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オルトフォン論

菅野沖彦

オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)
「信頼と憧憬 オルトフォン論」より

 オルトフォンといえば、カートリッジの代名詞といってよいぐらい人口に膾炙している名ブランドネームである。とくに我が国においては神格化されるほど、この名前はオーラを放つ。しかも、それは、1950年代にまで遡って、多くの人々の絶大な信頼と憧憬の対象となってきたのであった。ご承知のように、LPレコードの45/45のステレオ方式が実用化したのが1957〜58年のことであるが、この方式が世界規格として普及し始めたと同時に、オルトフォンはSPUシリーズのカートリッジを開発し発売したのであった。以来35年を経た今日まで、このSPUシリーズの人気は衰えることなく、92年に発売されたSPUマイスターにいたるまで同シリーズはたえず改善に改善を重ね、驚異的なロングランを続けているのである。オルトフォンのステレオカートリッジとしては、このSPUの他にSLシリーズ、VMSシリーズ(M、MF、F型など)、MCシリーズなど、それぞれ構造の異なるシリーズが存在することもいまさらいうまでもないことだが、SPUシリーズの日本での存在感の大きさは特異といってよいもので、日本のオーディオ文化のひとつの象徴として捉え、考慮するのに値する現象だと思うのである。
 本書の発刊にあたり、その巻頭のオルトフォン論を書くように命じられたわけだが、僕としては、このSPU現象を自身のオーディオ歴を通して振り返りながら、その私的考慮をもって代弁させていただこうと思うのだ。
 SPレコード時代からオーディオマニアでもあった僕の装置は、ステレオ実用化の成った1958年当時は当然モノーラルであって、それは、かなりの大がかりなものであったため、おいそれとステレオ化する気持ちも、また財力も持ち合わせなかった。なにしろ、中学生時代から、高校〜大学を通して、自作システムでレコードを聴くことに最大の楽しみを見出していたオーディオマニアであったから、そのころには一応、自分としては終着に近い満足出来る再生装置になっていたのである。記憶をたどって大ざっばにそのラインナップを記そう。スピーカーシステムは12インチ口径のフリーエッジコーン型ウーファーで、磁気回路はフィールド型だ。ダイナックス(不二音響製)FD12というユニットで、これを自分で図面を書いて近所の家具屋さんに注文して作ってもらったコーナ型の密閉箱に収めたものだ。この低音部にコーラル(福洋音響製)D650、6・5インチユニットを3個をスコーカーとして使ったが、これはウーファーエンクロージュアの上部に平面バッフルを使って、3方向に振って固定した。そしてトゥイーターは東亜特殊電器製のHW7+AL1(ホーン+ディフユーザー)を使い、3ウェイシステムを構成したものだ。アンプは、プリ/パワー/電源と分離した。いまでいうセパレート型で、もちろん、管球式の自作だ。プリが12AX7を2本使ったCR型イコライザーで、当時のLPレコードの録音特性に5種類のカーブで対応させたマニアックなもの。RIAA、AES、CBS、NAB、FFRRという5種の異なったイコライザー特性に対応させたものだ。しかもロールオフとターンオーバーは別々の独立した多接点ロータリースイッチによるもの。パワーアンプの初段は6SJ7、位相反転に6SN7(1/2)もう1/2はパワー管のスクリーングリッドの定電圧用。終段のパワーは5932×2のプッシュプルでオートフォーマーは日本フェランティ製だった。電源部はアンプ用とスピーカーのマグネット励磁用とあって、整流にはアンプ用に5V4、スピーカー用にKX80を使ったと思う。肝心のプレーヤーシステムだが、これが一番思い出せないので困っている。ターンテーブルは、はじめは不二音響製のP6というリムドライブ型を使い、トーンアームがグレースのオイルダンプ(アメリカのグレイの製品のデッドコピーで、カートリッジも同じグレースのF2かF3(アメリカのピッカリングのコピー)だったと思う。しかし、この当時から、この道の先達が、オルトフォンのカートリッジについて技術雑誌にかかれていたのを見たりしてすでにこのブランドは知っていた。しかし、とてもとても身近に感じられるはずもなく、外国製のコピー段階にしかなかったが、国産のグレース製品の高性能で満足していたのだった。
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 こんな装置であったから、ステレオのレコードが登場したからといって、このアンプ系とスピーカー系を2チャネルにすることは夢の夢。ここまでくるにも、〝ひいひい〟言いながら工面したお金であるから、とても無理な話。意地を張って、モノーラルで十分、否、モノーラルのほうが音の密度が高く、リアリティがあって、フワフワしたステレオ感や、左右への拡がりなどの効果に堕するステレオなんか……と頑張っていた。事実、どこでステレオを聴かせてもらっても、自宅のシステムを2倍にして対応したレベルのものがなく、カートリッジやトーンアームも45/45システムに経験が不足するせいか、実体感のないエフェクト走りの音が多かった。スタート時のことだから録音もステレオ効果の演出に気をとられたものが多かったように思う。
 しかし、レコードは新しいものが、どんどんステレオで発売され、それらの演奏を聴きたいとなると、プレーヤーからステレオ化を始め、L+Rのモノーラルで聴くのがよいと思い始めるようになるのである。この辺からが、プレーヤーの記憶が混乱し始めるのであって、スピーカーシステムやアンプ群は明確に記憶しているわりには、プレーヤーシステムのそれがあやふやなのである。
 ところが、いつかは、はっきりしないけれど、オルトフォンのSPU−GTカートリッジを買った記憶は実に鮮明なのである。たぶん、’63〜’64年ぐらいの時期だと思う。トーンアームは

