Daily Archives: 1973年12月15日

良い音とは、良いスピーカーとは?(6)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)

高忠実度スピーカーの流れ
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 BBCモニタースピーカーLS5/1Aの音は、はじめて耳にしたときから、それまでモニターの代表として知られていたアルテック604E/612Aや三菱ダイヤトーン2S305らの音とは全く違っていた。よく耳にするこれらのモニタースピーカーの音は──中でもアルテック604E/612Aはわたくし自身約二年あまり自宅で聴いていたことがあるが──、第一に冷徹でプログラムソースのアラをえぐり出すような鳴り方で、永く聴きこむにはあまりにも鋭く、こちらの気持が充実し精神が張りつめたようなときでないとその鮮烈さに耐え難いような強さがある。そういう音には一方で、パワーを上げると滝に打たれるような爽快感さえあって精神の健康なときには一種のスポーツ的な楽しさで対峙できる反面、疲れた心を癒してくれるというような優しい鳴り方は絶対に求めることができない。それはアルテックばかりでなく2S305にもそういう傾向が感じられ、たった一度だけ、あるレコードファンが、団地の四畳半で管球アンプで鳴らしている音質に意外に柔らかな表情を聴きとった経験があるが、一般にモニタースピーカーの音質とは緊張を強いる、分析的な、余剰を断ち切った無機的な鳴り方をするものだと、わたくし自身まあ信じていたと言ってよい。わたくしだけではあるまい。現にそのような解説が、オーディオ専門誌でもひとつの定説のように繰りかえされている。
 BBCモニターの音は違っていた。第一にいかにも自然で柔らかい。耳を刺激するような粗い音は少しも出さず、それでいてプログラムソースに激しい音が含まれていればそのまま激しく鳴らせるし、擦る音は擦るように、叩く音は叩くように、あたりまえの話だが、つまり全く当り前にそのままに鳴る。すべての音がそれぞれ所を得たように見事にバランスして安定に収まり、抑制を利かせすぎているようにさえ思えるほどおとなしい音なのに全く自然に弾み、よく唱う。この音に身をまかせておけばもう安心だという気持にさせてしまう。寛ぐことのできる、あるいは疲れた心を癒してくれる音なのである。陽の照った表側よりも、その裏の翳りを鳴らすことで音楽を形造ってゆくタイプの音である。この点が、アメリカのスピーカーには殆ど望めないイギリス独特の鳴り方ともいえる。
 初めてこれを聴いたのはもう六年も前の話になる。古い読者なら本誌8号の「話題の海外製品」欄(384ページ)に、山中敬三氏の紹介があることを記憶しておられるかもしれない。その頃初めて入荷して、山中氏のお宅に紹介記事のためにしばらく置いてあった。お前の好きそうな音だから聴きにこないかと声がかかって、しかしそのときの印象は、ずいぶんすっきりと線の細いきれいな音だという程度のもので、今思い返せば残念ながらわたくしの耳も曇っていた。しかし右の紹介記事をいま読み返してみると、山中氏も「定位もすばらしく良く、音にあたたか味がやや不足する気もするが、この色付けの少ないひびきは、モニタースピーカーのひとつの典型……」と書いておられる。するとあの部屋で鳴った音は、この種の音にはどちらかといえば冷淡な彼の鳴らし方そのものだったのに違いないと、今になってそんなふうに思えてくる。
 LS5/1Aのもうひとつの大きな特徴は、山中氏も指摘している音像定位の良さである。いま、わたくしの家ではこのスピーカーを左右の壁面いっぱいに、約4メートルの間隔を開いて置いているが、二つのスピーカーの中央から外れた位置に坐っても、左右4メートルの幅に並ぶ音像の定位にあまり変化が内。そして完全な中央で聴けば、わたくしの最も望んでいるシャープな音像の定位──ソロイストが中央にぴたりと収まり、オーケストラはあくまで広く、そして楽器と楽器の距離感や音場の広がりや奥行きまでが感じられる──あのステレオのプレゼンスが、一見ソフトフォーカスのように柔らかでありながら正確なピントを結んで眼前に現出する。
 柔らかな音は解像力が甘く、ピントの良い音は耳当りが硬い……。それがふつうのスピーカーだが、LS5/1Aは、ドライブするアンプの音色の差、カートリッジの差、レコーディングのテクニックの差を、そのままさらけ出す。モニタースピーカーなのだからこれは全く当り前の話だが、そういう冷酷なほどの解像力を持ち、スピーカー自体カラーレイションの少ない素直でありながら、レコードの傷みや埃に起因するざらついたノイズや、ビリつきとかシリつきなどといわれる種類の汚れた音をほとんど出さず、むしろ音を磨いて美しく鳴らす。前回(27号)に載せた周波数特性図からもわかるように約14kHzから上が割合急にロールオフしてゆく傾向があることがその大きな理由かもしれないが、しかしこのスピーカーに関連して発表されているKEFのリポートなどを読んでみても、全音域に亘って過渡特性をできるだけ改善しようと努めていることがわかり、その点もまた、音を美しく聴かせる重要なファクターであるにちがいない。
 監視用(モニター)でも検聴用(ディテクター)でもありながら、一人のアマチュアの気ままな聴き方をも許してくれるこういう鳴り方のスピーカーは、モニター用でない一般市販品まで話を広げてもほかに思い浮かべることができない。こんな音を聴くに及んでは、わたくし自身のモニタースピーカーに対するイメージがすっかり変わって、しまったことは容易にお分り頂けるだろう。残念なことに、三ヵ月ほど前に引越をして新しい部屋に置いたところが、右のような音の良さが(今のところはまだ)十分に生かせなくなってしまった。以前の、ほとんどこわれかけた本木造(本などと断わらなくてはならないほど、昔ふうの良い木造建築をしてくれる職人も材料もなくなる一方だが)、畳敷きの8畳のあのおそろしくデッドな部屋でこそ、このスピーカーの音は全く素直に耳のところまで伝わってきて、右に書いた素晴らしく自然なプレゼンスを聴かせてくれたのに、今度の部屋はスピーカーと聴取位置のあいだに、まるでエア・カーテンでも介在しているみたいに、以前にくらべて音の透過が極端に悪くなってしまった。しかしここのところがLS5/1Aのひとつのウィークポイントかもしれないことは、以前の8畳のそのまた前に住んでいた部屋でも(ややこしくて申し訳ありません)今回と似たような現象があったごとから想像できる。だいたいこのスピーカーをBBC放送局で使っている写真をみると、ミクシングコンソールの両そでに置いて、おそらくミクサーの耳から1メートルと離れないような近距離で聴くことさえあるように、むろん印刷写真からの憶測だから違うかもしれないがそのように思える。ともかく、離れて聴くにつれて音像のぼけてゆく傾向が、ほかのいろいろなスピーカーよりも顕著のように思える。それだから、わたくしのような昔から広いリスニングルームに住んだことのない人間には向いているのかもしれない。
 LS5/1Aにはもともとラドフォード製の6CA7-PPの35Wのパワーアンプが附属している。これで鳴らす音は美しいが、その美しさはいわばゼリーを薄くかけたケーキのようにやや人工的に滑らかな質感で、わたくしの耳にはこれでは少しもの足りない。むしろJBLの400Sや460Sなどの傾向の、あくまでも解像力の優れた良質のTRアンプで鳴らす方が、このスピーカーの恐ろしいほどの解像力やプレゼンスを生かしてくれる。逆にいえば、放っておくと音像がぼけてゆく方向の音を、できるかぎり解像力を上げる傾向に修整して鳴らそうという意識が働いているのかもしれないが……。
