Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 40

Lo-D MT-202E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MT202Eは、カンチレバーの支持機構に独得な宝石ピヴォット方式を採用しているのが特長である。マグネットには、サマリウム・コバルトを採用し、C型ヨークという新開発の磁気回路によるムービング・マグネット型のカートリッジである。
 聴感上の帯域バランスはかなりコントロールされているが、低域から中低域の質感が甘く、音の芯が弱いために、やや安定感を欠く傾向があるようだ。中域から中高域は粒子が少し粗い感じで、このクラスのカートリッジとしてはスクラッチノイズの質が問題になるかもしれない。ステレオフォニックな音場感は、壁の柔らかいホールで聴くように、拡がりはあるがベースやドラムスのような低音のエネルギーが多い楽器は距離感があり、ヴォーカルは、音像はクリアーに立つが、ハスキー調となり乾いた感じになるようだ。全体に、いま少し音に強さがあれば、フォーカスがピタリと決まりそうである。

ジュエルトーン JT-333, JT-555

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 JT555は、ソフトで粒立ちが細かく滑らかな音である。全体に音を軽く柔らかく表現するために、汚れがなくキレイであるのはよいが、やや性質が消極的で実体感や力感不足の面があり、コントラストがつきにくいようだ。ヴォーカルはクッキリとは立たないがナチュラルな軽さがあり、プログラムソースの性質によっては誇張がないメリットにつながるようだ。
 JT333はJT555にくらべ、音に若さがあり、反応も早く、スッキリとストレートに音を出してくる良さがある。音の粒子は細かく、かなり磨かれており、柔らかで耳あたりがよく性質も素直である。バランスは、全域にわたりよくコントロールしてあるが、低域が少し甘く、いま少し腰が強い表現が欲しい印象である。

グレース F-8L, F-8M, F-8C, F-8E, F-8’L, F-9U, F-9L, F-9P, F-9E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 F8Cは、数多くのF8シリーズのトップモデルと考えてよい製品である。低域のダンプはほぼ標準的で、粒立ちはやや細かい感じがある。全体に、クリアーで爽やかな音であり、軽快さを狙った音であろう。表情はスタティックで、スッキリとしているが、適度に甘さがあり、やせた音にならぬのがよい。
 F8Eは、低域が少し甘口で、粒立ちは細かく、Cよりも表情はマイルドである。中低域は豊かで響きがあり、スケール感はCよりも大きく、聴きやすく滑らかでゆったりとした雰囲気がある。性質は、かなりデリケートで細かい音をよく拾い、音像は小さくクリアーに立つタイプである。
 F8Mは、低域のダンプが甘口で、中低域が豊かに拡がる傾向はEと似ているが、中域以上の線が少し太く、音にコントラストをつけて表現するあたりが異なっている。帯域バランスは、中域が薄く、高域がやや上昇した感じがあり、再生音楽を効果的に聴く面白さがあるようだ。音の鮮度はかなり高く、スッキリとしている。
 F8Lは、粒立ちはやや粗く、聴感上のSN比が他のモデルよりも悪くなる。音は安定感があリ落着きがあるが、現在の水準ではややソフトフォーカス気味で、クリアーさ、細やかさが不足する。聴きやすく安定しているが、反面、フレッシュでイキイキした表情が欲しくなる感じだ。
 F8L10は、F8シリーズ発売10周年を期して、F8シリーズの成果を集大成したモデルとして発売されたカートリッジである。粒立ちは現代的に細かいタイプとなり、低域のダンプはLよりも甘口である。音色は明るくニュートラルであり安定感があるのが目立つ点だ。Lに少し感じられたベールがかった感じがスッキリと取れて、クリアーになり、表情が豊かで、新しい第2世代のF8Lとして、標準型で信頼感がある音である。クォリティが高く、トータルバランスが優れているのが、このモデルのメリットである。
 F9Eは、全体に細身でクリアーな音をもっている。低域は甘口で、中域以上がスッキリとしているが、スケール感が小さくなり、全体をサポートする力感不足で、表現が表面的に流れて音が安定しない面がある。
 F9Lは、落着いて安定感がある音をもっている。中低域はおだやかさがあり、拡がりがある。ヴォーカルは、子音を低い帯域で強調する傾向があるが、低域が安定し量感があるため、音の重心が低く、力強さが感じられる。ピアノはソフトにホールトーンを伴って鳴り、スケール感がある。音場感、音像定位は標準型と思われる。
 F9Uは、低域のダンプがLよりもソフトとなり、全体のおだやかな印象もさらに上廻っている。但し、中域以上の粒立ちはカッチリとして芯が強く、明快で線は太いが安定度は充分にあり、全域を通して汚れが少なく、耳あたりがよい。とくに、低域から中低域の腰が強く、力があるため、EやLよりも重心が低く、押出しがよい特長がある。
 F9Pは、やや、音の粒子は粗いが、芯が強くカッチリとした力強さがあり、これといった強調感がなく、色付けが少ないメリットをもつが、表情は抑え気味で、安定はしているものの反応の鋭さがほしい場合がある。聴感上の帯域バランスは、中域が充分にあるが、ややナローレンジ型である。

