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ダイナベクター KARAT 17D2

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤモンドのカンチレバーといえば、オーディオファンなら、ぜひとも一度は使ってみたいと憧れる思いにかられるであろう。従来は、高価な宝石としても最高にランクされる材料であり、その硬度もビッカース硬度10という最高の値をもつために、ダイヤモンドを研磨する方法はダイヤモンドで磨くほかはない加工上の制約があり、とても手軽に購入できる価格帯の製品に採用されることはありえないことであったわけだ。
 この夢のカンチレバー材料ともいうべきダイヤモンドカンチレバーを採用したMC型カートリッジが、世界で最初にダイヤモンドカンチレバー採用のMC型カートリッジを開発したダイナベクターから、驚異的な低価格の製品として発売された。
 新製品KARAT17D2は、八一年12月に発売されたKARAT17Dに採用された、全長1・7mmの角柱状ダイヤモンドカンチレバーを、同じサイズの直径0・25mmの円柱状のムクのダイヤモンドカンチレバーに形状変更をし、針先に70μ角の微細なダイヤモンド柱から研磨したダ円針を装着したモデルである。
 スペック上では、再生帯域とチャンネルセバレーションに、わずかの差があるが、相互の発表時期の隔りから考えて、カンチレバー以外は同じと推測され、特徴的な銀メッキコーティングによりコントロールされた振動系支持ワイヤー、ダンピング動作をさせない支持機構、波束分散理論に基づいた、異例ともいうべき全長わずかに1・7mmの短かいカンチレバーなどは、KARAT17Dを受継ぐものだ。
 それにしても、驚異約なことは、価格であり、68、000円から一挙に38、000円に下げられたことは、エポックメイキングなできごとであろう。
 試聴には、このところ、ステレオサウンドで、リファレンスとして使用されているトーレンスのリファレンスシステムとSME3012Rゴールドを使った。
 最初は、アンプのMCダイレクト入力で使う。ナチュラルに伸びた帯域バランスと音の芯がクッキリとした腰の強い、彫りの深い音が印象的である。音色は程よく明るく、厚みのあるサウンドは、とかく、繊細で、ワイドレンジ型の音となり、味わいの薄い傾向を示しやすい現代型のMCの弱点がなく、リッチな音が特徴である。
 次に、低い昇圧比のトランスを組み合せる。聴感上での帯域感は少し狭くなるが、エネルギー感は一段と高まり、いかにも、アナログならではの魅力の世界が展開される。針圧は少なくとも0・1gステップで追込む必要があるが、最適値に追込んだときの低域から高域にかけてのソノリティの豊かさには、ダイヤモンドカンチレバーで実績のあるメーカーならではのものだ。

M&K SV-200

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 小型サテライトスピーカーと3D方式フォルクスウーファーというユニ-クな構成のシステムを開発し、いままさに開けんとするAV時代のスピーカーシステムとして一躍脚光を浴びている米M&K社から、特徴のあるタワー型のエンクロージュアにサテライトスピーカーと400WのMFB方式パワーアンプを内蔵したSV200が新製品として発売されることになった。
 基本構想は、2ウェイ方式フルレンジシステムとパワーアンプ附属のサブウーファーを一個のエンクロージュアに収納したコンプリートなシステムであり、従来の3D方式サブウーファーをベースとしたシステムよりも、スピーカーシステムとしては大型化はしたものの、完成度は一段と高まったと思われる。
 各種の多角的な使用を可能とするために、16cm口径ポリプロピレン振動板採用の低域と25mm口径ソフトドーム高域ユニットで構成するサテライトスピーカーと、パワーアンプ内蔵の30cm口径サブウーファーは、それぞれ密閉型エンクロージュア基板部分に独立した入力端子を備え、サテライト用入力端子には2個の高域と低域用のキャラクターコントロールと名付けられたいわゆるレベル調整があり、サブウーファー入力端子には、アンプSP端子からの信号を受けるプッシュ型の入力端子と、サテライトに信号を送り出す出力端子と、RCAピンプラグ採用のコントロールアンプなどからの信号を受ける入出力端子、パワーアンプのレベル調整と、サテライトとサブウーファーのクロスオーバーを50~125Hz間に任意に選べるフィルターが備わるが、試聴モデルではフィルターは固定されていた様子で、調整はできなかったた。
 M&Kで推奨する基本セッティングは、スピーカー左右の間隔を基準線とし、その基準線と直角に左右間隔に等しい距離がリスニングポイントとされている。簡単に考えれば、正三角形の頂点の少し後ろと考えて問題はあるまい。
 使用方法は、プリメインアンプやパワーアンプのSP端子からサブウーファー端子に接続し、これからサテライトに結線をするのがシンプルな使用例であり、次にコントロールアンプ出力Aから別売のフォルクスフィルターを通しサテライトを駆動し、出力Bでサブウーファーを駆動する方法、さらに、別売の100Hz・18dB/octパッシヴフィルターと高音、低音レベル調整付LP1スペシャルを使うグレードアップ型と、基本的に3種類の使用方法がある。
 試聴は3種の方法を試みたが、高音・低音、サブウーファーと3種の連続可変調整をもつため変化範囲は無限に存在し、順を追って調整をすれば、基本例でもM&K独特の豊かな低域ベースの見事なサウンドが得られる。つまり結果は使用者の腕次第。

サンスイ XL-900C

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ブックシェルフ型スピーカーを価格帯別に眺めると、6〜10万円の範囲に製品数が少なく、いわば空白の価格帯が存在していることが、他のアンプやカセットデッキと異なる奇妙な特徴ということができる。
 この価格帯に、今回サンスイから、意欲的な新製品が発売されることになった。
 ユニット構成は、従来のSP−V100で採用された、ポリプロピレン系合成樹脂にマイカを混ぜた、バイクリスタル型に替わり、発泡高分子材の表面をカーボンファイパークロス、裏面をグラスファイパークロスでサンドイッチ構造としたTCFFと名付けた新素材を採用した32cmウーファー、アルミベースにセラミックを溶射したHSセラミック材採用の5cmドーム型ミッドレンジと振動板ボイスコイル一体構造型25mm口径の熱処理スーパーチタン採用ドーム型トゥイーターの3ウェイ構成。
 エンクロージュアは、この価格帯では初の回折効果を避けたラウンドバッフルを採用したバスレフ型であることに注目したい。また、実用的というよりは、現状ではアクセサリー的な意味しかもたない中域と高域のレベルコントロールを省略し、信号系に音質劣化の原因となるスイッチが存在しない点は高く評価すべき特徴である。
 試聴室でのセッティングは、平均的なコンクリートブロックやビクターのLS1のようなガッチリとした木製スタンドでも比較的に容易に鳴らすことができるが、適度に力強く音の輪郭をクッキリと聴かせる傾向がある本機では、木製スタンドの響きの美しさを積極的に活かして使いたい。
 LS1をシステムの底板をX字状に支える方法でセッティングを決める。聴感上での帯域バランスは、広帯域指向型ではなく、ローエンドとハイエンドを少し抑えて受持帯域内のエネルギー感を重視したタイプだ。
 音色は明るく、全体に線は少し太いが、彫りの深い表現力が特徴。芯が強く力強い低域は、独特の表情があり、エレキ楽器のドスッと決まる感じをリアルに聴かせる。中域は輝かしく、低域とのつながりは少し薄いタイプだが、高域とのクロスは充分につながり、この部分の鮮やかさと、独特の低域がXL900Cの音を前に押し出す。モニターライクなサウンドの特徴を形成しているようだ。
 音場感と音像定位では、優位にあるラウンドバッフルの効果は、シャープな音像定位に活きているようである。
 明快でアクティブに音楽を聴かせるキャラクターはたいへんに楽しいものだが、アナログ系のディスク再生では、スクラッチノイズに敏感であるため、高域の滑らかなカートリッジの選択が条件であり、それも細かく針圧を調整して追込むと、本機の特徴が積極的に活かされるだろう。個性派のたいへんに興味深い新製品の誕生である。

デンオン DCD-1800

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 一昨年、脚光を浴びて新登場したCDプレーヤーも、大勢としては、ローコスト化の方向に向いながらも、すでに、第二、第三の世代に発展しているが、今回、デンオンから、第二弾製品として、同社独自の開発によるDCD1800が発売された。
 価格的にも、標準と思われるクラスの製品で、デザイン的にも、左右にウッドパネルを配した、同社の高級モデルに採用されるポリシーを受継いだ落着いた雰囲気を備えており、機能面でも、ダイレクト選曲、プログラム選曲、インデックス選曲、イントロサーチ、スキップモニター、2点間リピートを含むリピート、タイマー再生など、リモコン機能を除き、フル装備というに相応しい充実ぶりである。
 ブラックにブルーの文字が鮮やかに輝やく集中ディスプレイは、トラック、インデックス、演奏経過時間とプログラムされた曲番と次の演奏曲番表示をはじめ、プレイ、ポーズ、リピートなどの各機能が3色に色分けされて表示される。
 本棟の注目すべき点は、レーザーピックアップ駆動に業務用仕様DN3000Fに採用された扇形トレースアームの外周をモーター駆動するリニアドライブトレーサー方式が導入され、トレースアーム軸とディスク用スピンドルの2軸が完全平行を保ちながら、厚手のダイキャストベースで支えられ、かつ、ダイキャストベースはシャーシからフローティングされ、外来の振動を防止して、高精度、耐久性、応答性の早さ、などを獲得している機構にある。それに加えて電気系の最重要部たるDAコンバーター個有の、アンプでいえばB級増幅のスイッチング歪に相当するゼロクロス歪を解消する新開発スーパーリニアコンバーターを採用し、特性上はもとより、聴感上での、いわゆるデジタルくさい音を抑え、飛躍的に音質を向上させたことがあげられる。
 聴感上では、本機は、ナチュラルな帯域バランスと細かく、滑らかに磨込まれた音の粒状性が特徴である。平均的にCDプレーヤーは、シャープで、音の輪郭をスッキリと聴かせる傾向が強いが、伸びやかさとか、しなやかさで不満を感じることが多い。DCD1800は、この部分での解決の糸口を感じさせてくれるのが好ましい。
 音像は比較的に小さくまとまり、音場感もスムーズに拡がり、水準以上の結果を示すが、もう少し改善できそうな印象がある。
 問題点の出力コードの影響は、比較的に少ないが、平均的なコントロールアンプ程度の影響は受けるため、細かい追込みには、各種のコードの用意が必要である。
 機能面は実用上充分であり、機能の動作、フィーリングも、ほぼ安定している。ただテスト機では、トレイのオープン時の反応が鈍かったが、個体差であろう。安定感が充分に感じられる手堅い新製品である。

