グレースのカートリッジF8Cの広告
(スイングジャーナル 1969年11月号掲載)
Category Archives: カートリッジ - Page 33
グレース F-8C
シュアー M44-5
グレース F-8C
岩崎千明
スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
F8Lというベスト・セラーのカートリッジに「MUSICA」と名付けたF8Mが加わったのは昨年春であった。F8シリーズは国産MM型カートリッジの代表のようにいわれ、その性能、品質、さらに再生品位までもが高い信頼度をそなえている製品である。
非常に繊細に音のひとつひとつを適確に拾い上げる能力、どんな演奏のレコードでも正確に音溝をトレースする能力、このようなもっとも大切にして必要な条件を、危な気なくそなえているという点て、グレースのF8Lは国内製品中でもベストに上げられるひとつであった。
そして、その音の繊細さに、より以上の迫力、アタックの力強さを加えて誕生したのがF8Mであった。
むろんF8Mは発売後、F8Lと並んで好評を持って迎えられ、特にジャズ・ファンからはF8L以上に支持されていると聞く。
F8L、F8Mの話を長々と前置をしたのには理由がないわけではない。
今回、F8Cが発売された。F8シリーズの最高級品としてのF8Cについて、次のようなことがよくいわれているのである。
つまり「F8CはF8LとF8Mとの中間的な製品である」「F8LとF8Mの良い所を採り入れて作られたのがF8Cである……」
これは結論からいくと誤りである。F8CはF8シリーズの標準品種F8Lを基として出発したF8Mとは兄貴分に当る製品である。メーカーの言によると「F8シリーズの最高級を目指して、精密技術を駆使して完成した製品」である。
結果としてF8Mのアタックを加えられたF8Cは、音色の上で、F8LとF8Mの中間的なファクターを示すこととなった。メーカーサイドでは、しかしこれはあくまで聴感上の結果であるという。
F8Lをもととしてその性能向上化の結果、それ以前のF8Mと似たとしても、技術的にはかなり違ったものからスタートして得たのである.
一般にカートリッジの高性能化の方法として、針先カンチレバーの質量を減らし、その支持をやわらかにすることにより、振動系を動きやすくするのを目的とする。これはシュアーのカートリッジが追従能力、トラッカビリティの向上を狙って優れた性能を得るに到ったことからも納得ができよう。
レコード音溝に刻みこまれた20、000ヘルツにも達する高速振動に追従するには、そのカンチレバー自体の自由共振はその限界を越えることが好ましい。しかし現実にはそれが、いかに難かしいことか現在の市販製品は20、000ヘルツ以上のものがない。もっとも高いひとつであるF8Lにしても18、000ヘルツである。一般には音声帯域内にあるこのカンチレバーの高域共振はダンパーによって押えられているわけである。このように押えられて周波数特性はフラットにされている。
微少化されて20、000ヘルツ以上の音声帯域以上高い範囲に自由共振点が達したためJ支持部によるダンプの必要力くなくなって、針先の自由度が大きく向上したわけである。つまり針先コンプライアンスが向上して追従性がF8Cにおいて、25×10の−6乗
cm/dynと、より優れているのはこのためである。アタックの優れているのはこの結果、過渡特性が向上したからである。
しかし、この僅かな向上のためにかなりのコストアップがつきまとうことになり、コスト・パーフォーマンスの点でF8Lにくらべて損をすることとなるのだが、この点こそ次のように強調したい。
一般にコスト・パーフォーマンスを考えない最高級カートリッジとして国産を選ぶことは今日ではめったにないのが通例である。国産メーカーの奮起を促すことをいつも叫んできた我々にしては、このF8Cの出現をもっと価値のある成果として見直してもよいのではないだろうか。F8Cこそ外国製高級カートリッジに挑戦した国産カートリッジ第一弾なのであるから。
オーディオテクニカ AT-35X, AT-VM3
マイクロ VF-3100/e
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
適度に柔らかく、しかもハイ・エンドを僅かに強調してシャープさも盛り込んだといった作り方のようで、強い個性はないが無難なカートリッジという印象である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンが少々軽く聴こえること。音の奥行きや厚みに、やや欠けること。フォルティシモで幾らか音が荒れ気味になることなど、細かくあげればいろいろあるが平均的な水準あたりでうまくまとめられた製品のようだ。弦合奏や声は、ややハスキーで冷たい傾向だが、ジャズやムードの立体感や奥行きがわりあいよく出て楽しめる。ピアノは、タッチが多少重く粘るが、重量感がもう少しあっていい。スクラッチは、ハイ・エンドでいくぶんシリつく傾向がある。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:90
