サンスイ SR-929

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1976年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 プレイヤー・システムはレコードを演奏する装置であり、コンポーネントの中でも、きわめて重要な存在だ。それは、その微細なディスクに刻まれたミクロの振幅を拾い上げ、電気エネルギーに変換するというデリケートきわまりない作業をやってのけるのだ。この作業を直接果すのはカートリッジだが、いくら優れたカートリッジでも、トーンアームやターンテーブル、そして、それらを支えるプレイヤー・ペースが完全に補佐しない限り、その性能を発揮することは不可能である。ディスクの溝に刻まれた振動は、それ自体は、うねうね曲りくねったパターンに過ぎないが、これを回転させ、その溝に針を垂下させることによって、針先を動かす機械的エネルギーが生れる。針先の僅かな動きは全て電気エネルギーになってアンプへ送られ増幅され、スピーカーから育として再生される。こんな当り前のことを今さらあえていうのも、この当り前のことをちゃんと行なうことが、どうしてなかなか難しいからなのだ。つまり、針先に加わる機械振動が全部音になるというわけだから、レコードの溝に刻まれた波形が針先を動かす以外に、もし、なんらかのエネルギーが針先に加わることは、余計な音をスピーカーから出すことになる。たとえば、モーターの振動だ。これは絶対に禁物だ。最近のモーターは大変優秀で、静かな回転が得られるようになった。しかもDD式でモーター自体の回転を遅くすることによって振動がずっと少なくなったも回転速度も正確に、かつ滑らかに絶
えずコンスタントな速度で回らなければならない。毎分33 1/3回転といっても、1分間で33 1/3回転すればいいわけではない。一定速度で回転しなければ、音のピッチがゆすられて音程が保てないし、音質の劣化という現象につながる。これも、最近は、いろいろ優秀なものが登場した。バランスのとれた重いターンテーブルの慣性と、モーターの速度の僅かな誤差を検出して制御するサーボ機構の組合せ、しかも、モーターを回転させる発振源に水晶を使うという時計なみの精度をもったクォーツ・ロック・システムなどである。こうした新兵器はたしかにプレイヤー・システムの性能向上に役立っているが、実は、もっと、一見単純でしかも重要な問題がある。
 それは、プレイヤー・ベースの構造である。この土台がしっかりしていないと、絶対に音のいいプレイヤー・システムにはならない。しっかりしていなければならないといっでも、ここのところが難しい。前の針先の振動は、カートリッジのダンパーでは全部吸収されず、アームに伝わる。アームの共振はベースに伝わる。したがって、アームやベースの特性は必らずカートリッジの振動系と一体となって、一つの音色傾向を持つことになる。そんな馬鹿なという人がいるとしたらそれは体験不足というものだ。プレイヤー・システムは、全てが音に影響のある振動体なのだ。 シェルの指かけや、ターンテーブルのラバー・マットなどについても最近はやかましくいわれ出しているが、その割には、カートリッジ自体のボディーの材質や構造、ベースのそれと音の関係がまだ煮つめられているとはいえないようだ。ハウリングという、プレイヤー・システムの最も恐るべき現象に対してさえも、まだまだ、実際には配慮の足りないものもある。こうした背景の現時点で新しく登場したSR929は、かなり集中的に、これらプレイヤー・システムの諸問題が追求され成果々上げたものだと思う。勿論、回転系は、最新型のクォーツ・サーボ・システムのDDターンテーブル。トーンアームのナイフエッジとワンポイント・サポートはフィーリングとしてもう一つ不満だが、音質のよいものだ。そして、肝心のベースが力作である。コンクリートとウッドの二重構造で、フィニッシュが黒の艶出し。ピアノと同じ鏡面仕上げである。これは、プレイヤー・システムのもつべき条件を、物理的に、共振と制動の両面から追求し、感覚的には、ディスクの質感とぴったりくるピアノ塗装でまとめたという熱意の溢れた製品だと思う。きわめて品位の高い風格と音質を持っている。インシュレーターのバネ定数と総重量とのバランス、その制動をもう一つ自動車工学からでも学んでくれたら、完壁な線までいっただろうに。ハウリングにはもう一息の努力が欲しかった。

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