デンオン PRA-2000Z, POA-3000Z

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのセパレート型アンプの新世代を意味する製品として、PRA2000とPOA3000が登場してすでに5年の歳月が経過している。今回、その安定した評価を一段と高めるために、最新のアンプ技術が投入され、新しく型番末尾にかつてのプリメインアンプPMA700Zで使われた、栄光のZの文字がついたPRA2000ZとPOA3000Zとして新登場することになった。
 デザイン的には、当然のことながら従来の製品イメージを受継いではいるが、操作性を向上するために細部の改良点は数多くある。たとえば、PRA2000Zでは、セレクタースイッチのパネル面の凹みへの移動、パネル下側の扉部分の開閉にロック機構が追加されたことなどだ。
 PRA2000Zは、パワーアンプに先行して発売されたモデルである。前作が発売以来5年というロングラン製品であり、その間に、PCMプロセッサー、CDプレーヤーなどのデジタルプログラムソースが登場したこともあって、アンプとしての内容は完全に一新され、現時点での最新のコントロールアンプに相応しいものがある。
 基本構成は、アナログ系のフォイコライザーにCR型を採用するデンオン独自のタイプであることは前作と同様だが、今回はフォノ入力系が3系統独立したタイプに発展し、スーパーアナログ対応型としている点に特徴がある。イコライザーの構成は、入力部に約1対7の昇圧比をもつステップアンプトランスを備えたヘッドアンプ①、MC型力−トリッジをダイレクトに使用できるヘッドアンプ②とMM型に代表される高出力型力−トリッジ用のヘッドアンプ③の後に切替えスイッチがあり、これに続いてCR型RIAAイコライザー・ネットワークとフラットアンプが置かれる。
 イコライザー出力と、チューナー、DAD、AUXの3系統のハイレベル入力は、電子スイッチと高精度リレーによるソフトタッチ作動方式により切り替えられ、この部分にはプリセット機能をもち留守録音などに対応可能である。
 ファンクション切替え、テープモニター、サブソニックフィルター、バランス調整、ボリュウム調整に続き、フラットアンプ兼リアルタイムトーンコントロール部と出力のバッファーアンプが信号系の通路となる。
 フラットアンプは、最高級機PRA6000で開発された無帰還技術を発展させたハイスルーレイトなダイレクトディストーションサーボ回路による無帰還型で、トーン使用時には、ディストーションサーボ回路内組込みの素子を使うリアルタイムトーンコントロールとして動作する。なお、出力部のバッファーアンプも無帰還型ハイスピードの低出力インピーダンス型だ。
 また、電源部は、従来の2倍の容量をもつ90VA級の大型トロイダルトランス採用。AC電源コードは、デンオン伝統のPMA500以来採用されている大容量型の新開発コードで、これらの部分はコントロールアンプの死命を決定する要点である。
 POA3000ZはPRA2000Zより根本的に設計変更が行なわれていることは、定格出力が250W+250W(8Ω)とハイパワー化されていることからも明瞭である。従来のPOA3000は、純Aクラスベースの高能率型アンプを特徴としていたが、今回は、その後のデンオンアンプに採用された、一般的なBクラスベースのノンスイッチング型に変わったとともに、独自の無帰還技術が全面的に新採用され、飛躍的に高度な性能を引出している。
 無帰還方式でNF技術を使わず歪みを除去するために、静的歪み除去のためのデュアルスーパー無帰還回路、信号のフィードバック、時間遅れ、スピーカーの逆起電力の影響などを排除するパワー段の新開発無帰還回路などが駆使されている。
 電源部は、左右独立トータル5電源型で、電源トランスは大型トロイダルクイブ採用。大型のピークレベルメーターは、0dBが200W(8Ω)表示で、内部に異状温度上昇と左右チャンネルの動作状態をチェックする自己診断ディスプレイを備える。なお、機能面には、CDプレーヤーをダイレクトに接続できるDAD IN端子を備える。
 PRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて試聴をする。
 従来のペアが、柔らかく、滑らかで、美しい音を聴かせながらも、内側にかなり芯の強いキャラクターをもち、これが程よい音の芯を形成したり、ある場合には、音の傾向から予想するよりも、はるかに強く輝かしい個性を示したりする傾向をもち、柔らかく、穏やかだが、芯の強さのあるアンプという印象であった。それと比較すると、固有のキャラクターが大幅に弱められて、プログラムソースの内容に素直に対応し、柔らかくもシャープにも音を聴かせるナチュラルさが感じられる点と、音場感的なプレゼンスやディフィニッション、音像定位のナチュラルさなどが加わったことは大変に好ましい新製品らしい成果である。
 アナログディスクをプログラムソースとする場合、とくにMC型カートリッジには、PRA2000Zの独特の3系統のフォノ入力が、積極的に使いこなせるようだ。
 昇圧トランスをもつフォノ㈰は、トランスの昇圧比が低いため、あまり、カートリッジ側のインピーダンスの差に影響されず、トランス独特の程よく帯域コントロールされた密度の濃い、いわばアナログならではの豊かな音を聴かせてくれる。いわゆる低インピーダンス型MCや、軽針圧タイプの空芯高インピーダンス型MCで、広帯域型であるために、力強さや、音の厚みに欠ける場合などはこのフォノ①が好適であり、一般的な嗜好からはこのサウンドのほうが熱い支持をうけるにちがいない。
 ダイレクトにMC型が使用できるフォノ②は、①とは対照的に、広帯域でディフィニッションの優れた、現代型の軽量級空芯MC型の特徴を引出すに相応しい音である。CDを使うことが多くなると、このポジションで使う音が、アナログディスクでも標準となるであろうし、最新のアナログディスクの質的な内容を聴くためには、このクォリティがぜひとも必要になるであろう。フォノ③は、MC型なら外附けの昇圧トランスやヘッドアンプ用に使いたい。
 CDなどのハイレベル入力で音質が優れているのは、PRA2000Zの魅力だ。一般的に、ハイレベル入力からプリアンプ出力までのアンプで音の変化が大きいのが常だが、この部分の質的向上を望みたい。

フィデリティ・リサーチ FR-7fz

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールを代表する独創的な発電メカニズムをもつMC型カートリッジ、FR7は、七八年の発売以来、八〇年のFR7f、八一年の受註生産のスぺシャルモデルFR7fcとモディファイがおこなわれ、すでにシリーズ製品としては、長期間にわたるロングセラ㈵を続けている。
 今回、このFR7fに改良が加えられ、モデルナンバー末尾に、このタイプの発電方式による究極のモデルを意味するZの文字が付けられてFR7fzに発展し発売された。
 力−トリッジ、とりわけMC型では、その発電メカニズムそのものが結果としての音質を決定するキーポイントであるが、FR7系の発電方式は、3Ωという低インピーダンス型ながらも、コイル巻枠に鉄芯などの磁性材料を使わずに、空芯の純粋MC型として、驚異的な0・2mVの出力電圧を獲得している点に最大の特徴がある。
 では、どうして低インピーダンス型にこだわるのか。カートリッジを電圧×電流つまり電力で考える発電機として考えてみれば、出力電圧は、同じ0・2mVとしても、インピーダンスが、3Ωと30Ωでは、負荷に流せる電流の値は、簡単に考えて約10対1の差があると思ってよい。つまり、発電できる電力としては低インピーダンス型に圧倒的な優位性があるわけで、この発電効率の高さが、例えば高能率型スピーカー独特の余裕のある力強さや、豊かさに似た、音質上の魅力のもとと考えてよく、低インピーダンス型MCを絶対的に支持するファンは、この特徴に熱烈な愛着を持っているにほかならない。
 FR7fzの特徴は、コイルの線材に特殊製法の純銅線を採用し、コイル部分の再設計をおこない、負荷インピーダンスを3Ωから5Ωに変え、出力電圧を0・2mVから0・24mVと高めたことにある。
 試聴には、トーレンスのリファレンスとSME3012Rゴールドを使用した。ただ、シェル一体型で自重30gのFR7fzでは、この場合バランスはとれるが、最適アームであるかについては不満が残る条件である。なお、昇圧トランスは、XF1タイプLおよび他のものも用意した。
 FR7fが、押し出の効いた豊かな音をもってはいるが、やや、最新録音のディスクで不満を残した音の分解能やスピード感などが、新型になって、大幅に改善されるとともに、新しい魅力として、伸びやかで活き活きとした表現力の豊かさが加わった印象である。昇圧トランスを使わず、MCダイレクト入力でも使ってみたが、やはり真の発電効率の高さは、トランスで活かされることは、その音からも明瞭である。
 製品としての完成度は、非常に高いが、アナログ究極のMC型力−トリッジとしては、現在開発中と伝えられる、カンチレバーレスのダイレクトMC型に期待が持たれる思いである。