オーディオテクニカ AT-21X
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
トレーシングが安定しているらしく、針の浮く感じやビリつく傾向はほとんど無いが、音のバランスにやや難点があって、中域に僅かながら圧迫感があり、高域はなだらかに下降しているらしく華やかさとか繊細感が、もう少し欲しいような音質である。音源が遠くやや平面的で、総じて明るさが不足しているが、ムード音楽のギターの音は温かく、弦合奏は柔らかく耳あたりがいい。ピアノや打楽器は、タッチがやや重く、音離れに不満がある。オーケストラは重低音が割合豊かだが、中域の厚みがもっと欲しいし、フォルティシモは飽和的になる。ヴェルディの大合唱は、フォルティシモでも音の分離が明瞭で、音も充実しているが、やはり音源がやや遠い印象である。
オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:85
ピカリング V15/AM-3
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ワイドレンジという感じの音ではなく、中~高音域の上の方に多少張りを持たせてハイ・エンドをカットしたような、おそらく中級品らしい音づくりだが、腰の強い明るい音が身上のようである。音の拡がりがよく出て奥行きもあり、分離も切れ込みも一応よく、低域にも適度の厚さがある。ピアノ・ソロでは、一種ふてぶてしいような張りがあって、引き締った腰の強い音を再生する。弦合奏のユニゾンでは何となく安っぽさが感じられる一方、妙につやのある音が印象に残るが、ヴェルディあたりになると、バランスの悪さや歪みっぽさが出てきて、さすがに欠点を露呈してしまう。華やかさ、明るさ、独特の拡がりに特徴がある。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95
グレース F-21
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
おそろしく元気のいい音を持ったカートリッジで、低域に独特の量感があるし、中高域もかなり強調されていて、明るい派手な音を聴かせるが、音のキメが相当荒いことや、個性の強いキャラクターが全体のバランスをわずかながらくずしてしまっているという点で、今回テストした中では異色的な製品だった。逆カマボコ型に近い音質なので、華やかだが硬質のドライなタッチになり、ロスアンヘレスの声が別人のようにハスキーに聴こえるのはおもしろい。レクィエムもすばらしく威勢がいいし、モダンジャズも圧倒的迫力だ。スクラッチノイズまでが大きく勇ましい。音ぜんたいが、いかにも若さにまかせて走りまわっているような、ある種の逞しさに溢れている。
オーケストラ:☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価:55
コストパフォーマンス:65
東京サウンド STC-10E
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
とりたてて欠点もないかわりに、素晴らしいという魅力もあまりない。総体にぼってりと重い音で、軽快さに欠けるが、かといって奥行きや厚みのあるという音でもなく、何となく水っぽい酒のような印象だ。弦合奏のユニゾンが割合美しいし(ただし高域の繊細感が物足りなかった)、ロスアンヘレスの声が温かく聴ける。ヴェルディのレクィエムも、ドンシャリ的にならず安定だが、内声部の充実感にやや欠けて、男声の魅力が不足していたのは他の多くのカートリッジ同様である。ピアノやジャズでは、タッチが重くなるものの丸味のあるウォームトーンが聴き易い。無難だが、いま一つ魅力に欠けるという音だ。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:95
パイオニア PC-15
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ブラインドテストNo.37(パイオニア PC20)の音にもう少し腰の強さが加わったような音質だが、中域が多少かたく、音が重い感じになる。ジャズの迫力では、リファレンス・カートリッジ(シュアーM75)によく似た、中域のしっかりした厚みがあり、ムードもバランスよくおもしろく聴かせる。
