Category Archives: スピーカーシステム - Page 48

JBL L65A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 まだあまり鳴らし込まれていないらしく、トゥイーターが少々きつく細い鳴り方をするので、レベルコントロール(Brilliance)を-2から-3程度まで絞って聴いた。以前のL65でもあまり高い台に乗せない方がよかったが、今回の65Aの場合には、むしろ台をやめて床(フロアー)にじかに、背面も壁にかなり近づける置き方の方が、低域の量感が増してバランスがよかった。クラシックからポピュラーまでどのプログラムソースに対しても、KA7300Dやラックス系のアンプではそのどこかウエットな音がL65Aを生かすとはいいきれず、CA2000のようなさらりとした音が、またカートリッジでは最初考えた4000DIIIでは少々音が軽くしかも輝きすぎで、ADCのZLMや、オルトフォンMC20の方がよかった。この状態でシェフィールド等をCA2000のメーターがしばしば振り切れるまでパワーを放り込んでみたが、瞬間で200Wを越えるパワーにも全くビクともせず、音域のどこかでバランスをくずしたり出しゃばったりせずに、またことさら尖鋭だの鮮明だのと思わせずに、何気なくしかも高い密度で鳴る点はさすがと思わせた。ただクォリティの面ではCA2000でもまだ少々力不足の感がある。クラシックでもバランス的にはおかしいというようなことはないが、JBLのこのクラスには4333Aなどから上の機種の聴かせるあのしっとりした味わいを望むのは少し無理のようだ。

B&W DM6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 新着の製品を聴くたびに少しずつ改良のあとが聴きとれて、まだ改善途上のような印象も受けるが、今回のものは初期に聴いたものよりも弱点が少なく、かなりの水準に達していると思った。総体にやや細身の音、という感じはイギリス製のスピーカーによくある作り方だが、中域から高域にかけて音の定位や雰囲気がよく出る反面、中低域以下の密度や音を支える力がもう少し欲しくも思われる。たとえば、ブラームスのP協のような、音に充実感あるいは重量感の要求されるような曲では、中低域の厚みの少ないことがかなりマイナス点になる。F=ディスカウの声も(声自体の滑らかさや艶は十分に出るが)やや若くなる傾向。またバルバラはもともとやせて細い女性だが、それがいっそう細身になるし、伴奏のアコーディオンの一種独特の唸るようなうねりが出にくい。ただ、中~高域の繊細な表現はなかなか捨てがたいが良さでもあるので、高域に強調感の少なく中低域に厚みのある、たとえばSPUやVMS20Eのような系統のカートリッジ(ポップスならADCやピカリング系統)をうまく組み合わせれば、独特の味わいが生かせる。置き方の面では、付属のスタンド(脚)がついているので台は不要だ。背面に低域のコントロール(3段切換)がついているので、部屋の音響条件によって調整することができるのは便利。試聴の際は壁に近づけて-1にセットしてちょうどよかった。

タンノイ Berkeley

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 同じ英国製で、価格的にもセレッションの66との比較に興味のある製品だ。ひと口でいえば、ディットン66があくまでも肌ざわりの暖かさ、柔らかさでまとめているのに対して、タンノイは総体に辛口で、やや硬質に音の輪郭をくまどって聴かせる。たとえばベートーヴェンのセプテットでは、ヴァイオリンなど弦の音が、セレッション66よりも金属室の感じが増してやや硬くなるが、それは必ずしも悪い意味ではない。その証拠に、クラリネットなど木管の音も決して不自然さがないし、ただその存在を66よりもきわ立たせるように聴かせる。ブラームスのP協で、ピアノの高弦の打鍵音が、小気味よくビインと響く。弦合奏のトゥッティではやや硬さが目立つが、この辺になると、ホーントゥイーターのエイジングを待たなくては正当な評価が下しにくい。バルバラの歌は、66よりも硬めの艶があってよく張り出すが奥行きも十分に聴かせるので空間のひろがりもよく再現される。66の方がどこかほんのりした感じで聴かせるのに対し、バークレイの方がもっと直接的で音源に肉迫した印象だ。その点はシェフィールドで66よりも尖鋭で鋭角的な表現になることからもわかる。総じてカートリッジは455EよりもMC20の密度の重さがよく合うし、むろんSPUの充実した渋さも良い。アンプは38FD/IIの柔らかさも悪くないが、TR(トランジスター)のグレイドの高い製品の方がいっそう密度の高い音を聴かせる。

エレクトロボイス Sentry V

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 脚がないのでブックシェルフのようでもあるし、大きさからいえばフロアータイプのようでもあり、どういう置き方が最良なのか、かなり大幅に試みてみた。まず20cmねどの台でインシュレーターを介してみる。低域がやや軽く、中~高域が少々硬い。次にブロックを寝かしてインシュレーターを介してみるが、あまりしっくりこない。そこで台をやめてインシュレーターのみ介して置いてみる。背面をかなり壁につけた方が低音がしっかりする。結局、インシュレーターも何もなしで床の上にそのまま、背面を壁にぴったり密着させたときが、最も落着いてバランスがよかった。E-Vの作る音は昔からわりあいに穏便で、とりたてて誇張というものがない。クラシックのオーケストラも十分に納得のゆくバランスで鳴らす点はさすがだ。しかしヨーロッパの音のようなしっとりした、ウエットで艶のある味わいとは違って、本質的にアメリカの乾いた風土を思わせる。こういう音の場合、カートリッジやアンプも、4000DIIIやCA2000のように、ウエットさのない音で徹底させる方が、明るさ、分離のよさ、アタックのよく伸びる気持良さが生かされる。シェフィールドのレコードでパワーを思い切り放りこむと、ヨーロッパや日本のスピーカーの決して鳴らすことのできない、危なげのなく音離れのよい、炸裂するような快適な音が聴こえてくる。大づかみだがカンどころをとらえた鳴り方だ。

ビクター FB-7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 低音が非常に締っている、と思ったがよく聴くと重低音がまるで出てこない。できるだけ低音を補うために、床に直接置くのはむろんのこと、背面を壁にはほとんどぴったりつけて置いてみた。さらにアンプのトーンコントロールで重低音を増強してみる。バックロードホーンの低音の難しさを久々に思い知ったが、ただ、こうして低音を補強する使い方をしてもホーン特有の共鳴音がほとんど耳ざわりにならないほどよく抑えられている点はみごとだ。が、その「抑えた」印象は低域ばかりでなく全帯域をぎゅっと引締めたようで、聴感上のレンジが必ずしも広く思われない点とあいまって、総体にあまりにも音楽の情感を拒んだ素気ない作り方のように思える。以前、ビクター大和工場で聴いた試作品とはずいぶん違う印象で、前のはもっと開放的で、高音域にももっと鮮かさがあったが、その反面のややにぎやかというか派手な鳴り方をおさえたつもりなのか、しかしこれでは少しおさえすぎのようで、たとえばシェフィールドやオーディオラボのポップス、ジャズでも、リズムに乗りにくい硬い表情が先に立ちすぎる。能率がおそろしく高いのでアンプのパワーの点で楽なこと、また、国産のある種の製品にありがちの暗く、重く、粘った鳴り方の欠点がなく、さっぱりした鳴り方は良い面といえるが、それにしてももう少し表情を柔らかく、反応をシャープにしたい感じだ。