エンパイア 4000D/III GOLD

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 国内製品では、もはやカートリッジといえばMC型といえるほどに、MC型全盛時代を迎えている。それだけに、海外製品のMM型やMI型の新製品の登場は、アナログディスクファンとしては、非常に興味深い存在としてクローズアップされる。
 今回、米国の名門エムパイアから発売された4000D/III GOLDは、同社の高級モデルとしてロングセラーを誇り、独特のサウンドの魅力をもつ4000D/III LACをベースに改良された新製品だ。
 外観上の大きな変化は、独特の板バネを使ってヘッドシェルとカートリッジ本体をクランプする方式を採用していた従来型から、一般的なボディにシェルマウント用の台座が固定されたタイプに変わったことである。これにより、非常に短いネジを必要とした取付法が改善され、機械強度的に一段とリジッドな構成になったことが利点であろう。ただ、4000D/IIIファンの目には、視覚上のオリジナリティがなくなったことは、趣味的にいえば少し淋しい印象がないわけでもないと思う。
 振動系では、GOLDの名称をもつようにカンチレバーに金メッキが施されダンピングが加わっているのが主な変更点である。
 音は一段とナチュラルになり、穏やかな定定感のあるものに変化し、改良されたことは明瞭に聴き取れる。使用上は針圧の僅かな変化で音質が変化する点に注意したい。

NEC A-11

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 アンプのエネルギー源である電源回路は電圧増幅を行なうコントロールアンプはもとより、電力増幅を行なうパワーアンプでは、直接アンプそのものの死命を制する最重要な部分だ。従来からも大型パワートランスや大容量コンデンサーの採用をはじめ、テクニクスがかつて採用したパワー段を含めての定電圧化、ソニーやビクターのパルス電源方式、ヤマハのX電源など各種の試みが行われてきた。しかし最近では、模準的な商用電源を使う電源トランス、整流器、大容量電解コンデンサーを組み合わせたタイプに戻っているのが傾向である。
 NEC A10プリメインアンプで採用され、新電源方式として注目を集めたリザーブ電源方式は、標準的な電源方式をベースに独創的な発想によるサブ電源を加えて開発されたタイプだが、今回、発売されたA11とA7では、これをさらに発展させたリザーブII電源方式を採用している。その内容は、蓄電池に代表される純直流電源とAC整流型の一般的な電源の比較検討の結果から、電源コンデンサーへ充電する場合の両者の波形の差に注目して、主整流電源の充電波形の谷間を埋める副整流電源を加えることで、限りなく純直流電源に近づけ、充電電流による混変調歪を抑え、低インピーダンスで電流供給能力の優れた電源とするものである。
 結果として物量投入型の電源となるために、価格制約上で定格出力は他社比的に少なくなるが、負荷を変えたときのパワーリニアリティは、A11で8Ω負荷時70W+70W、4Ω負荷時140W+140Wと理想的な値を示しているのは、注目すべき成果である。
 A11の主な特徴は、各増幅農独立の5電源方式とリザーブII電源、全段独立シャントレギュレーター型定電圧電源、全段プッシュプル型増幅回路の採用などである。
 A11の音は、安定な低域をベースにクリアーで、ストレートな音を特長としたA10の魅力を受継ぎながらも、一段と余裕があり、しなやかな対応を示す表現力の豊かさが加わったことが印象的だ。いわば大人っぽくなったA10といえるわけだが、試聴機は機構面での仕上げに追込みの甘さがあり、聴感上での伸びやかさ力強さがやや抑えられ、スピード感が弱められているのが残念な印象であった。

ダイヤトーン DS-1000

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンの新世代のスピーカーシステムは、大型フロアーシステム、モニター1で採用された、アルミハニカムコアにスキン材を両面からサンドイッチ構造にしたハニカム・コンストラクション・コーンの低域ユニットに、新開発のDUD(ダイヤトーン・ユニファイド・ダイアフラム)構造のダイアフラムとボイスコイルボビンを一体成形したドーム型ユニットを組み合わせ4ウェイ構成としたDS505がその第一弾だ。そして翌年のDS503、これに続くフロアー型DS5000と一年一作のペースで、そのラインナップを充実させ、デジタルプログラムソースに対応するハイスピードのサウンドを追求し続けてきた。
 今回、発売されたDS1000は、型番そのものはDS5000系を受継いではいるが、その内容は従来のシリーズとは、異なった構想に基いて開発されたオリジナリティにあふれた新製品である。
 開発の基本構想は数年にわたりモディファイを繰り返し、発展改良が加えられ完成期を迎えた、ハニカム・コンストラクション・コーンやDUDの娠動系をベースとしている。それをもとに、ユニットの原点ともいえるフレームに代表される機械的な構造面を見直し、従来よりも一段と優れた振動系の特徴を積極的に引き出し、性能が高く、音質が優れたユニットをつくり、これを従来のエンクロージュアの大小で製品の位置付けを決める手法ではなく、ダイヤトーンスピーカーシステムの出発点の主張である、小型高密度設計アコースティックサスペンション方式の小型エンクロージュアに収納しようというものである。
 エンクロージュアは放送モニター2S305で実績のある、回折効果を抑えて中音域を改善し、ディフィニッションが優れ、音質定位が明確な特徴をもつラウンドバッフルを、コンシュマー用システムとして最初に採用している。バッフルボード上には、従来モデルのようにレベルコントロール、サブパネルなどがない。これらは固有共振をもちバッフル面の振動やウーファーの背圧により駆動され、中域から高域にわたり一種のパッシブラジエーターとなる。その不要輻射を生じ音を汚していた部分を全廃し、ダイレクトプリント方式でデザイン処理を施しているのである。
 この部分の不要輻射による音質の劣化は、かねてより指摘していたことだが、やっとDS1000において初採用されたことは大変に好ましいことだ。ちなみに、どのスピーカーシステムに限らず、アッテネーターツマミ、パネルなどをガムテープなどでマスキングして聴いてみていただきたいものだ。想像を絶するほどの音質改良の効果は、誰にでも容易に聴き分けられるだろう。
 現状のシステムで、重要なバッフル板に余分な穴を開けデザイン上でのアクセントとすることは百害あって一利なしの典型だ。優れたユニットの性能、音質を劣化させる重要なファクターと知るべきである。
 ユニット構成は、27cmカーブドハニカムコーン採用ウーファー、5cmと2・3cmDUDチタンドーム型の中、高域ユニットの3ウェイ方式だが、各フレーム部分は完全な剛体構造の新設計である。低域用フレームは、振動板の反作用を受ける磁気回路の反動をフレーム自体で受けるDMM方式が特徴。ちなみに一般的フェライト磁石の磁気回路は、国内製品では構成部品は接着材で固めてあり強度的に不足しているが、海外製品は基本的に前後プレートをネジで強固に結んで固定しているのが原則である。JBLはもとより、古いボサークでさえネジ締めを行なっている。つまり反動を受ける磁気回路が宙ぶらりでは仕方ないわけだ。
 中高域ユニットも、従来型のように磁気回路をフレームで受ける方式ではなく、前プレートに振動系を直接マウントし、この部分でバッフルに取付けるダイレクトマウント方式が単純明解な処理である。
 詳細は省くが、とにかくスピード感、反応の鋭さ、早さは、このシステムの異次元の魅力である。設置方法、使用機器にわずかでも不備があれば、それを音として露呈するシビアさは物凄い。まず、これを正しく使いこなすことができれば、その腕は第一級であろう。恐ろしい製品の登場だ。

