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ジェフ・ロゥランドDG Consummate + Model 9(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 パワーアンプのモデル9は、2ブロック構成のアンプ部と電源部を、同じ床面に左右チャンネル間も、相互干渉のないように十分に離して設置することが、本来の音質を得るための必要条件であるが、通常のこの試聴室のパワーアンプの設置位置では、スピーカーの音がアンプ筐体に反射をし固有音が発生することがあって、仕方なく左右スピーカーの内側に電源部、アンプ部二段重ねとした。しかしこの状態でも左右がやや近接しているため、モデル9の本来の音を聴くためには不十分な置き方ではある。接続はすべて平衡ケーブルを使い、パワーアンプの利得切替えはローである。
 最初の音は、視覚的イメージに反し、小型な50Wクラスのパワーアンプを思わせる、スッキリと爽やかで、可愛らしい音であり、音場感的拡がりも、標準より狭く小さくまとまる傾向である。ウォームアップでの変化は、3分間ほどで中低域の豊かさが加わった反面、線の細いクリアーさが薄れ、中域をも少し抑えた穏やかな音に移行する。5分間ほど経過すると高域が目覚めはじめるが、表情は抑え気味で温和な聴きやすい音である。さらに高域の見通しのよさが加わると、中高域から高域に独特のしなやかで濃やかでナイーブな印象となり、非常に魅力的、かつ、耽美的ですらある。
 さらに約3分間ほど経過すると、全体行きにわたり、いかにも目覚めたような音に移行し、徐々に穏やかに同じ方向にウォームアップは進む。トータル約20分間でほどよく音のエッジが張ったクリアーさが加わり、このあたりが最低限度のウォームアップタイムとなるが、音場感的に聴けば左右の拡がり、奥行き方向のパースペクティヴでも不満な面が残っている。
 音のディテールをさりげなく聴かすだけの、海外製品としては優れた聴感上のSN比の高さが、このシステムの大きな魅力である。帯域バランスはフラットで、ワイドレンジ感は意識させないが、ほどよく密度感を保ちながら、低域、高域とも必要にして充分なレスポンスを聴かせる。音色はやや沈んだ傾向を示すが、これは、CDプレイヤーのアキュフェーズDP90/DC91との組合せによるものかもしれない。
 1時間半ほどたてば、次第に力強さ、反応の速さが顔を出し、オーソドックスでナチュラルな本来の魅力が聴かれ、低域と高域のユニットの形式の違いによる質感の差も感じさせず、よく鳴りよく響く正統派の音は実に魅力的である。やや色彩感を抑える傾向はあるが見事な音だ。パワーアンプの利得をハイにするとスッキリと広帯域型となるが薄味だ。

パイオニア Exclusive C7 + Exclusive M7(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 このアンプは、入出力信号系は不平衡型がメインで、平衡型にはすべてトランスで変換する設計であるため、結線はすべて不平衡で行なう。各アンプの設置場所は標準位置である。
 信号を加えた最初の音は、小さくまとまった、ひっそりした音で、それなりにまとまった音を聴かせる。
 数分間ほど経過すると、中低域の量感が加わり、全体に柔らかく、おとなしい音となり、中高域の見通しがよくなる。
 時間的にはゆっくりしたテンポでウォームアップは進み、聴感上で不足した部分が徐々に埋められていくように内容が濃く、充実していく変り方で、従来とは少し異なったウォームアップの傾向であり、最近のトップランクのアンプにみられるタイプだ。
 ウォームアップは素直なタイプで、ゆるやかではあるが一定の方向に進み、音の細部が少し見通せる音になるのは、おおよそ1時間は必要だ。その後は音場感的な情報量が増し、奥行き方向のパースペクティヴがナチュラルに感じられるようになると、ほぼ2時間は過ぎていることになる。
 S9500は、音場感的な再生能力は抜群で、とくに奥行き方向の拡がりの見事さは、これならではの魅力であるが、逆に言えば、アンプの音場感的な再生能力をチェックするためには、最適なスピーカーシステムであろう。
 低域は柔らかく、音の芯の甘さは残るが、アンプとスピーカー間はほどよくコントロールされているようで、かなりしなやかな低域の表情を聴かせる。
 中域以上も素直な音をもつため、このアンプ専用に部屋とスピーカーのセッティングを行なえば、スピーカー後の壁を超えてタップリと拡がるプレゼンスの良さと、しなやかで力感にほどよく裏付けされたナチュラルな音を手にすることができよう。
 TV電波などの外乱には、パワーアンプにやや弱い面があるようで、高域の伸び切った感じや、上下方向の音場感で高さを聴きたいむきには、少し不満を残すが、この試聴室の条件の厳しさでのことであり、一般的には問題ではなかろう。
 安定型で茫洋と鳴りやすいスピーカーを、柔らかく、豊かな音ながらほどよくシェイプアップし、いかにも2ウェイ型ならではの爽やかさ、鮮度感の高さを持つ音として聴かせるが、内面的にはストレートに押し出す強靭なエネルギーをもっているようで、時折グイッと押し切るようなダイレクトな表現が感じられることがある。平衡入出力では、ややナローレンジの管球アンプ的な音に変り、油絵的な陰影の深さは別な味だ。

アキュフェーズ C-280V + A-100(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せから、試聴第2日目になる。スピーカーは、かなり部屋に馴染んできたようで、内容が充実し、2ウェイ方式らしいキビキビとしたイメージが聴き取れるようになり、AC電源もプリヒート中の試聴アンプが減り、基本的に電源事情が悪いだけに差は大きい。
 S9500を除けば、すべてアキュフェーズのラインナップによるシステムでの音出しである。C280V+A100は、ステレオサウンドで私がリファレンスに使うアンプで、すでに一年間ほど使い込んでおり、ややモヤッとした音から、ややスッキリとした音に変り、低域、中域、高域とステップ状にウォームアップする傾向があるが、今回はスピーカーが異なり、CDプレーヤーも異なるため、それなりに期待して音を聴きたい。
 最初の音が出た瞬間の響きのみで、すべてのエレクトロニクス系が、同じアキュフェーズという、ある種の協調性、調和性に裏付けられた、筋の通った、響きあい、溶けあう音が聴かれるC280V、A100、DP90/DC91と、それぞれがリファレンスとして完成されたコンポーネントであることの証は、見事にウォームアップ以前の音に表われているようである。
 温和で、散漫な音から始まるウォームアップは従来と変りはないが、次に全体に引き締まり、タイトで前に力強く押し出す音への変化はかなり明瞭で、ややコントラストを抑えながら肉付きを増し、次第に低域から高域に向かい目覚めていく。CDプレーヤーが情報量が多く、量感があり、かつ充実した中域をもっているだけに、ウォームアップは明瞭で反応が速く、不要感が伴わないのがよい。S9500は、量感はあるが少し腰高の軟調な低域を聴かせ、今回聴いたアンプの標準的な音ではあるが、もう一段ダイナミックさが欲しいようだ。
 このあたりは、パワーアンプの定格パワーと現実のスピーカー駆動能力の違いが音に出る例で、2ウェイ型では、それ自体のエネルギーバランスが加わるため、同じようなバランスでも、鳴り方、響き方や表情が大幅に変化するものである。
 もともと、リファレンスシステムとして使っているシステムだけに、約1時間もすればウォームアップは安定し、オーディオ的にも音楽的にもほどよい魅力ある音が聴かれ、とくに一貫したサウンドポリシーによる音は、好みを超えた誰にでも納得できる高度な次元に位置付けされ、S9500を、少し手綱を引き締めて鳴らす性質は、いかにもリファレンスシステムならではの信頼性、安定感である。