弦合奏では中域の張りがいくぶん耳ざわりだが、ハーモニーがよく溶け合うし適度につやもある。ヴェルディでも中高域の張り出す感じはあるが、フォルティシモでも歪みがわりあい少ない、男声の美しい、明るいバランスの良い音である。ロスアンヘレスの声は、しかしやや品を欠き、ピアノ・ソロもタッチが硬く重く粘る。スクラッチノイズは少ない方だが、ややよごれ気味で多少耳につき、高域のしゃくれ上がったような音である。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:90
オーディオテクニカ AT-VM3
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
総体に、やや重くダークな音で、音の切れ込みの良さとか音離れの点に多少の不満が残るが、柔らかくバランスの良い音質で、欠点の少ないカートリッジである。スクラッチもよく抑えられて、高域にピーク性の危なげな音も感じられない。ただ、どのレコードの場合にも、楽器がやや遠のく印象で、ソフトタッチの音になる。激しさを求める向きには敬遠されそうだが、耳当りのよさをとるべきだろう。オーケストラや弦合奏では、、弦楽器のみずみずしさがもっと欲しい気がするし、声もややドライでタッチがコロコロして輪郭が明瞭だが、強打音ではやや音離れが悪くなる傾向がある。ソフトムードというところで好みが分かれそうだ。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95
マイクロ M-2100/5
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
中低域にややふくらみを持たせた温色系の音に特長がある。特別に素晴らしいという音ではないにしても、バランス良く、柔らかく、上手にまとめられた製品と思われる。ジャズの低域が豊かで(もう少し締まりは欲しいが)臨場感があるし、独唱も合唱も、声と楽器のコントラストが表現されて距離感がよく出る。大編成のフォルティシモでも飽和した感じがなく音がよく伸びるが、音源がやや遠のいた印象になり、どういうわけか高域が幾分上がり気味に聴こえる。このカートリッジの弱点はピアノにあるようで、音が平面的で打鍵ONが少々安っぽくなるし、楽器のスケールがやや小型になる。スクラッチノイズが多少ジャリつく感じなのと、レコード外周の反りに弱くフラッター気味になりやすい。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:100
テストを終えて
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
39個というと多いみたいに思えても、いまわが家でいつでも鳴る形にシェルにマウントしてあるカートリッジが間もなく80個になろうとしているありさまだから、その大半は一度は耳にしている筈で、今回はじめて聴く製品は数種類しかないわけだけれど、ブラインドで銘柄を想像できたのは10個にも満たなかった。いくら音が違うといったところで、カートリッジの差というものは、たとえてみれば、同じメーカーのスピーカーでせいぜい1ランクちがいの音の差ていどが、カートリッジでいえばピンからキリまでぐらいの差にあたるといった程度で、そういうこまかな差を文字に書き表わすと、どうしても新聞を虫メガネでたどるように、写真の網点や活字のニジミがことさら誇張されるといった感をまぬがれ得ない。
また一方、レコードあってのカートリッジの音ということを考えると、スピーカーが部屋や置き場所によってガラリと音質が変わるようにひとつのカートリッジの評価が、レコードによって、かわることは当然といえる。その点、今回テスト用として選ばれたレコードは、カートリッジのテスト用としては、どちらかというとカートリッジのかくれた欠点をえぐり出すというソースでなかったから、結果としては、ずいぶん点数が甘くなっていると思う。少なくとも、わたくし個人が対象にしている室内楽や器楽曲、声楽曲のとくに欧州系の凝ったレコードを再生したら、またいわゆる優秀録音ではないSPからのダビングものや年代の古い録音を再生したら、もっと辛い評価になったろうとも思う。加えて、カートリッジという商品は承知のように一個ごとの製品ムラがあるし、室温やその他の外的条件による適性針圧のちがい、負荷のちがい、またMC型ではトランスやヘッドアンプのキャラクターなど、さまざまの条件が複雑にからみあうので、カートリッジの本質を正しく掴もうとするなら、こういう短期間の比較にはもはや限界があるし、さらにつっこんで考えてみれば、ブラインドテストという方法に、根本的に無理があることに気がつく筈だ。
