菅野沖彦
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より
マッキントッシュ社は、一九四六年に創立以来、アンプリファイアーの王者としてこの世界に君臨してきたメーカーである。それも、当時としては大変にユニークな低歪率のトランスの特許を獲得し、それを前面に打ち出した製品を開発してきただけではなく、アンプリファイアーというものを、オーディオの好きな人たちに、その物としての芸術的な香りさえも感じさせるほどの素晴らしいデザインと高い仕上げで見せてくれたメーカーとして、マランツと並んでオーディオ史上に燦然たる不滅の輝きをもつ名門なのである。
その名門マッキントッシュの最新の最高級コントロールアンプが、このC32である。マッキントッシュといえば歴史の長いメーカーだが、いまだにパワーアンプには頑強に出力トランスを搭載しているということから、ついつい古いメーカーのイメージ、あるいは古い技術というように最近では思われている。しかし、これは大変な誤解である。マッキントッシュの技術開発は、常に前向きの姿勢で行なわれ、常にその時点での最新のテクノロジーを追求しているのである。ただ、いまアメリカにおいては新しいメーカーが雨後のタケノコのように生まれつつあり、そして新しい製品を発表しているわけであるが、そうしたメーカー間の兢争ということでみれば、確かにマッキントッシュは古いといって押しのけるには都合がいい。しかし、だからといってそれを鵜呑みにすることは、私は非常に浅はかなマッキントッシュに対する理解だと思うのである。
私の理解する限り、マッキントッシュのテクノロジーは、最新メーカーの若いエンジニアのテクノロジーに比べて、いささかも古いとは思わない。むしろ、マッキントッシュは、商品として世に送り出すときに、技術の新しさだけを売物にして、あるいは製品に神話を結びつけて売る、などということをしないメーカーなのである。お客様に対して、音楽を聴く上において豊かな満足感の得られる、そして完成度の高い美しい製品を提供するという姿勢をもっているのだと思うのである。そういう意味で、私はどうも最近のマッキントッシュに対する理解は、少し付和雷同型の人たちによって過小評価されつつあるような気がするのである。
このC32にしても、使用されているパーツ、素子、ディバイスなどは、選り抜かれた新しいものが使われているのである。回路にしても従来からの伝統は踏襲しているが、歪率ひとつとっても確実に従来のモデルから一ケタ減らしているのだ。したがって、決してテクノロジーのニューウェーブに立ちおくれているものではないと思うのである。
そして、このC32のもっている魅力は、マッキントッシュ伝統の美しい、しかもユニークなグラスイルミネーションのりパネルデザイン、音の重厚な風格 そしてさらに洗練された透明感が加わった音にあるのである。
最近のマッキントッシュは、このコントロールアンプC32のあとに、従来のC26の後継機種ともいえるコントロールアンプC27を発表したが、最新のテクノロジーを駆使したアンプシリーズをまとめようとしているようである。このC32は、そのニューシリーズのコントロールアンプにふさわしく、従来のマッキントッシュのアンプにあった重厚な音に、非常に透明度の高い、スムーズな美しい輝きが加わった製品である。そういう意味で、音の点からいっても、独特なイルミネーションパネルの重厚なデザインや仕上げからみても、私は現在のコントロールアンプの最高峰として、このC32は、当然〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれるものであろうと思うのである。
実際に音を聴いてみても、自分の家に持ち込んでもうずいぶん長い間使っているが、実際に使ってみても、製品を手にしてみても、現在の数多くのコントロールアンプリファイアーの中で、このC32はやはり最高のコントロールアンプというに値する製品ではないかと私は思うのである。
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