Tag Archives: 2000

ワディア System 2000(WT2000 + 2000SH)

菅野沖彦

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 DSPによるデコーディングコンピューターでCD再生に大きな反響を呼んでいるワディア・デジタル・コーポレーション。ウィスコンシン州ハドソン市にあるこのコンピュータ技術集団は、現在までに俗にD/Aコンバーターと呼ばれるデジタルプロセッサーだけを作ってきた。同じDSPによるデジタル/アナログのプロセッサーを作るクレルが、CDプレーヤーとしてディスクトランスポートも同時に発売したのとは対照的だ。それは、クレルがオーディオメーカーを母体としてスタートしたのに対して、ワディアの方はコンピューター技術集団を母体としていることによる。デジタルテクノロジーというハイテクノロジーの産物であるCDプレーヤーだが、その実、プレーヤーのメカニズムの音への影響は大きく、ディスクトランスポートの諸々の機械特性は年々重要視されている。つまり、ある意味では、ローテクといってもよいオーソドックスなメカニズムをおろそかにしてハイテクのエレクトロニクスだけに頼っていては高品位な音の再生は難しいことがわかってきたわけだ。したがって、エレクトロニクスに並はずれた高度な技術をもって臨んだワディアとしては、それにバランスしたクォリティのメカニズムを作る体質が自社に備わっていないことを十分知っての上の慎重さであったと私は見ていた。ワディアのハイテクは今さら説明するまでもないが、〝フレンチカーブ〟と称する独特のデコーディングアルゴリズムのソフトウェアで駆動される高精度コンピューターによる信号処理に加え、昨年末にはさらに、これにラグラジアンとスプライン、ポリノミアルという2つの多項式を重畳したプログラムを実現し、ソフトウェアのヴァージョンアップを果し〝デジマスター〟という商標で発売している。その高い演算速度のDSP処理はただ単に数学理論に優れた技術成果だけではなく、多くの困難な機構設計技術の成果の結果でもある。
 また今回さらに、アナログ回路の出力バッファーアンプに〝スレッジハンマー〟と称されるモジュールがグレードアップ用に用意され、試聴に際してはこのモジュールが組み込まれた、現在のところトップに位置する状態のものを聴くこととなった。
 ワディアの製品が、その一つ一つのパーツ、ディバイス、基板、シャーシ構造に桁はずれの高品位ぶりを見せるのは、決して高級品のための高級指向ではないのであって、材料、機械加工の全ては性能を得るための必然なのである。
 2000SHの筐体は、アルミのムク材から削り出した航空機用コンピューター規格と同級のハイグレードなものだが、これを見ても、同社が安易にプレーヤーメカニズムに自ら手を出すはずがない……というのが私の観測であった。
 ワディアWT2000は、このような状況の中で登場したわけであるが、実は、このメカニズムをエソテリックのP2を原器とするものである。例の大型テーパードクランパーでCDを圧着して回転する高安定度を誇るメカニズムで、レゾナンスや耐振性に配慮のいき届いた好設計であり、精度の高い仕上がりでもある。P1をオリジナルとするP2は、すでに本誌でも度々紹介され、現在最も優れたCDプレーヤーメカニズムの一つとして定評のあるものだ。コンピューター技術集団にとって、この開発はリスキーだし一朝一夕にいくものではない。ティアックからこれを買うことにしたのは、(一般のOEM供給のメカからすると目の玉が飛び出るほど高価なはずだが……)卓見である。
 P2を元に、さらに機械的制動を施し、ワディア仕様のエレクトロニクス設計を加えたものだが、最大の特徴は次の二点といえるだろう。まずはドライブ系と制御系の独立した二電源トランスを外に出しセパレート仕様としたこと。そして、これが最大の特徴だが、ワディア独自のプロ規格STターミナルによってAT&T社製の高精度高効率の50Mbits/S、850nm波長グラスファイバー出力素子の光出力を取り出せることである。従来は、この光入力専用に作られたデコーディングコンピューター/2000側に通常のEIAJ光出力を変換するトランスミッター(デジリンク30)を必要としたが、WT2000を使う場合は直接、2000SHに入力できることになる。試聴はこの状態でおこなった。
 そのサウンドの素晴らしさは、圧倒的であったというほかはない。広がりと奥行きが一回りスケールを増し、細部のディテールは一段と明晰さを増した。楽音の感触の自然なことは、同社のDACの魅力であったが、このプレーヤーの使用で、さらに緻密で繊細になる。かつてこんなに肌ざわりのよいCDの音を聴いたことがない。ウィーンフィルのしなやかで艶と輝きに満ちたあの音が、こまやかな音のひだの陰までもが聴けるかのようで、まるで宝石箱をひっくり返したような美音の饗宴に呆然とさせられた。この空間感の透明さと深々とした暖かいプールエフェクトを明らかに並のCDプレーヤーとは、異次元の音響的境地であり、音楽世界であった。

