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マッキントッシュ C40

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュの現行プリアンプのトップモデルが本機である。同社のプリアンプは、その豊富な機能と、それにもかかわらず音が高品位に保たれているのが大きな特徴で、プリアンプという呼称よりコントロールアンプと呼ぶほうがふさわしいものだ。同社ではオーディオ・コントロール・センターと呼んでいる。
 一度、マッキントッシュのコントロールアンプを使い慣れると、もう他の製品の扱い勝手の悪さに腹が立つほどで、いくらオーディオアンプの理想が増幅度を持った針金といわれようと、そのコンセプトの子供っぼさに呆れさせられるのである。
 レコード音楽の鑑賞は、レコード(CDやテープ)を自由に操って、自分の好きなように音楽の再演奏を創造的に能動的に楽しむのが最大の喜びであるだけに、なかで最も頻繁に、効果的に操作可能なのが、プリアンプのコントロール機能であるのは当然のこと。だから、いちいち後面の入出力端子を抜き差ししたり、外付けの複雑なプロセッサーを用意したり、分岐スイッチを通したりするのは、かえって音質を害する結果になるし、不便この上ない。
 その点、このC40のフロントパネルでできる豊かなコントロール機能は驚くほどで、5バンド・イコライザー、入力ソースの豊富な切替、L/Rチャンネルの単独使用や合成切替、3系統の出力の自在なオンオフ、独立タイプの録音・再生機能などなど、さらにエクスパンダー・コンプレッサーはともかく、20W×2のモニターアンプ内蔵により、スピーカーを鳴らせるし、アイディア次第でいろいろな使い方に対応可能である。
 そして、ゴールド・レタリングの、点灯時にグリーン・イルミネーションに変る、あのグラスパネルの美しさと、機能性は最高だ。暗がりで使えるのはこのアンプだけ。イルミネーションパネルは、コスメティックな意味で美しいだけのものではないのである。あの色は、最小の光量で最大の視認性を目的としたリサーチの結果、選ばれたものだ。

マッキントッシュ XR290

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 アメリカのアンプメーカーとして今や最も伝統の一貫性に輝く名門マッキントッシュだが、スピーカーも独自の設計思想と、アンプに共通したサウンドのアイデンティティで知られている。このXR290は、同社の現行ラインナップのフラグシップモデルであると同時に、多くのアメリカ製スピーカーシステムの中でも、その風格と実力の両面でまさに王者の貫緑をもっているものだ。
 同社のスピーカーシステム群はいくつかのシリーズに分けられるが、高級シリーズはXRTシリーズが代表する。ウーファーとスコーカーを収納したエンクロージュアと、トウイーターコラムを完全に分離しているのが特徴の一つ。そして、もう一つの特徴は、ウーファーが2基、スコーカー1基、トゥイーターが23基という構成のXRT22(生産終了し、次期モデルのXRT26に交代する端境期にあるが……)に見られるように、マルチユニットを縦一列に並べた独特の構成にある。同社があえてステレオスピーカーシステムと呼ぶように、2チャンネル・ステレオフォニックの創成する豊かな音場の立体感を忠実に再生し、自然な音色を得るために必要な変換器としての特質に、独自の着眼点をもって長年の技術開発に精魂を傾注して完成させた力作だ。
 これを基本に、このXR290は一体型としてまとめたものだが、使用ユニットはウーファー4、スコーカー12、トウイーター24と合計40基ものユニット構成に拡大されている。見た眼には2メートルを超える高さのため巨大に見えるが、床の専有面積はLPレコード2枚分にすぎず設置場所は小さい。ただ、これだけの大型システムだから、その実力をフルに発揮させるには12畳以上の部屋が望ましいし、専用イコライザーMQ107によるルームアコースティックへの対応を念入りに調整するべきだ。よく調整されれば至高の再生音が奏でる夢のような音響世界が実現し、レコード音楽の至福を満喫できる。

