Category Archives: 菅野沖彦 - Page 33

JBL 4350AWX

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 JBLは、アメリカにおけるスピーカー開発の歴史の主流を継承しているメーカーである。その技術の根源は古くはウェスタン・エレクトリックにまでさかのぼるわけだが、そこから派生したメーカーには他にアルテック・ランシングがある。この由緒正しい血統をもつアメリカの代表的スピーカーメーカーであるJBLは、本来はコンシュマー用の高級品のみを製造してきたメーカーであったが、近年になって、プロフェッショナルシリーズとして、その高い技術を生かし、スタジオやホールなどで使用するための業務用スピーカーシステムを手がけるようになった。
 そのプロフェッショナルシリーズの最高級機として存在しているのが、この4350である。このスピーカーの特徴は、同社のスピーカーに対する思想をはっきりとした形で具現化しているところにある。その思想とはどういうものかといえば、先に述べたウェスタン・エレクトリック、アルテック、JBLという一つの流れの中で、アルテックは2ウェイというものに主眼をおいたスピーカー開発を一貫して進めてきたのに対し、このJBLはマルチウェイシステムということに開発の基本姿勢をおいてきたということである。もちろんJBLには2ウェイのスピーカーシステムもあり、フルレンジユニットもある。しかし、本来のJBLの高級スピーカーシステムは、3ウェイ、4ウェイというマルチウェイシステムにあると思うのである。
 現在の同社のトップモデルは、プロフェッショナルシリーズの4ウェイシステムである4350である。この4ウェイシステムは、同社の長年のスピーカーづくりの過程の中から必然的に生まれてきたものである。ユニット構成は4ウェイ5スピーカーで、低域用ウーファーは、38cm口径のユニットを2本使うダブルウーファー方式が採用され、250HZ以下の音域をマルチアンプドライブ方式で駆動するように設計されている。250Hz以上の周波数帯域は内蔵のネットワークにより帯域分割されているが、250Hz〜1、100Hzの帯域を受け持つミッドバス・ユニットは30cm口径、1、100Hz〜9、000Hzの帯域を受け持つトゥイーターには2440ドライバーとエクスポーネンシャル型のショートホーンと音響レンズの組合せ、9、000Hz以上の音域は2405というホーン型スーパートゥイーターという、現在の同社を代表する最高級ユニットで構成されているのである。エンクロージュアのサイズはW121×H89×D51cmで、内容積は269ℓ、重量は110kgである。このような超弩級システムは、おそらくメーカーがある程度大量生産できるシステムとしては最大のものであろうし、最もスケールの大きなものといってよいだろう。
 また、各ユニットの配置や材質、機能は、プロフェッショナルシステムとして十分な配慮がなされているrとも特徴である。JBLのスピーカーは、ユニットそのものが大変に美しいデザインと仕上げがされているために、バッフルボードの上に整然とそれらを並べただけで、自ずと一つの風格を醸し出してくれるというところがある。そしてさらに、この4350AWXは、鮮やかなブルーのバッフルボードが採用されているのである。これには私はやはり相当のしゃれっ気を感じるのだ。バッフルボードをブルーに塗るというセンスそのものが、ただものでないことをいみじくも表現しており、相当に計算された緻密なスピーカー造りがなされているなと感じさせるのである。業務用であるならばバッフルボードや表面の仕上げは、黒であろうが白であろうが、あるいはブルーであろうが、かまわないではないかといってしまえばそれまでだが、やはりスピーカーを見る人間を、あの鮮やかなブルーのバッフルボードと最高級ユニットで引きつけてしまわずにおかないということは、無視することのできない重要な要素だろうと思うのである。
 しかし、この4350は本来業務用のシステムであり、大きな可能性をもってはいるが、誰が使ってもよく鳴るというスピーカーではない。むしろ使い手の能力さえテストされるほどの実力を内に秘めたシステムなのである。

アキュフェーズ C-240

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 ケンソニック社は決して歴史の長い会社とはいえないが、しかし、そのバックグラウンドを知る人にとっては、その歴史は古くトリオ、春日無線にまでさかのぼることになる。こうした歴史の重みに支えられてケンソニック社が誕生したわけだが、この会社は創業以来、あるレベル以上の高級品しかつくらないという体質に徹しているところに、一つの明確なポリシーが伺える。そして、やたらに新製品は発表せず、むしろ基本モデルの改良という形で、一つの製品を煮詰めていこうという姿勢で貫かれているのである。その姿勢が最も顕著に現れている例は、先頃発表されたC200S、P300Sのセパレートアンプである。このセパレートアンプシリーズは、同社の第一号機C200、P300のマイナーチェンジモデルだが、その第一号製品を買った人にも、サーキットボードを交換することによって この最新製品とほとんど同じ性能にまでしてあげるというサービスも怠らなかったのである。これはメーカーにとって大変な企業努力だと思うのだが、やはり製品のロングライフを旗頭にしている会社の体質を如実に示している例だろう。マスプロ、マスセールということは考えず、自分たちのできる量の中で追求し、それを理解していただけるお客様だけに買ってもらおうという、「質」を重視したオーディオメーカーなのである。
 そのケンソニック社がつくり上げた最新のコントロールアンプがC240で、従来の製品に見られない、いくつかの新しさが盛り込まれた意欲的な製品である。たとえば、操作スイッチ類を、ボリュウム、バランス、カートリッジの高域特性コントロール以外はすべてプッシュボタンスイッチにしたことである。決して小規模とはいえないメーカーが、ここまで徹底的にプッシュボタンスイッチ化に踏みきった英断をまず買いたいと思う。そして内部を見ても、最新のディバイスと最新のテクノロジーが駆使されているわけだが、同社の初期からのポリシーである全段パラプッシュプルという方式はここでも踏襲されているのである。つまり、同社で自信のあるエレクトロニクス回路技術を豹変させることなく、常に基本的なものは踏襲しながらリファインさせているところに、信頼性のもてる一因があると思う。個人的なことをいえば、プッシュボタンにもう少し質感のいい、色のいいものを使ってくれれば、このユニークなパネルレイアウトがもっと生きてきたのではないかと思う部分もあるのだが、しかし、現在手の届く範囲でメーカーが最もハイエストなパフォーマンスを追求した製品として、十分納得できるものをもっていることは確かである。
 ところで、このC240の音質についてだが、一言でいえば同社の従来のコントロールアンプの音に、最新製品にふさわしい洗練度を加えた音ということができる。従来の同社のアンプはたくましい音で、透明という表現よりも、むしろ輝かしい、磨きぬかれたスムーズさをもっていたのであるが、このアンプにもそれは一貫して感じられる。非常にたくましい音であり、磨きぬかれていて力もある豊かな響きの中に、都会的な洗練された音が加わったという感じなのである。おそらくこのアンプの音は、現在のコンポーネントの中でも最高の音質に属するのではないかと思う。プラスアルファをもつこのクラスの海外製品はたくさんあり、確かにそれらは一種独特の雰囲気がある、説得力のある音色を感じさせるが、このC240はそういう領域に達しているように思えるのである。ただ単にドライに無機的にフィデリティを追求していくということだけではなく、あらゆるソースに対して音楽的なエフェクトを聴かせてくれる。
 ただ、もっと繊細で、もっと乾いた音が好きだという人ももちろんいるかもしれないと思う。このC240は決して乾いた音ではなく、グラマラスであり、脂の乗った音だからだ。しかし私は、やはり音楽は生命感が躍動しているような、グラマラスで、豊かで、薄っぺらでない底光りのする輝きをもっていてほしい。その意味で、このC240は音質のよさからいっでも、現在のコントロールアンプの中で〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれるに値する製品だと思う。

