菅野沖彦
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より
JBLは、アメリカにおけるスピーカー開発の歴史の主流を継承しているメーカーである。その技術の根源は古くはウェスタン・エレクトリックにまでさかのぼるわけだが、そこから派生したメーカーには他にアルテック・ランシングがある。この由緒正しい血統をもつアメリカの代表的スピーカーメーカーであるJBLは、本来はコンシュマー用の高級品のみを製造してきたメーカーであったが、近年になって、プロフェッショナルシリーズとして、その高い技術を生かし、スタジオやホールなどで使用するための業務用スピーカーシステムを手がけるようになった。
そのプロフェッショナルシリーズの最高級機として存在しているのが、この4350である。このスピーカーの特徴は、同社のスピーカーに対する思想をはっきりとした形で具現化しているところにある。その思想とはどういうものかといえば、先に述べたウェスタン・エレクトリック、アルテック、JBLという一つの流れの中で、アルテックは2ウェイというものに主眼をおいたスピーカー開発を一貫して進めてきたのに対し、このJBLはマルチウェイシステムということに開発の基本姿勢をおいてきたということである。もちろんJBLには2ウェイのスピーカーシステムもあり、フルレンジユニットもある。しかし、本来のJBLの高級スピーカーシステムは、3ウェイ、4ウェイというマルチウェイシステムにあると思うのである。
現在の同社のトップモデルは、プロフェッショナルシリーズの4ウェイシステムである4350である。この4ウェイシステムは、同社の長年のスピーカーづくりの過程の中から必然的に生まれてきたものである。ユニット構成は4ウェイ5スピーカーで、低域用ウーファーは、38cm口径のユニットを2本使うダブルウーファー方式が採用され、250HZ以下の音域をマルチアンプドライブ方式で駆動するように設計されている。250Hz以上の周波数帯域は内蔵のネットワークにより帯域分割されているが、250Hz〜1、100Hzの帯域を受け持つミッドバス・ユニットは30cm口径、1、100Hz〜9、000Hzの帯域を受け持つトゥイーターには2440ドライバーとエクスポーネンシャル型のショートホーンと音響レンズの組合せ、9、000Hz以上の音域は2405というホーン型スーパートゥイーターという、現在の同社を代表する最高級ユニットで構成されているのである。エンクロージュアのサイズはW121×H89×D51cmで、内容積は269ℓ、重量は110kgである。このような超弩級システムは、おそらくメーカーがある程度大量生産できるシステムとしては最大のものであろうし、最もスケールの大きなものといってよいだろう。
また、各ユニットの配置や材質、機能は、プロフェッショナルシステムとして十分な配慮がなされているrとも特徴である。JBLのスピーカーは、ユニットそのものが大変に美しいデザインと仕上げがされているために、バッフルボードの上に整然とそれらを並べただけで、自ずと一つの風格を醸し出してくれるというところがある。そしてさらに、この4350AWXは、鮮やかなブルーのバッフルボードが採用されているのである。これには私はやはり相当のしゃれっ気を感じるのだ。バッフルボードをブルーに塗るというセンスそのものが、ただものでないことをいみじくも表現しており、相当に計算された緻密なスピーカー造りがなされているなと感じさせるのである。業務用であるならばバッフルボードや表面の仕上げは、黒であろうが白であろうが、あるいはブルーであろうが、かまわないではないかといってしまえばそれまでだが、やはりスピーカーを見る人間を、あの鮮やかなブルーのバッフルボードと最高級ユニットで引きつけてしまわずにおかないということは、無視することのできない重要な要素だろうと思うのである。
しかし、この4350は本来業務用のシステムであり、大きな可能性をもってはいるが、誰が使ってもよく鳴るというスピーカーではない。むしろ使い手の能力さえテストされるほどの実力を内に秘めたシステムなのである。
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