エンパイア EDR.9, 4000D/III LAC, 2000E/V

エンパイアのカートリッジEDR.9、4000D/III LAC、2000E/Vの広告(輸入元:オーデックス)
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

Empire

エンパイア 2000Z

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

伸びやかで適度に活気があり、表情が明るい都会的な魅力。

エンパイア 2000E, 2000E/III, 4000D/I, 4000D/III, 2000Z

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エンパイアのカートリッジは、発電方式に独得なマグネチックタイプのMI型を採用していることが特長である。音の傾向は、普及モデルから、高級モデルまでかなりの変化を見せるが、トータルバランスが優れ、洗練された都会的な感覚が共通の魅力である。
 4000D/IIIは、粒立ちが滑らかで細かく、聴感上の周波数レスポンスが充分に伸び切っていながら、あまり中域の薄くならないのが特長である。音の傾向は、軽く艶やかで、陰影が色濃く、グラデーションの微妙な変化を見事に表現する。ヴォーカルはバックとのコントラストがナチュラルにつき、ピアノはまろやかで艶めいて響く。他のカートリッジよりも楽器の数が多くなったような多彩な音色があり、ハーモニーがとりわけて美しく感じられる。音場感は広い空間を感じさせるように拡がり、パースペクティブな感じや、音像の立ちかたが自然である。
 4000D/Iは、D/IIIよりもかなり粒立ちが粗く、SN比が気になる、音の傾向は、コントラストがついたメリハリ型で、線は太く、ちょっと聴きには粒立ちがよく聴けるタイプである。性質は、かなり、カラリと開放的だが適度の抑えがきいて、伸びやかな明るさがある。若い未完成の魅力があり、マクロ的に音をまとめるメリットをもつ。
 2000Zは、最新のモデルで、かつての1000ZE/Xを継ぐ位置にある製品と思われる。粒立ちは細かくシャープであり、クールな感じのストレートな音である。トータルなバランスや音色はエンパイアであるが、スッキリと切れ込む音に、フレッシュで爽やかな印象がある。帯域バランスはこのクラスとしては平均的と思うが、中域のエネルギーがかなり強く押出しはよいが、ドライな感じが特長である。音場感は、スッキリと拡がり、音像もシャープにクッキリと定位する。現代のカートリッジらしい割切った小気味がよい音だが、エンパイアの高級モデルにある独得な完成度が高く洗練された雰囲気や味わいは、かなり薄らいだようだ。2000シリーズの他のモデルとも異なった、新しい傾向の音であることが面白い。
 2000E/IIIは、落着いた、おだやかな感じの音をもっている。音の傾向はウォームトーン系で、帯域バランスはよくコントロールされていて、高域・低域ともに過不足はなく、両サイドはなだらかにレスポンスが下降しているように聴かれる。低域は甘口で柔らかく、中低域に間接音成分が多い豊かな響きがあり、中域以上はさして粒立ちの細やかさはないが、磨かれている感じがあり、ソフトで耳あたりがよく、カラリゼーションは少ないタイプである。ヴォーカルは大柄になり音像が大きく、表情は甘くなり、大味である。全体のまとまりは優れるが音の鮮度は落ちる。
 2000Eは、E/IIIよりも音色が軽く、やや乾いた感じがある。帯域バランスは低域がある程度のところからシャープにカットされた感じがあり、中低域は軽く響き、中域以上は粗粒子だが硬くはならない。価格を考えるとE/IIIよりも魅力的である。