CDのメリットを活かすためには

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「いま一番知りたいオーディオの難問に答える」より

Q:CDのメリットをはっきり聴きとれるレベルのベーシックシステムを構成するとどの程度のものになるのでしょうか。選択上の注意点を含めて、具体的に製品をあげて下さい。

A:質問を読んでみると、まず、問題となるのは、『CDのメリットをはっきりと聴きとれるレベルのベーシックシステムを構成する』という日本語としての意味をどのように解釈するかが、この質問を解決する鍵であるようだ。
 では、CDのメリットとは何だろうか。ここでは、どのような人が、どのような部屋もしくは場所で、何の目的でCDを聴きたいのか、が判からなければ、解答するだけの経験と情報を私が持っていたとしても、答えられるはずはない。条件を設定しないことが今回の質問の面白さとかが編集部の見解であるようだが、質問の次のポイントである、ベーシックシステムという奇妙なカタカナの持つ意味の漠然とした点をも含めて、改めて編集部に確認をとるために電話をかけたところ判かったことは、CDを聴くための、もっとも簡単なシステムを組み合せろ、ということが質問の意味であるということであった。
 とかく、オーディオでのいわゆるQ&Aと称する項目には、誤った解答を含め、数多くの問題点が存在するが、それはさておいて、引き受けた以上は何か解答めいたことを書かなければならない。
 CDが登場して以来、アナログかデジタルかとか、伝統的なアナログディスクの芸術性をけがすものとかの記事がオーディオ誌上をにぎあわせたが、嵐のあとの静けさのように、話題性が薄れた現在ではかつてのアンチCD論を唱えた人々も、現実にはひとつのプログラムソースとして使っているというのが実状であるようだ。
 では、CDが実用化されて、オーディオはどのように変わっただろうか。漠然とCD登場以来の新製品、オーディオ誌上でのいわゆる音質評価のリポートなどを眺めていればそれほどの変化は認められず、スピーカー、アンプ関係、カセットデッキ、テープ関係の広告コピーに、『デジタル対応』という表現がしばしば見受けられる程度というのが平均的な見方であるだろう。
 この『デジタル対応』なる言葉はときには新鮮なひびきに受取られるであろうが、簡単に考えて、従来から使われてきたいわゆる新製品とか、新型とかと同義語と受取るとよい。でないと、『デジタル対応型』とそうでないものの間に差があるということもになりかねない。現実に、CDプレーヤーを管球タイプの古いアンプに組み合せても、同時代のスピーカーシステムを使っても、音楽を楽しむ点でで問題があろうはずはない。
 ただし、CDのスペック上の特徴である、ワウ・フラッター、クロストーク、SN比、ダイナミックレンジなどの項目での従来のプログラムソースに比べて圧倒的な優位性を活かすためには、現用のシステムに接続するだけでは、CDのもつ情報量の豊かさを音に活かすことはできないことに注意したい。
 つまり、トータルなシステムの再点検や、より高度な使いこなしが要求されるわけだ。
 オーディオでは、周波数特性的な面が重視され、CDの再生機器が問題にされやすいが、従来のプログラムソースに比較して約20dB増加したダイナミックレンジは、ダイナミックレンジ的なフィデイリティの高さであり、クロストークやワウ・フラッター、SN比が優れていることは、音場感的な空間情報量が圧倒的に優れていることを意味するものだ。したがって、モノーラル時代から受継がれてきた、サウンドバランスのみを重視する聴き方では、CDのもつ特徴は聴きとれないだろう。かつての4チャンネル時代以後、2チャンネルステレオでの音場感情報をいかに増すかについて努力を続けてきたメーカー側の技術開発や新素材の導入に対しての過少評価については、反省してほしいことと思う。つまり、サウンドバランスだけで2チャンネルステレオを聴くことはナンセンスである。
 音質面、音場感情報の豊かさ以外にも、CDには機能面、外形寸法的な特徴で、従来のディスクとは比較にならぬ優位性がある。
 この使いやすさ、一度ディスクをセットすれば、イジェクトしない限りにおいて安定性や再現性に優れるため、かつてのアンチCD論者も、開発側のメーカーでも、最近ではプログラムソースとしてCDを使う例が非常に多くなっている。このことが、アンプやスピーカーに結果として表われているようだ。
 例えばコントロールアンプの開発では、従来は、アナログディスクをプログラムソースとするため、基本データーが得られたあとの音質面でのチェックは、まず、MCヘッドアンプ、RIAAイコライザーを追込み、次いでハイレベル入力以後、コントロールアンプ出力までのフラットアンプやトーンコントロールアンプ、フィルター段などを調整するため、結果として、RIAAイコライザーを受けるハイレベル入力以後コントロールアンプ出力までの増幅段は、いわば、パワーアンプとの間のサウンドやキャラクター調整用アンプといった性格が強く、各社のコントロールアンプで、この部分のみを比較すると音の違いに驚かされたものだが、昨年あたりの新製品では、CDを使うことが多いためか、まず、この部分から追込みが始められているようで、ハイレベル入力以後の増幅段の質が大幅に向上しているようだ。このあたりは、プログラムソースと共存して進歩するオーディオ機器の姿をクリアーに表わしている面だと思う。
 そろそろ、本題の解答の組合せをまとめたいが、簡単にCDの機能と音質を楽しむ目的なら、CDプレーヤーは、10万円未満の、ヤマハ、オーレックス、ケンウッドで好みのモデルを、スピーカーで聴くとすれば、ボーズ101MM+1701アンプで、あまりコンポーネントシステムらしくなく、気軽に、それも、予想よりもダイナミックな音で楽しむのが、ユニークな方法だと思う。

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