井上卓也
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
エンパイアのカートリッジは、発電方式に独得なマグネチックタイプのMI型を採用していることが特長である。音の傾向は、普及モデルから、高級モデルまでかなりの変化を見せるが、トータルバランスが優れ、洗練された都会的な感覚が共通の魅力である。
4000D/IIIは、粒立ちが滑らかで細かく、聴感上の周波数レスポンスが充分に伸び切っていながら、あまり中域の薄くならないのが特長である。音の傾向は、軽く艶やかで、陰影が色濃く、グラデーションの微妙な変化を見事に表現する。ヴォーカルはバックとのコントラストがナチュラルにつき、ピアノはまろやかで艶めいて響く。他のカートリッジよりも楽器の数が多くなったような多彩な音色があり、ハーモニーがとりわけて美しく感じられる。音場感は広い空間を感じさせるように拡がり、パースペクティブな感じや、音像の立ちかたが自然である。
4000D/Iは、D/IIIよりもかなり粒立ちが粗く、SN比が気になる、音の傾向は、コントラストがついたメリハリ型で、線は太く、ちょっと聴きには粒立ちがよく聴けるタイプである。性質は、かなり、カラリと開放的だが適度の抑えがきいて、伸びやかな明るさがある。若い未完成の魅力があり、マクロ的に音をまとめるメリットをもつ。
2000Zは、最新のモデルで、かつての1000ZE/Xを継ぐ位置にある製品と思われる。粒立ちは細かくシャープであり、クールな感じのストレートな音である。トータルなバランスや音色はエンパイアであるが、スッキリと切れ込む音に、フレッシュで爽やかな印象がある。帯域バランスはこのクラスとしては平均的と思うが、中域のエネルギーがかなり強く押出しはよいが、ドライな感じが特長である。音場感は、スッキリと拡がり、音像もシャープにクッキリと定位する。現代のカートリッジらしい割切った小気味がよい音だが、エンパイアの高級モデルにある独得な完成度が高く洗練された雰囲気や味わいは、かなり薄らいだようだ。2000シリーズの他のモデルとも異なった、新しい傾向の音であることが面白い。
2000E/IIIは、落着いた、おだやかな感じの音をもっている。音の傾向はウォームトーン系で、帯域バランスはよくコントロールされていて、高域・低域ともに過不足はなく、両サイドはなだらかにレスポンスが下降しているように聴かれる。低域は甘口で柔らかく、中低域に間接音成分が多い豊かな響きがあり、中域以上はさして粒立ちの細やかさはないが、磨かれている感じがあり、ソフトで耳あたりがよく、カラリゼーションは少ないタイプである。ヴォーカルは大柄になり音像が大きく、表情は甘くなり、大味である。全体のまとまりは優れるが音の鮮度は落ちる。
2000Eは、E/IIIよりも音色が軽く、やや乾いた感じがある。帯域バランスは低域がある程度のところからシャープにカットされた感じがあり、中低域は軽く響き、中域以上は粗粒子だが硬くはならない。価格を考えるとE/IIIよりも魅力的である。
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