セレッション Ditton 66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 柔らかく暖かい、適度に重厚で渋い気品のある上質の肌ざわりが素晴らしい。今回用意したレコードの中でも再生の難しいブラームス(P協)でも、いかにも良いホールでよく響き溶け合う斉奏(トゥッティ)の音のバランスも厚みも雰囲気も、これほどみごとに聴かせたスピーカーは今回の30機種中の第一位(ベストワン)だ。ベートーヴェンのセプテットでは、たとえばクラリネットに明らかに生きた人間の暖かく湿った息が吹き込まれるのが聴きとれる、というよりは演奏者たちの弾みのついた気持までがこちらに伝わってくるようだ。F=ディスカウのシューマンでも、声の裏にかすかに尾を引いてゆくホールトーンの微妙な色あいさえ聴きとれ、歌い手のエクスプレッション、というよりもエモーションが伝わってくる。バルバラのシャンソンでも、このレコードのしっとりした雰囲気(プレゼンス)をここまで聴かせたスピーカーはほかにない。こうした柔らかさを持ちながら〝SIDE BY SIDE〟でのベーゼンドルファーの重厚な艶や高域のタッチも、決してふやけずに出てくるし、何よりも奏者のスウィンギングな心持ちが再現されて聴き手を楽しい気持に誘う。シェフィールドのパーカッションも、カートリッジを4000DIIIにすると、鮮烈さこそないが決して力の弱くない、しかしメカニックでない人間の作り出す音楽がきこえてくる。床にじかに、背面を壁に近づけ気味に、左右に広く拡げる置き方がよかった。

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 おだやかで、おとなしく、永く聴いて聴き疲れのしないバランスの良い音がする。言いかえれば近ごろの国産スピーカーのよく鳴らすような、聴き手を驚かせるような鮮明さはないし、アメリカのスピーカーのあのハイパワーでどこまでも音がよく伸びるダイナミックな快さとも違う。やはりこれはヨーロッパの音だ。国産スピーカーの音が何機種か並んだあとに、この音が鳴るとなおさらそう思う。かなり寿命の長いスピーカーだが、ごく初期の製品の聴かせた、あのシャープで恐ろしいほどの音像定位の、ことに空間のひろがりの中にソロがピシッと定位するあの鳴り方は、その後の製品からは聴きとれなくなってしまったのが何ともふしぎなだが、反面、その当時の製品では、高域端(ハイエンド)に明らかにクセがあったし、中域など少しおさえすぎて、イギリスの少し前の世代のスピーカーに共通の高低両端の誇張されすぎたバランスだった。ここ数年来のものは、その点バランスがよくなって、しかもバルバラのシャンソンのレコードなどで、旧製品ほどとはいえないにしてもその雰囲気の描写はやはり見事だ。ただ、能率がかなり低く、しかもハイパワーを加えると音がつぶれる傾向があるので、平均音量としては90dBまでがいいところ。高域のソフトドームの特徴であるアタックの丸い音なので、新しいポップス系のレコードの切れ味の面白さはやや不得手なタイプのプログラムソースといえる。

オンキョー Scepter 10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 置き方あるいは置き場所にやや神経質な面のあるスピーカーだ。まず定石どおりにフロアーにじかに置いたが、壁からの距離をいろいろ調整しても、どうも低音のどろどろとこもる感じが抜けきらない。約7~8cmほどの低い台に乗せてみると、やや救われる方向が聴きとれたので、さらにその台とスピーカーとのあいだに、ゴム製のインシュレーターを挿入してみた。これで背面を壁から約30cmほど離して置いたところで、低音のこもりがかなり除かれた。レベルコントロールはオンキョー独特の3段切換で、単にトゥイーターのレベルを変えるだけでなくウーファーとの音のバランスのモードを三様にセレクトするという方式だが、いろいろのプログラムソースに対してはやはり中点(NORMAL)が妥当だった。低域が前述のようにやや重い傾向があるが、中~高域も(国産に概して多いが)クラシックのオーケストラでは、たぶん1~2kHzあたりと思うがやや硬い芯を感じる。F=ディスカウの声では、やはりホーン特有の音色が感じられる(サンスイG300もこの点は同じだった)。ホップス系では、パーカッションの音などもう少し音離れをよくしたいが、試みに前面の音響レンズを取り外してみると(指向性やバランスは多少くずれるが、そしてかえって低域の重さを意識してしまうが、高域に関しては)曇りがとれて抜けの良い鮮度の高い音が楽しめた。

サンスイ SP-G300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 同じサンスイでも、SP-L100と逆に、試作当初の製品よりずっとこなれてきて、以前はもう少し派手な音、あるいはやや華やかすぎのところがあって、クラシックよりはポップス系に焦点を合わせたスピーカーのように感じていたのが、今回聴いた製品では、ベートーヴェンの序曲(概して国産のニガ手なソース)でも、意外といっては失礼かもしれないが一応納得のゆくバランスで鳴った。背面を壁にやや近づけぎみの方が低域端(ローエンド)の豊かさがよく出る。クラシックではトーンコントロールで更に低域をわずかに補った方がいいが、それでもソニー、ヤマハ、ダイヤトーン等では多少感じられた箱っぽい低音がG300にはあまりなく、明るく音離れのいい、よく弾む音で聴いていて楽しいし不自然さが少ない。さすがにブラームスのP協等でパワーを上げてくると、中~高域にやや硬さが出てくるし、F=ディスカウの声も必ずしも十分滑らかとはいい難いが、国産スピーカーの鳴らすクラシックとしてはかなり良い方だ。バルバラのシャンソンや、ジャズ、ポップスになると、がぜん精彩を発揮して、新鮮で音像がクリアーで、ハイパワーでもよく伸びて音がくずれない。アンプやカートリッジは、ハード型ドライ型を避けて、しっとりした音の、グレイドの高い製品を組み合わせたい。ゆかの上にじかに置いても音がこもったり音離れの悪さなどの欠点が出ないので、台は不要だ。

ソニー SS-G7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 周波数レンジは十分に広い。帯域内での目立った凹凸もなくよくコントロールされている。指向性も悪くない。音の濁りや歪みは感じられない。大音量でもくずれたりせず、小音量でも細かな音がよく聴きとれる。……こうして耳をいわば測定器のように働かせて聴くかぎり、平均点以上の点数をとる。しかし少なくとも私には、音楽的にいって聴きどころのよく掴めないスピーカーだ。たとえばクラシック。ベートーヴェンの序曲やブラームスのP協では、ダイヤトーンほどではないにしても中~高域に硬質の芯があって、弦のしなやかなトゥッティが聴こえてこない。高域端に爽やかさがないのが一層その感じを強める。低音域の一部で、こもるといっては言いすぎだが箱の中で音の鳴る感じがわずかだがあって自然さを損ねる。F=ディスカウでは、MIDレベルをやや絞ると一応彼の声らしくなるが、バルバラのシャンソンでバックの伴奏とのあいだに奥行きが感じられず同一平面で鳴る感じが強い。ジャズやポップスでは、どうも音が濁って重い感じで、スウィングしない。聴き手の心が弾んでこない。4500Qのようなクセの強いカートリッジで強引にドライブしてやると、多少のおもしろみは出てくるが……。置き方はいろいろ試みたが、ごく低い(約8cm)台に乗せ、背面は壁から離す方がよかった。