フィデリティ・リサーチ FR-101, FR-101SE, FR-5E, FR-6SE, FR-1MK2, FR-1MK3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 FRは、磁芯を使わないMC型専門メーカーとして発足し、音の細やかさ滑らかさで高い評価を得てきたが、製品にMM型を加え、改良されるにしたがって、音に厚味が加わり、力強く落着いた、完成度が高い音になってきたように感じる。
 FR1MK2は、粒立ちが細かく、滑らかに磨きこまれているために、透明度があり、柔らかく爽やかな音を聴かせる。低域のアタックは少し丸味があり、中低域は豊かでよく響くタイプである。表情はマイルドで、音にあまりコントラストをつけず、薄陽のさした風景のような感じのデリケートな滑らかさと、柔らかな響きの豊かさを兼備したクォリティの高さが魅力である。
 FR1MK3は、MK2にくらべ、中低域の響きはやや抑えられるが、音の芯が明瞭になり、軽くクリアーで爽やかな感じが出てきた。聴感上の帯域バランスは、MK2よりも一段とフラットに感じられ、低域はよくダンプされ、腰が強く明快であり、中高域から高域の粒立ちが微粒子型で芯がシッカリしており、音のディテールが見事に再生され、フレッシュで反応は早いタイプである。このタイプではとかく中域が薄くなりやすいが、MK3は中域が充実していることが大きなメリットである。表情はやや素気ない感じがあり、現代的なクールな感じと受け取れる。
 FR5Eは、全体に、音を美しくキメ細かく聴かせる特長がある。音の粒子は細かく滑らかで、音の細部を引き出して聴かせるところは、MC的なMM型といった印象がある。音像は小さくクッキリと立ち、フレッシュでイキイキとした表情がある。クォリティが高くキレイに音を表現するところは、やや女性的であり、高級コンポーネントシステムと組み合わせて使うと、見かけよりも芯がカッチリとし、鮮度が高いメリットが引き出されると思う。
 FR6SEは、FR5Eを女性的とすれば男性的な感じが強いカートリッジである。全体に、音の芯が強く線を太く表現し、適度の力感がこれをサポートし、安定感がある。低域は量感がありやや甘口だが、中低域は豊かでよく響くタイプである。音を外側からシッカりと掴み、細部にこだわらずまとめる性質は、FR5Eと対照的で面白い。
 FR101SEは、系統としてはFR6SE系の音である。低域のダンプは標準型で量感もあり、中低域に耳あたりよく響く豊かさがある。ヴォーカルは少しハスキー調となるが、まとまりはよく、現代的なクールさがある。反応は早いタイプで鮮度が高く、表情はFRのカートリッジ中もっとも若い感じだ。
 FR101は、低域は101SEより一段とソリッドになり、汚れがなく、全体に音を明快にカッチリと聴かせる。低域から中低域の腰が強く、しかも弾力性があり、エネルギー感が充分にある。とくに、この中低域は適度の甘さがあるのがよい。思い切りよくストレートな表現は、かなり魅力的である。

エクセル ES-70S/II, ES-70EX/II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ES70EX/IIは、単体の市販カートリッジとしてはローコストな、CD−4システムに使用可能な点が特長である。全体にこの種のワイドレンジタイプ共通の低域が甘口で、間接音成分をタップリとつけて鳴るが、粒立ちは細かく、汚れが少ないメリットをもっている。高域がアラくなりやすい普及型ブックシェルフスピーカーとの組合せで好結果が期待できそうだ。
 ES70S/II。低域は、ダンプされて締っており、70EX/IIとは対照的な低音である。スケール感は少なくなるが、音に活気かあり、早いテンポのプログラムソースにリズミックに乗れる点が好ましい。ヴォーカルはやや粗いが、音像がクッキリと前に出て浮かび上がり、コントラストが付くのは面白い。価格対クォリティの比も充分にある。

デンオン DL-107, DL-109R, DL-109D, DL103, DL103S

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンオンのカートリッジは、SPの頃から業務用として開発され、現在の主力製品であるDL103およびDL103Sも放送を中心とした業務用の使用がほとんどで、製品としての信頼度や安定度が高く、製品間のバラツキがないことがもっとも大きな特長である。
 DL103は、低出力MC型で、AU320トランスを使用する。このカートリッジは定評が高いモデルだけに、安定したオーソドックスな音をもっている。現在のワイドレンジ型カートリッジとくらべれば、やや音の粒子は粗く、聴感上のSN比が気になることもある。聴感上の帯域バランスはナチュラルで過不足がなく、カラリゼイションが少ないために、この音を聴くとやはり業務用の標準カートリッジらしい風格が感じられる。音の輪郭はクリアーだが、線は少し太いタイプである。性質はマジメ型で落着いた印象を受けるが、表情はやや抑えられるようだ。プログラムソースとの適応性が広く、広範囲の使用に安定した音を再生するところが、よくも悪くも特長である。
 DL103Sは、103とくらべて粒立ちが細かく、より色付けが少なく、ワイドレンジ型である。聴感上の帯域バランスは、低域が甘口で、中低域あたりにタップリと間接音成分があってよく響き、中域はやや薄めで、高域はナチュラルによく伸びている。ヴォーカルのニュアンスをよく引き出し、ピアノも少し軽い感じにはなるが、スケール感があってよく響く。音場感はDL103よりも左右に拡がり、前後方向のパースペクティブを聴かせるが、音像はさしてクッキリと前に立つタイプではない。滑らかで歪感が少ない音だが、力感や実在感は、むしろDL103のほうがよい。トランスを使わずヘッドアンプの良質なものを使ったほうが、音の密度が濃くなり、爽やかで鮮度が高い現代型の音になるようだ。最新録音のプログラムソースとワイドレンジ型スピーカーを使う場合には、DL103よりもこの103Sのほうがはるかに結果がよい。
 DL107は、主に業務用として開発されたMM型で、現在の109シリーズのベースとなったモデルである。低域はダンピングが甘く、高域が上昇しているようなバランスをもつために、音のコントラストがクッキリとつき、華やかな感じの音である。
 DL109Dは、4チャンネルシステムに使用するワイドレンジ型のモデルである。粒立ちが細かく滑らかであり、低域が少し甘口であるが、中高域に輝きがあり、ヴォーカルは細かくなるが音像がよく浮び上がり、ピアノはスケールは小さいがクリアーに響く。音場感は広い空間を感じさせるタイプで、音像はクッキリと前に立つ。全体の表情はおだやかで、クォリティもかなり高い音である。
 DL109Rは、109Dとくらべ、粒立ちは少し粗くなるが、低域の腰が強く、音に厚味があり、力強い特長がある。音の輪郭が明瞭で、クッキリと音像は前に立づ。表情が若く活気があるのは109Dより面白い。

コーラル 777E, 666EX

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 666EXは、中低域の量感が豊かで質感の表現が甘くなり、全体の印象はややウェットなタイプと感じられる。表情がおだやかなのは特長となるが、音楽がややムード的に流れる傾向があり、重い音を軽く表現する面がある。音場感はよく拡がるが、定位は明快なタイプではなく、広いホールのライブレコーディングを聴いているようだ。いま少し、アクティブな感じが欲しくなる音だ。
 777EはMC型で、T100トランスを使用した。この音は基本的にはウェット型だが、中域の粒立ちが少し粗いようで、ヴォーカルではややハスキー調となり、押出しがよく迫力がある。ただ、低域は表情が甘く、質感を重く聴かせるために、どうにも音が決まりづらい面があり、中域の特長が活かしきれないのが残念な点だ。

