピエール・ブゾンのピアノによる〝ラ・ヴィ〟は、氏がリファレンス・レコードとしても愛聴されているという嬉しい話をうかがったこともある。音楽は専門家だが、外国語も堪能で、科学技術知識が豊かな平沢氏のシャープな人柄は、一度会ったら忘れられない。
 その氏から連絡があったのは昨年の九月頃で、久しぶりのことだった。実はその少し前に、私の手許に平沢氏が開発した新しいカートリッジとトランスが届けられ、聴いてみるようにとの連絡を受けていたのである。しかし、その製品は、何故か左右出力が逆相であり、しかも意図的にそうしてあると説明があったのだ。疑問をもった私に、平沢氏が直接説明に来られたのだが、氏の説明によると、現在のすべてのステレオレコードの逆相カッティングこそに重大な欠陥があって、それをカートリッジ側で、再び逆相にして正相にもどしているのが間違いであり、氏のカートリッジは、カートリッジそのものは正相であるというものであった。なるほど、たしかに、45/45ステレオカッティングは、ステレオ初期のモノーラルとのコンパチビリティを得るために、逆相カッティングにより垂直方向の振動を水平方向化するという、当時としては巧妙な方法と思われる実技的手段をとっていて、それが、そのまま現在に及んでいるものだ。したがって、現在のすべてのステレオカートリッジは逆相接続によって、結果的に正相に戻しているわけだから、平沢氏の説明の通りなのである。しかし、平沢氏の正相接続では、結果的にスピーカーからは逆相成分が再生されるので、私の耳には、その不自然さが気になって、その段階では納得できなかった。では何故、あえて、平沢氏がカートリッジそのものでカッティングの逆相に対処しなかったのか? ここが、きわめて重要なボイントなのである。
 私が平沢氏と御無沙汰していた長い年月の間、氏は、物理学を始め、生理学、心理学などの勉強に没頭され、氏が、かねがね感じられていたレコードの音への疑問の探究に明け暮れておられたらしい。その結果、氏が自信をもって発表されたことは、レコード再生音のもつピッチの不明確さという重大な問題であった。これは、本来、440Hzのピッチに調弦された楽器の音が、録音再生のプロセスを経ることにより、ひどい話では、435Hz〜455Hzいう実に20Hzもの範囲に拡がってしまうというものである。つまり、その範囲にびっしりと幅をもってピッチが並んでしまう……いわば、写真におけるピントの甘さが、千分の1ミ
リの線を百分の1ミリの幅に拡げてしまうような現象だと氏は説明されるのである。そして、これを、スプレッド現象と呼び、再生音の新しい歪現象として提唱されたのである。例えば、A=440Hzに調弦されたギターの演奏のレコードをプレイバックして、これに合せてギターを弾く場合、ターンテーブルの回転が正しく33 1/3rpmならば、演奏するギターをA=440Hzに調弦すれば、ピッチは正しく合う。ところが、再生音からスプレッド現象が起きている場合、ギターの調弦をA=435Hzにずらせても、あるいは逆に、A=450Hzにあげても、レコードの音とピッチが合ってしまうというものだ。平沢氏にこれを実験してもらって私も驚嘆してしまった。このいわばピッチ歪というものは、いまのところ電気的に測定するのが不可能なのだそうだ。つまり、平沢氏によると、すべての電気回路、素子は、多かれ少なかれ、このスプレッドというピッチ歪をもっているということなのである。
 私も、以前にこれに似た経験をしたことを思い出す。もう20年も前、ある録音をしている時に、私の親しいギタリストが、電気楽器とのアンサンブルで、その楽器とはピッチが厳密にとれないといい出され、仕事が中断してしまったことがある。ギタリストは電気楽器がこわれている! といってきかないし、電気楽器の演奏をしていたお嬢さんはおろおろするばかり。しかし、私たちの耳にはユニゾンでのピッチのずれは気にならないので、そのまま録音し、プレイバックしたのであるが、ギタリストも再生音で納得してしまった。また、発振器のちがいが音色のちがいとして感じられる経験もさせられた。
 オーディオ機器は、その録音再生のプロセスで、多くのスプレッドを出しているらしいが、この元凶の一つが逆相カッティングにあるというのが平沢氏の指摘であり、カートリッジ側で戻すことによって、さらにスプレッドが増加するといわれるのであった。しかし、私も頑固だから、だからといって逆相ステレオの気持ちの悪さのほうが耐えられないから、これでは承服し兼ねるといいはったのが昨年秋であった。そのスプレッド現象は、どうやら、ある種の物性でもあるようで、その後、フィジックス95カートリッジの改良によって、コンベンショナルな接続……つまり、他のカートリッジと同様の位相処理でも大幅に、このピッチ歪を減少させることになったという新型が、平沢氏から送られてきた。
 私は残念ながら、絶対音感はもっていないが、相対的なピッチについての判断、それらによって影響される音色の変化があるとすれば、それにはアブソリュートな判断の自信はある。だから平沢氏の実験によりピッチ歪のあることは確かに自分で確認できた。しかし、平沢氏のいうようにすべての音色問題がスプレッドに起因するとは思えないのである。あらゆるカートリッジがもっている音色的な個性は、スプレッドの他にも原因があって、多くの諸歪が、すべての機器にはまだ残っていると信じている。しかし、オーディオに、こういう現象が起こることを、今まで、誰も指摘していないし、ましてや、それをコントロールする技術に挑んだのは平沢氏だけであろう。なんらかの物質を、必要に応じた加工方法をもって使わねばできあがらない機械についてこの新しい技術的発想と実験は高く評価してよいと思う。また物性以外に起因する、 スプレッド現象──例えば、逆相のカッティングのような──についても、まだまだ研究のメスを入れる余地が大きいとも思われる。
 平沢氏は物性について、グレードを問題にすべきだと主張する。鉄材、無酸素銅、金などが、加工プロセスで変質し、スプレッド現象を増加させるため、ただ、不純物の混合の度合いだけで判断するのは、オーディオ用としては早計に過ぎるという痛烈にして当を得た批判も展開される。部品による音色の違い、電流の質によるそれなど、従来、耳で聴いて指摘されてきた音の違いに比して、従来の物理学の追求は追いつかないが、それは物理学には質の係数が欠けているからだと説明するのである。そして、このように、物の質の解明を行なわず、有用性のみで科学文明を押し進めれば、あらゆる汚染が重なり合うことになるとも敷衍するのである。オーディオという人間の最も鋭敏細妙な感性を対象とする機械文明を通して、新しい物理学を提唱するという意味で、このカートリッジに〝フィジックス〟という名称がつけられたそうだ。