JBL D44000 Paragon

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 常に〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれる製品は、そのバックグラウンドが重要な要素になる。ジェームス・B・ランシングというスピーカーメーカーは、アメリカにおいてアルテック・ランシングと並んで非常に由緒の正しい、歴史の長い名門ということができる。そのJBLの現行のスピーカーシステムの中で、最もロングライフな製品であり、かつ、まさに〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい風格を備えた製品は、このD44000パラゴンであろう。そこには、水準以上の高級品というばかりでなく、造りあげた人の情熱と精緻なクラフツマンシップを感じさせる何ものかがあるのである。
 おそらく、現在このパラゴンというスピーカーシステムを実際に見て感動しない人はいないだろうと思う。とにかく現在のJBL社の最高級ユニットであるLE15A、375+H5038P、075を、あの独創的なデザインの手の込んだエンクロージュアに収めているのである。そうした最高クラスのユニットを使いながら、それをいささかも感じさせないこの優雅なデザインは、あくまでもコンシュマーユースとして、インテリア的にも十分に考慮され、しかもステレオフォニックな音場を見事に再現してくれるのである。
 この木工技術の極致ともいえるスピーカーシステムは、今後いつまで造りつづけられるのだろうか。私としてはできるだけ長い間存在し続けでいてほしいと思うのだが、そう感じさせること自体、このスピーカーシステムのもつ良さを十分に物語っていると思うのだ。この合理主義に徹した時代の流れの中で、いつかは消えるべき運命にあることは確かだが、それを現在もなお造りつづけているJBLの姿勢には感服するほかはない。このスピーカーシステムを造るには、やはり相当の熟練工が必要であり、また洗練された技術も必要である。当然手間と時間がかかることになり、高価にならざるを得ないわけであるが、そうした現在の合理主義から外れている製品のもつ味わいというものは、残念ながら最近では少なくなっているのである。特にスピーカーシステムの中では、徐々にかつての名器といわれていた大型スピーカーが製造中止になっていくのは淋しい限りである。そうした中で、このパラゴンの存在はひときわ輝きを増すことになり、当然、〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれる資質をもっているのである。
 しかし、いくらそうした資質をもっていたとしても、性能的に難があったり、音が古くとても現在使うに耐えないようであれば、やはり最高級スピーカーとして評価するわけにはいかない。しかし、このパラゴンに難があるとすれば、あの形状からくるセパレーションのとれないことぐらいであろう。ところが、この点に関しては、パラゴンの最大の特徴といえる部分なのである。つまり、左右の音をいかに空間で合成させて、不自然ではないステレオフォニックな音場をつくり出すか、ということがこのパラゴンの思想なのである。このパラゴンのナチュラルなステレオフォニックな音場感こそ、このスピーカーシステムならではのものなのだ。最近の左右にモノライクに分離し、セパレーションを要求するプログラムソースには向かないかもしれないが、このパラゴンのもつ一種独特のステレオフォニックな音場感は、やはり捨てがたい魅力を感じさせるのである。
 JBLの最高級ユニットで構成された3ウェイのオールホーン型システムのパラゴンは、中央の湾曲した反射板により、左右チャンネルが一体化されている。その反射板に、中高域ユニットである375ドライバーの強力な輻射音が左右から放射され、拡散されて独特な音場感を創成する。トゥイーターは低音ホーンの開口部の奥にリスナーの位置に向けて取り付けられ、その独特な音場感をより引き立てる。それをホーンロードのかかった低音域がゆったりと支える……このユニークなアイデアに満ちたパラゴンは、現在でも全く色あせたところがなく、ユニットを見ても外観からいっても、この風格はやはり〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい製品なのである。

テクニクス SP-10MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 一九六九年六月に世界に先駆けてダイレクトドライブ・ターンテーブルの開発を発表したテクニクスは、翌一九七〇年六月にSP10という型名で製品発売に踏みきった。このSP10の発売以来、同社のプレーヤーシステムをはじめ、各社のターンテーブル、プレーヤーシステムは徐々にローコストの製品に至るまでダイレクトドライブ化されてきたのである。その間、SP10は同社のトップモデルとしてばかりではなく、世界的にもその名を知られるほどの高い信婿性とクォリティをもつターンテーブルとして存在していたのである。このように、SP10は今日のターンテーブル、プレーヤーシステム界をほとんどダイレクトドライブ化の方向に導くための原動力となった製品であり、その功績は非常に大きいといわざるを得ない。ここでは、ダイレクトドライブ方式がよいのか、あるいはリムドライブ、ベルトドライブ方式がよいのかという論議はさておくとして、少なくともそれまでになかった駆動方式を採用し、そしてここまでダイレクトドライブ方式一色に塗り変わった背景には、やはりダイレクトドライブ方式ならではの大きなメリットが認められたからだと思う。
 そのパイオニア的製品であるSP10に、最新のクォーツロック制御方式を採り入れ、各部に改良を加えてリファインしたモデルがこのSP10MK2である。ここで採用されたクォーツロックDD方式もまた、現在ではかなりのローコスト・プレーヤーに採用されるまでになっている。この速度制御方式は、必ずしもSP10MK2が最初とはいえないかもしれないが、いずれにしても今日隆盛を極めるクォーツロックDDプレーヤーの先駆となった製品の一つにはちがいない。ともかく、オリジナルモデル、改良モデルともに発売されるごとにこれほど大きな影響力をそのジャンルの製品に与えた製品はかつてなく、そうした創始者としての血統のよさが、他の優れたこのクラスのダイレクトドライブ・ターンテーブルを押えて〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれた大きな理由である。
 もちろん、いくらそうした血統のよさは備わっていても、実際の製品にいろいろな問題点があったり、その名にふさわしい風格を備えていないのならば、〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選定されないわけである。その意味からいえば、私個人としては完璧な〝ステート・オブ・ジ・アート〟とはいいがたい部分があることも認めなければいけない。つまり、私はプレーヤーシステムやターンテーブルにはやはりレコードをかけるという心情にふさわしい雰囲気が必要であると思うからで、その意味でこのSP10MK2のデザインは、それを完全に満たしてくれるほど優雅ではなく、また暖かい雰囲気をもっているとはいえないのである。しかし、実際に製品としてみた場合、ここに投入されている素材や仕上げの精密さは、やはり第一級のものであると思う。このシンプルな形は、ある意味ではデザインレスともいえるほどだが、やはり内部機構と素材、仕上げというトータルな製品づくりの姿勢から必然的に生まれたものであろう。これはやはり、加工精度の高さと選ばれた材質のもっている質感の高さが、第一級の雰囲気を醸し出しているのである。
 内容の面でも、現在レコードを再生するという点においては十分に信頼に足るグレードをもっている。クォーツロック・DCブラシレスモーターという、このSP10MK2の心臓部であるモーターの回転精度は、プロフェッショナルのカッティングマシン用モーターが問題視されるほどの性能の高さを誇っているのである。今日のターンテーブルは、常にこうしたサーボコントロールによる回転精度と、ターンテーブルそのものの重量によるイナーシャによる回転のスムーズさという、二つの柱として論じられる。イナーシャを大きくしようとすれば必然的にターンテーブル径が大きくなりすぎ、逆にサーボコントロールしやすくするにはできる限りイナーシャが少ない方がいい。この両者のバランスをどうとるかが大きな問題となるのだが、SP10MK2はバランスよくまとめられ、このように高性能を得ているのである。