オーレックス C-550M, C-404X

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 C550Mは、中域の粒子が粗いようでちょっと聴きにはスッキリとした音とも受取れるが、聴感上のSN比が気になることもあり、ヴォーカルもニュアンスの再現が不足するようだ。これにくらべ、中低域あたりから低域はソフト型だが量感があって全体の音の表情を、おだやかで、耳ざわりのよいものとしている。
 C404Xは、エレクトレット・コンデンサータイプだが、低域が豊かでスケール感があり、全体の音のクォリティは高い。音の性質は素直で、プログラムソースにたいして軽くしなやかに反応を示し、表情は、しっとりとした滑らかさがあって、やや、広いホールの良い席で音楽を聴いているような印象がある。ヴォーカルは、あまり、子音を強調せず、軽くナチュラルな感じが好ましい。

オーディオクラフト AC-10E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオクラフトのカートリッジAC10Eは、全体の音の傾向として、最近同社から発売されたコントロールアンプAC3001と似た音をもっている。
 聴感上の帯域バランスは、無理がなく自然にコントロールされ、歪感がなく、おだやかで、大人っぽい印象があるのが特長である。全体に音の粒立ちは細かいタイプで、滑らかな柔らかさがあり、艶やかさもあるために、表情はおだやかである。低域から中低域にかけての質感は甘く、軽い音であるために、ビートが効いたリズミックなプログラムソースではやや不満が残るが、逆に、適度に音場感を感じさせるような適度の間接音が全体の音をフワリと包んで響くあたりはメリットと思う。音と対決して聴き込むタイプではないがマイルドな性質は好ましい感じである。

オーディオテクニカ AT-11d, AT-13d, AT-14E, AT-14Sa, AT-15E, AT-15Sa, AT-20SLa

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 AT15Eは、ソリッドで力強く、クリアーな音である。粒立ちはこのクラスの標準だが、芯が強くシッカリしているのが目立つ。帯域バランスはナチュラルで、よくコントロールされ、とくに低域がよく伸ぴ、腰が強く引き締まったソリッドな音であることが、国内製品としては珍しい。中域もエネルギーがタップリとあり、薄くならず、高域も必要にして充分な伸びがあり、無理に伸ばした感じがない。表情は、国内製品としては大きくダイナミックであり、押出しがよい。音場感は左右に拡がるがパースペクティブな引きが少なく、音像は前に出てくるタイプだ。中低域の響きがよく、雰囲気もよく出すが、性質はややドライなタイプで、男性的な割り切った魅力がある。
 AT15Saは、15Eとは同系のモデルナンバーをもつが、音的にはまったく異なった製品である。粒立ちは細かく、表情はおだやかで大人っぽさがある。低域は甘口であり、中低域はまろやかに響き、豊かさがある。ヴォーカルは子音をやや強調するが、ソフトで耳あたりよく、ピアノは暖かみがあり、適度の間接音を伴って響く。音場感はスピーカー間の奥深く後に拡がるタイプで、ゆったりと聴くためには相応しい。性質は、15Eとは対照的に、ややウェット型である。
 AT14Eは、15Eよりも粒子は粗くなり、全体の印象では軽く反応が早いキビキビした表情があり、音の鮮度が高いメリットがある。低域は腰は強いが、やや15Eよりも柔らかく量感があり安定している。中域から中高域は、明快で音にコントラストを付け、硬質なストレートな魅力となっている。感覚的にフレッシュで、割り切った音は、力感もあり、リアルで楽しい。
 AT14Saは、粒子を細かくし、線が細くなったAT14Eといってよい。低域から中低域が豊かで柔らかく、中高域は輝く感じがあり、全体の印象はワイドレンジのハイファイ型である。
 AT13dは、15や14系とは異なった、中域を重視した安定感があるバランスの音である。音色の傾向はウォームトーン系で、低域には量感があり柔らかく、中低域も充分にあるため安定感がある。中域以上はやや粒立ちが粗く、高域は適度にコントロールして抑えてある。ヴォーカルはやや大柄になり、音像の立ちかたは平均的水準だろう。適度のスケール感をもち、マクロ的に音をまとめるため、小型スピーカーシステムには適していると思う。
 AT11dは、13dよりも中低域が軽く響き、全体は適度にメリハリが効いたウォームトーン系で、トータルバランスがよく汚れが少ないため、幅広いプログラムソースをこなす特長がある。強調感が少なく、音像はナチュラルに立つタイプだ。
 AT20SLaは、AT15Eのグレイドアップモデルといった音で、低域が締まり、音の芯が強く、充分に洗練された高いクォリティをもっている。音像はクリアーに立ち、音に透明感があり、爽やかで明るい。

「カートリッジ・ヒアリングテストの方法」

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 まずシェルにカートリッジを取付け確かめる。次に、アームに着装する。水平バランスをとる。針圧を適正値に調整する。インサイドフォースをたしかめる。場合によって、ラテラルバランスをたしかめる。高さを調節して、カートリッジがレコード面に対し、正しく水平位置を保ち、針先の垂直角がほぼ適正状態にあることをたしかめる。
 以上の事をカートリッジひとつひとつ毎に適確に行わなければならない。少なくともこれだけの手順を、手ぬかりなく果さなければ、カートリッジの音質うんぬんすることはできないことになる。
 ざっと計算して、ひとつ当り3分間として123個、計369分つまり、音以外の純粋な付帯雑務時間をひきりなしに続けたとして、なんと6時間! つまり、隠れたる苦労が大きかった。