 LS5/1Aの音には、たとえばJBLのモニターのような鮮烈な明晰さ、神経の張りつめたモダンな明るさがない。いくぶん暗く、渋く、柔らかく、そして必要な音をできるだけ自然な光沢で控え目に鳴らしてくれる所が良さで、だから反面の不満が生じないと言ったら嘘になる。BBCを鳴らしてJBLの良さに気がつき、JBLを聴いたあとでBBCの柔らかなハーモニーに心からくつろいでゆく自分に満足する。わたくしの中にこの両極を求める気持が入りまじっている。
 先日、JBLのプロフェッショナル・シリーズのモニタースピーカー♯4320を、わが家に運び込んで鳴らす機会を得た。わたくしのJBLは以前から愛用している3ウェイだが、マルチアンプ・ドライブでいろいろいじるうちにいつのまにかBBCに影響されすぎて、いわば角を矯めすぎていたようだと気がついた。それはそれとして、JBLのプロ・シリーズが従来とは違う新しい音を作りはじめ、その新しさの中から、再びわたくしを捉える麻薬を嗅いでしまった。JBLとKEF/BBCモニターの音が、いまのところわたくしの中に住む両極の代表なのかもしれない。
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 ありていに言えば、BBCモニターについてはいくら枚数を与えられても当分書き足らないのだが、これを書いた理由をいえば、前回(27号)のくりかえしになるが高忠実度スピーカーの流れを説明するために、シアター・スピーカーから発展した家庭用大型スピーカー、ARから発展した小型ブックシェルフ、その折衷型の中型フロアータイプなど従来知られていた流れのほかに、新しくヨーロッパに抬頭しつつある家庭用ハイファイ・スピーカーのひとつの源流として、ことにイギリスの新しい家庭用の小型スピーカーの作り方の中に、右のBBCのモニタースピーカーの影響を無視できないように思えるところから、やや詳細に紙数を費やした次第で、ここから再び話が本流に戻る。
 BBC放送局は衆知のようにイギリスの国営放送で、その性格上放送技術の向上のために研究したデータが民間のメーカーなどに広く公表されるらしい。また、右のモニタースピーカーの開発に際しては、民間のスピーカーメーカーにその業務を委託するではないかとも想像される。あるいはさらに、同じテーマによって競作させることさえあるのではないかとも想像できるような事実もあるが、想像での話をあまり広げるのは止そう。
 ひとつの例がスペンドールのBCIというブックシェルフスピーカーで(これにはモニタースピーカーと書いてあるが、この場合はあくまで一般的に言われるモニターのことだと思うが)、このスピーカーの背面には、型番や規格を記した銘板(ネームプレート)の下にもう一枚、BBCの発表したモニタースピーカーの資料に依って製作した旨の断り書きが入っている。
 ただしBBCのメイン・モニターは、現在では前記のLS5/1Aから発展した新型のLS5/5型に変わっているらしい。KEFのレイモンド・クック Raymond E. Cooke・(1969年発行のリポートによる)によれば──この新しいスピーカーは1969年中には供給に入るだろうし、1970年代を通じてリファレンス・スタンダードとなることが期待されている……とあり、最近の「放送技術」(VOL26No.10)にもこの新型の紹介が載っている(P89山本武夫氏)ところからもおそらく現用のモニターとして活躍していることと思うが、LS5/5はクロスオーバーが400Hz、3500Hzの3ウェイでLS5/1Aよりも小型に作られている。
 この400Hzと3500Hzというクロスオーバー周波数から、まっ先にフェログラフS1が思い浮かぶので、前記のクックのリポートから知ることのできるBBC・LS5/5とフェログラフS1とは、ネットワークの構成その他にもいくつか共通点を数えあげることができ、フェログラフのカタログにはBBCモニターとの関連など全く触れられていないにもかかわらず、おそらくこのS1も、BBCのモニタースピーカーの資料を何らかの形で参考にして作られているであろうことが伺い知れる。
 一方、LS5シリーズを開発したKEFは、新型のモデル104(本号テストリポート参照)で、これまでのKEFの一連の市販スピーカーとは別の、新しい音質を聴かせはじめた。わたくしたちの目に触れる範囲でさえ、これらの事実を照合してゆくにつれて最近のイギリスの家庭用スピーカーの開発の方法論の中に、BBC放送局がモニタースピーカーを作りあげてゆく過程で積み上げた厖大な研究の成果が、少しずつ実りはじめているのうみることができる。おそらくこの土台は、われわれが想像するよりもはるかに根が深く、そしてこれから先もイギリス以外の製品にまで、直接間接に影響を及ぼしてゆくだろうと、わたくしは予言してもいい。なぜか──。
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 モニタースピーカーの音は、きつい、とか疲れる、とかドライすぎる、などという説があって、それが必ずしもすべてではないことを証明したひとつの例がさきのBBCのモニターだが、外国製スピーカーの特性と音質の関連についての俗説も、そろそろ是正されなくてはならないと思う。
 たとえばこんな巷説がある。──外国製のスピーカーの音色は個性が強く、聴いて楽しくとも測定上の特性はそんなに良くない。一方、国産スピーカーは特性は外国製より良いが、聴いてひきつけられるような個性が少ないし、楽しめる音が出にくい……。
 たとえばアルテック604E/612Aの周波数特性を眺めてみる(図参照)。この個性的な特性をみれば、あの独特の鮮明な音色もなるほどと納得がゆく。こういう特性をみて音を聴いたあとで、国産のフラット型の特性を見せられ音を聴かされれば、たしかに右の巷説には説得力がある。しかしいまは違う。ことに新しく抬頭したヨーロッパの家庭用ブックシェルフスピーカーの中でも、聴いて音の良い製品の特性を測ってみると、驚くほど素直な、平坦な周波数特性を持っているという例が、ここ数年来目立って増えてきた。
 本誌の28、29号を通じて測定データを詳細に検討するなら、いくつかの例外はあるにしても、もはや海外スピーカーが、聴いて良くても特性は悪い、などと単純には片づかないどころか、ものよっては国産の平均水準よりも優れた特性を示し、しかも音の魅力も十分に具えた製品が数少ないとはいえ出現しつつあることが明白である。
 ヨーロッパの製品ばかりではない。アメリカのスピーカーにも右のような傾向が少しずつ現われはじめている。
 それなら、たとえば周波数特性が平らになってゆくと、音の個性──といって悪ければそのスピーカーだけがもっている何ともいえない音の魅力、鳴ってくる音楽の音色の美しさ──が薄れてゆくだろうか。そうはならない。少なくとも、周波数特性をいじることで表面的に変化する音のバランス、それによって感じられる表面的な音色は、周波数特性をコントロールすることでできるかもしれないが、そのスピーカーの本質的な音色、内からにじみ出てくる味わいは、周波数特性をいじってみても、大きな変化は示さない。というよりは、周波数特性とは直接関係ないような性質の音色の方が、わたくしにとって大切な問題になる。よく言われる国の違いや風土の違いから生じる根本的な音色のちがい、鳴り方響き方の違いというのがそこに厳として存在する。ここが解明されないかぎりは、見かけ上の周波数特性どんな具合にいじってみたところで、本質的な問題はたいして前進はしない。イギリスのスピーカーに共通のあの渋い光沢のある鳴り方、アメリカのウェストコーストでしか作れないあの明るい響きを、それとは別の風土では作れない。そうしたいわば血の違い、風土の違いに根ざした本質的な音色をふまえた上で、同じ国の音色が、時の流れに応じて次第に変わってゆく。それは音楽が、またその演奏のスタイルが時とともに少しずつ姿を変えてゆくことと無縁ではない。