KEF Cantata

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 全音域に亙って周到にコントロールされた、誇張の少しもないバランスのよさ。それは国産スピーカーを聴いてきたあとでは、しばらくのあいだ物足りないくらい柔らかな音に聴こえる。が、ベートーヴェンの序曲やセプテット、あるいはブラームスのピアノ協奏曲第一番などを鳴らしてみると、やはりこれがクラシックの鳴り方として本当だと思える。もう少し正確にいえば、この方が確かに欧米の音楽ホールで聴こえてくる(日本の多目的ホールで鳴る音とは違う)本もののバランスだ。旧Cシリーズのように中域が引っこんだり、ハイエンドが出しゃばったりせず、全く安定な音を聴かせ、パワーにも強くなったが、能率は最近の平均値からみるとやや低い方なので、もしもポップス系の音楽までこなすならかなりハイパワーのアンプを用意した方がいいし、中・高各音域のレベルコントロールを一段ずつ上げた方が音の鮮度が増した感じになる。またクラシックの場合でも、私個人の好みでいえば、カートリッジは455EやEMTのような、またアンプは(今回用意したものの中では)KA7300Dのような、やや味の濃い組合せの方が楽しめる音になる。言いかえればもうひと味、色どりというかトロリとした味わいがあってもいいのではないかと思えるが、手もとに置いて永く聴きこむには、案外この穏やかな音が飽きのこない本ものなのかもしれない。

セレッション Ditton 66

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは遠くひびく。全体的に遠い。
❷低音弦の動きに鮮明さと張りが不足している。
❸各楽器のひびきのとけあい方は悪くない。
❹第1ヴァイオリンがたっぷりひびくところはいい。
❺一応のもりあがりは示すが、細部くっきり型とはいいがたい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きく、たっぷりひびく。
❷音色対比は充分で、よくとけあう。
❸室内オーケストラのものとしては、ひびきが重すぎる。
❹一応の特徴は示すが、さわやかとはいいがたい。
❺音色の特徴をきわだたせる傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はかなり大きい。吸う息、吐く息を誇張しがちだ。
❷接近感はききとりにくい。残響をひっぱりすぎるためだ。
❸オーケストラと声とのとけあい方は悪くない。
❹はった声のかたくならないのはいいが、鮮明さに欠ける。
❺各々の音色を充分に示すものの、鮮明さが不足だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、横一列の並び方がききとりにくい。
❷ひびきがひきずりがちなため、音楽の鮮明さが不足する。
❸かなりたっぷり残響をひっぱっているので、細部は不鮮明だ。
❹各声部のからみあいは、はっきりしにくい。
❺最後のひびきは一応ひっぱられている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音のひびき方が鈍い。
❷後方へのひびきのひきは、一応とれている。
❸もう少しひびきに浮遊感がほしい。
❹前後のへだたりはとれているが、音ののびに自然さがない。
❺ピークで示される迫力はなかなかのものだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきにもう少し透明感がほしい。
❷ギターの音像があまりに大きすぎる。
❸ひびきが大きくふくらんで、本来の効果を発揮しえない。
❹かなりこれみよがしにめだってひびく。
❺他のひびきの中にうめこまれてしまっている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶いかにも豊満にひびきすぎて、異色だ。
❷重厚ではあるが、このグループのサウンドらしからぬものがある。
❸必ずしも乾いているとはいいがたい。
❹ドラムスの音像は大きく、力を強調する。
❺声は総じてうめこまれがちで、効果的とはいえない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はきわめて大きいが、力強いとはいいがたい。
❷指の動きのみならず、息づかいまでもきかせる。
❸幾分誇張ぎみに音の尻尾をきかせる。
❹力を感じさせるが、こまかい音の動きに対しては問題がある。
❺音像的な対比は自然でないところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重くひびくドラムスに切れの鋭さがほしい。
❷ブラスのつっこみは、力強くはあるが、輝きに不足している。
❸きわめて積極的に前方に張りだしている。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はいきない。
❺もう少し鋭くリズムが刻まれると、めりはりがつくだろう。

座鬼太鼓座
❶比較的近くできこえるので、距離感がない。
❷さらに脂っぽさがなくなれば、尺八の特徴が示せるだろう。
❸ききとれるものの、末広がりのひびきではない。
❹力感ゆたかなきこえ方がして、迫力はある。
❺きこえる。しかし大太鼓の消え方は示せていない。

ダイヤトーン DS-50CS

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ダイヤトーンの音は、つねに中音域の密度に最も重点を置いた作り方が特徴だ。スピーカー作りの方法論的にいえば、中音域(ごく大まかにいえば500Hz近辺から2kHzあたりまで)に密度を感じさせるためには、いわゆる手抜きのない正攻法の設計が要求される。人間の耳に最も敏感な帯域であるだけに、張りすぎればやかましくなるし、おさえすぎると迫力や緻密さが失われる。プログラムソース別にみると、ポップス系にはやや張り気味に、そしてクラシック等にはやや抑え気味に作る方がいい。ダイヤトーンの音は、その意味でポップス系に焦点を合わせてあると聴きとれる。言いかえれば、オーケストラのトゥッティ等では、もう少し中域のかたまりを解きほぐして音の表情をやわらげ、空間のひろがりを出したいと感じる。またこれもDS40Cと共通のことだが、たとえばソロに対するバックが同じ平面状で鳴るように聴こえる傾向がある。つまり音像がよく張り出す反面、奥行きの表現に弱点がある。40Cよりも明らかにグレイドの高い音質だが、部分的には中域をもう少しおさえたいし(この点はレベルコントロールを一段絞ることでやや改善される)、低域端(ローエンド)でももう少し開放的な弾みが、そして高域端(ハイエンド)のもっとよく延びて繊細な感じが、それぞれ欲しい。置き方についてはフロアーに直接、そして背面を壁からやや離すのがよい。

ダイヤトーン DS-40C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 このスピーカーにとくに向いているプログラムソースは、たとえばシェフィールドのダイレクトカッティング・レコード等の鳴らす一種鮮烈なポップス系の音楽だ。そして音量をあまり絞らずに、少なくとも平均85dB以上、できれば100dBぐらいの平均音量になるくらいのパワー(本誌試聴室での場合、おおよそ3ワットから30ワット以上)を放り込んで鳴らすと、ブラスの輝きや迫力、あるいはパーカッションの力強さや弾みがおもしろいように浮かび出て、聴き手を楽しませる。ところがクラシック系の音楽、あるいはポップス系でも、とくに弦楽器や女声あるいは木管のように、しなやかさ、しっとりした艶、あるいは暖かい息づかいなどを要求したい傾向の楽器を、音量を絞って楽しみたいという場合には、このスピーカーの本来内包している力の強さが逆にマイナスになりがちだ。もしもそういう音楽までこなそうとする場合には、中域の張ったカートリッジやアンプを避けて、できるだけ繊細な表情の出る組合せをくふうしたい。試みにトゥイーターのレベルを一段絞ってみたが、ウーファーの中高域の張り出すところが逆に強調されてつながりが悪くなる。むしろ一段上げてこの鮮明な迫力に徹してしまう方がおもしろいと感じた。フロアータイプなので台は不要。背面は壁からやや離す方がよかった。