デンマークB&O社を訪ねて

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「デンマークB&O社を訪ねて」より

 デンマークという国は、実に密度の高い小国である。小国というと、デンマークに失礼かもしれないが、総人口が500万人余りという事実は、そう呼ばざるを得ないであろう。しかし、この国の実体を知れば知るほど、まるで、現代文明国の縮図とでもいうべき緻密な内答をそこに発見する。
 酪農を中心とした農業国としてのデンマークであるが、たしかに、大小無数の島々のほとんどは、フラットな畠であり、牧場であるし、農家は、この国の社会的階層の中で、高い地位を占めている。ファームとファーマーという言葉は、我国における、農業、農民という言葉の持つ意味やニュアンスとは大いに異り、より誇り高い意味と響きをもっている。背のびをすれば、ずっと遙か彼方まで見通せるほどの起伏しかもたない平らな広野と、視界全体の3/4以上を占める、大きな大きな空、これがデンマークで最も多く見られる風景だ。この国一の大都会、コペンハーゲンでさえ、その中心部から、車で10分も走れば、こうした景色の中に吸い込まれてしまうだろう。そしてどっちへ走ってもすぐ海に出る。こうした環境の中から、ここでは、現代機械文明の頭脳が生れ、最も先鋭なデザイン感覚が育ち、社会福祉制度は極度に発達した。私が関心をもっているものだけを拾って見ても、磁気録音の発明、トーキー映画のメカニズムなどの歴史的な実績の他に、この国の小規模ながら、注目すべき、エレクトロニクス関連産業は決して無視出来ないものなのである。オーディオ・ファンにとっても、オルトフォンのレコード関連機器、ピアレスやスキャン・ダイナのスピーカー、ブルュエル・アンド・ケアーの測定器など、馴染みの深い名前がすぐ、思い浮ぶことだろう。ジョージ・イエンセンの銀製品、ロイヤル・コペンハーゲンやビング・クロンディルの陶器、そして、イヴァルソン父子、ミッケ、アンネ・ユリエなどの手造りパイプなどは、コペンハーゲン中心にあるナポリ公園と同じぐらい有名だ。
 そして、ここにご紹介するB&O社こそデンマークを代表する電気機器メーカーである。バング・アンド・オルフセンの名前が示す通り、この会社は、二人の創設者によって一九二五年に創立された伝統ある企業である。オルトフォン杜の創立が一九一八年であるから、この二社共に、まさに、この道でのパイオニアといえるであろう。技術の誕生と共に企業が誕生したという、オリジナリティに、その社歴の重みが感じられる。
 B&O社は、家庭電気製品の総合メーカーとしての体質をもっているように思われているし、事実、デンマークの家庭を訪問すると必ずといってよいほど、同社のテレビが置かれるいる。しかし、このメーカーのオーディオへの力の入れ方は大変なもので、同社独自の強い主張を持った優れたオーディオ製品の開発に長年努力を続けて来ているのだ。このことは、今年、初めて同社を訪れてみて、一層強く感じられた実感であった。
 コペンハーゲン・カストラップ空港から、SASの国内便で30分ほど飛び、カラップ空港という田舎の小さな飛行場に下りる。ここはヨーロッパ大陸と地続きの、その最果ともいえるユランド半島である。ここから車で、30分ほどのストルーアという町に、B&Oの本社がある。ストルーアの町全体は、何らかの形でB&O関係の人々であるといってよいほどだ。例によって、空の大きな、なだらかな起伏をもった美しい田園風景が、空港からストルーアの町までの車窓に展開する。コペンハーゲンのある島、シュランドのファームと比較すると、この辺は、牛が多く見られる。私がよく滞在するシエランドのファームは豚が多いのに……。ストルーアのホテルのレストランで初めて会った人は、ヤコブ・イエンセン氏であった。この人が、B&Oの、あの美しいオーディオ機器のデザインの一切を自分一人でやっているという話しを聞いた。イエンセン氏は世界的に有名なインダストリアル・デザイナーだ。その斬新な感覚に溢れたモダン・ビューティともいえる美しい製品の数々が、この緑に囲まれたデンマークの田舎から生れるというのは一種の驚きであった。イエンセン氏も、他のデンマークの多くの芸術家達のように自然を愛し、自らファームに住んでいるという。共に昼食をとりながら、インダストリアル・デザインはいかにあるべきかといった興味深い話を聞くことができた。ここで、その詳細をご報告する余裕はないが、論より証拠、彼のデザインによる、あの美しいベオグラムの4000番シリーズのプレイヤー・システムやステレオ・レシーバーを一見することを、おすすめしたい。そして、それを実際に使ってみると、イエンセン氏のいう「モダン・テクノロジーは、人間の幸せのために奉仕すべきものだ」ということと、「オーディオ機器は、トータル・ライフの中で、音楽を楽しむという目的で存在しているはずだ」という主張が明解に理解できるであろう。これらの製品は、最新のエレクトロニクス・テクノロジーを駆使していながら、それを表面に押し出すことなく、全てを、音楽を楽しむための人間の便宜に謙虚に役立てた完壁な道具であるからだ。ベオグラム4004と、ベオマスター2400の組合せによって、レコードをかけ、FMラジオやカセット・テープを聴いてみるがいい。ここには、完全にラボラトリー・イメージを脱した洗練されきったオーディオの世界を発見する。リモート・コントロールによって全て自動的におこなえる操作の便利さと愉しさを。レコードからFMへのプログラムの変更も、音量の調節も自由自在である。しかも、そのプレーヤー・システムは、リニアー・トラッキング・アームに、高度なMMCカートリッジという、高級なコンポーネント・マニアの欲求を満たすに足るハイ・グレイドなものだし、アンプも、ステレオ・レシーバーはこうあるべきだという納得をせざるを得ないバランスのよさをもち、豊富なファンクションをもっているのである。見ているだけでも美しく魅力的な──本来、レコード音楽を楽しむ時に、重要な要素──この機器のデザインと仕上げの高さは、他に類例を見ない見事なものというほかはない。四角く重い箱を積み上げて、汗を流して緊張し、耳掃除をするような神経を使いながら、巨大なスピーカーと対峙して音楽を聴く……コンポーネントの世界とは、また、なんと違った次元の楽しみと喜びであることか。こういうシステムでレコードを楽しみたい人は多勢いるにちがいない。また、明けても暮れてもオーディオで、オーディオと心中することを無上の喜びとしているかの如く、アンバランスで極端な情熱をオーディオにもっている人にさえ、このシステムは、ふっと我に帰らざるを得ないような示唆を与える魔力さえ持っているようだ。そして、私のように欲張りな人間にとっては、機械の山の中に埋れるようなラボラトリーまがいのリスニング・ルームの他に、オーディオ機器は、このシステム以外に置かないで、すっきりと、気に入ったアクセサリーや絵を飾り、ゆったりパイプでもくゆらせながら憩える部屋がほしい……憩える部屋がほしい……ということになる。
 B&Oのオーディオ機器は、イエンセン氏のデザイン・ポリシーに代表されるように、真の意味でのコンシュマー・プロダクツなのである。
 スキーヴにあるアンプの組立工場、ストルーアの研究開発部門などを二日にわたって見学し、この会社が、理想的な環境の下に、仕事をしていることが理解できた。最近発表された、サファイア・カンティレバー採用のカートリッジMMC20CLを見てもわかるように、こうした細かい基本的なパーツ開発にかける情熱も、一般に考えられるような、コンシュマー・プロダクツの量産企業とは全く異なる体質をもっている。このカートリッジなどは、専門メーカー以上のキメの細かさをと、長年の蓄積が、高度な解析システムで裏付けをしながら生み出されたもので、プレーヤー・システム付属のカートリッジとしての常識を、はるかに超えたものといえるだろう。事実、このMMC20CLをEIAタイプのシェルにクランパーを介して取付け、単体カートリッジとして使っても、最高水準のプレイバック・パーフォマンスを示すものだ。もっともカートリッジに関しては、従来から、B&O製品はオルトフォンやエラックそしてフィリップスなどと並んでヨーロッパの代表的な製品として知られていたが、こうしたオーディオ専門メーカーの体質に、ますます磨きがかけられているのを見て大変嬉しかった。
 製品のアッセンブリーは、機械的にラインで流れていくのではなく、一人の人間が全部を仕上げるというシステムが導入されていた。その意味でも、ここの製品は、いわゆる量産製品とは質を異にしているというべきであろう。
 社長のオラフ・グルー氏をはじめ、技術担当役員のベント・メラー・ベデルセン氏、国際部の役員、K・E・ハーダー氏など、経営陣も、真剣にB&O製品と、その主張が、日本で理解されるべく努力したいと語っていたが、私もオーディオが、生活の豊かな精神的糧として存在する意味において、こうした道具が正しく認められるべきだと思う。現在のオーディオ事情は、あまりにも片寄っていることを改めて痛感したのである。
 エンジニアのプラマニック氏が今年のオーディオ・フェアに来日し、その折、MMC20CLを持参され試聴したが、その明晰な音質は、純粋技術的に追求された特性のよさを実感するだけではなく、夏のデンマークの空気のように透明で、すがすがしく、さわやかな雰囲気を感じたのであった。B&Oは、世界中の数あるオーディオ・メーカーの中で、そのオリジナリティと高度なテクノロジーで一際、輝やきを放った存在なのである。それは、あたかも、デンマークという国のもつ特質に似て、緻密なテクノロジーと、斬新な感覚が、豊かな自然とバランスして存在しているからであり、エキセントリックに走らないからである。社会保障の完備は、この国の人達を悩ませてもいる。優秀な人材はよく働き、高い税金を納め、怠け者はそれによりかかって生きるからだ。しかし、この国の人達は、知恵と心のバランスをもって豊かな生活を作り上げていく努力をし続けることだろう。