試聴テストを終えて

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 28号と続けて合計120機種以上のブックシェルフスピーカーを聴いたことになる。もしも聴くことが強制的なノルマのようなものだったら、常人ならとうに発狂してしまうかもしれない。幸か不幸か当方はすでにマニアと呼ばれ自分でも音に関してはキチガイのつもりだから、つまりとうの昔に発狂済みだからこそ、この重労働に耐えられた。
 というのは、まあ半分は冗談だが、ほんとうに120もの音を聴き分けそれをまた記憶してノートして書き分けるというのは、こんな仕事には馴れたつもりの私にもいささか手に余った。本当に疲れた。そして正直に書けば、全部を聴き終えてしばらくのあいだは、オーディオが全く嫌になった。オーディオ雑誌、が目につくところに置いてあるのを見るのさえ、嫌になった。一種のノイローゼにちがいない。で、それから1ヵ月も経たないのに、もう、ニコニコしながらオーディオ仲間と話をしているのだから、やっぱり馬鹿か気狂いに違いないと再び確信している次第だが、そんな思いをしてまでスピーカーを聴くのは、ほんとうは、仕事という意識でなく私が一人のオーディオ・ファンとして、そして殊にスピーカーというパーツに最も興味を持っているマニアの一人として、どこかに、まだ私の知らない優秀なスピーカーがあるのではないか、どこかに、いま自宅で聴いている音よりももっと良い音があるのではないかという大きな期待を持って、新製品に接しているのである。そういうものを一度にならべて聴く機会があるのなら、頼み込んでも参加してみたいという、要するに物好きなアマチュアの一人として、ともかく聴いてみたい、という単純な発想から、試聴テストに加わっているにすぎない。
 だから本当を言えば、アンプでもスピーカーでも数多くをテストし試聴した後で、自分でもこれなら買って聴いてみたいと思える程度の製品が例え一つでも出てきて欲しい。そういう製品を発見することは、たいへん楽しいことで、その期待があるからこそ、テストに喜んで参加する。今回もまた、三つや四つのそういうスピーカーは見付かったが、ほとんど130あまり聴いた中でのそれだから、割合からいえば3パーセントにも満たない。だとすると、これだけの数を全部聴く機会のないユーザーだったら、自分の本当に欲しい音にめぐり会えるまでに、やっぱり何度か失敗せざるを得ないと思う。
 私は、失敗なしで自分にぴったり合う品物にめぐり会うことなどできないと信じているが、しかし反面、ぴったり来るも来ないもそれ以前の、言わば欠陥商品に近いものが堂々と売られて、そういう製品が数多くののさばってユーザーをいたずらに迷わせるとなると、また話は違ってくる。水準以上の性能を具えていてこそ、その次に好きか嫌いか、自分の理想に近いかどうか、などという話になってくるのが道理で、好き嫌いの言えるというのは実は相当に水準の高いところでの話なのである。
 ところが現状では、欠陥商品──もっとはっきり言えば音楽を鳴らすにはあまりにも音の悪いスピーカー──までが、好き嫌いという絶好の言い訳をタテにとってまかり通っている。そういうスピーカーを、仕事とはいえ聴いて、メモして、しかも製作者を傷つけない程度に表現を工夫しながら書かなくてはならないという、これぐらい腹の立つ仕事はない。そういうものを書いたあと、きまってオーディオが嫌になる。
     *
 私がずいぶん主観的な書き方をしているように思われるかもしれない。大体お前は主観的にものを評価しすぎると昔から言われる。この問題は、前からテーマに与えられている「オーディオ評論のあり方」という本紙の論壇でいずれくわしく書かせて頂くことになるが、オーディオに限らずあらゆる批評の分野で、自分という存在をとり除いた機械的な評価などというものは存在しえない。自分自身が、何十年かの失敗と模索の体験の中から肌で掴んできた確固たる尺度に照らし合わせて物や事に当る以外に、どんな確かな方法があるのか。自分がそうした体験の中から掴みとった考え方が、自分にとって正しいたったひとつの世界であり理想像であり、そのこと以外に自分の頼るものさしは作ることはできないものなのだ。
 いまオーディオ批評の分野で言われている主観とか客観などという言葉は、本来のこれらの言葉の正しい定義とは全く別もので、単に、私用に比較的熱しやすい性質(たち)人間の態度と、もっと突き放して冷静な距離を置いて物事に当ることのできる人との違いにすぎないと、私は考えている。いずれにしても自分の尺度でしか物を言えないという点に変りのあるわけがない。いったいどうやって、他人の考え方、他人の感じ方に従って発言できるというのか。
 だから私は自分の尺度、自分が確かに聴きとり掴みとり考え抜いた尺度に照らしてしか、物を判断しない。自分の尺度に照らして悪いものは悪いというしか、ない。その悪いものをどうしたらいいかというのはそれから後の話になる。
     *
 そこでもういちど120機種の試聴に話を戻すが、さっきから120だの130だのと書いて、実際に本紙に載ったのは28号の60機種と今回の56機種の合計116機種。ところが実際にはそれ以上のスピーカーを聴いている。載らない製品のいくつかは、あんまりひどいので掲載をとりやめたスピーカーなのである。しかし実際に市販されている内外の製品はこれよりはるかに多い二百数十機種だから、ここには載らなかったからといっても、まだ半分以上の製品を聴けなかったことになる。同じメーカーの同じシリーズの中にも出来不出来があって、たまたまテストした製品があまり良い評価でなかったとしても、むしろそれより安いランクで優秀な製品があったりすることが多いことを思うと、理想を言えば全部のスピーカーを聴かなくては物が言えないということになりかねない。が、現実にはどうやってみても、完璧なテストなどというものはありえないので、聴き洩らした中にもおそらくよい音があるにちがいないと、欲ばりの私はいつも残念な思いをする。
 もうひとつ残念なことは、できるだけ多くの機種を一度にとりあげ、複数のテスターで合同評価するという本誌の方針には違いないにしても、テストしそれを書く私の立場から言えば、一機種ごとに与えられるスペースがあまりにも僅かで、現在のように四百字詰め原稿用紙で一枚あまりという狭い枠の中では、私の文章力では聴きとり分析した内容の全部を言うことが殆ど不可
能なことで、この点だけは何度くりかえしても歯がゆく残念に思う。自分のメモにはもっと多くの内容を書きとっているつもりだし、できれば音質だけでなく他の要求──たとえばデザインや材質やそのメーカーのポリシーなど──にもくわしく言及できれば、一機種ごとの製品の性格をもっと立体的にお伝えできるのに、と、これはいくらか編集長に対してのうらみごとめくが、やはり狭いスペースに凝縮すると、どうしても公正を欠く強い表現をとる傾向が強くなる。