マッキントッシュ C40 + MC1000(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せはプリアンプがランク的にはパワーアンプに見合わないが、最初はプリアンプにC34Vを使い、C34VがニューモデルC40にチェンジするとのことで、再度、C40で聴いたため、両者の比較をも交えてのリポートすることにしたい。
 穏やかで、十分に熟成された大人の風格をもつC34Vと比べ、C40は、明らかに新しい世代に変ったと思わせる、ストレートで鋭角的、情報量が一段と増えた音を聴かせる。ウォームアップにしたがい、生硬い表情のドライな音から、まず低域の量感に始まり、中高域の明瞭度、中域の充実というように階段的に、かつ交互に内容が濃くなり、積極的に音楽を聴かせる新しい魅力を発揮しはじめる。しかし、基本的には伝統を正しく受け継いだ、同社の文法に則ったというほかはない音である。
 パワーアンプMC1000は、まさに王者の貫禄を示し、プリアンプからの音を余裕タップリに受け止めているようで、ウォームアップ中の自らの変化は、時折垣間見せるにすぎないようである。
 基本的には、アンプを御するS9500も、MC1000ともなれば逆にスピーカーが掌に乗る印象になり、2ウェイシステムの極限に近い情報量を送り込まれるが、決して限界を超えてドライブしないあたりは、さすがにマッキントッシュのパワーアンプらしい、優しさともいうべき美点であろう。予想以上にアンプとスピーカーシステムが調和を保ちながら、それぞれの個性を穏やかに色濃く聴かせるのは、好みを超えた素晴らしさというほかにない。
 柔らかく豊かで、しなやかに歌いあげる音は、マッキントッシュのS9500の独自の世界ではある。周波数特性的な聴き方では、高域と低域の両エンドをわずかに抑えた安定型のバランスで、かなりフラットなレスポンスを示し、音のコントラストは全般に抑えたタイプだ。この音は、C40のイコライザーを活用し、音に抑揚をつけ、調和を保ちながら好みの音色に溶け合せるための素材に最適であろう。さらに、C40は連続可変型ラウドネスコントロールも備え、音の躍動感、鮮度感を満たすためには、エキスパンダー機能が決定的なアシストをするだろう。これらを抑え気味に使えば、快適に表情豊かな音楽が楽しめるが、モニターライクな音像定位、位相関係をチェックするには、不向きというリスクは残る。しかし、それらの問題を超えた音の魅力は絶大で、各種プログラムソースを新旧の区別なく見事に聴かせるこの音は、オーディオ的な面と音楽的な面が両立した見事な世界だ。

カウンターポイント SA-5000 + Natural Progression Monaural Power Amplifier(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せは、ふところの深い、格調が高く、雰囲気のよい、サロン風の音を求めての選択である。
 プリアンプのSA5000は、ハイブリッドタイプならではの、ソリッドステートと管球方式の魅力を併せもたせる、という至難な技を実現した稀有の存在ともいうべき見事なモデルである。
 ペアとしたパワーアンプNPAは、ナチュラル・プログレッション・モノーラル・パワーアンプの頭文字をモデルナンバーとした新製品で、入力段に真空管、出力段にバイポーラトランジスターとMOS−FETの両方の特徴を備えるという、IGBTを採用したモノーラルパワーアンプだ。
 結線は、不平衡である。
 標準的なプリアンプ出力(ダイレクト出力)からの結線では外乱によるノイズ発生があり、バッファーアンプ出力からパワーアンプに送るが、許容限度のノイズは残っており、高域のディフィニッションが低下した音になるだろう。
 最初の音は柔らかく、モヤッとした音だ。
 ウォームアップは、NPAではかなりな時間はさして大きな変化を示さず、その後比較的短い時間で、音質、喜色の変化がステップ的に変る傾向があるようである。
 初期段階の20〜30分間あたりのウォームアップで聴けば、柔らかさの内側にかなり硬質なコントラストの強い部分があり、そのどちらを重視するかで、音の印象度は大きく変る。
 しかし、2時間ほど鳴らし込めば、雰囲気がよく上品で耽美的ともいわれるカウンターポイントの音に、反応の速さ、鮮食感、ソリッドな表現、といった新しい魅力が加わった音が聴かれるようになる。
 かなりの音を整理し、音楽の聴かせどころを巧みに摘んで聴かせるような、スケールはやや小さいが、ほどよく音楽に反応をし、サラッと雰囲気よく空間の拡がりを感じさせる鳴り方は、これならではの魅力がある、ひとつの世界だ。
 予想よりも、細部のディテールの描き方や表情のみずみずしさが音として出しきれていないが、起強力なTV電波が7波もある立地条件下での高周波妨害にょるマスキングと、CDプレーヤー系の長時間使用での、ある種の音のニジミ、ベール感が相乗効果的に働いているようで、ここでの結果は、かなりハンディキャップを背負ったものではあるが、それなりにカウンターポイントらしさのある音でS9500を鳴らしたあたりは、カウンターポイントのポリシーの根強さを知る、ひとつの尺度のように
思われる。

JBL S5500(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より

 旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
     *
 JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
 本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
 こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。

マッキントッシュ C40+MC7300
 まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
 可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
 S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
 その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。

カウンターポイント SA5000+SA220
 S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
 結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。

ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
 次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
 結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
 モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。