ステート・オブ・ジ・アート選定にあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「Hi-Fiコンポーネントにおける《第1回STATE OF THE ART賞》選定」より

 ステート・オブ・ジ・アートという言葉が工業製品に対して使われる場合、工業製品がその本質であるメカニズムを追求していった結果、最高の性能を持つに至り、さらに芸術的な雰囲気さえ漂わせるものを指すのではないか、と私は解釈している。「アート」という言葉は、技術であると同時に美でもあり、芸術でもあるという、実に深い意味を持っている。しかし、日本語にはこの単語の持つ意味やニュアンスを的確に訳出する言葉がないこともあって、実にむずかしい言葉ということができる。
 いずれにしても工業製品であるオーディオ機器は、音楽芸術を再現することが目的なのである。そして、機械として最高の性能と仕上げを持ち、一つの香り高い雰囲気を感じさせてくれ、人をして魅力を感じさせるとまでいう域に達したものこそ、ステート・オブ・ジ・アートと呼ぶにふさわしい製品といえるであろう。ただ、そのような観点からのみ製品を見ていくと、そう多く存在するわけではない。大量生産、大量販売のこの世の中で、厳密な意味でのステート・オブ・ジ・アートを選ぶとすれば、残念ながらごくごく数が限られてしまうことになる。しかし、現実にはそういう意味合いを中心に置きながらも、ある程度拡大解釈をして製品を選出するということにならざるを得なかった。そして、私はステート・オブ・ジ・アートを、コストパフォーマンスやベストバイという言葉に惑わされることなく、非常によくできた製品に与える言葉と解釈した。そうするとかなりの数の製品が選ばれてくる。しかし、芸術的な香りにまで高められた製品ということになると、今回選出されたものでも、ほとんどに不満が出てくるというのが現実なのである。
 加えて、ステート・オブ・ジ・アートというにふさわしい存在であるためには、その製品がある由緒を持っているということも重要なファクターであろう。というより、その製作に携わった人間なりメーカーが、しっかりとした存在でなければならないということなのである。つまり、ある主張に加えて高度な技術、高いセンスとしっかりした姿勢によって生み出された製品こそ、ステート・オブ・ジ・アートに選びたいという気持ちが非常に強かったわけだ。
 オーディオは趣味である。ステート・オブ・ジ・アートという言葉の持つ意味の主観性、あるいは曖昧さが示しているように、オーディオというものは、自分のイメージの中にある、内なる音を追求していくという、大変に、主観性の強いものであるし、個性とか個人の嗜好という意味で、曖昧といえば曖昧なものである。しかし、コストパフォーマンスやベストバイといった見方だけでオーディオ機器を評価、選択するペきでないと思う。そういう意味でステート・オブ・ジ・アートとして選び出された製品には、オーディオの本質をチラリと感じさせてくれる何かがあると確信する。ただステート・オブ・ジ・アートという言葉は、もともとアメリカで使われていたのだが、最近アメリカでの使われ方には、ベストセラー、ベストパフォーマンスといった色合いが濃いのではないかという気がする。それが本場でのことであるから、よけいに寂しく感ずるのである。せめてわれわれとしては、本来の観念でこの言葉を捉え、そういう目でオーディオ機器を眺め、そして選択するという姿勢を持ちたいと思うのである。

フィデリティ・リサーチ FR-7

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選3機種4万8千円以上」より

 フィデリティ・リサーチが、MCカートリッジを作ってデビューしたメーカーであることを知らない人はいない。FR1という製品がそれで、その当時、これを聴いた時の感動をいまだに思い出す。その繊細緻密な高音の再生能力と、ふくよかに息づくような豊潤な中低域に、聴き馴れたレコードが一際生彩を加え、愛聴盤のほとんどを聴きなおしたほどだった。その後、このFR1は、幾度かのリファインを重ねて、現在まで、ほぼ10年に近い年月を同社の代表製品として支えてきた。併売されていたMM型には、もう一つ説得力に欠け、作る側自身の情熱の欠如を感じとったのは私だけではあるまい。FRは、やはりMCカートリッジに、ディスク変換器としての理想を求める技術集団だったのではあるまいか……。この事は、今度発売された、このFR7を見て、聴いて、よりー層はっきりした形で、同社の、こうした体質への推理を認識させられたように感じられる。おそらく、このFR7は、FR1の開発とリファインのプロセスの中で育て上げられたMCカートリッジに関するテクノロジーとノウハウの蓄積を成果として現われたもので、その意味では、きわめて長い開発期間を経て来たものであろう。
 FR社の特質は、メカニズムやマシンに対するマニアックな感覚がいつも、その製品に息づいているが、いわゆる通好みの材質感や加工精度のもたらす美が生きている。最近の製品ては、トーンアームのFR64Sがそうで、ステンレス加工の、このアームの魅力は、FRならではのものだ。こうした、機械系の信頼性と、多分、業界随一の長く豊かなカートリッジ作りの経験をもつ同社の社長の情熱が結びついて出来てくる製品には、当然、並のものとは一味も二味も異る風格が滲み出る。
 ところで、このFR7は、昔、FR1を聴いた時のような、ショックを再び味わうことになったもので、その鋭く深い彫像の確かさは、まさにベールをはいだという表現がぴったりのクリアーな再生音である。レコードに刻み込まれた音は、いかなる微細なものも、ことごとく拾い上げる。濁りがなく、僅かな位相差も忠実に再現してくれるので、録音時のマイクの置き方が明確に判別出来るのには驚ろいた。定位のよさと、空間感(フェイズの忠実な変換能力による)の再現は全く素晴しいの一語に尽きる。また、全体に、音の基本的な質感が、きわめてエネルギッシュでたくましい。底力のある低音の迫力は、多くのカートリッジと歴然とした違いを感じるのである。
 それだけにレコードのムードを生かしてくれるという性格を期待するわけにはいかない。録音再生全体のプロセスの相関関係に頼ってムードをかもし出してきたレコード音楽の長年の歴史は、この辺でピリオドを打たれてしまうのであろうか……。見るからに充実感に溢れたこのFR7を前に圧倒されながら、昔によき時代を感じる郷愁の念も否定できずにいるこの頃である。

オルトフォン MC20

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MCカートリッジ特選4機種2万〜3万5千円」より

 同社の最も得意とするムービング・コイル型の最新モデルである。いわゆるSPUシリーズを現代のカートリッジの、ムービング・マスやコンプライアンスを含めて、技術水準でもう一度洗い直し、新設計でつくり上げたものだ。根本的に確かにSPUのもっていたような重厚でエネルギッシュな音とはややかけ離れてはいるが、しかし、さすがに同じメーカーがつくっているだけあって、音のバランスや音の彫琢という点で、やはりオルトフォンのカートリッジだなと思わせるものをもっている。非常に重厚な低音にすばらしい中高域がバランスし、そして、高域の伸びはなんといっても、SPUを超えている。そしてまた、トレーシング能力のよさもSPUの比ではない。それだけに、SPUのもっている骨太のエネルギッシュな質からすると、少々現代カートリッジ的な少々やせぎすな、あるいは、ややつめたいという質感を伴ってくるのは、やむを得ないことかもしれない。だからといってMCくさい音というわけではない。MCとしてよくバランスがとれていると思う。
 SPUから見ると、高域が非常に伸びているため、ハイがサッとさわやかに出てきたという感じがするが、しかし、再生バランスとして決して高域が妙に上がってヒステリックになるというカートリッジではない。ある意味でハイ・コンプライアンスMCカートリッジとしてのブームをつくつたカートリッジではないかと、私は思う。SPUを未だつくり続けている中でオルトフォンとしては現代のカートリッジの製造技術をそこに新たに取入れ、新しいMC型をつくりたかったんだろうと思う。だから、この新シリーズができたのもだいぶあとになってのことだ。今までの
新シリーズはほんとどVMSタイプに代表され、そのラインアップが完成したあとにこのMC20が出てきたのだ。それまてのMCとしてはSPUシリーズのみをずっとつくり続けてきたわけで、その辺にも同社のメーカーの体質が現われていると思う。
 このカートリッジはその意味からも、オルトフォンとしてはかなり検討に検討を重ねて、出してきたMCカートリッジといえる。
 実際に使って、MC20は明らかにMC独特の豊かなプレゼンスを感じることができる。トレーシンク能力やハイコンプライアンスという点では、現代のすぐれたMM型から見ると、多少問題もなくはない。しかし、このカートリッジのもっているムービンク・コイル独特の一種の音のねばり、こういうものはやはりかけがえのないものだと感じる。その意味で、このMC20の存在の必然性ははっきりしていると思うし、現代の高級カートリッジの代表格と言ってもいい製品ではないかと思う。