 今回は、テスト及び評価の立脚点についてほとんどふれなかったが、それらのことは前回(28号)の同じ欄に多少書いたし、また個人的にはさらに28号の解説(88ページより)と、もしできることなら27号の114ページも併せてご参照願えれば、私のテストの姿勢をご理解頂けると思う。短いスペースでは誤解を招くおそれがあるので、あえて右の記事をあげさせていただいた。

SAE Mark XII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 床に置くための台が無ければブックシェルフという変てこな定義から今回のテストにまぎれこんだ感じがするような、むしろこれはフロアータイプじゃないかと言いたいスピーカー。実際にいろいろと置き方を試みたが、ほとんど床の上そのままに、ごく低い(数センチの)台に乗せるだけのフロアータイプそのままの置き方で鳴らしたときが最も良いように思えた。かなり独特の音を聴かせるスピーカーで、アンプのパワーが最低60ワットは必要、最大入力の方は制限なし、と書いてあるのだから我々の感覚とはよほど違う。そこでクラウンの150W×2のアンプで思い切りパワーを放り込んでみた。気の弱い人なら耳をおさえて逃げ出しそうな音量にするとすばらしく引締ってクリアーな音質で鳴る。こんな音量になると切れこみとか繊細さとかいう表現は全く異質なものに思えてきて、もうなにしろ豪快に滝の水を浴びているという一種のスポーツのような痛快な感覚になる。しかしそういう音量で鳴らして、ヴォーカルもシンフォニーもピアノも、むろん大味ながらバランス良くキメも細かく、よく冴えて、確かに良い音で鳴る。四畳半的音量では全く曇ったおもしろみの無い音でしか鳴ってくれなかった。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

アメリカ・タンノイ Mallorcan

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 中域から高域にかけては、タンノイの製品に共通したシャープな艶、芯のしっかりした緻密で滑らかな独特の品位の高い音質を聴かせる。たとえばヴァイオリンの独奏などで一瞬ゾクッとくるような妖しい艶めいた響きなど、やっぱりタンノイだと確かに思わせる。蛇足かもしれないがこの種の中~高域の音質は、ユニットが新しいうちはすこし硬くて鋭いトゲが生えているが、鳴らしこむにつれて角のとれた滑らかさが出てきて、よく磨かれた光沢が生きてくる。音像をひきしめて細かく表現するタイプだから、サックスのふてぶてしさが少し出にくいし、スネアのスキンにもやや金属的な響きがつく傾向もあり、それらは聴きようによっては大きな欠点ともなるが、しかしスピーカーの音の魅力とは、多かれ少なかれ欠点と背中合わせに共存している。ただしマローカンの決定的な弱点は低音域で、第一に箱が小さすぎるので重低音が欠如しているし、それでいて中低域では多少こもり気味のところがあってことにピアノなどの低音の品位をやや悪くする。それでもIIILZよりはスケールの大きい余裕のある響きといえるが、いずれにしても部屋のコーナーや壁の助けを借りて低音の土台を補う使いこなしが必要だろう。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆★