実際の話、10号のスピーカー、今回のカートリッジと二回のブラインドテストを経験してみてわたくし自身は、目かくしテストそのものに、疑いを抱かざるをえなくなった(本誌のメンバーも同意見とのことだ)。目かくしテストは、一対比較のようなときには、先入観をとり除くによいかもしれないが、何十個というそれぞれに個性を持った商品を評価するには、決して最良の手段とはいい難い。むろん音を聴くことがオーディオパーツの目的である以上、音が悪くては話にならないが、逆に音さえ良ければそれでよいというわけのものでは決してありえなくてカートリッジに限っていってもいくら採点の点数が良かろうが、実際の製品を手にとってみれば、まかりまちがってもこんなツラがまえのカートリッジに、自分の大事なディスクを引掻いてもらいたくない、と思う製品が必ずあるもので、そういうところがオーディオ道楽の大切なところなのだ。少なくとも、ひとつの「もの」は、形や色や大きさや重さや、手ざわりや匂いや音すべてを内包して存在し、人間はそのすべてを一瞬に感知して「もの」の良否を判断しているので、その一面の特性だけを切離して評価すべきものでは決してありえない。あらゆる特性を総合的に感知できるのが人間の能力なので、それがなければ測定器と同じだろう。そういう総合能力を最高に発揮できるもののひとつがオーディオという道楽にほかならない。
この原稿を渡した後で、コスト・パフォーマンスの点数を入れるために、価格を知らせてもらうわけで、とうぜん製品の推測もつくことになるが、どういう結果が出ようが、わたくしとしては右に書いた次第で、あくまでも今回与えられた条件の中で採点したにすぎず、この採点は商品としてのカートリッジの評価とは必ずしも結びつかないことをお断りしておきたい。
ビクター IM-10S
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ブラインドテストNo.27(ピカリング V15/AM3)あたりと一脈通じる、中域から低域の厚い特徴のある音質だ。高域の特性があまり延びていない印象で、そのためか音が重い傾向だが、中低域の豊かさをとるべき音なのだろう。しかしスクラッチノイズの性質は、スペクトラムが低く楽音にまつわりつく感じで、多少耳ざわりである。ピアノのソロは中域の厚みと高域の丸さのために腰のつよい太い音質になるが、ジャズではこの強さが好ましい。ロスアンヘレスの声が明るく、伴奏との距離感の出るのもよい。弦合奏もよくハモる。しかしやはりヴェルディあたりになると、強奏で何となく安っぽいハイファイ調になり、音ばなれのよくないところが気になってしまうあたり、中級品と思われる音質である。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80
スペックスSD-700 LaboratoryII
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
わりあいに腰の強い、ホットな音質を持ったカートリッジで、多少品格に欠けるが一種のふてぶてしさを持った、中高域に張りのある音質は独特である。オーケストラではバランスよく、低域も充分出て、音の奥行きも立体感もなかなかよく出るが、フォルティシモではやや混濁気味で、強奏の際の伸びと分離に多少難点が残る。ピアノは、タッチが明瞭だが、ややこもり気味のところがある。弦合奏は特に難は無いというものの、中高域に幾らか圧迫感がある。ロスアンヘレスの声にもそういう印象が付きまとうし、ヴェルディも強奏部でやや荒くなる。しかし、ジャズやムードではダイナミックな近接感を伴って厚みのある楽しめる音を再生する。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80
ADC ADC25
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ピーク性の危なげな音が全然感じられないが、中域の盛り上がったカマボコ型の特性らしい。ピアノや打楽器の音がよく張り出して、やや派手だがピアノのタッチは軽く粒が立ち、適度の厚味を持ってしかも細かく、音が明るい。しかし、「ツァラトゥストラ」や「レクィエム」では、やや抑制を欠いて押しつけがましく、野放図に唱うといった印象がやや安手で品のない音になりやすいが、ジャズでは楽器が近接してある種の生なましさを再現する。フォルティシモでも音がつぶれずによく伸びる。ただ反ったレコードで何となくフラッター気味になるのは、針の支持の柔らかすぎのようで、トレースに不安定なところがありそうだ。スクラッチノイズは、ややスペクトラムが低く、楽音との分離がよくない。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75