パイオニア Exclusive C5

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 現時点での世界のトップランクのコントロールアンプを目指して開発されたモデルだけに、C5は長期間にわたり培われたパイオニア独自のアンプ回路設計技術の集大成をベースに、ユニークで簡潔なコンストラクション、コンデンサー、抵抗、スイッチ類などの数多くの部品を非常に高い次元で吟味し選択して採用している。
 このように文字として書けば、ほとんどの新製品アンプのコマーシャルコピーと何の変りもない表現になるが、実際のEXCLUSIVE C5の内部を見てみると、平均的なオーディオアンプの要求度とは隔絶した、非常に高い次元での要求に基づいて開発された製品であることが、現在のアンプ設計技術の水準を適確に捉えている目をもってさえいれば、瞬時に認識できるだけの内容を備えている。
 まず外観から眺めてみると、基本的なデザインポリシーは、EXCLUSIVEの顔ともいえるパネル面の下側に、サブパネルを設けたパネルフェイスに、天然木キャビネットという流れを受け継いではいるが、手づくりのフロントパネルは、C5では一枚構成のシンプルなタイプに整理され、C3、C3aではサブパネルとなっていた下側のパネルは、実際には開閉できず、単なるデザイン上の処理となっている。
 特徴的なパネル左端の長方形の部分は、大型のパワースイッチで、本機独特のマルチトランス・パワーサプライ方式、ACアウトレットのON・OFF用として、音質上でも重要な部品であり、ここでは特殊なタイプが採用されている。
 内容的なアンプとしてのブロックダイアグラムは、入力部に3Ω/40Ω切替型のMCカートリッジ用昇圧トランスを持つフォノイコライザー部、TUNER、AUXなどのハイレベル入力用と、テープ入力用に独立したバッファーアンプ、フラットアンプ部、トーンコントロールアンプとサブソニックフィルター、出力用バッファーアンプ部で構成され、ボリュウムコントロールは、フラットアンプの前に、バランサーは出力用バッファーアンプの前に置かれるレイアウトである。
 これらの各アンプ部は、モジュールアンプ化されていることが本磯の大きな特徴である。280μ厚無酸素圧延銅使用のガラスエポキシ基板上にトランジスター、コンデンサー、抵抗などの構成部品をマウントし、これをポリプロピレン系の特殊な導電樹脂ケース内に、鉛ガラスフィラーを混入した高比重エポキシ樹脂で固め、音質上有害な振動や電磁波の除去と、熱的安定度をも含めた耐久性、安定度の向上をはかった設計であり、フォノイコライザー部のイコライザー素子も同様な構造のCRモジュールが採用され一般的なアンプの内部に見られる基板上に半導体、コンデンサー、抵抗、スイッチ類が林立するアンプらしさは皆無に等しい。
     *
 このところ、アンプの話題は、信号系の回路構成上の斬新さもさることながら、アンプの基本である電源部の見直しが各社でおこなわれ、それぞれにユニークな名称がつけられているようだが、C5の電源部もオーソドックスな手法によるマルチトランス・パワーサプライ方式を採用している。
 基本的な構想は、フォノイコライザーアンプ部、フラットアンプ部の左右チャンネル用4ブロックに、それぞれ独立した4個のパワートランスを使用する方式で、アンプにとっては理想的ともいえる電源方式であり、従来の巻線のみ独立したタイプににくらべ、電源による混変調歪やセバレーションの劣化に対して効果的な手法である。
 本機の電源部は、この4個のトランスに加えて、信号系制御用の主にリレー用に使う電源用の専用トランスを備えるため、これも音質に直接関係をもつAC100Vラインの配線が複雑化する難点をもつが、この解決策として、5個の電源トランスとACアウトレット用の6系統のACラインに対応した無酸素銅線使用の6本のAC用コードを束ねた新開発の電源コードが開発され、各電源トランス間の干渉を低減するとともに、電源インピーダンスをも低くしている。また電源プラグは、当然のことながらEXCLUSIVEらしく、極性表示付である。
 MC用昇圧トランスの採用も本機の大きな特徴である。昇圧トランスのポイントは鉄芯にあるが、ここでは独自の53μ厚リボンセンダストをトロイダル型として採用。パーマロイにくらべ広帯域であり、非結晶性材料のような経年変化のない特徴があるl。巻線はφ0・25mm無酸素銅線を2本並列巻としDCRを低くし、MC型独特の低電圧・大電流を活かしている。
 その他、BTS規格の0〜−90dBと−∞〜の40ステップのアッテネーターの採用、新開発のリレーによる入力セレクター、テープ関係などの信号切替、トーンフラット位置でリレーにより完全にトーンコントロールアンプがディフィートするトーン回路、22番線相当の無酸素銅撚線を芯線とし、低容量ポリエチレン絶縁物、同じく無酸素銅線と導電性ポリ塩化ビニール使用の高性能シールド線など、機構面での非磁性材料使用モノコンストラクション筐体、非磁性ステンレスネジなど、単体部品開発から手がけている点は、類例のないものだ。
 ヒアリングは、EXCLUSIVE M5をはじめ、2〜3機種のパワーアンプと組み合わせて使用したが、基本的にキャラクターが少なく、優れた物理特性をベースとしたナチュラルな音が聴かれる。聴感上のSN比に優れ、音場感的な定位やパースペクティブを誇張感なくサラリと聴かせる。M5との組合せでは、全体に滑らかに美しく音を聴かせる傾向を示すが、旧いマランツ♯510では、整然としたダイナミックな押し出しのよい音を聴かせる。
 現代の優れたオーディオ製品に共通する特徴は、これといった個性を誇示する傾向がなく、自然な応答を示すことだが、C5も同様である。いわゆる、シャープな音とか雰囲気のある音という表現は、結果では生じるが、使用条件、使用機器でかなり変化をするため、簡単にC5の音はこうだと判断するわけにはいかない。あくまでナチュラルで、正確な音といったらよいであろう。とくにコントロールアンプで音の差が生じやすいハイレベル入力からの性能が優れているようで、この点はCD、デジタルプロセッサー用として、現代アンプらしい特徴である。

デンオン PRA-1000, POA-1500

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 安定感があり、信頼するにたる内容と音質で堅実なオーディオコンポーネントを開発しているデンオンから、新しく従来にないローコストなセパレートアンプ、PRA1000コントロールアンプとPOA1500パワーアンプが発売された。
 表面的に捉えれば、単に普及価格帯のセパレート型アンプで、セパレート型アンプの入門者用と評価されがちだ。しかし開発の基本コンセプトは、プリメインアンプの超高級機が数は少ないが存在する価格帯で、プリメインアンプに本質的に存在する、MCカートリッジ入力からスピーカー出力までを増幅する、ひじょうに高利得のアンプが単一筐体に組込まれているために起きる相互干渉による音質劣化の問題点を解決することだろう。電圧増幅機であるコントロールアンプと電力増幅機であるパワーアンプに分割し、現時点で高度に発達しているエレクトロニクス技術に基づく物理特性の良さを損うことなく、結果としての音質に、いかに引出すかにあると思われる。
 外観上の特徴は、上級機種PRA2000とPOA3000を受継いだ、いかにもデンオン製品らしいデザインにあり、仕上げも普及価格帯の製品といった印象が少ないのがメリットである。
 コントロールアンプPRA1000は、アナログディスクのハイクォリティ再生の重要な要素としてデンオンが主張しPRA2000、6000で実現したイコライザーアンプの超広帯域化を受継いでいる。一方、CD時代に対応して、高レベル入力のCDプレーヤーを受けるフラットアンプやバッファーアンプにも最新の技術を導入して、広帯域、高SN比化が図られ、ピュアフォーカスなサウンドが狙われている。ちなみに、現状のコントロールアンプでは、簡単に考えれば容易に見受けられる、高レベル入力からコントロールアンプ出力にいたるフラットアンプ、バッファーアンプ、トーンコントロールアンプだが、各社間、各モデル間の音質が相当に異なっていることを体験するのがつねである。
 イコライザーアンプは、低雑音、広帯域に加え、入力インピーダンスの変動による歪増加を抑える設計。これは内外各種のMCカートリッジとの対応性の幅を拡大した、MC/MM切替のCR−NFタイプで、RIAA偏差は±0・2dBで20Hz〜1100kHzを保証している。
 高レベル入力を受けるフラットアンプは、初段ボリュウムの影響による歪の増大を防ぎ、0・002%以下の低歪率が特徴だ。なお、トーンコントロールは、フラットアンプの帰還回路に素子を組み込み、音質上有害なコンデンサーを除去したリアルタイムトーンコントロールである。
  これにつづく、バッファーアンプは、動的歪の発生がなく、接続されるパワーアンプの入力特性の影響を受けずに信号を送り出す独自の無帰還バッファーアンプである。
 その他、高速応答強力電源回路、信号伝達ロスを極少に抑えた、超高周波機器用のポリエステル系基板採用などが目立つ。
 パワーアンプPOA1500は、デンオン独自の入力系への信号フィードバックや時間遅れがなく、動的歪が発生しない無帰還ハイパワー型で、最終段に採用したダイレクト・ディストーションサーボ回路は、出力側から得た信号と入力信号を比較して歪成分のみを検出し、これを入力側に位相反転をして加え歪を打消す本機の重要な回路である。
 電源部は、600VAのトロイダルトランスと6000μFのコンデンサー、強力なダイオードを採用し、8Ωで150W+150W、6Ωで200W+200W、4Ωでは、240W十240Wという優れたパワーリニアリティを確保している、なおフロントパネル中央部のディスプレイにはヒートシンク異常温度、左右チャンネルのパワー段の動作確認ができる自己診断機能を備え、入力系はノーマル入力と、CDプレーヤーダイレクト接続用に、CDサンプリング周波数に近い40kHz以上をカットするとともに−3dBのアッテネーターの入った、CDプレーヤーとのベストマッチを計ったハイカットフィルター付の2系統をもつ。なお、注目のアース関係の処理は、フローティング・ロード回路の採用で、小出力時のノイズと歪を低減している。
 新セパレートアンプを組み合わせた音はブックシェルフ型やフロアー型のスピーカーを問わず、従来のデンオン製品とは一線を画した広帯域でディフィニッションの優れた音を聴かせるのが新しい魅力だ。問題の低域特性も豊かに伸び、CD入力時でも質感の優れた活気のある低域を聴かせる。全体に安定度重視で少し音を抑えて聴かせるデンオンサウンドの傾向はなく、反応が早くナチュラルに拡がる音場感、定位感に加えて、活き活きとした音楽を聴く楽しみが味わえることが本機の大きな魅力だ。