ヘコー P5001

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 だいたいがヘコーというスピーカーは総体に硬派の最右翼で、それがP4001の場合には実に快適なバランスに仕上っていた。言いかえれば辛口の酒を味わう快さ。音の固さが欠点であるよりも一種の爽快感あるいは説得力になっていた。ところがP5001になると、たしかに4001よりもグレードアップされた部分もありながら、反面、その音の硬さがマイナス面に働く場合もあって、総合的な完成度の高さを言えば4001の方が上のように、私には聴きとれる。そのマイナス面とは、大きなところからいえばいかにも勇壮すぎる。たとえばベートーヴェンの「第九」など、どこか軍楽隊めいて聴こえる傾向が出る。むろん音そのものに圧迫感だの耳を刺激するようなやかましさなど少しもない点は立派だが、ただ高音域の上の方に、レコードのわずかな傷みやゴミなどのアラをむしろ粗く目立たせるような鳴り方をする部分があって、それらの点が4001ではもっとうまくコントロールされていたというふうにおもえるのである。ウーファーの領域は実にクリアーで緻密。それだから全体の音をしっかり支えて、むろん総体にはかなり水準の高い音質であり、ヘコー以外には聴けない個性を持っている。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆★

JBL L88P

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 L88NOVAとくらべるとかなり大幅に音質が改善されている。ノヴァを最初に聴いたのは本誌16号で、そのときは、ブックシェルフに珍しくのびのびと豊かに鳴るその響きの良さに私は最高点を入れた記憶がある。ことに中音以下──というよりウーファーの受け持ち範囲──の音質の良さは抜群で、緻密で充実して音楽をしっかり支えている。その良さはL88Pでも全く変らず受けつがれている。そしてノヴァの弱点であったトゥイーターが、全然別のモデルに変って、L26(本誌28号)で指摘したような、高域のやや冷たい鋭い鳴り方も抑えられて、よくこなれた滑らかな音を聴かせる。クラシックの弦合奏もこれなら十分にこなせる。むしろジャズの場合に、L26の弱点と背中合わせのシャープな鳴り方が魅力だという人があるかもしれないほどだ。ともかく安定なおとなしい音、それでいて力もあり緻密さ、充実感も十分持っているが、ヨーロッパ系の音とくらべると本質的には乾いた傾向があるから、かなり表情の豊かでクォリティの高いカートリッジやアンプを組み合わせたときに88Pの良さが発揮される。私見だが、このままスコーカーを加えずに鳴らす方がトータル・バランスが良いと思う。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆☆

エレクトロリサーチ Model320

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 個人的な話から始めて恐縮だが、今年の初夏に訪米した折、ロサンジェルスの友人の紹介でこのメーカーの社長(設計者)に会うことができて、このスピーカーを知った。それが縁で今回輸入されることになった全くの新顔である。いろいろな意味で変りダネといえ、わずかのスペースではとても全部が書ききれないので詳細は別の機会に書くが、第一に4ウェイという海外には珍しい構成であり、第二にその音質も従来までのウェストコースト・サウンド(アメリカ西海岸の、JBLとアルテックに代表される独特の音)とは少しくニュアンスを異にする鳴り方をする。4ウェイという構成のため、レベルコントロールの位置指定もない連続可変型なので、コントロール次第で音色が大幅に変る。最適位置にセットするのに多少の時間を要するが、私の判断でセッティングを行なった音質は、中低音のしっかりした土台の上に、ヨーロッパ的な高音のデリケートな切れこみが加わって、シャープで解像力の良い、そして腰の強い力のある独特の迫力と、ニュアンスに富んだ味の濃い音を聴かせる。デリカシーがあってパワーにも強いという点は、いままでの製品に少ない特徴といえる。

周波数レンジ:☆☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆☆★

セレッション Ditton 44

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 セレッションとしてはわりあいに新しい製品だが、デザインの共通性からみればディットン15や25などのロングセラー製品と一連の系列を整え直したという印象。というのも、この音はディットン25のところでも言ったように、いわゆる現代の高忠実度再生用のスピーカーというよりも、ヨーロッパの伝統的な電蓄のどこか古めかしい、しかし何とも息の通うソフトな響きを先ず聴かせるからで、そういうつもりで評価してそれを承知で買うのでないと期待外れという結果になる。たとえば、いわゆるハイファイ・スピーカー、或いはモニター・スピーカーのような音の切れこみや解像力はディットン44には無い。低音も多少ボンつくような鳴り方で、男声などふくらむ傾向がある。が、弦のアンサンブルもピアノのコードも、全く無理なく自然に溶け合いよくバランスして、安定で、ウォームで、それでいてよく唱う。つまり現代ふうのシャープな音とは正反対に、渋い、マットな質感で、目立たないが永く聴いて味わいの出てくるという音質だ。レベルコントロールが無いので置き方をくふうしてみたが、せいぜい30cm以下の、あまり高くない台に載せる方が良かった。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆★

ビクター SX-7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 たいそう滑らかで美しい、肉乗りの良いよく弾む音質でまず聴き惚れさせる。聴いていて楽しくなってくるという音質が、海外の優秀製品に一脈通じるよさである。ヤマハ690の清潔で抑制を利かせた、どちらかといえば冷たい肌ざわりの音に対してSX7の音には温かさ、厚みが感じられ充実した気分が味わえる。どんな曲に対しても適度のバランスを示し、余分な夾雑音がよく整理されているので鳴り方にさわがしさが無く、しっとりと静かな雰囲気をかもし出す。こせこせしない大らかさは、鳴り方にゆとりがあるせいかもしれないがともかく長く聴いていられる音質だ。レインジも十分広く、低音も重くなくよく弾み、しかも豊かだ。こう書いてくればベタほめになるが、こういう音が皆無であった国産のこのランクに優秀な製品が出てきてくれた嬉しさから、いくらか表現がオーバーになっているので、細かなことをいえば高音域の質感にもう一息の緻密さを望みたいなど注文はむろんある。また試聴したのはデンオン370と同じく量産試作の段階の製品だったので、市販されるものがこの音をそっくり出せれば、総合評価であと1点を追加したい。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆★

