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FMチューナーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 目覚しい発達を遂げたプリメインアンプに代表されるオーディオアンプに匹敵する高度な進歩をしたにもかかわらず、むしろ注目されないのがFMチューナーである。
 現状の県域放送をタテマエとするNHK・FM放送を中心に、コマーシャルに徹して音楽放送のプログラムソースをレコードにほとんどを依存する民放FM局が特別な地域で受信可能という、貧しい状況下では、FM放送の高い音質をもつ特徴も活かされていないわけだ。したがって、特別な要求がないかぎり、プリメインアンプのペアチューナーの選択が巻本と考えたいため、ベストバイの対象外としている。
 普及価格帯のモデルの性能の向上、機能の充実も見事であるが、シンセサイザーチューナーの性能を向上させ、アナログタイプの高音質にまで接近させた、ケンウッドKT3030の音場感情報の豊かさと、FM放送の魅力を再認識させた音は凄い成果だ。

カートリッジ、昇圧トランス/ヘッドアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 2万円未満のカートリッジは、キャリアの充分なユーザーが、限定した条件下で選択し、使うべき製品であると考えるため、選択の対象外として除外した。
 2万〜4万円は、カートリッジを買ったという実感のある音の変化が確実に得られるだけの内容をもった製品があるゾーンだ。MM型を積極的に選びたい価格帯で、オーディオテクニカAT150E/Gは定評のある、明るく、音楽性が豊かな伝統的な音が聴ける製品であり、AT160MLは、滑らかで、解像力が優れた新世代のテクニカサウンドが魅力。優れた性能が素直に音に出るテクニクス250CMK4、表現力豊かなMC型ヤマハMC505も一聴に値する音だ。
 4万〜8万円では、MC型の魅力と海外製品独自な音が楽しめるゾーンだ。定評の高いデンオンDL305、DL303の後継モデルDL304は、リファレンス的意味を含め、信頼性、安定度は抜群であり、オーディオテクニカAT36EMC、37EMCの実感的な音の魅力は見事である。MM型の超高性能型テクニクス100CMK4、海外製品シュアーV15タイプVMR、オルトフォンMC20MKII、SPU−AEなどは、これぞカートリッジ的存在。
 8万円以上は、スペシャリティの世界だ。針先とコイルを直結したMC型第1号機ビクターMC−L1000。少なくとも異次元の世界の窓が開いた印象である。これと対照的存在が、軽量振動系MC型の代表作デンオンDL1000Aだ。これに続くのが、ハイフォニックMC−D15、ヤマハMC2000であり、聴感上のSN比が優れ、情報量の多さは、近代型MCならではの新しいアナログの世界を展開する。
 昇圧トランス/ヘッドアンプは、低インピーダンスMCには昇圧トランス、高インピーダンスMCにはヘッドアンプという組合せが選択の基準だ。
 10万円未満のトランスでは、トランス独特のエネルギー感と緻密な豊かさを聴かせるオーディオニクスTH7559、安定感があるオーディオテクニカAT700Tがベストバイ。ヤマハHA3のMC型用イコライザーという構成と音にも注目したい。
 10万円以上では、高インピーダンスMC型に見事な対応を示した昇庄トランス、デンオンAU1000がベストバイである。

トーンアームのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 コンプリートなシステムが優先する時代となり、トーンアームも製品数が少なくなり、やや淋しい印象を受ける昨今である。
 10万円未満。本来はこの価格帯に充分性能が高いモデルがあるべきところだが、機械加工による製品だけに、高価格は仕方ないことであろう。ベストバイは、超ロングセラーを誇るシンプルなオーディオテクニカAT1503IIIだ。適度にクォリティが高く、明るく、活発な音が魅力。SME3009/SIII、3010Rも、カートリッジにより使い分ければ、デザインともども、やはり非常に素晴らしい製品だ。
 10万円以上では、独自のメカニカルなダンピング方式を採用したデンオンDA1000の活き活きとした音の魅力が際立つ存在。SME3012R、3012R PROも、現時点での高級アームとして充分以上の実力をもつ。オーディオクラフトAC3300は、使いやすく、音も見事だ。

ターンテーブルのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 30万円未満では、京セラの第2作、P910がベストバイだ。組合せアームはSMEが平均的、追込み型ならオーディオクラフトが最適だ。シンプルなタイプならARが価格的にもリーゾナブルで良い。
 30万〜60万円は、事実上のトップランクのターンテーブルが存在しそうな価格帯だが、やや谷間的な印象を受けるゾーンだ。価格対満足度では、総合的にバランスが優れるマイクロSX111FVがベストだ。
 60万円以上は、本格的な、これならではの強烈な印象を受ける、まさにアナログならではの世界が展開する価格帯だ。トップは、’84COTYのマイクロSX8000IIシリー
ズだが、SX5000IIとの組合せも、価格差を考えればもっと注目されてよいモデルと思う。デンオンDP100は、ぜひともDA1000トーンアームと組み合せたい。メカニカル制御のこのアームの音はアナログの魅力。

アナログプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 基本的に、機械的な構造物がアナログプレーヤーであるだけに、優れた音質を望めば、代償として高価な出費を必要とするといった、いわば残酷なシャンルだ。
 したがって、ここでは、機能を優先としたフルオート機は選択の対象外とする。
 10万円未満では、従来は音質を追求すれば、相当に不満が残る価格帯であったが、このところ内容の充実はめざましく、かなり期待に応えてくれる製品が増加している。あまりオーディオ的な配慮をしなくても、適度にクォリティの高い音が得られ、使いこなせばそれに応えられる幅の広い適応性をもつモデルとしてパイオニアPL7Lをトップランクの製品とする。多角的な防振対策と優れた音質は相関性があり、総合的なバランスでは抜群のできだ。機械的、音楽的に安定した台に乗せて使うという条件下では、ヤマハGT750/1000、デンオンDP59M/59L、それにケンウッドKP880DIIなどが、使いこなせば期待に応えてくれるモデルだ。
 10万〜20万円では、平均的要求では充分な内容の製品が多い。ヤマハGT2000L/2000、デンオンDP75M、ビクターQL−A95あたりは信頼がおける製品であり、かなりクォリティの高いカートリッジを組み合せても、それなりの期待に背かない結果が得られる内容をもっている。ユニークな存在は、マイクロBL99VWで、重量級ターンテーブルと高剛性トーンアームの組合せは、DD型とはひと味ちがったアナログならではの音の魅力を垣間見させてくれるようだ。
 20万〜50万円は、完全なシステムとしてはそれほど製品の数が多くない価格帯だ。ここでの注目製品は、アナログディスクの偏芯を自動制御する見事な構想に基づいたナカミチの第二弾製品ドラゴンCTである。ディスクの偏芯と音質の関係は他の方法でも実験可能だが、これは実際に体験しないと納得できない盲点とでもいえる驚くべき問題である。その他、総合的バランスの優れたトーレンスTD126MKIIICも、趣味性の高いモデルだ。
 50万円以上では、超強力なDDモーター採用のデンオンDP100Mが、価格対満足度で抜群の存在であり、豪筆なキャビネットにメカニズムを組込んだ家具調の雰囲気をもつエクスクルーシヴP3aも素敵だ。

CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 エレクトロニクスの集大成とでもいえるジャンルの製品であるだけに、開発当初40〜50万円相当のモデルを政治的価格で発売したなどの話は過去のものとなり、すでにアナログプレーヤーと同等の価格まで下がっているようだ。初期のマイコン関係の不調も解消されたかのようで、価格競走の一方では、本格的な音質対策が始められたように見受けられるのが最近の動向である。
 内部的、外部的振動に強い構造と、ピットからの情報を正確に読取り、補間などを極力少なくするピックアップサーボ系の設計などが主なポイントになるようだ。とにかく、価格に関係なく、基本性能がほぼ同じというのがCDの特徴であり、使いこなしのポイントになるわけだ。
 12万円未満という少し奇妙な分類の価格帯では、標準サイズのビクターXL−V300が、活気があり、ダイナミックな音に特徴がある。ヤマハCD−X2は、クリアーで明解さが特徴だが、AC極性を逆にするとナチュラルな音場感型に変わる。ダークホース的存在はダイヤトーンDP105だ。スピーカーと共通性のある音が、第3作で聴かれるようになった。異色作はソニーD50。AC電源使用時より、電池使用のほうが音質は優れ、安定した台にでも置けば、これは驚威の音だ。そろそろ、特性が悪くても音が良い的な神話は崩れ、特性の良いものが音が良いという科学にオーディオをしそうな気配がCDにはある。
 12万〜18万円は、現状のCDの内容から考えて、充分なクオリティのプレーヤーが存在すべき価格帯であり、メーカーの実力がうかがえるゾーンであるとも考える。安定感のある柔らかでクォリティの高い音のパイオニアP−D90をトップとするが、厚みのある低域に支えられたケンウッドDP1100IIは、甲乙のつけがたい双璧である。そのほか、マランツCD84、デンオンDCD1800R、ヤマハCD2、ソニーCDP502ESも好製品。
 18万円以上は本来は高級機のあるべき価格帯だが、現在が、そのスタート時点のようである。ソニーCDP552ESD+DAS702ESは、予想されたソニーらしいステップに基づくモデルであり、独自の機構設計の京セラDA910も興味深い音を聴かせる。

パワーアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 入力信号である電圧を、複雑な変動負荷であり逆起電力という招かれざる客をもつスピーカーに、電力として供給するパワーアンプは、コントロールアンプよりも平均的にレベルが高いといわれているが、その要因としては、トランス、放熱器といった重量物が多く使用され、機械的な強度が機構設計上要求されるために、電気対機構のバランスがよいものが出来やすいとも考えられる。平均的に、海外製品に比べ、機構設計面で不備な点が散見されるのは、残念ながら国内製品に多いようである。
 20万未満では、常識的なパワーアンプとは異なるが、素晴らしい機構設計が音質に活かされたボーズ1701は、異色のボーズ専用パワーアンプだ。ただし、対応の幅は予想外に広く、好結果が期待できる。標準型では、デンオンPOA1500あたりか。個性型は、QUAD405−2。
 20万〜40万円では、中級モデルが数多く選べべる価格帯。新しさと、内容の充実した点で、デンオンPOA3000Zの洗練された音の魅力、アキュフェーズP300Lの安心して使える信頼感の高い音は、ともに’84COTYに相応しい製品。また新しいヤマハの音を聴かせたB2x、完成度が高く、安定感のある、ビクターM−L10、マランツMA6も注目製品だ。独自の振動解析に基づく機構設計がダイレクトにデザインに活かされた京セラB910は、’84COTYに選ばれた製品だが、国内製品パワーアンプとしてベストバイとしてもトップ製品に値する見事な作品である。
 40万〜80万円では、予想外に最新モデルが少ない価格帯で、完成度の高さ、安定した実力を買うべきところで、嫌な表現だがアナログ的感覚で捉えたい印象が強い。伝統的モデルながら、新しいプログラムソースにも予想外の対応を示し、改めて新鮮な魅力を聴かせてくれるエクスクルーシヴM4aがトップの存在だ。マランツSm700、Sm11、ハーマンカードンXI㈵、ヤマハBX1も、なかなか魅力のある音を聴かせてくれる。
 80万〜160万円では、ベストバイの対象外と考えるため積極的には製品を選びたくない価格帯だ。
 印象深い製品では、ハーマンカードン/サイテーションXX、新製品では、オンキョーM510が、かなり個性型の音で新しい魅力が聴き取れるが、そのデザインの点では一考を要するといえよう。

コントロールアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 単純に考えれば、フォノイコライザーとフラット兼トーンコントロールアンプという代表的な構成で示されるコントロールアンプは、基本的に電圧増幅段のみであり、優れた製品が出来やすいようだが、アンプの分野では至難なジャンルといわれるだけに好製品は少ない。とくに、高級機では、単に高価格機となりやすく、国内製品では、各種の部品が予想外に入手難で専用部品の開発まで手がけるだけの英断がないと優れた製品の開発は困難のようだ。その点、海外製品は、それぞれ、個性的な回路設計と独自のサウンドバランスで、魅力的に音楽を聴かせてくれる特徴がある。
 20万未満では、これに相当する非常に充実したプリメインアンプと比較して製品数も少なく、内容もやや希薄な印象がある。需要が少ないことが最大のネックだろう。なかでも、素直で、適度に反応の早い音をもつ、デンオンPRA1000は、各種のパワーアンプに寄り添い型で対応し、なかなかの佳作だ。また、テクニクスSU−A6MK2のフレッシュさ、素直さもよい。
 20万〜30万円では、いわゆる、コントロールアンプらしい製品の存在しはじめる価格帯だ。なかでも、リフレッシュされたデンオンPRA2000Zは、華やかさは少ないが、純度が高く、ナチュラルな音は使い込むと次第に魅力の出るタイプの昧わいだ。また、ヤマハの回路設計技術の集大成と伝統的な機構設計が一体化したC2xは、新世代のヤマハサウンドの魅力があり、熟成し安定した音のビクターP−L10、独自の振動解析による機構設計がユニークな京セラC910のハイレベル入力からの緻密さのある音は、新しい魅力の芽生え。
 30万〜50万円では、本来信頼に足るべき性能、音質、デザインをもつコントロールアンプが存在すべき価格帯であるべきだが、予想外に製品数は少ない。創業以来のモデルナンバーを受継いだ、アキュフェーズC200Lの信頼感のある雰囲気、マランツSc11の温古知新的魅力も好ましいが、エクスクルーシヴC3aの風格は、このクラスとして別格の存在だろう。
 50万〜100万円では、エクスクルーシヴC5の内容は国内製品で飛び抜けた存在で、後続製品にとっての巨大な壁である。ダークホースは穏やかだが内容の濃いハーマンカードンXXP、大人っぽい魅力が特徴。

プリメインアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 8万円未満では、10万円少し上の異常に充実したともいえる価格帯に比べて、やや、希薄燃焼型のモデルが多いようだ。内容の充実さ、電気的な設計と機構設計、それに音質の総合バランスでは、ビクターA−X900は、さすがに’83COTYに輝やいただけの実力で、現在でも断然トップ。続いて穏やかだが安定感のあるデンオンPMA940、ダークホース的存在が、オンキョーA817RX、マランツPM64。
 8万〜13万円では、選ぶより落す製品を出すほうが早い、というくらいに、見事な製品が並んでいる。総合的に見て、トップは、ビクターA−X1000だ。とくに、GMセレクターを−6dBとしたときの音場感の拡がりは素晴らしいの一語に尽きる。僅差で続くのが、柔らかいが芯のシッカリとした低域をベースとした洗練された音のパイオニアA150D、ナチュラルサウンドそのものの音をもつヤマハA1000、がベスト3、これに、活気のあるケンウッドKA1100SD、素直なデンオンPMA960、充実した安定型の音をもつマランツPM84、軽快な反応の速さを聴かせるテクニクスSU−V10X、個性派のラックスLV105、オンキョーA819RX、正統派のソニーTA−F555ESIIと、どれを選んでも誤りのないのが、以上の機種である。
 13万〜20万円は、本来は、プリメインアンプとしてもっとも内容の充実した、これぞプリメインアンプ、といったモデルが存在すべき価格帯であるが、このところ製品の数が非常に少ないのが残念であり、’84COTYにも該当製品はなく、推薦できるのは’83COTYに輝やく、ヤマハA2000のみがスポットライトを浴びる製品。
 20万円以上はスペシャリティの価格帯で、古くからアンプでは名だたるメーカー各社から、高級プリメインアンプへのチャレンジともいうべきモデルが送り出されたが、成功作と呼べる製品は、ケンウッドL02Aのみといっても過言ではあるまい。ラックス独自の構想と開発による、いかにもAクラス動作のパワーアンプらしい清澄な音をもつ L550Xは、やはり、’84COTYに値する貴重な存在である。好ましい純粋ラックスらしい趣味性は賞讃したいものだ。

スピーカーシステムのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 スピーカー部門の選択の基準は、基本性能が価格帯に応じて適度に維持されており、エンクロージュア、各ユニット、ネットワークなどの総合的なバランスの優れた製品を条件としている。簡単そうな条件であるが、意外に総合的なバランスの優れた製品が少ないのがスピーカーの特徴である。
 10万円以下では、これを、1グループにすることが無理な分類方法で、少なくとも5万円に、さらにボーダーラインを置くべきだ。5万円未満では、ボーズ101MMが、音質、形態 販売量ともにナンバー1の実力を持ち、アクセサリーの豊富さも好バックアップ材料。これに標的を合せた、抜けがよくクリアーなビクターZeroMP5、ナチュラルで伸びやかなヤマハNS−L1は共に防磁型がプラスのメリットだ。5万円〜10万円では、内容が充実し、総合的バランスに優れるダイヤトーンDS53Dがトップ商品。新製品では、上級機の高音と中音ユニット採用のデンオンSC905が注目作、小型ブックシェルフ型では、上級機での技術を凝縮したダイヤトーンDS211が玄人好みの好製品。防磁設計では、ダイヤトーンDS175AV、ビクターZero10Fが好対照の製品である。ユニークな存在がジョーダンワッツJumbo、ダークホース的な新製品がソニーAPM22ES、デザイン、音質に優れ、専用スタンドは非常に魅力的だ。海外新製品は、ボーズ201MMとユニークな200のサウンドの魅力を聴いてほしいものだ。
 10万〜20万円では、1ランク上の強力ユニット採用のパイオニアS180Dが実力ナンバー1だが、使いこなしの腕が必要。防磁設計で音質が向上したタイプに、ダイヤトーンDS73AV、ビクターZero50FXがあり、オーディオ専用としても内容は充実している。また、中域と高向域にハードドーム型ユニット採用のデンオンSC907も注目したい。ユニークな存在はオンキョー500で、海外製品との競合がどうなるだろうか。海外製品は、実力派ボーズ301VMがトップだろう。BBCモニター/ロジャースLS3/5Aは貴重な存在。
 20万〜40万円では、ユニット構造を一新したダイヤトーンDS1000がトップランクの製品。聴感上のSN比、音場感情報の豊かさは、本格派デジタル対応型。ただし、正続的使いこなしが必須条件。標準タイプなら、ヤマハNS1000Mが価格対満足度で素晴らしく、とくに、アナログ的な味わいは抜群。使いこなせれば、パイオニアS9500は、見事な1000M対抗作だ。渋い個性派のビクターSX10、新製品NS1000xのタイトな音も注目したい。安定した内容のダイヤトーンDS505、503、ビクターZero100、パイオニアS955III、海外製品では、ハーベスHLあたりも見直したい製品である。
 40万〜80万円では、ダイヤトーンの新製品DS3000が、性能、音質どれをとっても新世代の実力派といった飛抜けた存在。独自の音場理論によるボーズ901SS−Wのプレゼンス豊かな音も一聴に値しよう。個性派ではQUAD/ESLは古いが、新しい魅力。フロアー型では、テクニクスMONITOR1がコストパフォーマンスで抜群。とくに、ローズウッド仕上げとの対比は、ベストバイとは、この製品のために存在する表現ともいえる印象が強い。
 80万〜160万円では、本来のベストバイ的感覚から外れるが、ダイヤトーンDS5000、正統派のエンクロージュア採用のタンノイGRFメモリー、ユニークなスタックスELS−F83、QUAD/ESL63あたりしかないだろう。
 160万円以上は、ベストバイの対象外の価格帯であり、非常に幅の狭い趣味性という意味でしか考えられない製品だと思う。