試聴に使用した装置
 プレーヤーとして、マイクロのDDX1000、それにアームが同じマイクロのダイナミックバランス型MA505、FRの同じダイナミックバランスの最新型FR64の組合せをメインとした。トーレンスの125と、オルトフォンのアームRMG212の組合せは初め使っていたが、どうも横ゆれに敏感で、ハウリングは少ないがかえって使いにくくて、途中から、さけることが多くなってしまった。ビクターのTT81をターンテーブルとしたプレーヤーはクィック・スタート、クィック・ストップができ驚く程便利であった。これは使ってみないとなかなかわかるものではないが、新しい現代的プレーヤーの持つべき条件だろう。クォーツ・ロックが内部的特長ならクィック・ストップは実用的外面要素だ。
 カートリッジと、それに組み合わせるべきアームの関係は、数多い問題を内蔵する。軽針圧カートリッジが軽針圧用アームに最適といわれてきた根拠も定かでないし、確かめにくい。少なくとも現代では、軽針圧カートリッジにもっとガッチリした、いわゆる汎用アームのほうが音質的にも、特に低音に対して好ましいというのが常識でさえある。もっとも、アームは水平方向も垂直方向もきわめて高感度であることは、最低条件として当然なことだが。ここで用いたアームは、そうした意味ですべて、アーム自体が堅固といえる程にガッチリしたものを選んだ。
 音質評価のきめ手の、特に重要な部分として「スピーカー」の選定は、難かしい。ここで用いたのは、普段そぱにおいて、使いなれ、よく知りつくしているのが理由だ。アルテックの604−8Gだ。620Aという大型の箱をあたえられて、低域をずっと伸ばし、音質チェックの上で一段とよくなっている。ドライブアンプは、マランツの510だ。理由はいまさら特にいうまでもないだろう。
 プリアンプとしては、クワドエイトのLM6200Rで、むろん、トーンコントロール、フィルター等のたぐいは一切ない。
 もうひとつのスピーカーシステムを、このラインナップに加えている。これは、ごく小さなブックシェルフ型の自作のシステムで、アルテックの12cmフルレンジ・405Aをたったひとつ収めたものだ。これは、至近距離1mほどにおいて、ステレオ音像のチェックに用いたものだ。いうなればヘッドフォン的使用方法だ。シングルコーンの405Aも、コアキシャル604−8Gもともに音源としてワンスポットなのでこの点からいえば大差ないはずともいえなくはないのだが、実際は好ましかるべきマルチセラーの高音輻射より405Aの方が音像をずっとはっきりと判断できるのは、多分、単一振動板だからだろう。単純なものは必ず純粋に「良い」のをここで知らされる。それにも拘らず604をメインとしたのは、音質判断上もっとも問題とされてしまう音色バランスの判断のためである。
 セカンドシステムは、まったく別の部屋にあって、メインシステムのように音をチェックするというのではなく、もっと総合的に、音楽を確めるといったかたちで、役立たせた。
 少なくとも、SPのリカット盤や、ステレオ初期の録音盤などでは、第一システムでたとえ評価が落ちたとしても、この第二システムでまったく逆にもっとも好ましい結果を得ることが常であった。評価が逆転するということは、ある面で不合理だが確かな事実だ。
 スピーカーは、JBLハーツフィールド、38cmの今はなきウーファー150−4Cと375+537−509(現在のHL89)との2ウェイで、低音域はホーンロードで今回の水準からすると決して広帯域ではないが、ブックシェルフにない、音の生命力が強く感じられる。ドライブアンプは、マランツのモデル2とマッキントッシュのMC30で、ともに管球アンプとしてHi-Fi初期の名うての高級品である。プリアンプは、マランツのこれも管球式のモデル7。
 プレーヤーには、第一システムと同じマイクロのDDX1000とFR64の組合せと、デンオンのDP5000Fシステムの2系統を使用した。
 このようにして、ふたつのまったく違った部屋で聴いたことには大きな意味があることを知って欲しい。その意味というのは、第一システムのラインナップと第二システムのラインナップの大きな違いにあり、ひとつはまったくのプロフェッショナル・モニター系のシステムであり、一方は、まったく家庭用のハイファイシステムであるという点だ。
 この場合、プレーヤーシステムを変えてしまっては音の判定がますます混乱することになるので、共通としたことはいうまでもない。ここで再びアームについて解説を加えると、今回使ったそのほとんどがダイナミックバランス型をとっていることだ。今日の実際的なレコードのコンディションを考えると、ダイナミックバランス型が良いと言い切ってもよい。ただし、こうしたテストの場合に考えられるいくつかの落し穴をカバーするために優れたスタティックバランス型アームをも2本使用している。

使用レコード
 今回の、この膨大な数にのぼるカートリッジのヒアリングテストに使われたレコードは、ジャズおよびロック系を中心としたもので、ジャズは、新しいものとステレオ初期とモノーラルの50年代初期のものと、さらに40年代以前の古い録音との4種類を選んだ。
 最新録音盤は、周波数特性とかスペクトラム的な判断に価値があったとしても、ステレオ感となるとかえって作為的で、良さの判断にはつながらず、苦労の種でしかない。ステレオ初期のレコードはこの点正直だ。50年代のジャズレコードのもつ特色は、そのまま「ジャズサウンドは、いかにあるべきか」を端的に示して、再生音楽におけるジャズ的視点を定めるのに好適といえる。古い録音のナローバンドのSN比の悪いSPリカット盤は、音楽以外の雑音や歪がどれだけ抑えられ、音楽を楽しむのに邪魔されずにすむか、を確かめるのに役立つ。現代的な意味で音の良いカートリッジが必ずしも雑音を抑えてくれるとは限らず歪も目立つ。
 ロックの場合、電気楽器の粘っこいサウンドが、大きいエネルギーで他の音を圧して中声域の混変調を起して歪のもととなりやすく、これは他の音楽にはないサウンド的な特徴で、それを確かめるのは今日の音楽ファンに対するせめてもの心がけといえようか。
 選ばれたレコードが物理的な意味で必ずしもベストのものでないことに、あるいは不満をいだく方もあろう。しかし音楽とは所詮物理的技術的結果ではなく純粋に芸術であり、それが再生音楽だとしても、受けとめているのは人間の芸術的感覚である。つまりレコードといえども厳然たる事実として「音楽」であることは誰しも認めるだろう。使ったレコードは以下の通り。
●パブロ(英国盤) エリントン/レイ・ブラウン 「ワン・フォー・ザ・デューク」
●ブルーノート(アメリカ盤) ヴィレッジヴァンガードのソニー・ロリンズ
●マーキュリー(アメリカ盤) クリフォード・ブラウン/マックス・ローチ 「イン・コンサート」
●アメリカ・コロムビア盤 チャーリー・クリスチャン 「ソロ・フライト」
●ローリングズトーン 「プルー&グレー」 ローリング・ストーンズ