テクニクス SB-5500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 いろいろな台を試みたが、ゆかの上にそのまま置くのがいちばん良かった。フロアータイプなのだから当然と言われるかもしれないが、兄貴分のSB7000は、適当な台に乗せてやらないと低音がダブつく傾向がある。SB5500はその必要がなかったというわけ。ただ、背面は壁から適度に離して、できるだけ左右に大きくひらいて置く方が、このスピーカーの特長である、音像のひろがりと定位がいっそうよく出る。
 かなりウェットな感じの音に聴こえるが、それは、おそらく1~2kHzあたりの音の力がやや薄らいでいるせいかもしれない。そのもう少し上の中高音域では、逆にやや張り出し気味に聴こえるせいか、総体に線の細い、またプログラムソースによっては力の不足したややカン高い音で鳴ることがあるので、アンプやカートリッジでその面を補う組合せをくふうする必要がありそうだ。たとえばカートリッジでも、V15/IIIやXSV3000のように中音域の明るく張る音がいい。アンプはSQ38FD/IIはウェットになりすぎて、CA2000のやや素気ない音がかえってうまくゆく。どちらかというと、うまく鳴らすまでにやや時間のかかったスピーカーで、ということは、スピーカー自体が相当に個性の強い音色を持っているということになるのかもしれない。以前テストしたものの方がもう少しクセの少ない音がした。

フェログラフ S1

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびく。
❷スタッカートは、重さを強調せず、ひろがりを示して好ましい。
❸各々のひびきの音色的な特徴をよく示している。
❹低音弦のピッチカートがふくらまないのがいい。
❺迫力には幾分とぼしいが、しなやかなひびきがいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、音像が小さく、軽いひびきで示される。
❷各々のひびきがきわめてさわやかに、音色対比充分に示される。
❸室内オーケストラのひびきの特徴をすっきり示す。
❹細身のひびきでさわやかに提示する。
❺鮮明だが、音にもう少し力があってもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がほどほどで、セリフの声にわざとらしさがない。
❷接近感が無理なく、誇張感なく、自然に示される。
❸楽器と声との、小味だが、バランスのいいとけあいが好ましい。
❹はった声がかたくならないのはいいが、もう少し前にでてほしい。
❺オーケストラと声とのバランスがいいため効果的だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にすっきりならんでいるのがよくわかる。
❷声量をおとしても言葉は不鮮明にならない。
❸声に自然なのびがあるために、細部の表現も無理がない。
❹ひびきに一種の軽やかさがあるためだろう、明瞭だ。
❺しめくくりは、ポツンと切れることなく、のびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、,音場的対比がよく、無理なく示される。
❷奥へのひきもよく、ひろがりを獲得できている。
❸ひびきの身軽さが、ここでこのましく示される。
❹ひびきの流れがとどこおることなくひろがる。
❺幾分力不足ぎみだが、一応の効果はあげる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感をもったひびきがすっきりと後にひいている。
❷ギターの音像が小さめに、くっきりと示される。
❸ひびきがふくらみすぎていないのがいい。
❹さわやかに、すっきりと、効果的にひびく。
❺他のひびきの中からその存在を主張する。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ほっそりしたひびきで、このサウンドの特徴を示す。
❷厚みはあるが、さわやかさを失わない。
❸ひびきは充分に乾いていて、効果的だ。
❹ドラムス、声、いずれも望ましくきこえる。
❺声の重なりがよく示されて、有効だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感ゆたかとはいえないが、シャープな反応がいい。
❷くっきりききとらせるものの、誇張感はない。
❸きこえなくはないが、特に特徴的とはいいがたい。
❹こまかい音の動きを、くっきり示す。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力感に不足するものの、シャープなつっこみはみごとだ。
❷ひびきのコントラストが充分についている。
❸一応の効果はあげるものの、特にきわだってはいない。
❹音の見通しがいいために、トランペットは有効な働きをする。
❺リズムの提示がはなはだシャープだ。

座鬼太鼓座
❶尺八は充分にへだたったところからきこえてくる。
❷ひびきに脂っぽさはないが、特に秀れているとはいいがたい。
❸かすかな音できこえるが、特徴的ではない。
❹大きさは感じさせないが、力感はある。
❺はなはだ効果的にひびいて、雰囲気をたかめている。

オンキョー Scepter 10

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは幾分奥まったところからきこえてくる。
❷低音弦の動きにもうひとつきりっとしたところがほしい。
❸フラジオレットの特徴的な音色は示す。
❹ここでのピッチカートは幾分ふくれぎみだ。
❺たっぷりひびくが、ひびきに張りがほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ブレンデルの音色は示しえている。
❷音色的な対比はついている。もう少しキメ細かでもいいだろう。
❸室内オーケストラのひびきとしては軽やかさが不足だ。
❹どうしたわけか多少きつめにひびく。
❺各楽器の音色はわかりやすく示してくれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、息づかいを強調ぎみに示す。
❷接近感はあるが、表象が大きくなっている。
❸クラリネットの音色はいいが、とけあい方に問題がある。
❹はった声は、もう少しなめらかにひびいてほしい。
❺各楽器の特徴は示すものの、もう少しとけあってほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きめである。そのために定位が感じとりにくい。
❷子音がたちにくいためか言葉の鮮明度が幾分不足している。
❸残響をひっぱりすぎているのか、細部をききとりにくい。
❹バリトン、バスが誇張されがちだ。
❺余韻を残しているが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶どちらかといえばポンという低い音の方がきわだってきこえる。
❷ひびきの後方へのひき方はうまくいっている。
❸ひびきが幾分湿りがちなのがおしい。
❹前後のへだたりはとれているが、ひろがりは感じにくい。
❺ピークでひびきにもう少し力がほしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびき方はよく感じとれる。
❷ギターの音像が大きめなため、せりだし方が感じとりにくい。
❸もう少しくっきり、輪郭さだかにひびいてもいいだろう。
❹幾分湿ったひびきになっているが、アクセントはつける。
❺ちょっとききとりにくい。他のひびきにうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶暖色系の音のためか、シャープなひびきに不足ぎみだ。
❷サウンドの厚みは感じとれるものの、音像が大きい。
❸ハットシンバルのひびきは、もう少し乾いていた方がいい。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。
❺ヴォーカルがひっこみがちなのはなぜだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さがもうひとつだ。
❷指の動きをなまなましくきかせるが、幾分部分拡大的だ。
❸音の消え方は示す。そのためにスケール感が明らかだ。
❹こまかい音の動きに対しての反応は不十分といわざるをえない。
❺音色的には対比がついているが、音像的に問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶左手からのドラムスのつっこみは重厚だ。
❷ブラスの切りこみははなやかだが、力強さがたりない。
❸極端なクローズアップが一応の効果をあげている。
❹音の見通しがよくないために、トランペットがいきない。
❺リズムがもう少しシャープに示されてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八の像は大きく、しかもかなり前にでてくる。
❷音色的には、尺八の特徴をよく伝える。
❸これみよがしにではないが、そのひびきの存在を気づかせる。
❹スケールゆたかなひびきだが、力強さがほしい。
❺ききとれなくはないが、効果的とはいえない。