オルトフォン SPU Classic AE

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より

 同社がカートリッジメーカーとして王者の地位を不動のものにしたのは、何といってもSPUシリーズだといえるだろう。ステレオレコードが発売された1950年代の後期に発表されたSPUは、MC型カートリッジの評価を確固たるものにしたのである。SPU−AとSPU−Gシリーズがシェルの形状の違いによって作られ、Gシェルは卵型のふっくらとしたシェイプで魅力的なアピールをしたし、AシェルはRをもった角型で、よりプロフェッショナルなイメージが強かった。さらに楕円針が登場してからGE、AEという末尾にEのついたモデルナンバーが登場したが、この製品はそのAEのレプリカといえるものである。もちろん、SPU−CLASSIC−GEもあるし、丸針仕様のGとAもある。いずれにしても違いは針先チップ形状とシェルの形状であり、基本的にはオリジナルSPUシリーズの忠実なリモデリングである。SPUシリーズの豊潤な音はアナログディスクの情感的魅力の再現に最もふさわしい音といえるだろう。その濃密な陰影、艶のある高域と力強い低域の再現する独特の質感は脂肪ののったバタ臭さとでもいえるであろうか。欧米の音楽の素材としての音の質感として大変魅力的なものである。

オルトフォン MC5000

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より

 オルトフォン社はデンマークで1918年に創立されたメーカーだから歴史と伝統は古い。レコード産業機器の総合メーカーとしてプレス機からカッティングマシーンとヘッド、そしてそのアンプなど一貫したプラントメーカーとしての全盛時代が懐しい。オーディオ再生の分野では何といってもMC型のカートリッジとトーンアームのメーカーとしての印象が際立っている。このMC5000は、そのオルトフォンの最新最高のカートリッジであるが、その本機がトレース針圧を最適値2・5gと定めているのが興味深い。線材からマグネット、カンチレバー、針先チップ、筐体のすべてを現代のハイテクでつめた最新のMC5000の素晴らしさは数々あるが、それらを2・5gを標準とする針圧でトータルバランスさせたところが、いかにも老舗らしい回答ではないか。発電系を含め、トーンアームやディスク溝の実情、さらに家庭での実用性のトータルから決定されるべき適正針圧は2〜3gというのが正しいことを示した一流メーカーと一流品の見識というべきだろう。アナログ機器を今も作り続けるオルトフォンこそ、やはり最後までカートリッジの専門メーカーであり純粋なオーディオメーカーだった。

イケダ IKEDA 9EMPL

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 アナログディスク用のカートリッジは、音溝の凹凸を電気信号に変換するトランスデューサーであるため、変換方式、つまり発電するメカニズムそのものが音色、音質を直接的に支配することになる。この部分に魅せられたファンにとっては、これならではの奥深い楽しみの存在するジャンルである。
 一種の理想の発電方式ともいえるものに、一般的なカンチレバーを介さず、スタイラスそのものが、直接、発電コイルを駆動するダイレクトカップリング型がある。
 従来からも、この方式の可能性は追求されていたが、実用化の上で困難を極めたのは、振動系を安定に支持するサスペンション方式の開発であったわけだ。
 MC型で、しかもダイレクトカップリング方式のカートリッジを、コンシュマー用として世界初に完成させた記念すべきモデルが、イケダ9である。
 左右チャンネル用の2組のコイルの結合部に直接スタイラスを取りつけたシンプルな振動系は、2個の特殊形状ダンパーと糸による支持機構と組み合わせたメカニズムからスタートした。その後も、細部の改良と熟成期間をかけ、現時点での完成度は十分に高い。
 今回、新製品として登場したイケダ9EMPLは、シェル一体型ではなくて、単体のカートリッジとして発売された9EMをベースに、磁気回路のヨーク材に高磁束密度のパーメンダーを採用し、発電効率と磁気制動を高めた9EMPをさらにグレードアップしたモデルである。
 型番末尾のLは、ラージの意味であるとのことで、磁気回路は、カートリッジボディの内容積に対して最大限にまで大型化され、パーメンダーの使用量も50%アップとなっている。数値的には発表されていないが、磁束密度も、それなりに向上しているはずだ。なお、スタイラスは、9EMPと共通のムクダイヤの特殊長短円針付で、標準針圧は2・5gである。
 SS誌リファレンスプレーヤーで音を聴いてみよう。使用アームはSME3012Rプロであるが、9EMPLの発電機構から考えれば、オイルダンプ型のシリーズVが、現状ではベストであろう。
 針が音溝に触れたときのポップノイズ、音溝をトレースしているスクラッチノイズが、カートリッジの本質を聴くためのスリリングな瞬間である。制動が効き、パシッと決まるポップノイズ、カンチレバーによる揺れが皆無で、音溝にダイレクトに反応しているスクラッチノイズを聴いただけで、これはただものではないという実感がする。
 基本的には、やや硬質で、情報量を堂々と押し出すように聴かせる。9EMPは完成度の高さが特徴であったが、音溝に直接反応する厳しさが、新型のイケダ9EMPL最大の魅力だ。

クリアーオーディオ Gamma, Ceramic, Accurate

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 西独クリアーオーディオ社のMC型カートリッジは、かねてから米国のハイエンドユーザーと呼ばれる一部のファンの間で、音場感再生に優れた製品として評価が高い、とのことである。今回3モデルのMC型カートリッジが輸入された。
 MC型としての発電方式は、すでに特許を獲得した新タイプとのことであるが、現時点では、米国で発表された資料と思われるものを日本語に直訳したものしかなく、実際のところ、試聴時にはスペックも不明だった。負荷インピーダンスも、ローインピーダンス設計とのことであったが、試聴後に届いた資料によれば、50Ωにインピーダンスを設定し、50Ωのケーブルを使用すれば、ケーブルの反射が解消できる、と記されていることから、50Ωのハイインピーダンス型であることが判った次第だ。
 専用シェルに取りつけてあるスタンダードモデルと思われるガンマを、標準的な針圧とされる2・2gで聴く。全体に、やや線は太いが、安定度を重視した穏やかな音が特徴で、音場感の拡がりは、まず標準的な範囲だ。針圧を2・5gに増す。針圧変化と音の変化はシャープに反応を示し、明解さのあるエッジの張った音に変わる。
 特徴的な点は、スクラッチノイズの質が一般的なタイプとは異なり、乾いたイメージの、やや個性型である。針先のエージングにより、本来の音を聴かせるタイプのカートリッジであるのかもしれない。
 セラミックと名付けられた、中間的な位置づけにあるモデルは、ガンマと比較して、全体にやや表現を抑える傾向はあるが、音の芯がしっかりとしている点では、明らかに上級モデルらしいところだ。バランス的には、中域のレスポンスが上昇するという意味ではないが、中域に密度感が集中する傾向があり、ヴォーカルなどでは明快で、音像定位がシャープなことが特徴である。ダイナミックレンジの広さも、ガンマよりは明らかに一段上手である。
 注目のポイントである音場感は、フワッと柔らかい雰囲気が拡がるプレゼンスが感じられ、かなり個性的なイメージがある。
 アキュレートは、超高価格なスペシャリティモデルである。
 音の粒子は細かく滑らかに磨かれ、上級機らしいダイナミックレンジの広さに裏付けられて、独特のトロッとした滑らかさがある、大人っぽい熟成度の高さが聴きどころだろう。
 音場感は、奥深く後ろに拡がり、音像はフワッと浮き立つ個性型のまとまりであるのが特徴的。
 構造上の特徴から、出力の引き出し線の処理が直接音質と関係するため、共振を避けて取りつける必要がある。スクラッチノイズは、質と量は異なるが、3機種とも共通性があり、興味深い。