デンオン VS-370

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 以前に一度試作品を聴いたときはあまり良くなかったが、追加試聴に加えられた製品は相当によくなっていた。そして本誌の合同試聴のあとさらに改良された試作品を聴いたところ、ここに載っている製品からまた音質が変っていっそう改善されていた、というように、まだ量産の決定以前の段階での試聴なので、音質について細かなことを書いても市販品と違ってしまうおそれがあるので、ごく大まかな言い方をしたいが、いくつかの段階で試聴した音に共通しているのは音の彫りが深いという点で、ここに載っているものではそれが少しオーヴァーに出て聴いていてリラックスするよりもむしろ緊張させられているような固苦しさがあったが、その後の改良品ではそこにもっと弾みと柔らかさが出てきて、少なくとも音のバランスとか周波数レインジなどの点では十分なものを持っているから、この方向に改良が続けられ市販されれば、ヤマハ690、ビクターSX7と好対照をなす製品に仕上がるだろうことは断言できる。右のような理由から、今回の採点は少し辛くなっているが、ビクターSX7と同じようにもっと点数の上がる可能性を十分に持っている。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆★

オーレックス SS-510

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

〝オーレックス〟というニューブランドでデザインも含めて大幅なイメージ・チェンジを打ち出したとはいえ、以前の東芝のスピーカーを頭に置けば、これは全然別のメーカーの音、といいたいくらい、全体の音の感じが違っている。以前の東芝のどことなく薄味で、あるいは力強さ、迫力、または言い方を変えればおしつけがましいほど自己主張の強い、アクの強い音を聴かせる。バランス的には中音域を張り出させ充実させたいわゆるカマボコ型のように(聴感上はそのように)聴こえ、相対的に高音域をなだらかに抑えこんだように、あるいはレインジがあまり広くないように聴こえるので、爽やかさとか涼しいという感じの音が出にくく、相当に暑くるしい音に受けとれる。しかしこれが若者向きの、少々粗っぽいほど元気の良い聴き方の層を
ねらったのだとするとわからなくもない。あまり練れているとは言えないがアジの濃さで聴かせてしまおうという音質だ。しかし後発製品として、他のメーカーのイメージを追うような意匠は感心しにくいし、少なくとも世界に名を知られた大手メーカーのやり方ではないだろう。もっとオリジナルな意匠を打ち出して欲しい。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆

総合評価:☆☆

ソニックス AS-371

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 耳あたりのよさをねらってまとめたというような姿勢が感じられ、中音から高音にかけて、耳を圧迫したり刺激したりしやすいやかましい音域をうまく抑えてあるので聴きやすいが、反面、音の肌ざわりがあまり上等の質感とは言いにくい。それは三万円そこそこの製品にはぜいたくな注文といえるかもしれないが、これにもう少し緻密な艶が乗ると相当な音質になると思う。AS271のところでも音の肌ざわりや品位のこと、また、ひとつひとつの音を掘り起こすという鳴り方でなくやや表面をなでる感じである点を書いたが(28号)、たしかに音のスケール感やつながりなど部分的にグレードアップしている点もありながら、綜合的には必ずしもこの方がいいとは言いにくい。総体的にはヨーロッパ系のスピーカーの柔らかい鳴り方を参考にしているように思われ、それがやかましさのない鳴り方に長所として現われている反面、音に厚みや力強さを要求する音楽になるとやや薄手な鳴り方、各声部に出っぱりやひっこみが目立ってくるところなどが、検討を望みたい点といえる。AS271より一万円高いことを前提にして、以上のような注文をつけたい。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆

総合評価:☆☆★

ダイヤトーン DS-251MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 改良型のデザインはシャープで垢抜けしている。国産スピーカーの中でも良いデザインの方だが、外観もさることながら、従来は背面についていたレベルコントロールがバッフル面についたことの方が、ユーザーにとってはありがたい。というのは、この製品についているスーパー・トゥイーターが、レベルセットのスイッチを「インクリーズ」のポジションにした場合だけ動作して、音にピリッとスパイスを利かせ、「ノーマル」や「ディクリーズ」では切離されるという独特な設計であるだけに、その日の気分や聴く曲によって、ふつうのスピーカーの場合よりもいじる機会が多いからだ。ところでかんじんの音質だが、おおすじでは変っていない。28号の251のところで書いた中域の張りは最近のダイヤトーンの音のポリシィとしてむしろ強まっているし、中低域で箱の共鳴ふうの、(原因は違うかもしれないが)音をふくらませる性質も、目立って変ったようには聴きとれなかった。細かくみると良くなった点もある反面価格もペアで7千円上ってしまったので、価格ぬきで評価すれば28号とほぼ同点だが、綜合評価では0・5マイナスということになった。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

アコースティックリサーチ AR-LST

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 AR3aのあとにこれを聴くと、さすがに格が違う、という感じをまず受ける。第一に低音の土台がしっかりして音の坐りがよく、浮ついた感じの少しもない安定な鳴り方が、やはりローコストのスピーカーとは全然別ものであることを聴かせる。よく整って、中音域が充実した明るい音質。高域のレインジも広く、幕を取去ったようにクリアーな音。しっとりした音というには少々乾いた感じのほうが強いが、それは必ずしも不快な乾きでなく、むしろ音ばなれの良い、音の抜けの良い、といった印象になる。低音も緊っていながら弦の唸りや弾みがよく出る。ある水準を確かに突き抜けた品位の高い音質であることがよくわかる。ただ、スピーカーの構成上、第一に置き方によって音色がかなり大幅に変わる。それと関連して、二つのスピーカーの中央に坐ると、ちょっと身体を動かしても音像定位が動いたり位相が廻ったような変な気持になることがある。レベルコントロールも一個のノブで低・中・高音のバランスを変える独特なタイプで、使いこなしにはやや熟練が要求される。30万円という価格を考えると、ほかに名器が多いだけに選択が難しくなる。

周波数レンジ:☆☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

フィッシャー ST-550

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 ジョーダン・ワッツのGTやセレッションのディットン25などのところでも言ったことだが、スピーカーの音の鳴らし方に、いわゆる高忠実度をねらったものばかりでなく上質の伝統的な電気蓄音機の音──言いかえれば音色を巧みにコントロールして、家族そろって音楽でくつろぐことのできるような快い音を作ろうという方向があるので、このフィッシャーもそういうカテゴリーのスピーカーではないかと考えないと評価が大幅に変ることになるだろう。この音は鳴りはじめからたいそう気持のいい、アトホームな寛ろいだ雰囲気がかもし出され、ディットン25が自然な響きを大切にした音ならフィッシャーはもう少し人工的な、あるいは自然食品に対する人工食品のおいしさ、あるいは良くできた缶詰のおいしさを思わせる。音楽に必要なディテールは大掴みながらもきちんと鳴らすが、総体に鷹揚な鳴り方には大型アメリカ車の走行の快さと一脈通じるところがある。この種の鳴り方を必ずしも好きでない私の耳にさえ、何とも楽しく気持の良い音に受けとれるというところに、このスピーカーが決していいかげんに作られたものではない実力を感じる。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