 この製品はMCカートリッジ(ヘッドシェルを含む)とそのトランスの組合せでスプレッドを抑さえ込むというもので、必ず一対で使用すべきであろう。聴感上の音色、音質は多くのカートリッジの中でもっとも癖を感じさせないニュートラルなものという印象である。まったくの手造り製品で、そのデザインや仕上げに夢はなく、お世辞にも美しいものではないが、材質、加工、形状のすべてをスプレッド現象抑制を目的に、ひたすら忠実な変換器に徹するコンセプトから生まれたわけだから仕方がないだろう。
 それにしても、こういう製品に接すると、いまさらながら、オーディオの不可解さと、その怪しげな美と魅力の世界について考えさせられてしまう。いろいろな音を出すカートリッジについて、いつも、毒が薬になったり、本当に毒になったりする複雑な実態に悩まされているが、だからといって、この製品が唯一無二の正しい音を聴かせてくれるカートリッジの終着点だと思い込む自信もまったくない。悩み、惑いは果てしなく続くものなのであろう。
 もう一つの新しいMCカートリッジもユニークな製品である。
〝IKEDA9〟がその名称だ。池田勇氏の作品である。池田氏とは、もう30年を優に超えるおつき合いだ。池田氏は、その一生をカートリッジ設計製造に捧げてきたといってもよい人物で、SPレコード用のピックアップの時代から、この仕事に携わっておられる超ベテランのカートリッジ専門家である。私が氏に初めて会ったのは、昭和28年頃と記憶するが、学生時代、なけなしの小遣いをはたいて買った、グレースのモノーラルLP用カートリッジF1の修理を依頼するため、品川の同社を訪問した時だ。その後、独立されて、FRカートリッジのフィデリティリサーチ社を創立され、数々の優れた製品を手がけられたが、昨年、同社を離れ、わずらわしい会社経営から解放されて、長年の構想の実現であるこの製品の手造りを始められた。FR1からFR7まで、氏の作ったMCカートリッジの実績は世界中にMCカートリッジブームを巻き起こす力となったほどであった。その池田氏が、今度は自身の名を冠したカートリッジを発表されたのである。
 その内容はきわめて挑戦的なもので、ちょうどカッターヘッドと相似の構造である。いいかえれば、針先の動きをダイレクトに発電するという理想を具現したものである。つまり、このカートリッジにはカンチレバーはない。あるのは、針先を支える小さく軽いアルミホルダーのみ、ここから直接、コイルがそれぞれ45度方向に結合され、その先端が半球型のダンパーに固定されている。コイルは弓型に巻かれ、サスペンションを兼ねている。前後方向の支持は特殊な緩り線で後方に引っ張っている。半球型のダンパーと書いたが、正確にはマッシュルーム型で、この形状になるまでに、どれだけの苦労があったことか……。確かに、初めは半球型で、ニップルダンパーと呼んでいたが、製品になる段階では現在のマッシュルームダンパーとなった。針先の動きを直接コイルに伝えるダイレクトカップリングの理想をこれほど追いつめた製品は世界に他にないだろう。いうはやすし、おこなうは難しで、このアッセンブリーは至難の技である。とても、とても、量産などできるしろものではない。針先の音を直接聴いてみたいというカートリッジの鬼が執念で作り上げたカートリッジという他ない。頭で考える人はいても、誰も手をつけることができなかった構造だ。発電コイルは同時にサスペンションでもあり、その弓型の形状やダンパーの接合、髪の毛よりも細い線を巻いて硬め、これをチップホルダーに固定するというのは、まさに離れ技といってもよく、その困難さは想像以上だろう。ヘッドシェル一体型構造で、指かけまでアルミ切削のボディは、池田氏自身の手による旋盤加工で、シンプルだが美しいものだ。
 また、もともと、池田氏はFR1の開発以来、一貫してピュアMC、つまり、磁性材の巻枠をもたない空芯コイル方式をオリジナリティとしてきたわけで、ここにもそれは守られている。もっとも、この構造では巻枠など入り込む余地はないし、振動系の軽量化を著しく損ねる。
 音の質感は明らかに一味違う。繊細で、あまり微弱な間接音が出るので戸惑うほどだ。
 トーンアームへの取り付けは相当厳密に行ない、ディスクに対するラテラル方向を入念に調整しないと、敏感に影響が現れる。また、構造上、ほこりがつきやすいので、柔らかい刷毛で注意深くクリーニングをすることも大切だ。条件を整えると、このカートリッジならではの曖昧さのない、締まったソリッドで、明確な輪郭をもった音像の魅力が他では得られぬ再生音として聴かれるであろう。相当敏感なカートリッジだけに、レコードのあらも鋭敏に再生する。イージーに安心して聴き流すというタイプではない。カートリッジ自体で、少々のあらは吸収してしまうという実用性を期待すると見当ちがいである。車でいうと、きわめて俊敏なスポーツカーといった感じで、整備のミスや運転のミスは許されないといった傾向のエンスージアスト好みの性格に共通したところがある。
 いかにも趣味性の高いアナログディスクファン好みの製品である。イージーハンドリング、イージーリスニングの便利な機械の氾濫はある面、このオーディオの世界をつまらないものにしていると思うのだが、そんな時代にあって、こうしたカートリッジの登場は喜ばしい。これは、あたかも針先と発電コイルがダイレクトに連るように、ユーザーと、製作者の池田氏がダイレクトに連ってオーディオを共に苦しみ、共に楽しむことのできる製品なのである。だからこそ、池田氏も、これに象徴的、あるいは抽象的な名前をつけないで、ダイレクトにIKEDAという名前をつけたのであろう。このカートリッジをもつことは池田氏と友人になることのように思えるものだ。これは、今のオーディオに欠けているものではないだろうか。大量生産、大量販売という体質からは得られないことだし、そうした体質から生まれることができる製品ではないのである。大きな資本と組織でなければできないこともある。しかし同時に、そこには失われるものもある。この製品に接して私は、先に述べた30年以上も前の池田氏との出合いの頃の、楽しかったオーディオのことを想い出した。あれこれと苦労をしなければ、まともな音を出せなかった時代だけに、その楽しさも格別のものであったように思えるのである。
 こんなわけで、この製品は、誰にでもすすめられるというものではない。池田氏のチャレンジに共感し、このカートリッジの本質を理解する人にとって興味深く、魅力的なものといえるであろう。