マッキントッシュ C40 + MC1000(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 この組合せはプリアンプがランク的にはパワーアンプに見合わないが、最初はプリアンプにC34Vを使い、C34VがニューモデルC40にチェンジするとのことで、再度、C40で聴いたため、両者の比較をも交えてのリポートすることにしたい。
 穏やかで、十分に熟成された大人の風格をもつC34Vと比べ、C40は、明らかに新しい世代に変ったと思わせる、ストレートで鋭角的、情報量が一段と増えた音を聴かせる。ウォームアップにしたがい、生硬い表情のドライな音から、まず低域の量感に始まり、中高域の明瞭度、中域の充実というように階段的に、かつ交互に内容が濃くなり、積極的に音楽を聴かせる新しい魅力を発揮しはじめる。しかし、基本的には伝統を正しく受け継いだ、同社の文法に則ったというほかはない音である。
 パワーアンプMC1000は、まさに王者の貫禄を示し、プリアンプからの音を余裕タップリに受け止めているようで、ウォームアップ中の自らの変化は、時折垣間見せるにすぎないようである。
 基本的には、アンプを御するS9500も、MC1000ともなれば逆にスピーカーが掌に乗る印象になり、2ウェイシステムの極限に近い情報量を送り込まれるが、決して限界を超えてドライブしないあたりは、さすがにマッキントッシュのパワーアンプらしい、優しさともいうべき美点であろう。予想以上にアンプとスピーカーシステムが調和を保ちながら、それぞれの個性を穏やかに色濃く聴かせるのは、好みを超えた素晴らしさというほかにない。
 柔らかく豊かで、しなやかに歌いあげる音は、マッキントッシュのS9500の独自の世界ではある。周波数特性的な聴き方では、高域と低域の両エンドをわずかに抑えた安定型のバランスで、かなりフラットなレスポンスを示し、音のコントラストは全般に抑えたタイプだ。この音は、C40のイコライザーを活用し、音に抑揚をつけ、調和を保ちながら好みの音色に溶け合せるための素材に最適であろう。さらに、C40は連続可変型ラウドネスコントロールも備え、音の躍動感、鮮度感を満たすためには、エキスパンダー機能が決定的なアシストをするだろう。これらを抑え気味に使えば、快適に表情豊かな音楽が楽しめるが、モニターライクな音像定位、位相関係をチェックするには、不向きというリスクは残る。しかし、それらの問題を超えた音の魅力は絶大で、各種プログラムソースを新旧の区別なく見事に聴かせるこの音は、オーディオ的な面と音楽的な面が両立した見事な世界だ。

JBL S5500(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より

 旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
     *
 JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
 本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
 こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。

マッキントッシュ C40+MC7300
 まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
 可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
 S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
 その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。

カウンターポイント SA5000+SA220
 S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
 結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。

ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
 次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
 結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
 モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。

 S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している

マッキントッシュ MC7150

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプが1946年出願の特許による基本回路の伝統の延長線上にあることはMC2600の項で述べた通りである。このMC7150は最新の製品であるが、伝統のオートフォーマーを搭載している。150W+150Wというパワーが2Ω、4Ω、8Ωで確実に得られるのはOPTのためだし、アンプ保護やスピーカーへの保証の役目も果すのがこのトランスのメリットである。しかし、さらに重要なことは、このトランスによる音質の有機感といおうか、暖かく血の通ったサウンドの質感にトランスが寄与しているという点である。トランスのもつバンドパスフィルターとしての性格は、良きにつけ悪しきにつけ音質に影響をもつものだが、マッキントッシュ・アンプの音の肌ざわりの自然感は、このOPTと無縁ではないと思われる。加えて、マッキントッシュのパワーアンプには〝パワーガード・サーキット〟という、許容出力以上になると動作する一種のリミッターがついていて、決してクリッピングを聴かせることがないことも大きな特徴だろう。ソリッドステートアンプのハードディストーションがわずかなピークでアンプの音の印象に与える悪影響に着目した、前社長のゴードン・ガウ氏時代に開発されたこの回路によって保証される安定した再生音は、特にこのMC7150のような小パワー?(それでも同社のパワーアンプとしては最小である)のアンプの場合に特に有効である。グラスパネルにブルーメーターとレッド、グリーンのイルミネーションは、この製品をさらに魅力的なものにしている。フルグラスパネルの不売僧こそマッキントッシュのアイデンティティとして高く評価され、多くのユーザーの憧憬となっているものだ。39万円で本物のマッキントッシュのパワーアンプが買えるというのがこの製品の最大の魅力だが、この明朗で透明なサウンドはスピーカーの能率さえ高ければ上級機無用のものである。

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のアンプの特質については、そのフラグシップモデルMC2600の項で述べた通りであり、総合的に同社のアンプは世界一の優れた製品だと思う。最近ますますこの信念を確認させてくれるのであるが、それは同社が一貫して伝統的な主張を曲げずに新しいテクノロジーでリファインしたニューモデルを出してくるからだと思う。新製品のための新製品を矢つぎ早に出したり、ただ昔のものを作り続ける姿勢ではなく、必然性をもった新製品を出すからである。この製品はMC7270という従来の代表モデルの後継機として6年ぶりに発売されるもので、すでに発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する製品だ。これでパワーアンプの新シリーズ3機種がそろったわけで、次は多分プリアンプの新シリーズが出てくるだろう。フルグラスパネルとなったMC7300は、外見上はパネル面がさらにマッキントッシュ・イメージを強く表現しているが、本体はカバーで被われたためトランスやコンデンサーが直接目に触れなくなった。この点、やや平凡な箱型アンプ化した感じでもあるが、中味は従来よりさらに充実し、ソリッド化している。新設計の出力トランスは大型化したため、今までのものとは逆向きにシャーシ底部にギリギリ下げて搭載され、トランス上にドライバー基板がおかれるという変更を受けている。全体のサイズを拡大しないで300W強/チャンネルに実力アップし、歪みを一桁以上低減した結果だ。カバーをとるとぎっしりつまった内容に驚かされる。無駄な空間は皆無。まるでソリッドな鉄の塊のようで、外から見た印象で持ち上げようとしても上がらないほど重い。しかし、その音はふっくらと豊かで、透明で、漂うような空間感を聴かせる。従来の同社のアンプの重厚さは実音のマスに十分現われているが、この明るく楽しい軽やかな空間感は新鮮だ。 価格は他の他の輸入品と比べるとこの倍でも十分通用する。