グレース ASAKURA’S ONE

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 最近のファンにはなじみが薄いと思うが、グレースはカートリッジやトーンアームの専門メーカーとして長い伝統を誇る国内屈指の老舗である。
 ちなみにステレオ時代以後の製品に限ってみても、ノイマンタイプを基礎に開発した国産ステレオMC型の第一号機F45D/Hは、クリスタル型が一般的であったステレオの音を、一挙にMC型の世界に飛躍させた記念すべき製品であり、これとペアに開発されたトランジスターヘッドアンプは、半導体の可能性を示した国内第一号機で、この設計者が若き日の長島達夫氏である。また、これも国内初のパイプアームと、いわゆるヨーロッパタイプの現在の標準型となっている4Pヘッドコネクターを採用したG44は、亡き瀬川冬樹氏の設計であった。
 F45D/H以後は、グレースの製品はF5にはじまり、現在のF8シリーズに発展するMM型が主力製品であった。
 一方、MC型は昭和52年に開発がスタートし、グレースが主催するグレース・コンサートでの演奏をテストケースとして、改良が加わえられ、同コンサートでASAKURA’s ONEのプロトタイプとして演奏が行われたのは、開発開始以来7年目の59年6月のことである。
 ボディシェルは、磁気回路の両側を厚い軽合金ブロックでサンドイッチ構造とする張度が高く制動効果を伴せもつ設計であり、ビスを貫通させる取付け部分は、横方向から見ると円盤状であり、ボディ背面との間に少しのクリアランスがあり、取付け部が浮いた構造を採用している。
 このタイプは、カートリッジボディとヘッドシェルとの接触面積を狭くとり、平均的に取付けネジを締めたときでも面積当りの圧力が高く、密着度を高める独特の構想に基づく設計である。
 試聴は、リファレンス用コントロールアンプPRA2000Zの昇圧トランスが昇圧比が低く、インピーダンスマッチングの幅が広い利点を活かして使い、比較用にはヘッドアンプも聴いてみた。
 最初はPRA2000ZのMCヘッドアンプで、針圧、1・8gで聴く。ナチュラルに伸びた広帯域型のレスポンスと、音の粒子が細かく滑らかであり、音場感はスピーカーの奥に拡がる。低域は柔らかく豊かであり、オーケストラなどでは大ホールらしいプレゼンスの優れた、響きの美しさが聴かれる。とくに、スクラッチノイズが、フッフッと柔らかく、聴感上のSN比が良いことが、このカートリッジ独特の魅力である。
 次に、PRA2000Zの昇圧トランスに切替える。帯域はわずかに狭くなるが、リアリティが高く、彫りの深い音が魅力的である。トランスの選択は、情報量が多くローレベルの抜けが良いタイプを選びたい。別の機会に、手捲きで作ったといわれる昇圧トランスを組み合わせたことがあるが、CDに対比できるナチュラルなレスポンスと素直に拡がる音場感のプレゼンス、立体的な音像定位が聴き取れ、このMC型の真価が発揮されたようだ。しばらく使い込んでエージングを済ませて、初めて本来の音となる高級カートリッジの文法に則した製品だ。

ハイフォニック MC-D900

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニックは、MC型カートリツジのスペシャリティをつくるメーカーとして発足以来、すでに昨年で3周年を迎えたが、これ機会として開発された新製品のひとつがMC−D900である。
 ハイフォニツクのモデルナンバーに少しでも慣れたファンなら、D900のDがカンチレバーにダイヤモンドを採用していることは容易に判かるというものだ。
 同社のダイヤモンドカンチレバー採用のモデルは、これが第3作にあたるが、今回の新製品では、空芯型を基準としていた同社のMC型としては異例にも、コイル巻枠に磁性体を使用している。新開発の低歪率でありリニアリティの優れたスーパー・パーマロイ材を十字型として使い、コイルにはLC−OFC線材を採用している。なお、シリーズ製品として同じ構造の発電率をもち、カンチレバー材料をムク材アルミ合金としたMC−A300が、同時に発売されている。
 新磁性体巷枠の採用で、出力電圧はMC−D10の0・13mVから、0・25mVに上昇し、インピーダンスは、40Ωから、10Ωに下がっている。また針圧が1・2gから1・7gに増したことは、出力電圧の増加と相まって、汎用性を高め大変に使いやすくなった。
 なお、MC−D10での成果である0・06mm角ブロックダイヤ採用のウルトラライン・マイクロスタイラス(針先0・1×1・2mil)に天然ダイヤモンドブロック使用のムクカンチレバーはそのまま本機に受継がれており、アルミ合金ブロック削り出しメタルボディ、ボディと磁気回路の間にエンジニアリングガラス樹脂採用の振動防止構造、独自のヨーク形状をもつ磁気回路など、ハイフォニック独特の方式はすべて本機にも導入されている。
 試聴はSME付のマイクロ8000IIと、昇圧トランスにHP−T7を使った。針圧は1・7gで聴く。聴感上の帯域バランスはワイドレンジタイプでスッキリと伸び、CDに準じた伸びやかなレスポンスである。音の粒子は細かくシャープで抜けがよく、音色も明るく分解能が高いために、いわゆる磁性体を巻枠に採用したMC型にありがちのローレベルの喰込み不足や、表情の穏やかさ、やや狭い音場感などといった印象が皆無に近く、良い意味での音溝を針先が丹念に拾う、いかにもアナログらしいレコードならではの音が、小気味よく楽しめるのが好ましいところだ。
 しばらく聴き込むと、少し中高域に輝やかしい一種のキャラクターがあるのが気になってくる。このあたりと低域の芯の硬さが、レコードらしい音を演出しているわけだが、少し抑えてみたい。
 針圧とインサイドフォース・キャンセラーの細かい調整でも、かなりコントロールすることはできるが、基本的には、主な原因を探し対処することだ。このキャラクターはHP−T7の筐体の微妙な鳴きであるらしく、厚めのフェルトなどでトランスを包み、スピーカーからの音圧を避けてみるのもひとつの方法であり、置き場所を選んで軽減することもできるだろう。