オンキョー D-7RX

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オールホーン型スピーカーシステム、グランセプターでユニークなスピーカーシステムに対する姿勢を示したオンキョーからの新製品は、ウーファー振動系に、既発売のモニター2000に初めて活用された、ピュア・クロスカーボンを採用したD7RXとD5RXのシリーズ製品であるが、ここでは、上級機種、D7RXを紹介することにしたい。
 カーボン繊維を平織りなどとし、これを合成樹脂系の材料でシート状にしたものは、航空機関係をはじめスキーなどの素材として広範囲に使われているが、もともと非常に高価な材料であり、一般的にはガラス繊維を一本おきに入れて原価を抑えながら、適度の物性値を得ている例が多い。
 この高価な材料を、ピュア・クロスカーポンの名称のように、平織りシートを45度角度をズラして、2枚を特殊なエポキシ系樹脂で貼り合せてコーンとしていることは、この価格帯の製品としては 驚異的なことで、特筆すべき成果である。なお、この振動系の採用で、ピストン振動領域は高域にまで拡大され、従来のようにコーンの剛性不足で、音量を上げたときの飽和感が解消された点が確認できた。
 スコーカー振動板は、紙に比べ格段に大きな内部損失と速やかな減蓑特性をもつデルタオレフィンに添加物を配合し、剛性を4倍としたデルタオレフィン・リファインド板動板採用。トゥイーターは、オンキョー独自の振動板用薄箔マグネシュウム振動板採用のハードドーム型である。
 ネットワークはアンプ技術を導入した集中一点アースや、低音と中音・高音を2分割としたコンストラクションをとり、エンクロージュアは、レベルコントロール部分の平坦化、サランネット枠の反射対策、システム背面のバスレフポートなど、モニター2000の技術を採り入れている。ウーファーとスコーカーユニットとエンクロージュアの接触部に剛性のあるマイカとブチルゴムの混合物を充填して、不要干渉から正確なピストンモーションを保護していると発表されているが、おそらく、いわゆるパッキング材に相当する部分と思われる。この部分と振動板のピストンモーション領域との相関性があるとする説は、非常に興味深く、ぜひともその相関性をデータとして発表してほしいものである。
 適度にスムーズにコントロールされた帯域バランスと、しなやかで伸びのある音をもつシステムである。新材料ピュア・クロスカーボンも第2弾製品のためかほどよくコントロールされ、大音量時の芯の強さ、腰の坐った低域は、従来のデルタオレフィンとは別世界の安定感だ。情報量が多いLC−OFCスピーカーケーブルを使い、細かくセッティングを追いこめば、新製品らしい魅力を充分に味わえるはずである。

ティアック PD-11

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オープンリールやカセットデッキでは、古くからの伝統を誇り、多くのファンに確実にバックアップされているTEACから、同社のCDプレーヤーシステム第一弾作品であるPD11が発売された。
 世界に先駆けて、レーザーピックアップ方式によるPCMディスクプレーヤーを開発した実績をTEACはもっているだけに、レーザーピックアップは音楽信号を読み取るメインビームとトラッキングサーボ専用の2個のサブビームを備えた3ビーム方式を採用。それとともに、ディスクの反りに対応して、フォトダイオード上に結ぶレーザービームの像の形を検出し、この像が常に真円であるように対物レンズを制御し、信号検出レーザービームの焦点を正確に保つ高精度フォーカスサーボにより、情報の読取りは、きわめて正確である。
 音質上重要なフィルターは、デジタルフィルター採用で、サンプリング周波数を2倍とした後にブロードなローパスフィルターを使うタイプで、音楽の雰囲気やニュアンスの表現に重要な超高域を確実に保護しているとのことだ。
 横能面は、タイマースタートやディスク挿入だけのオートスタート、1曲ごとまたはリピート1回ごとのポーズができる3ウェイオートオペレーション機能、23曲までのメモリーとメモリー再生時に自動的に3秒の曲間スペースを設定するほか、メモリー全曲の演奏時間の表示ができるクイックイージープログラミング機能、ディスク全曲、メモリー全曲、A・B間の3ウェイリピート横能、演奏中の曲の頭出しと次の曲の頭出し、音出し低速と高速さらに音無し高速の3モードが使えるミュージックサーチボタンなどの他に、PD11の動作状態が確認できるマルチファンクションディスプレイ、ディスク装着状態を確認できるディスクインジケーターなどが備わっている。なお、外形寸法は、横幅が、346mmのコンパクトサイズである。
 他社でいえば、すでに、第二世代から第三世代の製品に置換えられている現時点で、第一弾製品として登場してきたモデルだけに、総合的にはかなり手憬れた感覚で作られている。最初の製品に見られるトラブルめいたものが存在しないのは、当然の結果とはいえ本機の特徴である。
 音の傾向は、RCAピンコードの種類でかなり大幅に変化を示すタイプだが、基本的には、中高域に適度の華やかさのある軽快な音をもつ製品である。CDのハイクォリティさを引出すというよりは、機能面でのCDの特徴を活かして、フールプルーフにイージーオペレーションで音を楽しむのに適したモデルであろう。実用面では、外部振動の影響を受けやすい傾向をもつために、設置場所はアナログプレーヤーなみに注意することがポイントになる。

NEC CD-607

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 NECのCDプレーヤーは、第1号機として極めて高度な内容をベースとして立派な音を聴かせたCD803、操作性を改善し使いやすい高級横として開発されたCD705と、今回発売された、基本性能を重視して開発されたCD607の合計3機種となった。そのすべてが、外形寸法的に横幅430mmのパネルをもつ、標準サイズであることが特徴だ。
 音の入口を受持つピックアップ系は、小型化、軽量化を図った、振動に強い新開発のタイプであり、小型ハイブリッド化した信号処理回路をはじめとする専用設計LSI、ICを採用している。フィルター関係は、CD803、CD705で実証したNEC独自の16ピットデジタルフィルターを搭載し、広いダイナミックレンジとセバレーションの優れたCD独特の豊かな音場感情報を聴かせるということだ。
 機能面は、10キーは省咤してあるが、最大15曲までをランダムにプログラム選曲できるランダムプログラムメモリー、任意の曲から演奏可能な一発選曲機能、プレイ中にFF、REWキーの操作で行なうキューレビュー機能、ディスクをローディングメカにセットしプレイボタンを押せば最初の曲から演奏をはじめるワンタッチイージーオペレーション、メモリープレイ時にはプログラムされた曲を、メモリーのないときにはディスク全曲をリピートするリピート機能、タイマー再生可能なオートスタート幾能をはじめ、動作状態が一目で確認できる大型ディスプレイは、ディスクの有無、曲番号、インデックス番号、メモリープレイ、リピートが表示できるほかに、現在演奏している曲のリアルタイム、残り時間、ディスクの最初からのリアルタイム、ディスク最後までの残り時間、メモリープレイ時では、メモリーされている全曲のトータル時間と残り時間の6種類の時間表示が可能である。
 CD607は、刺戟性のないスムーズでクォリティの高い音が最大の特徴だ。平均的に、このクラスの価格帯のCDプレーヤーは、音質コントロールの不足に起因する、音の粗さや、不備な面が音に出やすいが、このモデルの非常に抑制の効いた穏やかで、充分にコントロールされた音は、特筆に値するものがある。第1号横のCD803の安定感のある低域をベースとしたパワフルでストレートな音とは、典型的に好対照となるタイプの音である。美しく、キレイに音を聴きたいファンには好適のものだが、音楽をアクティブに楽しむタイプの聴き方をすれば、古典的な音と受取れるだろう。これが、CD607の個性である。
 外部振動に対しては非常に強く、外乱に強い特徴があり、比較的に置き場所にはブロードに反応するが、やはり質的に聴けば設置場所の選択がポイントである。

Lo-D DAD-600

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 昨年6月に発売したDAD800をベースに、信号処理ユニットだけに採用していたIC化モジュール化を一段と進めた、標準サイズの横幅をもつパネルを採用した、ワイヤレスリモコン標準装備の新製品だ。
 ピックアップ系は、反射プリズムによるレーザー光反射の影響を除去した2軸直交光学系採用のコンパクトな3ビームタイプで、トラッキング訂正信号とフォーカスエラー訂正信号に対して対物レンズを敏速に移動するLo−D独自の2次元駆動アクチュエーター方式で、スピーカーのボイスコイルに似た駆動部は、訂正信号に対してレンズを上下、左右の2方向に高速移動し高精度なトラッキングフォーカスを実現しており、ディスク駆動モーターは独自のブラッシュレス・コアレス・スロットレスのCD専用ユニトルクモーターを新開発し、ワウ・フラッターを低減し、信号エラー率を下げることに成功している。
 DAD600でのモジュール化は、ディスクモーター制御、ローディングモーター・ピックアップ制御と、プリアンプ部の3ブロックの回路を大幅に集積化し、信頼度を向上しているのが新しい特徴である。
 ワイヤレスリモコンユニットRB600は、すべての10キー入力ボタンをはじめ、再生、ストップ、FF、REWなど多彩な機能をコントロールできる。
 機能面は、好みの曲を任意の順で15曲選曲できるランダムメモリー選曲、演奏中やポーズ時にも好みの曲をダイレクトに頭出しできるダイレクトプレイ、インデックスナンバーを利用するインデックスサーチ、FFボタンを押しつづけると約4倍速、約15倍速、約30倍速の3段階に早送りできる3段階マニュアルサーチ、電源スイッチONで、自動的に1曲目から再生をするタイマースタート、全曲・選曲・1曲と二点間の4種類のリピートをはじめ、選曲後ポーズを押すと頭出し後演奏スタンバイをする選曲頭出しポーズ機能など、多彩な機能を装備している。
 試聴では偶然に製品番号の異なった2モデルを聴くチャンスがあったが、細部の些少な違いはあるにせよ、機能面、音質面、ディスクのローディングメカニズムの動きと動作音などの諸点でも、さすがに第三世代の製品であるだけに、充分にコントロールされており、その信頼性は高い。
 試聴はヘッドフォンレベルと連動している出力ボリュウムを上げて行なう。バランス的には高域にシャープな輝きがある、クリアーでやや細身なサウンドであり、適度に活気のあるCDらしい音が特徴だ。
 外部振動に対しては、さすがに第三世代の製品らしく強いが、クォリティを要求する再生では、充分に強度があり固有の共振や共鳴のない場所を選ぷ必要がある。適度にコントロールされた好製品と思う。