エレクトロ・アクースティック STS455E

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選3機種2万5千〜3万円」より

 西ドイツのキールにある同社は、カートリッジのメーカーとして非常に古い歴史をもっている。隣の国デンマークのオルトフォンと非常に似た性格をもっていると言ってもいいかもしれない。この会社はMM型のカートリッジの特許をシュアーと二分してヨーロッパでもっているというメーカーで、カートリッジ・メーカーとしてはサラブレッドであるということになろう。このSTS455Eを含むこのシリーズには555、655というッパー・モデル、そしてその下に355、255、155というロアー・モデルがあるが、455はそのアッパー・ミドルという所に位置するカートリッジだ。
 この会社のカートリッジに共通して言えることは、オルトフォンの音にも共通することだが、さらに豊かな、美しいつやとまろやかな味をもっているところが、このカートリッジのよさだと思う。音の質感をわれわれ人間の感覚に快い触感で再現してくれる。決してハーシュな、耳に鋭くキンキンくるような音は再生しない。そういうところにエレクトロ・アクーステイックのカートリッジのよさがある。455は中でも帯域バランスが非常に穏かである。この上の555になると、さらにハイが伸びている。そのため、針圧も、455が1・5グラムに対して、555の場合コンプライアンスが高いために、1グラムというトラッキング・フォースになっている。そういった点からして、555も確かにすぐれたカートリッジではあるが、一般性という意味からすると455が最も使いやすく、しかもハイパフォーマンスの得られるカートリッジだと、自分では位置づけているわけだ。
 私自身が録音したレコードを聴いても、意図した音の質感が忠実に再現されているように思う。自分で録音したレコードがそう鳴るということは、もとの音を知るべくもないほかのレコードについても、おそらくそのレコードのもっている特質をよく再生してくれるであろうという信頼感、そうした物理的な信頼感と同時に、このカートリッジのもっている再生音の肌ざわりが、私の感覚には非常に好ましい状能で、楽器の生き生きした生命感をよく伝えてくれる。さらにプレゼンスというか、ステレオフォニックな立体録音の空気感とでもいうか、こういったものを非常によく再現してくれるし、トラッキングが非常に安定し、音楽表現に生きた血が通うなど、その魅力は沢山見出すことがてきる。
 ということを、引っくり返せば、ある程度鈍感だとも言えなくもないが、しかし、むしろ高度な実用性という点が、ある特定の条件の中でしか好ましい再生音を聴かせないようなものよりはいいと思う。こうした点から、エラック(エレクトロ・アクーステイック)のSTS455Eは現在のMM型カートリッジの中で、私が非常に好ましいと思うものの一つに入る。もう少しレコードその他の扱いで神経質になれるマニアの方なら、555をお使いになるのもたいへんにすばらしいと思うが、しかし、現実にはレコードをはれものにさわるように、ほこりが一つもつかないよ
うにという管理は、実験室内ですらなかなかできることではない。そういう点ではこの455の方が安定していると思うし、同シリーズ中のベスト・カートリッジと考えている。

オルトフォン FF15E MkII

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選4機種2万円未満」より

 オルトフォンは確かにカートリッジの専門メーカーであることに間違いないが、実際にはレコードをつくるカッティング・マシン、メッキ・システムなど、すべてレコードのマニファクチァリングのファシリティーをつくっているメーカーである。従って、レコードのことについては非常によく知っているわけである。
 そういうメーカーであるから、そのメーカーが開発するカートリッジが非常にすばらしいということは充分納得のいくことでもある。また、オルトフォンのカートリッジはあらゆるカートリッジ・メーカーの一つのお手本になっていると言ってもいい。
 そのオルトフォンが、ステレオLPレコード時代に入り、MC型のSPUシリーズでたいへんな好評を得、そして、さらにワイドレンジに製品のバリエーションをつくった。従来のMC型は生産効率も悪く価格も高いということから、大きく言えばMM型の一部に含まれる、つまり、コイルを動かす方式ではなく、オルトフォン独自のVMS(バリアブル・マグネティック・シャント方式)という、インデュースト・マグネットに近い方式の製品も手がけるようになった。その中でFF15EMKII、もちろんMKIIになる前はただのFF15Eだったが、普及クラスの価格の中できわめて品質の安定したカートリッジとして登場したものだ。
 このシリーズの中には、F15、FF15、さらにその高級版にはVMS20Eといったバリエーションがあるが、これらは基本的にはほとんど違わず要するに、非常に効率よく生産的につくっているということで、F15、FF15の実力は、実際のところ高級品VMS20Eなどとそう大きくは違わない。ただ、つくりやすくしているために、多少ムービンク・マスなどが大きい。そのために高域の特性がVMS20Eに比べ、それほど高いところまで伸びていないが、しかし、実際に使って音を聴いてみると、そのバランスのよさと使いやすさという点では、全く何の不足もないと言っていい。
 実際、1万円を切る値段の輸入力ートリッジで、これだけの信頼性とすばらしい音を聴かせてくれるカートリッジは、そうざらにはないだろう。
 そういう点で、オルトフォンという一つのすばらしいカートリッジの専門メーカーのブランド・イメージが、使う間にプレステージとして働きかける満足感のみならず、その満足感と相まって、実用的なパフォーマンスも非常に高いということが言えると思う。
 オルトフォンのサウンドは従来から一貫したバランスをもっており、私たちはそれをよくピラミッド型の音のバランスと言っているが、非常にしかっかりした重厚な低音にささえられ、その上に三角形のバランスのとれた帯域バランスをもっている。このFF15Eもそうしたバランスをいささかも損ねていない。具体的に言うと、非常に鮮明な音のするカートリッジで、その点でウォームな音のするカートリッジのグループとはやや趣きを異にするというのが、このカートリッジの持ち味であり、MM系に属するカートリッジ・グループの中では、やはり非常にすばらしいカートリッジだと言わざるを得ない。
 不思議なことに、メーカーそのものは意識をしていなくても、デンマークのオルトフォンという会社の体質が明らかに残っているということは、やはりこのカートリッジの存在の必然性をわれわれに感じさせる。

