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CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 他のコンポーネントと大きく異なったCDの特徴は、価格に関係なく、基本特性がほぼ等しいことがあげられる。つまり、もっともローコストモデルでも、正しい使い方をすれば、優れた特性をベースとしたハイグレイドの音が楽しめるわけだ。
 CDプレーヤーは、今年になり急激に開花した感があり、製品も非常にバラエティに富んではいるが、データ的に同等の性能をもってはいるが、平均的な規格以外に隠れた部分があり、このあたりに経験量の差やノウハウの蓄積量の違いがあるようで、これが決定的な音の違いとなって現われるようだ。
 CDプレーヤーで問題となるのは、主に筐体からの高周波の不要輻射、AC電源を通しての干渉、信号に含まれる残留ノイズの質と量などがある。現実には、不要輻射はFMチューナーのビート妨害として出やすく、AC電源からの干渉はアウトフォーカス気味のボヤケた音や奥行きの欠除した音場感などになりやすく、残留ノイズは直接に音質を劣化させることになる。
 FMへの妨害は、FM受信時にCDの電源をオフにすればよく、AC電源の干渉は、アンプなどと別系統の給電をするとか、フィルター、インシュレーショントランスの使用などで低減できるが、残留ノイズは如何ともしがたい問題である。とくに、最近の頭の良い設計者は、ボーズ時にミュートをかける設計をするため、曲間部分でボリュウムを上げチェックする他はない。
●10万円未満の価格帯
 基本的な選択法は経験豊かなメーカーの最新製品を選ぶことだ。価格的に、ポーズ時にミュートがかからない製品が多いため、ポーズにしてボリュウムを最大にしてチェックをしよう。8kHz近辺のビートが少し出ている程度がベストだ。ジャージャー、カチャカチャといった残留ノイズは論外だが、現実には存在するため要注意だ。
 ベスト1は、チェンジャー機能をも備えたPD−M6である。基本的な音も質的に高く、楽しく音楽を聴かせる雰囲気は抜群であり、残留ノイズの質と量も優れる。LDでの経験が結実した好製品。一連のヤマハ製品は確実な内容の向上を示し、CD34のメカ部の充実さは特筆ものだ。ダークホースは、清澄な音のDCD1500と、飛躍的にCD技術を磨いたXL−V400だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 高級機の分野だけに技術的に高度な内容を備える製品が多いが、高度な技術内容もオーディオ的に消化しないと、結果としての音は期待外れになるわけだ。信頼性は、さすがにCD2000WやCDP553ESDが抜群の存在だ。オーディオ的に音楽が楽しく聴けるのはPD9010X。新鮮なDP2000。未完の大器は、ZD5000とC700。今後の洗練を期待する。

マッキントッシュ MCD7000

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュでCDプレーヤーが開発中であるとの噂は、一部で知られていたことであるが、今回、そのベールを脱いでコンパクトディスクプレーヤーMCD7000として新発売されることになった。
 マッキントッシュの製品は、つねに時代の最先端をゆく技術と背景に、高い性能とクォリティを備え、長期間にわたり安定して、高度な音楽性を保ちつづけることに特徴があるが、このMCD7000も、音質的なクォリティはスタジオサウンドを目指して開発されたという。
 外観は、マッキントッシュ独特の、筐体をケースなどに固定するパンロックシステムを採用した、いかにもらしい外観をもつが、パネル両側のゴールドと金属部分の色調がやや薄くシャンペンゴールド調になり、漆黒のパネルフェイスやグリーンに浮出るレタリングなども、全体に抑えた印象となり、独特の華麗さがかなり抑えられ、むしろマットなイメージになっているように見受けられる。
 内容的には、光学系は機械的精度を向上し、外部振動の影響を避ける目的でアルミダイキャスト製の構造材に組込まれており、レンズ系はスイングアームで保持され、ディスクドライブモーターは交流モーター採用で、セルフ・センタリング・サポート・スピンドル方式と呼ばれる構造をもつために、CDのセンタリング精度は高く、優れた光学系のサーボ方式とともに読取精度の向上に寄与している。
 音質と直接関係の深いフィルターには、音質重視の設計ではオーソドックスな手法であるデジタルフィルターが採用され、マッキントッシュでは、ダブルデジタルフィルター方式と呼ばれているものだ。
 機能面で興味深いのは、フロントパネルに、標準型のステレオフォーンジャックと独立した音量調整ボリュウムを備えており、このような機能は日本独自の要求かと思っていたが、米国でも個人的なプライベート・コンパクトディスクサウンドとして、ヘッドフォンで楽しまれるというのは、少からず驚かされた次第である。その他機能面では、各種のリピート機能、任意の20曲プログラム選曲、バーグラフ式のトラックナンバー表示、3スピードのミュージックスキャン機能などを備え、ワイヤレスのリモートコントローラ付属である。なお、一部では出力系にトランスが採用してあるとの情報もあったが、この点は不明。
 本機の音は、適度に帯域をコントロールした、安定感があるバランスとアナログディスク的なイメージのサウンドキャラクターが特徴である。出力コードは、純銅線が好ましく、置台の影響も平均的に受けるため、セッティングにはかなりの注意が必要であろう。マッキントッシュファンの反応が興味深いCDプレーヤーの第1作だ。

パイオニア PD-9010X

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 バイオニアの新CDプレーヤーシリーズは、簡潔かつ基本的な構想によるディスクの不要共振を抑える、ディスクスタビライザーを世界初に採用した製品として知られる。すでに、PD5010と7010が発売され、それぞれのモデルに与えられたサウンドと機能面での特徴が、単なるシリーズ製品としてのランク差でなく、価格差を超えて対比できるモデル間の固有の魅力として認められるだけの巧みな展開をみせているが、今回、シリーズのトップモデルとして、PD9010Xが新発売された。
 シリーズ共通のキズや汚れに強いリニアサーボ方式、オリジナルの高精度ピックアップ系の採用などの他に、本機の特徴は、まず、CDの初期から音質に関係する重要な部分とされるフィルターにデジタル型が採用され、帯域内リップルが、0・01dB以内とフラットであり、デジタル信号処理をひとつのマスタークロック発振器で同期する方式は、各信号間のビートやデジタル信号にジッター成分が含まれず、サーボ系やオーディオ系への影響を抑えるために効果的である。
 電源部は、CDプレーヤーでも、音質面で重要な部分だが、電源トランスは、サーボ系とデジタル系に1個、オーディオ系にはオリエントコアにOFC巻線を施した専用トランス1個を採用した2トランス型。
 基板関係は、各基板の微少レベルでの振動による相互干渉を避けるため3ブロック構成とし、オーディオと電源部は、70μmmの銅箔パターン採用で、オーディオ部は左右チャンネル対称型パターン。電源部はOFCバスパー採用が特徴である。その他高音質パーツとして、電源コード、配線材料のOFCコード、独自のガラスケース電解コンデンサーと黄銅キャップ抵抗などがあり、筐体の脚部は、アナログプレーヤーとは異なるが、特殊な振動減衰率の高い材料を使ったインシュレーターで、外部振動をシャットアウトし、光学系は、さらに筐体内部でフローティングをする構造である。
 横能面は、フルモードのワイヤレスリモコン装備で、ダビングに便利なポーズプログラム機能と積算時間表示、プログラム内容を示すトラックディスプレイ3種のリピート機能、2連マニュアルサーチなどの他、サブコード出力をも備える。
 あらかじめ、電源が入っていれば、プレイ開始からの音の立上がりは平均的で、約2分間程度で本来の音になる。
 柔らかく豊かで、質感の優れた低域をベースに、安定した響きをもつ中低域と適度に密度感のある中域、素直な高域がナチュラルなバランスを聴かせる。音色は明るいタイプで、音場感情報は充分に豊かであり、デジタル的な印象がなく、音楽を活き活きとブレゼンスよく聴かせるあたりは、独特の魅力であり、これは、楽しい。

オンキョー Integra C-700

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーの音質を向上するために、光学ピックアップ系を含むサーボ系、デジタル信号処理系とアナログアンプ系を分離して、別の筐体とするセパレート型プレーヤーの開発商品化や、ディスク駆動系と光学ピックアップ系の可動メカニズムを独立させた試作品などが存在し、それぞれのメリットが確認されているが、今回、オンキョーから発売されるインテグラC700は、予測されていたように、光ファイバーを採用して、デジタル回路で発生した各種のパルス成分が、信号系やアースラインを通ってアナログ回路に流れ込む、オンキョーで名付けた、DSI(デジタル信号妨害)を極限に抑えようとしたものである。この方式は、アースラインを含め、両者を電気的に完全に分離できるのが特徴であり、世界初の光伝送方式によるCDプレーヤーである。
 光ファイバーは、L/R、ワード、ピットの各クロック信号とデータ信号、ディエンファンシスとオーディオミューティングの、6系統に採用されている。これにより光結合回路の入出力を比較すると、入力波形にあるDSIは、出力波形では除去されているのが観測可能であるとのことだ。
 その他、本機の特徴は、デジタルフィルターと、通常組み合わされる3〜5次程度のタイプより不要成分を抑え位相特性を改善する目的で採用した7次アクティブ型フィルターを採用している。また、電源部は、トランス巻線をデジタルとアナログ別巻線とし、シールドを施して回り込みを防止するとともに、アンプで定評のあるデルタターボ回路が採用され、信号系にも同様にスーパーサーボ方式を採用し、高いサウンドクォリティを確保している。
 機能面では、10キー・ワイヤレスリモコンを備え、16曲までのメモリープレイ、3種のメモリープレイ、タイマースタート機能、ボリュウム付ヘッドフォン端子、固定と可変の2系統の出力端子などがある。
 試聴は、常用のアキュフェーズのピンコードで始める。広帯域志向型のサラッとした帯域バランスとナチュラルでスムーズな音が第一印象だ。演奏開始からの立上がりは平均的で、焦点がサッと合ったように音の見通しがよくなる。低域は柔らかく伸びがあり、フレキシプルな粘りが特徴である。
 100VのAC電源の取り方を変え、置き場所を選択して追込むと、次第にシャープさクリアーさが増してくる。出力コードをLC−OFCに変え、細かく追込んでいくと、音場感情報もかなり豊かになり、ナチュラルなプレゼンスと定位感が得られるようになる。基本的にキャラクターが少なくナチュラルでクォリティの高さが光学伝送系採用の特徴であり、その成果は大きいが、今後さらに一段と完成度を高め、異次元の音にまで発展してほしい意欲作である。

パイオニア PD-7010

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーとしては、パイオニアの第3世代に相当する一連のシリーズ製品のうち、まず、PD5010とPD7010が発売されたが、本誌が書店に並ぶころには、トップモデルのPD9010も発売されていることであろう。
 今回の新製品は、外形寸法的に、いわゆる標準コンポーネントサイズであり、上の2モデルはサイドに木製の側板が付属し、横幅は456mmとなっている。
 今回試聴したモデルは、中間機種のPD7010である。ベーシックモデルらしくディスプレイ関係や機能を簡潔にしたPD5010に比べ、本磯は非常に充実した機能が特徴だ。
 付属機能は、そのポイントが、カセットデッキでのコピーに重点が絞られている。付属のワイヤレスリモコンと本体のパネル面の両方にある10キーによる32曲プログラム機能、プログラム曲番が点灯するトラックディスプレイ、プログラム積算時間表示、プログラム曲をテープA面とB面に分けてコピーしたり、カラオケで歌う人が交替する間をとるときなどに役立つポーズ・プログラム機能をはじめ、全曲、プログラム、1曲のリピート機能、最初の数秒は5倍速以後は20倍速の2速正逆マニュアルサーチ、ディスクローディング後、約4秒、総曲数総演奏時間を表示、以後、演奏曲番、インデックス番号、演奏時間を表示し、タイムリメイン、トータルの時間表示切替可能な集中マルチディスプレイ、ヘッドフォン端子など、実に多彩な機能を備えている。
 技術面では、LDでの技衛を活かした独自のフォーカスパラドライブ機構、クロスパラレル支持方式などを導入した自社開発のピックアップ系、ディスクのキズや汚れによる音飛びを抑える3ビーム方式ならではのリニアサーボ方式と、万一のトラック飛びにも元のトラックに自動復帰するラストアドレスメモリーなどがあり、なかでも特徴的なものは、CDディスクの不要振動を抑えるために振動解析されたクランパーを積極的に利用したディスクスタビライザー採用があげられる。
 このスタビライザーにより、低域大振幅の不要振動が中域に移り、振幅も大幅に減少し、非常に効果的に働いているようだ。その他、サーボ系とオーディオ系別巻線の強力電源、アンプでの成果を活かしたシンプル&ストレート回路採用なども特徴だ。
 CD装着、演奏開始での音の立上がりは比較的穏やかなタイプで、自然な立上がりだ。帯域バランスは、柔らかな低域、豊かな中低域に特徴がある素直なタイプで、高域は派手さはなくナチュラルだ。音色は少し暖色系で表情も適度に活気があり、基本性能に裏付けされたクォリティと、楽しく音楽を聴かせる魅力が巧みに両立した成果は見事。CD嫌いには必聴の注目製品だ。