AKG P8ES NOVA

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 オーストリアのウィーンに本社を置くAKGは、マイクロフォン、ヘッドフォンなどの分野で、ユニークな発想に基づく、オリジナリティ豊かで高性能な製品を市場に送り、高い評価を得ている。
 例えば、マイクロフォンの2ウェイ方式ダイナミック型D224Eや、システムマイクとして新しい展開を示したC451シリーズなどは、録音スタジオで活躍している同社の代表製品である。また、ヘッドフォンでは、かつてのドローンコーン付きダイナミック型K240や、低域にダイナミック型、高域にエレクトレットコンデンサー型を組み合せた現在のトップモデルK340なども、AKGならではのユニークな高性能モデルである。
 一方、フォノカートリッジは、同社としては比較的新しく手がけたジャンルで、テーパード・アルミ系軽合金パイプカンチレバーを採用して登場したPu3E、Pu4Eが最初のモデルだと記憶している。
 AKGカートリッジの評価を定着させたモデルが、第2弾製品であるP6E、P7EそしてP8Eなどの一連のユニークなテーパー状の四角なボディをもつシリーズである。とくに透明なボディにシルバー系とゴールド系のシールドケースを採用したP7ESとP8ESは、適度に硬質で細やかな独特の音とともに、現在でも第一線で十分に使える魅力的なモデルであった。
 そして、第3弾製品が、1981年に登場した現在のP10、P15、P25をラインナップとするシリーズである。
 昨年、同社のスぺシャリティモデルとして登場したP100Limitedは、出力電圧が高く使いやすく、MM型に代表されるハイインピーダンス型の振動系が、MC型の振動系より軽量であることのメリットがダイレクトに音に感じられる、久し振りの傑作力−トリッジであった。
 今回、登場した新モデルは、これまでのAKGの総力を結集して開発された自信作である。
 モデルナンバーは、AKGブランドを定着させたP8を再び採用。ボディのデザインと磁気回路の原型は現在のP25MD系を踏襲している。スタイラスにP100Limitedでのバン・デン・フル型をさらにシャープエッジ化したII型を採用するといった、充実し凝縮した内容をもつ。
 リファレンスプレーヤーを使いP8ES NOVAの音を聴く。針圧は、1〜1・5gの針圧範囲のセンター値、1・25gとする。ワイドレンジ型で軽やかさがあり、プレゼンス豊かな雰囲気が特徴だ。
 試みに針圧を0・1g増す。音に芯がくっきりとつき、焦点がピッタリと合う。ナチュラルで落ち着きがある音は、安定感が充分に感じられ、AKGならではの他に類例のない渋い魅力がある。
 音場感情報は豊かだ。スピーカー間の中央部も音で埋めつくされ、音場は少し距離感を伴って奥に充分に広がる。定位もクリアーで、音像は小さくまとまる。音楽のある環境を見通しよく、プレゼンス豊かに聴かせるが、とくに静けさが感じられる音の美しさは、P8ES NOVAならではの魅力だろう。

SAEC XC-10

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 SAECのブランドで新しくMC型力ートリッジXC10が発売された。これは、昨年にSAEC初のMC型カートリッジとして発売された、空芯型のC1と異なり、コイル部分の巻枠を磁性体化しローインピーダンス化して開発された、いわば、ジュニアタイプとも思える新製品である。
 SAEC−C1、SAEC−XC10、この両者を比較すると、ブランド名は同じモデルナンバーの頭文字CとXCのちがいについても、空芯型と磁性体巻枠型との差を考えれば、素直に受取れるものである。
 しかし、誤解を避けるためにあえて記せば、同じSAECブランドながら、C1は、ダブルナイフエッジ軸受構造のユニークなトーンアームで知られる、オーディオ・エンジニアリング製、今回の新製品は、オーディオコードなどで知られる、サエク・コマースで開発された最初のMC型カートリッジであり、相互の関連性は、まったくないとのことである。
 主な特徴は、カンチレバーにムクのボロン棒とアルミ系合金の複合構造材採用と、スーパー・センダストのコイル巻枠、スーパーラインコンタクト針、特殊軽合金削り出しで表面鏡面仕上げのボディと鏡面仕上げ高剛性合金複合材の基台などである。
 トーンアームにSME 3012R−PRO、アンプはデンオンPRA2000ZとPOA3000Zの組合せだ。
 まず、トランス入力とし、針圧1・5gで試聴をする。柔らかく豊かな低域をベースとした比較的軽快な音である。やや、全体に安定感に欠ける面があるため0・1g増すが、まだ不足気味だ。そこで規格値を少し超えた1・8gを試みたが、反応が鈍くなり、これは、少しオーバーである。細かに針圧を変えて試した結果では、1・7gがベストである。このときの音は、低域が安定し、適度にプレゼンスのあり、エッジの効いたローインピーダンスMCらしい音である。帯域はナチュラルであるが、中域の密度感は、やや甘いタイプだ。
 次は、入力を換えてヘッドアンプとする。針圧1・7gの状態で、聴感上の帯域感はかなり広帯域型となり、音場感は一段と広く、音のディテールを引出して、キレイに聴かせてくれる。音色は、ほぼ、ニュートラルで、低域は柔らかく、もう少し引締まったソリッドさや分解能が欲しい印象である。価格から考えれば、試聴に使ったプレーヤーよりも、より平均的なシステムとサエクのアームとの組合せのほうが、低域の厚みや量感が減り、中域から中高域の明快さも加わってトータルとしては、より好ましい結果が得られるように思われる。
 現状のままで、このあたりを修整しようとすれば、より剛性の高いヘッドシェルを組み合せるのも、ひとつの方法であろうし、ディスクスタビライザーの選択やリード線の選択でも大体の解決は可能である。
 ヘッドアンプ使用で、デジタル録音のディスクを聴いたときに、新しいディスクならではの音を聴かせるあたりは、このカートリッジが、いかにも、現代の低インピーダンス型らしい、といった印象であり、製品としての完成度は、かなり高い。