 S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している

ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この企画のタイトルは「ハイエンドアンプでプロジェクトK2/S9500を堪能する」となっているが、オーディオシステムはスピーカーがその頂点に立つものであって、この意味からは、「S9500はハイエンドアンプの音をどのように聴かせたか」となるはずである。
 ここで少しばかりこだわった理由は、試聴に使ったステレオサウンド試聴室は、リファレンススピーカーシステムに、JBL4344を使っており、ほぼ10年の歳月を通して部屋とスピーカーがなじみ、経時変化に合せて、それなりの音響処理を施しながら部屋のチューニングをしきているからである。つまり、今回のように、S9500をリアァレンススピーカーシステムとする場合には、現在のチューニングに関係なく、最初から部屋をS9500の専用チューニングとしなければ、超弩級アンプの音を聴くことにはならないであろう。
 今回の試聴は、辛か不幸か、編集部で前もって4344用に位置決めしてあった位置に、S9500のベースのフロント面と4344のフロントバッフル面が等しくなる位置にセッティングされていた。
 ご存じのように、基本的に4ブロック構成になっているS9500は、一度セッティングをしてしまうと、位置の移動はもとより、聴取位置に対する角度の付け方といった、スピーカーシステムに必須のコントロールが非常に困難であり、これが使いこなしの上で大きな制約になっでいくるのである。結局、今回の試聴はスピーカーのセッティング位置は変更しないこととした。また、組み合されていた最初のアンプがマッキントッシュのペアとなっていたために、この個性的なアンプを通しての使いこなしは、想像を超えて大変なことになった次第である。
 ちなみに、アンプに信号を通してからのウォームアップによる音の変化を確かめながら聴きとった、おおよそのこの試聴室におけるS9500の音の印象は、必要帯域内のエネルギーを十分に聴かせる2ウェイシステムらしいものであった。そしてその特徴をベースに、柔らかく豊かで、JBLモニター系とは対照的な低音と、ホーン特有のメガフォン的な固有吾が少なく、やや粗粒子型で、ゆるやかに穏やかにロールオフする高域がバランスした、おっとりとした大人っぽい、細部にこだわらぬ音だ。同社のモニター系の音の明るさとは逆に、やや抑制の効いた穏やかな喜色が特徴である。したがって音の反応も穏やかで、ふところの深い、ゆったりとしたキャラクターが、このシステムの本質であろう。
 ただし、この状態では、スピーカーが各アンプの個性をすべて受け止め、S9500の音として聴かせることになり、一段とスピーカーシステムの反応を速め、的確にアンプの音を聴かせるようにする必要がある。
 そこで、再生の基盤に戻り、部屋の音響コントロールで、目的であるアンプ試聴用というべき音にすることとした。
 S9500は、仮想同軸型といわれる、上下の低域ユニットが高域ユニットを挟みこむ方式を採用している。システムはモジュールで構成されており、下から、コンクリート台座、下部低域用エンクロージュア、ホーンブロック、上部低域用エンクロージュアと積み重ねる。各モジュールの接触部は、軽金属製の先端が尖った円錐形コーンの頂部を下側の軽金属製カップで受ける構造である。上下低域用エンクロージュアは、同じ内容積ではあるが、下側はホーンブロックと上側低域用エンクロージュアの重量で抑えられていることに比べ、上側低域エンクロージュアは、単にホーンブロックの上に乗っているだけで、非常にフリーな状態にあり、位置的にもかなり高い位置に置かれることとが特徴である。
 S9500の場合、上側低域ユニットの直接音、反射音を基準に、部屋の壁、コーナー、天井部分の反射と固有音の発生を総合的に、いかにコントロールするかが使いこなしのキーポイントとなる。このことは上側低域エンクロージュアを取り外し、シングルウーファーシステム(S7500)として使えば、使いこなしの要素が少なくなり、かなり簡単になることからも証明できる。
 部屋のコントロール用の材料は、試聴室常用の2個の中型QRDと、円形と半円形のチューブトラップの各種組合せである。基本的には柔らかく、ソフト側に偏る音質傾向はあるものの、かなり明解な準モニターサウンドから、ホームユースに相応しい、かなり陰影の色濃い音にいたる音質・音色の変化を示し、2時間あまりの時間でS9500は使いやすく親しみのもてる2ウェイシステムとしての性格を見せ、造型的に見事なデザインと、ホームユースに相応しいマイルドな音をもった素晴らしいシステムであることが実感できた。

私とJBL

菅野沖彦

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「私とJBL」より

 僕のオーディオライフにとってJBLはきわめて大きな存在だ。どう大きいのかとなると一口にはいえない……。まず、僕の人生の一大転換期と、僕がJBLを使い始めた時期が一致しているということは忘れ難い。
 それは1967年に遡る。もう26年も前で、今も使っている375ドライバーと537−500ホーン、そして075トゥイーターを手に入れたのがその年であった。この年まで僕は録音制作の仕事をサラリーマンとしてやっていた。独立を考え始めたのは’66年頃からだったが、その考えがいよいよ固まってきたのは,’67年後半。そして実際に会社を辞めて独立したのが翌’68年であったと思う。録音制作の仕事で独立するとなると、プロとして最低限の録音機械が必要だった。身一つでフリーになって、仕事は貸スタジオでやるか、必要な機械はレンタルで……というような考えは今の話で、当時はそんな世の中ではなかった。特に僕の場合、スタジオ録音をサラリーマンとしてやり続けてきた揚句、自分が本当にやりたい仕事は、対象となる音楽にふさわしい自然な音響環境を得ることからスタートするものだったから、録音機械は持ち込むのが原則。しかも、僕は子供の頃からのオーディオマニアであったから、機器への愛着が強く、自分の触角としての使い馴れた機械でこそ、自分の納得のいく仕事が出来るという考えを強く持っていた。そんなわけで、その都度レンタルで機器を調達する方法や、貸スタジオでの録音だけに依存して独立することは考えられなかったのである。当時、プロのカメラマンとして独立するのに必要最低限の機械購入にはどのぐらいの金額が必要かは、仕事のつき合いのある親しいカメラマン達から約100万円と聞いていた。ところが、録音となるとフリーの仕事としては全く前例がなかったので、自分で判断する以外になかった。絶対必要なテープレコーダーだけでも150万円はしたし、マイクロフォンも10万〜15万円はした。正確な記憶はないが、当時の僕としては相当な額の借金をしたのである。また録音機械もさることながら、自分の再生装置も趣味と仕事の両方にかなうものにしておくことが必要と考えていた。つまり、録音制作の仕事に加えて20歳代の頃からやっていたオーディオやレコードに関する評論も本格的に始めるつもりであったから、自分の音の基準として納得が出来る再生装置を整えることも仕事上の責任と考えていたのである。
 こんなわけで当時の僕の再生装置であったワーフェデールの3ウェイマルチアンプシステムをJBLのホーンドライバーによるものに変更し、客観的にも、より説得力のあるものにしようと思ったわけだ。ずっと、僕の自作システムは、コーン型のスピーカーユニットでマルチウェイを構成してきたのだが、その間、いつも一度は外国製のコンプレッションドライバーとホーンを使ってみたいものだと憧れ続けていたのである。
 ところで、こうしてJBLを自分で使い始める時期より前に、僕は375+537−500と075の組合せが聴かせる音に圧倒的ショックを受けた経験がある。それは、後に山水電気の社長になられた伊藤瞭介氏が、新宿ショールームの所長時代のことで、伊藤氏が当時ぞっこんほれ込んでJBLの代理権を取った直後のことである。ドラムスのスネアーの響き、タムの鳴り、ジルジャンのシンバルの倍音、ピアノのリアルなタッチ、そしてヴァイオリンの艶っぼく、ぬれたような擦過音の魅力に大ショックを受けた。その音は今でも思い出せるほどだ。それまで、その癖のために、ホーン嫌いで通してきた僕だったが、この体験で僕は目が覚めた。JBLは明らかに僕の耳を開き、オーディオの可能性についての認識を改める大きな役割を演じてくれたのだった。それ以前にもハーツフィールドやパラゴンなどの、あまりにも美しく立派なJBLの姿は知っていたけれど、その立派さ故に、若い僕には無縁の存在だと決め込んでいた。それに自作時代でもあったから、メーカー製のシステムには、ユニットに対するほど興味と関心がなかったのかもしれない。しかし、よく考えてみると、あの美しいデザインのエンクロージュアにはやはり畏敬の憧れは持っていたようだ。20歳の僕にとって、あの家具のような立派な装飾品は自分の所有物の範疇にはなく、社長さんや重役さん、あるいは大臣のような偉い人のものだという感覚があったのかもしれない。今のオーディオにはどうしてそんな風格のものがないのだろう? 今は、子供でも好きならJBLの3文字のついた商品を買える。コントロールマイクロでもJBLはJBL。ペアで3万6千円で買えるというのは羨ましいような、可哀相なような……。
 僕にはJBLの3文字は尊い尊いものである。異国文化の豊かな香りが馥郁と漂い、手の届かぬ神秘のようなテクノロジーへの憧れの象徴である。