EMT TSD15
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
いくらブラインド・テストでも、自分が毎日常用しているカートリッジぐらいは、見当がつこうというものだ。最初のスクラッチノイズを聴いただけで、これはEMTだと判ってしまったので、試聴記にも先入観が入ってしまうし、なにしろ目下惚れっぱなしの製品だけに欠点が書きにくい。まあ強いて難点をあげれば効果だし入手しにくいし、割合に寿命が短いし、しかも針交換が高価につくということで、決して万人にすすめるべき製品ではないし、いささか深情けの過ぎるような音質は、もっとリラックスして、カラリとドライに楽しみたいという人には毛嫌いされるにちがいない。つまり決して万能型のカートリッジでもなく無色でもない、かなりアクの強い音質だと思う。
オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆☆
総合評価:100
コストパフォーマンス:85
エンパイア 999VE
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
すばらしく安定な、どっしりと腰のすわった音質で、周波数全域に亘ってよくコントロールされた、ピーク成分のない滑らかな音質である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンの低音の独特の厚みは振動的と言いたいほどだ。高域は、やや丸いために、ちょっと聴くとソフトムードのようだが、分解能もよく中低域の厚みの上に充実した奥行きある音が乗って、フォルティシモでも腰がくだけずよく伸びる。ピアノもバランスが良く、多少甘く切れ込み不足の感があるが、耳あたりがいい。弦合奏では、高域のマルサゆえかツヤに欠けて無難といった印象。ジャズではこれがさらにソフトムードになって激しさに欠けるが、総体に歪みっぽさのない、滑らかな安定したトレースが素晴らしい。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:75
シュアー V15 TypeII
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ごく平均的な特性をもった優等生手とカートリッジのようで、おとなしいがおもしろみはあまりない。オーケストラでは、奥行きや距離感が割合よく出て、音の分離もいいが、冒頭のオルガンの重低音がやや不足する。ピアノはタッチが柔らかいが、切れ込みに欠けて奥行きが浅く感じられる。弦合奏でもやはりおとなしく柔らかく、ソフトムードで躍動感に欠け、ロスアンヘレスの声はバランスは美しいが、つややかさがないのであくまでも無難という印象。大合唱もバランスよく、これといった欠点はないがもう少し奥行きが出て欲しい。ジャズも躍動感が無くおとなしく、楽器の距離感がもっと出ても良さそう。ソツがなさすぎておもしろくないのだが、こういう欠点の無さが貴重なのかもしれない。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75
エラック STS444E
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
ハイ・エンド(高域端)のしゃくれ上がった特性らしく、それが一種の繊細感を伴っているが、中域の厚みに欠けるためか、線の細い音質である。総体に平板で奥行きに欠け、ピアノ・ソロやジャズのピアノがべったりと立体感を欠く。弦合奏では中高域に独特のツヤが出るが、細身で冷たい音質である。ヴェルディのレクィエムではハイ・エンドのピーク性の音が最も強調されて、ハイファイマニアの喜びそうな、一見繊細で分離のよい派手な音を聴かせるが、重量感のない軽い音である。ロスアンヘレスの声が、ややドライになってしまうのもこの特性のためらしい。ただ、全体としては音の品位はそう悪い方ではなく、軽快でクールな音質にこの製品の特徴がある。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75
スタントン 681EE
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