フィデリティ・リサーチ MCX-5

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールといえば、非磁性体を巻枠とした、いわゆる、空芯型MCカートリッジを連想するほど、ピュアMC型にこだわってきたメーカーであるが、昨年来の新製品は、方向を180度変えて、巻枠に磁性体を使った低インピーダンス型に移行しているのは、大変に興味深い動きである。
 今回、新製品として発売を予定されているMCX5は、そのモデルナンバーからも推測されるように、昨年4月に発売されたMCX3をベースに、リフレッシュしたグレイドアップモデルである。
 MCX5の最大の特徴は、コイル巻枠に磁性体を採用していること以外に、カンチレバー材料にエフ・アール初のベリリウムとアルミの2重構造をもつパイプが採用されていることである。最近では、カンチレバー材料に金属系ではベリリウムやボロン、鉱物系ではサファイアやダイヤモンドなどのエキゾチックマテリアルが使われるのは、決して珍しいことではない。ちなみに、エフ・アール製品のカンチレバーは、現在にいたるまで、アルミ系の材料を一貫して使っていたわけだが、手慣れた材料を極限まで使い最適の条件を引出す、という開発方針は、とかく、新材料に飛びついて、とかく、材料に振り廻される傾向が強い現状から考えれば、むしろ特筆すべきものということができよう。
 試聴は、マイクロSX8000IIターンテーブルシステムにSME3012R・PROトーンアームを使うが、MCX5のヘッドシェルは、エフ・アールのシェルにメーカーで取付けたものを、そのまま使う。
 針圧は、適正針圧の1・6gとし、PRA2000Zのヘッドアンプ入力を便う。聴感上の帯域バランスは、適度にハイエンドを抑えたタイプで、全体に、やや音は硬質で、エッジはクッキリと張るが、音色が明るく、若干だが乾いた印象がある。針先のエージング不足のためか、少しスクラッチノイズがピーク性である。
 針圧を0・1gステップで変えながら音をチェックする。軽ければ、安定感に欠け全体に音が浮き気味となるし、重ければ、高域の伸びが抑えられ、厚みはあるが、反応が遅く、ダルな音になる、というのが一般的な針圧と音との相関性である。とにかく、適正針圧というものは、気温や湿度などの外的条件をはじめ、針先やディスクの状態、システムのグレイドとコンディションなどにより、まさに生物のように変化をするから、つねに、最適条件を保つことはかなりの熟練を要求されるようだ。
 針圧1・7gで、スクラッチノイズも少し抑えられ、音に安定感が加わり、音場感的なプレゼンスも一応の水準となる。トータルとしては、低域の質感が少し甘く、中域から高域がエッジの効いたクリアーさのある、やや個性型の音である。
 トランス入力に切り替える。針圧調整を行ない、18gで、低域が程よく引締まり、ガツンと突込んでくるようになり、中域の硬質さに緻密さが加わる。総合的には少し低域バランス型のまとまりだが、平均的なプレーヤーでは、程よいバランスであろうFR1系とは対照的な性質の個性型と思う。

パイオニア PL-7L

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 このところ、10万円未満のアナログプレーヤーに注目すべき内容をもつ製品が多くなっている。今回、バイオニアから発売された、PL7Lは、リファレンス・プレーヤーの名称をもつだけに、同社の定評あるプレーヤー技術を集大成した、デジタルプログラムソース時代のアナログプレーヤーとでもいえる、内容の濃い製品である。
 PL7Lの最大の特徴は、デザイン的にもアクセントとなっている、左右からプレーヤーベースを挟むように置かれた、4個の特殊な構造をもつダブルインシュレーションシステムと呼ばれる脚部にある。
 従来機が、プレーヤーベース本体と置場所の棚などの間にインシュレーターを入れて振動を違断していたことにくらべ、この方式は、設置場所とプレーヤーベース本体の底板に相当するアンダーボード間と、アンダーボードとプレーヤーベース本体の間にそれぞれインシュレーターを設けたダブルフローティング構造である。
 このダブルインシュレーションシステムは、それ自体が低重心構造であり、ラテラルダンパーの採用で、床などから伝わる縦方向の振動とスピーカーの音圧などの横方向の振動、さらに高トルクDDモーターの反作用による振れなど、あらゆる方向の振動を効果的に抑制し、200Hzあたりの中低域では、従来型と比較して30dB近い振動遮断特性の向上が得られたようで、音質面での効果は相当に高いはずだ。
 また、ダストカバー部分には、フードインシュレーションシステムが採用してある。これは、ダストカバーが受ける音圧による振動、床からの振動をプレーヤーベース本体と遮断する方式で、アナログプレーヤーの本質を捉えたオーソドックスな処理だ。
 トーンアームは、共振を抑え、混変調歪の少ない忠実な音楽再生を狙った設計で、パイプ部分には、軽量、高剛性のアルミナセラミックスを、強度が高く、重量的にも有利なストレート型として採用し、これに、パイオニア独自の開発によるDRAを組み合せている。
 DRA(ダイナミック・レゾナンス・アブソーパー)とは、トーンアーム自体の共振を逆共振を利用して打消そうとするもので、適度なバネ特性をもつダンパーとウェイトで構成する副共振体がDRAで、これをパイプアームに装着して、カートリッジの針先が音溝以外の振動を拾わないようにする、という巧妙な設計である。
 バランスウェイト部分の特徴として、ウェイト支持軸とパイプ支持部分の接点になる部分の共振を抑える目的で、一点で両者がコンタクトをする構造にダンパーを組み合せた一点支持型防振構造が採用されている。このウェイト支持軸にバランスウェイトが組み合され、DRAと相まってトーンアームの分割共振を徹底して抑える手法が目立つ点だ。
 アームベース、パイプ支持部、ヘッド部などは、アルミと亜鉛ダイキヤストがそれぞれの特徴を活かして採用されており、水平軸受部はラジアルベアリングを使用している。アーム全体として、共振系を形成する無用な突起物が少なく、トータルバランスの優れた点が、このアームの特徴である。なお、アルミナセラミックスのストレートパイプは、DRA付で交換可能である。
 モーター部分は、モーター底部にあったローター支持点をターンテーブルの直下に移動し、ターンテーブル重心とこの支持点をほぼ一致させ、軸受部の側圧を抑え、回転安定度を飛躍的に向上した独自のSHローター方式を踏襲し、トルクリップルを極限まで抑える新着磁方式を採用したコツキングのないコアレス構造のクォーツPLL・DCサーボ型である。
 ターンテーブルは、直径36cm、重量13・3kg、シートを含めた慣性重量は、655kg/㎠と重量級で、内周部と裏側には、適度の制動効果のあるダンプ材が貼ってあり、ターンテーブルの固有振動によるカラレーションを排しているのは、このクラスの製品として細かい配慮である。なお、起動特性は、1回転以内、約2秒と発表されている。
 カートリッジは附属せず、機能はオート・リフトアップ機構が備わっている。
 基本的には、あまり神経質に置き場所を選ばなくても比較的にクォリティが高い音が得られ、本格的に使いこなせばそれだけの成果があるのが、この製品の素晴らしいメリットである。中量級カートリッジとの組合せも安定した対応を示すが、やや高級なMC型やMM型で、静かで、音離れがよく、音場感もスッキリと拡がる、最新録音の特徴を引出して聴く、という使用方法に好適である。CDと共存できる新しいアナログプレーヤーの登場を喜びたい。

カートリッジのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 カートリッジは嗜好品だとよくいわれる。たしかに現在のカートリッジの性能面は水準が高く、問題にするとしたら、音色や表現性の違いが主なものだろう。中には、トレーシングスタビリティの点で難点のあるものもなくはないが、その数は多くない。4ランクの価格帯があるが、全体でも10機種という制約があり、どうしても魅力的なものが高価格帯に多いので、2万円未満のものは、いいものもあるが、涙を飲んでパスすることにした。
 2万〜4万円ではオーディオテクニカAT160MLが最も好きな製品だ。テクニカの全製品の中でもベストだといいたいぐらいである。解像力があって響きが豊かで安定性も高い。ソニーXL−MC7は心憎い作りで、ややハイに気になる派手さがあるが、明解な音色は快い。FR/MCX3はあまさと輝きに美しさが感じられる。なかなか繊細な情報の再現にも優れていると思う。
 4万〜8万円では、B&O、MMC1が彫りの深い音の質感とハイコンプライアンスらしい繊細さのバランスのよさが光る。小型軽量の外観からは想像出来ない強靭さもあって、リアリティのある音だ。オーディオテクニカAT36EMCは、ウエルバランスと定位、セパレーションの明確さが両立したよさを評価する。質感はやや華麗だが、この艶のある音は魅力的だ。ハイフォニックMC−A6は繊細な再現に優れ、楽音の細やかな響きをよく鳴らし分ける。それでいて全体のふっくらとした空間感もよく出すし、フレッシュなサウンドである。
 8万円以上ではオルトフォンSPUゴールドシリーズの実感効果とでもいうべき個性の普遍性、説得力の強さはアナログディスクを聴く喜びを倍加させる。トーレンスMCH−I/IIはEMTのスタイラスを変更したものだが、そのよさの上に現代レベルのワイドレンジを兼ね備えている。EMTのカートリッジの陰が薄くなってしまった。その独特の音の魅力と風格は伝統文化の香りという他はない。ゴールドバグMr,ブライヤーは、そうした強い個性こそ持たないが情緒性と、現代カートリッジの性能とを併せもっていて、私にとっては今や最も標準的なカートリッジになっている。AKG/P100リミテッドは独特な強靭さと冴えた透徹さが魅力の新製品で、他のいかなるカートリッジとも異なるフレッシュなサウンドが魅力だ。

カートリッジ、昇圧トランス/ヘッドアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 2万円未満のカートリッジは、キャリアの充分なユーザーが、限定した条件下で選択し、使うべき製品であると考えるため、選択の対象外として除外した。
 2万〜4万円は、カートリッジを買ったという実感のある音の変化が確実に得られるだけの内容をもった製品があるゾーンだ。MM型を積極的に選びたい価格帯で、オーディオテクニカAT150E/Gは定評のある、明るく、音楽性が豊かな伝統的な音が聴ける製品であり、AT160MLは、滑らかで、解像力が優れた新世代のテクニカサウンドが魅力。優れた性能が素直に音に出るテクニクス250CMK4、表現力豊かなMC型ヤマハMC505も一聴に値する音だ。
 4万〜8万円では、MC型の魅力と海外製品独自な音が楽しめるゾーンだ。定評の高いデンオンDL305、DL303の後継モデルDL304は、リファレンス的意味を含め、信頼性、安定度は抜群であり、オーディオテクニカAT36EMC、37EMCの実感的な音の魅力は見事である。MM型の超高性能型テクニクス100CMK4、海外製品シュアーV15タイプVMR、オルトフォンMC20MKII、SPU−AEなどは、これぞカートリッジ的存在。
 8万円以上は、スペシャリティの世界だ。針先とコイルを直結したMC型第1号機ビクターMC−L1000。少なくとも異次元の世界の窓が開いた印象である。これと対照的存在が、軽量振動系MC型の代表作デンオンDL1000Aだ。これに続くのが、ハイフォニックMC−D15、ヤマハMC2000であり、聴感上のSN比が優れ、情報量の多さは、近代型MCならではの新しいアナログの世界を展開する。
 昇圧トランス/ヘッドアンプは、低インピーダンスMCには昇圧トランス、高インピーダンスMCにはヘッドアンプという組合せが選択の基準だ。
 10万円未満のトランスでは、トランス独特のエネルギー感と緻密な豊かさを聴かせるオーディオニクスTH7559、安定感があるオーディオテクニカAT700Tがベストバイ。ヤマハHA3のMC型用イコライザーという構成と音にも注目したい。
 10万円以上では、高インピーダンスMC型に見事な対応を示した昇庄トランス、デンオンAU1000がベストバイである。

トーンアームのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 トーンアーム単体を使うほどのマニアは限られているだろう。だから、よほどのものでない限り、プレーヤーシステムを求めるほうが早道だし、間違いはない。現在の高級プレーヤーシステムについているトーンアームは、もはやつけ足しのものではないからだ。しかし、立体的に、より高度なアナログディスクの再生を目指すファンにとって、単体のトーンアームが存在する理由はなくはない。3機種と限定されたから私は10万円未満でSME3010RとFR/FR64fxを選んだが、理由は私自身が使って満足しているからに過ぎない。パフォーマンスでいえば、それ以上のも、それに匹敵するものは他にもあるだろう。10万円以上ではオーディオクラフトAC3300を選んだが、正直なところバラエティを考えたからで、本当はSMEのシリーズを上廻るアームは未だにないと思っている。

トーンアームのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 コンプリートなシステムが優先する時代となり、トーンアームも製品数が少なくなり、やや淋しい印象を受ける昨今である。
 10万円未満。本来はこの価格帯に充分性能が高いモデルがあるべきところだが、機械加工による製品だけに、高価格は仕方ないことであろう。ベストバイは、超ロングセラーを誇るシンプルなオーディオテクニカAT1503IIIだ。適度にクォリティが高く、明るく、活発な音が魅力。SME3009/SIII、3010Rも、カートリッジにより使い分ければ、デザインともども、やはり非常に素晴らしい製品だ。
 10万円以上では、独自のメカニカルなダンピング方式を採用したデンオンDA1000の活き活きとした音の魅力が際立つ存在。SME3012R、3012R PROも、現時点での高級アームとして充分以上の実力をもつ。オーディオクラフトAC3300は、使いやすく、音も見事だ。

ターンテーブルのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 ベースをもつシステムと、ベースなしのターンテーブル本体のみのものとがあるが、原則的にはベースを含めてパフォーマンスが決るので、そのほうが好ましい。
 30万円未満では、ベースなしだがテクニクスSP10MK3が抜群の回転性能で見落せない。トーレンスTD126MKIIIBCセンティニュアルはデザインの違いはあるが同等品。バランスのよい音と実用性の高さは抜群。
 30万〜60万円では同じくトーレンスのTD226BCがウエルバランスで秀逸だ。TD226システム同様、デザインは好みではないが……やや高級感に乏しい。
 60万円以上ではトーレンス〝プレスティージ〟が文句のないところ。〝リフアレンス〟ほどではないが、その風格、美しさは、音のよさに匹敵するものといえるだろう。マイクロSX8000II+RY5500IIはBA600ベースとAX10Gアームベースのトータルシステムで威力を発揮する力作である。

ターンテーブルのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 30万円未満では、京セラの第2作、P910がベストバイだ。組合せアームはSMEが平均的、追込み型ならオーディオクラフトが最適だ。シンプルなタイプならARが価格的にもリーゾナブルで良い。
 30万〜60万円は、事実上のトップランクのターンテーブルが存在しそうな価格帯だが、やや谷間的な印象を受けるゾーンだ。価格対満足度では、総合的にバランスが優れるマイクロSX111FVがベストだ。
 60万円以上は、本格的な、これならではの強烈な印象を受ける、まさにアナログならではの世界が展開する価格帯だ。トップは、’84COTYのマイクロSX8000IIシリー
ズだが、SX5000IIとの組合せも、価格差を考えればもっと注目されてよいモデルと思う。デンオンDP100は、ぜひともDA1000トーンアームと組み合せたい。メカニカル制御のこのアームの音はアナログの魅力。

アナログプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 フルオートプレーヤーシステムはその性格上、デザイン、使い勝手がかなり重要なウエイトを占めるだろう。この分野で何といっても魅力的な製品を作り続けているのがデンマークのB&O社であり、その美しいデザイン感覚による仕上げには誰でも魅力を感じるのではなかろうか。フルオートプレーヤーでレコードを演奏するというのは、マニュアルプレーヤーのそれとは、音楽を聴く姿勢に違いがあると思われてならない。人によって考え方は異なるだろうが、私にとっては、イージーハンドリング〜イージーリスニングという傾向になることは否定出来ないのである。もっと演奏するのにたいへんなCDプレーヤーが、それに見合ったより凄い音で出てこないものかと真剣に考えることがある。B&Oのプレーヤーでは8002、6002が素晴らしい。しかし、少々高価である。5000を選んだのは、ただ、それだけの理由で、B&Oは忘れてはならないという気持ちが強いのだ。テクニクスのSL−M3はユニークなリニアトラッキング式で、うるさいことをいわなければハイファイ性もなかなかなもの。デンオンDP37Fはバランス設計がうまく、この価格を考えると断然おすすめである。
 10万円未満ではパイオニアPL7Lが光る。他にもいいものが沢山あるが、新製品らしい新製品なのでこれに注目。トータルコンセプトが好ましい。よい音だし、ユニークなデザインである。
 10万〜20万円ではオーソドックスなヤマハGT2000L。しっかりした音像の安定感は立派だ。デンオンDP75Mも巧みな設計で本格派である。
 20万〜50万円には、やや中途半端な存在のものが多くパス。
 50万円以上にはそれぞれのコンセプトによるコストにこだわらない製品を見出せる。テクニクスSL1000MK3/Dは内容もフィニッシュもメカニズムの美しさに到達した出来栄え。デンオンDP100Mもそうだ。どちらもヒューマンな暖か味にはやや欠けるが、優れた機械の風格がある。EMT930stは誰もが欲しくなる魅力に優れたオーソドックスなプレーヤーメカニズムで国産にはない魅力だろう。トーレンスTD226は少々デザインが野暮だが、音は、トーレンス一流のバランスのよいリファレンスだ。

アナログプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 基本的に、機械的な構造物がアナログプレーヤーであるだけに、優れた音質を望めば、代償として高価な出費を必要とするといった、いわば残酷なシャンルだ。
 したがって、ここでは、機能を優先としたフルオート機は選択の対象外とする。
 10万円未満では、従来は音質を追求すれば、相当に不満が残る価格帯であったが、このところ内容の充実はめざましく、かなり期待に応えてくれる製品が増加している。あまりオーディオ的な配慮をしなくても、適度にクォリティの高い音が得られ、使いこなせばそれに応えられる幅の広い適応性をもつモデルとしてパイオニアPL7Lをトップランクの製品とする。多角的な防振対策と優れた音質は相関性があり、総合的なバランスでは抜群のできだ。機械的、音楽的に安定した台に乗せて使うという条件下では、ヤマハGT750/1000、デンオンDP59M/59L、それにケンウッドKP880DIIなどが、使いこなせば期待に応えてくれるモデルだ。
 10万〜20万円では、平均的要求では充分な内容の製品が多い。ヤマハGT2000L/2000、デンオンDP75M、ビクターQL−A95あたりは信頼がおける製品であり、かなりクォリティの高いカートリッジを組み合せても、それなりの期待に背かない結果が得られる内容をもっている。ユニークな存在は、マイクロBL99VWで、重量級ターンテーブルと高剛性トーンアームの組合せは、DD型とはひと味ちがったアナログならではの音の魅力を垣間見させてくれるようだ。
 20万〜50万円は、完全なシステムとしてはそれほど製品の数が多くない価格帯だ。ここでの注目製品は、アナログディスクの偏芯を自動制御する見事な構想に基づいたナカミチの第二弾製品ドラゴンCTである。ディスクの偏芯と音質の関係は他の方法でも実験可能だが、これは実際に体験しないと納得できない盲点とでもいえる驚くべき問題である。その他、総合的バランスの優れたトーレンスTD126MKIIICも、趣味性の高いモデルだ。
 50万円以上では、超強力なDDモーター採用のデンオンDP100Mが、価格対満足度で抜群の存在であり、豪筆なキャビネットにメカニズムを組込んだ家具調の雰囲気をもつエクスクルーシヴP3aも素敵だ。

トーレンス Reference

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 トーレンスのリファレンスに大金を投じたのは、マッキントッシュXRT20というスピーカーとの出会いが刺戟になってのことである。このスピーカーの魅力の虜になった私が、何とかして、このスピーカーの最大限の能力を引出してみたいと思うようになったからである。
 それまで、JBLのユニットを使った3ウェイのマルチアンプシステムと15年も取組むうちに、その明解な音像輪郭の描き出す音に満足しながらも、時として、少々、肩肘張り過ぎる音の出方が気になってもいた。また、ターンテーブルやプレーヤーシステムも、いわゆる高級・高額品というものには物量が投じられ、剛性を確保したものがほとんどで、それらには同じ傾向が強いことに疑問を抱いていた。たしかに、音が明確な存在感をもって響くのはある種の快感である。締まった低音、曖昧さのない確固たる音像と定位、立上がりの鋭い切れのよい打楽器類の鮮烈なリズム感などは、いい加減にもやもやした鈍い音からすれば質は高いだろう。しかし、時として、それが行過ぎになる傾向がオーディオにはあるように感でいたのである。そうした傾向のプレーヤーでは必ず、本来、もっとも柔軟でしなやかであるべき弦楽器の音が刺戟的な方向で鳴るし、ピアノの打鍵は一様に鋭いパルスが勝って、あの楽器特有のボディのあるソフトな質感が出にくいのである。いくらピアノが、打楽器の仲間で鍵盤を打って音を出す楽器だといっても、まるで鉄のハンマーで打弦するような、金属音が支配するようでは音楽の表現もモノトーンになるし、絶妙なピアニスティックなタッチの変化や音色の多彩なニュアンスは聴くことが出来ない。最近の優秀録音やハイファイシステムは、どうも、その傾向が強く辟易させられる。これは、マイクロフォンに始まって、再生スピーカーに至るまでの数多くのオーディオ機器のもつ、ある種の歪が原因だと思うし、また、それを、ただ無定見に新鮮な魅力として、これを誇張するような録音再生のソフトまで流行しているように思うのである。
 人間、ごく単純にいえば、弱いより強いものに、低いより高いものに、柔らかいものより硬いものに、暗いより明るいものに……といった具合に、量的に優位なものに気をそそられるのが普通である。また、オーディオ機器や、その使い方の中で、人は、元の音のあるべき姿を知らないと、一対比較で、音を判断し、この量的優位の感覚で決めてしまう危険性がある。長年のレコード制作で、私がよく体験することであるが、オリジナルテープの音よりカッティングされた音を喜ぶ人が多いもので、それは何らかの原因で、機械式変換のプロセスが音を硬い方向へもっていくことに起因しでいるようなのだ。
 よく、超高級のターンテーブルなどで、レコードにはこんな音まで入っていることに驚かされる……といった説明を聴くが、私には、それが必ずしも、レコードに入っている音ではなく、むしろ、ターンテーブルシステムの創造する音ではないかという疑問が浮かんでくるのである。Qの高い金属製ターンテーブルにレコードを直接置くようなプレーヤーの使い方は、私にはどうしても納得出来ない。不自然な音の質感をもつものが多いのだ。この理由の説明は長くなるので、ごく簡単にいおう。レコード製造課程で作られる金属原盤(マザー)と、そこから作られるスタンパーでプレスした塩ビのレコードの音とを聴きくらべると、工程からいって当然、マザーのほうが波形の忠実度が高いのに、その音は明らかに金属的な質感で、よりクリアーで迫力はあっても不自然である。よりクリアーで迫力があれば不自然でもよいというのなら何をか言わんやだし、何が自然なのか解らない人にはそれでもよいかもしれないが、微妙な音楽の質感を大切にする耳には塩ビのレコードの音のほうがはるかによい。金属原盤のQの高さが害を生むのであろう。現在の塩ビのレコード材料が、Qの点からもスティフネスの面からも最上のものかどうかは疑問があるが、これ以上Qの高い材料にすることは賛成出来ないように思う。
 もちろん、これはカートリッジやアームの問題とも密接に関連することだが、現行の汎用カートリッジやアームで使うには明らかに、このことがいえる。レコードを金属ターンテーブルに密着させるということは、塩ビとターンテーブルの一体化によりQを高い方向へもっていくことになるだろう。吸着式はレコードの平面性の確保という点ではたしかにメリットがあるだろうが……。もし吸着させるなら、可聴周波数帯域内に害をもたらさないQの小さな材料か、複合材でダンプをすべきではないだろうか。数キロもある金属と一体化に近い状態になったレコードからは、たしかに、曖昧なシートにのせられたものとはちがソリッドで明確な音が出てくるが、これを単純により優れた音と判断するのは感覚的にも教養的にも淋しい話と思えてしかたがない。
 マッキントッシュのXRT20が、私のJBLのシステムと違う最大のポイントは、音楽の自然な質感であった。それに触発されて、それまで、いろいろな点で不満であったターンテーブルシステムの充実をはかることにしたのである。自然な質感を失わず、しかも、機械変換機能をもつもののベースとして十分な質量をもたせ、メカニカルフィードバックにも対処させる方向で。その私の考えの線上に浮上したのがリファレンスであった。案に違わず、このシステムは、超弩級のシステムでありながら、トータルバランスを重視した設計で、決してエキセントリックな音を出さない。リファレンスの名にふさわしい妥当な音だ。レコードで音楽を楽しむひとときに、なくてはならない、とっておきのプレーヤーである。

ダイナベクター KARAT 17D2

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤモンドのカンチレバーといえば、オーディオファンなら、ぜひとも一度は使ってみたいと憧れる思いにかられるであろう。従来は、高価な宝石としても最高にランクされる材料であり、その硬度もビッカース硬度10という最高の値をもつために、ダイヤモンドを研磨する方法はダイヤモンドで磨くほかはない加工上の制約があり、とても手軽に購入できる価格帯の製品に採用されることはありえないことであったわけだ。
 この夢のカンチレバー材料ともいうべきダイヤモンドカンチレバーを採用したMC型カートリッジが、世界で最初にダイヤモンドカンチレバー採用のMC型カートリッジを開発したダイナベクターから、驚異的な低価格の製品として発売された。
 新製品KARAT17D2は、八一年12月に発売されたKARAT17Dに採用された、全長1・7mmの角柱状ダイヤモンドカンチレバーを、同じサイズの直径0・25mmの円柱状のムクのダイヤモンドカンチレバーに形状変更をし、針先に70μ角の微細なダイヤモンド柱から研磨したダ円針を装着したモデルである。
 スペック上では、再生帯域とチャンネルセバレーションに、わずかの差があるが、相互の発表時期の隔りから考えて、カンチレバー以外は同じと推測され、特徴的な銀メッキコーティングによりコントロールされた振動系支持ワイヤー、ダンピング動作をさせない支持機構、波束分散理論に基づいた、異例ともいうべき全長わずかに1・7mmの短かいカンチレバーなどは、KARAT17Dを受継ぐものだ。
 それにしても、驚異約なことは、価格であり、68、000円から一挙に38、000円に下げられたことは、エポックメイキングなできごとであろう。
 試聴には、このところ、ステレオサウンドで、リファレンスとして使用されているトーレンスのリファレンスシステムとSME3012Rゴールドを使った。
 最初は、アンプのMCダイレクト入力で使う。ナチュラルに伸びた帯域バランスと音の芯がクッキリとした腰の強い、彫りの深い音が印象的である。音色は程よく明るく、厚みのあるサウンドは、とかく、繊細で、ワイドレンジ型の音となり、味わいの薄い傾向を示しやすい現代型のMCの弱点がなく、リッチな音が特徴である。
 次に、低い昇圧比のトランスを組み合せる。聴感上での帯域感は少し狭くなるが、エネルギー感は一段と高まり、いかにも、アナログならではの魅力の世界が展開される。針圧は少なくとも0・1gステップで追込む必要があるが、最適値に追込んだときの低域から高域にかけてのソノリティの豊かさには、ダイヤモンドカンチレバーで実績のあるメーカーならではのものだ。