テクニクス SB-1000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 最初メーカー指定のレベルセット(ノーマル・ポジション)で鳴らしてみると、中音も高音も張り出しすぎて音が硬くやかましく音のつながりもよくないように思えたので、レベルコントロールをいじってみた。中音、高音とも2~3dB絞ったところが一応のバランス点だったが、それでも音のつながりがあまりよくない。それはレベルセットの問題よりも低音・中音・高音の各ユニットの音色の違いから来るもののようで、中でも中域の上の方かそれとも高域のどこかで、レコードのスクラッチやテープ・ヒスなどの入力が入るとそれとは別のヒス性の固有共振が鳴って、それは微量とはいうもののこのクラスのスピーカーとしては、あるいはこのスピーカーの主張や方針からすれば、中音と高音のユニットに硬質の固有のクセが強すぎるのではないかと思われる。念のためつけ加えれば、試作当初にモニターした音は、これほど楽器の音を変えはしなかったしもっと滑らかであった。この製品に限らずスピーカーは、量産に移して音質を揃えることの最も難しいパーツには違いないが、今回聴いたものは鳴り始めたとき一瞬どこか故障ではないかと錯覚したほど、異色の音質だった。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆
ダイナミックレンジ:☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆
プレゼンス:☆
魅力:☆

総合評価:☆

アコースティックリサーチ AR-3a

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 このスピーカーには、よく、ウォームとかソフトなどの形容が使われるが、同じ暖かさでもたとえばディットン25の場合には薪を焚いた温かさ、スチームのぬくもりのような、どこか湿った温度を感じるのに対して、AR3aは電気ヒーターの乾いた暖かさとでもいえる。デザインが変ったが、音のバランスやレインジなど初期のものより自然な感じになってきた反面、パワーには少々弱くなってきたようにも思われて、音量を上げてゆくにつれて中域の張りが次第にやかましい感じが出てくる。それにしてもこのバランスはなかなか見事で、さすがはロングセラーの製品。どんな音楽を鳴らしても楽器固有の音色や合奏のバランスを実にうまく鳴らし分ける。本質的にシャープに切れこむタイプではないから、音像は多少太い感じに表現され、ソロ・ヴォーカルが中央にぴしっと定位するというような効果は出にくい。それは定位の問題よりもこのスピーカーの音の性質そのものともいえ、スクラッチノイズの出かたなどわずかだがまいわりつくような傾向が聴きとれ、上質な光沢が出にくい。バランスはよいがその辺のクォリティに薄手のところがある。

周波数レンジ:☆☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

パイオニア CS-3000A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 以前のモデルCS3000を岡、菅野両氏と試聴した際(本誌23号)には、中音と高音の良さに対して低音がよくないという点で3人の意見が一致していた。そういう感想を持ったのは私たちばかりでないらしく、あれから間もなくウーファーのユニットの設計を変えたCS3000Aになった。中音や高音のユニットは以前のままらしく、23号でも指摘した、良い意味で金属質の光沢を持った特有の音色は相変らずで、私はそれを、ガット弦さえも金属弦に変えたような響き方だが、それは必ずしも不快な音でないばかりか一種の爽快感さえあると表現した。ところで低音だが、改善されて欲しいと期待を抱いたにもかかわらず残念ながら今回の低音も前回の音と本質的には変っていない。全体に重く、中音にかぶってピアノのタッチやバリトンの低音領域を鈍く太い音像で表現する。軽く、明るく弾みのある生き生きした表情で鳴ってくれれば、中~高音域の魅力をもっと生かすことができるだろうにどうにも惜しい。レベルセットは前回と同じくスイッチ切替の中音をc、高音をeのポジションにセットしたときがまあまあのバランスだった。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆

総合評価:☆☆

セレッション Ditton 25

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 ずいぶん以前から聴き馴染んだスピーカーだったが、今回の製品では外装デザインが変り、音質も少しだが変っていると聴きとれた。何よりもまず、暖かい音、穏やかな音、心温まるようなしみじみとした鳴り方が特色だ。言いかえればこういう音は、いわゆる高忠実度スピーカーの、透徹に音を分析してゆく完璧さとは逆のゆき方。イギリスには、ハイ・フィデリティに対応するグッドリプロダクションという言葉があるがまさにそのものを思わせる。実に快い安心感に身をまかせておける。何とも豊かな気持になってゆき、ハイがどうのレインジがどうのという聴き方を一切放棄したところからでなくてはこの鳴り方の魅力は説明しにくい。ヨーロッパには古くから良質の電気蓄音機の作り方の伝統があり、音楽のバランスを決してくずしたりすることなく、しかもプログラムの欠点を露わにしたり耳を刺激したりするような鋭い音を注意深くとり去って、良識ある姿勢を保ったこういう鳴り方が、ハイファイ・スピーカーの──たとえばKEF♯104の閃くような鳴り方に対して一方に厳として存在している。このスピーカーは、床の上に直接置いた方がバランスがいい。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆☆

ブラウン L710

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 ヘコー4001の直後に聴くとはるかに甘口の音に聴こえるが、それはヘコーの音とくらべるからで、参考のためにヤマハ690その他二~三のスピーカーとくらべてみると、やはり辛口の部類、ひき緊った硬質のやや冷たい肌ざわりを持った音であることがわかる。とはういものの、ヘコー4001の徹底した鳴り方にくらべると、ブラウンの方がそうした固有の色あいは薄くなり、言いかえればもっと万人向けの味に仕上げてある。中低域にややふくらみを持たせた作り方のせいかそれともヘコーより箱が大きいせいか、鳴り方がゆったりしているので、ローレベルでの、あるいは弦合奏などでのニュアンスがやわらかく出てくる。ピアノのタッチも、したがってヘコーよりも甘いが、しかし音像をくっきり浮き彫りさせるだけの切れこみの良さは失っていない。中~高域にかけての艶めいて滑らかなよく延びた音質の中に、ときとしてわずかにプラスティック的な安手の響きが混じることのある点はわずかな弱点か。しかしヘコーと好対照をなす製品で、ヘコーのように徹底した方が試聴後の印象は強いが、比較しても優劣のつけにくいスピーカーであった。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆☆★