マークレビンソン No.26SL + No.20.6L(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 現在のハイエンドマーケットで、良くも悪くもリファレンスアンプとして常用されている、マークレビンソンの組合せである。
 No.26Lは、ステレオサウンドのリファレンスアンプの一部で、設置位置は十分に吟味して決めてあるため、テフロン基板タイプとなったNo.26SLもまったく同じ条件に置くことにした。一般に、電源部が独立したプリアンプでは、電源部はどこにどのような状態で置いても音は変らないと思われているようであるが、電源部の感度は相当に高く、置き場所の条件で、音質、音色ともにコロコロと変るものであることを是非とも覚えておく必要がある。パワーアンプは標準位置、結線は平衡型である。
 アウトフォーカスの写真が、徐々にクリアーなピントとなるようなウォームアップをするタイプで、アンプのウォームアップの典型的なパターンといえよう。帯域バランス的な変化は少ないため、ほぼ10分間も経過すれば、一応この組合せとおぼしき音にはなるが、音場感情報量は抑えられ、音の内容も新聞の写真のように粗粒子型のラフさが残っている。低域は軟調気味で、質感が甘く、高域も伸びきっていないため、ゆったりおおらかな魅力はあるが、やや締まらない制御不足の音ともいえるだろう。時間経過に伴い、内容が次第に充実し、音場感情報が豊かになると音の表情にも余裕が感じられるようになり、高級アンプならではの独自の世界が展開されるようになる。
 S9500は、いわゆるアブソリュートフェイズも、一般的スピーカーと同様に正相に変っているため、よく知られているJBLのモニター系(こちらは逆相である)の音質音色に比べ、かなり柔らかくしなやかで、マイルドな方向の音に変っているが、独特のプロポーションをもつエンクロージュアの特徴から、奥行き方向のパースペクティヴの再現能力や音像が浮かび上がって定位する魅力は、従来にない新しい魅力だ。
 No.26SLは、従来のLタイプから、滑らかに、艶やかに、の方向に音色が変り、独特の陰影が音につくようになった。このため、ここでの音はかなり柔らかく豊かで、色彩感を少し抑えた淡彩な音で鳴り、低域は量感はあるが軟調で甘く、全体に見事にコントロールされた、非常に巧みな、味わい深い、とてもオイシイ音として聴かせるパフォーマンスは、マークレビンソンならではの魅力であり、安心感、信頼感である。この程度、時間も経過すれば、スピーカーも部屋に馴じみ、当初のマットな表情から目覚めだしたようで、このアンプ用にセッティングを修正すれば、かなりの幅で自分の音とすることは容易であろう。

私とJBL

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「私とJBL」より

 JBL、ジェームズ・B・ランシングの名称を知ったのは1940年代の後半であったと思う。おそらく『無線と実験』誌であったかと記憶しているが、海外オーディオ製品の紹介記事を、現在の河村電気研究所の社長、河村信之氏がアームストロング信之という名前で執筆していた。ここでD130の紹介を目にしたのが最初だった。D130は15インチ全域型ユニットで、マキシマムエフィシェンシーシリーズの名称をもち、確か、0・008MWの入力が再生できることを特徴として謳っていた。
 もともと、私のオーディオ趣味は父親譲りの門前の小僧的なものであった。2A3は245のプレートを並列にしたタイプより、シングルプレートで脚部が白い、今で言えばセラミック的な材料のタイプが本当は音が良いとか、スピーカーは英国のローラーが、亜酸化銅整流器がついていて柔らかく豊かな音、これに対して米国ジェンセンは明るく歯切れが良い音、米国ウェスタンの陣傘スピーカーは箱がなくても立派な晋がする……などのことを、子供の頃から父を手伝いながら覚えた。
 当時スピーカーユニットは、フィールドコイルを使い電磁石を磁気回路に使う方式から、パーマネントマグネット方式への転換期にあり、AC電源なしに使えるようになったのは便利ではあったが、如何とも迫力がなく、実体感のない音に変りつつあった。国内製品のダイナックスHDSシリーズのユニットに慣れかかった耳には、フィリップスの特殊磁石を使った全域型や、化物のように巨大な永久磁石を組み合せた英フェランティのM1などの超高能率フルレンジユニット登場のニュースは、正に夢のごときもので、良いユニットほど高能率で音のディテールを聴かせると確信していた私は、まさにドリーム・カム・トゥルーの想いがしたのである。
 オーディオに限らずレコードも、親のストックを勝手に使えた高校生までは良かったが、大学に入り一人で生活するようになると、音楽のプログラムソースは、海外放送を聴くための短波受信機と、当時の巷の音楽が聴ける名曲喫茶がよりどころとなるだけだった。革新的技術といわれたLPが登場しても、ディスクが非常に高価格なうえに、それを演奏する装置として、サファイア針付のバリアブルレラクタンス型カートリッジとオイルダンプのトーンアーム、それに最低限の性能をもつターンテーブルを組み合せると、少なくとも2ヵ月分の生活費に相当したのである。もちろんJBL・D130など、単なる幻のフルレンジユニットに過ぎないものであった。
 その後、ジェンセンA12全域型、ユニバーシティQJYフルレンジユニットが海外製品として使った最後で、しばらくはYL製ホーンを、幻の加藤ホーンシステムに如何にして近づけ、自分の部屋で鳴らすかが最大の目的であった。
 ステレオ時代に入り、マランツ#7、サイテーションIV、これにジョーダンワッツA12を組み合せて、サブシステムとして使ったのが海外製品との再会であった。これが、ステレオサウンド3号の頃の話である。
 奇しくもJBLのC34を聴いたのは、飛行館スタジオに近い当時のコロムビア・大蔵スタジオのモニタールームである。作曲家の古賀先生を拝見したのも記憶に新しいが、そのときの録音は、もっとも嫌いな歌謡曲、それも島倉千代子であった。しかしマイクを通しJBLから聴かれた音は、得も言われぬ見事なもので、嫌いな歌手の声が天の声にも増して素晴らしかったことに驚嘆したのである。
 しかし、自らのJBLへの道は夜空の星よりもはるかに遠く、かなりの歳月を経て、175DLH、130A、N1200、国産C36で音を出したのが、私にとって最初のJBLであった。しかし、かつてのあの感激は再現せず、音そのものが一期一会であることを思い知らされたものである。
 そうして、JBLは素晴らしいが私にとって緑なき存在と割り切っていた頃、本格派のスタジオモニターJBL4320が登場する。C34を超えた、現代モニターらしいフレッシュでエネルギッシュな音を聴かされ、再び新しい魅力に感激したのである。その後JBL4341、4320が入手でき、一時は4チャンネル再生に使用したこともある。
 4320はJBLファンの知人に寄贈、4341をはじめ、ユニットの175DLH、130ALE30、LE10A、LE8T、2405、LE85などが、見果てぬ夢のシステム用として保存してある。実はその他にも理想の4ウェイシステム用ミッドバスユニットとするため、D131、D208などが複数個残してある。ただし、これらはいま現在、現実のシステムになっているわけではなく、何時の日に実現するかも全然予定にないだけに、JBLサウンドに対する私の憧れは、夢のまた夢で果てることがないようだ。