ソニー XL-MC9

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーの新MC型カートリッジシリーズの製品は、フレッシュなサウンドが魅力的なXL−MC7が、既に高い評価を受けているが、このシリーズのトップモデルとして、今回XL−MC9が開発された。
 XL−MC9は、伝統的な空芯8の字型コイルを採用する純粋なMC型力−トリッジで、分類的には、MC型としては高インピーダンス型に属するモデルである。
 振動系のカンチレバー材料には、ベリリュウムの表面にアモルファスダイヤモンドをコーティングした新素材が採用され、針先はスーパートラッキング針と名付けられたマイクロリッジタイプである。
 発電部は、磁気回路は独自の構造をもつ、発電効率の高いダブルリングマグネットを使った同極対向リング磁石型で、0・4mV・5cm/sec/45度の高い出力電圧を得ている。
 カートリッジボディは、アルミ削り出しの取付台採用、U字型バンド締め付けにより交換針ユニットは固定されており、針先交換はユニットを交換する方式である。
 最適針圧は、ソニーでは伝統的に1・5gを指示するが、今回のXL−MC9も1・5g±0・3gと発表されている。
 針圧とインサイドフォース・キャンセラーを1・5gとし、デンオンPRA2000Zのヘッドアンプを使って音を出す。プログラムソースは、ポップ系から始める。
 ナチュラルな帯域バランスと目鼻だちのクッキリとした明快な小気味のよい音だ。音場感は標準的に拡がり、音像の立ちかたはやや大きいが、輪郭はクッキリとしたタイプだ。音色には少し重い印象があり、表情がときおり抑えられるが、基本的にはキャラクターが少なく、よくできた製品と思われる。
 試みに針圧とIFCを1・75gに増す。帯域感が少しナロー型に変わるが、安定感が増し、音の芯がシッカリと聴かれ、音のエッジは適度の丸みをもってまとまり、ボーカルに附加されたエコーがタップリと響いて聴かれる。これまでは、金属系の重量のあるスタビライザーを併用していたが、これを取除いてみる。少し浮いた印象にはなるが、メリハリの効いた華やかな音に変わる。使いこなしによる音の変化は明瞭であり、音的には非常に興味深いものがある。
 プログラムをオーケストラに変えてみる。
 針圧1・5gでIFCも同じでスタートする。柔らかい低域ベースのサラリとしたある種類の硬質な魅力をもつ音だ。音場感的な奥行きも充分にあり、反応の速さが特徴ではあるが、少し表面的な傾向もある。
 針圧とIFCを1・75gに増す。低域の質感が向上し、厚みがある安定感が良い。中高域に少し輝きがあるが、程よく魅力的なアクセントだ。音場感の拡がりは標準的で、クォリティは充分に高いが、表情に少し冷たさがあるが、エージングでこなせそうな印象だ。JBLが逆相システムのため、試みに端子の±を逆にして聴いてみる。表情に和らぎがあり、プレゼンスの優れた良い雰囲気の音だ。バランス的に中高域に硬さは残すが、鮮度感に優れた見事な音である。針圧とIFCは、1・5gが最適で、1・75gとすると穏やかに過ぎる。

オーディオテクニカ AT-ML180

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 新世代のVM型を標榜するオーディオテクニカのMLシリーズは、新針先形状のマイクロリニアスタイラスを初めて採用したAT160MLを出発点とし、AT−ML170に続き、MLシリーズのトップモデルとして、今回、AT−ML180が新製品として登場することになった。
 さすがに、トップモデルだけあって、VM型での長期にわたる技術蓄積をベースに、時代の最先端をゆく高級素材が憎しみなく投入された開発が見受けられる。
 振動系のカンチレバー材料は、直径0・4mmのボロンパイプ表面に金を蒸着した、耐候性と制動作用を併せもつタイプで、0・08mmMLスタイラスチップは、シリーズ中で最小の素材を採用し、MLスタイラス独特の長時間にわたり音満との接触部の曲率半径が非常に小さく高域特性が劣化しないメリットをもつものだ。
 無共振思想を置くために既にAT−ML170でマウントベースにファインセラミックスを採用しているが、今回さらに、カンチレバーとマグネットを支持するマグネットモールドにも同じ材料が使われた。
 発電系は、LC−OFCコイルと6層ラミネートのコアを組み合わせたパラトロイダル方式で、コア素材は、従来の約5倍の透磁率をもつスーパーパーマロイ採用で、発電効率が高く、コイル巻数を下げることが可能で、低インピーダンス化を果している。
 なお、FCS方式と呼ばれる、発電コイルの内側に独立したコイルを設け、相互誘導による高域での磁束変化を利用して高域共振を抑える手法や、スタイラスノブとカートリッジボディを包むシリンダーにウイスカー強化複合素材を新採用し、共振を抑え剛体構造とするなど、その内容は実に豊富であり、カッターヘッドと相似形を標傍するVM型・MLシリーズのトップモデルに相応しい新製品である。
 最適針圧1・25g±0・3gと発表されているため、針圧とインサイドフォースキャンセラーを、この値として試聴を始める。聴感上の帯域バランスは素直に伸びたスムーズな印象のものであり、柔らかで豊かな低域をベースとしたバランスは、僅かに中高域にキラメキがあるが、安定感のある落着いた音である。音場感は、スピーカーの奥深く拡がるタイプで、音像定位は小さくまとまるが、輪郭の線は柔らかくソフトなタイプである。音のクォリティは充分に高く、表情も穏やかなため、長時間音楽を聴くファンには好適のサウンドキャラククー。
 針圧1・5g、IFC1・5に増加する。やや、ソフトフォーカス気味のパステルトーンの色彩感が、鮮度を増し、フォーカスがピタリと合った音に変わり、音の芯がクッキリとし、適度の深みのある立派な音だ。オーケストラの低弦の音は、深々として丸みがあり、弦のユニゾンの音の芯も明快である。音場は標準的に拡がり、プレゼンスはかなり見事だ。中域で薄くなりがちな傾向は認められず、密度感の高いサウンドは、如何にもテクニカ製品らしい好ましさで、ゆったりと落着いてクラシック音楽を楽しむためには、クォリティも高く、さすがにMLシリーズの頂点に立つ実力である。