パイオニア S-180D

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 1978年秋に発売されたS180は、ほぼ、2年毎に改良が加えられ、S180A、S180IIIを経て、今回3度目のモディファイにより、S180Dにリフレッシュして登場することになった。
 基本構成は、第3世代のS180III以来の高域にリボン型トゥイーターを採用した3ウェイ・バスレフ型システムだが、内容の変化は、完全に新モデルと呼ぶに相応しく、実質的なグレイドアップだ。
 まず、ウーファーは、S9500で採用した、ダブルボイスコイルのEBD方式が最大の特徴だ。2重綾織りダンパー、ロープロファイルウレタンロールエッジとカーボングラファイトコーンの振動系に、磁気回路の振幅歪を低減する、ボールピースの切れ込みとサブポールを使ったリニア・ドライブ・マグネティック・サーキット方式を併用する。S1801IIIと比べ、外径は165mmと共通だが、厚みを12mmから17mmに約40%増したストロンチュウムフェライト磁石採用の強力磁気回路が目立つポイントだ。
 スコーカーは、基本型はS180以来のものだが、振動系は一新され、コーン周辺部に折曲げリブ構造をもつワンピースの一体成形タイプに発展し、ボイスコイルと振動板の接着にはS9500で初採用した特殊接着剤により伝達ロスを抑え、エッジは3層構造の新タイプを採用している。
 トゥイーターは、ペリリュウムリボンに新形状のホーンを組み合せ、指向性とエネルギーバランスを改良して、クロスオーバー4kHzを達成した新タイプである。
 エンクロージュアは、内部定在波をコントロールするため、奥行きを小さくし、S180IIIより吸音材を少なくした高剛性タイプである。
 S180Dは、このクラスの製品としては、異例ともいうべき物量投入型で、しかも、新方式、新構造を採用した注目すべき新製品である。最大の特徴たるEBD方式は、エンクロージュア容積を2倍にしたことに相当する豊かな低域再生を可能とし、重低音再生に特徴があるが、S9500よりは、聴感上でタイトにまとめてある。
 ほぼ、1ランク上級機種に相当する強力なユニットから再生される音は、内容がギッシリと詰った印象があり、音の伸びも鮮烈である。基本的な帯域バランスは、充分に低域に向かって伸びた柔らかい低域をベ−スに、抜けのよい中域と適度に華やかで輝きのある高域が、巧みに3点バランスを形成したタイプだ。内容があるだけに使いこなしでトータルなサウンドが大幅に変わり、セッティングとか、併用するアンプ系やプログラムソース系の欠点を、スピーカーの欠点と誤認しやすい点に注意したい。
 性能の高さを音として活かすには、正しい使いこなしがぜひとも必要であり、使いこなしを要求する見事なシステムである。

トリオ LS-990A

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 トリオから、デジタルオーディオに対応したスピーカーの新技術、クラスAサスペンションを開発し、これを採用した3ウェイシステムLS990Aが発売された。
 従来からも、トリオのスピーカー技術は軽質量コーン採用の完全密閉型とか、高剛性思想に基づいたリブを付けた紙製の高剛性コーンのウーファーの採用など、ユニークな開発を特徴としている。今回の、クラスAサスペンション方式とは、ウーファーのコーン支持部分の一部である、いわゆるダンパーとかスパイダーといわれる部分を、ボイスコイルが前方に動くときと、後方に動くときと、完全に同じ動作となるようにし、かつ微少入力から大入力時までの直線性を高めるために、対称型のスパイダーを2枚組み合せて使うタイプのことを意味している。簡単に考えれば、従来からの手法であるダブルサスペンション型の発展型と考えてよいものだ。
 ちなみに、かつてトリオでは、コーン外周のサスペンションであるエッジ部分に、前後方向の振幅に対して対称的動作をさせるために特殊なS字型をした形状のタイプを開発し、採用したことがあったが、今回はスパイダー部分のみであり、エッジ部分はいわゆる在来型である。
 このところ振動板材料に新素材を導入する傾向が一段と強まっているが、トリオでは従来の高剛性思想に基づいた特徴的なリブ入りパルプコーンを脱皮して、今回はウーファーコーン材料に、HRクロスカーボンを採用している。この材料は、同社のLS1000システムでスコーカーとトゥイ−ター振動板に既採用のものだ。今回はリブ強化パルプ層、高発泡樹脂層をサンドイッチ3層構造として採用されているようだが、資料にはその詳細は発表されていない。
 スコーカーは、ボイスコイル部分を含め一体成形をしたチタンの表面に窒化系セラミックTiNをイオンプレーティングしたドーム型に、特殊処理をしたコーンをつけた複合型。トゥイーターは、スコーカードームと同様な材料によるハードドーム型だ。
 ネットワークは、相互干渉を除去した、このクラスには少ない、高・中・低の3ブロック分割型。エンクロージュアは、バッフル板に、18mm厚と12mm厚を貼り合せに使用し側板と裏板は12mm厚とした、いわばバッフル重視型の、折曲げポート付のバスレフ型である。
 本機の音は無理のない帯域バランスとメリハリの効いた輪郭のクッキリとした力強さが特徴である。あまり音を抑えてキレイに鳴らそうという傾向が感じられず、ストレートさが良さであり魅力だろう。個性型のためか、あまり置き場所の影響も受けず、活気のある鳴り方をするため、分かりやすくその商品性は高いと思う。

やわらかくふくよかな弦の音を出すための考え方、方法論

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま一番知りたいオーディオの難問に答える」より

Q:やさしさ、やわらかさ、ふくよかさ、鴻毛のような軽さ、そんな弦合奏が聴きたいのですが、スピーカーというものはどうして、ああも、キンキン、ギラギラ、ガリガリと鳴るのでしょう。ハイスピードだの立ち上りの鋭さなどが美音の代名詞になっているオーディオ評論には納得がいきません。充分大音量が出せて、しかも、しなやかな音を失わない、そんな装置を教えて下さい。

A:『スピーカーというものはどうして、ああも、キンキン、ギラギラ、ガリガリと鳴るのでしょう。ハイスピードだの立上がりの鋭さなどが美音の代名詞になっているオーディオ評論には納得がいきません。充分大音量が出せて、しかも、しなやかな音を失わない装置を教えて下さい』前半の音の要求は省略したが、これが、この質問の条件である。
 これが、現実のオーディオファンの気持を代表しているものとすれば、大変に困ったことである。まあ、これを本誌編集部の一種のユーモアと割切って質問を考えてみることにしたい。
 基本的には、質問に正しく答えることは、この場合不可能である。やさしく、やわらかく、ふくよかに、鴻毛のような軽さ、そんな弦の合奏が聴きたい。という前半の要求は、そのような音が出せるとしたとしても、末尾の、充分大音量が出せて……。という要求はどうして出てくるのだろうか。これが最大の難問たるところだろう。常識的には、弦の合奏を充分大音量でし再生するということは、オーディオではありえないことである。これでは、チェンバロを大音量で聴くことと同意味ではないであろうか。このあたりについては、ぜひとも、ステレオサウンド刊の書籍、五味康祐オーディオ巡礼、池田圭著『音の夕映』、オーディオ彷徨/岩崎千明遺稿集、聴えるものの彼方へ/黒田恭一著あたりをお読みいただきたいものと思う。
 次に、キンキン、ギラギラ…… 美音の代名詞になっているオーディオ評論……。についてであるが。私もすべてのオーディオ誌を読んでいるわけではないから確かなことは言えないが、そのような評論が現代スピーカーの美音ということで、書かれるはずがないと断言したい気持である。少なくとも、ここに表現された言葉は、良い音の表現には絶対に使わない言葉であるからだ。その意味では、大音量の弦合奏の再生とともに、難問ともいえるし、愚問ともいえるところである。
 まあ、簡単に考えて、やわらかく、軽く弦が聴きたい、とすると、オーディオ的な意味では、この要求は判かる部分である。というのは、現実の弦楽器は、やさしく、やわらかく、ふくよかに、のみ鳴るものではなく、非常に鋭く、刺激的な音すらも聴かせるものであるからだ。
 さて本題に戻り、弦合奏をオーディオ的な鳴らしかたという意味を含めて、やわらかく軽く聴くための条件を考えてみよう。まず、聴く部屋の問題である。広さは、最低20畳は必要で、響きがよく、雑共振や共鳴のあまりないことが要求される。つまり、頑丈で共振の少ない良い木材を使った床、壁、天井、それも充分に高さのあることが必要だろう。少なくとも、オーディオ的な吸音処理は最少限にとどめ、響きを殺さず、共振や共鳴をコントロールすることが大切である。
 スピーカーは、弦楽器を再生するとなると電磁型なら、軽く剛性のある振動板と強力な磁気回路が必須条件だ。静電型+サブウーファーも候補に挙げられるだろう。基本的には、いかに高価格なシステムといえども物量投入には制約が存在するため、質問に要求される音を再生することは不可能であろう。
 したがって、ここでは、いわゆる組合せというサンプルプランは存在しないことになり、考え方と方法論がテーマになる。
 超強力ドライバーユニットに古典的な長大なホーンを組み合せた中域以上のユニットを使い、弦楽器の細やかさ、やわらかさ、軽さを再生しようとする方法は、以前から国内の一部のファンが試みたタイプである。現実の製品には、ゴトーユニット、エール音響、YL音響などの中域ユニット、高域ユニットに、コーン型低域ユニットを、エンクロージュア、またはホーンロードをかけて使う方法である。調整は非常に難しく、かなり高度の技術が要求され、アンプは当然チャンネルアンプが前提である。開題は、音速が有限であることと、位相関係が乱されやすいこと、ホーン独特のキャラクターが残ることなどがあるが、プログラムソースとマッチした場合の音は、既製のシステムとは隔絶した見事さだ。
 静電型とサブウーファーの組合せは、米国で、試みられる例が多く、国内では、QUAD/ESL×2とハートレーのウーファーを組み合せた、マーク・レビンソンHQDシステムが知られている。基本的にESLが両側に音を出す特長をもつため、部屋のコントロールと条件は大変に難しいタイプである。
 ここまで試みたとしても、とかくオーディオで、弦とピアノは両立しえないものであることは忘れないでいただきたいことだ。
 やわらかさ、軽さ、を、ある程度の要求にとどめれば、10万円クラス以上のブックシェルフ型システムでも、らしい感じを出すことは可能である。簡単に考えれば、ソフトドームを使ったシステムの細やかさを活かす方法もあるし、平面型システムの適当に距離感をもち、奥に広がる音場感と部屋の響きを活かす方法も可能性がある。要は使いこなしであり、それも、技術的に裏付けのあるアプローチが必要である。
 ちなみに、質問のキンキン、ギラギラという音が現実に出ているとすれば、明らかに使いこなしが原因の一部であり、また、スピーカーが原因ではなく、アンプ系に問題が多いことは、常に経験するところである。
 最近の例でも、ある場所で、スピーカー、アンプ、CDプレーヤーの新製品を聴いたが、最初メタリックな音が出ていたのに、アンプ、CDプレーヤーの処理方法と使いこなしにより、ほぼ完全にメタリックな音が消え去り、しなやかで、やわらかい音が得られたことがあるが、これなどは、とかく、スピーカーに責任があると思いやすい誤認の好例である。