UREI Model 813

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・スーパースピーカー特選7機種」より

 UREIのModel813というスピーカー・システムは非常に変わったスピーカー・システムだ。UREIというのはユナイテッド・レコーディング・エレクトロニック・インダストリーの略で会社はアメリカのロスアンゼルスにある、プロ機器専門の小さなメーカーだ。現在までスタジオ用のエレクトロニクス・エクイプメントをつくっていて、かなり有名なメーカーだが、そこでつくったModel813が最近日本に輸入された。実際には全部このメーカーがつくったわけではなく、いわばスピーカーに関してはアッセンフリー・メーカー、そして、システム・デザインをこのメーカーがやったというふうに解釈していいと思う。
 つまり、使われているユニットは自社製ではなく、アルテックの604−8Gが使われている。ただ、そのまま使ってるという形ではなく、604−8Gのセクトラル・ホーンを取払い、見かけは非常にちゃちだが、プラスチック成形によるUREI製のストレート・ホーンにつけ替えたというものである。加えることに、もう一つ38cmのウーファーを併用しているのである。
 こういう構成はアメリカで最近はやってきた構成だが、非常にユニークな構成だと思う。そしてまた、このUREIのスピーカー・システムのもう一つの大きな特徴は、タイム・アラインド・クロスオーバー・ネットワークという、位相時間補正をエレクトロニカルにやった新しいデザインのネットワークを使っているということだ。このネットワークそのものはこの会社の設計ではなくて、TMという所のライセンスで使ってるもの。
 こういうふうにUREIというスタジオ・プロフェショナルのキャリアのある会社が、現在いいと思われるテクノロジーをユニットやネットワークに取り入れて、さらに全体的に総合的なモニター・スピーカーとしての音の質とバランスをいいものにするために、もう一つ38cmウーファーを使うという発想に、非常にユニークな点があると言えるだろう。
 また、タイム・アラインド・ネットワークの効果だと思われるが、モニター・スピーカーとして重要なフェイズ感が非常によく整っている。そのためにステレオの定位とか奥行き、あるいは立体空間の再現性、こういったものが非常によくなっている。したがって、モニター・スピーカーとして録音の調整をするのが非常に楽であるし、家庭用の再生用のスピーカーとレては、そのプログラム・ソースのもっているこまかい特徴を非常にはっきりと明確によく出してくれるよさにつながるという点で、最近の新しくあらわれたスピーカー・システムの中で、特に強く印象づけられたすばらしいシステムである。
 ところで、このUREIというスピーカーは未だ新しいスピーカーで、私もたいへん強い印象をもって気にいってるスピーカーだが、実際に輸入元からサンプル用として出回った程度だから、まだ、いろんなアンプで鳴らしたという体験がない。したがって、たまたまその時に私が鳴らしたものが、かなりいい音がしていたことは事実なので、その組合せを推薦するほか責任がもてない。だから、それ以上の組合せがあり得るかもしれないし、ここで当てずっぽうにほかのアンプで鳴らして、とんでもない音になっても無責任なことになるので、実際私が鳴らした組み合わせを推薦しておくことにする。
 プリアンプはマッキントッシュのC32、パワーアンプがアキュフェーズのM60だ。ターンテーブルはその時のものでなくていいと思うが、私としてはこのぐらいのシステムを鳴らすならばかなりの高性能のものがいいと思うし、デザイン的にもこのスピーカーが相当ラボラトリー・イメージなので、必らずしもきれいなデザインのプレイヤー・システムを使う必要もなかろう。テクニクスのSP10とフィデリティ・リサーチのFR64Sというトーンアームと、カートリッジとしてはいつも私の標準機として使用するエラックのSTS455E、それにMC型としてオルトフォンの新しいMC20、この辺をラインアップとしてそろえれば、UREIが生きてくるシステムになり得ると思う。

アルテック A7-X

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・スーパースピーカー特選7機種」より

 アルテックのA7Xというスピーカー・システムは、アメリカのアルテック・ランシングというたいへんに歴史のあるオーディオ・メーカーの代表的なスピーカー・システム、〝ザ・ボイス・オブ・ザ・シアター〟と呼ばれるシリーズの最新型である。アルテック・ランシングというのは、よくご存じだと思うけれども、ウェスタン・エレクトリックのスピーカー・ディビジョンが分かれててきた会社で、現在アルテックと双壁といわれているジェームズ・B・ランシングという会社のランシングという人が中心になってスピーカーをつくり出した会社だ。その後ランシングは独立してJBLという会社をつくったという歴史をもっている。
 アルテックの劇場用スピーカーに対する技術の積み重ねは世界一で、そこから発展して当然、レコーディングのモニター用としてのスピーカーのあり方、そして、レコーディングのいろいろな周辺機器、ミキシンク・コンソールとか、アンプリファイアーなどを全部手がけているが、中でもA7というシリーズはその代表的な製品で、非常に独特な設計のショート・ホーンをもったウーファーと、その上にホーン・ドライバーを組み合わせて2ウェイの構成をとっていることが、この製品の特徴だ。
 劇場用スピーカーにもかかわらず、日本においては多くの音楽ファンがアルテックのA7の音のよさを評価して、あえて趣味の対象として使っているのは承知の通り。こういうスピーカーを現時点のテクノロジーでもう一回洗い直そうということを、アルテック社はやったわけで、A7Xは何十年来のA7シリーズを現代のスピーカー・エンジニアリンクによって、基本的な設計をそのままにしてこれを洗練させたものである。
 アメリカにおいては、これが家庭に入って趣味の対象として使われているというケースは、非常にまれだが、このことは、日本人の耳の洗練さと、それから、ものの本質を見極めるマニアの高い眼力と情熱を物語っているのかもしれない。
 スピーカーの代表として、世界で五本の指の中に入るスピーカーといえば、A7は落とすことができないだろう。その最新版がA7Xである。
 このスピーカーは、50Wクラスのプリメインアンプで鳴らしても相当な成果が得られると思う。たとえば、国産のアンプの50Wから100Wぐらいのプリメインアンプの優秀なものなら、このスピーカーの可能性を十分引き出すことができるだろう。ただ、ここで全体的にバランスのいい、高級なシステムだと思えるようなものを組み上げるということからすれば、私はマッキントッシュのアンプをA7Xに組み合わせてみたい。
 プリアンプにはC32、パワーアンプにはMC2205、この2つの最新型のマッキントッシュのアンプの組合せにより、A7Xのもっている質のよさと風格がさらに生きてくると思われる。
 ターンテーブルはデンオンのDP7000、トーンアームは新しいオーディオクラフトのAC3000MCを組み合わせてみたいと思う。カートリッジはオルトフォンのSPU−Aをつけよう。ただ、SPU−Aは最近の振幅の大きなレコードに、ときとして問題が出るかもしれないので、ハイコンプライアンスのエラックのSTS555Eをもう一つ加えよう。
 プレイヤー・ベースはこうなったら、各人の好みによって既成のものから選ぶか、あるいは、自分でデザインしてつくらせるか、このラインアップにふさわしい重量級のデザインのすばらしいものをつくり上げてみるということで、いかがだろう。

マッキントッシュ XR6

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・スーパースピーカー特選7機種」より

 マッキントッシュのスピーカーとして、一番新しい製品で、構成は4ウェイ4スピーカーからなっている。トゥイーターとスーパー・トゥイーターがドーム型、ミッド・パスが20cmコーン型、30cmウーファーが使われている。
 マッキントッシュのスピーカーは日本ではポピュラーな存在ではないが、最初のシリーズからすでに5〜6年のキャリアを持つものである。基本的な開発の思想は旧シリーズと同じでトータル・ラジエ−ション、指向性をできるだけ均一に各周波数帯域にわたり等しいエネルギーをラジエートするという考えで作られている。さらに本機は、各ユニットからの放射される音の到達時間をコントロールすべくネットワークに工夫がある。つまりタイム・アラインメント・ネットワークの採用だ。
 今までのマッキントッシュのスピーカーは、どうも中域が薄く、素晴しい、品位のある音だが、中音域の再現が不満だったが今日の試聴ではそういうことは全くなくて、非常に高品位のガッチリと締った素晴しい音が得られた。デザイン的には、昔のデザインから見ると確かにさりげなくなってしまって、私も個人的にあんまり好きな形ではないが、しかし音を聴いてみて、音くずれのない、非常に定位のいい、普通のスピーカーでは分からないような定位がハツキリ出てくることを認識した。位相特性が素晴しいので、自分の録音したレコードを聴いてみると、録音時に使用するモニター・スピーカー以上にマイク・アレンジの細かいところが出てくるのには驚かされた。これは、モニターとしても大変優れていると思う。マッキントッシュの言うように、非常に忠実な変換器として、音響パワーが各周波数帯域にわたって均一であるということが、この素晴しいフェイズ感による定位の良さ、パースペクティブが得られる原因なのだろう。
 これは、今の日本での評価が(XR6については、これからだろうと思われるが)今までの評価をくつがえしてもしかるべきだと感じる。今まで何回か聴いてはいたが、これほどのいい音を聴いたことは今回初めてだ。その意味でこのXR6という製品が特別優れているのか、あるいは今までのものはじっくり聴いたわけでないので、デザインからくる印象があまり良くなかったという点と、値段が非常に高いということで、一般にはあまり推められないなという印象によってマイナスの評価が強かったのであろう。今日このスピーカーを聴いてみて、こういう印象が全く改まり、やはりさすがにマッキントッシュらしい最高品位のスピーカーだなという感じが強くした。とにかく音がソリッドで強固で、そして物理的に素晴しい特性を持っている。レコードの細かいマイク・アレンジの全てまで分かるということは、これはスピーカーとしていかに優秀であるかの証明だと思う。このスピーカーの値段は約30数万円というところだろうと予想できるが、十分その値段に値するものではないかと思う。
 ただアンプリファイアーのデザインなどから見ると、デザインと仕上げに関してもうひとつ、マッキントッシュに期待するものが大きいだけに少々失望させられざるを得ない。この辺が魅力的なアピアランスに仕上っていたら最高の製品といえるのだが……。
 組合せはいろいろと考えられるが、やはりせっかくのマッキントッシュのスピーカーだから、アンプリファイアーはマッキントッシュを使いたいということで、最近の新しいプリアンプのC27という製品ということにしよう。C32を最高とするシリーズの中でマッキントッシュとしては、廉価版ということだが、各種機能をシンプル化し、基本性能は明らかにマッキントッシュのプリアンプとしての面目を保った素晴しい性能の製品だ。
 このスピーカーは最大許容入力200Wということだが、私の経験からしてもスピーカーの最大許容入力以下のアンプを使ってもそのスピーカーの能力は100%出てこない。200Wの許容入力のスピーカーなら最低200Wのアンプ、300Wくらいのアンプで鳴らしたいということからマッキントッシュのMC2300が望しいが、値段が相当高いので、ここては、アキュフェーズのM60を2台使うことにしよう。
 プレイヤーは、デンオンのDP7700を使うことにして、カートリッジはこれくらいのクラスになると実際に鳴らしてみて決めるべきだと思う。エラックSTS455Eで鳴らしてみたが、ここで聴く限りでは、大変素晴しいと思う。STS455Eとか555EとかフィリップスGP412II㈵とかオルトフォンのM20FL Super、MC20といったクラスのカートリッジを付けて自身の好みに合わせて選ぶべきで、これひとつがベストだという域の組合せではないと思う。