エレクトロコンパニエット ECI-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 ヨーロッパ系のプリメインアンプは古くからルボックスの製品が輸入されており、すでに高い評価を得ているが、最近では、コンパクトでそれなりに楽しく音楽が聴けるミュージカルフィデリティやオーラデザインなどの製品が注目を集めている。今回ご紹介するエレクトロコンパニエットのECI1は、このところ話題となっているプリメインアンプのもう一つの潮流である、アインシュタインを代表とするハイエンド指向の範疇に属する製品である。
 同社は74年にノルウェーのオスロで設立されたアンプメーカーである。初期の製品は、マッティ・オタラとジャン・ロストロが設計した25Wのパワーアンプで、一時注目を集めた動的歪をテーマとしたマッティ・オタラ理論のベースとなったアンプであったということだ。
 ECI1は同社のコンシュマー用アンプとして最初のソリッドステート式アンプで、高スルーレイト、優れたオープンループ特性や高い瞬間最大電流供給能力などをテーマとした設計である。定格入力は0・5Vで、ラインアンプとパワーアンプの2ブロック構成のシンプルな構成が採用され、各ブロックは無帰還型ではなくNF回路を最適条件に設定し、動的歪を低減するマッティ・オタラ理論に基づいた考え方が受け継がれている模様で、一種の懐かしさが感じられる設計思想である。
 電源部は600VA/chトロイダルトランスと整流用の2000μF電解コンデンサーは4・7μFポリカーボネイトフィルムと0・1μFポリプロピレン・フィルムコンデンサーを並列接続とした構成で、これは国内製品では、かつてサンスイのプリメインアンプの電源部に採用された実績があり、サウンドコントロールに効果的なテクニックである。
 パネルデザインは簡潔そのもので、厚みが十分にあるアクリルを使ったクリーンな質感は、現代アンプらしいよい雰囲気をもっている。
 信号を加えてからのウォームアップタイムは短く、100W+100Wのパワーをもちながら、50W+50W級のシャープで反応の速いクリアーな音を聴かせる辺りはかなりオーディオ的な醍醐味を味わえる。
 音色はナチュラルな帯域バランスでキャラクターも少なく、素直でわずかに薄化粧をしたような音の磨かれ方は独自の魅力である。
 音場感は見通しがよく、やや奥に広がる傾向で音像もリアルに定位する。試聴室で聴いた印象は全体的に心地良いものだったが、スピーカーがJBL4344では荷が重いようだった。これは組み合せるスピーカーを考慮すれば難なくクリアーできるものであり、アインシュタイン、パイオニアの高級プリメインと共に今後注目されることだろう。

ソニック・フロンティア SFL-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 カナダのオンタリオに本拠を置くソニックフロンティアは、管球式アンプを専門に製作しているブランドである。当初はキットのみを提供するメーカーであったようだが、その後完成品としてステレオパワーアンプSFS50、同80を発売。そして、今回ライン入力専用のプリアンプSFL1を発表した。
 なお、同社の製品はこれ以外にも今年のサマーCESで発表される予定の管球式モノーラルパワーアンプやフォノイコライザーアンプなどがある。
 やや色調を抑えたシルバーとゴールドの2トーンカラーのフロントパネルは、ボリュウム、バランス、セレクターの3個のツマミとレバースイッチをシンメトリカルに配置したシンプルなデザインにまとめられている。機能は4系統のライン入力とCD用のダイレクト入力および1系統のテープ入出力といった必要最少限に抑えられた設計で、その他にはミューティングスイッチがある程度だ。
 プリアンプとしての利得は20dBで、アナログ時代のラインアンプの標準的な値であるが、現在のプリアンプとしてはややハイゲイン型である。
 回路構成上の詳細は不明だが、アンプ構成はFETと6DJ8双3極管1本を使ったハイブリッド型で、当初のサンプルモデルでは12AT7が使われていたが、正式モデルには音質面から6DJ8が選ばれ標準仕様となっている。
 回路は当然のことながら基板上に組み込まれ、グラスエポキシ系の板厚3mmのやや厚い材料が使われているが、シンプルな構成のアンプであるだけに部品の選択が直接音質に関係をもつ。抵抗、コンデンサー、スイッチや配線材料はVishay、Cardasなどの銘柄を選択使用している。また、ボリュウムとバランスにはAPS製レーザートリムの可変抵抗を採用している。
 まずノーマルインプットからCD信号を入力してウォームアップを待つ。穏やかでウォームトーン系のやや音色が暗い音というのが最初の印象である。組合せたパワーアンプはアキュフェーズのA100である。試聴の際は、アンプの筐体が十分に熱くなるまでウォームアップはしてあるが、信号を入力してからの音の変化はかなりゆるや
かなタイプであり、15〜20分間ほどで次第にベール感が薄らぎ、音場感的な見通しも良くなり、柔らかい雰囲気のある音が聴かれるようになる。
 積極的に音を聴かせるタイプではないが、固有のキャラクターは少なく、ほどよい鮮度感を備えたしっとりとした音は、長時間にわたり音楽を聴くファンに好適なモデルといえる。惜しむらくは同社のパワーアンプSFS80との組合せが確認できなかったことである。

アインシュタイン Integrated Amp.

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 今年の秋に本邦にデビューしたドイツ製のプリメインアンプである。新しいメーカーの新しい製品を一流品として紹介するのは勇気のいることである。一流品は一流メーカーが作るものでなければならないが、一流メーカーとは一朝一夕に出来上るものとは限らない。もちろん、企業の規模とは無関係とはいうものの、あまりにも経営基盤が弱かったり、不安定であったりすれば、どんなに高邁な姿勢であってもユーザーに不信を与えることは畢竟だからである。また、いかに大資本であっても、その姿勢が営利の追求だけのようなメーカーは、ここで一流メーカーとして扱いたくないし、そういうメーカーの製品を一流品とするわけにはいかない。
 この会社は’87年の創業だから、まだ4年足らずの新しいメーカーだ。ロルフ・ハイファー(技術担当副社長)の開発になる同社の製品は、このアンプの他にチューナー、スピーカーシステムがあり、さらにスーパーD/Aコンバーターを開発進行中である。もう一人の副社長フォルカー・ボールマイヤーはハイファイ事業に経験の豊かな人らしく、この他にもいくつかの製品の開発製造にかかわっているという。社長のゲルハルト・ロルフ・ファン・ベルズワード・ウォールラブが財務担当の資本家らしい。また、管球式アンプやEMTとの提携によるカートリッジ製作など、強いハイファイ志向を持った企業であることがわかる。さらに、アインシュタイン社にはRIFFというレーベルのレコード制作部門もあるらしい。この25mm厚のアルミ削り出しフロントパネルにステンレスケースの美しいアンプを一目見れば、この社のオーディオへのセンスと情熱が理解できるはずだ。8Ω60Wのパワーは1Ω負何400Wまで保証される実力をもったもので、MC/MMのフォノイコライザーも備える完全なインテグラルアンプである。電源まわりを見ても本格派の設計であり、その音の純度の高さが納得できるものだ。