テストの結果から私の推すスピーカー

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 せっかくレコードに、ごくこまかいところまで入っているのだから、それをききたいと思う。きかなければ損だと思う。最近のレコードは、細部を拡大してはきかせてくれない。ききたければききなさい──とでもいうかのように、ピアニッシモはまさにピアニッシモのまま、レコードにおさめられている。だからききては、きこえてくるものを待っていられない。みずから求めて、音をつかまえにいかねばならない。そっくりかえってはいられない。
 しかもききては、欲張りだから、そのごくこまかい部分の音が、上質のひびきできこえてほしいと思う。これはつまり、サウンドのクォリティに対しての要求だ。この件に関しては、残念ながらというべきか、価格が関係する。高価なスピーカーシステムは(そのすべてがそうだというわけではないが)、おおむね、それ相応の質で、きかせてくれる。したがって、どうしても上質のひびきで──ということになれば、かなりの出費を覚悟しなければならない。
 しかし、もう少し手前のところで、スピーカーシステムを考えることもできそうだ。質的なことをひとまず棚にあげて、こまかい音への対応のしかたに的をしぼって考えることだ。そこでうかびあがるスピーカーシステムは、新しいレコードの新しいレコードならではの特徴を、一応はあきらかにする。 価格の下の方からあげていけば、デンオンSC104、パイオニアCS755、デンオンSC107、ダイヤトーンDS50CS、KEFカンタータなどが、その範疇に入る。たとえば、デンオンSC104などは、その価格からしても当然というべきかもしれぬが、真に迫力ある音をきこうとしても、それは不可能だ。ただ、ひびきの細部への対応力といったことでは、かなりのものだ。いかにも再生音じみた、ひびきのひろがりのなさは感じられるが、しかし、新しいレコードをきいているよろこびは、ききてに与えてくれる。
 ゲイルGS401Aは、そのいかにも瀟洒な、スピーカーシステムらしからぬ容姿ともども、今回試聴したものの中で、もっとも心ひかれたものだった。これにしたところで、腰のすわった、力強い音をきかせてくれたわけではなかった。だが、こまかいところまでききとろうとする、ききての、視線という言葉にならっていえば、聴線に、充分にこたえていた。そのすっきりしたひびきは、なかなか魅力的だった。
 フェログラフS1についても、ゲイルとほぼ同じようなことがいえるだろう。ただ、ひびきのキメこまかさということでは、こっちの方が一枚上だった。パイオニアCS955のひびきは、キャラクターとして、個人的には特に好きなものとはいいがたかったが、さまざまな音に対してのあぶなげのない対応のしかたで、ひいでていた。こまかい部分も鮮明で、ききてがひびきにでむいていくかぎり、それにこたえてくれた。
 さらに高価なスピーカーシステムでは、スペンドールBCIII、JBLL300、それにテクニクスSB10000をあげておくことにしよう。いずれも、まったく問題がないというわけではないが、新しいレコードの新しいレコードならではの魅力をひきだしてくれた。
 音楽をきく時に、そんな微細なところにこだわってばかりはいないという主張もあろうかと思うが、いずれにしろ、音楽をきくとは、音をきくことから出発せざるをえないわけで、だとすれば、ききては、いかにかすかな音に対してだろうと、貪欲に、おのれの聴線をひびきの森の中ではいずりまわすべきではないか。

ヤマハ NS-L325

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶弦のピッチカートも木管楽器のフレーズも細めにひびく。
❷あいまいにはならないが、さらにすっきりしてもいいだろう。
❸フラジオレットの効果は示せている。
❹ピッチカートがふくらまないのはいい。主旋律のひびきも豊かだ。
❺クライマックスでは、迫力はあるものの、少しきつくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はほどほど。ただひびきにもう少し力がほしい。
❷各楽器の音色は、無理なく、示すので、対比はついている。
❸室内オーケストラならではのひびきのさわやかさがある。
❹本来はなにげないフレーズだが、少しきわだたせすぎるようだ。
❺鮮色だが、ひびきの特徴をかなりクローズアップする。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響を適度にひろっているが、音像は小さい。
❷子音を強調ぎみに示す。接近感はあきらかだ。
❸クラリネットの音色をよく示すが、ひびきのとけあいはよくない。
❹はった声は、硬くなりがちで、耳ざわりになる。
❺一応きこえるが、エフェクティヴとはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位はかならずしもすっきりとは示さない。音像は大きめだ。
❷残響をひろいすぎているので、鮮明とはいえない。
❸ひびきに敏捷さがたりず、幾分不鮮明になる。
❹もう少しすっきりきこえてもいいだろう。
❺一応のびてはいるが、すっきりした気配にとぼしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分だが、音場的には、ひろがりがとれない。
❷奥へのひきがかならずしも充分でない。
❸音は、重くなって、ひきずりがちのために、浮遊しない。
❹前後のへだたりは充分とはいえない。
❺しのびこみ方がしぜんでなく、ピークで刺激的になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感はたりない。ひろがりもとれない。
❷音像は大きく、はりだしてきこえる。
❸他の楽器のひひきにうめこまれがちだ。
❹一応の成果をあげる。かなりめだってひびくからだ。
❺ことさら耳をすまさなくてもきこえてくる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶きりっとひびかず、幾分かげりがちになる。
❷ひびきの厚みがでにくい。薄味なひびきでとどまる。
❸さわやかにひびくとはいいがたい。
❹乾いた音ではきこえるが、シャープさが不足している。
❺言葉はききとれるが、ひびきにさわやかさがたりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶大きな箱の中でひかれているかのようにきこえる。
❷指の動きはききとれるが、特にあざやかとはいえない。
❸消え方は充分とはいいがたく、余韻はとぼしい。
❹力強さは感じられるが、こまかい音の動きが鮮明とはいえない。
❺音色の差はあきらかだが、音像の面で問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみが弱い。切りこんでくるとはいいがたい。
❷ひびきの目がつみすぎているためか、本来の成果が示されない。
❸おしだすようにして前の方できこえる。
❹後方からはきこえるが、接近感は充分ではない。
❺力強くひびくが、切れ味するどいとはいえない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離的なへだたりは感じとれる。
❷脂っほいひびきになってしまっている。
❸きこえなくはないが、かなり耳をすますことが必要だ。
❹力強さは感じられる。しかし大きさは感じとりにくい。
❺ききとれる。かなりめだってききとれる。