パイオニア CS-955

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・ブックシェルフ型スピーカー特選8機種」より

 パイオニアのCS955というスピーカーは完成に、紆余曲折をもって開発されたスピーカーだ。このスピーカーの開発の過程をつぶさに見てきて、わかるが、常識的に言うと、スピーカー・システムとしてトータルの完成は難しいと思われるようなユニット構成なのである。スコーカーにかなり大口径のドーム型を使っていて、トゥイーターにはリボン型という、珍しい特殊な構成がそれだ。スピーカーというのは変換器としての性能と別に、必らず構造上、あるいは材質上からくる音のキャラクターをもつ事は避けられない。そういう意味からすると、コーン・ウーファー、ドーム・スコーカー、リボン・トゥイーターという組合せは、キャラクターを統一させることが非常に難しいものだといわざるを得ない。
 ただ、個々のユニットは実に最高性能をもっていて、PT−R7というリボン・トゥイーターはパイオニアの単体として売られて非常に高い評価を得ているすばらしいものだし、ドーム型のスコーカーは単体売りはされていないが、その昔、これの原型になる大変手の込んだ手づくりのスコーカーの発展したものだ。パイオニアはこの原型のスコーカーを使って3ウェイのシステムを出したことがあるが、その時にスコーカーがすばらしすぎて、ウーファーとのつながりが悪くて、まとまりが難しかった。これはある部分がよすぎるのもたいへんなことだなということをわれわれに感じさせたほど、大変すばらしいスコーカーだったのである。それをかなり仕様変更してリファインしているわけだが、基本的には同じ設計の大型ドーム・スコーカーをここでも使っている。
 CS955の成功の秘訣は、2つのユニットのすばらしさはもうわかってる事だけれども、結局ウーファーだと思う。ウーファーとエンクロージャーがうまくいったためにこの3つのユニットが非常にスムーズにつながったのではないかと考えられる。
 というような、かなりこまかいプロセスを経た結果、CS955は、大型ブックシェルフ・スピーカーとして最高の品位をもったスピーカー・システムと言っても過言ではないものに仕上った。音について部分的なことを言っても意味がないが、先ほどいったように、スコーカーとトゥイーターは単体の変換器として最高の性能をもっているので、部分的に悪かろうはずがない。そして、全体がここまでの違和感のないトータル・バランスでまとまったということは、システムとしての完成度がいかに高いかということの証明になるだろう。
 非常に繊細でなめらかで、しかも豊かな音。力感という点においては大型ホーン・システムには一歩譲るところもあるが、実に品位の高いシステムだ。どちらかというと、低能率変換器タイプの音で、音がワッと屈託なく出てくるというのでなく、ある節度をもって出てくるという傾向の音である。
 このスピーカー・システムはブックシェルフだから、ほんとうはあまり大げさではないアンプで鳴らしたい気持ちもある。つまり、プリメインアンプの高級なもので鳴らせたらベストだと思うが、このスピーカーをフルに生かすとなると、矢張りイメージアップしてくるのがセパレートアンプということになってしまう。そこでコントロールアンプとしてはアキュフェーズのC200S、パワーアンプとして同じアキュフェーズのP300S、この2つをドライヴィング・アンプとして使えば、このスピーカーとして100%の性能を発揮させることがてきると思われる。
 プレイヤー・システムは数ある中から特にこれにとってピッタリくるシステムを選ぶことは非常に難しいが、現在出ているプレイヤー・システムの中から、これならばこのクラスの製品と格負けもしないし、性能的にも相当すばらしいものというような意味で、ビクターのQL−A7。これはコストとしては最高級という値段ではないが、堅実で緻密な仕上げの価値の高い製品。特に今までビクターのプレイヤーで私が個人的に一番気にいらなかったベースのデザインが、これはとてもよくなった。ローズウッドの美しいつやのあるビニール加工が施こされたベースで、これならプレイヤーとしてレコードをかける楽しみを感じさせてくれるという感じになった。使い勝手もいいし、ハウリング・マージンも大きくとれているし、機能的な面でも実用的な価値の高いプレイヤー。
 カートリッジはエラツクのSTS455Eと並んで私の好きなカートリッジで、高域に多少味というか、魅力というか、引っくり返せばくせというか、そういう感じが気になる方には気になるかもしれないし、好きな方にはそれが魅力になるフィリップスのGP412IIを選ぼう。

JBL L110

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・コンパクトスピーカー特選8機種」より

 JBLについてはいまさら申し上げることもないと思うがアメリカを代表するスピーカー・メーカーである。
 JBLはスピーカーのシステム化がたいへんにうまいところで、非常に数多くのシステムを出しているが、ユニットを合理的に組み合わせてシステム化しているのが、このメーカーのスピーカーのシステムの特徴だろう。ところが、L110というのはそうした中で今までになかったシステムというか、新設計のシステム。つまり、昔からのJBLのオーソドックスなスピーカーではなくて、新世代のJBLのスピーカーと言うことができる。JBLとしては非常に数少ないドーム・トゥイーターを使ったシステムの一つでウーファーは、ノン・コルゲーションの、これもJBLとしては珍しいタイプの、一つの新しいユニット構成によるブックシェルフ・スピーカーである。
 L110は大きさとしてもブックシェルフ型だから、JBLの中では最高級なスピーカーとは言えない。おそらく中級ということになる。構成はスリー・ウェイのスリー・スピーカーで、上がドーム型で、スコーカーとウーファーがコーン型。これがJBLのお得意のパイプ・ダクト式のバスレフの変形のエンクロージャーに納められている。デザインは全く新しいJBLのデザインで、従来のJBLのデザインから見ると、イメージがかなり変わったようだ。コンシューマ・ユースてありながら、ややプロフェショナルのモニター・スピーカーというふうな様相が濃くなった。だから、私のイメージでは、これはプロフェショナル・ユースのスピーカーというふうに受け取れるのだが……。
 さすがにJBLらしいすばらしいスピーカーに仕上がっていて、音の力というか抜けのある低音ということがよく言われるが、この場合はむしろ張りのある低音がいかにも魅力的。全帯域にわたって音のバランスはたいへんよく整えられていて、JBLのスピーカー共通の非常に積極的な表現である。決してソフトにぼかしてアラを出さないというのでなくて、ある音はそっくリズバスバ出してくるという積極的な表現のスピーカーだ。
 それだけに、このスピーカーを鳴らすには、プログラム・ソースからプレイヤー、アンプリファイアーに至るまでがハイクォリティのものでないと、どっかのバーツのアラをちゃんと出してしまうことになるだろう。JBLが妙な耳ざわりな音で鳴っているのは、必らずどこかに何かの欠陥があると言ってもいい。全体に欠陥がなければ、JBLは決して耳ざわりな荒々しい音を再生するスピーカーではない。
 組み合わせるアンプリファイアーとして、私はこのスピーカーをかなり高級なアンプで鳴らしたいと思う。セパレートアンプを組み合わせてみたいと思うので、ヤマハのC2、B2でいきたいと思う。それはこのスピーカーのもっているデザイン的なイメージからいっても、ブラックで統一したいと思うのと、音も相当緻密な精緻な感じで整えたいということによる。ヤマハのC2、B2のコンビネーションでL110を鳴らすことが、イメージ的にも音の面でも最もピッタリくるのではないかと思うのだ。      プレイヤーも外観上あまり明るい傾向のものではイメージに合わないのて、そういう意味から、アンプと同じヤマハのYP−D9がいいのではないか。あるいは、もう一つの候補として、サンスイのSR929を推薦したい。