テクニクス SE-A5000

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 テクニクス・ブランドというのは、いまさらいうまでもなく、松下電器がオーディオ製品の本格派にだけ使うブランドとして誕生したものである。しかし、一時は大メーカーの節操のなさといおうか……このブランドが作ったイメージの良さを普及製品に大々的に使って、ナショナル・ブランドと差のないものにしてしまった。ここ20年間くらいのことだろうか……。かくしてオーディオという理想郷は消滅し、ただのファッショナブル電機産業と堕してしまったかの観がある。〝テクニクス〟がその本来の主旨を一貫して守り、それにふさわしい〝クォリティセールス〟の体質を築き上げていれば、いまのオーディオ業界もファンの質も違っていただろう。そうした意味で、このブランドの歩みは象徴的であった。同社の一般ブランドはナショナル、そして音響機器にはパナソニックを用いているが、そうした中でこの〝テクニクス〟は今後、本来のクォリティオーディオに使われるようになるらしい。それにしても松下は、長年オーディオの研究開発に終始一貫して真正面から取り組むメーカーであり、とっくに撤退してしまった他の大電機メーカーとは異なる。〝テクニクス〟が本格的なクォリティオーディオの象徴として新しい時代を築くことを信じている。このSE−A5000は、そうした背景の中で〝テクニクス〟を厳選したスペシャルブランドとすべく誕生したパワーアンプであって、プリアンプSU−C5000とペアを成すものである。多様化した現代のプログラムソースをコントロールする多目的プリアンプであるが、フォノイコライザーも持つ。それだけにその出力をパワードライブするSE−A5000の質へのこだわりにはテクニクス・ブランドに恥じないだけの内容を実現した。きわめて繊細な美しさを持つ音のマチエールは独特の魅力をもち、日本の製品ならではの精緻さといってよいもの。決して濃厚ではないが、透明でしなやかだ。

マッキントッシュ MC7150

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプが1946年出願の特許による基本回路の伝統の延長線上にあることはMC2600の項で述べた通りである。このMC7150は最新の製品であるが、伝統のオートフォーマーを搭載している。150W+150Wというパワーが2Ω、4Ω、8Ωで確実に得られるのはOPTのためだし、アンプ保護やスピーカーへの保証の役目も果すのがこのトランスのメリットである。しかし、さらに重要なことは、このトランスによる音質の有機感といおうか、暖かく血の通ったサウンドの質感にトランスが寄与しているという点である。トランスのもつバンドパスフィルターとしての性格は、良きにつけ悪しきにつけ音質に影響をもつものだが、マッキントッシュ・アンプの音の肌ざわりの自然感は、このOPTと無縁ではないと思われる。加えて、マッキントッシュのパワーアンプには〝パワーガード・サーキット〟という、許容出力以上になると動作する一種のリミッターがついていて、決してクリッピングを聴かせることがないことも大きな特徴だろう。ソリッドステートアンプのハードディストーションがわずかなピークでアンプの音の印象に与える悪影響に着目した、前社長のゴードン・ガウ氏時代に開発されたこの回路によって保証される安定した再生音は、特にこのMC7150のような小パワー?(それでも同社のパワーアンプとしては最小である)のアンプの場合に特に有効である。グラスパネルにブルーメーターとレッド、グリーンのイルミネーションは、この製品をさらに魅力的なものにしている。フルグラスパネルの不売僧こそマッキントッシュのアイデンティティとして高く評価され、多くのユーザーの憧憬となっているものだ。39万円で本物のマッキントッシュのパワーアンプが買えるというのがこの製品の最大の魅力だが、この明朗で透明なサウンドはスピーカーの能率さえ高ければ上級機無用のものである。

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のアンプの特質については、そのフラグシップモデルMC2600の項で述べた通りであり、総合的に同社のアンプは世界一の優れた製品だと思う。最近ますますこの信念を確認させてくれるのであるが、それは同社が一貫して伝統的な主張を曲げずに新しいテクノロジーでリファインしたニューモデルを出してくるからだと思う。新製品のための新製品を矢つぎ早に出したり、ただ昔のものを作り続ける姿勢ではなく、必然性をもった新製品を出すからである。この製品はMC7270という従来の代表モデルの後継機として6年ぶりに発売されるもので、すでに発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する製品だ。これでパワーアンプの新シリーズ3機種がそろったわけで、次は多分プリアンプの新シリーズが出てくるだろう。フルグラスパネルとなったMC7300は、外見上はパネル面がさらにマッキントッシュ・イメージを強く表現しているが、本体はカバーで被われたためトランスやコンデンサーが直接目に触れなくなった。この点、やや平凡な箱型アンプ化した感じでもあるが、中味は従来よりさらに充実し、ソリッド化している。新設計の出力トランスは大型化したため、今までのものとは逆向きにシャーシ底部にギリギリ下げて搭載され、トランス上にドライバー基板がおかれるという変更を受けている。全体のサイズを拡大しないで300W強/チャンネルに実力アップし、歪みを一桁以上低減した結果だ。カバーをとるとぎっしりつまった内容に驚かされる。無駄な空間は皆無。まるでソリッドな鉄の塊のようで、外から見た印象で持ち上げようとしても上がらないほど重い。しかし、その音はふっくらと豊かで、透明で、漂うような空間感を聴かせる。従来の同社のアンプの重厚さは実音のマスに十分現われているが、この明るく楽しい軽やかな空間感は新鮮だ。 価格は他の他の輸入品と比べるとこの倍でも十分通用する。

アキュフェーズ P-800

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 アキュフェーズはC280Vのところでも記したように、日本のオーディオメーカーとしては最もむずかしい規模と企業サイズを維持してアンプ専門に発展してきた。大きすぎても小さすぎてもユーザーを満足させる製品の開発と営業姿勢を保ち難いのが、このような趣味製品を製造販売する企業の抱える問題点である。製品の種類や製造量を増やすことは大メーカー化することであり、量産量販の世界へ踏み込むことになってしまう。かといって、あまりに小規模のままでは、やがて経費だおれで老化の道は目に見えている。しかし、これに取り組んでこそ真のオーディオ製品を作り得るし、結果的に真のオーディオマーケットから支持される。玩具を洪水のようにマーケットにぶちまけて利益を上げ、その余力で本格的なオーディオ製品を作っても、ユーザーはついてこない。メーカーの体質としても、技術も営業も、量産量販と少量集中型とでは全く異なるはずである。オーディオの一流品のむずかしいところはここである。いくら一品生産の高級品とはいっても、ガレージメーカー製の信頼度の低いものは一流品とは認め難い。また、一部上場の一流企業の製品だから一流品などと呼ぶのはとんでもない誤解である。
 P800は同社のステレオパワーアンプのフラグシップモデルで、8Ω400W×2のパワーをもつ。この上に8Ω1kWのM1000というアンプがあるが、モノーラルアンプだ。低インピーダンス負荷への対応も考慮され、インピーダンス切替スイッチで1Ω600W×2の対応が可能。使用条件によってはオプションで冷却ファンも用意されている。同社のアイデンティティといえる大型パワーメーターをもつパネルフェイスが印象的だが、緻密で繊細な解像力は日本の製品らしい端正さを感じる。いかにも専門メーカーの製品らしい造りの確かさと上質な仕上げは、音の特徴とも一致して微粒子感の精緻な質感をもっている。