ヤマハ MC-100

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 MC100は、ヤマハ独自の垂直系と水平系の発電コイルをマトリックスによって45/45方式に変換するクロス発電方式を採用した高級バージョンの新製品である。
 娠動系は、ヤマハらしくベリリュウムのテーパイドパイプと、8×40μmの特殊ダ円のソリッドスタイラス使用で、独自の段付ダンパーと60μmの特殊ピアノ線による一点支持方式だ。磁気回路はMC3と比べサマリュウムコバルト磁石を25%大型化しコイルは20μm径のOFC線を使った空芯の純粋MC型だ。
 ボディ材料は、ヘッドシェルと接するベース材に金属を採用し、高強度プラスチックのサブベースとは、SUSピンで固着し、トータルな不要振動を抑える設計だ。
 最適針圧1・4g±0・2gと発表されており、この値に針圧とインサイドフォースキャンセラーをセットし、PRA2000Zのヘッドアンプを使い音を聴く。
 プログラムソースは、ベルリオーズの幻想交響曲。アバド指揮のシカゴ演奏のグラモフォン盤である。やや軽いがシャープに反応をする程よく丸みのある音で、音色は明るく、帯域はナチュラルに伸びた現代型のバランスである。音像定位はクリアーだがエッジは柔らかいフワッとした定位感だ。バランスが良く、VL型独自の音溝を丹念に拾う特徴が活かされた水準以上の音だ。
 針圧を1・6gとし、IFCは1・5に変える。表情に少し穏やかさが加わるが、むしろ安定した印象となり、鮮度感が高いため見通しがよいアナログらしい音だ。ただし、音の表情は少し平均的である。
 一転して針圧1・25g、IFC1・25にする。少し変な数値だが、SMEの針圧目盛で仕方ないところだ。やや、線が細く、全体に音が整理された印象となり、反応の速さ、抜けの良さが目立つ音になる。針圧変化に対する音の変化は、このタイプとしては比較的に穏やかで、使いやすいMC型といえよう。
 針圧1・5g、IFC1・5で内蔵昇圧トランスに切替える。音に一種のメリハリが付いた、やや硬質だがクッキリとした明快な音で、クォリティも高く、VL型の魅力が素直に活きた音である。
 プログラムソースをポップス系とし、再びヘッドアンプ使用に戻す。針圧変化に対する音の傾向は、基本的にオーケストラと変わらない。音的に標準針圧を探ってみると針圧1・5g、IFC1・5が中心値で、低域の音の芯がクッキリとした爽やかな音が聴かれ、音場感の拡がり、音像定位でも一級の出来である。やや、音の表情に冷たさがあり、中高域の僅かなキラメキがMC100の個性だといえよう。もう少しクッキリとしたリッチな音が望ましく、IFCの量を少しアンバランスにするため針圧のみを約1・6gとする。安定感と彫りの深さが両立した、いかにもアナログディスクらしい音だ。平均的にはこの値がベストであろう。
 試みに、端子の±を逆にして音を聴く。鮮明さは下がるが、穏やかな雰囲気のある柔らかな響きが特徴の音だ。オーケストラはやや後方の席で聴く印象となる。針圧とIFCを1・25gとする。これも楽しい音。