サンスイ SP-G300

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは明るくひびく。木管との音色対比も充分だ。
❷低音弦のひびきに多少の鈍さがあるものの、積極的だ。
❸第1ヴァイオリンによる特徴的な音色は示されている。
❹ヴァイオリンのたっぷりしたひびきがいい。
❺クライマックスで多少ひびきがかたくなる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きめで、ひびきのキメは粗い。
❷音色的な対比は示されるものの、ひびきがかさかさしている。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさが示されない。
❹第1ヴァイオリンによるフレーズが大味になっている。
❺音色の特徴を強調ぎみに示す傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、残響を強調する傾向がある。
❷接近感は示すものの、子音が強く、表情を大きくする。
❸クラリネットの音色は示すが、もう少しとけあってもいい。
❹声は全般的にかためだが、はった声は特にかたい。
❺オーケストラのひびきはもう少しとけあってきこえてほしい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像は大きい。メンバーの並び方を感じとりにくい。
❷声量をおとすと、さらに言葉のたち方がよわくなる。
❸残響をひきずりすぎるので、言葉の細部がききとりにくい。
❹各声部のからみが明瞭になるためには、キメこまかさが必要だ。
❺ぽつんときれていないが、効果的ではない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は充分にとれている。
❷シンプルなメロディーの後へのひき方は好ましい。
❸ひびきに浮遊感はあるが、多少ばらばらになりがちだ。
❹前後のへだたりはかなりたっぷりとれている。
❺ピークでは幾分ごりおし風になって、ひびきが刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの後へのひき方はいいが、透明感に不足する。
❷ギターの音像がかなり大きいため、せりだす気配が希薄だ。
❸このひびきは力をもってのびないといけないが、それが不足している。
❹くっきりと浮びあがり、効果をあげる。
❺きこえるが、もう少しキメのこまかさがほしい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が金属的になりすぎている。
❷サウンドの厚みはでるが、ニュアンスが伝わりにくい。
❸ハットシンバルのひびきの特徴は一応でている。
❹ドラムスはかなり大きく感じられる。シャープさがたりない。
❺バックコーラスはひっこみがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きい。スケール感は示すが、力強さはもう一歩だ。
❷部分拡大的に指の動きをきかせる。
❸音の消え方の示し方は、かなり積極的だ。
❹ひびきに本来の力がないためか、こまかい音の動きがわかりにくい。
❺音像的、音量的に差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきに鋭さがほしい。
❷派手な音色でブラスがつっこんでくる。
❸この場のフルートのひびき方を誇張ぎみに示す。
❹トランペットの接近感は一応示しえている。
❺ふやけていないが、もうひとつめりはりがつかない。

座鬼太鼓座
❶尺八が大きく感じられる。したがって距離感がとれない。
❷尺八独自のひびきが明らかになりにくい。
❸あやふやにではなく、力をもってきこえる。
❹たっぷりとひびき、消え方も示すが、力強さはいま一歩だ。
❺一応きこえて、雰囲気をもたらしえている。

デンオン SC-104

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはさわやかにひびくが、木管は薄味だ。
❷スタッカートは鮮明で、ひろがりもあるが、ゆたかさに欠ける。
❸特徴的な音色をよく示し、他の楽器とのからみもききとれる。
❹ピッチカートはふくれない。音の動きは鮮明だ。
❺われもにごりもしないが、決して充分とはいえない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さく、くっきり定位するのがいい。
❷音色的対比は、これみよがしにならず、このましく示される。
❸室内オーケストラのさわやかさが感じとれる音だ。
❹すっきりと、さわやかにきこえる。
❺幾分ひかえめにすぎるが、鮮明にききとれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶言葉に残響がつきすぎないので、すっきりきこえる。
❷接近感を、ことさらめかさないで、さわやかに示す。
❸まろやかな音色を傷つけていない。声と楽器のバランスもいい。
❹声はあくまでもまろやかで、硬くならない。
❺ききての側で出むいていってきこうとすれば充分にきかせる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶メンバーの並び方は、よくわかる。
❷声に多少残響がついているが、不鮮明になっていない。
❸子音のたち方なども過不足なく、細部までよくききとれる。
❹各声部の動きはあいまいになっていない。
❺一応の残響があるので、ポツンと切れてはいない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音像的にも、コントラストがついている。
❷ひびきの透明感のあるのがいい。クレッシェンドも自然である。
❸音に軽みがあり、ひきずらず、一応浮遊する。
❹前後のへだたりはとれている。ただ音にもう少し力がほしい。
❺ピークでは力不足を感じる。圧倒的なひびきにはなりえない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感はある。ただ、ひろがりとんいうことでは、もう一歩だ。
❷ギターの音像がふくらまず、すっきり中央に定位するのがいい。
❸一応の効果はあげるが、ひびきに力がない。
❹そのひびきの特徴を示すが、いかにも薄い。
❺きこえることはきこえるが、ひきたたない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色の特徴はよく示すが、ベースは不足ぎみだ。
❷ひびきの厚みの提示は、かならずしも十全とはいいがたい。
❸すっきりとぬけてくるが、幾分ひびきに力が不足している。
❹ドラムスはシャープだが力感に不足している。声はいい。
❺バックコーラスの効果は示せている。言葉は鮮明だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像がふくらみすぎないのはいいが、力強さがない。
❷なまなましく指の音をきかせるが、すごみはない。
❸音の消え方は、ききとりにくいので、スケール感がでない。
❹こまかい動きはわかるが、力強さはない。
❺音色的にはいいが、音像的に差がありすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープに切れこんでくるが、アタックの強さはない。
❷ブラスに力がないので、浅いひびきにとどまる。
❸一応の効果はあげるが、ひびきが刺激的になっている。
❹へだたりはあまり感じられず、したがって接近感は不足している。
❺ふやけないのはいいが、力がたりない。

座鬼太鼓座
❶尺八が奥にいるのはわかるが、消極的にすぎる。
❷音色的には問題ないが、ひびきにもう少し力がほしい。
❸ききとりにくい。深く沈む音の再生が不得手なためか。
❹スケールの大きさは感じとりにくい。
❺かすかにきこえるが、エフェクティヴではない。

ソニー SS-G7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきはいきいきとしていてはえる。
❷スタッカートはたっぷりひびいているが、鋭さは不足ぎみだ。
❸フラジオレットの特徴は明らかになっている。
❹低音弦のピッチカートは、たっぷりして、あいまいにならない。
❺クライマックスでの迫力はなかなかのものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ひびきに力のあるのがいい。
❷音色対比は充分だが、ひびきにキメこまかさがほしい。
❸室内オーケストラによるひびきの軽やかさが不足している。
❹このフレーズの特徴は示すが、すこしせりだしすぎる。
❺各楽器の音色は示すものの、キメはあらい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声のまろやかさがたりない。
❷接近感は示すが、プライの声が太くなりすぎる。
❸オーケストラのひびきのとけあい方が充分でない。
❹はった声はかたくなる。もう少しまろやかでもいいだろう。
❺個々のひびきがばらばらになりがちだ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方を感じとりにくい。
❷声量をおとすと、さらに言葉がもやっとする。
❸残響を切りおとしされていないので、細部はききとりにくい。
❹バリトン、バスが強調されがちなので各声部のバランスが悪い。
❺一応ひびきはのびているが、効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的なコントラストは充分についている。
❷力をもってシンプルなメロディーがクレッシェンドする。
❸浮遊感はあるものの、音がばらばらにきこえる傾向がある。
❹ひびきのひろがりという点で、多少ものたりないところがある。
❺ふくれあがり方は力があっていいが、ピークでひびきが濁る。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひろがりはとれているものの、透明感がとぼしい。
❷ギターの音像は大きめで、さらにくっきりしてもいい。
❸ひびきが充分な効果をあげない。他のひびきにうめこまれがちだ。
❹この音は、かなりきわだってきこえて、アクセントをつける。
❺充分にききとれ、ひびきに変化をもたせている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶過渡にスケールの大きいひびきで開始される。
❷サウンドの厚みは、多少これみよがしに示される。
❸一応の効果は示すものの、すっきりぬけでてくるとはいえない。
❹ドラムスは、力強いが、シャープとはいいがたい。
❺バックコーラスでは言葉はたつが、とけあわない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ペデルセンの音像がきわめて大きい。
❷指の動きは不自然なほどに誇張されて示される。
❸音の尻尾はなまなましく示されている。
❹力強いが、こまかい音の動きが鮮明とはいいがたい。
❺音像的、音量的に差が大きすぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスはたっぷりひびくが、アタックがシャープとはいえない。
❷ブラスは派手なひびきでつっこんでくる。
❸フルートを大柄なひびきで前面におしだしてくる。
❹音の見通しは悪くないが、トランペットはいきない。
❺リズムは一応の切れを示して、はなやかにまとめる。