中高域をやや盛り上げて、高域を抑えたような特徴のある音質。ジャズのコンボなどでは、独特の近接感が出て、厚味とコクのあるウォーム・トーンを聴かせるが、最高音域が柔らかく丸めてあるので、ブラッシュ・ワークの切れ込みや繊細感に不満が残る。オーケストラや弦合奏では、したがって抜けの良くない甘い音になり、幕一枚向こうで鳴る感じになる。スクラッチノイズは少ない、という方ではない。声やピアノでも近接感のある腰の強い音になるが、やや圧迫感がなくもない。しかし、音全体に、なめらかさと力強さがあって、相当に個性的なカートリッジだという印象を受ける。ハイのしゃくれ上がった音の嫌いな人には、好まれる要素を持っている。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75
シュアー M75E TypeII
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
いろいろなレコードに対して平均的に点数が良く、ある種の魅力も兼ね備えたなかなか好ましい製品だ。オーケストラで音源が、やや遠くなる感じはあるが、楽器の遠近感や奥行きを美しく再現し、適度のキメも細かく、バランス良く歪みも少ない。ピアノでは、中高域の張りが、やや不足してタッチが甘くなるが、柔らかく楽しめる音質。弦合奏はユニゾンがよく溶け合い、生き生きとよく動くつやっぽい音が再生される。ヴェルディは声部の厚みをやや欠くがディテールがよく再現され、強奏でも歪が少なく、スケールのあるダイナミックな音質である。ジャズ、ムードもおもしろく聴ける。ロスアンヘレスで、声と楽器のコントラストがもう少し望まれるが、総じて良いカートリッジだ。
オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:90
デッカ C4E
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
軽く耳ざわりでないスクラッチノイズを伴って、ツヤっぽく独特の拡がりが出る。オーケストラのフォルティシモでも音がつぶれず十二分に良く伸びて、ダイナミックレンジの広さを感じさせる。歪みも少なく、音の分離も切れ込みも音離れもよい。特にピアノが非常によく鳴って、やや重量感を欠くがタッチが明瞭な、中音域の張りのある、明るい美しい音である。弦合奏は中低域の量感をやや欠くが高域のツヤが美しいユニゾンを聴かせる。ロスアンヘレスの声もツヤがあって、しかも温かい。ただし、ジャズではシンバルの音などに独特の音色があって、いずれにせよ中~高域に一種の癖を持ったカートリッジであることがわかるが、安っぽさのない格調の高い音が印象的である。
オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:90
コストパフォーマンス:85
ADC ADC10E/MKII
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
中域が張り出して、やや図太いがしっかりした、明るい音質である。弦合奏に厚みがあり、ロスアンヘレスの声も温かく聴ける。ジャズは近接感がよく出て、温かく良く唱い、打楽器の音離れもよい。ただし、レコードによってはトレースに不安定なところがあって、ピアノの打鍵がザラつき気味になる。オーケストラではフォルティシモがややよごれて、何となくビリつき加減。ヴェルディでは低域の厚みがやや不足して、コーラスが細身になる。小編成では高域の丸い音質でシャープさの点で物足りなさがあるが、大編成ではハイ・エンドが上がるような、レコードによって性格の変わるようなところがある。針の支持が柔らかすぎるのか゛反ったレコードでは音が浮く傾向がある。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75
ゴールドリング 800Super E
瀬川冬樹
ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より
中低域のやや不足した線の弱い音だが、ふんわりと音が拡がって独特の雰囲気を持った品の良い音質だ。総じて音の厚みに欠けるし、特にピアノでは左手の方が音が弱くなる感じで、腰砕けという印象が無くもないが、弦の合奏等、ユニゾンが美しくよく溶け合いツヤを持って再現される。独唱も品良く美しい。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモでも音がつぶれずよく伸びる。しかし、大合唱(ヴェルディ)等では、声がやや濁る感じになり、コーラスの人数が減ったようになるのは、中域の厚みに欠けるためか。ジャズではややきれいごとに音源が遠くなって迫力に欠ける。スクラッチは殆んど気にならないが、針の支持が柔らかいらしく、反ったレコードの外周でボディーがぶつかり気味になる。
オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:70
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