ピカリング XLZ7500S

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ピカリングといえば、シュアーと並んでアメリカの力−トリッジメーカーの名門として有名だ。数多くの優れたMM型カートリッジを世に送り出してきたが、このXLZ7500Sという新しいMM型は中でもひときわユニークな製品といってよい。
 MM型カートリッジのMC型のそれに対する一つの大きなメリットは、出力電圧が高く、ヘッドアンプやトランスを使う必要がない点にあるが、この製品は、あえてそのメリットを犠牲にしてまで、音質の品位を追求したものと解釈できるのである。0・3mVという低い出力電圧はMC型並みである。
 なぜ、こういう製品が生れたのかという疑問が当然おきて不思議ではないが、筆者も、この音を聴く前には納得できなかった。ピカリング社の主張は、MM型の振動系のほうが、容易に精度を高めることが可能であるから、コイルのターン数を減らして、SN比の向上と歪みの低減を実現すれば、従来のMM型を超える製品ができるはずだというものである。MM型とMC型との優劣については、物理特性的には容易に優劣がつきにくいが、現状では高級カートリッジはMC型が常識のようになっている。したがって、このMM型がただ単に既成のMM型を凌駕するだけでは存在の必然性が危ぶまれてもしかたがないだろう。多くのMC型に比較して、性能面はもちろん、音の品位やセンスに明確な存在理由を感じさせるだけの成果があらねばならないのである。
 メーカーは、この製品の使用条件に、100Ω以上のインピーダンスで受けるように指定しているが、これは、ヘッドアンプの使用を標準として考えていることと理解できそうだ。つまりトランスは、一次インピーダンスは3〜40Ωのものが多く、筆者の知る限り、100Ω以上の入力インピーダンスをもつものはほとんどない。手許にあったトランスも、ハイインピーダンスのもので40Ωだったが、一応ヘッドアンプと平行して使ってみた。
 試聴結果は、これがMM型であろうと、MC型であろうと、そんな事を忘れさせるにたる高品位の音質であった。とにかく、音の透明度が高いのが新鮮な印象で、いかにも純度の高い、歪みの少ないトランスデューサーらしい音がする。変換器としての特性は相当に高い次元まで追求された高級カートリッジだということが感じられる。標準針圧1gでトレースは完全に安定している。このメーカーの開発テーマの一つに振動系の立上り時間の速さが上げられているが、たしかにこのクリアーでフリーな音の浮遊感は、振動系の機械歪みが少ないためであろう。最近のコントロールアンプやプリメインアンプにはMC用ヘッドアンプ内蔵のものが多いから、この小出力MM型は、なんのハンディもなしに、その美しく透明な音の魅力を評価されるであろう。

フィデリティ・リサーチ FR-7fz

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールを代表する独創的な発電メカニズムをもつMC型カートリッジ、FR7は、七八年の発売以来、八〇年のFR7f、八一年の受註生産のスぺシャルモデルFR7fcとモディファイがおこなわれ、すでにシリーズ製品としては、長期間にわたるロングセラ㈵を続けている。
 今回、このFR7fに改良が加えられ、モデルナンバー末尾に、このタイプの発電方式による究極のモデルを意味するZの文字が付けられてFR7fzに発展し発売された。
 力−トリッジ、とりわけMC型では、その発電メカニズムそのものが結果としての音質を決定するキーポイントであるが、FR7系の発電方式は、3Ωという低インピーダンス型ながらも、コイル巻枠に鉄芯などの磁性材料を使わずに、空芯の純粋MC型として、驚異的な0・2mVの出力電圧を獲得している点に最大の特徴がある。
 では、どうして低インピーダンス型にこだわるのか。カートリッジを電圧×電流つまり電力で考える発電機として考えてみれば、出力電圧は、同じ0・2mVとしても、インピーダンスが、3Ωと30Ωでは、負荷に流せる電流の値は、簡単に考えて約10対1の差があると思ってよい。つまり、発電できる電力としては低インピーダンス型に圧倒的な優位性があるわけで、この発電効率の高さが、例えば高能率型スピーカー独特の余裕のある力強さや、豊かさに似た、音質上の魅力のもとと考えてよく、低インピーダンス型MCを絶対的に支持するファンは、この特徴に熱烈な愛着を持っているにほかならない。
 FR7fzの特徴は、コイルの線材に特殊製法の純銅線を採用し、コイル部分の再設計をおこない、負荷インピーダンスを3Ωから5Ωに変え、出力電圧を0・2mVから0・24mVと高めたことにある。
 試聴には、トーレンスのリファレンスとSME3012Rゴールドを使用した。ただ、シェル一体型で自重30gのFR7fzでは、この場合バランスはとれるが、最適アームであるかについては不満が残る条件である。なお、昇圧トランスは、XF1タイプLおよび他のものも用意した。
 FR7fが、押し出の効いた豊かな音をもってはいるが、やや、最新録音のディスクで不満を残した音の分解能やスピード感などが、新型になって、大幅に改善されるとともに、新しい魅力として、伸びやかで活き活きとした表現力の豊かさが加わった印象である。昇圧トランスを使わず、MCダイレクト入力でも使ってみたが、やはり真の発電効率の高さは、トランスで活かされることは、その音からも明瞭である。
 製品としての完成度は、非常に高いが、アナログ究極のMC型力−トリッジとしては、現在開発中と伝えられる、カンチレバーレスのダイレクトMC型に期待が持たれる思いである。

エンパイア 4000D/III GOLD

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 国内製品では、もはやカートリッジといえばMC型といえるほどに、MC型全盛時代を迎えている。それだけに、海外製品のMM型やMI型の新製品の登場は、アナログディスクファンとしては、非常に興味深い存在としてクローズアップされる。
 今回、米国の名門エムパイアから発売された4000D/III GOLDは、同社の高級モデルとしてロングセラーを誇り、独特のサウンドの魅力をもつ4000D/III LACをベースに改良された新製品だ。
 外観上の大きな変化は、独特の板バネを使ってヘッドシェルとカートリッジ本体をクランプする方式を採用していた従来型から、一般的なボディにシェルマウント用の台座が固定されたタイプに変わったことである。これにより、非常に短いネジを必要とした取付法が改善され、機械強度的に一段とリジッドな構成になったことが利点であろう。ただ、4000D/IIIファンの目には、視覚上のオリジナリティがなくなったことは、趣味的にいえば少し淋しい印象がないわけでもないと思う。
 振動系では、GOLDの名称をもつようにカンチレバーに金メッキが施されダンピングが加わっているのが主な変更点である。
 音は一段とナチュラルになり、穏やかな定定感のあるものに変化し、改良されたことは明瞭に聴き取れる。使用上は針圧の僅かな変化で音質が変化する点に注意したい。