座鬼太鼓座
❶尺八がきわだって大きく感じられる。
❷ひびきにかなり艶があり、尺八らしさがとぼしい。
❸力をもった音でくっきりときかせる。
❹大きさは充分に示すが、もうひとつ力強さがほしい。
❺大太鼓の消えていく音とよくバランスしてきこえる。

サンスイ SP-L100

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは軽くひびく。木管楽器のひびきの性格は不充分。
❷あいまいにならず、ぼけてもいないが、力感にはとぼしい。
❸ヴァイオリンの音が硬くなる。音色面での特徴はとぼしい。
❹第1ヴァイオリンの響きが、乾いている。
❺総奏では響きが刺激的になる傾向がある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくれぎみの傾向がある。
❷音色的な対比はできているが、響きが乾燥ぎみ。
❸室内オーケストラ的なまとまりはあるが、もう少し湿りがほしい。
❹すっきりときこえるが、他の楽器とさらにとけあってもいい。
❺その音のキャラクターはくっきり示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶❷で接近感は示される。ただそれを幾分強調ぎみの傾向がある。声は硬めで、子音が強く感じられる。
❸クラリネットはくっきりきこえるが、とけあい方が不充分。
❹はった声が幾分刺激的になって、とびだしてきこえる。
❺個々の楽器をききわけることはできるが、とけあわない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶それぞれのメンバーの定位はいい。ただ声は乾いている。
❷鮮明で、子音が幾分強調されている。
❸残響は、むしろおさえられすぎている。
❹各声部のこまかい動きは、かなりはっきりききとれる。
❺ひびきののびやかさがない。そのためにポツンときれる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶コントラストは充分にとれていて、ひろがりが感じられる。
❷奥ゆきは示されているが、クレッシェンドに自然さがない。
❸一応の浮遊感はあるものの、とびかい方になめらかさがない。
❹個々のひびきの呼応のしかたにちぐはぐなところがある。
❺クライマックスで頭をうってしまって、のびない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方からきこえるが、のびやかさ、透明感に不足している。
❷せりだしてくるものの、もともとの音像が大きい。
❸他のひびきの中に埋没しがちである。
❹多少の強調感をともなって、きわだつ。
❺きこえることはきこえるが、かならずしも効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が少し硬すぎるようだ。
❷一応の効果は示されるものの、もう少しベースが積極的でもいい。
❸ハットシンバルの音はぬけでてくるが、薄いひびきにとどまる。
❹ドラムスの音はいいが、声は乾きすぎている。
❺言葉はたつが、声にもう少しなめらかさがほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケール感は不足しているが、エネルギーは感じられる。
❷指の走る音はかなりくっきり、なまなましくきこえる。
❸消えていく音は、消極的にしか示さない。
❹ひびきそのものは細身だが、一応こまかい音の動きは示す。
❺コントラストの点で不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶音に力が不足しているので、つっこみに鋭さが足りない。
❷ブラスのつっこみが金属的なひびきに傾きがち。
❸クローズアップの効果は示せている。
❹奥ゆきがとれて、しかも接近感もあきらかだ。
❺幾分ふやけぎみで、そのためにめりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてくるので、距離感はとれない。
❷脂っぽさはないが、乾きすぎている。
❸一応きこえるが、きわだってきこえるほどではない。
❹スケール感不足ぎみ。消え方はつたわらない。
❺かすかにきこえる。しかしひびきにもう少し雰囲気がほしい。