サンスイ B-2302 Vintage

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 サンスイはトランスメーカーからスタートしてオーディオの総合メーカーとして発展。少々発展しすぎた点では同業で当時〝オーディオ御三家〟といわれたパイオニアやトリオ(ケンウッド)と共通した体質変化であった。パイオニアはLDの開発をはじめ、かなりマルチプルに大企業として発展を遂げたし、トリオは今は中級オーディオに的をしぼっている。サンスイは経営的困難を抱えながら高級〜普及機の広レンジのオーディオで頑張ってきたが、ついに外国資本が入って再建中である。しかし、従来からの体質は現体制下でも維持し続け、本来のオーディオの一流メーカーたり続けようという意欲をもっているのが喜ばしい。高級オーディオ機器の代表ということになるとこのパワーアンプが挙げられるが、B2301を原器としてリファインし続けてきた熟成の製品である。バランス伝送、バランス増幅という基本的回路コンセプトを土台に最新の素材とテクノロジーを投入し、入念な練り上げをおこなったアンプである。パワー素子LAPTは、サンスイのオリジナル開発で東芝が製造するハイリニア素子で、従来のトランジスターより格段に高い遮断周波数特性をもつ。すでに同社のプリメインアンプに採用され評価も高い。このパワー素子以外のパーツも抵抗、コンデンサー、線材のすべてにわたって試聴により最終セレクトされたアンプであり、作りっぱなしでよく鳴るただのアンプとは次元を異にするオーディオ製品らしいオーディオ製品だ。各所に剛性と防振の見直しがなされているし、ノイトリック製バランス入力端子やWBT製スピーカー端子が使われるなど並々ならぬこだわりの見られるのがうれしい。音は力強く弾力性に富んだ低音の深々とした響きに支えられたウェルバランスなものだ。しかし、従来のアンプよりさらに鋭敏で、素直な音色の多彩な変化が印象的である。楽音の変化に対するレスポンスが見事である。ゴールドパネルも新鮮だ。

ボルダー 500AE

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 ボルダーは昨年から日本にも導入されたアメリカ製のアンプである。コロラド州ボルダーにあるメーカーで、ブランドは地名からとったらしい。製造者ジェフ・ネルソンはスタジオ・エンジニアとしてのキャリアの後、故郷のボルダー・コロラドで、この仕事を始めたと聞いている。いかにも、そうしたスタジオのプロとしての経験が生きているアンプ作りで、外観にもデザイン(回路設計)にも、そして音にもプロサウンドのイメージが濃厚である。メーカーとしては新しいので、背景やブランドを一流品として扱うのは早いと思うが、この製品に接してみて、一級品であることは間違いないところ。あとは、この製品がどう一般に評価されるか、そして、その結果このメーカーの存在がどう定着していくかによって、名実ともに一流品として認められることになる。それには、メーカーとしての技術レベル、フィロソフィ、そして企業としての堅実性などが問われるわけだ。一流品は出来ても、一流ブランドは一朝一夕にして出来上るものではない。しかも、オーディオのような趣味製品は一流企業ならよいものが出来るというものではをいから、一にも二にもユーザーの評価にかかっているといえるだろう。プリアンプとパワーアンプでスタートしたボルダーの成長を期待したい。このパワーアンプ5500AEは、500シリーズの基本モデルとでもいうべきものなのだが、発売順ではこれにボリユウムや各種インジケーターの付いた製品が先に出て、シンプルな500AEは後で発売された。プロ機らしいモジュール構成的思想はボルダーの特徴だが、非常に合理的で高性能なアンプだと思う。音もプロ機らしい安定感を第一の特徴とし、豊かな力感と厚みのある質感は、一聴して高いクォリティを感じさせる。陰影の濃密な立体的な音像の出方はリアリティが豊かで、ウェイトが感じられる。低域がしっかりしていてグラマラスなバランス感だが重すぎない。

マッキントッシュ MC2600

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプのオリジナリティとアイデンティティ……それは1946年にF・H・マッキントッシュとG・J・ガウの両名によって発表され特許出願されたマッキントッシュ回路にそのルーツがある。この回蹄の特許は1949年に下りて、マッキントッシュ社の創立、第1号機発売ということになるのであるが、この回路のポイントはSEPP回路での画期的な歪みの低減にあった。B級プッシュプルの高効率とNFBによる低歪率とを高い次元で両立させたこのマッキントッシュ回路には、バイファイラー巻きによるユニティカップルドのOPTが力を発揮した。1次線と2次線が同時に巻かれたこのトランスがあってこそ実用になった回路なのである。当時日本のアマチュアが、この回路を技術誌で見て製作に挑戦したものだが、トランスの入手が不可能なため失敗に終ったという話は有名だ。マッキントッシュとOPTはこのように誕生時より切っても切れない関係だし、もちろん同社の製品に使われるOPTはすべて自社製である。
 ソリッドステートパワーアンプに移行したのは1968年のMC2105からだが、OPTレスにメリットがありと信じられていたソリッドステートパワーアンプが、OPT付きで登場したことに世間はあっと驚かされたのである。当然議論百出したが、今ではOPT付きのメリットが完全に認められてしまった。一時はマッキントッシュの技術は古いからトランス付きなのだというデマも飛んだが、マッキントッシュは平然と安価な製品からOPTをはずしてしまっている。つまり高級アンプがOPT付きなのだ。MC2600は、マッキントッシュのフラッグシップモデルの最新ヴァージョンだが、OPTが新設計され、さらに低歪率化とワイドレンジ化が実現した。600W×2のハイパワーアンプとしては信じられないほど繊細で美しくもあり、当然重厚で力に満ちてもいる。しかもすごく安くお買得だ。

レステック Vector, Exponent

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 わが国には新しく紹介されるドイツの製品である。ドイツにはこのところきわめてエンスージァスティックなハイエンド・オーディオメーカーの台頭が目立っている。20年ぐらい前までは、プロ機器はともかく、一般用の再生オーディオ機器の分野にはテレフンケンやグルンディッヒのような大きなメーカーの一体型の製品が多く、いわゆるコンポーネントは目につかなかった。この理由として、ドイツ帰りの通と呼ばれる人たちは、どんな小都市にもオペラやコンサートホールがあるドイツではレコードやオーディオは趣味として成り立たないのだと説明してくれたものである。しかし、それは全くの誤りであって、当時ドイツはただ単にオーディオの後進国であっただけである。その証拠に、いまやドイツのハイファイは年々隆盛で、ドイツ製のコンポーネントの種類はメーカーの数とともに年ごとに増大している。わが国への輸入も徐々に増え、スピーカーシステム、アンプリファイアーともにドイツらしい造りのしっかりした高級品が見られる。このレステックというブランドも耳新しいが、製品を見ればその強固な主張と明確なコンセプトが理解できる一級品であって、トータルシステムが構成できる全カテゴリーの製品が用意されている。その一貫したフィロソフィを音として確認するためにはトータルで使用すべきかもしれないが、アンプを独立したコンポーネントとして使ってみても、このメーカーのクォリティへのこだわりと音への主張が理解できるであろう。ヴェクトルもエクスポーネントも一貫してソリッドで磨きぬかれた輝きの質感と、力感に溢れる音のウェイトをもっている。厚く丸く、きりっと締った魅力的な高密度な音である。 その外観の絢爛さはドイツ製品らしさであり、一時代前のメルセデス・ベンツの雰囲気だ。不思議なことだが、他のドイツ製高級アンプと共通のこの重厚なポリュウム感とソリッド感は、ドイツの音の特徴ともいえる個性である。