マッキントッシュ MC2600

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のパワーアンプのオリジナリティとアイデンティティ……それは1946年にF・H・マッキントッシュとG・J・ガウの両名によって発表され特許出願されたマッキントッシュ回路にそのルーツがある。この回蹄の特許は1949年に下りて、マッキントッシュ社の創立、第1号機発売ということになるのであるが、この回路のポイントはSEPP回路での画期的な歪みの低減にあった。B級プッシュプルの高効率とNFBによる低歪率とを高い次元で両立させたこのマッキントッシュ回路には、バイファイラー巻きによるユニティカップルドのOPTが力を発揮した。1次線と2次線が同時に巻かれたこのトランスがあってこそ実用になった回路なのである。当時日本のアマチュアが、この回路を技術誌で見て製作に挑戦したものだが、トランスの入手が不可能なため失敗に終ったという話は有名だ。マッキントッシュとOPTはこのように誕生時より切っても切れない関係だし、もちろん同社の製品に使われるOPTはすべて自社製である。
 ソリッドステートパワーアンプに移行したのは1968年のMC2105からだが、OPTレスにメリットがありと信じられていたソリッドステートパワーアンプが、OPT付きで登場したことに世間はあっと驚かされたのである。当然議論百出したが、今ではOPT付きのメリットが完全に認められてしまった。一時はマッキントッシュの技術は古いからトランス付きなのだというデマも飛んだが、マッキントッシュは平然と安価な製品からOPTをはずしてしまっている。つまり高級アンプがOPT付きなのだ。MC2600は、マッキントッシュのフラッグシップモデルの最新ヴァージョンだが、OPTが新設計され、さらに低歪率化とワイドレンジ化が実現した。600W×2のハイパワーアンプとしては信じられないほど繊細で美しくもあり、当然重厚で力に満ちてもいる。しかもすごく安くお買得だ。

マッキントッシュ C34V

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 1949年の創立になるマッキントッシュ社は、今やスピーカーもCDプレーヤーも製品群にもつ総合メーカーだが、もともとアンプの専門メーカーとしてスタートした。アンプの一流品としては現在最古のブランドといってよいだろう。初代社長フランク・マッキントッシュ氏の氏名がそのままこの社のブランドになっている。2代目の社長ゴードン・ガウ氏は創立時から実際にマッキントッシュアンプを設計した技術者であった。1950年代にはマッキントッシュとガウの連名で回路特許が見られるが、今や2人ともこの世を去ってしまった。しかし、マッキントッシュの製品は頑固なまでにオリジナリティとアイデンティティを守る体質によって、一貫してマッキントッシュらしさに満ちているし、このアンプの存在がオーディオの世界をここ30年余りにわたって豊かに彩り、重厚な深みを与えてきた功績は大きい。まさに一流メーカー、一流ブランドの見本のような足跡がマッキントッシュの歩んできた道である。昨年からこの社のオーナーシップが日本のクラリオン株式会社となり注目されたが、旧来のマッキントッシュ社の伝統と実績の延長上でさらなる発展飛躍に向けて意欲的な再出発を始めることとなった。パワーアンプMC2600、MC7300、MC7150の3機種はこうした新しいマッキントッシュから発売された最新機であるが、すべてマッキントッシュらしさをいささかも失うことなく、新しいテクノロジーでリファインされている。プリアンプも計画中と聞くが、現在のところこのC34Vが最高級機の位置にある。発売以来5年経つが、これだけ豊富な機能をもつ使いよいコントロールセンターとしての機能と、音質のよさを併せもっている製品は他に類がない。まさにマッキントッシュならではのプロの腕の冴えが感じられる製品で、美しいグラスイルミネーションには持つ喜びと使う喜びが満たされる。豊潤で明るく、かつ重厚な音だ。

マッキントッシュ XRT22S, XRT18S

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 マッキントッシュはアンプの専門メーカーであるため、スピーカーシステムはまだ十分認識されていないように感じられる。このXRTシリーズではXRT20を第一世代として登場したもので、現役製品は22Sがトップモデルで、18Sがそのジュニアモデルである。しかし、18には22と違って、ウーファー、スコーカー、トゥイーターが縦一列に並ぶというメリットもあって単なる普及モデルとして把えられない魅力も存在する。ともあれこのXRTシリーズは、同社が2チャンネルステレオの完全な立体感の再生を目指して実に20年以上の開発期間の末に製品化したもので、そこには数々のユニークで新しい発想による技術が盛り込まれている。歪みの少ない、位相特性の素直なタイムアラインメントの施されたこのシステムの音場感の豊かさと、素直な質感のよさは特筆に値するものだ。アンプメーカーらしい技術の追求によって生まれた理論追求型の製品だが、数あるスピーカー中でアコースティックな魅力を最大限に聴かせるものだといえるだろう。しかも、MQ107というイコライザーのコントロールで、部屋の特性への対応はもちろん、ユーザーの好みへの対応の可能性ももっているのが特徴である。入念に調整されたXRTスピーカーの音はすべての人を説得する普遍性をもっているものだと思うし、手がけると実に奥が深い。
 XRT22Sは3ウェイ26ユニットから成るが、トゥイーター・コラムによる半円筒状の放射パターンにより豊かなステレオ空間が得られる。XRT18の方は3ウェイ18ユニットで、トゥイーター・コラムがスコーカーとウーファーの真上に配置できるのがメリット。XRT22Sのリニアリティの高さは特筆に値するもので、大型のホーンシステムに匹敵する大音量再生から、小レベルの繊細な再生までをカバーする。XRT18は大音量で一ランク下がるが、一般家庭では余りあるもの。

マッキントッシュ MCD7007

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より

 オーディオメーカーの名門マッキントッシュはアンプの項で触れたように名実ともにこの世界の一流品を作り続けているが、最も古い歴史と伝統を重んじる頑固な姿勢の反面、きわめて新しいテクノロジーに積極的なメーカーでもある。その現われの一つが、アメリカにおいて最も早くCDプレーヤーを商品化したことである。このMCD7007はすでに3世代目の製品であり、原器MCD7000は1985年発売だ。その後MCD7005を経て’88年にこの製品が発売された。アンプの専門メーカーからスタートした同社は’50年代後半にはすでにスピーカーの研究開発に入っていたし、’60年代後半には商品化している。そして、’80年代にはアナログプレーヤーシステムがほとんど完成していたのだが、CDの登場によりそのプロジェクトは中止されたのである。凝りに凝ったトーンアームを当時社長のゴードン・ガウ氏自らが熱心に開発を進めていたのだが、CDの将来性を見てとったのであろう。ガウ氏は自宅で、ADとCDを熱心に試聴しADの音のよさを主張していたのだが、CDの可能性や技術的興味に強く惹かれたことも事実である。ある夜、突如私に国際電話をかけてきてCDプレーヤーをマッキントッシュ・ブランドで出すよ! といってきた。私のほうが戸惑ったほどである。来週オランダのフィリップスヘ行くというのである。あのADプレーヤーはどうするのだ? と聞くと、残念ながらビジネス的に無理だと判断したという返事であった。一流品のメーカーは、一流メーカーであり続けるためには先見性と勇気のある決断力が必要であることを教えられた。その2年後にMCD7000が発表されたのだが、マッキントッシュ・サウンドを実現したCDプレーヤーであったのに安心したものだ。MCD7007は、先述のようにこれをリファインしたもので、そのしなやかで自然な高域はCDの癖を感じさせないし、厚く暖かいサウンドだ。

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 関西方面の言菓に「まったり」というのがある。本誌の編集発行人である原田勲氏から説明を聞くと「まったり」というのはマッキントッシュのアンプの音のようなことを表現する言葉だという。「まったり」という言葉の音調からすると、この言葉を使わない我々関東の人間は、もったり、ねっとり、べったりといった形容詞を連想するが違うようだ。言葉というものは、その意味から発展して、語韻が独自の機能をもつ場合も多いが、どうやらこの「まったり」という語は、「全り」からきたものらしい。言語学者に確かめたわけではないので、素人の推測に過ぎないが、原田氏によると、完全無欠とか、過不足ないといった意味のニュアンスを含むらしいことから、私は勝手にこう考えた。全しという言葉を私は時々使う。たいてい今の若い編集者に『?』をつけられるので、この頃はやめてしまったが、「まったし」とよむこの語は、辞書にちゃんとのっている。手許にある岩波国語辞典には「完全だ」が第一にのっている。第二には「安全だ」。「−・きを得る」と書いてある。しかし「まったり」のほうはのっていない。「まったり」は多分、これを形容詞化した語ではないかと思うのだが……識者のご意見をお聞かせ願えれば幸いである。
 原田勲氏のいう「まったり」なマッキントッシュの音は、古い製品についてのものであったけれど、この最新モデルMC7300パワーアンプの音は、より「まったり」で、「まったし」なのである。300W+300Wのこのパワーアンプは、旧MC7270の後継機として開発されたもので、すでに先行発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する同社の中堅機種、いいかえれば代表的な標準モデルといってよいものであろう。MC2205、MC2255、MC7270という系譜の最新モデルであって、6年振りのモデルチェンジということになる。
 新しい改良点は、MC2500〜MC2600への改良点と共通しているもので、主なポイントは、パワーの10%アップ、オートフォーマーの歪のさらなる低減、プリドライヴ回路以降にバランス型のシンメトリック・サーキットの採用、これにともなって、入力にはアンバランスとバランスの2系統が設置され、インプットでインピーダンス変換が行なわれる回路になった。また電源もリファインされ、より低インピーダンス化の徹底と、フラックス対策が施されている。こうした新しいリファインメントによってトータル歪は一桁は確実に低減されている。パワーガードサーキット、カレントリミッターサーキットは従来通りで、いかなる状態においても耳障りなクリッピング歪はスピーカーから聴くことができない。また、いかなる使い方をしても、モトローラ社製TO−3パッケージのCANタイプのトランジスターを±それぞれ5個使用した出力回路はオートフォーマーのガードで安全だし、スピーカーを破損することもない。抜群の信頼性は、まったく従来のマッキントッシュパワーアンプ伝来の特徴といえるであろう。
 MC2500からMC2600への発展で、音質が明るく透明感を増し、従来私の感覚に若干不満を感じさせていた暗さと重さがなくなったことは本誌98号の特集記事中(240頁)で述べたが、このMC7300も、MC7270との変化は傾向として同じだといえるが、その差はより大きい。その音質については冒頭に述べたように「まったり」をさらに高次元で達成したものであるのだが、とにかく不満なところがないというのが正直なところである。実に清々しく、透明で、力強く、濃密なのだ!!
 この大きな矛盾は、常に多くのアンプに存在するものである。つまり、清々しいけれど力感に乏しい……か、透明だが濃密さが物足りない……というアンプが普通である。アンプやスピーカーが、何らかの個体個性をもつ限り、次元のちがいや、程度の差はあっても、こうした傾向はつきものである。それが、このMC7300は、一聴した時には、その通念を超えた印象を与えるアンプなのだ。もちろんオーディオの無限の可能性は、将来さらなる境地の開拓を体験させてくれるであろうが、今、このアンプの音を聴いて表現するとなると「まったし」という言葉を使わずにはいられない。
 外観的にはフルグラスパネルになって、よりマッキントッシュのアイデンティティが強調されたが、反面、カバーで覆われ単調になった全体のイメージが寂しいところもある。しかし、このサイズの中にびっしりつめられた各ブロックのデンシティーは恐るべき高密度で、もはやトランスもコンデンサーも外からは見ることができない。この組み込みで、この透明な音が得られているのが不思議なほどだ。

マッキントッシュ MC7270

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

バランスのよい安定感のある音である。低域は柔らかく、中低域の量感がタップリとあり、適度に硬さのある中域が、このアンプの潜在的な味わいの中核である。高域はなだらかに落ちているように聴こえる。プログラムソースには、かなりアクティブに働きかけ、バランスを保ちながら、雰囲気よく音楽を伝える。太鼓の連打では、予想よりも軟調な表現となり、瞬発力よりはジワッとした力感であるのが判る。音像はやや大きく、音場感はほぼ標準的か。

音質:81
魅力度:90

マッキントッシュ MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 能率の低いGS1を鳴らしきる最高のアンプはこれだ。ヴァイオリンの質感もしなやかで申し分なし。ピアノも輝かしくボディもふっくらしてタッチが生きる。弦楽合奏も、刺激的な音は一切無縁でリアリティのあるものだった。オーケストラのトゥッティはまったく堂々たるもので、いかなるクレッシェンドにも安心してついていける。ブラスの輝きと強さはこのアンプならではの感じが強い。メル・トーメのヴォーカルは暖かく、うるおいがあって最高。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 XRT18というスピーカーはマッキントッシュ独自のユニークな開発思想と技術をふんだんに盛り込んだステレオフォニック・ペアー・システムであって、その外観上からも理解されるように、他に類例を見ない特徴をもったシ
ステムである。前作XRT20のジュニアモデルとして登場したが、トゥイーターアレイの個々のユニットにまで時間調整が及んだ点など、XRT20を上廻る綿密なコントロールが見られるものだ。真の立体音場を家庭で再現するためのシステムとして、これ以上のものはない。綿密な時間特性の調整の結果、その再生音場の立体感は録音時の位相差をほぼ1100%再現することによ
り、きわめてリアルで豊かなものだ。また時間特性は正確な音色再現にとって決定的要素となるもので、このスピーカーの音の自然さは注目に値する。この他、多くの点で独特な設計思想を反映したシステムであるし、私自身、XRT20を常用していることからして、それと同質のXRT18でアンプの差がどう出るものかという興味で5台の性格の異なるアンプを選択した。つまり、ここではJBLの4344での結果とどう違ってくるかがひとつの目的であり、さらに、このXRT18がアンプによってどう変化して、どんな音が得られるかという興味につながっているのである。いいアンプはスピーカーが変わってもいいと再認識したと同時に、XRT18によって格段とよさを認識したものもある。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この優れたステレオフォニックスビーカーシステムにとってベストマッチのアンプであることが確認できた。ただ、JBL4344をあれほど魅力的に鳴らしたアンプだが、ここではXRT18の陰に廻って、そこから自然な音をさり気なく鳴らす縁の下の力持ちといった感じになる。しかし他のアンプで一通り鳴らした音を思い起こすと、やはりこの音がもっとも自然で素直で、かつ魅力的だ。音場の見透しといい、各楽音の質感といい、最高のレベルである。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 私の感覚では、もっともタンノイらしい音が、この組合せによって出たと思う。骨格とボディのバランスが中庸で、豊潤さが加わる。UTY5ほどしなやかではなく、510ほど骨格が目立たない鳴り方だ。クレーメルのヴァイオリンが力強く熱っぽい。アルグリッチのピアノが少し丸みが勝ち過ぎるようだが、大きな違和感ではない。弦合奏は優美しなやかな鳴り方より格調の高い毅然とした表情で、これがタンノイらしさだと思われる。スケールの大きな音。

マッキントッシュ MC2500

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS5000での試聴)
 当初は、 MC7270のしなやかさのある特徴を活かそうと試みたが、予想以上にドライブ能力がなく、価格的な制約を超えて、MC2500に換えてみた。さすがに駆動能力も十分にあり、良い意味でのアナログ的なまとまりの満足すべき音だ。アナログディスクとMC2300の強烈な個性は忘れがたい魅力だったが、CDとMC2500は、とかく音と音の間が寸断されがちなデジタルサウンドに有機的なつながりが加わり、安心して音楽が楽しめるようだ。

マッキントッシュ MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 残念ながら、MC7270のような高域のきめの細やかさや中域の朗々とした音の印象からすると、こちらは聴き劣りがした。高域に粗さがあり、中域の豊潤さも物足りない。今まで、このアンプにもっていた印象とは違いすぎる。個人的には毎日使っているアンプなので少々戸惑っている。MC7270とも比較試聴したが、こんな差はなかった。しかし、現在、もつとも大きなDレンジに対応し得るハイパワーアンプであることを思うと、第一級の実力を認めざるを得ないだろう。

音質:9.0
価格を考慮した魅力度:9.5

マッキントッシュ MC2500

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 最初の試聴時の音は、穏やかで、力強さはあるが、全体に大味な傾向があり、音が決まらぬ傾向があったが、最新のブラックパネルに換装したタイプでは、ゆったりと余裕のある、豊かで、滑らかな、ハイパワーならではの音を聴かせる。音場感はさして拡がるタイプではないが、中低域の響きがゆったりとしているために、コンサートホールのスケールは十分に聴かせる。しかし高さ方向は少し不足気味だ。併用するコード類は特別な音質対策型は不適で、今回はややミスマッチ的な印象が強い。

音質:9.1
価格を考慮した魅力度:9.5

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 繊細にして豪放磊落、艶っぽく滑らかでいて清々しいという、表現のスケールもダイナミズムも桁違いの優れたアンプだと思う。ほとんどのアンプが細身になるか太めになるか、暖かいか冷たいか、力強いか繊細かという二極分化的傾向をもつものだが、これにはそれがない。そして自然に聴けると物足りないといった反面も残るものだが、これは、さわやかな充実感を感じるだけだ。前作2255をパワーで上廻り、質的にも向上したようである。完成度の高いアンプというのにつきるだろう。

音質:9.8
価格を考慮した魅力度:9.8

マッキントッシュ MC7270

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 柔らかく、しなやかで、フレキシビリティの高い音である。従来のマッキントッシュ独自の力強く、重厚で余裕のある音とは異なり、音色は軽く、表情はよりしなやかで、滑らかになったようだ。聴感上の帯域バランスはナチュラルで、適度に音の芯があり、とくに中域での粒立ちのよさは、さすがに、同社らしい味だ。プログラムソースとの対応は、基本的には自分の音として聴かせるタイプで、デジタル的な薄さが感じられず、アナログ的にまとまった音を聴かせる。個性の強い音だ。

音質:8.7
価格を考慮した魅力度:8.7

マッキントッシュ MCD7000

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュでCDプレーヤーが開発中であるとの噂は、一部で知られていたことであるが、今回、そのベールを脱いでコンパクトディスクプレーヤーMCD7000として新発売されることになった。
 マッキントッシュの製品は、つねに時代の最先端をゆく技術と背景に、高い性能とクォリティを備え、長期間にわたり安定して、高度な音楽性を保ちつづけることに特徴があるが、このMCD7000も、音質的なクォリティはスタジオサウンドを目指して開発されたという。
 外観は、マッキントッシュ独特の、筐体をケースなどに固定するパンロックシステムを採用した、いかにもらしい外観をもつが、パネル両側のゴールドと金属部分の色調がやや薄くシャンペンゴールド調になり、漆黒のパネルフェイスやグリーンに浮出るレタリングなども、全体に抑えた印象となり、独特の華麗さがかなり抑えられ、むしろマットなイメージになっているように見受けられる。
 内容的には、光学系は機械的精度を向上し、外部振動の影響を避ける目的でアルミダイキャスト製の構造材に組込まれており、レンズ系はスイングアームで保持され、ディスクドライブモーターは交流モーター採用で、セルフ・センタリング・サポート・スピンドル方式と呼ばれる構造をもつために、CDのセンタリング精度は高く、優れた光学系のサーボ方式とともに読取精度の向上に寄与している。
 音質と直接関係の深いフィルターには、音質重視の設計ではオーソドックスな手法であるデジタルフィルターが採用され、マッキントッシュでは、ダブルデジタルフィルター方式と呼ばれているものだ。
 機能面で興味深いのは、フロントパネルに、標準型のステレオフォーンジャックと独立した音量調整ボリュウムを備えており、このような機能は日本独自の要求かと思っていたが、米国でも個人的なプライベート・コンパクトディスクサウンドとして、ヘッドフォンで楽しまれるというのは、少からず驚かされた次第である。その他機能面では、各種のリピート機能、任意の20曲プログラム選曲、バーグラフ式のトラックナンバー表示、3スピードのミュージックスキャン機能などを備え、ワイヤレスのリモートコントローラ付属である。なお、一部では出力系にトランスが採用してあるとの情報もあったが、この点は不明。
 本機の音は、適度に帯域をコントロールした、安定感があるバランスとアナログディスク的なイメージのサウンドキャラクターが特徴である。出力コードは、純銅線が好ましく、置台の影響も平均的に受けるため、セッティングにはかなりの注意が必要であろう。マッキントッシュファンの反応が興味深いCDプレーヤーの第1作だ。

マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 中域から中低域、つまり音楽の最も重要な帯域が充実しているのが印象的である。オーディオは、ついハイエンド、ローエンドに気をとられ、レンジの広さを聴いてしまうのだが、同時に、そういう音のバランスの製品も多いようだ。このアンプの音は、無意識に聴いても中域が充実しているし、意識的に最高域、最低域に注意をすると、十分ワイドレンジであることがわかる。とろっとした特有の中域の魅力が、好みの分れるところでもあろう。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲は豊かな低域と、このアンプ特有の中域の充実により、きわめてスケールの大きな、表現の豊かな再生で、いかにも〝壷にはまった〟という印象の音だった。音像のエッジがもう少しシャープだったら、全ての人を魅了するだろう。JBLで聴いたローズマリー・クルーニーの声は、今回の試聴中のベストで、ハスキーさと艶っぽさのバランスが見事であった。ベースも、捻り出すような弾み感がリアルで、よくスイングする。
[CD試聴]ショルティのワーグナーはきわめて重厚な再現で、開始は暗めのムードがよく出た。トゥッティへの盛り上り、力感も立派。アメリンクの声が、やや明るさを一点ばりのきらいなのが惜しいが、美しいことでは絶品といってよい。ベイシーの出だしのピアノのアクション感が明確に聴かれる数少ないアンプの一つである。ベースの量感は豊かだが、重く鈍くなることはない。弾みもよく、音色感の識別も明瞭である。スピーカーへの対応の変化もないようだ。

マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュから新しいコントロールアンプ、C30が発売された。マッキントッシュのコントロールアンプは、現在まで、C29とC33が多くのファンに愛用されているが、このC30の登場により、C29が消えることになる。この点からすれば、C30は、C29の系統をひく製品ということになるが、内容的には、むしろ、C32、C33の系統といえるものだ。ブロックダイアグラムは、ほとんどC33と変りはない。5分割のイコライザーは、30Hz、160Hz、500Hz、1・5kHz、10kHzとC33と同じものが採用されているが、これは、きわめて利用度の高いもので、よほど凹凸の激しい部屋でもない限り、音場補正としても有効である。パネルレイアウトは、この5つのイコライザーコントロールとヘッドフォンボリュウムの6つのツマミを中心にシンメトリックにまとめられ、マッキントッシュ伝統のシンメトリックレイアウトが生きている。もちろん、グラスイルミネーションの、あの美しい、グリーン、レッド、ゴールドのパネルデザインは、ユニ−クにして合理的、そして、夢のあるものだ。リアパネルは8系統のラインレベル入力をもち、フォノは1系統になった。さらに、エクスターナル・プロセッサーという、外部アクセサリーの入出力回路が2系統あって、きわめて豊富なファンクションを備え、出力端子も、ラインとテープををみても、マッキントッシュが、コントロールセンターとしてのユーティリティの高さを重視しているコンセプトがわかるのである。そもそも、マッキントツシュの製品の特徴は、高度な性能とクォリティサウンドを、使い易さの多機能性と結合させ、いささかも最高級品としての品位を犠牲にしないところにある。つまり、トータルパフォーマンスの高度な達成という点での完成度の高さが同社の主張であって、決して一部のマニアの要求に応えるために普遍性を失うようなことはしない。その意味では、俗にいわれるエソテリックオーディオの範疇に入るものではなく、多くの人達に使えて、しかも、並のマニアックな製品をはるかに超える優れたパフォーマンスを得ている真の大人の製品であるといえるだろう。これは、真のプロだけが作り得るものである。長いキャリアをもったメーカーでなければ作り得ないものともいえるだろう。この辺りが、巷間によくある、信頼性と、トータルコンセプトに乏しい、個人に毛の生えたようなガレージメーカ−の製品とは根本的に異なる点である。
 高性能な車といえばスポーツカーということになるが、多くのスポーツカーは信頼性に欠けるし、日常の使用に供し難いものがある。ぽくの知る限り、唯一、この点で高い完成度をもっているのは西独のポルシェである。もう、16年もポルシェに乗っているが、その信頼性は抜群で、まるで、フォルクスワーゲンと同じようなメインテナンスで、いつでも安定した調子がくずれない。イタリアンやブリティッシュのスポーツカーとは、この点が大違いである。年中、調整を必要としたり、あちこちがこわれたり、ガレージがオイルで汚れる……などといった心配は全くなく、それでいて、走りは、それらを上廻るのがポルシェの良さである。デイリーショッピングから、サーキットランまで一台で使えるのがポルシェなのだ。マッキントッシュも、それに似ている。ポルシェやマッキントッシュは、そうした理解のもとに買われるべきものなのだ。
 C30は、まだ手許で、一週間ほどしか使っていないが、その音は、まさに、マッキントッシュの重厚さと、滑らかさであって、C29の音より熟成した雰囲気をもっている。この点でも、C33の系統と考えて間違いない。C33から、モニターアンプや、エキスパンダー・コンパンダーを取り除き、ややコストダウンをはかったというのが、この製品であろう。入力切換などのファンクションスイッチは、信頼性を重視し、全て電子スイッチになり、機械的接点をもたない。このスムースなファンクションは、新しいだけに、C33をも上廻っている。外部機器との干渉には周到な注意が払われ、他からの影響は全くないといってよく、どう使っても、ハムなどの影響は受けない。些細なことと思われるかもしれないが、ノイズに悩まされる超高級機は意外に多いのである。マッキントッシュの製品には修理の出来ない不具合がないのである。ポルシェが手を油だらけにしないで乗れる唯一の高性能スポーツカーであるのと似ている。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 XRT18という新しいスピーカーシステムがマッキントッシュから発売された。そのモデルナンバーからしても、また、全体のサイズからも、あのXRT20の弟分であることを想像する人が多いだろう。それは、しかし、全面的に正しい推測ではない。理由は、この製品が、XRT20にない、一歩進んだテクノロジーに裏打ちされたものだからである。ウーファー以外のユニットは全く新しいものに代っている。それだけではない。トゥイーターコラムが、一段と進歩し、時間特性の向上を見ているのである。
 もともと、このユニ−クなマッキントッシュのスピーカーシステムは、全帯域にわたって、位相特性を精密に調整し、ステレオフォニックな空間イメージと、楽器の音色の忠実な再現を実現したところに大きな特徴があった。真のステレオスピーカーと呼ばれる所以である。XRT18ではこれを一歩進め、トゥイーターコラムを構成する16個のユニット相互の関連にまでメスを入れたのである。つまり、XRT20では24個のユニットを使ったトゥイーターコラム全体を、スコーカー、ウーファーとタイムアライメントをとるにとどまっていたのであるが、今回は、そのコラム内でのアライメントまでとっている。そして、トゥイーターコラムは、スコーカー/ウーファーエンクロージュアとインラインで使うようになった(XRT20は、エンクロージュアのサイドにコラムを置いていた)。トゥイーターは、上下二個ずつ一組として順次時間調整がほどこされているのである。これには、ハーバード大学の大型コンピューターを使って膨大な計算をおこなったということだ。この結果、高域は一段と滑らかで、しなやかなものとなり、音色の再現はより忠実になった。XRT20もそうだが、もはや、そこにはスピーカーの存在が意識されなくなった観がある。
 また、このシステムも、マッキントッシュらしい細かなノウハウがみられ、〝よい音〟のための技術の柔軟性が大人の考え方として現われている。一方において、緻密な計算と測定によるテクノロジーの追求がおこなわれ、他方において、そうした経験によるコツとでもいったものが無視されていないのである。つまり、剛性といえば、それ一点張り、軽量化といえば、他に目もくれないといった近視眼的なアプローチに傾くメーカーのような子供っぽさはないのである。
 その一例として、このシステムのウーファーのエンクロージュアへの取付けを御紹介しておこう。ウーファーはエンクロージュアのバッフルボードに強力に締めつけるのが一般的である。特に密閉型の場合、エアータイトの面からも、この傾向が強い。しかし、XRT18のウーファーのフレームは直接バッフルボードに固定されていないのである。フレームのエッジは、エアーシールドも兼ねた弾性材のガスケットを介してバッフルボードに密着し、その上から別の弾性材を二重に介して、リング状のキャストフレームで圧着されている。今時、こんな非常識とも思える方法で、しかも手間暇かけて、ウーファーをマウントしているのは、マッキントッシュとしての理由があるからこそだ。何が何でも剛性一点張りの考え方で、ギューギュー締めつけ、補強のかたまりのような箱に改造し悦に入っている中途半端なエンジニアやアマチュア諸君の顔が見たい。どんなに剛性重視でやってみても、所詮は、物質や形状の本性をコントロール出来るものではないし、やればやるほど自然性から離れ、アンバランスな弊害が音となって現われる。肩肘張った、ガチガチのオーディオ的低音が好きならそれもよかろう。しかし、いい加減に不自然なオーディオサウンドから脱脚したほうがよい。ものごと全て、バランスが大切であり、トータルとしての視野をもって、音の自然な質感を追求すべきではないだろうか。このXRT18の方法がベストとも思わないし、未来に向って絶対的だとも考えられないが、少なくとも、音を目的とした行為である以上、見習うべき姿勢であろう。
 MQ107とう専用イコライザーを使って、部屋との総合特性を調整する点はXRT20と同様であり、入念な調整で部屋の欠点をカバーし、かつ、聴き手の感性にぴたりと寄りそわせる努力は必要である。私はXRT20と、もう三年も取組んでいるが、確実にその努力は報いられ、しかも、まだまだよくなりそうな可能性を感じているほどである。スピーカー自体に強引な主張と個性がないように感じられるが、実は、自然に、素直に鳴るという性格こそ、最も重要なのである。