ソニー APM-55W

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 全製品に平面振動板ユニットを採用する方向に進んでいるのが、ソ二−のスピーカーシステムの大きな流れとなっているが、今回、発売されたAPM55Wは、既発売のAPM77W/33Wにつづく、平面振動板採用のスピーカーシステムの中核となる新製品である。
 一般的な口径でいえば、27cmに相当する振動板面積をもつウーファーは、スキン材にアルミ箔を採用したハニカム構造であり、ボイスコイルボビン端から伸びた4本の軽金属製のアーマチュアを介して、分割振動の低次モードにおける4点の節目を駆動するタイプだが、駆動点は振動板を駆動するアーマチュアがハニカムサンドイッチ構造を貫通して振動板の前、後面を駆動する、ダイレクト・デュアルサーフェイス・ドライブ方式と名付けられたタイプだ。
 中域は、スキン材に力−ボン織維とグラスファイバーシートを複合した材料を使う、直径8cm相当の平面振動板は、直径5cmのエッジワイズボイスコイルで直接駆動される。なお、直径4cm相当の高域ユニットは、スキン材がチタン箔、ボイスコイル直径は25mmである。
 エンクロージュアはバスレフ型で、北米産高密度材使用のウォルナット突坂仕上け。内部吸音材は、ミクロン・グラスウールや高分子化合物繊維の3種類を使い分けている。なお、ネットワークは、大電流が流れる低音用回路と高音用回路を独立させた分散配置型で、最近の高性能システムとしてオーソドックスな手法である。また内部配線材やコイルはすペて無酸素銅線使用、コンデンサー類は独自の開発による音質対策型というのは、いかにもソニー製品らしい設計である。
 APM55Wのユニークなポイントとして、別売のスピーカースタンドWS500(2台1組¥8500)が用意されており、システムの底板に設けられたネジを利用して、スタンドを固定できることがあげられる。このスピーカースタンドを含めてシステムとする方法は、とかくセッティングにより大幅にサウンドバランスが変化するスピーカーシステムを使いこなすための、ひとつの解決策として歓迎したいものだ。
 APM55Wはソニーの製品らしく、平均的なコンクリートブロックを横積1段程度の比較的に低いセッティングでバランスがとれるようだ。ブロックの固有音を避けるために厚手のフェルトを介してシステムを置き、ブロック間隔を調整してセッティングを追い込む。低域は比較的にタイトなタイプで量感よりも音の輪郭をクッキリ出す。中域は、明るくカラッとした音で、高域とのクロスオーバーあたりに、キラッと輝くキャラククーをもつ。これに対して高域は、少し穏やかにバランスをする。
 全体にモニター的な性格が、特徴であり、いかにもソニーらしい整理された音をもつが、遠近感の再生が、もう少し欲しい。

マイクロ SX-111FV

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 マイクロのプレーヤーシステムは、DD型全盛の動向に反して、アナログプレーヤーシステムの原型ともいうぺき、慣性質量が非常に大きい重量級のターンテーブルをベルト、もしくは糸でドライブする方式を、頑として推進させている点に特徴がある。
 今回、新登場したSX111FVは、同社のコンプリートなプレーヤーンステムのスタンダードとして位置づけされ、高い評価を得ているSX111をベースに、ターンテーブルシャフトのエアフロートシステムとレコードのバキューム吸着システムの、両方を導入して完成された注目の製品である。ちなみに、モデルナンバー末尾のFは
フローティング、Vはバキューム吸着の意味をあらわしている。
 外観上は、従来のSX111にエアポンプユニットが加わった、2ブロック構成であるが、当然のことながら、本体部分のシャフト構造とレコード吸着構造が組み込まれている。
 Fを意味するフロートのメカニズムは、同社の高級モデルSX8000、SX777などに採用されているエアーベアリング方式で、エアポンプで圧縮された空気をターンテーブルの内側に送りこみ、ターンテーブル裏面と内部フレームの間を通過することによりできる空気膜により、ターンテーブルを0・03mm浮上させ回転を可能とするものである。
 この方式は、従来のようにシャフト下端部にボール等の軸受がなく、機械的摩擦や機械的ノイズの発生がなく、静かで滑らかな回転が得られる。それに加えて、ターンテーブル内側に常に圧縮空気が満たされているため、空気の制動作用により外部振動を受けにくく、ターンテーブル自体の共振を抑えるという非常に大きな特徴がある。
 直径31cmのターンテーブルは、重量10kgの砲金製で、ダイナミックバランスは精密加工により極めて良好である。また、ゴムシートを使わず、直接レコードをターンテーブル上に置く設計であるため、音溝に対する応答性が改善され、音質面での分解能、音像定位感などに非常に効果的であるとされている。
 Vを意味するバキューム吸着システムは、レコードのソリを修正できることに加え、レコードと重量級ターンテーブルが完全に一体化され、レコード自体の固有共堆が除去され、音溝の情報をより正確に拾うことが可能となる。なお、吸着方式は常時吸着型であり、演奏中のレコードの浮き上がりは皆無であり、レコードを交換するときには、スイッチOFFで逆噴射エアが働き、簡単にレコードの取り外しができる設計だ。
 ターンテーブル駆動用モーターは、本体左側奥に取付けられた、8極24スロットのDCブラシレスFGサーボモーターを使用している。
 その他、従来のSX111の特徴である、ターンテーブルシャフトアッセンブリーとアーム取付マウント部を重量級の金属フレームで一体化して、ターンテーブルとトーンアーム間の振動循環系の振動モードを同位相化し音溝情報を電気信号に変換するときの変換ロスを追放するダイレクトカップリング方式や、新1500シリーズ等で実績をもつ独自の高支点エアスプリングサスペンション方式により、十分なハウリングマージンを確保している。
 この支持方式は、空気とオイルの粘性抵抗、特殊構造のゴム、円錐状金属スプリングと、それぞれ固有共振の異なる4種の材料を組み合わせた構造により、広帯域にわたり振動減衰特性を実現している。上下左右、前後方向の外部振動を除去できるうえ、このサスペンションは取付支点を高くとった結果、プレーヤー全体の重心が低く、安定性が非常に高いというメリットがある。
 トーンアームは付属していないが、有効長257mm以下のタイプは全て使え、マウントベースは、SX777、111と共通のA1200シリーズが使用可能。
 試聴は、A1206マウントベースにSME3010Rを組合わせておこなう。エアポンプユニットRP1100は、機械的振動やノイズの点でも充分に低く抑えられ、この意味での懸念は皆無にひとしい。
 SX111FVの音は、なんといってもスクラッチノイズが質的にも、量的にも大変に低く抑えられているのが最初の印象である。この聴感上の利点は、音の分解能、高ダイナミックレンジの魅力にくわえて、ステレオフォニツクな音場感のパースペクティブな再現性の良さ、シャープな定位感の良さにつながる。このシステムならではの新鮮で、強烈な魅力である。音楽が活き活きと伸びやかに響き、従来のレコードから未知の音が引出される。快心作と評価できる、価格対満足度に優れた製品であるが、駆動モータープーリー部のカバーは強度不足で、このシステムの脚を引張っているアキレス腱であり改善を望みたい。

デンオン AU-1000

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのDL1000Aは、振動系の軽量化を極限にまで追求して開発された現代的な空芯MC型の典型的な製品として既に高い評価を得ているが、今回、デンオンから発売された昇圧トランスAU1000は、DL1000Aの性能と音質をフルに発揮させるための専用トランスである。
 外観は、従来の昇圧トランスとは異なる剛体構造の筐体に特徴があり、その前半部分に、左右チャンネル独立のトランス本体が組込まれ、後半部分は、部厚いカバーをもった入出力端子部である。
 トランスのコア材は、特殊形状の大型パーマロイ鋼板を使用し、少ない巻線で低域特性を確保するために要求されるコアの透磁率は低域において従来の同社製品と比較して約1・5倍の値となっている。高域はオーソドックスに分割サンドイッチ巻線を採用して低域とのバランスをとったため周波数特性は、従来のAU310の、20Hz〜40kHzに対して5Hz〜200kHzと驚異的なワイドレンジ型になっている。
 また、左右独立型のトランス本体は、2重シールドおよび充てん材で固定され、砲金ケースに収納されており、重量級の筐体とあいまって振動防止は徹底して追求されている。なお、トランス巻線は、DL1000A専用設計のために、入力インピーダンスは固定、音質劣化の原因となるバイパススイッチなどは省略してある。
 入出力部のカバーは、太いネジで固定する振動防止を追求した設計である。付属の出力コードは、無酸素銅線採用の低容量・低雑音タイプのコードで、しっかりとした金メッキ処理が施されている。
 DL1000Aは、1g以下の針圧を標準とする超軽量級カートリッジであるために、併用するトーンアームの選択は、現状では困難といえよう。標準的な針圧で、しばらく、エージング的に音を出してから、細かい針圧調整、インサイドフォースのコントロールをしてから試聴をはじめる。
 従来の例では、適合性の良いトランスがなく、ヘッドアンプを使用する他はないため、その結果では、線が細く、音の細部を引出す特徴は認めながらも、やや、ダイナミックな表現を欠いていたのがDL1000Aの音である。AU1000との組合せでは、トランスにありがちなナローレンジ感が、皆無に近く、トランス独特の、いきいきとした音楽の躍動感が得られるのだ。
 表現を変えれば、この音は、鉄芯MC型の力強さと、空芯MC型の広帯域・高分解能を併せもつもので、まさに、MC型ならではの、非常に魅力的な音の世界である。なお、昇圧トランスの使用法として注意したいのは、剛性の高い、安定した台にのせて使うことが、優れたトランスの性能を引出す重要なポイントである。今回の試聴でも、ジュウタンの上にのせたり、机の端に置いたりした場合には、音は薄くなり、躍動感に欠け、大幅な質的低下が聴きとれた。