マッキントッシュ C34V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 1949年の創立になるマッキントッシュ社は、今やスピーカーもCDプレーヤーも製品群にもつ総合メーカーだが、もともとアンプの専門メーカーとしてスタートした。アンプの一流品としては現在最古のブランドといってよいだろう。初代社長フランク・マッキントッシュ氏の氏名がそのままこの社のブランドになっている。2代目の社長ゴードン・ガウ氏は創立時から実際にマッキントッシュアンプを設計した技術者であった。1950年代にはマッキントッシュとガウの連名で回路特許が見られるが、今や2人ともこの世を去ってしまった。しかし、マッキントッシュの製品は頑固なまでにオリジナリティとアイデンティティを守る体質によって、一貫してマッキントッシュらしさに満ちているし、このアンプの存在がオーディオの世界をここ30年余りにわたって豊かに彩り、重厚な深みを与えてきた功績は大きい。まさに一流メーカー、一流ブランドの見本のような足跡がマッキントッシュの歩んできた道である。昨年からこの社のオーナーシップが日本のクラリオン株式会社となり注目されたが、旧来のマッキントッシュ社の伝統と実績の延長上でさらなる発展飛躍に向けて意欲的な再出発を始めることとなった。パワーアンプMC2600、MC7300、MC7150の3機種はこうした新しいマッキントッシュから発売された最新機であるが、すべてマッキントッシュらしさをいささかも失うことなく、新しいテクノロジーでリファインされている。プリアンプも計画中と聞くが、現在のところこのC34Vが最高級機の位置にある。発売以来5年経つが、これだけ豊富な機能をもつ使いよいコントロールセンターとしての機能と、音質のよさを併せもっている製品は他に類がない。まさにマッキントッシュならではのプロの腕の冴えが感じられる製品で、美しいグラスイルミネーションには持つ喜びと使う喜びが満たされる。豊潤で明るく、かつ重厚な音だ。

アキュフェーズ C-280V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 アキュフェーズは高級アンプ専門メーカーとして1972年に設立された。来年で20周年を迎える。旧トリオ株式会社(現ケンウッド)の事実上の創立者である春日仲一、二郎兄弟がトリオと別れて組織した純オーディオ企業である。現社長の出原眞澄氏も創業時に参加した一人で、個人的にもオーディオを愛するエンスージアストである。創業時には社名がケンソニック株式会社で、商標がアキュフェーズであったが、10年後にアキュフェーズに統一された。高級セパレートアンプ群を中心にブリメインアンプやチューナー、CDプレーヤー、グラフィックイコライザー、チャンネルディヴァイダーなどのエレクトロニクスとサウンドテクノロジーの専門技術集団としてソリッドな体質に徹し、いたずらに営業規模の拡大に走ることを戒めてきた企業である。当然、その体質は製品に反映して多くのファンの支持と信頼を得ている一流品であり、ブランドである。C280Vは、現在同社の最新最高級のプリアンプであるが、その原器は1982年発売のC280である。その後、C280Lを経て、3世代目のこの製品に発展した。オリジナC280において実現した基本構成はそのままに、細部の改良リファインを行なってきたものだ。電源部からすべてを完全にツインモノーラル・コンストラクションとした内部のレイアウトはメカニカルビューティと呼ぶにふさわしい魅力をもつ。各ブロックをシールドケースに収納した美しい造形である。全段A級プッシュプルDCサーボアンプ方式で、入力は安定性の高いカスコード・ソースフォロア。出力段はコンプリメンタリー・ダーリントン・プッシュプルである。本機で最も大きなリファインはCP抵抗素子による4連動ボリュウムコントローラーの採用だろう。この低歪率ボリュウムが象徴するかのように、一際透明でシャープな音像への迫真が鮮かに実感される音が得られている。

ソニー TA-ER1

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 CDプレーヤーは、定格出力が他のチューナーやカセットデッキなどの機器と比べて2Vと非常に高いため、CD初期からバッシヴ型のボリュウムコントロールを使い、ダイレクトにパワーアンプと接続する使い方が注目されてきた。感覚的にも増幅系であるアンプを信号が通らないため、信号劣化が少なく、結果としての音質が優れているように思える。
 これに対して、より良く音楽を聴くためにはコントロールアンプが必要だと考える人も多い。しかし、単純に音質のみにポイントを置けば、アンプで増幅すれば当然、歪みの増加は避けられないことを知るだけに、鮮度最優先的なパワーダイレクトの音よりも、ほどよく調和のとれた一種の熟成された音楽が楽しめる点がコントロールアンプの魅力であると、心情的に納得せざるを得ないのが現実であろう。
 パワーダイレクトと比べ、コントロールアンプを使う方が音質が良くなることを実証すべく、それに挑戦して開発した製品がこのTA−ER1である。
 徹底した入出力系のグラウンドの処理にポイントを置き、直径50mm、最大肉厚9・5mmの黄銅くり抜きハウジングを採用した高音質アッテネーター、2MΩの異例に高い入力インピーダンスをもつバランスアンプをアンバランス/バランス入力ともに使う独自の手法、出力段でのMOSダイレクトSEPPによる平衡出力で4Ωの低インピーダンス、そして直線性の向上などが相乗的に効果を発揮し、測定値はもとより、聴感上でも非常に高いSN此が得られることが、素晴らしい本機の魅力である。
 MC/MM対応のフォノイコライザー、超高級ヘッドフォン対応のリアパネル独立端子、夜間などの小音量時に高音質を保つ2段切替音量調整を備える。
 最終製品ではないが、パワーダイレクトと比較して聴感上でのSN比、音場感情報量が圧倒的に優れ、柔らかく、芯があり、深々と鳴るナチュラルな音は、従来の超高級機の枠を超えた見事な成果である。

パイオニア Exclusive C7

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 現在のオーディオアンプでは、最先端のエレクトロニクスの成果である優れた性能をもつ信号増幅系のアンプ設計が最大のポイントとされているが、振動に弱いCDプレーヤーの例からみてもわかるように、メカニズム的に高度な内容を備えた筐体構造が必須の条件として要求されることになる。いかに優れた性能をもつアンプであっても、筐体構造に問題があれば、アンプ本来の性能が発揮できず、結果として良い音質も望めぬことは明白な事実である。この意味から、現代のアンプは、エレクトロニクスとメカニズムが表裏一体となったメカトロニクスの産物と考えるべきであろう。
 コントロールアンプの筐体構造に、パワーアンプ的な考え方を導入して開発されている点が、エクスクルーシヴC7の最も魅力的なところである。筐体構造は、重量級軽合金ダイキャスト製のメカニカルベースを中核にし、筐体内部を上下に2分割、下側に電源系と音量調整、入力切替などの制御系を、上側に機械的にも電気的にも対称構造のデュアルモノーラル構成とした、左右チャンネルの信号増幅系アンプが収納されており、フロントパネル側に左右チャンネル用2個とコントロール系用1個の電源トランスが置かれている。この構造を採用した理由は、ステレオ信号を完全に対称条件で増幅することが本機の最大のポイントとなっているからだ。完全対称のアンプ系を機械的・振動的に対称の位置に置き、かつ磁気的にも同条件とする目的によるものであり、電源のフィルターコンデンサーも、+用−用の箔の巻き方を逆方向としているのは、完全対称に対する徹底したこだわりの現われとして注目したい。
 C7は、パワーアンプの音の表現に使われるスピーカーを引き締め、余裕をもって鳴らすドライブ能力が最大の魅力だ。コントロールアンプでスピーカーの鳴り方が一変するのは聴き手を驚かすに違いない。