BOSE 901SS-W, 301MM-II

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ボーズからの新製品は、同社のトップランクモデルとして開発された、901SS−Wシステムである。その基本型は、前面と背面の2通りの使い方ができるバイフェイシャル方式のユニークなモデルとして発売された901SSで、これに数々の改良が加えられた新モデルであり、901シリーズIVとは、異なったラインの製品である。
 このモデルの最大の特徴は、エンクロージュアの仕上げが、落着いたローズウッド調のダークブラウン系にまとめられていることで、エンクロージュア底面には、入力端子と天井取付金具CB1、スピーカースタンドSS5が使えるように、ナットが埋込まれており、別売のスタンドには色調を揃えた茶系のPS4SSが用意される。
 発表資料によれば、901SS−Wの音質面での特徴は、高域における繊細さをさらに洗錬させるための改良を随所に施し、SN比の向上、ダイナミックレンジの拡大と併せて、音楽性をより一層高めた、とある。
 インピーダンス0・9Ωのフルレンジユニットを9個直列接続にして、8・1Ωとしていることをはじめ、エンクロージュアの基本構造はシリーズIVと変わらないが、細部においては、合成樹脂系の成形品で作られている内部構造材と木製のジャケット的な外皮でエンクロージュアとしシリーズIVと比べ、内部構造材そのものだけでエンクロージュアを形成してこの部分の気密性を高めてあること、ユニット関係では、振動系の外観上の変化は少ないが、高域の歪の低減をはじめ、耐入力、耐破損性を高めるとともに、コーン裏側に施したダンプ材料のコーティングなど、細部を含めればシステムとして100箇所あまりの改良が加えてあるというのが、ドクター・ボーズのコメントであるとのことだ。
 なお、専用イコライザーは、初期の901SSでは、ブラックパネルに2個のレベルメーターが付いたタイプであったが、これが新タイプに発展したブラック仕上げが901SS用であるが、この901SS−W用には、シルバー仕上げのイコライザーが専用として用意されている。
 301MM−IIは、発売以来すでに4年が経過し、仕様を変更して、今春シリーズ IIに発展している。これにともない301MMのカラーバージョン301MM−WもシリーズIIに変わった。
 主な変更点は、まず、ユニット構成が従来と同様に2ウェイ方式であるが、トゥイーターが2個になり、エンクロージュア内部で一定の角度で前後に向けて固定され、旧型のフォーカシングコントロールがなくなったことが最大の特徴である。その他、前面と側面のウレタン製グリルが布製になり、BOSEのエンブレムが固定式となった。また、左右グリル間の木製の板が成形品となったことも印象が異なる。
 エンクロージュアの外形寸法は旧型と同様だが、板厚が数mmほど厚くなったためPR3以外の従来の取付金具は使用できず、新タイプの金具が用意されている。
 ユニット関係は、振動系コーンの色調がグレイ系から新製品共通のブルー系のコーン材料に変更され、裏側にダンピング材料がコーティングされている手法は901SS−Wと共通なところだ。
 901シリーズの音は、小口径フルレンジユニットを前面に1個、背面に8個分散させ、実際のコンサートホールでの直接音と間接音の比率をリスニングルームに再現するというユニークな構想に基づいた特徴に加えて、小口径フルレンジユニットの音に不連続な面がなく、緻密で、いきいきとしたサウンドの特徴を活かした点にある。低域と高域の不足を電気的なイコライザーで補い、その技術的内容がダイレクトに音として感じられる、プレゼンスとサウンドの魅力がメリットである。
 901シリーズIVが、穏やかなまとまりを示しながらも、緻密で内容の濃い音を聴かせるのに比べ、901SSは、同じようにダイレクト/インダイレクトの使いわけをしても、適度に広帯域型で、分解能が向上したクリアーで現代的なクールな音と雰囲気が、コントラストを作っていた。今回の901SS−Wは、901SS系をベースに分解能が一段と向上した印象である。細やかさ、しなやかさが、穏やかで暖かな雰囲気のなかにまとまって、熟成されているのが魅力であろう。
 この性質は、直接音を大きくして使う、サルーンスぺクトラムの場合でも、901SSとの性質の違いとなってあらわれるが、エンクロージュア左右に一対として付属しているフィンが、901SS−Wでは、木製ということもあって、バイフェイシャルな使いかたで、音とプレゼンスが大きく変化する。一例として、壁面から数十cm離して設置し、901シリーズIVと同様にフィンを閉じた状態と、外側のフィンを壁と平行とし、内側のフィンを各種の角度で使ってみると、音のバランスをはじめ、音像定位、音場感が相当に変化をするのが聴き取れるだろう。つまり旧301MMのフォーカシングコントロール的に考えればこの2枚のフィンは、サウンドキャラクターとプレゼンスのコントローラーとして使いたいユニークな機能である。この901SS−Wの小型高密度タイプでありながらクォリティが高く、音場感的プレゼンスに富むところは、他に類例のない魅力である。
 なお、301MM−IIは、旧型よりキメ細かく、しなやかとなり聴感上でのSN比が良いのが特徴だ。2個の固定した高域を活かすためには、使用にあたり内側と外側に置換えて調整するのがポイントだ。

ケンウッド L-02A

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 管球アンプ時代のアンプといえば、ブリアンプとパワーアンプという、セパレート型アンプが一般的なタイプであり、それもプリアンプと専用電源部、パワーアンプと専用電源部という構成のものも多く存在し、プリメインアンプ、つまり、プリアンプとパワーアンプを一つの筐体に組込んだモデルが特殊な存在であった。
 ステレオ時代に入ると次第に管球アンプもプリメインアンプの形態をとることが多くなり、ソリッドステート化されるに及び、プリメインアンプがアンプの主流を占めるようになる。
 その基本的な回路構成は、フォノイコライザーアンプ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプとパワーアンプという3ブロック構成がスタンダードなタイプである。シンプル・イズ・ベストの思想とアンプ構成の単純化による原価低減、さらにMCカートリッジが主流を占めるなどの背景により、現在のプリメインアンプは、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプの2ブロック構成がベーシックな回路構成になっている。
 一方において、シンプル・イガ・ベストの思想に基づいてアンプとしてのクォリティの向上を追求する傾向が古くから一部に存在し〝イコライザー付きパワーアンプ〟をキャッチフレーズとして最初に開発されたモデルが、たしか、ラックスの5L15であったように思う。
 この、二つのプリメインアンプの動向をベースに、ここで、取上げた、ケンウッドL02Aを考えてみることにしたい。
 もともと、トリオのプリメインアンプには、初期から利得配分で他社にない特徴があったようだ。ソリッドステートアンプが完成期を迎えた時期のトリオの名作プリメインアンプといわれたKA6000では、フォノイコライザーアンプ、ゼロ利得のトーンコントロールアンプと、ハイゲインパワーアンプの3ブロック構成で、パワーアンプの入力電圧は、たしか0・2V程度でフルパワーとなる、いわば英クォードのセパレート型アンプ的な特徴があった。つまり簡単に考えれば、一般的には20dB程度の利得をもつ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプを通すことによる音質の劣化を避けた点に特徴があるともいえる設計である。
 L02Aは独立した電源部とプリメインアンプ部の2ブロック構成をもち、機械的にアンプ部と電源部を一体化してブリメインアンプ化も可能であり、その回路構成は、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプ部の2ブロック構成という特異性の強いモデルである。各種の条件から考えて、やはりトリオ/ケンウッドのブランドにおいてもっとも誕生しやすい土壌があったと考えてよいだろう。
 この、特異ともいうべき超高価格な製品を、ブリメインアンプの最高峰に位置するモデルとして市民権を獲得し、世に認めさせるとともに、営業的にもそれなりの成功を収めたことは、その性能に裏付けさせられた音質面の優位性、ブランドの信頼感の高さに加えて開発スタッフのオーソドックスなアプローチと努力の賜として賞讃を送りたいものである。
 一方において、L02Aはプリメインアンプという形態を採用しているだけに、これとペアになるチューナーの存在も大きな意味を持つことになる。この点でもFMのトリオに相応しく、FM専用チューナーL02Tの存在は不可欠なものだ。
 ちなみに、このL02Tの音は、数多くの高級FMチューナーが存在するが、バリコンを同調回路に使うFMチューナーとして、かつてのマランツの♯10Bの再来を思わせる素晴らしさであると思う。
 L02TとL02Aのペアは、個人的にも、リファレンスFMチューナーとリファレンス用プリメインアンプとして、長時間にわたり、その大役を果している。L02Aは、CDや、ハイファイVTR登場以前の開発であるため、現状ではややファンクション系の不足があること、セパレート電源部方式を採用しているため、アンプと一体化しても、電源供給ラインにコネクターが入ってしまう点などの小さな問題点も存在はするが、上昇量が切替可能であり、パラメトリックイコライザー的に周波数が可変できるラウドネスコントロールは、各種のスピーカーをコントロールルするときに予想以上に有効に働く機能であり、ナチュラルな帯域バランスと、素直な音色、ストレートで伸びやかであり誇張感のない音は、基本的なクォリティが高く、作為的な効果を狙った印象が皆無であるのが好ましい。
 また、いろいろと話題を提供した独自の㊥ドライブ方式も、スピーカーコードの影響を皆無とすることは不可能であるが、スピーカーシステムをアクティブにコントロールし、追込んで使いたいときにはかなり有効な手段であると思う。
 L02Aは、プリメインアンプの頂点をきわめた立派なモデルであるが、マルチプログラム時代になり、高品位、ハイレベル人力のプログラムソースが増加する今後のオーディオにとっては、セパレートアンプよりも合理的なアンプの原型として、この形態は、見直してしかるべきものと思う。

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 ビクターのラボラトリーシリーズのコントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10は、いま、聴いておきたい音、というよりは、いま、安心して聴ける音、といった性格のセパレート型アンプである。
 従来からもビクターには、オーディオフェアなどで見受けられた一品生産的な特殊なモデルを開発する特徴があったが、その技術をベースに、薄型コントロールアンプの動向に合せた7070系のコントロールアンプと、いわゆるパルス電源を初めて採用したモノ構成の7070パワーアンプをトップランクの製品として持ってはいたが、ビクターのセパレート型アンプとして最初に注目を集め、多くのユーザーの熱い期待を受けたモデルは、パワーアンプのM7050であろう。
 これらの従来から築きあげた基盤の上に、アンプの基本思想として、忠実伝送と実使用状態における理想動作を二大テーマとして、ラボラトリーシリーズのセパレート型アンプとして1981年秋に開発されたモデルが、P−L10とM−L10である。
 コントロールアンプP−L10は、かつてのソリッドステート初期に、グラフィックイコライザー(SEA)を搭載した超高級コントロールアンプとして注目を集めたPST1000以来、久しぶりに本格派のコントロールアンプとして総力を結集して開発された意欲的なモデルである。
 最新の技術的産物としてのアンプではなく、音楽性追求のための技術という考え方を基本にして開発されただけに、例えば、音量を調節するボリュウムコントロールには、一般的に抵抗減衰型のタイプが使われるが、これでは可変抵抗器が信号ラインに入り接点をもつために、位置による音質のちがいが生じやすい点が問題にされ、アンプの利得を可変にすることにより音量を変える新開発Gmプロセッサー応用のボリュウムコントロールが採用されている。
 このタイプは、ボリュウムを絞っていけば、比例してノイズも減少するため、実用状態でのSN比が大幅に改善され、結果として、音場感情報が豊かになり、クリアーな音像定位や見通しのよい広い音場感が従来型に比較して得られる利点がある。このバリエーションとして、昨年来のプリメインアンプA−X900やA−X1000にスイッチ切替型として採用されているが、この切替えによるSNの向上が、いかに大きく音場感再生と直接関係しているかは、誰にでも一聴して判かる明瞭な差である。
 また、フォノイコライザーでのGmプロセッサーの応用にも注目したい。入力電圧を電流に変換増幅後、その電流をRIAA素子に流す単純なイコライザー方式は、CR型の伝送・動特性とNF型の高域ダイナミックレンジを併せ持つ特徴があり、電圧を電流に変換する変換率を変えればトータル利得を変化できるため、MMとMCポジションで性能、音質が変わらず、トータルな周波数特性はRIAA素子のみで決定されるため、RIAA偏差は自動的に100kHzまでフラットになることになる。
 フォノ3系は低出力MC用ハイゲインイコライザーで、入力感度は70μVと低いが、SN比は非常に優れているのが特徴である。外装は、ビクター独自のお家芸ともいえる高度な木工技術を活かした、21工程に及ぶ鏡面平滑塗装仕上げ、これは見事だ。
 ステレオパワーアンプM−L10は、ビクター独自のスイッチング歪をゼロとした高効率A級動作方式〝スーパーA〟の技術をベースに、スピーカー実装時のアンプの理想動作を追求した結果、全段カスコード・スーパーA回路を新採用している。この回路も、実際の試聴により、スピーカー実装時のアンプ特性劣化や、音楽再生時のTIM歪や発熱による素子のパラメーターの変化に注目した結果、優れた回路方式として採用されている点に注目したい。
 この方式は、パワー段までカスコード・ブートストラップ回路を開発し、採用しているため、出力段のパワートランジスターは数ボルトの低電圧で動作し、電流のみ変化する特徴があり、電圧と電流の位相がズレるスピーカー実装負荷でも、ダミー抵抗負荷と同じ動作、性能が確保され、アンプは負荷の影響を受けない利点がある。また、低電圧動作のパワー段は、発熱量が低く、従来型に比較してスピーカー実装時の瞬間発熱量は1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流の安定化にもメリットがある。
 構成部品は、エッチングなしのプレーン箔電解コンデンサー、高速ダイオード、高安定金属皮膜抵抗、低雑音ツェナーダイオードなど定石的な手法が各所に認められる。
 外装は、平均的に16工程程度とされるピアノ塗装を上廻る21工程の鏡面仕上げローズ調リアルウッドのキャビネット採用。
 定格出力時、160W+160W(20Hz〜20kHz・8Ωで、THD0・002%)周波数特性DC〜300kHz−3dBの仕様は、セパレート型アンプとしてトップランクの特性である。
 P−L10とM−L10のペアは、充分に磨き込まれた、安定感のある、タップリとしたナチュラルな音が特徴である。各種のキャラクターが異なるスピーカーシステムに対しても、ナチュラルな対応性を示し、それぞれの特徴を活かすセッティングも、個性を抑えたセッティングも、かなりの自由度をもってコントロールできるようだ。
 好ましいアンプというものは、個性的なキャラクターの強い音をもつものではなく、結果として、電気信号を音響エネルギーとして変換するスピーカーシステムに対して、充分なフレキシビリティをもって対応可能なことと、聴感上でのSN比が優れ、音場感的情報量をタップリと再生できるものであるように思う。
 この意味では、このセパレート型アンプのペアは、発売以来3年を迎える円熟期に入ったモデルであるが、各種のスピーカーシステムに対する適応性の幅広さと、ビクターの伝統ともいうべき、音場空間の拡大ともいうべき、音場感情報の豊かな特徴により、現時点でも、安心して聴ける音をもつ、セパレートアンプとして信頼の置ける存在である。

テクニクス SE-A1、ヤマハ 101M

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 セパレート型アンプのジャンルでは、コントロールアンプに比較して、パワーアンプに名作、傑作と呼ばれる製品が多い傾向が強いように思われる。
 こと、コントロールアンプに関しては、管球アンプの以前から考えてみても、いま、残しておきたい音というと、個人的には、管球アンプのマランツ♯7と、ソリッドステート以後ではマーク・レヴィンソンLNP2の2モデルしか興味がない。
 これに比較すれば、パワーアンプではいま聴きたい音、あるいはとっておきたい音は数限りなくあるといってもよいし、個人的にもパワーアンプのほうが好きなようで、手もとに残してある製品を考えても、パワーアンプの総数はコントロールアンプの3倍はあると思う。とくに、この号が発刊される頃(秋)は、感覚的にも、管球アンプを使いだすシーズンであり、音的には体質にマッチしないが、マッキントッシュMC275を再度入手したいような心境である。
 国内製品でも、パワーアンプには興味深い製品が数々あり、AクラスパワーアンプのエクスクルーシヴM4、全段FET構成のヤマハBI、 ハイパワー管球アンプのデンオンPOA1000Bなどは、オーディオの夢を華やかに咲かせた。それぞれの時代の名作であり、コレクション的にも興味のある作品と思う。
 パワーアンプでAクラス増幅の高品位とBクラス増幅の高効率が論議され、各社から各種のBクラス増幅のスイッチング歪とクロスオーバー歪を低減する新方式が開発された時点で、スイッチング歪とクロスオーバー歪の両方が発生せず、しかもAクラス増幅で350W+350Wという超弩級のパワーをもつ驚異的なパワーアンプとして、テクニクスから1977年9月に登場した製品がテクニクスA1だ。
 テクニクスの伝統ともいうべきか、全段Aクラス増幅のDCコントロールアンプのテクニクスA2と同時に発表されたA1は、独特のコロンブスの卵的発想によるAプラス級動作と名付けられた新方式を採用した点に最大の特徴がある。
 基本構想は、スイッチング歪とクロスオーバー歪が発生しない低出力A級増幅パワーアンプの電源の中点をフローティングし、別に独立した電源アンプで信号の出力増幅に追従するようにA級増幅アンプの電源中点をドライブするという2段構えの構成での高効率化である。
 これにより、アンプの外形寸法はA級増幅の100W+100Wなみに抑えることが可能となり、しかも強制空冷用のファンなしの静かなパワーアンプが可能となったわけだ。またこのモデルは、入力や出力のカップリングコンデンサーや、NFBループ中にもコンデンサーのないDCアンプを採用しながら、DCドリフト対策として、出力のDCドリフト成分を信号系とは別系統の系を通してDCドリフトの要因となる回路素子に熱的にフィードバックし、素子間の温度バランスを補正し、DCドリフトの要因そのものを打消すアクティブサーマルサーボ方式を採用していることも特徴である。
 機能面は、4Ω、6Ω、8Ω、16Ωのスピーカーインピーダンスによる指示変化を切替スイッチで調整可能の対数圧縮等間隔指示のピークパワーメーター、レベルコントロールによりプリセット可能な4系統のスピーカー端子、2系統の入力切替、電源のON/OFFのリモートコントロールなどが備わっている。
 周波数特性、DC〜200kHz −1dB、スルーレイト70V/μsec、350W+350W定格出力時(20Hz〜20kHz)で0・003%のTHDと、スペックのどれをとってもパワーアンプとして考えられる極限の性能を備えていた。しかも、業務用ではなく、純粋にコンシュマーユースとして開発された点に最大の特徴がある製品だ。
 柔らかく、穏やかな表情と、しなやかで、キメ細かい音が特徴であったが、余裕たっぷりの絶大なスケール感は、ハイパワーであり、かつ、ハイクォリティのパワーアンプのみが到達できる独自の魅力で、現在でも鮮やかに印象として残るものである。今あらためて、ぜひとも最新のプログラムソースと最新のスピーカーシステムで聴いてみたい音だ。また、このAプラス級増幅方式と共通の構想として、それ以後、エクスクルーシヴM5、ヤマハB2xなどが誕生していることも、見逃せない点だ。
 1982年末に、500W十500Wという超弩級ステレオパワーアンプとして初登場したモデルが、ヤマハ101Mである。外観のデザイン面からも判然とするように、ヤマハ一連のアンプデザインと異なった印象を受けるが、基本構想はレコーディングスタジオでのモニターアンプ用として開発されたモデルでナンバー末尾のMは、モニターの意味であると聞いている。
 構成は、筐体は共有しているが、内部は電源コードまでを含み完全に左右チャンネルは独立した機構設計をもっている。人力系は、欧米でのスタジオユースを考えオスとメスのキャノン型バランス入力とRCAピンのアンバランス入力とレベルコントロール、さらに、BTL切替スイッチが備わり、BTL動作時は、1500W(8Ω)のモノパワーアンプになる。なお、出力系は、切替スイッチはなく、1系統のダイレクト出力端子のみ、というのは、いかにも、プロフェッショナル仕様らしい。
 パワー段は、+−70V動作のメタルキャンケース入り、Pc200Wパワートランジスター5パラ動作をベースに、+−120V動作の4パラ動作が必要に応じて加わる方式で、ヤマハ独白のZDR方式採用でパワーパワー段での各種歪、スピーカーの逆起電力による歪までをキャンセルし、定格出力時THD0・003%は、見事な値だ。
 音の輪郭をシャープに描き出し、ストレートに力強い表現をする音は、一種の厳しさをも感ずる凄さがあり、国内製品として異次元の世界を聴かせた印象は今も強烈だ。

マランツ Sc1000, Sm1000

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 マランツの製品は、創業期から現在にいたるまで、比較的に、コントロールアンプとパワーアンプのバランスがよいモデルを送り出していることに特徴があるようだ。
 いまも聴きたい音という意味からは、かつての管球アンプ時代の♯7コントロールアンプと♯2モノパワーアンプ×2の組合せは、私個人にとってはマランツの最高傑作と信じている黄金のペア、いや、トリオである。
 コントロールアンプは、ステレオタイプとなり♯7で完成の域に達したが、パワーアンプは、♯5、ステレオタイプ♯8B、♯9と発展をする毎に、製品としての合理性、商品性、安定度などは確実に向上をしているが、パワーアンプとしての魅力は、次第に後退し、♯2の印象は♯5ですでに消失しているように感じられる。
 ソリッドステート化第一作の、♯7Tコントロールアンプ、♯15パワーアンプは、第一作という意味での不安感が少なく、完成度も充分にあり、現在でも少し古いディスクを再生するときにはなかなか楽しめる音を聴かせるペアである。
 ♯15に続く、♯16以後、しばらくの期間は、パワーアンプは、♯250、♯510と続くが、コントロールアンプが不作の時代である。
 基本設計を米国で、実際の開発と生産を国内で行なおうとする、いわば新世代のマランツの製品は、不巧の名作といわれたプリメインアンプ♯1250が代表作になるわけだが、トップランクのセパレート型アンプを目指して、より良き伝統を受継ぎながら最新のテクノロジーとデバイスをマランツらしく生かして久し振りに開発された第1弾作品が、400W+400Wのパワーを備えたステレオパワーアンプSm1000である。
 パワー段は、メタルキャンケース入りのパワートランジスター3個パラレルに対して1個のドライバーを組み合せたものを1組とし、これを、3個組み合せて、3段ダーリントン方式の出力段としている。つまり、3×3=9が+側と一側にあるわけだから、片チャンネル18個のパワートラジスターを使っていることになる。
 ハイパワーアンプの放熱対策は、重要な機構設計上のポイントになるが、Sm1000では、空冷用ファンを組込んだ、風洞型の放熱器を♯510から受継いで採用している。この方式により、400W+400Wの定格出力を持ちながら、外形寸法面でのパネルの高さを抑え、比較的に薄型にすることを可能としている。
 風洞内部には、両チャンネル用の36個のパワートラジスターと12個のドライバーが組込まれているが、風洞内で均等に各トランジスターを冷却するために、風下にいくに従って冷却効果を高めるために長さが次第に長くなっているサブ冷却フィンが整然と並んでいる様は、視覚的にも美しく、一見に値する眺めではあるが、容易に外側から見られないのが大変に残念な点である。
 電源部は、伝統ともいうべき強力タイプで、左右独立した800VAの容量をもつカットコア採用の電源トランスと20000μF、125Vのオーディオ用コンデンサーを+側と一側に2個採用したタイプで、一部を積上げ電源として使うスタック型パワーサプライ方式である。
 入力系は、レベルコントロール付で、アンバランス型のRCAピンジャックと、1と2番端子がコールド、3番端子ホットのキャノンプラグ付、出力系は、ダイレクト端子と切替可能なSUB1とSUB2の3系統をもつ。
 Sm1000は、基本的には、無理に帯域を広帯域型としないナチュラルなバランスと、クッキリと粒立ちがよく、音の輪郭をクリアーに描き出す、ダイナミックで力強い♯510系の延長線上に位置する音をもっている。いかにも、マランツらしいイメージをもつ、ストレートさが最大の魅力と思う。後継モデルのSm700の、しなやかで明るく、音場感を広く再現する性質とは対照的で、安定感のある力強い長兄と、伸びやかで、現代なフィーリングをもつ次男といったコントラストが面白い。
 コントロールアンプSc1000は、Sm1000に続くパワーアンプSm700と、ほぼ同時に開発されたマランツのトップランクコントロールアンプである。
 基本構成は、シンプル・イズ・ベストであり、ディスク再生における最高の音楽表現を目指し、入力から出力までのスイッチなどの接点数を極少とし、裸特性を極限まで追求した増幅回路、負荷電流の変動にいかなる影響も受けない超低インピーダンス化した理想的電源部などがポイントだ。
 フォノイコライザーは、A級動作、全段プッシュプル構成DCアンプを2段使ったNF・CR型、機械的に連動と非連動に変わるバランスコントロールを省いたボリュウムコントロールと、それ以後は、2系統に分かれ、それぞれ専門の出力端子をもつフラットアンプとトーンコントロールアンプをパラに設置したユニークなブロックダイアグラムを特徴としている。なお、電源部は筐体の半分を占める、各ユニットアンプ間チャンネル間の干渉を排除した8独立電源で、事実上のインピーダンスを0としたシャントレギュレ一夕一方式を採用している。また、TUNER、AUX用とTAPE入力用にバッファーアンプを備えているのも特徴である。
 基本的には、アナログディスク再生に焦点を合せたコントロールアンプではあるが1981年当時の設計としては、フラットアンプの性能が追求されており、ハイレベル入力系に対してカラレーションのない音を聴かせるのが本機の特徴である。特徴の少ない音だけに、最初の印象は薄いかもしれないが、使込んで次第に内容の高さが判かってくる。これこそ、いま、聴きたい音である。

ソニー APM-8, APM-6、パイオニア S-F1、テクニクス SB-M1 (MONITOR 1))

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 平面振動板採用のユニットを使ったスピーカーシステムといえば、1970年代の末期に急激に開花した徒花といった表現は過言であるのだろうか。
 毎度のことながら、国内のオーディオシーンでは、これならではのキャッチフレーズをもった、いわば、究極の兵器とでもいえる新方式や新材料を採用した新製品が、開発され、ある時期には、各社から一斉に同様のタイプの新製品が市場に送り込まれ、盛況を見せるが、それも長くは継続せず、急速に衰退を元す、といった現象が、繰返されている。平面振動板を採用したユニットによるスピーカーシステムも、その好例であり、現在では継続してこのタイプのユニットによるシステム構成を行なっているのは、テクニクスとソニーの2社といってよいであろう。
 平面振動板は、スピーカーユニットの振動板形態としては、もっとも、シンプルなタイプであり、振動板の振動モードを検討する場合に、オルソンの音響工学にもあるように、常に引合いに出されるタイプだ。
 従来からも、平面振動板を採用したダイナミック型のユニットは、特殊なタイプとしてはすでに1920年代から存在することが知られているが、いわゆる、コーン型ユニット的に、ボイスコイルで振動板を駆動する製品としては、かつて、米エレクトロボイスにあったといわれる、木製の板を振動板としたユニット、ワーフェデールのコーン型ユニットの開口部を発泡性の合成樹脂の平らな円板でカバーしたウーファーなどが一部に存在をしたのみである。これが、急速にクローズアップされたのは、宇宙開発や航空用に開発された軽金属製のハニカムコアが、比較的容易に入手可能となり、これに、各種のスキン材を使って、振動板として要求される、重量、剛性、内部損失などの条件がコントロール可能になったためである。簡単にいえば、新しい材料の登場が、急速な平面振動板ユニット開発のベースとなっているのである。
●ソニーAPM8/APM6
 平面振動板を採用した原点は、全帯域にわたり完全に近いピストン振動をする、いわば、スピーカーの原器ともいえるシステムを開発するためといわれ、アキユレート・ピストニック・モーションの頭文字をとりAPMの名称がつけられている。
 APM8は、11978年1月に開発されたAPMスピーカーをベースに製品化された第一弾製品で、ハニカムサンドイッチ構造の角型板勤板ユニットを4ウェイ構成とし、フロアー型バスレフエンクロージュアに組込んだシステムである。アルミ箔スキンの低音は、4点駆動で、中心にローリング防止ダンパー付。中低域以上は、カーボンファイバーシートをスキン材に採用している。
 磁気回路は、アルニコ系鋳造磁石を採用し、プレートとセンターポールの放射状スリットと、磁気ギャップ近傍のプレートやボールに溝を設けるなどの機械加工による電流歪低減と、各ユニットのインピーダンスを純抵抗と純リアクタンスに近づけ、単純化し、ロスを減らし、特性をフラット化する設計が見受けられる。
 エンクロージュアは、200ℓ、自重60kgで25mm厚高密度パーチクルボード製。ネットワークは、SBMCの高圧成形の防振構造を採用している。
 ユニット性能を最重視した基本設計は、国内製品として典型的な存在である。物理的な性能は超一流のレベルにあるが、システムとしての完成度に今一歩欠けるものがあり、発表以後、改良が加えられた様子はあるが、サウンド的には未完の大器であり、非常に残念な存在である。完全にチューンナップした音が聴きたいモデルだ。
 APM6は、APMユニットをモニターとして最適といわれる2ウェイ構成とし、エンクロージュアをスーパー楕円断面の特殊型として、デフテクションの防止を図ったAPM第二弾製品である。2ウェイ構成のため、セッティングは非常にクリティカルな面を示すが、追込めばさすがに、従来型とは一線を画したスピード感のある新鮮な音を聴かせる。使い手に高度の技術を要求する小気味のよい製品だ。
●パイオニア S−F1
 世界初の平面同軸4ウェイユニットを開発し、採用した、極めて意欲的、挑戦的モデルである。基本構想は、音像定位、音場感を最優先とした設計であり、混変調歪やドップラー歪に注目して一般型としたソニーAPM6と対照的な考え方と思う。
 角型ハニカム振動板は、低域と中低域のスキン材にカーボングラファイト、中高域と高域用はベリリュウム箔採用だ。磁気回路は、同軸構造採用のため、ウーファー振動板40cm角に対して32cm型のボイスコイルであり、背面の空気の流れを確保するため非常に巧妙な考えが見受けられる。とくに、高域と中高域の同軸構造磁気回路は、シンプルでクリーンな設計である。
 エンクロージュアは、230ℓのバスレフ型で、システムとしての完成度は、相当に高いが、今後のファインチューニングを願いたい内容の濃いシステムである。
●テクニクス/モニター1
 SB7000で提唱した位相特性平坦化を平面振動板採用で一段とクリアーにした理論的追求型のシステムだ。独特のハニカムコア展開法は、振動板外周ほどコアが大きくなり、軽くなる特徴をもち、4ウェイ構成のユニットはすべて円型振動板採用。
 低域用の特殊構造リニアダンパー、高域用のマイカスキン材をはじめ、磁気回路の物量投入は、価格からみて驚威的で、非常に価格対満足度の高い製品である。特性は充分に追込まれているが、システムアップの苦心の跡としてバッフル前面のディフューズポールや、内部定在波を少し残して低音感を調整したあたりは巧みである。この製品の内容を認めて、使いこなせる人が少ないのが、現在のオーディオの悲劇であろうか。