ハーマンカードン PM660

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サイテーションXXシリーズをトップランクの製品とするハーマンカードンからの新製品は、創立30周年を記念して発売されたスペシャルエディションのプリメインアンプPM660である。
 同社のアンプ共通の特徴は、1978年以来、TIM、PIM、IIMなどの、いわゆるアンプの動的歪を発見したフィンランド国立電子技術研究所のマッティ・オタラ博士を迎え、アンプの動的状態でのみ発生する歪を解消した回路設計を採用していることと、実装状態で2Ω以下にも下がるといわれているスピーカーのインピーダンスに対して、動的出力を向上させるためにHICCという概念を採用していることだ。
 HICCとは、瞬時電流供給能力の意味で、低いインピーダンス時にも負荷に必要なだけの電力を供給できる能力をいい、この結果、定格出力から考えると異例ともいえる大電力用パワートランジスターと電源部を採用している点に、同社アンプの特徴がある。
 PM660は、8Ω/90W+90Wの定格出力をもつが、60AのHICCを備えるために、瞬時出力は、4Ω負荷で200W、2Ω負荷で292Wであるという。
 では、実際にPM660を試聴してみよう。基本的には、ハーマンカードンのアンプ共通の柔らかく量的にタップリと豊かな低域をベースに、滑らかで粒子の細かい中域から高域がバランスした音だ。音場感的には、やや距離感を伴って、スピーカーの奥に音場が拡がるタイプで、オーケストラやライブハウス的な録音では、適度なプレゼンスがあり、音像定位もナチュラルである。
 このタイプの音は、ちょっと聴きではおとなしい感じであるが、聴きこむにつれ内容の豊かさが判ってくるようだ。とくに、電源スイッチ投入後のウォーミングアップが少し遅いだけに、即断は禁物である。
 このアンプで少し気がかりなことは、プログラムによりキャラククーが変わることである。アンプの細部を検討したところでは、機構的なチェックでは厳しいと定評がある同社の製品にしては珍しく、筐体内部に機械的なビリツキが多いことだ。ステレオサウンドでの試聴以前に、どこか他の場所で内部を開けてチェックでもしたことに原因があるのかもしれない。

NEC A-10

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 昨年のCDプレーヤーCD803の優れた音質で急激に脚光を浴びたNECから、独自の最新技術を採用したプリメインアンプが発売されることになった。
 薄型的なパネルフェイスになりがちなプリメインアンプのなかにあって、オリジナリティのあるデザインが目立つ、このA10は、内容的にも従来にないユニークな発想に基づいた新開発の電源部を採用していることに最大の特徴がある。
 一般的なアンプに使われる電源部は、50/60Hzの100Vをトランスで必要な電圧に変換してから整流器で100/120Hzの脈流に変え、これをコンデンサーに充電、放電させて滑らかにして直流化している。手の指を拡げたように間欠的にコンデンサーに充電する充電波形が従来型とすれば、新開発の電源方式は、両方の掌を重ねて指の間を埋めたように充電時間を増し、放電時の充電電流が途切れた時間を補うという発想が出発点となったものだ。
 このタイプの特徴は、従来型では、充電時以外はコンデンサーの放電にたよっていた部分を、リザープ電源と名付けられた別電源で充電しているため、電源インピーダンスが低下し、電流供給能力を増大できることにある。
 A10の定格を見ると出力は、8Ω/60W+60W、4Ω/120W+120Wとあるように、この新開発の電源方式は、半分の負荷で2倍の出力が得られる理想的電源として動作していることが判かる。
 その他、全増幅段プッシュプル増幅、全段独立シャントレギュレーター電源採用など、オーソドックスな設計方針が特徴だ。
 A10は、量的にも充分に豊かであり、ソリッドに引き締まった質感のよい低域をベースに、明解な中域が目立つ、このクラスとしては見事な音が印象的だ。この下半身はたしかに素晴らしいが、中域の少し上にキャラクターがあり、高域をマスキングし、結果として低域バランスの音に聴こえるのが残念だ。定格出力は8Ω/60W+60Wだが、パワー感は充分にあり、これは新電源方式の成果だろう。ボンネット部分の機械的共振を適度の重量物を載せて抑え、見通しのよい高域とすることが使いこなしのポイント。こうすることで、質的に高い低域が活かされ、相当に聴きごたえがある立派な音が得られる。

ヤマハ A-950, A-750, T-950

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ヤマハのプリメインアンプが、最新のコンセプトにより開発された新世代の製品に置換えられることになった。その第1弾の製品が、今回、発売された中級価格帯のプリメインアンプA950、A750と、各々のペアチューナーであるT950、T750の4機種のシリーズ製品である。
 プリメインアンプの特徴は、パワーアンプに新しくクラスAターボ回路が採用されたことと、電源部がX電源方式ではなく、従来型の方式に変更されたことである。
 クラスAターボ回路とは、ヤマハ初期の名作といわれたCA1000において採用された、A級動作とB級動作のパワーアンプをスイッチ切替で使い分ける方式を発展させ、新シリーズでは、純粋なA級動作とA級動作プラスAB級動作の2種類の組合せがスイッチで切替えられるようになった。
 とかく定格出力が最重視され、表示パワーが最大の売物になっているプリメインアンプの動向のなかにあって、質的には非常に高いが効率が悪くパワーが得難いA級動作を復活させた背景には、ヤマハオーディオの初心であるクォリティ重視の思想が、現状で、もっとも必要なテーマであるという判断があったからにちがいない。
 一方、データ的な裏づけとしては、A750をAB級動作領域のノンクリッピングパワー150W(8Ω)にテストレコードのの最大振幅部分を合わせた状態での各種レコードの実測データによれば、平均して、A級動作領域(5Wまで)96・4%、AB級動作領域3・6%の割合が得られたことで、実際の使用では音量は10〜20dB程度は低いであろうから、ほとんどA級動作領域でアンプは使われることになるはずだ。
 クラスAターボ回路に加え、従来からのヤマハ独自のZDR方式を採用し、A級動作を一段とピュアにするとともに、AB級動作時にもA級に匹敵する特性と音質が得られる。さらに、アースの共通インピーダンスの解決策として採用されたグランドフィクスド回路は、単純明快な方法である。また、スピーカーの低インピーダンス負荷時の出力の問題に対しては、X電源以上に優れた給電能力をもつ一般的な大型電源トランスと大容量電解コンデンサー採用の物量投入型設計への転換が見られる。
 その他、NF−CR型リアルタイムイコライザー、ピュアカレントダム回路、連続可変ラウドネス、メインダイレクトスイッチなどの機能面の特徴、クォリティパーツの採用などは、すべて受け継いだ内容だ。
 デザインの一新も新シリーズの魅力で、すべてブラックに統一し、CT7000以来のドアポケット型のパネルの採用による適度な高級感のある雰囲気は楽しい。
 チューナーは、各種のオート壊能を備え、とくに強電界での実用歪率の改善が重視されている点に注目したい。
 A950は、電気的な回路設計と機構設計が最近の製品として珍しく見事にバランスした出色の製品である。柔らかく豊かで適度にソリッドさをも併せもつ低域は、新世代のヤマハらしい従来にない魅力をもつ。中域から高域は音の粒子が細かく滑らかで、ナチュラルなソノリティを聴かせる。プログラムには自然に反応し、シャープにもソフトにも表現できるのは、電気系、機械系のバランスの優れたことのあらわれであり、キャラクターの少ない本棟の特徴を示すものだろう。久し振りのヤマハの傑作製品だ。
 A750は、比較をすれば少しスケールは小さいが、フレッシュな印象の反応の早さは、安定感のあるA950と対称的な魅力で、デザインを含めた商品性は高い。
 T950は、CT7000以来の、品位が高く、独得のFMらしい魅力をもつヤマハチューナーらしい良い音をもつ製品。強電界でも汚れが少なく抜けのよい音であった。

トリオ KA-1100

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 トリオの新製品プリメインアンプKA1100は、昨年秋に発売されたKA2200、KA990シリーズの中間に位置する製品である。
 基本的な構想は、同社のプリメインアンプのトップランクに位置するL02Aでの成果を踏襲したもので、デュアルヘッドイコライザー、ダイナミックリニアドライブ(DLD)回路、独自の㊥ドライブなどが導入されている。
 フォノイコライザー段は、カートリッジの出力、インピーダンスが大きく異なるMMとMCの各々に最適な増幅段を独立させ、これとシリーズになる増幅段をスイッチで切替えてペアとし、ワンループのイコライザーとする方式で、従来のヘッドアンプ方式やゲイン切替型とくらべ、高SN比、低歪で、低インピーダンスMCをダイレクトで充分に使いこなせる特徴がある。
 トーン回路は独自のNF−CR型で変化がスムースであり、独立した周波数と変化量が各々3段切替のラウドネスコントロールを備えている。また、機能面でのフロント・リア切替型のAUX端子を前面にもつ点は、CD、PCMプロセッサー、ハイファイビデオなどへの対応を容易にしている。
 DLD回路は、小パワーアンプと大パワーアンプを内蔵し、両者の特徴を組み合わせて使う独自な方式で、織細さとダイナミックさを両立させたものといわれている。また、DLDは低インピーダンス負荷に強く、8Ω負荷ではハイパワーだが、4Ω負荷ではさしてパワーが増さない高出力アンプが流行したり、アンプのパワーを8Ω負荷時より有利な6Ω負荷表示にしようという傾向がある現状からは、2Ω負荷でも連続出力で230Wが得られる点は、注目に値するものだ。なお、電源部は、各ステージ別の巻緑から供給するマルチ電源方式だ。
 K1100は、少し腰高だが、適度にソリッドで引き締まった低域をベースに、明るい中域とストレートな高域がバランスした音だ。音色は明るく、表現はストレートであり、音の粒子は平均的だが、音像は比較的に前にくる。このタイプの音は、ホーン型スピーカーでは、輪郭が明瞭で効果的に聴こえる。優れた回路上の特徴が充分に活かされたなら、現状でも充分な魅力があるだけに、素晴らしいアンプになるであろう。今後に一層の期待が持てる製品だ。

オーディオテクニカ AT150Ea/G

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 テク二力独自のVM型の代表製品であるとともに、長期間にわたりベストセラー製品として数多くのファンを獲得しているAT100シリーズが、リフレッシュされ新製品となって登場することになった。
 ニュー100シリーズのトップモデルが新しいAT150Ea/Gであり、ヘッドシェルに組み込まれたモデルである。
 改良のポイントは、振動系の軽量化と発電コイル系のリニアリティの向上というオーソドックスなアプローチである。
 0・12mm角から0・1mm角に小型化された天然ダイヤ楕円スタイラスは、ベリリュウムテーパードカンチレバーに組み合わされ、カンチレバー表面は、上級機AT160ML/GやMC型AT33E同様に金蒸着され、耐蝕性とQダンプ効果に使われている。パラトロイダル発電系は、伝送損失を約12%減らし、コイル巻数を減らしても出力4mVを確保している。ヘッドシェルは新設計マグネシウム合金製で、OFCリッツ線使用のタイプだ。
 AT150Ea/Gは、中域がやや張り出し気味の旧型にくらべ、MC型的なワイドレンジ・フラットレスポンス型になった。とくに分解能が一段と向上した点は新型の大きな特徴だ。標準針圧1・25gに対する音質変化はシャープなタイプで、試聴では1・45gがベストだった。温故知新的な伝統をもつ完成度が高い優れた製品。

オーディオテクニカ AT29E

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 MC型としては比較的にローコストな新製品であるが、充分に中級機以上に匹敵する高度の内容を備えた、伝統のある専門メーカーならではのファンには大変に楽しい製品である。独自のデュアル・ムービングコイル型の振動系は、国内初採用を10年以上前にはたしたテーパードアルミ合金パイプカンチレバー、0・12mm角天然ダイヤブロック楕円針、バナジュウムパーメンダーコアにアニール高純度銅線を整列巻とした左右独立コイルで構成される。ハウジングは、アルミ合金ダイキャストを上下から硬質合成樹脂でサンドイッチ構造とする異質材料間Qダンプ方式。
 標準針圧1・5gにセットして聴いてみる。トーンアームにもよるが±0・3gの針圧範囲で変化させると、音はかなりシャープに変化する。分解能は高いがやや素っ気ない音を聴かせる国内のMC型にくらべ、こだわりなく、伸びのある楽しく音を聴かせる本機の独自の魅力を活かすには、使用したトーンアームの針圧目盛では、1・65gがベストな針圧だった。軽くすれば軽快さが出るが、表情の抑揚が薄れがちとなり、それ以上に重くすると、MC型としては異例ともいえる腰が強く、枯りのある独特の低音が得られ、これはこれなりの魅力があるが、プログラムソースを幅広くこなすとなれば、1・65gである。とにかく聴いて楽しい異色のMC型だ。

ハーマンカードン Citation XII + Citation XI

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ステレオ初期に最高級管球アンプとしてハーマンカードンから登場したサイテーション・シリーズのIとIIは、当時としては先進の技術であった、NFブロックアンプを多段使用する内容に対する興味と、豪華なデザインとで注目を集めたが、価格的にも高価であり、いわばショーウィンドウで眺めるだけの憧れの製品であった。
 その後、マッキントッシュやマランツ、さらに新生JBLなどの陰にかくれて、国内では、陽の当らぬ存在という期間が長く続き、サイテーション健在という製品が話題にのぼり出したのは、それほど古いことではない。
 本来のサイテーションらしいサイテーションの復活は──つまり、時代の最先端をゆく技術的内容と豪華なデザインが両立した非常に高価格な製品という意味でのカテゴリーとしてなら──一昨年のサイテーションXXシリーズの発売であろう。マッティ・オタラ博士の独創的な頭脳から生まれた新理論に基づく回路設計は、強力な電源部にふさわしい強力なパワーステージとの連携動作で、HICCと呼ぶ瞬時電流供給能力にポイントをおいたパワーアンプと、裸特性そのものをRIAAイコライザーと同じとし、これに、RIAA補正定数をもつNFをかけたデュアルRIAAイコライザー方式を採用したコントロールアンプを生み、これに独自の機構設計が加わり、現状では、デザイン、内容そのもので非常にユニークな存在となっている。
 XXシリーズに続く、サイテーションシリーズの第2弾製品が、今回のX(シングルエックス)シリーズである。
 コントロールアンプのサイテーションXIは、基本的にXXシリーズと共通の開発方針でプロデュースされているが、構成上の変化として、一般的な高・低域のトーンコントロールが設けられている。回路的には、単体として充分の性能をもつMC用ヘッドアンプ、デュアルRIAAイコライザー、フラットアンプに独立したA級動作ヘッドフォンアンプという4ブロック構成である。電源部は強力であるべきとの理論に基づき、40W+40Wクラスのプリメインアンプの電源に匹敵する容量をもつという。
 パワーアンプのサイテーションXIは、出力150W+150Wであるが、瞬時電流供給能力は100Aに達し、電源部は左右独立巻線EI型トランスを採用している。特徴的な横能として、XXシリーズ同様に入力部には不要信号をカットするインフラソニック(1Hz)、ウルトラソニック(100kHz)のフィルターアンプを備え、不要信号入力時には表示ランプが点灯する。また、パワー段のアイドリング電流を2段に切替えるバイアスコントロールスイッチをフロントパネルに備えるのも一般的なパワーアンプと異なる点だ。
 試聴は、アナログソースがP3にDL305をメインに、デジタル系はソニー業務用とヤマハのCDプレーヤーを使う。いつものように、電源スイッチ投入後かなりウォームアップをしているので熱的にはバランスしているが、HICCをテーマとし巨大な電流を扱うタイプだけに、信号を入れてのエージングが必要である。
 基本的には柔らかいが質感に優れた低域をベースに、独特の豊かさをもち音場感情報をタップリ聴かせる中低域と、音の粒子が細かく滑らかでしなやかな対応をみせる中域、ナチュラルに誇張感のない高域が安定感のある帯域バランスを聴かせる。いわば暖色系の音色であるためソフトフォーカスな音と思われやすいが、内容は非常に豊かだ。基本的に分解能が不足するアンプならCDで馬脚を現わすが、Xシリーズは優れたCD独特の抜けのよい音場感をサラリと聴かせてくれる。ちょっと聴きには、やや古典的とも受け取れるタイプの音だが、質的な高さ、素直な音場感と安定した音像定位は、このアンプが基本的に広帯域型であることのひとつの証しだ。

サンスイ B-2301, B-2201

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サンスイのセパレート型アンプは、他社と比較して、その機種数は少ないとはいえ、つねに、ユニークな構想に基づいた個性的な作品が多いのが特徴であろう。
 古くは、管球アンプ時代の出力管にKT88を採用したBA303があり、これは当時のハイパワーアンプの最先端をゆくモデルとして、そのメカ二カルで整然としたデザインともども国産パワーアンプの歴史に残る製品だった。比較的最近では、マッキントッシュと同様に、出力トランスを使った300W+300Wの超弩級ハイパワーアンプ、BA5000の物凄いエネルギッシュなサウンドも記憶に残るものだ。ちなみに、このBA5000は、強烈な馬力と無類の安定度が両立している特徴がいかされ、沖縄の海洋博会場や各地のライブコンサート、晴海のオーディオフェアのサンスイブースなどでJBLのスピーカーシステムの駆動用として、つい最近まで活躍していたため、そのサウンドは多くの皆さんがお聴きになっているはずだ。
 その後、輸出モデルとして、B1が開発され、主に、米国市場で活躍し、このモデルもコンシュマーから業務用までの広範囲に使用されたが、しばらくの沈黙を破って昨年11月に発売されたパワーアンプが、300W+300WのB2301であり、これに続いて今回、発売されたモデルが、200W+200WのB2201である。
 この新製品が開発された基盤は、サンスイのプリメインアンプが急成長を遂げたワイドレンジDC構成のAU607/707以来のダイアモンド差動回路開発、TIM歪とエンベロープ歪の測定法開発、スーパーフィードフォワード方式の開発などの技術的な蓄積をはじめ、他社に先駆けて銅メッキシャシーや銅メッキネジなどを採用した独自の機構設計上でのアプローチ、部品選択、さらに、測定と試聴をくりかえした結果から得られるノウハウなどにあり、これらが、最高級セパレート型アンプを開発するのに充分貯えられたということであろう。
 まさに、サンスイの自信作ともいえる作品であるが、その評価は大変に高く、B2301は、第1回ステレオサウンド・コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤーに選出されたことからも、その実力の程はうかがえると思う。
 2機種のパワーアンプは、基本的に同じ開発意図でまとめられており、初期のPCMプロセッサーを思わせるようなシンプルでクリーンな筐体は外形寸法的にも共通である。
 回路構成上も同様で、新開発のダイアモンド差動出力段は、片チャンネルにパワートランジスクー8個で構成する点、カスコード接続ブッシュプル・プリドライバー段も変らない。もっとも大きな差は、パワーが異なるのを除けば、入力系が、B2301では一般の不平衡型に加えてキャノン端子を使った平衡型入力をもつことで、この場合には入力部のバッファーアンプをジャンプする設計で、入力感度は不平衡1Vにたいして2Vに変る。
 電源部は、トロイダルトランス採用の左右独立・各ステージ独立の6電源方式で、電源コンデンサー容量が、B2301で出力段用60000μF、プリドライバー段4000μF、B2201では、出力段用60000μF、プリドライバー用27200μFと異なっている。
 パネル面の大型液晶ディスプレイは、ピーク表示とピークホールド表示に切替可能な60dBリニアスケールパワーメーターに加えて、オーバースイング、プロテククー、DCリークなどのインジケーターが組み込まれている。
 試聴用コントロールアンプには、B2301が平衡入力を備えている点から、コントロールアンプとして異例の平衡出力端子をもつアキュフェーズC280を組み合わせることにした。なお、キャノン端子の結線はC280、B2301とも①番アース、②番ホットのアメリカ型だが、ものによっては③ホットのヨーロッパ型もあるので注意が必要である。なお、プログラムソースは、アナログ系としてエクスクルーシヴP3にデンオンDL305、デジタル系としてソニーの業務用CDプレーヤーとヤマハのCD1を使用した。
 B2301は、不平衡入力使用のときに充分に厚みがあり、力強くエネルギー感がある低域をベースに、密度が濃い中域と、ハイパワーアンプとしては素直な高域が、無理に帯域感を伸ばしたような印象がないナチュラルで安定したエンベロープのレスポンスを聴かせる。比較的に腰の重いJBL4344の低域を余裕をもってドライブできるのは、さすがに300W+300Wのパワーであり、伝統的な強力電源の実力であろう。
 ややもすれば、国産パワーアンプは表示パワーほどには常用レベルでパワー感がなく、ボリュウムを上げて初めて、さすがにハイパワーアンプといった対応を示すものがあるが、その点このB2301は、まさに正味300W+300Wの出力を感じさせる。音色は適度に明るく、伸びやかで、引締まった表現力をもつが、欲をいえば、音場感的なプレゼンスがいま一歩ほしいところだ。
 試みに平衡入力に変える。一瞬、音場感はスピーカーの外側まで拡がり、見通しのよいパースペクティブな世界が展開される。音の表現力は大幅に向上し、優れたCD盤でのクリアーな定位感、演奏者の動きに伴う気配までが感じられるようになる。これは、まさしく、異次元の世界ともいうべき変化である。レコードを次から次へと取替えて聴きたくなる、あの熱い雰囲気のある音だ。
 B2201は、不平衡入力のみだが、B2301と比較してナチュラルに伸びたワイドレンジな帯域バランスと、音の粒子が細かく、伸びやかに軽やかに音を聴かせるタイプだ。音場感もナチュラルに拡がり、性質の素直さが、このアンプならではの魅力であろう。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「THE BIG SOUND」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの源泉は、放送業務用のモニターシステムとして開発された2S305にある。口径5cmと30cmのコーン型ユニットを2ウェイ構成とし、それも、クロスオーバー周波数を1・5kHzと低くとり、ウーファー側は、いわゆるLC型ネットワークを介さずに、コーンのメカニカルフィルターのみでクロスオーバーし、レベルバランスは、トゥイーターの出力音圧レベルそのものをコントロールしておこない、直列抵抗やアッテネーターは使用しないという設計は、まさに芸術品とも呼べる精緻な見事さを備えている。
 新型ユニットとして急激に台頭したソフトドーム型ユニットが登場以後、スピーカーの分野では、軽合金系のアルミ合金、チタン、ベリリュウムなど、振動板材料を従来の紙以外に求める傾向が強くなっても、ダイヤトーンでは、コンシュマー製品を開発するスタート時点にこれほどのシステムが存在していただけに、伝統的な紙をダイアフラムに採用する手法がメインであった。例外的には、ドーム型スコーカーでのフェノール系ダイアフラムや、スーパートゥイーターでのアルミ系合金の採用があるが、これを除けば、ペーパーコーンがその主流であり、このあたりはいかにも2S305での成果をいかし、紙のもつ能力を限界まで使いきろうとする開発方針は見逃すことのできない設計者魂だ。
 このダイヤトーンが突然のように新振動板材料を登場させたのが、宇宙技術の成果をいかしたハニカムコンストラクションコーンである。しかも、一般的な中域以上のユニットではなく、ウーファーユニットから新材料を導入した点が、他社にない大きな特徴である。スピーカーシステムは、良いユニットと良いエンクロージュアを組み合わせて初めて完成する。当然の話であるが、ダイヤトーンの最初の製品が発表された当時、よく設計者から聞いた言葉である。
 これからも、ベーシックトーンを受持つウーファーに新振動板を導入し、単に材料の置換法ではなく、新しい振動板にふさわしいエンクロージュア設計を確立するのを第一歩とする方針は、きわめてオーソドックスな手法である。
 その第一弾がハニカムコンストラクションコーンで、1977年秋の業務用モニター4S4002Pでは中域、低域ユニットにCFRPをスキン材として採用し、DS90Cの低域ユニットではガラス繊維系のスキン材を使っていた。その後一年を経て、DS401とDS70Cの低域用にDS90Cと同様な構成の振動板が使われている。これ以後、1970年代が、この新型振動板を発展させ、使いこなすための基礎となった期間であろう。
 80年代に入ると、その成果は急激に実り、スキン材に、防弾チョッキにも使える強度と適度な内部損失をもつアラミド系繊維が導入され、ハニカムコンストラクションコーンは完成の域に達する。低域ユニットが紙の振動板では得られぬ高速応答性を得ると、次は中域以上の振動板材料の開発である。その回答として、ダイアフラムとボイスコイル巻枠部分を一体成型する加工法と、材料にチタンをベースとし、その表面をボロン化する独自の製法が開発される。
 この結果としての製品が、80年9月のDS505であり、クロスオーバーを350Hzにとったミッドバス構成4ウェイと、システムの高速応答性を意味するデジタル対応システムという表現が新しく提唱されたのである。続いて翌年の大口径DUDドーム型中域ユニット開発に基づくDS503の開発。別系統のトライである80cm、160cm口径の超弩級ウーファーの完成の過程を通り、集大成された結果が今回の4ウェイ・フロアー型という構想のDS5000であり、CD実用化の時期に標的を絞ったデジタルリファレンスに相応しい自信作である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 DADが実用化の第一歩を踏み出した昨年は、伝統的なカートリッジの分野でも実りの多い年であったようだ。なかでもMC型は、普及価格帯での激しい新製品競争と高級機の開発という、二層構造的な展開を見せたが、ヤマハのMC2000は、振動系の軽量化という正統派の設計方針に基づいて開発された高級機中の最も注目すべきMC型である。
 MC型の性能と音質は、発電のメカにズムと素材の選択と加工精度によって決定される。
 MC2000の発電機構は、ヤマハ独自の十字マトリックス方式で、一般的な45/45方式に対応する発電系は持たず、水平と垂直方向に発電系があり、これをマトリックスにより45/45方式に変換するユニークなタイプで、水平、垂直方向のコンプライアンスとクロストークを独立して制御できるのが特徴である。
 振動系のカンチレバーは、素材から開発したベリリュウム・テーパードパイプ採用で、従来型より肉厚を薄く、全長を短くし、芯線径12・7μの極細銅線使用のコイルとあいまって、世界最軽量の0・059mgの等価質量である。これに、独自の段付異種結合構造LTDダンパー、ステンレス7本よりサスペンションワイヤーを組み合わせ、高剛性、無共振ハウジング組込みで自重5・3gとした技術力を高く評価したい。
 適正針圧1g±0・2gと発表されているだけに、アームの選択、細かな針圧調整とインサイドフォースキャンセラー調整などを入念に行なわないと優れた基本性能をベースとした最新MCの音の世界は味わえない。

ビクター SX-10 spirit

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 SXシリーズのスピーカーシステムは、それまで海外製品の独壇場であったソフトドーム型ユニットを完全に使いこなした製品、SX3の発売以来、すでに10年以上のロングセラーを誇る、国内製品としては例外的ともいえるシリーズ製品である。
 今回のSX10SPIRITは、ソフトドーム型独特のしなやかでアコースティックな魅力を活かしながら、永年にわたり蓄積された基本技術とノウハウをベースに最新の技術を融合して、現代の多様化したプログラムソースに対応できる最新のスピーカーシステムとして完成された点に注目したい。
 SXシリーズの伝統ともいえる西独クルトミューラー社と共同開発のウーファーコーンは新しいノンプレス型であり、コニカルドーム採用はSX7を受け継ぐものだ。ソフトドーム型ユニットは、素材、製法を根本的に見直してクォリティアップをした新設計のもので、トゥイーターのドーム基材の羽二重は、従来にはなかった材料選択である。
 大変に仕上げの美しい弦楽器を思わせるエンクロージュアは、表面桐材仕上げの5層構造で、響きを重視した設計で、ネットワークも結線にカシメ方式を使うなど、まさしく、SXシリーズの伝統と最新技術の集大成といえる充実した内容だ。ソフトドーム型ならではの聴感上のSN比が優れた特徴を活かしたナチュラルな音場型の拡がりと表現力の豊かさは、とかく、鋭角的な音となりやすい現代のスピーカーシステムのなかにあって、落着いてディスクが楽しめる数少ない製品である。