ビクター Z-1E, Z-1, X-1

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 かのフロアー型バックローディングホーンスピーカーFB5の発表で口火を切って以来、独特なスタイリングをもったセパレートアンプ、デジタルカウンターをもったクォーツロック・ダイレクトドライブターンテーブルなど、最近のオーディオ界の中でビクターの名が話題に昇ることは非常に多い。つまり製品開発の成果が、それだけ成功をおさめているともいえるのだ。その成功の中にあるビクターの最新型カートリッジは、驚異的な新技術こそもたないのは当然ながら、新型アームとともに、音を追求する高級オーディオマニアにとっては注目に値する製品だということができる。つまり新型アーム、新型カートリッジの機構そのものが、とくに良いということよりも、実際に音を出したときに、その良さを知ることができる。こうした音の良さは、最終的にターンテーブルやトーンアームを実際にアッセンブルしたときに気がつくことであり、コンビネーションの良さということができよう。
 Z1Eは、まずその力強さをもった明るい音色で、圧倒的な迫力を感じさせてくれる。ダイレクトカッティングの明解さを充分に感じさせてくれる音だが、細部の再現性については、いくらか不満が残る。ステレオ感も全体的に表現して、細かな定位感については聴きとりにくいのが欠点といえる。
 Z1は、1Eでの問題点が大幅に改善され聴感上、相当な広帯域感が得られる。左右前後の広がりも大幅に改善され、音像の再現性は1Eよりもかなり良くなっている。全体の音色は、やはり1Eに似ているが高域でのクォリティは、こちらの方が数段向上している。雑音に対しては1Eよりも気になる傾向があり、針圧の可変範囲もよりシビアになる。
 ビクターの最高級モデルであるX1は、まず音の立上りの良さが一番の特徴だ。ダイレクトカッティングの良さと、スクラッチの抜けの良さは、とくに感じられた長所といえる。全帯域にわたって鮮明で明解な音を聴かせるが、ピアニシモにおける音のディテールの再現においてやや誇張される傾向があることに気がつく。ステレオ感の再現、定位の確さは、さすがに高級カートリッジらしい良さだ。

テクニクス EPC-270C-II, EPC-405C, EPC-205C-IIS, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 日本のダイレクトドライブターンテーブルのパイオニアとして、テクニクスの海外での人気は、非常に高く、国内においてもSP10MkIIの発表以来、他のDDターンテーブルにまた一段と差をつけた感がある。こうした技術指向の非常に高いテクニクスは、カートリッジにおいても、新素材・新技術に積極的にとり組んだ製品が数多く、他社との製品の差もそこにあるのが大きな特徴だ。
 テクニクスのカートリッジは、昭和43年に発表されたテクニクス200C以来、独特の円盤状マグネットとワンポイント・サスペンション方式が採用されている。マグネットはエネルギー積の大きいサマリウムコバルトが使われている。テクニクスのカートリッジといえば、205C/IIシリーズに代表されるといってもよいかもしれない。205C/IIシリーズは、最近ローインピーダンス型(250Ω・1kHz)の205C/IILと、高出力型(7mV・1kHz、5cm/sec)の205C/IIHとが加わった。さらに、205C/IIもマイナーチェンジされて205C/IISに発展している。
 270Cは、テクニクスカートリッジの中でも、もっとも普及型といえる価格で、耳あたりの良い好ましいバランスをもったものだ。高域での微妙な音のニュアンスは、普及型とはいえ充分に再現してくれる点が魅力といえる。ただし、低域の量感やエネルギー感は残念ながら今ひとつ物足りなさを感じてしまう。
 405Cは、チタンカンチレバーを採用したテクニクスの高級仕様を狙った意欲作といえるものだ。全体に強く抑え込んだフラットレスポンスの特性が頭に浮かぶような、ワイドレンジ感をもたせる音だ。ただし高域にいくにしたがってエネルギー感が増し、結果として低域の量感の乏しさを感じさせてしまう。こうした印象は、どうもテクニクスのカートリッジ全般について感じられてしまう大きな特徴のようだ。この405Cのもっているそうした音の印象は、音楽を無機的な表現にしてしまい、聴き手との間に距離感をもたせることになってしまう。音楽の中に飛び込んでいくような音というよりも、融け込むことを拒否するような印象を受けてしまう傾向がありはしないだろうか。
 205C/IISは、405の実用機種ともいうべき性質で出されたカートリッジ。実用的な意味での使いやすさから出力も標準的なもので405Cに比べて、その音はいくらかおとなしいといえる。405Cが音質チェック向きとすれば、こちらの方が一般的といえそうだ。
 205C/IILは、テクニクスの中でも405Cともっとも似た性質をもち、フラットな広帯域感が強く感じられる。405Cよりもいくらかナチュラルで無機的な印象は多少是正されている。205C/IIHは、本質的な音は、これまでのテクニクスと変らないが、中域から低域にかけての音が充実し、ソロ楽器も比較的よく出る。ステレオ感も充分だ。

スペックス SD-909

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスは、古くからMC型のみを製品化してきたという長いキャリアをもちながらも、その名は一部のマニアだけに知られている程度であった。その生産数もメジャーにくらべると日産にして数十個と少ない。もっともスペックスは海外での人気の方が高く、特にアメリカでは、このところMC型カートリッジがもてはやされているようだが、その先鞭をつけたのは、ほかならぬこのスペックスだ。
 SD909は、一言でいうとオルトフォンばりの低音感、高音のブライトネスをもつといえよう。全体に昔のオルトフォンのイメージに似た力強さも感じさせてくれる。しかも帯域は、比較的広くとられ、スクラッチも少ない点で良いといえる。音像の定位は良いのだが、左右、前後の音の拡がりは普通だ。
 MM型のように、周波数によってあやふやな表現をすることがなく、いかにも高級品らしさをもっている。日本製品には珍しく音の特徴をはっきりともち、海外製品と間違えるようなキャラクターをもっている。それだけに嫌われる要素ともなるかもしれない。

ソニー XL-15, XL-25, XL-35, XL-45

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 一口に言ってハイエンドもローエンドもいかにもよく伸びた印象を与える。オーディオ界の中でもとくに現代指向の強いもので、それがわりあい明るいサウンドであるところにソニーらしい、若いファンを充分に意識している姿勢を感じ取ることができよう。
 XL45は、ラインコンタクト針、45Eは楕円針で、それぞれきわめて安定したトレース特性は国産カートリッジの中でも最上のひとつだ。あまりデリケートな扱いをしなくても、かなり優れたトレースを安定にやってのける。鮮明というほど鮮やかというわけではないが、音のディテールはかなり良くとらえて、しかもその内側の緻密さや力感も不足なく出してくる。ステレオ音像のたたずまいも、その後のバックグラウンドの部分もそれなりに感じさせてくれる。広がりの安定性もしっかりしていて安心させてくれる。
 XL35は、充分な力感をもち、明るいサウンドが身上といえる。くっきりとした音の表現は全体のバランスからみても、相当高いクォリティをもっている感じがある。XL45に比べるとまとまりとしては、この35の方にも充分良さをもっていることがわかる。ソニーの中では、このXL35がもっとも売れる製品なのではないかとさえ思わせる。
 XL25は、もっとも最近になってから出された機種ともいえるので、音はどちらかといえば、ソニーの、この一連のXLシリーズの特長でもある明るいパステルカラーのような音を再現してくれる。それほど広帯域をカバーしているわけではないが、中域にエネルギーをもったサウンドは全体のまとまりを良く感じさせる。
 XL15は、ソニーの中でのもっとも普及価格の商品として、決して単なるローコスト商品に終らぬ良さをもったカートリッジといえる。なによりも音楽のメリハリを充分に出してくれる点は、このクラスのカートリッジにとっては重要なことだ。音のクォリティよりも、初心者にとって大切な音楽の表情をそれなりに表現するのがよい。

