井上卓也
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
シュアーは、当初からMM型の発電方式を採用したカートリッジをつくりつづけており、ステレオ初期以来、つねに新製品は、数々の話題を投じている。音色は、適度にコントラストがついた、耳あたりがよく活気がありキレイに音を聴かせる、いわば演出型の音が他にない個性となっている。
V15/IIIは、粒立ちはまず標準的という感じで、最近の高級カートリッジと比較すると、さして細かさは感じられない。帯域バランスは、低域から中低域に独得なスケール感を感じさせる音があり、中域から中高域にも、やや硬調な効果的に輝く個性がある。ヴォーカルは、ちょっと聴きには、スッキリと抜けてニュアンスが充分にわかる感じがあり、音像がクッキリと立つタイプであるが、聴き込むと、キリッとした輪郭がなく、ピアノはスケール感はあるが低音が甘くベトつき気味である。プログラムソースにはフレキシブルに対応して気持よく聴かせる特長がある。高級コンポーネントシステムよりも、中級以下のシステムの場合に見事な音を聴かせる傾向があるが、システムのクォリティが高くなると、薄味の華やかさになり、音がベタツキ気味になるのが興味深い。
M95EDは、柔らかく耳あたりがよい音をもっている。中低域に量感があって、軽くよく響くが、やや粘る感じもあって奇妙にスッキリと爽やかにならない面がある。ヴォーカルは表情が甘く、声量がなく、オンマイク録音のように細部を見せるが、表現が表面的で実体感が乏しいようだ。ピアノはソフトで適度に輝くが、クリアーにカッチリとした音にならない。
M91GDは、低域のダンプが適度であり、音の粒子は上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比がときおり気になることがある。音の傾向は、M95EDよりもクリアーでスッキリとした感じがあり、暖かみがあり、ベトツキがなくなっている。低域は、量感があって、少し甘く感じられるが、弾力性もあってリズミックな表現も充分にこなすだけの力量がある。ヴォーカルは、子音を強調気味でハスキー調となるが、適度にコントラストをつける効果があり、力感もあるために、スッキリとクリアーな印象がある。ピアノは、スケール感もかなりあって、響きが美しく明快である。トータルバランスはかなりコントロールされて巧みにとられているために、音の魅力ではM95EDを上廻り、活気があり、リズミックに音を楽しく聴かせるメリットが大きい。
SC35Cは、帯域が狭く、線の太いマクロ的に音をまとめるタイプだ。粒立ちは粗くノイズが耳ざわりである。低域から中低域にかなりエネルギーが感じられる、腰が強いソリッドなメリットをもつが、全体に音が大味にすぎて、細部の表現がかなり不足する。
M75G/2は、粒立ちは粗いタイプだが、あまり聴感上のSN比が劣化しない特長がある。帯域はナローレンジ型で、全体に音の傾向は甘く柔らかい。普及型システムと使うと、安定した面白味がある音になる。
0 Comments.