シュアー ULTRA500

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 シュアーのカートリッジは、ステレオ初期から常にトップランクの座を維持してきたが、今回モデルナンバーを一新したULTRAシリーズ、ULTRA500、ULTRA400、ULTRA300の3モデルが発売されることになった。
 大量生産モデルと一線を画したカートリッジを作り上げたいというエンジニアの夢を実現したULTRAシリーズの製品は、従来のV15シリーズでの成果である、マイクロウォール・ベリリュウムカンチレバー、マイクロリッジスタイラス、ダイナミックスビライザーなどの技術を受継いでいるが、基本的にはハンドメイドで、丹念にクラフトマンシップに基づいて作られている点で一線を画するものがある。
 トップモデルのULTRA500は、音場感的な奥行きや安定感を追求した結果、ボディには、アルミブロックから作った剛性の高いタイプが新採用され、ヘッドシェルとコンタクトする部分の研摩仕上げなど従来の製品には見られない細部にわたる見直しが行われ、音質面での効果も絶大とされている。これらの結果、重量は9・3gと重くなり、重量級のトーンアームで使うことが推賞されている。
 針圧1・2gが規格であるため、まずダイナミックスタビライザーを使わずに音を聴いてみる。組合せトーンアームは、SME3012R−Proであり、プログラムソースは、ベルリオーズの幻想交響曲のグラモフォン盤である。
 聴感上の帯域バランスはナチュラルに伸びた準ワイドレンジ型であるが、中域は少し薄い傾向がある。低域は柔らかく雰囲気の良いタイプだ。音色は、少し暖色系に偏り、音場感はスピーカーの奥に引込んで拡がるタイプだ。
 針圧とIFCを少し増し1・25gとする。音の変化は、MC型的にシャープであり、抜けの長い見通しの優れた音である。とくに、音の鮮度感は僅かの針圧変化で急激に向上するが、全体の音のスムーズさは変わらない。スクラッチノイズの量、質ともに第一級であり、ディスクのキズにはソフトに反応を示す。中高域に適度の華やかさがあるのが、いかにもシュアーらしい。
 ダイナミックスタビライザーを使い針圧とIFCを1・75gにセットする。全体に聴感上でのSN比が向上し、低域の量感、安定度の向上は見事だ。ただし、音の輪郭の線は少し丸みを帯びた穏やかな面を見せる。しかし中高域には適度の硬質さがあり、いかにもディスクを聴いているという雰囲気が好ましい。音場感情報は豊かで、プレゼンスに優れ、基本クォリティの高さはさすがにULTRAシリーズと名付けられた新製品だけのことがあり、V15系とは一線を画した見事さ。だが、使い手にややデリケートさが要求されるようだ。
 ポップス系のソースとしてスパイロジャイラを聴いてみる。まろやかだが充分に力感のある音であり、エコー処理などの録音テクニックがサラッと聴き取れる。鮮明さを求めてIFCをOFFにする。音にエッジが効いたリアルな音に変わるが音場感は少し狭い。スタビライザーを上げる。反応は早いが表面的な音で実体感不足。

ラウンデールリサーチ Model 2118

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 大阪ケーブルから発売された低インピーダンス型の鉄芯巻枠採用のMC型カートリッジは、ラウンデールリサーチという耳慣れないブランドのメーカーで製造された製品である。このメーカーは某宝石メーカーで長年にわたりMC型力−トリッジ製作の実績をもつエンジニアを中心として独立した新メーカーで、その技術的水準は定評の高い既存メーカーに一歩も譲らぬものがあるといえよう。
 MODEL2118は、最適針圧を2・5gとする。いわゆる重針圧設計で、コイル巻枠に磁性体を採用しているため、出力インピーダンス4Ωで、0・25mV/3・54cm/45度と出力電圧の高さが特徴だ。
 カンチレバー材料は、選択性CVD法によるボロン棒とアルミニュウム合金の複合材で、剛性の高さと異種材料による適度な制動作用を活かした材料選択で、かなり手慣れた設計者の手によるものである。
 カートリッジボディはフェノール系の合成樹脂を採用したタイプで、見るからに雑振動の発生や耐振性に優れた処理である。
 規格上の針圧2・5g±20%と発表されているために、SME3012R−ProとマイクロSX8000IIシステムに組み合わせて試聴を始める。なお、昇圧にはデンオンPRA2000Zの内蔵トランスを使った。
 針圧2・5g、インサイドフォースキャンセラー2・5の条件が出発点だ。聴感上の帯域バランスは程よく伸びたナチュラルなタイプで、重針圧型としては、よく伸びたレスポンスを聴かせる。音の表情は穏やかで安定感があり、適度に丸みをもつ音の味わいは、バランスの巧みな音を聴かせる。スクラッチノイズの質は抑えられており、安定した好ましいノイズ成分である。かなりスタンダードな音で、少し表情は抑え気味だが安心して聴けるあたりが魅力になると思われる。プログラムソースの対応の幅も広く、適度に博学多才型の音だ。
 針圧2・75g、IFC2・75に増す。音に安定度が加わり、表情の抑えもとれて、穏やかさが前面に出た音である。音場感は少し奥に引込んだ拡がりを見せるが、プレゼンスはナチュラルといえよう。外附昇圧トランスの相性を試みるためのオルトフォンT2000を使う。聴感上で少しナローレンジ型に変わり、表情は抑え気味の安定感最優先型の音だ。表現を少し変えればDL103の安定した業務用サウンドと一脈通じる印象がある音だ。これまでは、オーケストラをプログラムソースとしたが、ポップ系のリズミカルなプログラムを試してみよう。適度に力強さとリズムの粘りがあり、このタイプとしては予想以上に快適なサウンドである。音像定位もナチュラルでエコー成分もキレイに回わり、これなら、かなり広範囲の音楽が楽しめるだろう。
 基本的な内容が充分に高いことを前提として、音の表情を抑える面を、いま少し手綱をゆるめてほしいものだ。一説によればJBLにマッチした開発と聞いていたため端子接続の±を逆にして聴いてみる。音は一転してメリハリ型の明快な音に変わる。測定はしていないが、これはEMTなどと同様に逆相接続の製品と推測した。

カートリッジのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 カートリッジ、つまり、このアナログディスクの変換器は、CDの登場で華やかな王座を去りつつあることは否めない。しかし、それだけに厳しく淘汰され、今後は存在の必然性と魅力のあるものが根強く定着することと思われる。このことは、製品自体についてはもちろんのこと、開発技術やそのコンセプトについてもいえることであろう。従来のハイコンプライアンス化や軽量化などには既に反省が見られ、バランス設計の理念にかえって、その動作の安定性と音の魅力を磨き上げたものが登場している。この一年のカートリッジにはそうした優れた力作が多いが、少々皮肉な現象ともいえるであろう。各カートリッジメーカーがアナログディスクへの愛情、長年の技術の集積の結晶として結実させ有終の美を飾る結果となったといっては気が早過ぎるであろうか?
 価格帯は3ゾーンに分けられている。
 5万円未満のゾーンでは、ベストワンとしてデッカMARK7を上げたが、この独特の構造をもつカートリッジは、この製品において、きわめて高い完成度に達したと思う。ダイレクトカップリングに近い、振動系の縦方向へのコンプライアンスのバランスが改善されたため、安定性と音の自然さが向上した。まるで、イギリスのよく出来た車のフィーリングのような滑らかさと弾力性をもつた得難い魅力に溢れている。B&OのMMC1は今年の開発ではないが、軽量、ハイコンプライアンスながらバランスがよく出来ていて、決して、ひよわな音にはならず、造形の確かな再生音がリアリティを感じさせるものだった。ヤマハのMC100は従来のヤマハのカートトッジのもっていた、どこか軟弱で神経質な音から脱し、豊かな雰囲気と芯のあるボディを感じさせる充実した音になった。オーディオテクニカAT−ML180はこのメーカーらしい安定したトレースとバランスでヴァーサタイルな音を聴かせる。ハイフォニックMC−A300は個性が光る。華美に過ぎることなく輝かしい魅力的なサウンドだ。
 5〜10万円ではオルトフォンMC20スーパーが断然光る。このMCカートリッジの王者といってよい北欧の老舗の風格を感じる現代カートリッジ技術の集大成である。SPU−GOLDと共に長く存在し続ける製品になるだろう。ソニーXL−MC9も、このメーカーのカートリッジ技術の集大成で、ついに高い完成度をもったバランスを獲得した。最新の技術と素材を使い、それらが生のまま音にでていない。大人の風格をもっている。
 10万円以上では僕の愛用カートリッジ、ゴールドバグMr.ブライヤーをベストとして推したが、トーレンスMCHIIという古いタイプのもつ魅力、シュアーのULTRA500のMM究極の完成度、AKG/P100LEIIの鮮鋭なサウンドなど、甲乙つけ難いものだ。

カートリッジのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 伝統的なアナログディスクフアンの熱い要望に支えられて、カートリッジの新製品も順当に姿を見せ、その内容も充実したモデルが低価格帯に多くなってきたのが見逃せない点である。基本的には、MC型が国内製品の主流であることに変わりはないが、新製品の多くは、新型の針先形状の採用しボディ部分の高剛性化が特徴だ。
 カートリッジのジャンルで特に目立つことは、一般的な極性をもつ製品に対して、左右チャンネルの位相は合っているが、共に逆相になるように結線してある製品がかなり多く存在することがあげられる。
 大把みな傾向として、逆位相型は音の輪郭がクッキリとし、音が前に出る印象のメリハリ型の音になるようだ。反面、音場感的な情報は少なくなり、奥行き感のタップリとある音は不得意である。
 もちろん、昇圧トランスやヘッドアンプ、コントロールアンプ、パワーアンプなどにも、入出力が逆位相となる製品があり、これらとの兼ね合いでカートリッジも語らねばならないわけである。ただしスピーカーでは、逆位相型はJBLが例外的な製品であり、赤い端子に電池の+を接続すると振動板は後に引込むことになる。CDプレーヤーでも位相切替スイッチを備えた製品が、海外と国内に各1モデルあり、録音側も含み、この位相問題は今後に残されたオーディオの大きな課題となるであろう。
●5万円未満の価格帯
 内容の非常に濃い製品がビッシリと並んだ魅力のゾーンである。発電方式では、MC型とMM系が競合しているようだ。MC型では、デンオン、テクニカ、ヤマハの製品が、それならではの音を聴かせるが、リファレンス的な性格ではDL304が傑出した存在だ。AT−F5MCは、価格は安いが、その内容はテクニカMC型の集大成といった充実ぶりで一聴に値する優れた音が魅力的である。海外製品では、MMC1のフレキシブルな対応が抜群であり、ML140HEの力強さは鮮烈な印象だ。
●5〜10万円未満の価格帯
 伝統的なSPUを進化させたゴールドが文句なしにオリジナリティからしてベスト1だ。MC−L1000のダイレクト型ならではの世界。重厚で安定したAT37EMC。繊細なMC−D900。それぞれの個性は共存できる音の世界の展開である。締切り後の成果は、MC20スーパーで、オルトフォンを越えたオルトフォンとしての評価がどうでるであろうか。
●10万円以上の価格帯
 正統派的に考えれば、DL1000A、MC2000、P100LEあたりがベストバイである。アナログディスクでの長い経験があれば、IKEDA9は別格の存在である。締切り後では、ULTRA500の超シュアーな音が非常に魅力的であった。

アントレー EC-45

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 カートリッジ専門メーカーのアントレーからの新製品は、ユニ−クなコンセプトによる重針圧タイプの低インピーダンス型MC力−トリッジである。
 基本的構想は、軽針圧型独特の音場感情報の多いプレゼンスの良さと、重針圧型ならではの、彫りの深いリアルな音質とを両立させるために、まず、カンチレバー材料に一般的に使われる、軽量で剛性が高い特徴をもつ軽金属系のパイプを採用せず、ムクの軽金属棒とパイプを組み合わせて、これを3重構造としたカンチレバーを開発し、新しいサウンドの世界に挑戦しようというものである。
 具体的には、アルミパイプに、アルマイト処理をしたアルミのムク棒を入れ、基部をアルミパイプで補強したカンチレバーが、EC45の最大のポイントである。コイル部分は、0・04φ銅線を磁性体巻枠に巻いた低インピーダンス型で、サマリュウムコバルト磁石を採用した効率の高い磁気回路により、2・5Ωのインピーダンスで、0・25mV(1kHz・3・45cm/dyne・45度)の高出力を得ている。なお、針先は、バイタル型ソリッドダイヤ楕円針付。
 ボティ部分は、アルミダイキャスト製で、剛性が高く、軽量であり、表面はレザーペイント仕上げ、上部カバーは銀メッキが施してあるが、それぞれに適度な制動効果があり、材料独自の固有音を抑え、再生音のクォリティを確保している。
 マイクロSX8000IIシリーズのターンテーブルとSME3012R−PROの組合せで試聴する。定格針圧は、2・5g±0・6gのため、2・5gからスタートする。聴感上での帯域感は、両サイドを少し抑えた安定型で、低域は柔らかく豊か、中域はクッキリと音の芯がクリアーで、力感もあり、音像は輪郭がクッキリとしており、サラッとした淡白な表情が特徴だ。
 針圧の上限と下限での音をチェックし、インサイドフォースを検討した結果では、針圧、インサイド共に2・75gがベストサウンドだ。安定感があり、落着いた音の魅力が聴かれるが、低域の表現力の甘さと重針圧型ならではの、力強いリアルさが不足気味である。SME用のシールド線を、LC−OFC型から銅線に変え、昇圧をヘッドアンプから手もとにあったオルトフォンT2000にする。この変更で、音に厚みが加わり、緻密な印象も出てはくるが、再度、針圧やインサイドフォースを追込んでも、音場感的な情報量が不足気味だ。
 次に、水準器付のアントレーのヘッドシェルをテク二力のAT−LS13に変えてみる。標準的な、かなりオーソドックスな立派な音になった。やや、中域のキツさはあるが、針先のエージングが済めば、解決できそうな音である。昇圧トランスの置き場所を選び、トランスと置く台との間に敷く材料を選び、追込んでいくと、音質的にはかなりグレイドの高い、リアルなサウンドになり、重量級らしいリアリティの高い音と、適度に拡がる音場感と定位感がある安定したサウンドになった。
 かなり使いこなしは要求されるが、開発目標とした狙いは、音にも充分に現われ、アナログならではの魅力をもつ好製品だ。