パイオニア A-150D

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから、従来のA150に替わるモデルとして発売されたA150Dは、デザイン的には、オプションのサイドパネルを除き変更はないが、その内容面は、大幅な変更を受け、基本から完全に新設計された、意欲的な新製品である。
 基本的な特徴は、電源トランスを含め左右独立したモノーラル構成のパワーアンプと、同じく、電源トランスを含む、小信号系の独立したイコライザーアンプという、3ブロックに分割した内部構成にある。
 パワーアンプの左右チャンネルをモノーラル構成とするメリットは、左右の信号の相互干渉がなく、混変調歪、セバレーションが優れ、聴感上では、音場感的な空間情報量が豊かであり、音像定位がクリアーになる特徴がある。また、小信号系を分離すれば、変動が激しいパワーアンプの影響を受けず、音質向上が計れることば、セパレート型アンプのメリットにつながるものだ。
 簡単に考えれば、プリメインアンプでセパレート型アンプに近似したメリットを実現させようという考え方で、一時は、この動向がプリメインアンプの主流を占めた時代があったが、最近では、主に価格的な制約が厳しいため、採用される例は少ない。
 このタイプで問題になるのは、構造面の機構設計の技術である。プリメインアンプであるだけに、同じ筐体内に、分割したブロックを組込むためのスペース的な制約は厳しく、この部分の設計が、目的を達成するか否かにかかわる鍵を撮っている。
 パワーアンプは、A150のノンスイッチング方式を発展させた、ノンスイッチング回路タイプIIと呼ばれるタイプで、従来型の100kHzまでのノンスイッチング動作から、100kHz以上までと動作領域を広帯域化している。また、B級増幅のアイドリング電流のドリフトに起因するサーマル歪や出力段で発生する非直線歪に対して、新しくアイドリング電流を電源スイッチ投入直後や大きな信号が入った直後にも、瞬時に安定化する特殊回路が開発され、出力段の歪みは従来の1/10となっているという。
 経験的に150W+150Wクラス以上のパワーアンプでは、一般的な試聴のように、数分間程度信号を加えて音を聴き、数分間、音を止め、再び音を出す、という間欠的な動作をさせると、音を出した最初の10〜20秒位の間は、音が精彩を欠いており、これが次第に立上がって本来の音になることを常々体験し、温度上昇との因果関係をもつことを突きとめてはいるが、アイドリング電源の安定度との相関関係も非常に興味深いものがある。
 このところ、スピーカーのインピーダンスは、従来の8Ωから6Ωに主流は移行する傾向を示していることの影響をも含めて、パワーアンプの低負荷ドライブ能力が、再び、各メーカーで検討されているようだ。
 A150Dも、低負荷ドライブ能力の向上は、設計上での大きなテーマであり、パルシプな入力がスピーカーに加わった立上がり時に、見かけ上のインピーダンスが、サインウェーブで測った公称インピーダンスより低くなる動的インピーダンスに対しての駆動能力を確保する必要性を重視した結果、パワーアンプは、電流供給能力を増強した設計で、4Ω負荷時190W+190W、2Ω負荷時で270W+270Wが得られると発表されている。
 機能面は、トーンコントロール回路や、モード切替えスイッチをパスさせて、信号系路をシンプルにするラインストレートスイッチ、多様化するプログラムソースに対応するための、5系統の入力切替えスイッチと2系統のテープ切替えスイッチを備えている。なお、MC型カートリッジは、A150同様に、昇圧トランスを使い、3Ωと40Ωが切替え使用できるタイプである。
 リアパネルのスピーカー端子は、太いスピーカーケーブルの使用に対応するため、ターミナルのコード接続部の開口は、3×5φmmと大きく、構造的には、2枚の金属板を庄着するタイプが採用されている。
 試聴は、JBL4344、ソニーCDP701ES、バイオニアP3a十オルトフォンMC20IIを使う。
 外観的には、オプションのウッドボードをボンネットの両側に取付けると、かなり大人っぽい落着いた雰囲気になる。各コントロールは、適度に明解さの感じられる節度感のある感触があるが、大型のボリュウムのツマミは、A150と格差を感じる金属削り出しに格上げされ、そのフィーリングは高級磯らしい好ましいものだ。
 また、機構面も目立たないところだが、A150と比較すれば確実にコントロールされており、ボンネットや内部の機械的な共振や共鳴が抑えられ、手でたたいてみても、雑共振が尾を引いて響くことはない。
 音質面でのA150Dの最大の特徴は、従来の、豊かで柔らかい低音から脱皮した、余裕のある力強い安定した低音への変化である。この新鮮な感覚の低域をベースとして、密度感があり、気持よく抜けた中域とナチュラルな高域が巧みにバランスを保ちスムーズに伸びた帯域バランスを聴かせる。基本的なクォリティは、充分に高く、A150に対する価格の上昇を償って充分以上の内容の向上である。
 音色は、ほぼ、ニュートラルであり、アンプの本質がもっとも現われる、音場感の空間情報量や音像定位のクリアーさでも従来とは一線を画したパフォーマンスだ。
 オプションのサイドパネルを取付けると、制動効果で音は少し抑えられるが、クォリティ的には少し向上する傾向が聴き取れる。総合的に、電気系、機械系のバランスが大変に優れた、注目すべき新製品である。

ヤマハ CD-2

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハのCDプレーヤーは、価格的にもトップランクの高級機、CD1が最初の製品であった。比較的に短期間に、CD1は、改良が加えられ、CD1aに発展するが、これと、ほぼ時を同じくして、かつてパワーFETの開発で注目を集めた、独自の半導体技術を駆使して、驚異的短期間に、CD専用LSIを完成させ、これを搭載したモデル、CD−X1は10万円のボーダーラインを最初にきった製品として、センセーショナルに登場した。
 今回、発売されるCD2は、価格的には、コンポーネントライクなCDプレーヤーが数多く存在する価格帯の、やや下に価格設定をされた、ヤマハCDプレーヤーのスタンダードモデルともいうべき新製品である。
 基本的なベースとなったものは、CD−X1であるが、外形寸法が、いわゆるコンポーネントサイズの横幅435mmにまとめられているように、筐体関係は完全に基本から新設計された、ヤマハの第3世代のCDプレーヤーである。
 CDプレーヤー独特の高度な音質と使いやすさの2点を両立させたモデルとして開発された印象を受けるCD2は、クォリティオーディオを推進するヤマハの製品らしく、その基本は当然のことながら音質を優先させた開発であることは、いうまでもない。
 現時点でのCDプレーヤーの音質についての要求は、大別してアナログ的な味わいを残したタイプと、デジタルならではの高性能さを、ストレートに音に活かしたタイプに分けられているように思われる。
 ヤマハの製品で考えれば、第一弾製品であるCD1は、やや前者寄りに属する音が特徴であり、CD−X1は、基本的な音質に重点をおいて聴けば、ある種の物足りなさを感じるのは、価格から考えれば当然のことであるが、その素姓の素直さ、という聴きかたをすれば、シンプル・イズ・ベストの例のようにむしろCD1/1aを上廻るものがあると私は思う。
 余談にはなるが、安易にコントロールアンプの上に積重ねて、CD1/1aを使っているとすれば、CD−X1を充分に使いこなして追込めば、クォリティ的にはかなり、近接した結果にすることは可能である。
 このあたりが、価格に関係なく基本性能が、ほぼ同じである、CDプレーヤーの前例のない大きな特徴であろう。
 CD2は、開発にあたり、音づくりではなく、CD本来の可能性を最高に引出すことをテーマとしており、この考えかたは今後のCDプレーヤーの標準的な流れとなるであろう。
 その内容は、音に大きく影響を与えるフィルターには、ヤマハが開発したLSIに内蔵したデジタルフィルターとアナログフィルターを組み合わせた、いわゆる音が良いフィルターを使用し、電源部には大型低インピーダンス電源トランス、配線は無酸素銅線、アース系の銅板バスバーなどを、アナログ系アンプには、アンプで手がけているクォリティパーツを導入している。
 光ピックアップは3ビーム方式で、独自のアドレス制御法により、再生系の回転変動を吸収し正確な信号読取りが可能。
 筐体関係は、機械的な設計や加工で定評のある、ヤマハの技術を充分に活かした設計で、細部にわたる振動や共鳴の制御は、CDプレーヤーにおける、独自のノウハウの産物のように思われる。このあたりが、優れたCDの音を最良に引出すための陰の立役者なのである。
 機能面は豊富であり、常時受付けの10キー、12曲までのランダムメモリー再生が可能。A−B2点間を含むリピート機能に加えて、曲間及びABリピート繰返し間に+3秒の間隔を作るスペ−ス・プレイやディスクを挿入すると自動的にプレイするAUTO、プレイボタンで再生スタートするNORM、1曲ごとにポーズ状態となるSINGLEの3段階に切換わるプレイモードが特徴的な機能である。なお付属の赤外線リモコンは、基本操作のほとんどをカバーする機能を備える。
 試聴は、JBL4344とデンオンPRA2000ZとPOA3000Zを使う。
 ディスクを装着するトレイの動きと音は軽いタイプであるが、機械的な精度は高いらしく装着時の音も、不快な共振や共鳴が抑えられたカタッと決まった印象がある。付属のRCAピンコードは、平均的なタイプで、聴感上の帯域バランスは、ハイエンドとロ−エンドを少し抑えた、いわば、安定型で、比較的にキャラクターをもつ中級ブックシェルフ型スピーカーや、機構的な追込みや、コントロールが難しい中級のプリメインアンプでは、この程度のバランスがマッチすると推測される。
 各種のRCAピンコードを試用し、追込んでみると、CD2の潜在的な能力が次第に発揮されるようになり、帯域バランスもワイドレンジ型に変わり、音場感の空間情報の豊かさや、定位感がシャープに決まるようになる。CDプレーヤーの置き場所を選び安定させると、コンパクトディスクの録音の差や、アンプ系のわずかのキャラクターも音として検知できるようになってくる。このときの音は、適度に伸びやかで、軽快なイメージのサウンドである。いわゆるデジタル的な浮上がった吾がなく、ノイズの質もかなり良い。
 使い勝手は機能が豊富だけに、ある程度の慣れが要求されるが、当然のことだろうう。総合的にみて、CDプレーヤーとして、トータルバランスが優れており、開発目的を充分に達成した印象が強い製品だ。