ヘコー P4001

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 P4000の改良型ということで初めて聴いた製品。ヘコー特有のかちっと引締った硬質の、クリアーですばらしく緻密な音質。余分な夾雑音を注意深くとり除いたように解像力のよい、ドイツ系スピーカーの伝統である明快な音質はときとしてやや骨ばった感じに聴こえ、ふわりと漂う柔らかさに欠ける点がわずかに不満であるものの、濁りのない鮮明な鳴り方がつい聴き惚れてしまうほどの特色ある魅力になっている。小型の割には低音もよく出るが、緊りのよいやや硬質の弾力ある鳴り方をする。壁に近づけたりトーンでわずかに、低音の土台を補って聴く方がバランスが良い。ピアノのタッチは明晰そのもので、ブライトで切れこみよく、響きも適度に表現される。つまり硬質でありながら響きも断ち切ってしまうようなドライさではない。だから女声の艶や弦合奏の唸るようなユニゾンも充分に聴き惚れさせる。しかしこのスピーカーの音はいわば辛口の最右翼。ショッキングなほど張りつめた音で、おそらくこれ一機種を永く聴いていると、もうひとつの面──もっと柔らかなニュアンス、ゆっとりしたゆとりある響き、などが欲しくなるかもしれない。が、こんなにスカッと気持の良い音は、ほかに聴けない。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆☆

総合評価:☆☆☆☆★

ボザーク B-301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 多くのスピーカーが次第にインターナショナルに、言いかえれば万人を納得させる、クセの少ない鳴り方になってきていることは別項のKEF♯104などの明らかな例があるが、そうした中でこのスピーカーはいわば地酒の味、魅力も欠点もそれぞれが色濃く同居して、現代の平均的尺度では計りにくい個性の強い音色だ。魅力は主にウーファーにあり、欠点は主にトゥイーターにある。トゥイーター・レベルを落し(背面の3点切換を “MELLOW” のポジションにする)アンプのハイ・フィルターを落しさらにトーンでハイを抑えてナロウ・レインジで聴くと中域以下のまさにメロウな、おだやかな暖かい鳴り方は実に気持が良く、ウーファーの良さが楽器の基音をしっかりと支えていることがわかる。ところがトゥイーターの音ときたら、おそらくあまり周波数の高くないあたりに一部分、固有の共鳴音が、どんな楽器もその音一色で鳴らすほど強く、まさしく “tweet”(ピイチク)であり “hiss”(シャー)そのものといった鳴り方をする。ブックシェルフの概念とは別に箱を床の上にごく近く置く方がバランスが良い。パワーにも強いが、私にはトゥイーターの鳴り方が異質すぎてついていけない。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

タンベルグ TL5010

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 これよりランクが下のTL2510がなかなか良い鳴り方をしていたので(28号参照)、これにスケール感や音のゆとりが加わればさらに良いだろうと期待して聴いた。キャビネットもウーファーのユニットもひとまわり大きくなっただけに、中低域にふくらみが出てよく響く。がその鳴り方は少しばかり楽天的で低音楽器を締りなくさせる。中域から高域にかけての強調感のない滑らかな美しい響きは2510と共通の特徴で、弦や声のハーモニクスをきれいに漂わせるが、全体の感じはハイファイ型というよりはヨーロッパの上質な電蓄の人工的美しさで、キャビネットなど適度に鳴っているのでハイパワーを送り込まれたら決定的に弱点をあらわにする。オーケストラも耳あたりの良さからいい気持になってつい音量を上げると、ハイレベルでは合奏が濁ってしまうし、本質的に線の細い腰の弱い音質だから打音の系統に弱さをみせ、ハイパワーでは音がつぶれ気味になる反面、中高域にやかましさが出てくる。おさえかげんの音量での甘く柔らかな響きの快さをとるスピーカーといえる。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

マランツ Marantz 7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 マランツ・セブンと聴くと一斉を風靡した名プリアンプの方を思い起こしてしまうが、スピーカーにこのナンバーをつけたのは、このモデルを決定版にしたいという意味なのだろうか。3ウェイという構成の割には周波数レインジが(少なくとも聴感上は)それほど広くないように感じる。高域のレインジが狭い或いは落ちているという感じは、アメリカのスピーカーには割合に多いタイプにちがいないが、たとえばテープ・ヒスのような高域のノイズ成分、あるいは実況録音の拍手の音などのノイズ性のスペクトラムが全体に低い方に引きずられるように聴こえ、トゥイーターの質があまり上等でないことが感じられる。バランス・コントロールは中、高音ともスイッチによる3点切替だが、高音を一段上げても音のスペクトラムの傾向そのものは変らず、むしろトゥイーターの鳴り方をよけいオーヴァーになる。パワーを送りこむにつれて明るくよく唱うような鳴り方はひとつの特徴だが、音の掴み方がやや大ざっぱで滑らかさ、緻密さをやや欠いた音質といえ、じっくり聴きこもうという目的には向きにくい。

周波数レンジ:☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆★

リーク Sandwich 600

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 冷たい硬質の芯が音の輪郭をクッキリと隈取るような、独特のクリアーな鳴り方で聴き手をしっかり掴まえて、このスピーカーの醸し出す艶めいた華やかなプレゼンスに惹き込むような音を出す。この長所を生かすには、一般のブックシェルフのような高い台に置くよりも、せいぜい15cmから20cmどまりの共振を生じない頑丈な──たとえばブロックなどの台に載せることと、高域に濁りのないアンプで鳴らし、トーンコントロールでハイをわずかに抑え、場合によってはローをわずかに補強するとよい。キャビネットは大柄の方でそれにしては共鳴も充分に抑制されているので低音のにごりは少なく、スケールの大きい立体感が味わえる。ただ、高音域の鮮明な鳴り方の中にやや金属質を感じさせる強調感があって、トーンコントロールでバランス的に抑えてもそれとは別に楽器のハーモニクスをかなり個性的に色づけして鳴らすし、中音以上高音に至る音域の質感にどこか粗さがあって、編成の大きな複雑なハーモニーの場合にそれを多少濁してしまうことがあるのが弱点といえようか。しかし総体にはなかなか良いスピーカーだ。

周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆★