菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より
オーディオメーカーの名門マッキントッシュはアンプの項で触れたように名実ともにこの世界の一流品を作り続けているが、最も古い歴史と伝統を重んじる頑固な姿勢の反面、きわめて新しいテクノロジーに積極的なメーカーでもある。その現われの一つが、アメリカにおいて最も早くCDプレーヤーを商品化したことである。このMCD7007はすでに3世代目の製品であり、原器MCD7000は1985年発売だ。その後MCD7005を経て’88年にこの製品が発売された。アンプの専門メーカーからスタートした同社は’50年代後半にはすでにスピーカーの研究開発に入っていたし、’60年代後半には商品化している。そして、’80年代にはアナログプレーヤーシステムがほとんど完成していたのだが、CDの登場によりそのプロジェクトは中止されたのである。凝りに凝ったトーンアームを当時社長のゴードン・ガウ氏自らが熱心に開発を進めていたのだが、CDの将来性を見てとったのであろう。ガウ氏は自宅で、ADとCDを熱心に試聴しADの音のよさを主張していたのだが、CDの可能性や技術的興味に強く惹かれたことも事実である。ある夜、突如私に国際電話をかけてきてCDプレーヤーをマッキントッシュ・ブランドで出すよ! といってきた。私のほうが戸惑ったほどである。来週オランダのフィリップスヘ行くというのである。あのADプレーヤーはどうするのだ? と聞くと、残念ながらビジネス的に無理だと判断したという返事であった。一流品のメーカーは、一流メーカーであり続けるためには先見性と勇気のある決断力が必要であることを教えられた。その2年後にMCD7000が発表されたのだが、マッキントッシュ・サウンドを実現したCDプレーヤーであったのに安心したものだ。MCD7007は、先述のようにこれをリファインしたもので、そのしなやかで自然な高域はCDの癖を感じさせないし、厚く暖かいサウンドだ。
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