ソノボックス SX-3E

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソノボックスは、モノーラル時代からのオーディオファンならば、一度はその名を聞いたことのある永いキャリアと名声をもつメーカーだといえる。かつてはMC型に主力をそそいでいた感じだったが、このSX3EはMM型のカートリッジだ。マグネットは一般的な棒状ではなく、同社が日、米に特許をもつ球状のもので、エネルギー積の大きいサマリウムコバルト・マグネットを採用している。
 このSX3Eは、いかにも現代的な、広帯域カートリッジを目指している。サウンドイメージの上では、バランスもよく、聴きやすい感じをもたせている。このカートリッジの魅力は、小編成器楽曲などの中低域が充実していて不要成分を抑えたと思える聴きやすさにあるといえる。つまり全体的にはナローレンジの感じを聴く者に与えるのだが、その帯域内の音の充実さという点で良い。
 ステレオ音場の広がりは、あまり良くないのだが、自然な感じは損なわれず、他のカートリッジにはない独得なステレオ音像を再現してくれる点は、さすがにキャリアを感じさせる。

サテン M-117E, M-117X, M-18E, M-18X, M-18BX

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ムービング・コイル型としてはほかにない針先交換可能という、オリジナル指向をそなえたサテンの製品は、現在M117シリーズとM18シリーズの2系列にまとめられている。そして、これらの全製品は、振動系支点を明確にするために、板バネ2枚とテンションワイヤー1本とにより、厳密に一点化する機構が採用されている。この技術は明らかに音の上にも感じられ、MC型特有の、ごく澄んだ力強い音色で、密度の濃さからは独特の気品高い雰囲気に包まれる。
 それは、まさに優雅というにふさわしく、すき透った薄衣をまとったような品の良さをかもし出している。サテンというブランド名はそのまま高級な布地のきぬずれを思わせる。このサテンのピックアップの歴史は、かなり古く、モノーラル時代からのメーカーだが、Mシリーズの一連のMC型カートリッジにより、振動系の中からゴムを追放するという大きな技術テーマに取組み、現在では、その技術指向もいきつくところまで行ってしまった感さえある。こうした独特の技術指向を、おそらく気の遠くなるほど永い期間追い求めていく姿勢は、日本ではまったく珍しいといえるだろうし、現実に、研究の成果は着々と実を結んでいるといってよいだろう。
 M117Eは、まずこれまでのサテンにあったような針先のきゃしゃな感じがなくなり、扱いやすくなっているのが特徴だ。音も若いファンを意識した、立上りの良い鮮やかな音に仕上げている。色彩感も強く出し、ときとして高域のどぎつささえも感じられる。ただ、今までのもっていたサテンの一種の派手さとは種類が違って、図太いと感じさせる一面も持っている。117Xは、全体のバランスとしては、Eと驚くほどの差はないが、Eタイプで時々気になる高域の色づけが、抑えられていることが大きなメリットといえるだろう。
 M18シリーズは、ダイナミックレンジのきわめて広いレコードに対しても、そのディテールの再現性において優れ、デリケートな音に対しては絶妙にレスポンスすることができる特徴が大きくクローズアップされてくる。
 このM18シリーズの中でも、もっとも価格の安いM18Eは、全体におとなしくまとめられてはいるが、力強さに欠けるところもあり、全体に音の厚みが不足しているのが気になる。どうも、もうひとつサウンドイメージがひ弱になってしまうのだ。それに比べてM18Xは中域の厚みが増し、これまでのサテンになかったエネルギー感をもった音を再現する。ステレオ感の再現にしても好ましい音像をつくり、前後感も充分に再現しているところは、やはり高級機らしい。ただし高域については、ブラスがやや必要以上に輝くのが気になるところだ。
 ベリリュウムカンチレバーを採用したM18BXは、サテンのこれまでの技術的キャリアを一度に昇華させた意欲作といえるが、とにかく驚くべきことは、これまでのどのタイプの、どのメーカーのカートリッジにもなかった再生音を聴かせ、その音は、まさに超高忠実度再生といえるものであることに異論を唱える者はおそらく非常に少ないだろう。何といっても、そのダイナミックレンジは、これまでの数倍はあるように感じられ、それが再生音であることを忘れさせてしまうかのようだ。ただ、それがいかにもダイナミックレンジの良さを感じさせ、周波数帯域の広さ、を感じさせてしまい、結局、音楽を聴くことに集中できない人も出てくるようなことが起る可能性は十分にあるところだけが気になる。

パイオニア PC-330/II, PC-550E/II, PC-1000/II

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオの総合的メーカーとしてのパイオニアは、この十数年来、プレーヤーにおいても見事な腕前をふるってきた。本来の専門分野でないのに定評ある企画力のうまさは、プレーヤーシステムでも個々の製品に発揮されてきた。
 ただ、この場合、不思議なことに、プレーヤーのもっとも重要パーツともいえるカートリッジには、良いものはまったくなかったのだ。これは驚くべき事実といえよう。ただのひとつでも評判を得たことはないのに、プレーヤーは売れ続けていたのだから。
 しかし、地道だが試行錯誤のあと、昨年PC1000が発表された。このカートリッジは、メーカーにとって待望のものだったに違いない。パイオニアのカートリッジが初めて絶賛を博したのだ。
 ベリリウム・テーパードパイプという、まだ当時どこのメーカーもなし得なかった技術によるが故に、量産は決して容易なことではなく、だからその良さは、必ずしも多く知られていたわけではないが、このカートリッジに接した者の間で深く静かに評価されているといった風である。
 このPC1000も発表以来一年を経て早くもII型にマイナーチェンジされた。
 鮮やか過ぎるといわれることのあったサウンドイメージをすっかり改め、暖かみさえも感じられるほどで、たとえばヴォーカルの自然な響きに飛躍的な向上を知らされる。一般にこの種の新素材を用いた新しい製品では、新しいサウンド志向を示して、鮮明なクリアーな積極的な音を特徴とする。このPC1000/IIも例外ではなく、そうした傾向のサウンドには違いないが、ごく高い品質レベルでそれらが達成されており、いかにも高級品たる深い陰影を伴っているのがすばらしい。
 PC550/IIは、PC1000/IIをそのままスケールダウンしたような音で、妙にこせこせとしたところがなく、ステレオ感の再現性も充分にもつ。各部分の細かなニュアンスはトップ機種にゆずるが、落ちついた音を感じさせる。
 PC330/IIは、とくにハイファイと感じさせない自然な感じをもたせているが、その低域については好感がもてる。ステレオ音像の再現も極端にくずれることがなく、入門者には使い易い。

ダイナベクター OMC-38 15AQ, OMC-38 15BQ

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オンライフは、オリジナリティを充分にもった管球式セパレートアンプや、最近発表したセンセーショナルな近代的トーンアームなど、新しい技術をもった日本には珍しいオリジナリティを大切にするメーカーだ。
 オンライフのカートリッジは、すべてMC型で、OMC38ダイナベクターシリーズとして、15A、15AQ、15B、15BQの四つの製品がある。ボディは赤い透明なプラスティック製で、内部構造の様子が伺い知ることができるのが特長だ。MC型ながらMM型とほとんど変わらぬ高出力で使いやすさを大切にしているのは、マニアにとってはありがたい。
 今回試聴した製品は、全体に緻密な音で、エネルギー感も充分にもち、とくに打楽器に対してはMC型の中でも群を抜く再生をする。もちろんトレース能力も安定している。ベリリウムカンチレバーをもったOMC38/15BQは、ときとしてデリケートな音の再現で、オーバーに感じられることがあるのだが、15AQは、BQに比べるとソフトな聴き易さをもち、より自然だ。一般的なMC型に比べれば、鮮明度は充分高い。

マイクロ PLUS-1, LM-20, LC-40

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 カートリッジメーカーの老舗として、まじめなオーディオマニアにとって人気のあるマイクロは、最近こそターンテーブルとアームによってその名を高めているが、VF型を始めとするカートリッジの分野では、非常に長いキャリアをもっている。現在のところ、カートリッジは機種数こそ少ないが、いかにも正直な商品だけを作り続けるまじめなメーカーとしての姿勢は、非常に好感がもてる。事実、その製品によって裏切られることも少なく、信頼度という点からも充分に満足が得られる商品をもっているのもうれしい。
 マイクロのカートリッジは、そうしたいかにもまじめな姿勢が感じられる色づけの少なさが特徴といえるだろう。単独商品としてもっとも安価のひとつが、このプラス1である。またその反面商品の中で高価かつMM型でありながら受注生産品というLM20およびMC型のLC40と、こうみると、超高級マニアと初級ファンの両極に意欲的な姿勢を、マイクロの中に見ることができよう。かつては、永い期間、プレーヤーの重要パーツとしてのカートリッジを作ってきたキャリアがあるマイクロが、技術蓄積を活かして、普及品でもバラツキを抑えた高級仕様を推進している。受注の数少ない高級品は、仕様も規格も他社より格段に厳格であることはいうまでもない。
 プラス1は、その力強く弾むようなサウンドと低域での量感とが大きな特徴だ。高出力で使いやすく、ステレオ感も適度に広く、高域のレンジもやたらに伸ばすことをせず適度な拡がりをもち、いかにも入門者向きの製品だ。価格からすれば、このトレース能力の安定感も抜群で、針圧の許容範囲も大きく扱いやすい。針先の動きが中域で充分ではないのが普及品の共通点だが、このプラス1ではそれも巧みに収めてある。
 LM20の方は、より軽針圧を目指した手作りの高級品であり、個々の特性がついている。MM型カートリッジが次々と出る中にあって、このLM20はかなり保守的な姿勢で作られている。サウンドは、全体に静かで、くせをまったく感じさせない。品の良さが少々過ぎるかと思えるほどだ。沈みがちの音であるが全体にスッキリしすぎて、そっ気ないくらいである点が判断の別れ目になりそうだ。LC40は、MC型としてはトレース能力が良く、全体にMC型特有のともすれば骨太になる音を、見事に抑えた素直な音をもっている。ステレオ感も端正で広がりもよい。

Lo-D MT-202E

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ギャザードエッジスピーカーやダイナハーモニーという、新技術指向の非常に強い、そしてその成果が充分に認められつつあるLo-Dから出されているのが、このMT202Eだ。いかにも高級カートリッジらしい広帯域感が強く感じられ、全体の周波数特性の抑えがよく利いている印象を受ける。
 こうした高級カートリッジのもっとも大きな特徴である、スクラッチを充分に抑えた感じや、周波数特性をフラットにした感じを充分にもっている反面、高域の再生においてとぎすまされたような冷たさを感じさせるところもある。全体にやや無機的な音になる点も気になるところだ。ステレオ音場の再現性は良く、針圧印加の許容範囲も比較的良いといえる。使いやすく、性能的には文句ないところだが、いかにも高価格だ。

ジュエルトーン JT-333, JT-555

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ジュエルトーンは、一般的にはこれまでその名をあまり聞かなかった新しいブランド名だが、そのキャリアは、比較的永い。
 ここでとり挙げているJT333、JT555は、ともにソリッドブラックと呼ばれるカーボン繊維を使用したカンチレバーが使われているのが特徴だ。
 このふたつのカートリッジに共通していえることは、全体的に広帯域を目指しているのだが、中域のある部分で機械的な共振と思われる部分があるという点だ。
 音の傾向として、JT555はウォームトーンであり、音像はふやけ気味な点が気になるところといえよう。それに対してJT333は、クリヤートーンといえる。両者とも全体に広帯域であるという感じはするが、高域に少々ヒステリックな一面をもつ。

グレース F-8L, F-8M, F-8C, F-8E, F-8L’10, F-9U, F-9L, F-9P, F-9E

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 この数年来、F8シリーズの大ヒットで、他社を寄せつけなかったほどの成果を上げてきた。F8Lから始まって、ごく最近製品のF8L’10によっても判る通り、今もこのF8シリーズはグレースの主力製品といえる。こうした同一製品に対して、交換針だけでそのサウンド指向を多数そろえるという今日的な商品構成法も、実はこのグレースのF8シリーズがその源となったわけだ。
 F8シリーズは全体に繊細感がその品位の高さを示し、その上、高帯域かつ透明なすがすがしさを強く印象づけられる。F8シリーズF8Lはそのすなおさがもっともはっきりと感じられる。
 F8Mは高出力型で力強さと高域・低域での充実感においてもはっきりと違い、広帯域感はおさえエネルギー感を考慮したのが特長で、小編成器楽曲にはむいている。
 F8CはF8ボディの特選ボディと特殊針先との組合せで、素直さにもっとも品のよい緻密なサウンドを得ている。きわ立ちのよい輝やかしい音。ステレオの音像の確かさと拡がりも、このF8シリーズ中もっともよい。
 F8Eは、ラインコンタクト型の針をつけた高級仕様といえるが、出力はやや低目でその代りに大へん広いハイエンドを感じさせ、新しいレコードでは針音(スクラッチ)が一段と耳ざわりにならぬが逆にイージーなレコードではチリチリと目立ってくる感じ。
 F8L’10は、この一年来、めっきり多くなったライバルを意識しての改良型としてデビュー。出力をやや大きくして、中域から低域へかけての充実感、器楽曲で今までF8にはなかった躍動感が付いてきた。
 F9シリーズはF8から飛躍して一層の軽針圧化と、今までの高域での細身なサウンドを突破ろうと試みた音作りへ積極的姿勢をはっきりと感じる。しかし、そのためのよりフラットレスポンスへの技術を、音へ移すのにあまりストレートであったためか、音のデリケートなニュアンスの違いを表現すべきところまでつぶしてしまったようだ。
 F9Uは最新作で、広汎な用途に適すると思われ、F9シリーズ中の標準品。もっともスッキリした音と広帯域感。ややおとなしく、中域の充実感はこのUよりもLが強く感じられる。針圧の融通性も高く使いやすい。
 F9Lは価格的に前者よりやや高価だが、音の方は中域から高域でやや派手なイメージを抱くのが意外。こちらの方が一年ほどデビューが早い。
 F9Pは円錐針の中針圧型。他の2倍といっても2・5g。さすが針圧は3gでもまた2gでもトレースOKで使いやすい。ステレオ感はやや狭まるが音像の安定はごく優れ、トーレス性も抜群。低音のどっしりした安定感が大きな魅力。
 F9Eはごく高価だが、広帯域感の十分なスッキリした自然さ。ステレオの拡がりの良さ。少々デリケートな針圧とゴミなどのついているのに対してトレースは不安定。

フィデリティ・リサーチ FR-101, FR-101SE, FR-5E, FR-6SE, FR-1MK2, FR-1MK3

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 高級カートリッジを唱えてスタートしたFRは、国内カートリッジメーカーの中でも、もっとも密度の濃い製品を作り、オリジナル技術を常に目指す意欲的なメーカーだ。あらゆる面で製品は、必ず他社にさきがけ、あるいは、他社をよけつけぬオリジナリティをもつ。それはMC型カートリッジにしても、あるいはライバルの多いMM型にしても、はっきりした特徴をもっている。最近の製品FR101は高品質低価格を目指した意欲的製品だ。この小さな専門メーカーが品質と量産とをいかに妥協するかが101の見どころだが、音の上からは確めにくい。やや中域のはなやかさと、積極的な音というのが第一印象だが、細かくつき正すと、結構広帯域かつ緻密な音だが、これに低域のひきしまった量感が加われば申し分ない。高出力であるのも、低価格であるとともに、ビギナーにすすめたくなる大きな理由だ。一段と高級な101SEは、音の分解能の点で一段と向上してアンサンブルの中の楽器の音像のきわだちが感じられる。FR5Eは、このメーカーの最初のMM型だ。トレースの安定性に、ちょっとばかり不足をかこってはいるが、それにしても、FRの透明なサウンドの特徴がはっきり出ていて、やや冷いその音は小編成の器楽曲やジャズには特にいい。
 FR6SEはFR6の向上型だが初期から格段に進歩して、もはや初期のおもかげがないくらいに現代的な傑作となっている。FRのいかにも透明なサウンドに、ますます磨きがかかり、その上、力強さも一層加わって、MM型ながらMC型に近いということば通りに器楽曲で、アタックや響きが鮮やかだ。歌やステージの歌劇など、つまり自然な発声とアリア風な発声の両面の歌に対して、大へんナチュラルな響きを感じとる。
 FRのMM型はただひとつのウィークポイントがあるようだ。それはトレースの対許容性ともいえるもので針圧にクリティカルな面がある。それもトレースそのものはかなり適応性があって20%やそこらの±に対しても、一向に差支えないのだが、針先の傷み方、あるいは針先がもぐってしまうトラブルを、過針圧によって起しやすい、といったらよいだろう。
 MM型でもトレーシングの優れているといわれるものにしばしばみられるこの現象にFRファンも気をつけねばなるまい。音の素質自体がよいだけに、愛用者からの忠告でもある。
 FR1はFRのオリジナル技術ともいえるMC型カートリッジの第一号製品だ。初期製品に比べてトレース力は抜群に向上し、針先も頑丈になり、音もずっとすなおに、しかもクリアーさも失わず、音の方は力強くなった。MK2は特にトレース特性が向上して、針先の損傷も今までの心配がうそのようだ。ただMC型特有の力強さがFRのMCにはなかったが、最近のMK3に至って静かななかに力強さもはっきりと感じられる。
 透明ということばに冷たさがつきまとうがMK3は冷たくなくて、かえって暖かみがある。節度のある折目正しい音という品位の高い、仕上し尽くされた感じの音だ。時々オーケストラなどにおいて、ふと、キャシャなもろさが出ることがなければ世界でも一級だ。

エクセル ES-70S/II, ES-70EX/II

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 市販品中でもっとも安い価格のカートリッジを作るメーカーとして、エクセルの名はとくに初級者にとって親しみがあるかもしれない。プレーヤーを単体で買ったユーザーは、おそらく最初にカートリッジを買うときにこうしたクラスを狙うであろうし、そうしたときに、少なくとも支払った金額だけのバランスだけはかなり良いが、とくに広帯域ということでもなく、中級ないしは普及製品にあるような音の細やかな変化が、そのまま表現できないというところがいつわらざるところだ。
 ちょっと聴いて、くっきりしているようなイメージを受けるが、それはあくまで音溝の音に比例しているわけではなく、とりこぼしがあるのは、高級カートリッジをつければわかる。高域での帯域をやや伸ばしたEXはCD−4対応型だが、出力がへって高域のかがやきがかえって薄くなりシンバルのあつみも物足りない。