試聴テストを終えて

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

「試聴」は、いつもながらのことだが、非常に疲れる。ひとことでいえば、はなはだしんどい仕事だ。そんなにつらいのなら、しなければいいじゃないかと、自分でも思う。でも、また、やってしまった。しかも、なんたることだ。しぶしぶいやいやではなく、いそいそと「試聴」にのぞみ、終って、気がついてみたら、疲れはてていた。
 そこで考えてみることになる。なにを「試」しに「聴」こうとして、いそいそとしたのか、つまり、「試聴」の目的は、いったいなんだったのか。いそいそとするからには、なんらかのたのしみが期待できたはずだ。そのたのしみとはどのようなたのしみだったのか。
 ふりかえってみて気づいたのは、この場合の「試聴」のたのしみが、その「試聴」の過程にあったということだ。結果として、どのスピーカーが好ましくて、どのスピーカーが好ましくないというようなことはわかる。しかし、だからといって、その、いわゆるよしあしの判断が、「試聴」の目的ではなかった。よしあしは、特に音に関するものとなれば、すくなからず主観が関係する。AがいいといったものをBがよくないというようなことは、ままある。 どうやら、「試聴」のたのしみは、自分をモルモットにするたのしみだったようだ。モルモットは意見をもちえない。ただ、音に対して反応するだけだ。しかし、その場合、モルモットが、いかなるレコードのいかなる部分をつかって、どのような部分にポイントをおいて反応したのかを、示しておく必要があるだろう。そのようにすることは、自分をモルモットとしておいこむのに有効でもあった。
 モルモットのしたことは、モルモットにできることにおのずと限界があるから当然のことだが、はなはだ単純なことだった。すなわち、モルモットがしたのは、ただ、興味の綱をたぐりよせることだけだった。ヴァイオリンのピッチカートが、ちゃんとピッチカートらしくきこえるかな? 少しぼやけているけれど、きこえた。それでは、月のフルートとオーボエのフレーズはどうかな? オーボエの響きがちょっとききとりにくいが、まあまあだろう──、モルモットの反応のしかたは、ざっとそんな具合だった。
「試聴」にあたってのプログラム、つまり興味の綱は、すでに、「試聴」に先だって、できていた。「試聴」しながら恣意的にあれこれレコードをえらぶということはしなかった。
 しかし、そういう方法が今回にかぎってのものとは、いえない。いつも、「試聴」に先だって、興味の綱はつくっておく。ことさらめかしたいい方になってしまうが、それぞれのレコードのそれぞれの部分で、こことこことここ──といったように、いくつかのチェックすべきポイントをもってきいている。そんなことは、あらためていうべきことではなく、当然のことでしかない。
 今回ちがったのは、おおよそどの部分を注意してきいたのかを示せ──という、編集部からの要請もあって、それをあらかじめ示したことだった。ただ、ここでひとことことわっておきたいのは、それそれのレコードで示したチェックポイントは、書きだしやすいものにかぎって、数も、それぞれのレコードについて5つにおさえたということだ。ちょっとお考えいただけば、すぐにもおわかりになることだが、1分そこそこしかきかなかったレコードと4分32秒もきいたレコードで、ひとしく5つずつのチェックすべきところが示してあることのアンバランスがある。
 だから、それは、モルモットがたぐりよせた興味の綱の一部を示しただけのものだ。全部はとても、繁雑になりすぎて、書ききれない。それに、たしかにその部分を注意してきいたのだが、その部分の音の内容についてうまく言葉にできなかったということもなくはなかった。
 しかし、いずれにしろ、編集部の要請にしたがったがゆえに、モルモットはモルモットに徹することができた。当然、その結果、このモルモットが書きつけた言葉には、抽象的な美辞麗句はありえない。しごく乾いた、味もそっけもない、きこえたとかきこえなかったとか、そんな言葉が、まさにメモ風に書きつらねてあるだけだ。今、ためしに数えてみたら、「試聴」の際にとったメモは、ひとつのスピーカーについて、ほぼ3000字ほどある。
 むろん、いくらなんでも、それをそのまま活字にするわけにはいかない。なぜなら、そこには重複があったり、自分にしかわからない暗号風な言葉があったりするからだ。それを幾分整理したのが、別項の「試聴メモ」ということになる。
 ここがこうなら、次のところはどうか──といったように、ということは、別の言葉でいうと、土竜(もぐら)が土に穴をほるようにということになるだろうが、ききつづけた。疲れは当然というべきかもしれない。しかし、反面、たのしかった。モルモットだか土竜だかしらぬが、ともかく試聴者は、せいいっぱいおのれの耳の視線を、音の群れの中にしのびこませた。疲れたのは、耳と、耳が感じとったものを書きつける手だった。およそ頭は疲れなかった。頭は使いようがなかったからだ。
 たとえばヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」の前奏曲で、低音弦のピッチカートがどうきこえるかは、はなはだ音楽的な問題だが、そのことについてあれこれいうことを、この際、モルモットは、放棄した。
 それでは、モルモットよ、お前は、木をみて、林をみなかったのか?──という質問があるかもしれない。その質問に答えておこう。たしかに、そうだ。モルモットがみたのは、木であって、林ではなかったかもしれない。しかし、ここでモルモットが選んだレコードは、俗にいわれるオーディオチェック用レコードではなかった。たとえ一部に、いわゆるデモ用レコードとしてつかえそうに思えるものもなくはなかったが、大半は、ことさらに響きの部分拡大をしていない、音楽をきくためのレコードだった。そこでモルモットは、木をみとどけるために、みずから、おのれの耳を、木々のたちならぶ、つまり林をかきわけて、中に入りこまざるをえなかった。なるほど、結果としてみたのは木でしかなかったが、林を意識しての木に対しての、モルモットのモルモットなりの視点だったということができる。
 ここがこうきこえて、あそこがああきこえた──という結果をよせ集めれば、たとえば新聞の写真のように、それなりに顔なり景色なりが浮かびあがってくる。しかし、今回のここでのモルモットは、その作業をおこなわなかった。点が黒いか、灰色か、白いかは、できるかぎり明記したが、それが示す顔なり景色なりについては、ふれなかった。顔の写真を好む人もあるだろうし、景色の写真を好む人もあるだろうから、顔の写真がいいという人に、景色の写真のよさを力説することはしなかった。
 しかし、モルモットには、モルモットなりの感想があった。それは、個々の木が十全であって、しかも林の輪郭がぼけたものはなかったということだ。ということは、部分が十全であって、しかも非音楽的にしかきこえなかったスピーカーはなかったということだ。これがもし、部分拡大されたレコードでの、「試聴」だと、そういはいかないのだろうが、最近の、しかもすぐれたレコードは、極端に部分拡大をこばんでいる。モルモットが、できうるかぎり最新のレコードをえらんだ理由は、そこにある。
 最近のレコードは、ほら、おききなさい、これがコントラバスですよ、これがピッコロですよ──といったようには録音されていない。ききての耳が入りこんでくるのを待っていて、そこまで耳がいたれば、それなりにコントラバスの音なり、ピっ子の音なりをきかせてくれる。そういうレコードで、モルモットは、「試聴」した。そして、むきになって穴をほって、むくわれたこともあり、石ころにばかりぶつかって苦労したこともあったが、たのしかった。

テクニクス SB-10000

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、ゆたかに、しかし鮮明にひびく。
❷低音弦のスタッカートは、たっぷりひびくが、切れ味鋭い。
❸さまざまなひびきのとけあい方には無理がなく、好ましい。
❹ここでのピッチカートは、ふやけず、充分な力を示す。
❺クライマックスでのもりあがりは、鮮明で、迫力充分だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中くらいで、くっきりと示される。
❷音色的な特徴がキメ細かく、すっきりと示される。
❸ひびきが大柄にならないよさがいきている。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、さわやかにひびく。
❺さまざまな音色の提示に無理がない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は小さめで、セリフの声のなまなましさが特徴的だ。
❷表情の拡大がなく、接近感を自然に示す。
❸クラリネットの音色はまろやかで、大変美しい。
❹はった声も自然にのびて、かたくならない。
❺オーケストラと声とのバランスはほぼ十全だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位はくっきりとして、ひとりひとりを見分けられるほどだ。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響はかなりひいているが、悪く影響はしていない。
❹ひびきはけっして軽くないが、各声部のからみは明瞭だ。
❺ひびきは自然に、しなやかにのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ふたつの異なる性格のひびきが充分に対比されている。
❷暖色系のひびきながら、後へのひきは充分だ。
❸ひびきは重くなることなく、充分に浮遊している。
❹前後のへだたりが充分で、広々と感じられる。
❺ピークでのひびきの強さと広がりは圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのほんのかすかなひびきが特徴的だ。
❷ギターの音像はふくれすぎず、音色的特徴をよく示す。
❸くっきりと、あいまいにならず、効果的にひびく。
❹固有の音色的特徴を明らかにしてアクセントをつける。
❺静かに、しかし、あいまいにならず、きこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきはもとより、それをつつむひびきが明らかだ。
❷サウンドの厚みを示し、その内容も明らかにする。
❸ハットシンバルのひびきはもう少し乾いてもいいだろう。
❹ドラムスの音像はほどほどで、鋭くつっこむ。
❺声の重なりが自然で、言葉もよくたってくる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ほどほどの音像で、エネルギー感ゆたかにきかせる。
❷なまなましく、オンの感じを伝えるが、誇張感はない。
❸たっぷりときこえて、不自然さがない。
❹力強く、しかも鮮明さもそこなっていない。
❺サム・ジョーンズの音像はきわめて好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは力感ゆたかだが、ねばらないのがいい。
❷ブラスのつっこみは、きわだって力強い。
❸クローズアップの効果が、いっぱいにひろがる。
❹ひびきにひろがりがあるため、トランペットがいきる。
❺リズムにはずみがあり、生気にとんでいる。

座鬼太鼓座
❶充分に距離がとれているが、あいまいではない。
❷脂っぽさはいささかもなく、きわめて好ましい。
❸不自然にではなく、また誇張感もなく、きこえる。
❹大きさと力強さは、ほとんど圧倒的といってもいい。
❺ごく自然なきこえ方で、充分にアクセントをつけている。