ナカミチ OMS-50

井上卓也

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ナカミチのオーディオは、1973年に世界初の完全独立3ヘッド構成を採用した超弩級カセットデッキ・モデル1000と700の開発という成果に見られるように、カセットデッキの高性能、高音質化で傑出した独自の世界を展開し、オリジナリティという意味で、海外でも独自の評価を得ている。その他のジャンルでも、高級レシーバーやセパレート型アンプでの独自の開発や、アナログプレーヤーシステムで未知の分野に挑戦した、ディスクのオフセンターと音質の相関性を追求した結果として開発したアブソリュート・センター・サーチ機構採用のシステムなど、ナカミチならではのオリジナリティのあるアプローチは類例のないものだと思われる。
 一方、デジタル関係でも、光磁気ディスクで録音・再生を可能としたシステムの開発に見られるように、時代の最先端を行くテクノロジーを誇っているが、今回、昨年のCDプレーヤー第1弾製品OMS70に続き、機能を簡略化したいわばスタンダードモデルとも考えられるOMS50が登場することになった。
 開発の基本コンセプトは、OMS70と同様に、デジタルサウンドという名のもとに加えられやすい音の色付けを拒否し、原音を完璧にトランスデュースするというナカミチの理念を追求したものとのことで、具体的には、回路構成の単純化、4倍オーバーサンプリング方式のデジタルフィルターとダブルDAコンバーター方式、アナログ回路全体を独立パッケージ化し、入出力端子のあるリアパネルに直付けしたダイレクトカップルド・リニアフェイズ・アナログシグナルプロセッサー方式などが特徴となっている。その他、ディスクドライブ機構を亜鉛合金ダイキャストシャーシーにマウントし、メインシャーシーやディスクローディング機構からスプリングによりフローティングし、内部のドライブメカニズムや電源トランスなどからの共鳴や共振、外部的な振動やスピーカーからの音圧などの影響を受け難い構造の採用などだ。その、いずれをとっても今回の採用が業界初というものではないが、これらをベースとして総合的に優れた音質のCDプレーヤーとするかに、ナカミチの総合力がかかっていると考えられるわけだ。
 CD独自の使用上のチェックポイントを確認してから音を聴く。ウォームアップは比較的に早く、ディスクが回転をはじめて約1分10秒で音が立上がる。さして広帯域型を意識させないナチュラルな帯域感と穏やかな表情で、落着いて音を聴かせる雰囲気は、ナカミチの高級カセットに一脈通じる印象である。デジタルらしい音をサラッと聴かせるタイプと比較すれば、味わいの深い音、というのが、このシステムの音であり、市場での反応が興味深いと思う。

ソニー CDP-552ESD + DAS-702ES、Lo-D HDP-001 + HDA-001 (DAD-001)

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 1982年10月のCDプレーヤー発売以来、まる2年が経過した。というよりも、3年目に入ったという言い方のほうがよいかもしれない。なぜならば、多くのメーカーのCDプレーヤーは第三世代目が登場しているからだ。例によって異常に闘争的で気短かな日本のメーカーの気迫のおかげで、2年間としては驚くほどの機種数が発売され、第一目標の10万円はさっさと割り、ついに5万円が普及品の競争価格となった。いいものを安く作って売ることは大いに喜ばしい。しかし、一方において、高くてもより優れたものを作ることも大切だ。この2年間のCDプレーヤーは、価格的にも内容的にも、中級からスタートを切って、上下へ発展したように見える。しかし現実は必ずしもそうではなく、価格的にはその通りなのだが、内容としては、個々の機器によってまちまちで、価格と性能・音質との関連は見出しにくい。安くても音のいいもの、高くてもそれほどでもないもの、そして、さすがに高いだけあって素晴らしい音のものなどが入り乱れているといってよい。
 デジタルオーディオは、もともと音に差の出るものではなく、フォーマットが同じならば、それですべてが決るのだと聞かされてきた。もし、その通りなら、いまの現実がおこるはずはない。ほんとうは安くても高くても、その基本性能と本質的な音に変りはないはずなのである。少なくとも、価格の安いもののほうが音がよいなどということがおこってはいけないはずである。しかし、それはあくまで『はず』であった。CDプレーヤーが出る何年も前に、私はデジタルプロセッサーとビデオデッキを使っての実験的な録音を何度か行なったが、その度に、このデジタルエンジニアリングの専門家の言葉を疑わざるを得ない体験をしてきた。同じプロセッサーで、デッキを変えると音が変わる。テープによっても若干の音質の変化があるという体験をした。CDが実用化して、多くの人達が、プレーヤーによる音の変化を指摘した。皆、一様に、そんなはずはないのだが、実際に違うのだと首をかしげたものだ。ついには日本オーディオ協会が主催して、市販のCDプレーヤーの音を聴き比べる実験も行なわれた。私もこれを聴いて、改めて、その違いに驚かされた。出席した数百人のマニア諸兄も同様の感想をアンケートに残したのである。
 この2年間、自宅で数多くのCDプレーヤーに接したが、ますますその観を深めている。CDプレーヤーもまた、多くのオーディオコンポーネントと同じく、この複雑微妙な音と音楽の再生に個性をもつことが、私たちの耳で確められたのである。ただし、アナログプレーヤーのような大きなバラつきがないことは事実であって、その下限(今後のことは未知だが……)の水準は、アナログの最低水準よりはるかに高い。価格を考え合せるとなおさらのことで、例えば、5万円の価格で、カートリッジつきプレーヤーとイコライザーアンプまでを含めたアナログの再生システムとなると、まともなコンボーネントの範疇には到底入れられないレベルのものだろう。しかし、上限はどうか? これはどうやら今の段階では明言し難いようだ。私見でば、現在のCDフォーマットの16ビット/44・1kHzというのは、不十分と感じられる。人間の感覚と音楽の妙、その芸術性に謙虚に技術が奉仕するためには、不必要と思われる余裕のある規格、例えば、22ビット/100kHz以上のサンプリング周波数で、実際ものを作り、多くの人に聴かせ、経済性との妥協点でどこまで下げられるかをじっくり時間をかけて検討すべきだと私はメーカーに言い続けてきた。現在のCDフォーマットは既成の学説の鵜呑みに理論値をあてはめたもので、決して十分な実験の結果決められたものではない。いずれ、そのうちに、スーパーCDフォーマットなるものが出来るような気もするのである。とはいうものの、現在のCDの能力は、いまだに計り知れないところがあって、新機種の中には、驚くほど音がよくなったものがあるのも事実である。そして、今や、私個人の楽しむプログラムソースとしても、CDはすっかり定着し、よきにつけあしきにつけ、アナログディスクにはない特徴に日常親しんでいるのである。
 CDの可能性は未知だと書いたが、それを再生倒で強く感じさせてくれたのが、今回登場のソニーCDP552ESD+DAS702ESと、Lo-D、DAP001+HDA001という2機種であった。
 図らずも、ほぼ同時に発売されたこれらの機種の共通点は、セパレート型CDプレーヤーシステムというもので、光学メカニズムを含む信号処理部までのデジタル系と、DAコンバーター以後のアナログ系とを、それぞれ別のシャーシに分離してまとめられた新しいコンセプトによるものだ。このコンセプトは従前から話題にはなっていたもので、ぜひ製品化の実現が望ましいと考えられていたものである。その理由はいくつかあるが、一つには、デジタル系とアナログ系を狭い共通のシャーシ上に同居させることによる各種の干渉による悪影響が想像されていたからだ。そして、このコンセプトによる製品は当然コスト高となるが、それによってさらに、各部の品位を上げることに連ることが予想されたのである。現に2機種とも、ただセパレートにしたのみならず、それぞれ、デジタル部もアナログ部も従来機よりも一層入念な回路設計、コンストラクション、パーツの選択に磨きがかけられているのである。次に、この形態をとることにより、プレーヤーとプロセッサーが独立製品となり、コンポーネントとしての発展性と趣味性が高まることである。今のところ、Lo-Dとソニーでは、プレーヤーのデジタル信号出力の出し方に違いがあって、出力端子を含めてしかるべく統一が図られるべきだし、その方向に向っているが、そうなると、他のメーカーからDAプロセッサー単体が発売される可能性が出て、プレーヤーとプロセッサーの組合せの自由度が生まれることになるだろう。すでに、これを大いに歓迎しているアンプの専門メーカーもあり、こうなるとCDプレーヤーのハイエンドユーザー層への浸透に拍車がかけられることになるはずである。CDプレーヤーの普及化もよいが、一方において、熱心なハイエンドユーザーに認知されないことにはCDの市民権は不十分である。ユーザーの中には、まだまだCDアレルギーの人々が多いはずで、それらの人の中には、問答無用、聴く耳持たず……といった感情的な姿勢の人も少なくないことを知っているが、同時に、現在のCDの水準が文句なく受け入れられるレベルにまでは至っていないのも事実である。私自身のCD観は初めに書いた通りなので重複は避けるが、この新しいテクノロジーの成果と可能性はもっと虚心坦懐に受け入れたほうがよい。こだわりも必要だが、前向きの明るさも大切だ。人生、ネアカジュクコウが私のモットーである。

ソニー CDP552ESD + DAS702ES
 さて、このソニーとLo-Dの2機種についてだが、詳しくは、後で御紹介するそれぞれの機械の直接の担当エンジニアとのインタビューを読んでいただくとして、その概略を述べておこう。
 ソニーCDP552ESDは、同時発売のCDP502ESと基本的に同じCDプレーヤーであるが、本機は、それにデジタル出力端子を装備したものである。このプレーヤーの最大の特徴は、その操作性の完成度の高さであって、きわめて静粛かつ迅速なアクセスはあらゆるCDプレーヤー中、群を抜いている。20キーを持ち、最大20曲までメモリー可能、呼び出しはこれにプラス10キーを加えて30曲まで瞬時におこなえる。メモリーは演奏中にプログラムのチェック、追加、変更も可能である。また、シャッフルプレーといって、プレーヤー自身で再生曲順をランダムに選定するという面白い機能ももっている。新しいLSIの開発で主要デバイスは一新され、光学系のメカニズムやサーボもより完成度を高めた。フローティングマウントにより、メカ自身と外部からの振動への対策も図られている。CX23033ICによるデジタルオーディオインターフェースでピンプラグ一本で簡単にデジタル出力がシリーズアウトされる。これでCDのサブコードなども送信可能である。ピックアップ駆動にはリニアモーターが使われ、サーチはきわめて速い。速すぎてディレイスイッチが用意されているほどだ。また、サーチ中の不快なノイズも全く気にならない。ディスクトレイの出入もスピーディで全くいらいらすることがなく、一度このプレーヤーを使うと、他機種のそれがスローモーションでじれったくなってしまうだろう。リモートコントロールユニットRM-D502は、CDP502ESと共通の赤外線パルス式である。
 DAS702ESは将来の放送衛星やSHF放送試聴の備えをもったDAプロセッサーで、サンプリング周波数は32kHz、44・1kHz、45kHzに自動切換えにより対応する。DAコンバーターはLR独立型、オーディオ回路には電源トランス、コンデンサー、線材などに入念な音質対策が施され、ESシリーズ共通の剛性の高いシャーシコンストラクションとなっている。

Lo-D DAP001 + HDA001
 Lo-D/DAP001も、大筋においては変りはなく、光学系のメカニズムと信号処理部までのデジタル回路をもつたCDプレーヤー。このプレーヤーのアクセス機能は既存のDAD600に準じるもので、10キーを備えたコンベンショナルなもの。操作性は標準的といってよいだろう。内容的な特徴としては、5重訂正という大きな訂正能力をもつが、これは新しく開発されたC-MOS・LSIによりエラーは1回/20万年という高性能、かつ、訂正もれによる補間雑音も最小限におさえられているという。150億以上のピット信号が刻まれているCDだから、読み出しのエラーはつきものである。またCDそのものの成形もパーフェクトにはいかないから、そのローカルディフェクトも無視出来ない。デジタル系で音が変わるとすると、誰もがまずエラーレイトを想起するし、事実、エラーレイトのチェック以外に、今のところ、デジタル系に起因する音質の定量的チェック方法はないらしい。必要以上とも思われる5重訂正という従来の倍以上の訂正能力をもたせ万全を期したものだろう。デジタル信号の出力は、今のところアンフェノール24ピン・コネクターによっているが、いずれ、ソニーと同じフォーマットに改められる予定である。この部分は今後、いろいろな論議を呼ぶことになりそうである。このプレーヤーは、ソニーと正反対といってよいデザインイメージで、ソニーがブラックなのに対し、こちらはシルバー。メカニカルなソニーのパネルフェイス廻りに対して、こちらは木製サイドボードをもったウォームなものである。
 HDA001はデジタルフィルター、DAコンバーター、サンプルホールド、ローパスフィルター、アナログアンプの各ブロックをまとめたプロセッサーである。DAコンバーターはリニア積分型でLR独立して使われている。デジタルフィルターはオーバーサンプリング方式で、この辺りは、ソニー、Lo-D共に自社開発のLSIを使っているのでパーツの差はあるが、基本方式としては同じとみてよいだろう。アナログアンプ部は、これも入念な配慮がみられ、電源トランス、コンデンサーなど、コンストラクション、品位ともども十分検討されたものだ。キャビネットの無共振化、外部振動の遮断などへの配慮も、DAP001とともによく検討された作りである。
 それでは、以下、ソニー、Lo-Dそれぞれの開発担当者とのインタビューによって、それぞれの製品の特徴を中心にさらに話を進めることにしよう。私が、ソニー、Lo-Dのエンジニアに質問する形で進行することにする。

●ソニー開発担当者エンジニア
──CDプレーヤーを、セパレート化された理由をお聞かせ下さい。
『CDプレーヤー開発する前に、PCMプロセッサーPCM-F1を商品化したわけですが、このとき、音を徹底的に追及したかったため、使い勝手をやや犠牲にしながらもセパレート型を採用し、そのおかげで、かなり満足すべき結果が得られました。
 PCMレコーダーでセパレート型を開発したことにより、CDプレーヤーにおいても、メカニズムが発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響、それに、デジタル回路とアナログ回路の干渉が、音質劣下をきたすのではないかと、感じていました』
──CDP101を発表された時に、既にセパレート型の方が音がいいことは判っておられたのに、なぜ、最初のCDプレーヤーは、インチグレーテッド型で出されたのですか。
『アンプにも、インテグレーテッド型とセパレート型があり、それぞれ意味があるわけですが、CDプレーヤーでも同じことが言えます。われわれとしましては、高級機はセパレート型も考えていましたが、まだ、その時点ではCDプレーヤーのデジタルアウトの規格が決まっておらず、CDを普及させる意味もあって規格が決まるまで待っていたわけです。
 このデジタル・インターフェースの規格は、プロ用デジタル機器の規格に準じたもので、ドラフトが一九八二年末に、最終文書が翌年九月に配布されています。これは現在はIECで標準化されようとしています』
──具体的には、どの部分から分けられたのですか。
『D/Aコンバーターを、プロセッサー側に内蔵する形態を採りました。これは、将来出てくるであろう衛星放送チューナーやDATに対応できるようにするためです。
 プロセッサーは、サンプリング周波数をCDの44・1kHzの他に48kHz、32kHzにも対応できるように設計していますので、フォーマットさえ同じなら他のデジタル機器でも接続可能になるわけです』
──セパレート型でしかできないこと、それに、ソニーの第三世代のCDプレーヤーとして第1、第二世代のモデルとの違いはありますか。
『インテグレーテッド型の場合、一つのシャーシにメカニズム、デジタル回路、アナログ回路を収めるため、スペース的余裕がなく、どうしてもアナログ回路は妥協せざるをえなかったわけですが、スペース的に余裕のあるセパレート型は、アナログ回路にアンプ開発で培ったノウハウ、技術を充分に生かすことができました。
 従来の光学系はギヤで駆動しており、メカニズムの機械ノイズ、経時変化の問題がありましたが、今回採用したリニアモーター方式は、ギヤ駆動の問題点をすべて解決することができ、また、アクセスのスピードアップも可能となりました。
 さらに、ピックアップ部と駆動部を一体化したことにより、加工精度が向上して、より正確な信号のピックアップが可能になりました。また、この部分を、シャーシからフローティングしていますので、メカニズムが発生する機械ノイズがエレクトロニクス部分に影響を与えることはありませんし、外部振動からピックアップ部が逃げられるなどの、メリットがあります』
──デジタルは、音が変わらないとCDの発売当初は言われましたが、実際にはかなり大きな違いがありますが、このことについて、設計者の方は、どうお考えでしょうか。
『LSIとデジタル回路の設計は、純粋なデジタルのエンジニアが担当していますが、メカニズム、アナログ回路を含めたCDプレーヤーの全体的な設計は、長くオーディオを担当しきたエンジニアがやっており、彼等がデジタル回路を見直しますと、音の変わる要素が数多く出てきます。
 さらに、デジタル波形を見てみますと、理論上では0と1しかないはずですが、0にもいろいろな0があり、1にも同じことが言えます。単純に、デジタル信号は0と1だけとは、現在では言えないように思っています』
──それは、どういったことが原因で起こるのですか。
『まだ正確なことは言えませんが、おもに個々のパーツが発生するノイズ、デジタル回路が出すノイズ、機械ノイズ等の影響からくるものだと考えられます。将来的には、この辺を完全にクリーンにして、デジタル信号を理論通りの0と1のみにして、信号処理していくつもりです。
 今回のモデルが、CDで出せる究極の音とは言いませんが、デジタルのもつ優れた可能性を伺い知ることのできるものだとは思っています』

●Lo-D開発過当エンジニア・インタビュー
──セパレート化されたコンセプトは、どこにありますか。
『エレクトロニクス回路は、デジタル、アナログに関係なく電源は重要なポイントだと思っています。
 一般的なCDプレーヤーは、1つのシャーシにデジタル回路とアナログ回路とを同居させているため、それぞれに理想の電源をもたせることは無理ですし、どこかで妥協せざるをえない。また、共通の電源を介して起こる干渉と、デジタル回路から発生するノイズの、アナログ回路への飛びつきを防ぐために、セパレート化に踏み切ったわけです』
──セパレート型と、インチグレーテッド型との音の差はどの程度ですか。また、それは、ただ単にセパレートしたためによるものですか。
『作ったわれわれが驚くくらい、非常に大きい差と言えます。しかし、ただ単にセパレート化したことだけによる音質向上ではなく、現時点で、考えられるだけのことをやり、徹底したコンストラクションの見直し、パーツの追及によるところも大きいと思います。
 今回のモデルの開発は、おもにアナログ系を重点的に音を詰めていきました。デジタル部も新たにLSIを起こしましたし、五重訂正回路の採用により、これまでは平均値補間で処理してきた大きなエラーも、正しいデータに直り、アウトプットされます』
──電源には、どういったことがされていますか。
『電源は、ローノイズの高速ダイオード、4700μFの音質対策コンデンサー、そして15Vに定電圧化して、そのコンデンサーの容量も1000μFものを使用しています。ようするに、セパレートアンプの電源と同じ考えで、音質追求を図っています』
──どの部分から、分けているのですか。
『D/Aコンバーターは、プロセッサー側に入っています。この分けかたは、基本的にはソニーのものと同様といえます。ただし、ソニーは、ピンケーブル一本で信号の受け渡しを行っていますが、われわれは、24ピンのアンフェノールコネクターを用いました。
 受け渡しの信号の内容は、シリアルデータ、データのクロック、サンプルホールドの信号とエンファシスの有無の信号、ミューティング、グランドラインで、これをモジュレートせずに送りだすか、モジュレー卜するかだけが、われわれの方式とソニーの方式の違いですが、互換性をもたせるためにピンコネクター方式に変更すべく、検討中です』
──特性データをとると皆同じになるデジタルですが、その音の違いはアナログ以上に思うのですが、データと聴感の関係をどう考えられていますか。
『各社とも、あまりにも音が違いすぎる。しかし、データをとると皆同じ。われわれは、これを解明するには現在考えられる究極のものをやってみなければならないという結論に達したわけです。
 同時に、高級アナログプレーヤーを使われているユーザーにも、満足していただけるような音をCDからいかに出すか、ということも目標としてありました』
──音決めをされる場合、デジタル部とアナログ部と、どちらが比重が高いのですか。
『パーツ交換による音の変化は、アナログ系のほうが大きいです。しかし、デジタル系も使用パーツの違いによって、そうとう音が変わるのも事実です。アナログ系のもう一つの特徴は、ローパスフィルターの後のオペアンブの出力に、能率の高いスピーカーならドライブできるほどのパワーをもつバッファーアンプを備えていることです。これは、音質向上にそうとう大きな効果があったと考えています。
 CDに含まれている情報を正確にピックアップしてアナログに変換しても、それをプリアンプに正確に伝送しなければ、なんにもなりません』
──このモデルは、インチグレーテッド型と比べて、音の差が非常に大きいわけですが、これはセパレート化によるところが大きいと思われますか。
『このモデルは、いろんな細かいことの積み重ねによって、ここまでのクォリティがえられたのだと思います。ですから、もしかすると、どれかひとつでもかければ、がらりと音が悪くなるのかもしれないし、ひとつぐらいかけてもそれほど音は変化しないのでは、とも思えます。このへんは、これから追及していきたいところでもあり、疑いだすときりがなく、オーディオの一番象徴的な問題がでてきた感じで、設計者泣かせのところでもあります』

 以上、それぞれのCDプレーヤーの担当エンジニアの談話である。その話からもわかるように、セパレート型のメリットは明らかなようだ。そして、その理由は、デジタル回路とアナログ回路の干渉をおさえることによる音質改善、メカニズムの発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響の回避、十分なスペースを確信し、余裕のあるコンストラクションの確保、そして、それらによって得られる高品位をさらに高めるパーツや回路の洗練によるものであることが解る。
 2機種ともに、実際の試聴でその音のよさは明確に認識され、初めに書いたようにCDの音の可能性の高さを知らされることになったのだが、興味深いことは、この2台のCDプレーヤーシステムがそれぞれに違う音を聴かせることである。
 ソニーのCDP552ESD+DAS702ESは明らかに同社のCDプレーヤー中、CDP5000Sをのぞいては最高のもので、一体型とは次元を異にする音である。音の厚味、透明感、立体感、品位が一段と上り、細部がいっそう明解に聴こえながら、音が機械的な冷たさをもっていない。実に豪華な響きなのである。
 Lo-DのDAP001+HDA001も、同社の一体型とは次元を異にする音であることでは変りない。しかも、このプレーヤーシステムの音は、音の厚味に払いてはソニーのそれを上廻り、前者が華麗な響きなのに対し、これはより落着きのある、しっとりとした響きである。まるで、よく出来たMM型のカートリッジとMC型のそれを聴いた時のような音の違いが、この2台のCDプレーヤーから感じられた。つまり、ソニーがMM型、Lo-DがMC型である。こうした音の質感の違いこそが、オーディオコンポーネントの楽しさであるし、難しさであるが、CDプレーヤーとして一歩も二歩も前進したこの2台においても、依然としてそれが存在する──いや、かえって大きく存在するかもしれない──のは面白い。
 2つの機種を同時に扱えば、当然比較対照することになるし、読者の関心も、どっちがどうだ? というところに集中すると思われる。しかし、この2機種、価格の上ではかなりの差があって、ソニーが38万円、Lo-Dが60万円である。そして、Lo-Dは今のところ受注生産の形をとっているため、コスト計算は両者では全く違い、どちらかといえば、Lo-Dのほうがかなり割高につくと思われる。音質では、Lo-Dが優位であるが、その辺を考えると、どちらともいえない難しさがある。しかも、ソニーの抜群の機能とアクセスの優秀性を考え合せるとなおさら、コストパフォーマンスとしてはソニーに軍配が上がりそうである。どちらにしても、CDプレーヤーのマニア層への浸透に大きな力となるものだし、その質的向上と発展性を高めた有意義な新製品として大歓迎である。

CDプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 CDプレーヤーは3段階の価格帯から合計10機種の選択である。下は49800円からあるのが現状だし、未だ過渡期成長商品であることを考えると、各価格帯から平均して選ぶことのほうが妥当ではないかと考えた。ソニーのコンパクトな新製品D50は、コンポーネントとして選ぶにはいささか特殊であり、CDが1枚3千円以上するのに5万円以下のCDプレーヤーがなければならないというのも少々アンバランスではある。しかし、ものは考えようで、このコンパクトで低価格の製品の意義は未知だが無視するわけにはいかなかった。
 12万〜18万円のクラスはコンポーネントシステムの新しいプログラムソースプレーヤーとしての中心的な優れた製品が多く、4機種を選んだが、一応、音質とアクセス機能とのバランスで評価したつもりである。ヤマハCD2は、機能的にも音質の面でもよくバランスしたプレーヤーで使いやすく音質も耳馴染みのよい製品。特に拡がりのある中高域の美しさは印象的で、まろやかな響きはCDプレーヤーの中で異色だと思う。ケンウッドDP1100IIは、このクラスのベストだと私は思う。音質の自然さ、プレゼンスの豊かさ、スムーズで滑らかな高域の再生は見事だ。マランツCD84も質感が滑らかで暖かい。音色の響き分けがよく、ニュアンスがよく伝わる。Lo−D/DAD600は低域が厚く音に安定感がある。重厚な響きをよく出すから、デジタル嫌いの人には抵抗の少ないものと言えるだろう。
 18万円以上では、ソニーのCDP552ESD+DAS702ESとLo−D/DAP001十HDA001の2機種が注目される。どちらも、デジタルプレーヤーとプロセッサーのセパレート型で、今後のCDコンポーネントの発展の姿を予見させる意欲作だからだ。音はたしかに一桁上廻っていて、鮮度が上り、厚味が増し、より透徹である。点数としてはソニーが3点、Lo−Dが2点だが、これは総合的にソニーのCDP552ESDのもつアクセス機構の素晴らしさを評価した結果であって、音質的にはLo−Dのほうが上だと思う。好き嫌いかもしれないが、ソニーはやや華麗、Lo−Dは重厚だ。ただLo−Dのは、今のところ受注生産だというのが惜しい。テクニクスSL−P50も並々ならぬ緻密でソリッドな音だ。

CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 エレクトロニクスの集大成とでもいえるジャンルの製品であるだけに、開発当初40〜50万円相当のモデルを政治的価格で発売したなどの話は過去のものとなり、すでにアナログプレーヤーと同等の価格まで下がっているようだ。初期のマイコン関係の不調も解消されたかのようで、価格競走の一方では、本格的な音質対策が始められたように見受けられるのが最近の動向である。
 内部的、外部的振動に強い構造と、ピットからの情報を正確に読取り、補間などを極力少なくするピックアップサーボ系の設計などが主なポイントになるようだ。とにかく、価格に関係なく、基本性能がほぼ同じというのがCDの特徴であり、使いこなしのポイントになるわけだ。
 12万円未満という少し奇妙な分類の価格帯では、標準サイズのビクターXL−V300が、活気があり、ダイナミックな音に特徴がある。ヤマハCD−X2は、クリアーで明解さが特徴だが、AC極性を逆にするとナチュラルな音場感型に変わる。ダークホース的存在はダイヤトーンDP105だ。スピーカーと共通性のある音が、第3作で聴かれるようになった。異色作はソニーD50。AC電源使用時より、電池使用のほうが音質は優れ、安定した台にでも置けば、これは驚威の音だ。そろそろ、特性が悪くても音が良い的な神話は崩れ、特性の良いものが音が良いという科学にオーディオをしそうな気配がCDにはある。
 12万〜18万円は、現状のCDの内容から考えて、充分なクオリティのプレーヤーが存在すべき価格帯であり、メーカーの実力がうかがえるゾーンであるとも考える。安定感のある柔らかでクォリティの高い音のパイオニアP−D90をトップとするが、厚みのある低域に支えられたケンウッドDP1100IIは、甲乙のつけがたい双璧である。そのほか、マランツCD84、デンオンDCD1800R、ヤマハCD2、ソニーCDP502ESも好製品。
 18万円以上は本来は高級機のあるべき価格帯だが、現在が、そのスタート時点のようである。ソニーCDP552ESD+DAS702ESは、予想されたソニーらしいステップに基づくモデルであり、独自の機構設計の京セラDA910も興味深い音を聴かせる。

ティアック PD-11

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オープンリールやカセットデッキでは、古くからの伝統を誇り、多くのファンに確実にバックアップされているTEACから、同社のCDプレーヤーシステム第一弾作品であるPD11が発売された。
 世界に先駆けて、レーザーピックアップ方式によるPCMディスクプレーヤーを開発した実績をTEACはもっているだけに、レーザーピックアップは音楽信号を読み取るメインビームとトラッキングサーボ専用の2個のサブビームを備えた3ビーム方式を採用。それとともに、ディスクの反りに対応して、フォトダイオード上に結ぶレーザービームの像の形を検出し、この像が常に真円であるように対物レンズを制御し、信号検出レーザービームの焦点を正確に保つ高精度フォーカスサーボにより、情報の読取りは、きわめて正確である。
 音質上重要なフィルターは、デジタルフィルター採用で、サンプリング周波数を2倍とした後にブロードなローパスフィルターを使うタイプで、音楽の雰囲気やニュアンスの表現に重要な超高域を確実に保護しているとのことだ。
 横能面は、タイマースタートやディスク挿入だけのオートスタート、1曲ごとまたはリピート1回ごとのポーズができる3ウェイオートオペレーション機能、23曲までのメモリーとメモリー再生時に自動的に3秒の曲間スペースを設定するほか、メモリー全曲の演奏時間の表示ができるクイックイージープログラミング機能、ディスク全曲、メモリー全曲、A・B間の3ウェイリピート横能、演奏中の曲の頭出しと次の曲の頭出し、音出し低速と高速さらに音無し高速の3モードが使えるミュージックサーチボタンなどの他に、PD11の動作状態が確認できるマルチファンクションディスプレイ、ディスク装着状態を確認できるディスクインジケーターなどが備わっている。なお、外形寸法は、横幅が、346mmのコンパクトサイズである。
 他社でいえば、すでに、第二世代から第三世代の製品に置換えられている現時点で、第一弾製品として登場してきたモデルだけに、総合的にはかなり手憬れた感覚で作られている。最初の製品に見られるトラブルめいたものが存在しないのは、当然の結果とはいえ本機の特徴である。
 音の傾向は、RCAピンコードの種類でかなり大幅に変化を示すタイプだが、基本的には、中高域に適度の華やかさのある軽快な音をもつ製品である。CDのハイクォリティさを引出すというよりは、機能面でのCDの特徴を活かして、フールプルーフにイージーオペレーションで音を楽しむのに適したモデルであろう。実用面では、外部振動の影響を受けやすい傾向をもつために、設置場所はアナログプレーヤーなみに注意することがポイントになる。

NEC CD-607

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 NECのCDプレーヤーは、第1号機として極めて高度な内容をベースとして立派な音を聴かせたCD803、操作性を改善し使いやすい高級横として開発されたCD705と、今回発売された、基本性能を重視して開発されたCD607の合計3機種となった。そのすべてが、外形寸法的に横幅430mmのパネルをもつ、標準サイズであることが特徴だ。
 音の入口を受持つピックアップ系は、小型化、軽量化を図った、振動に強い新開発のタイプであり、小型ハイブリッド化した信号処理回路をはじめとする専用設計LSI、ICを採用している。フィルター関係は、CD803、CD705で実証したNEC独自の16ピットデジタルフィルターを搭載し、広いダイナミックレンジとセバレーションの優れたCD独特の豊かな音場感情報を聴かせるということだ。
 機能面は、10キーは省咤してあるが、最大15曲までをランダムにプログラム選曲できるランダムプログラムメモリー、任意の曲から演奏可能な一発選曲機能、プレイ中にFF、REWキーの操作で行なうキューレビュー機能、ディスクをローディングメカにセットしプレイボタンを押せば最初の曲から演奏をはじめるワンタッチイージーオペレーション、メモリープレイ時にはプログラムされた曲を、メモリーのないときにはディスク全曲をリピートするリピート機能、タイマー再生可能なオートスタート幾能をはじめ、動作状態が一目で確認できる大型ディスプレイは、ディスクの有無、曲番号、インデックス番号、メモリープレイ、リピートが表示できるほかに、現在演奏している曲のリアルタイム、残り時間、ディスクの最初からのリアルタイム、ディスク最後までの残り時間、メモリープレイ時では、メモリーされている全曲のトータル時間と残り時間の6種類の時間表示が可能である。
 CD607は、刺戟性のないスムーズでクォリティの高い音が最大の特徴だ。平均的に、このクラスの価格帯のCDプレーヤーは、音質コントロールの不足に起因する、音の粗さや、不備な面が音に出やすいが、このモデルの非常に抑制の効いた穏やかで、充分にコントロールされた音は、特筆に値するものがある。第1号横のCD803の安定感のある低域をベースとしたパワフルでストレートな音とは、典型的に好対照となるタイプの音である。美しく、キレイに音を聴きたいファンには好適のものだが、音楽をアクティブに楽しむタイプの聴き方をすれば、古典的な音と受取れるだろう。これが、CD607の個性である。
 外部振動に対しては非常に強く、外乱に強い特徴があり、比較的に置き場所にはブロードに反応するが、やはり質的に聴けば設置場所の選択がポイントである。

Lo-D DAD-600

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 昨年6月に発売したDAD800をベースに、信号処理ユニットだけに採用していたIC化モジュール化を一段と進めた、標準サイズの横幅をもつパネルを採用した、ワイヤレスリモコン標準装備の新製品だ。
 ピックアップ系は、反射プリズムによるレーザー光反射の影響を除去した2軸直交光学系採用のコンパクトな3ビームタイプで、トラッキング訂正信号とフォーカスエラー訂正信号に対して対物レンズを敏速に移動するLo−D独自の2次元駆動アクチュエーター方式で、スピーカーのボイスコイルに似た駆動部は、訂正信号に対してレンズを上下、左右の2方向に高速移動し高精度なトラッキングフォーカスを実現しており、ディスク駆動モーターは独自のブラッシュレス・コアレス・スロットレスのCD専用ユニトルクモーターを新開発し、ワウ・フラッターを低減し、信号エラー率を下げることに成功している。
 DAD600でのモジュール化は、ディスクモーター制御、ローディングモーター・ピックアップ制御と、プリアンプ部の3ブロックの回路を大幅に集積化し、信頼度を向上しているのが新しい特徴である。
 ワイヤレスリモコンユニットRB600は、すべての10キー入力ボタンをはじめ、再生、ストップ、FF、REWなど多彩な機能をコントロールできる。
 機能面は、好みの曲を任意の順で15曲選曲できるランダムメモリー選曲、演奏中やポーズ時にも好みの曲をダイレクトに頭出しできるダイレクトプレイ、インデックスナンバーを利用するインデックスサーチ、FFボタンを押しつづけると約4倍速、約15倍速、約30倍速の3段階に早送りできる3段階マニュアルサーチ、電源スイッチONで、自動的に1曲目から再生をするタイマースタート、全曲・選曲・1曲と二点間の4種類のリピートをはじめ、選曲後ポーズを押すと頭出し後演奏スタンバイをする選曲頭出しポーズ機能など、多彩な機能を装備している。
 試聴では偶然に製品番号の異なった2モデルを聴くチャンスがあったが、細部の些少な違いはあるにせよ、機能面、音質面、ディスクのローディングメカニズムの動きと動作音などの諸点でも、さすがに第三世代の製品であるだけに、充分にコントロールされており、その信頼性は高い。
 試聴はヘッドフォンレベルと連動している出力ボリュウムを上げて行なう。バランス的には高域にシャープな輝きがある、クリアーでやや細身なサウンドであり、適度に活気のあるCDらしい音が特徴だ。
 外部振動に対しては、さすがに第三世代の製品らしく強いが、クォリティを要求する再生では、充分に強度があり固有の共振や共鳴のない場所を選ぷ必要がある。適度にコントロールされた好製品と思う。

京セラ DA-910

黒田恭一

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 名古屋には、まるで渡り鳥のように、一年に一度、毎年同じ時期にいく。さる音楽大学で大学院の集中講義をするためである。一週間の集中鼓義が終わった土曜自の午後はいつもきまって、名古屋の友人の家で、彼が「宇宙一の音」と冗談半分に自慢する音をきかせてもらうことになる。
 集中講義の期間中はホテルに泊まっているので、当然のことにろくな音はきけないまま一週間をすごす。したがって、土曜日ともなれば、まるで砂漠を旅してきた旅人が喉のかわきを訴えるように、まともな音に対する欲求が切実なものとなっている。そういうところにきかされるその友人の家の音であるから、さしずめオアシスの水のようなもので、ひときわ美味しく感じられる。
 音楽のききかたで共感できる友人の再生装置の音をきかせてもらうのは、とても勉強になる。これはぼくにかぎっていえることではないと思うが、オーディオでは、とかくひとりよがりに陥りがちである。その悪しきひとりよがりから救ってくれるのが、信じられる友人の音である。なるほどと思いつつきいていて、自分の家の音のいたらなさに気づいたりする。
 今年も例年通り、彼の家で、さらにくわえて今年は、ぼくもかねてから親しくつきあわせていただいている彼の友人の家でも、音をきかせてもらった。ただ、今年の砂漠の旅人は、単に喉の乾きを癒しただけではなく、とんでもない宿題をおしつけられてしまった。どうやら、そのさりげない宿題の出題は、彼らふたりが結託してなされたようであった。
 ソニーが非売品としてだしているコンパクトディスクに、「コンパクトディスク、その驚異のサウンド」(ソニーYEDS・6)とタイトルのつけられたデモンストレイションディスクがある。そのコンパクトディスクのなかに、京都の詩仙堂で録音されたとされているししおどしの音をおさめたトラックがある。そのトラックを、名古屋の友人の家で、さらに彼の友人の家で、いかにもさりげなくきかされた。しゃくなことに、それはなかなかいい音であった。ご参考までに書いておくと、そのふたりの使っているコンパクトディスクプレーヤーは、ソニーのCDP5000Sである。
 その「コンパクトディスク、その驚異のサウンド」というコンパクトディスクは、ぼくも以前から持っていた。ただ、もともとレコードにしろ、デモンストレイション用のものをきくのがあまり好きでないので、これまできかないできた。ところが、名古屋の友人たちのところできかされたとなると、妙に気になってしかたがなかった。それで、一週間の集中講義をすませた後だったので、かなり疲れてはいたが、家に帰ってからすぐ、その件のししおどしをきいてみた。十全に満足するところまではいかないが、ほどほどの音がした。
 それから数日して、ぼくの部屋に五人ほどの友人が集まった。暑いさかりでもあったので、ほんのちょっとサーヴィスのつもりで、そのししおどしのトラックをリピートにしたままにしておいた。必然的に部屋ではししおどしの音が連続してきこえつづけた。遅れてやってきた、若い、しかし端倪すべからざる耳の持主である友人が、ぼそっとこういった、「なんだ、この家のししおどしはプラスティックか!」
 これにはまいった。その友人のいったことは、当たらずといえども遠からずであった。それは自分でも薄々は感じていたことであったので、反論の余地はなかった。たしかにその友人のいう通り、竹の音にしてはいくぶん軽すぎるきらいが、わが家のししおどしの音にはなくもなかった。
 それからしばらくして、京セラのコンパクトディスクプレーヤーDA910を、この部屋できく機会にめぐまれた。深夜、ひとりで、こっそり(なにもそんなにこそこそする必要もないのに!)そのコンパクトディスクプレーヤーでししおどしの音をきいてみた。これが素晴らしかった。プラスティツクが竹に近づいた。
 その後、いまだに、あの端倪すべからざる耳の持主には、ししおどしの音をきいてもらっていないものの、これなら、「なんだ、この家のししおどしはプラスティックか!」とはいわれないに違いないと思えるいささかの自信がある。むろん、名古屋の「宇宙一の音」とは一対一の比較ができるはずもないので、それをいいことに、どうだ、ぼくのししおどしだって満更ではないぞ、とひとりで悦にいっているのであるが、こういうことはオリンピックとは違うので、多少曖昧な部分を残しておいた方がお互いのためといえなくもない。
 敢えてつけくわえるまでもなく、京セラのコンパクトディスクプレーヤーDA910が、その持前の威力を発揮したのがししおどしの音にかぎられるはずもない。ともするとプラスティックの筒の音にきこえがちな音を、しっかり竹の音にきかせるだけの能力のあるコンパクトディスクプレーヤーであれば、おのずとピアノの音はよりピアノの音らしくなって、音としてのグレイドが一段階アップしたのは、まぎれもない事実であった。
 京セラのDA910のなににもましていいところは、音にとげとげしたところがなく、響きに安定感のあるところである。このような音であればCDアレルギーを自認する人でも、ことさら抵抗なく楽しめるのではないか。

ヤマハ CD-2

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハのCDプレーヤーは、価格的にもトップランクの高級機、CD1が最初の製品であった。比較的に短期間に、CD1は、改良が加えられ、CD1aに発展するが、これと、ほぼ時を同じくして、かつてパワーFETの開発で注目を集めた、独自の半導体技術を駆使して、驚異的短期間に、CD専用LSIを完成させ、これを搭載したモデル、CD−X1は10万円のボーダーラインを最初にきった製品として、センセーショナルに登場した。
 今回、発売されるCD2は、価格的には、コンポーネントライクなCDプレーヤーが数多く存在する価格帯の、やや下に価格設定をされた、ヤマハCDプレーヤーのスタンダードモデルともいうべき新製品である。
 基本的なベースとなったものは、CD−X1であるが、外形寸法が、いわゆるコンポーネントサイズの横幅435mmにまとめられているように、筐体関係は完全に基本から新設計された、ヤマハの第3世代のCDプレーヤーである。
 CDプレーヤー独特の高度な音質と使いやすさの2点を両立させたモデルとして開発された印象を受けるCD2は、クォリティオーディオを推進するヤマハの製品らしく、その基本は当然のことながら音質を優先させた開発であることは、いうまでもない。
 現時点でのCDプレーヤーの音質についての要求は、大別してアナログ的な味わいを残したタイプと、デジタルならではの高性能さを、ストレートに音に活かしたタイプに分けられているように思われる。
 ヤマハの製品で考えれば、第一弾製品であるCD1は、やや前者寄りに属する音が特徴であり、CD−X1は、基本的な音質に重点をおいて聴けば、ある種の物足りなさを感じるのは、価格から考えれば当然のことであるが、その素姓の素直さ、という聴きかたをすれば、シンプル・イズ・ベストの例のようにむしろCD1/1aを上廻るものがあると私は思う。
 余談にはなるが、安易にコントロールアンプの上に積重ねて、CD1/1aを使っているとすれば、CD−X1を充分に使いこなして追込めば、クォリティ的にはかなり、近接した結果にすることは可能である。
 このあたりが、価格に関係なく基本性能が、ほぼ同じである、CDプレーヤーの前例のない大きな特徴であろう。
 CD2は、開発にあたり、音づくりではなく、CD本来の可能性を最高に引出すことをテーマとしており、この考えかたは今後のCDプレーヤーの標準的な流れとなるであろう。
 その内容は、音に大きく影響を与えるフィルターには、ヤマハが開発したLSIに内蔵したデジタルフィルターとアナログフィルターを組み合わせた、いわゆる音が良いフィルターを使用し、電源部には大型低インピーダンス電源トランス、配線は無酸素銅線、アース系の銅板バスバーなどを、アナログ系アンプには、アンプで手がけているクォリティパーツを導入している。
 光ピックアップは3ビーム方式で、独自のアドレス制御法により、再生系の回転変動を吸収し正確な信号読取りが可能。
 筐体関係は、機械的な設計や加工で定評のある、ヤマハの技術を充分に活かした設計で、細部にわたる振動や共鳴の制御は、CDプレーヤーにおける、独自のノウハウの産物のように思われる。このあたりが、優れたCDの音を最良に引出すための陰の立役者なのである。
 機能面は豊富であり、常時受付けの10キー、12曲までのランダムメモリー再生が可能。A−B2点間を含むリピート機能に加えて、曲間及びABリピート繰返し間に+3秒の間隔を作るスペ−ス・プレイやディスクを挿入すると自動的にプレイするAUTO、プレイボタンで再生スタートするNORM、1曲ごとにポーズ状態となるSINGLEの3段階に切換わるプレイモードが特徴的な機能である。なお付属の赤外線リモコンは、基本操作のほとんどをカバーする機能を備える。
 試聴は、JBL4344とデンオンPRA2000ZとPOA3000Zを使う。
 ディスクを装着するトレイの動きと音は軽いタイプであるが、機械的な精度は高いらしく装着時の音も、不快な共振や共鳴が抑えられたカタッと決まった印象がある。付属のRCAピンコードは、平均的なタイプで、聴感上の帯域バランスは、ハイエンドとロ−エンドを少し抑えた、いわば、安定型で、比較的にキャラクターをもつ中級ブックシェルフ型スピーカーや、機構的な追込みや、コントロールが難しい中級のプリメインアンプでは、この程度のバランスがマッチすると推測される。
 各種のRCAピンコードを試用し、追込んでみると、CD2の潜在的な能力が次第に発揮されるようになり、帯域バランスもワイドレンジ型に変わり、音場感の空間情報の豊かさや、定位感がシャープに決まるようになる。CDプレーヤーの置き場所を選び安定させると、コンパクトディスクの録音の差や、アンプ系のわずかのキャラクターも音として検知できるようになってくる。このときの音は、適度に伸びやかで、軽快なイメージのサウンドである。いわゆるデジタル的な浮上がった吾がなく、ノイズの質もかなり良い。
 使い勝手は機能が豊富だけに、ある程度の慣れが要求されるが、当然のことだろうう。総合的にみて、CDプレーヤーとして、トータルバランスが優れており、開発目的を充分に達成した印象が強い製品だ。

パイオニア P-D90

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 P−D90は、D70ベースの音質重視設計の新製品である。
 考えてみれば、大変に不思議なことであるかもしれない。CD開発当初より驚異的な特性を基盤として、超ハイファイをキャッチフレーズにしてスタートしたCDプレーヤーは、当然、音質最優先であるはずである。この、はずが実は問題なのだ。
 CDプレーヤーの基本性能は、f特でこそ、上限が20kHzとアナログに劣るが、SN比、ダイナミックレンジ、セバレーション、ワウ・フラッターなど、さすがにデジタル機器らしく、アナログディスクとは、比較にならぬ次元のデータを示している。この優れたデータが、結果としての音質や音場感情報量に活かすことができれば、超ハイファイになるはず、というのが、いわば希望的観測であるわけだ。
 音質的にも、CD発売以前は、一部ではデータが驚異的なだけに、CDプレーヤー間で、差が出ないのではないかとの話しもあったが、先行したEIAJ規格のPCMプロセッサーでの結果と同じく、機種間、メーカー間の音の差が、明確に存在しているのは衆知の事実である。
 CDプレーヤーで音質が変わる部分は、その構成部品すべてであるといっても過言ではない。一般的には、DAコンバーターからフィルター、それにアナログアンプに、そのもっとも大きな原因があるとされているが、それも現在の段階では、という但し書きをつけてのことである。
 P−D90の基本メカニズムは、D70を受継ぐ、独自の方式を採用した自社開発によるものだ。対物レンズをフォーカス方向と半径方向のトラッキングを独立させ、トレース能力を向上させたクロスパラレル支持方式、プリズム、コリメーターレンズ、対物レンズなどの光学系を一直線上に配置し対物レンズをはさんで2個の磁気回路と2個のコイルでダブル駆動とし駆動系の感度アップと高精度化を計ったフォーカスパラドライブ方式の2点がピックアップ系の特徴である。
 一方、ディスクまわりのメカニズムは、D70で採用されたタイプに手を加えたもので、メカニズムの機械的な検討がボイントであろうが、この部分も予想以上に大幅に音質を変化させるキーポイントである。
 これらの高精度化されたピックアップ系の採用にともないデジタル信号処理回路には、2チップからなる高性能LSIを採用、ディスクの反りや、ピットのばらつき、キズなどによる信号の欠落に対して、最大12フレームにおよぷドロップアウトを原信号に戻す強力な誤り訂正能力を実現している。
 DAコンバーター以後のアナログ回路は、パイオニアのオーディオ技術を駆使したもので、各オーディオアンプ基板上に専用の定電圧電源を置くとともに、オーディオ回路のオペアンプやアナログスイッチ類を全てシングルタイプとしたシングル駆動の採用、さらに電源ライン、アースラインとも、デジタル系とアナログ系を完全分離する処理がD70にないD90の特徴である。
 また、回路部品の高音質C・R、オリエントコア使用の電源トランスやOFCで絶縁体にも音質対策を施し、極性表示された音質が優れた電源コードなど、高級アンプと共通の部品選択が見受けられる。
 機能面は、D70と共通ではあるが、電源のON・OFF以外のすべてのコントロールができるワイヤレスリモコンが標準装備される。なお外装は、ブラックとシルバーの2モデルが選ペるのもD70と異なるD90の魅力である。
 試聴は、スピーカーにJBL4333、アンプは、デンオンPRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて使う。
 CDプレーヤーでは、基本的な情報量が多いだけに、アンプと接続するRCAピンコードの種類でかなり大きく音質が左右され、簡単にこれがこのモデルの音といった結論は出しがたいものである。
 基本としては、付属コードもしくは、メーカー指定のコードで聴くことが原則と考えるが、意外にこのあたりは軽視されがちで、専用コードの指示を依頼しても、確答のないメーカーがある例や、雑誌の試聴室でも、比較的に良さそうなコードが適当に使われているのが実情である。
 この点、D90の付属RCAピンコードは、金メッキ処理されたプラグ付の無酸素銅線便用で、平均的な使用では、充分に安心して使える品質をもつだけに有難い。
 操作系は、テンキーをもたないが、シンプルで、実用上文句のない使い勝手である。CDディスクをトレイに入れ、ディスクが装着されるまでの機械音は、メカニズム系の状態の概略を知るうえで、かなりの手掛かりとなる。とかく、軽視されがちで、プラスティック成形品が使われやすいトレイ部分は、軽金属ダイキャスト製でスライド中のノイズも少なく、フィーリングも良い。なお、装着時のカタッとかパシャッとかいうメカノイズも水準以上で、メカニズムが適度に調整されていることが感知できる。あるレベル以上の製品で、この装着時のノイズが、パシャとかカチャッとかのように、機械系のガタや共鳴音が出る場合には音質面に悪影響を与えるため、要注意だ。
 置場所は、充分に堅く、共鳴や共振のない木製の台に置きたい。聴感上の帯域バランスは、適度に力があり豊かな低域をベースとしたナチュラルなタイプで、クォリティは高く、いわゆるデジタル的な軽々しさや、表面的な表現にならないのが好ましい。音場感の拡がりはナチュラルで、定位もクリアーで過不足はない。ノイズも質もよくさすがに、第3弾CDらしい好製品である。

CDのメリットを活かすためには

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「いま一番知りたいオーディオの難問に答える」より

Q:CDのメリットをはっきり聴きとれるレベルのベーシックシステムを構成するとどの程度のものになるのでしょうか。選択上の注意点を含めて、具体的に製品をあげて下さい。

A:質問を読んでみると、まず、問題となるのは、『CDのメリットをはっきりと聴きとれるレベルのベーシックシステムを構成する』という日本語としての意味をどのように解釈するかが、この質問を解決する鍵であるようだ。
 では、CDのメリットとは何だろうか。ここでは、どのような人が、どのような部屋もしくは場所で、何の目的でCDを聴きたいのか、が判からなければ、解答するだけの経験と情報を私が持っていたとしても、答えられるはずはない。条件を設定しないことが今回の質問の面白さとかが編集部の見解であるようだが、質問の次のポイントである、ベーシックシステムという奇妙なカタカナの持つ意味の漠然とした点をも含めて、改めて編集部に確認をとるために電話をかけたところ判かったことは、CDを聴くための、もっとも簡単なシステムを組み合せろ、ということが質問の意味であるということであった。
 とかく、オーディオでのいわゆるQ&Aと称する項目には、誤った解答を含め、数多くの問題点が存在するが、それはさておいて、引き受けた以上は何か解答めいたことを書かなければならない。
 CDが登場して以来、アナログかデジタルかとか、伝統的なアナログディスクの芸術性をけがすものとかの記事がオーディオ誌上をにぎあわせたが、嵐のあとの静けさのように、話題性が薄れた現在ではかつてのアンチCD論を唱えた人々も、現実にはひとつのプログラムソースとして使っているというのが実状であるようだ。
 では、CDが実用化されて、オーディオはどのように変わっただろうか。漠然とCD登場以来の新製品、オーディオ誌上でのいわゆる音質評価のリポートなどを眺めていればそれほどの変化は認められず、スピーカー、アンプ関係、カセットデッキ、テープ関係の広告コピーに、『デジタル対応』という表現がしばしば見受けられる程度というのが平均的な見方であるだろう。
 この『デジタル対応』なる言葉はときには新鮮なひびきに受取られるであろうが、簡単に考えて、従来から使われてきたいわゆる新製品とか、新型とかと同義語と受取るとよい。でないと、『デジタル対応型』とそうでないものの間に差があるということもになりかねない。現実に、CDプレーヤーを管球タイプの古いアンプに組み合せても、同時代のスピーカーシステムを使っても、音楽を楽しむ点でで問題があろうはずはない。
 ただし、CDのスペック上の特徴である、ワウ・フラッター、クロストーク、SN比、ダイナミックレンジなどの項目での従来のプログラムソースに比べて圧倒的な優位性を活かすためには、現用のシステムに接続するだけでは、CDのもつ情報量の豊かさを音に活かすことはできないことに注意したい。
 つまり、トータルなシステムの再点検や、より高度な使いこなしが要求されるわけだ。
 オーディオでは、周波数特性的な面が重視され、CDの再生機器が問題にされやすいが、従来のプログラムソースに比較して約20dB増加したダイナミックレンジは、ダイナミックレンジ的なフィデイリティの高さであり、クロストークやワウ・フラッター、SN比が優れていることは、音場感的な空間情報量が圧倒的に優れていることを意味するものだ。したがって、モノーラル時代から受継がれてきた、サウンドバランスのみを重視する聴き方では、CDのもつ特徴は聴きとれないだろう。かつての4チャンネル時代以後、2チャンネルステレオでの音場感情報をいかに増すかについて努力を続けてきたメーカー側の技術開発や新素材の導入に対しての過少評価については、反省してほしいことと思う。つまり、サウンドバランスだけで2チャンネルステレオを聴くことはナンセンスである。
 音質面、音場感情報の豊かさ以外にも、CDには機能面、外形寸法的な特徴で、従来のディスクとは比較にならぬ優位性がある。
 この使いやすさ、一度ディスクをセットすれば、イジェクトしない限りにおいて安定性や再現性に優れるため、かつてのアンチCD論者も、開発側のメーカーでも、最近ではプログラムソースとしてCDを使う例が非常に多くなっている。このことが、アンプやスピーカーに結果として表われているようだ。
 例えばコントロールアンプの開発では、従来は、アナログディスクをプログラムソースとするため、基本データーが得られたあとの音質面でのチェックは、まず、MCヘッドアンプ、RIAAイコライザーを追込み、次いでハイレベル入力以後、コントロールアンプ出力までのフラットアンプやトーンコントロールアンプ、フィルター段などを調整するため、結果として、RIAAイコライザーを受けるハイレベル入力以後コントロールアンプ出力までの増幅段は、いわば、パワーアンプとの間のサウンドやキャラクター調整用アンプといった性格が強く、各社のコントロールアンプで、この部分のみを比較すると音の違いに驚かされたものだが、昨年あたりの新製品では、CDを使うことが多いためか、まず、この部分から追込みが始められているようで、ハイレベル入力以後の増幅段の質が大幅に向上しているようだ。このあたりは、プログラムソースと共存して進歩するオーディオ機器の姿をクリアーに表わしている面だと思う。
 そろそろ、本題の解答の組合せをまとめたいが、簡単にCDの機能と音質を楽しむ目的なら、CDプレーヤーは、10万円未満の、ヤマハ、オーレックス、ケンウッドで好みのモデルを、スピーカーで聴くとすれば、ボーズ101MM+1701アンプで、あまりコンポーネントシステムらしくなく、気軽に、それも、予想よりもダイナミックな音で楽しむのが、ユニークな方法だと思う。

CDの導入にあたって予算50万円をどう使うか

菅野沖彦

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「いま一番知りたいオーディオの難問に答える」より

Q:予算50万円で、アナログプレーヤーのグレードアップを考えるべきか、それともCDプレーヤーを新規に購入すべきか迷っています。ただ、CDプレイヤーにはこの価格帯のものはありません。正直なところCDの音はアナログのそれを越えているのでしょうか。

A:この質問は解釈が難しい。簡単に受け取ることも出来るが、難しく考えると、アナログVSデジタル論にならざるを得ないのである。質問のポイントも曖昧だ。50万円で、プレーヤーのグレードアップというが、今まで使っていたプレーヤーがなんなのか、どの程度のものだったのかは不明である。こんな質問に答えろというのだから無茶な話である。この質問の意味するところは50万円ぐらいのプレーヤーで鳴らしたアナログディスクの音と、CDプレーヤーによるコンパクトディスクの音を比較して答えてほしいようにもとれる。CDプレーヤーの場合、50万円ぐらいの価格のものがないことは質問者はよく御存知だから、どの辺のもので比較論を述べよといわれるのか? 何から何まで意味の不明確な質問である。
 仕方がないから、ここは、この質問を一つのヒント・テーマとして考えてみることにしよう。
 CDが発売されて一年半ほどになるが、タイトル数も2000を越えたといわれ、CDプレーヤーも、すでに各メーカー共に、第三世代の製品も市場に送り出すところである。私の手許にも、もう200枚を越える数のCDが集まっているし、自分でも、CDを制作してみた。CD制作を通しては特に数々の興味深い体験をして、デジタル録音の理解を深めることが出来たし、音というものの複雑微妙な性格を改めて思い知らされた気もする。そして、今の私は、CDや、デジタル録音には何の嫌悪感もアレルギーも、偏見も持っていない。それどころか、むしろ、この新しいテクロジーに対して畏敬の念までもっているものだ。しかし、だからといって、デジタル一般やCDが、音の点で、アナログのそれを越えているなどとも思っていない。強いて、現時点でのCDとアナログディスクとの音を比較して述べるならば、部分的には一長一短、総合的には甲乙つけ難しというのが私の感想だ。部分的、総合的というのは少々説明を要するかもしれないが、簡単にいうことにしよう。つまり、部分的といったのは、ノイズがあるかないか、解像力の優劣、微弱音、間接音などのローレベル再生の雰囲気、弦の質感、打楽器の、あるいは管楽器のそれといった、音色の個性への適応性などを微視的に分析して聴き、比較した話であり、総合は、それらの部分的な優劣のプラス・マイナス、さらに扱い易さ、機能、価格などを加えて、全体としての商品の魅力としての評価を意味したつもりである。とするならば総合的には、甲乙つけ難しというCDは、誕生して、わずか二年足らずの商品だということを考える時、その技術の先進性が可能にする将来の発展性の大きさへの期待がふくらんでくるのである。また、アナログディスクについては、技術的に決して現段階が最終的なものではないわけで、まだまだ、将来への発展の可能性があるにもかかわらず、デジタルの出現により、急速に、デジタルとのドッキング方向に向ってしまっている事実を認識しなければなるまい。現に、すでに現在、アナログディスクの新譜の多くはオリジナルがデジタル録音である。今後、アナログディスクが消えてなくなることはないとしても、純血のアナログディスクは生れにくい。おそらく、80年代をもって、純アナログディスクの制作は終焉を迎えることになるだろう。そして、今までに制作された厖大なアナログディスクはゆるやかに下降をたどり、中で優れたものはCD化される方向へ行くのではないだろうか。ただ、ヒットソングのような、いわゆるシングル盤に対するCDの対応が遅れているから、事はそう単純にはいかないと思うが……。ポピュラー分野でのアナログ技術は、まだまだ根強いと思われる。レコーダーのデジタル化が端緒についたばかりであって、その他、録音制作に必要な関連機器のデジタル化はまだまだ先のことである。
 こうした現実の中で、私自身は、録音再生のオーディオ技術へのデジタルテクノロジーの参入は尊ぶべきことであって、アナログ技術と対立させて優劣を云々すべきものではないと考えている。ただ、強調しておきたいことは、新しいテクノロジーなるが故に、何が何でもデジタルが優勢であると考えてしまう誤った感覚、そして、同じことだが、アナログ技術を過去のものとして、前向きに捉えての研究開発を怠る姿勢の危険についてである。アナログにはまだまだ大きな可能性が秘められているはずだ。そして、デジタル技術も、その録音再生に関与してみると、まだまだ未完成な技術であることが判る。
 さて、そこで、質問者の迷いに答えることにしよう。結論的にいって、今現在使用中のアナログプレーヤーに大きな不満がなければ、予算50万円のうち、15万円ほど、CDプレーヤーにお使いなさい。そして残りの35万円のうち、とりあえず、10万円ほどはCDを買ってみる。25〜30タイトルのCDが買えるはず。これは、全発売タイトルの1%にも満たないわけで、結構、選択の楽しさ、難しさを味わえるはず。そこで、残りの25万円については、気が乗れば、さらに大量のCDを買い込むもよし、アナログディスクを買い足すのもよいだろう。あるいは、25万円あれば、現在のアナログプレーヤーのグレードアップも、かなりのレベルで出来るのではないだろうか。アナログディスクに、オープンリールテープ、カセットテープ、FM/AMチューナー、そして、新たにコンパクトディスクが加わったというように考えて、この新しいメディアのもつ数々の特徴を楽しんだらいかがなものだろう。もし、質問者が、徹底的にアナログだけの追求をやりたいというのなら、それもまた素晴らしい。しかし、50万円では徹底的追求にはほど遠いグレードのプレーヤーに留まるともいえるだろう。

CDの魅力を十全に聴きとるには(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「いま一番知りたいオーディオの難問に答える」より

Q:コンパクトディスクならではの魅力を(機能の豊富さを含めて)完全に聴きとれるシステムを構成したいと思います。CDの良さが十分に発揮されるコンポーネントの組合せをお願いします。

A:他のCDについての質問と言葉の意味上で差別の少ない設問である。『コンパクトディスクならではの魅力を(機能の豊富さを含めて)十全に聴きとれるシステムの構成を』がポイントである。この件について、編集部に問合わせたところ、いわゆるCDを聴く現状でのリファレンスシステムの組合せをつくれ、ということであるとの答を得た。それにしても、オーディオ的な日本語の表現は大変に、意味を把握することが難しいものだ。
 この質問は、問合わせの結果としてリファレンス的なシステム、という目的が判かっているだけに、考え方はあるはずである。
 リファレンスという意味も、オーディオではよく使われる言葉であるが、これも、実際には相当に幅広い意味で使われているようだ。必ずしも、リファレンスシステムだから現代の最高級(最高価格かもしれない)コンポーネントを集めて組み合せればよいとはかぎらない。巷には、とにかく、最高価格の製品を可能なかぎり多数組み合せて、これぞ最高のシステムとする風潮が一部にはあるらしいが、集めただけで、素晴らしい音楽が、音が聴けるという保証があろうはずはなく、集めて組み合せた時点が出発点であり、それ以後、技術的な感覚的な意味をも含んだ使いこなしの結果が、目的とする素晴らしい音楽、音に到着する道のりであり、どの程度の期間が必要かはまったく予測することができないほど遠い道のりであるのは事実だ。とかく、使いこなしが軽視され、というよりは忘れ去られ、コンポーネントを買うことが終着駅的な風潮が平均的になったことが、オーディオを面白くなくさせ、業界は低迷を続け、基本方針も明確でないAVとやらが登場すると、オーディオがだめならAVがあるといって安易に転向することになるわけだ。
 ちなみに、オーディオコンポーネントシステムの中央に、チューナー部分を省略したわりには高価格なモニターテレビとハイファイVTRを置けばAVシステムになるのだろうか。もしかりに、高画質、高音質がAVのメリットだとしたら、一般的に家庭用のテレビの画質に神経をとがらせ、何年に一度アンテナを交換し、いつCRTを交換しようかと考える人がどれだけ居ることだろうか。ハイファイVTRが出現して急激にAV時代が釆たとするならば、AVの前途は、まさにバラ色に輝いた末来があるはずである。家庭のテレビは、もともとAVなのである。
 やや横道にそれたが、本題にもどして、設問にあるCDのためのリファレンスシステムを考えよう。まず、リファレンスとなるCDプレーヤーをどう考えたらよいのだろうか。
 CD登場以来、一年半の年月が経過し、製品としては、ほぼ第三世代のプレーヤーが市場に登場しているが、大勢は、価格低減化の競争にあり、この争いが一段落しないと、いわゆるオーディオ的な意味でのCDの規格を活かした優れた製品は開発されないであろう。
 では、現在の製品でどのクラスのCDプレーヤーを選べば、リファレンス的に使えるのだろうか。ここでは考えなければならぬ点はCDの特異性である。スペック上で見れば、99800円から180万円まであるCDプレーヤーで基本的なスペックは細部を除けば同一であるということだ。少なくとも、このようなオーディオ製品はアナログ系では存在しえなかったものだ。これが、PCMプロセッサーを含み、デジタル系のコンポーネントの際立った特徴である。
 オーディオを科学の産物とすれば、スペックが同じであれば、正しい使い方をすれば、ほぼ、類似した結果である音は得られるはずではないだろうか。現実は、市販のCDプレーヤーは、アナログ系のコンポーネントよりは、いくらか差は少ないとしても、音的な差は、かなり大きい。しかし、現状のCDプレーヤーの問題点を正しく把握していれば、それぞれの機種に応じた使いこなしで、かなり接近した結果に導くことは可能である。
 その問題点は大きく分けて二つある。その一は、機械的な振動に非常に敏感であり、音質、音場感情報が大きく変化することである。簡単に考えて、アナログプレーヤーより一段と設置場所の選択に注意が必要と判断すべきである。外形寸法的に小型であるため、安易に、プリメインアンプやコントロールアンプの上に乗せて使うことは厳禁である。しかし現状は、しかるべき権威のある団体のCDプレーヤーの試聴会場で、CDプレーヤーを積み重ねて試聴をしていた例もあるほど、この件に関しては、特例を除いて業界全体が認識不足である。例えば好例として、メーカーのCD試聴会場で、CDプレーヤーの上にCDのケースを乗せたままヒアリングをすることが多いが、その場合は、メーカー自身もCDプレーヤーを使う心得がないと判断されたい。
 その二は、CDプレーヤーのACプラグをどこから取るかの問題だ。基本は、アナログ系のアンプ類と異なった壁のACコンセントから取ることで、誤ってもコントロールアンプのスイッチドACコンセントから取ることは避けたい。この理由は、数多くの問題点を含んでいるために説明は現状では出来ない。
 組合せを作らねばならないが、現時点での組合せ方法論は、CD登場以前とは根本的に変化をしており、いわゆる長所を活かす方法とか、欠点を補いあう方法では好結果は望めない。ここではスペース的な制約があるため、あえて在来型でまとめることにするが、要は使いこなしにつきることを注意したい。CDプレーヤーは、他社にないアプローチがユニークな京セラのDA910、アンプは同じく、C910、B910が好適だが、プリメインなら、パイオニアA150DかビクターA−X900あたりが機構設計上の長所で候補作だ。スピーカーは、聴感上のSN比が優れたダイヤトーDS1000、次いでビクターZero100。

デンオン DCD-1800

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 一昨年、脚光を浴びて新登場したCDプレーヤーも、大勢としては、ローコスト化の方向に向いながらも、すでに、第二、第三の世代に発展しているが、今回、デンオンから、第二弾製品として、同社独自の開発によるDCD1800が発売された。
 価格的にも、標準と思われるクラスの製品で、デザイン的にも、左右にウッドパネルを配した、同社の高級モデルに採用されるポリシーを受継いだ落着いた雰囲気を備えており、機能面でも、ダイレクト選曲、プログラム選曲、インデックス選曲、イントロサーチ、スキップモニター、2点間リピートを含むリピート、タイマー再生など、リモコン機能を除き、フル装備というに相応しい充実ぶりである。
 ブラックにブルーの文字が鮮やかに輝やく集中ディスプレイは、トラック、インデックス、演奏経過時間とプログラムされた曲番と次の演奏曲番表示をはじめ、プレイ、ポーズ、リピートなどの各機能が3色に色分けされて表示される。
 本棟の注目すべき点は、レーザーピックアップ駆動に業務用仕様DN3000Fに採用された扇形トレースアームの外周をモーター駆動するリニアドライブトレーサー方式が導入され、トレースアーム軸とディスク用スピンドルの2軸が完全平行を保ちながら、厚手のダイキャストベースで支えられ、かつ、ダイキャストベースはシャーシからフローティングされ、外来の振動を防止して、高精度、耐久性、応答性の早さ、などを獲得している機構にある。それに加えて電気系の最重要部たるDAコンバーター個有の、アンプでいえばB級増幅のスイッチング歪に相当するゼロクロス歪を解消する新開発スーパーリニアコンバーターを採用し、特性上はもとより、聴感上での、いわゆるデジタルくさい音を抑え、飛躍的に音質を向上させたことがあげられる。
 聴感上では、本機は、ナチュラルな帯域バランスと細かく、滑らかに磨込まれた音の粒状性が特徴である。平均的にCDプレーヤーは、シャープで、音の輪郭をスッキリと聴かせる傾向が強いが、伸びやかさとか、しなやかさで不満を感じることが多い。DCD1800は、この部分での解決の糸口を感じさせてくれるのが好ましい。
 音像は比較的に小さくまとまり、音場感もスムーズに拡がり、水準以上の結果を示すが、もう少し改善できそうな印象がある。
 問題点の出力コードの影響は、比較的に少ないが、平均的なコントロールアンプ程度の影響は受けるため、細かい追込みには、各種のコードの用意が必要である。
 機能面は実用上充分であり、機能の動作、フィーリングも、ほぼ安定している。ただテスト機では、トレイのオープン時の反応が鈍かったが、個体差であろう。安定感が充分に感じられる手堅い新製品である。

NEC CD-803

黒田恭一

別冊FMfan臨時増刊 ’84カートリッジとレコードプレイヤーの本(1983年10月発行)
「CDの本当の実力を垣間見た」より

 世代という言葉はゼネレーションという英語に対応すると考えていいであろう。「広辞苑」では世代をこう定義している、「生物が母体を離れてから成熟して生殖機能を終わるまでをいう。ほぼ三十年間をひとくぎりとした年齢層。親・子・孫と続いてゆくおのおのの代」。
 ところが、昨今では、あちこちで、CDプレイヤーの第二世代といったような活字を目にする。なに? 第二世代? といったところである。もし、「広辞苑」の定義にしたがうとすれば、昨年の秋から今年の前半にかけて発表されたCDプレイヤーが親の世代で、それ以後のものが子の世代ということになる。

 なにごとによらず変化の激しい時代ではあるが、一年もたたないうちに親の世代から子の世代にかわってしまうというのでは、いかになんでもドラマチックにすぎるように思うが、どんなものか。しかし、現実には、その第二世代のCDプレイヤーがつぎつぎに登場しつつある。まだそれらのうちのごく一部のプレイヤーにふれただけなので、断定的なことはいいにくいが、おおむね親のいたらなさを子がおぎなっているようである。とりわけ使い勝手の点で、そのことがいえそうである。
 親の世代の製品を買った人間としては、どうしたって心おだやかではいられない。しかし、あわててどうなるものでもない。一年未満で第一世代が第二世代に変わったのであるから、来年の今ごろには第三世代の製品が世にでていても不思議はないわけで、そのたびにあたふたしていては身がもたない。ぼくにも人並みに自己防衛本能があるから、親が子に変わり、子が孫に変わっても、すでに冷静でいられるようになった。
 おそらく、今のぼくがしなければならないのは、CDプレイヤーに関しての最新情報とやらに動揺する前に、現在使用中のCDプレイヤーを十全につかいきることであろう。はじめのうちは、CDプレイヤーはどんなつかい方をしてもいいという、あちこちからきこえてきた言葉を信じて、ひどく無頓着につかっていたが、そんなつかい方をしていたのではCDプレイヤーのよさが引き出せないとわかった。
 そのことがわかってから、あれこれ試行錯誤がはじまった。むろんそれなりに面倒なことではあるが、その面倒なことがまたたのしいと思う気持ちは、オーディオに関心を抱いでおいでの方なら、ご理解いただけるのではないか。夜が更けてから、つまり俗にいわれるアフター・アワーズに、いろいろ試しているうちに、思いもかけぬ発見をしたりして、ひとり悦に入ったりした。
 今はNECのCD-803というCDプレイヤーをつかっている。恥をさらすようであるが、そのCD-803をいかなるセッティングでつかっているかを、なにかのご参考になればと思い、書いておこう。ぼくの部屋に訪ねてきた友人たちは、そのCDプレイヤーのセッティングのし方をみて誰もが、いわくいいがたい表情をして笑う。もう笑われをのにはなれたが、それでもやはり恥ずかしいことにかわりない。
 では、どうなっているか。ちょっとぐらい押した程度ではぴくともしない頑丈な台の上にブックシェルフ型スピーカー用のインシュレーターであるラスクをおき、その上にダイヤトーンのアクースティックキューブをおき、その上にCDプレイヤーをのせている。しかも、である。ああ、恥ずかしい。まだ、先が。

 CDプレイヤーの上の放熱のさまたげにならないような場所に、ラスクのさらに小型のものを縦におき、さらにその上に鉛の板をのせている。このようなことをしていればどうしたって、今はやりの「ほとんど病気」という言葉を思い出す。しかし、念のために書いておきたいと思うが、見た目は、いくぷんユーモラスではあっても、美観(!)をそこねるようなものではない。
 そして、CDプレイヤーからプリアンプにつながっているコードは、ブチルゴムを六重に(!)まいたものである。普段はその状態で聴いている。しかし、今日は徹底的にコンパクトディスクを聴こうと思うときには、NECのCD-803ではアウトプットのレベルが可変なので、CDプレイヤーからでているコードをダイレクトにパワーアンプにつなぐことにしている。この方法はかなり効果的である。
 相手の可能性を信じられたときに、人間は挑戦的になれる。尻をたたいてもしれている駄馬と思ったら、鞭を手にしたりしない。駿馬と思えばこそ、ジョッキーは狂ったように鞭をふるう。
 なぜこのような恥さらしをも辞さずにありのままを書いてきたかといえば、それは、NECのCD-803が、すくなくともぼくにとっては駿馬だからである。ごく無造作につかっているときにも、その音質的な面での卓越性には気づいていた。しかし、つかっているうちに徐々に使い手であるこっちが追いこまれた、というのが正直なところである。あのようにしてみたらどうであろうとか、次はこうしてみようとかいったことを次々考えた。

 相手に魅力があればこそ夢中になれた。NECのCD-803にはそれだけの潜在能力があったということである。ラスクをつかえば、あきらかにそれまでとは違う音を聴かせた。調教しがいがあった、とでもいうべきかもしれない。
 今、ラスクでサンドイッチにしたようなかっこうでCD-803をつかっていで、そこできける音には十分に満足しているし、デジタルであるがゆえの不満はなにひとつない。コンパクトディスクはどうもデジタル臭くてなどという人にかぎって、CDプレイヤーをプリアンプの上とかカセットデッキの上においていたりする。こっちが愛情と誠意々もって接しなくては、相手だってほどはどの力を示してとどまる。道具でも人間でも、そのことでは同じである。
 NECのCD-803は、ばくの聴いたかぎりのことでいえは、第一世代のCDプレイヤーのなかでは、音そのものの実在感とでもいったものを示すことにかけてひときわ抜きん出た能力をそなえている。よくいわれるようにともすると響きが薄くなりがちなところがコンパクトディスクにはあると思うが、そこから巧みに逃れているのがCD-803だ。

 もともとそのような能力をそなえているCD-803を、一応ほくなりに追いこんだかたちでつかっているわけであるが、そこで聴ける音はコンパクトディスクはやはりミュータントであるという思いをあらたにさせる、と自分では思っている。したがって、今のところは、第二世代の機器が登場しようと、さほどあたふたとはしないでいられる。なぜかといえば、いまなおCD-803に夢中であって、とても子の世代の機器に浮気をする気持ちになれないからである。
 たしかにCD-803には使い勝手のうえでもう一歩と思うところがなくもないが、慣れとは恐ろしいもので、しばらくつかっているうちにその点でのいたらなさも気にならなくなった。アバタモエタボとでもいうべきかもしれない。
 今ぼくは、CD-803でコンパクトディスクをきいて、CD万歳! といいたい気持ちである。

ソニー CDP-5000

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「プロ用CDプレーヤー ソニーCDP5000試聴記」より

 CDプレーヤーが発売されて、まずまずのスタートをきった。昨年の9月に、一部の新製品が出たが、期待と興味をもって迎えられた第一群の売行きは好評であったときく。一通り、そうした先取りの気鋭に富んだ人達の間に行き渡り、現在は、その第二号機に、より一層の完成度を求める慎重派が待ち構えている気配である。また、メーカーの側も、先行メーカー群──といっても、ほんの2〜3社だが──の成行きを見守りながら、製品の発売を準備している慎重組が控えている様子である。
 こういう革新的な新しいものが出る時は、常に、このような情況になるわけだが、僭越ながらユーザー代表の一人を自認する私のような立場の人間も、言動に慎重を期すべき時期といえる。いつの間にやら、一部では、私はアンティ・デジタル派と決めつけられているようだが、迷惑な話であって、この可能性の大きな新技術の熟度を望む者の一人だと自分では思っているのである。それだけに、この頃は、自宅で、CDを熱心に聴いている。そして、CDが、発売第一号機で、これだけ素晴らしい再生音の世界をつくり出すプログラムソースであり、プレーヤーであることに、大きな喜びと楽しみを感じているのである。そして、CDにとって、再生系のクォリティの水準が高いことが、その真価を発揮させるためにぜひ必要であり、この新しいプログラムソースは、広くコンシュマープロダクツとして便利であるだけではなく、高度なマニアの趣味の対象としても魅力の大きなものになり得ることを感じている。すでに何枚かの愛聴盤も生れたし、街に出れば、CDの売り場を必ずのぞくようにもなった。あの小さなピカピカの円盤への新規な違和感も、今やほとんどなくなった。
 こんな状態の私のもとへ、ある日、コンパクトディスクを演奏するための非コンパクトな大型プレーヤーが持ち込まれてきた。ソニーの局用プレーヤーCDP5000である。12cm径のディスクをかけるためのこの機械は、500(W)×883(H)×565(D)mmもあって、これはスタジオで使うための便利さからきたサイズだと思ったが、なんと、中味はけっこうつまっているではないか。きわめて高精度な頭出し機能やモニター機能、そして、VUメーターなど、放送局などで使うための操作性を万全に備えたプロ機であるため、コンソールのフラットデッキ部分をそれらが占有し、エレクトロニクス部は、下部の台座部分に収納されている。民生用の現在の機器は、ピックアップを移動させてトラッキングしているのに対し、これは、ディスクを移動させる方式をとっている。詳しいことは不明だが、たぶん、フォーカスサーボ系と、トラッキングの送り機構のメカニズムを二分した構造なのであろう。偏心などに対するトラッキングサーボの機構は対物レンズで対処していると思われる。
 CDプレーヤーの音のちがいは、数社の製品の比較で確認させられているし、大方の指摘しているところであるが、このプロ用プレーヤーの音は素晴らしかった。一段と透明度が高く、SN比がよい。現時点でのリファレンスとして、ソニーが開発したいとがよく解る。一般に理解されているデジタル技術の常識による判断を越えた、ちがいがあることは確かであった。それがDAコンバーター以後のアナログ部分の差とだけは断じきれない何かがあるように感じられたのはたいへん興味深いことであった。
 この機械は、また、リファレンス機器として、CDA5000という、アナライザーと組み合わせ、CDの記録データをCRT表示によってTOCやインデックスのエラー、再生時の訂正、補間の回数など、CDのサブコードやオーディオ信号のエラーデータを検出することがCDチェッカーとして機能する。つまり、この機械は、局用のプレーヤーとしてだけではなく、CD生産のプロセスに組み入れて使う品質管理測定器としても使う工業用機器でもあるわけだ。
 とにかく、このCDP5000、今のところ、CDプレーヤーのリファレンスとしての信頼性の最も高いものだと感じられたし、このプレーヤーの水準に達する一般用のプレーヤーがほしいという気にさせる代物であった。プレーヤーとしての基本性能をこのままに、プロ用の機能は一般に必要ないと思われるのでとりぞいて、愛好家用の高級CDプレーヤー誕生の母体となり得るものだし、また、そうしてほしいものである。

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