BOSE 301

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・ブックシェルフ型スピーカー特選9機種」より

 ボーズ301というスピーカーは、アメリカのマサチューセッツ・ボストン郊外にあるボーズ・コーポレーションのつくっている普及型スピーカーてある。ボーズ・コーポレーションというのはMIT、つまり、マサチューセッツ・インスティテュートの教授であるドクター・ボーズの創立したメーカーで、独特な録音再生の理論からつくり出されたユニークなスピーカーを専門に作っている。その理論の要点は、「音というものは絶対にマルチ・フェイズの間接音成分が重要である」ということである901システムでは、名前が示すように9個のユニットがついているが、そのうち前を向いて直接聴く人間に音を放射するスピーカーは1個だけだ。あとのユニットは全部後向きについて部屋の中で間接音をつくり出すというシステムである。この301は、ボーズ社がその理論を完璧に再現するということではなくて、多少そうした要素を取り入れて普及的なスピーカーをつくったというものだ。
 これは普通の直接放射型のスピーカーで、前面にユニットがつけられた2ウェイのスピーカーで、ユニークなポイントは、トゥイーターの前にリフラククーがつき、それが外から角度を変えることができるということだ。これによって室内での高域のラジエ−ションをコントロールすることができるというのが、このスピーカーの特徴でもある。比較的コンパクトなサイズの2ウェイ・スピーカーであり、値段的にも気楽に使える外国製の小型ブックシェルフ・スピーカー、あるいはコンパクト・スピーカーの部類に入ると思う。
 音は非常に魅力のあるきれいでさわやかなシステムで、この辺の音のよさはつくったメーカーの意識外のところでわれわれに何かサムシングを感じさせると言わざるを得ない。とにかく、トゥイーターの質がとてもよく、何の変哲もないコーン型のトゥイーターであるが、極めて歪感の少ない、繊細なさわやかないい高音を再生してくれる。いろいろなプログラム・ソースに対して、よくバランスした再生音と、質の高い美しさを感じさせる、これは一種の美音と表現してもいいかもしれない。特に、弦楽器の高音、あるいは、シンバルの高音など非常に繊細にしなやかに鳴ってくれる。低音も小型ながら非常に豊かで、押しつけがましくない魅力のあるものだ。
 このスピーカーを鳴らすアンプリファイヤーとしては、やはり中級クラスのプリメインアンプということになるだろう。その辺のアンプは国産にたくきんいい製品がひしめいている。その中から、デンオンの新しいDC化した中級アンプPMA830などはかなりいい表情で音楽を再現するアンプだと思う。プレイヤーは、こういうさりげなく使うスピーカーを鳴らすということから、フルオート・プレイヤーをおすすめしたいと思う。その中でも何枚かのレコードをマルチ・プレイ操作可能のオート・スタート、オート・ストップ、リピート・プレイ、マルチ・プレイ操作可能なテクニクスSL1950。これは値段的にも5万円を切っているプレイヤーで、トータル価格もそう高くならないと思う。このあたりのシステムで気軽に、生活の中に常に音楽が鳴っているという使い方で構成したら、この301が生きてくるのてはないかと思う。

オンキョー M-55

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・コンパクトスピーカー特選4機種」より

 オンキョーのM55というスピーカーはブックシェルフ型の完全密閉型2ウェイ・スピーカーで、エンクロージュアのサイズからすると、これは俗称コンパクト・スピーカーといわれるところに位置するものだ。現在のスピーカーの一つのストリームの中で、コンパクト・スピーカーとミニ・スピーカーというのはかなりの流行のきぎしを見せている、あるいは、実際流行しているのかどうかは知らないが、このM55はそうしたストリームの中で開発されたコンパクト・スピーカーだと私は思う。このぐらいのサイズのスピーカーは昔からいくらでもあるわけだが、ことさらいまこのスピーカーにわれわれが注目するというのは、そうしたコンパクトなサイズの流行の背景を意識してオンキョーが開発したというところだろう。この手のスピーカーで評判のいいスピーカーは他社から幾つか出ているわけだから、そういうスピーカーの中でのコンペデイターとして非常に新しく開発されたスピーカーだけあって、なかなかいいところをもったスピーカーである。
 スピーカーそのものをもうちょっと詳しく説明すると、20センチ口径のウーファーにソフト・ドーム・トゥイーターを組み合わせたものだ。現代のスピーカーは、きわめて明快なハイ・フィデリティ的な再生をするが、音がとにかくシャープであってあくまても克明に再現をする一方、音楽のもっている雰囲気とか、やわらかさとかあたたかさというものをついつい犠牲にしてくるようなスピーカーが多い。その中にあってこのスピーカーはたいへんにウォームな音をもっている。
 これはひっくり返せば、実は、このスピーカーのもの足りなさにもつながるだろう。小さいスピーカーはともすれば、小さいけれども大型に負けないぞというような気張りが、普通はあるが、そうした気張りのあるスピーカーに限って、高域に相当くせがあったり、低域がやたらに強調されたりするものだが、このスピーカーの音の出方は非常に素直におおらかにフワッと出てくる。つまり、そういうう音の気張りのないところが、このスピーカーの何よりもいいところであろう。
 それでいて、実はこのスピーカーはたいへんな耐入力特性をもっていて、実際にピークで150ワット・200ワットは平気で音くずれなく再生する。そういう意味では、非常にタフなスピーカーであることは事実だ。タフネスという点ではミニ・ジャンボだが、しかし音そのものが、あくまでも大型スピーカーに対抗しようというふうなつっぱりがないところが、このスピーカーのよさではないかと思う。
 組合せだが、こういう小さいスピーカーは、小さいから小さいワット数のアンプでと考えると、危険性がある。かといって、いくら何でも、2万円台の、しかも小型スピーカーに何10万円の大型アンプというのも、アンバランスだ。そういう点からなんとかこのスピーカーを鳴らすのに適当なアンプリファイヤーということになれば、プリメインアンプの中級品ということになってくるだろう。サンスイのAU607、707、あるいは、オンキョーのインテグラA705DC、これらのアンプで鳴らせば、このスピーカーがかなりの実力を発揮してくれるのではないかと思う。
 プレイヤーはあまり大げさなものを使う必要はないだろう。ビクターの一番新しいQL−A7なら申し分ない。
 カートリッジの方は、少し締めて鳴らしてもいいと思うので、エラツクのようなカートリッジよりも、むしろオルトフォンのF15とかFF15の方が、このスピーカーのちょっとした甘さをカバーして、明快な感じに音をバランスさせてくれるであろう。

ヤマハ CT-7000

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

主張の強いデザインにオーソドックスな機能と性能が内包されている。

アキュフェーズ T-101

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

新しい製品ではないがすべてにチューナーの基本性能を確立した優秀機。

オーレックス ST-720

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

ユニークなアイデアの使う楽しみに溢れたマニア向きチューナー。

オンキョー Integra T-408

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

ローコストながらチューナーの基本性能と音質に優れた製品。

マッキントッシュ MR78

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

高周波部門に長いキャリアをもつ同社らしい最高級チューナー。

デンオン TU-1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

操作性にヒューマニティを残した本格的高級チューナー。

ラックス T-12

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

独創的な操作性とデザイン感覚の冴えた製品。

トリオ KT-9700

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

オーソドックスなデザインと高度な性能を併せもった好水準器。