ハイフォニック MC-A5B + HPA-6B

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニツクのカートリッジは、最新の力−トリッジ技術を象徴する軽量振動系を採用した、軽針圧、広帯域、高SN比の設計が特徴であり、創業以来短期間ですでに高い評価を受けているが、今回、新製品として登場したモデルは、既発売のMC−A3、A5、A6、D10という一連の空芯高インピーダンスMC型をベースに、左右チャンネルのコイルの中点を引出して、通常のアンバランス4端子型から、業務用機器などで採用されているバランス型6端子構造を採用したMC−A3B、A5B、A6B、D10Bの4モデルで、型番末尾のBは当然のことながらバランス型の頭文字を表わしている。
 このカートリッジのバランス化に伴ない、昇圧トランスもバランス入力をもつ専用タイプが開発され、従来のRCAピンプラグ型に変わりDIN4ピン型の入力コネクターが採用されている。
 また、バランス型を採用すると最大のネックになるのはトーンアームである。この解決方法としては、デンマークのメルク研究所とハイフォニツクで共同開発したといわれる、低重心型の支点が高い位置にある一点支持オイルダンプ方式トーンアームHPA4を6端子型に改良したHPA6Bが用意されている。このアームは、一般のいわゆるオルトフォン型ヘッドシェル交換方式ではなく、回転軸受部近くにあるコネクターを含み、アームのパイプ部分を交換するタイプで、一点支持型で不可欠なラテラルバランスは、偏芯構造となっているバランスウエイトを回転させて行なうタイプである。
 今回試聴したモデルは、MC−A5Bで、原型は特集のカートリッジテストに取上げたMC−A5である。発電コイルの構造は、非磁性体の十字型コイル巷枠を使ったMC型で、センタータップは右チャンネル橙色、左チャンネル空色がピンにマーキングしてあるため、通常の左chが自/青、右chが赤/緑の端子のみを使えば、4端子型のMC−A5とほぼ同等に使えるわけだ。
 業務用機器関係でも一部では、信号系が一般オーディオ機器と同じくアンバランス化の傾向があるのに、何故オーディオ用のカートリッジのバランス化が必要なのであろうか。この疑問への簡単な解答は、バランス型の最大の特徴である『SN比が優れている』の一言につきるだろう。
 つまり、SN比が向上すれば、ローレベルでのノイズのマスキングが減少し、音に汚れが少なく、透明感、織細さが向上し、音場感的には、ノイズが少なくなっただけモヤが晴れたかのように、見通しのよいプレゼンスが得られる、ということになる。
 プレーヤーにトーレンスTD126を選び、HPA6BをセットしてMC−A5Bを聴いてみる。広帯域型の典型的なレスポンスをもつ、やや中域を抑えた爽やかな音と、ナチュラルだがコントラストが薄い傾向のMC−A5に比べて、本機は一段と表現がダイナミックになり、さして中域の薄さも感じられず、一段とナチュラルでリッチな音を聴かせる。試みに6端子中点を外しセミバランス型として比較をしたが、この差は誰にでも明瞭に判かる差だ。

リン KARMA

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧で、イコライザー付ヘッドアンプを試してみる。かなりダイレクトな印象の音になるが、TVやFM電波が非常に強い東京・六本木では、バズを含んだハムレベルが実用限度を超え、試聴には問題があり、C200Lダイレクトに切替える。
 帯域バランスはナチュラルで、低域は安定し、中高域に独特な輝きがある音だ。音場感、音像定位もナチュラルで、平均的な要求にはこれで十分であろう。
 試みに針圧を1・6gに上げる。音色が曇って重くなり、高域は抑え気味で、安定感はあるが、反応が鈍く、中域に輝きが移り、少し古典的なバランスである。針圧1・5gでは、程よく伸びた帯域バランスで、低域は軟調だが、全体に滑らかさがあり、彫りは浅いが、中高域の輝きも適度に魅力的で、聴きやすく雰囲気型の音だ。
 針圧を標準にもどし、IFCを調整する。IFC約1・65ほどで、音に焦点がピタッと合った、抜けの良い音に変わる。低域は厚みがあり、質感に優れ、音溝を正確に拾うイメージの安心感がある音だ。中域は適度にあり、中高域に少し硬質さがあるが、これは一種独特の魅力であり、プレゼンスもよい。また、音像定位はクリアーに立つタイプだ。個人的には、この中高域の輝きは個性として残したいが、この傾向を抑えるためには、テクニカ製スタビライザーAT618を使ってみる。天然ゴムに覆われた特徴が、音を適度に抑え、メタリックな輝きを柔らかくしてくれる。なお、スピーカーは標準セッティングである。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ヘンデル:木管のためのソナタ]
大村 いかにもイギリスのカートリッジという気がします。イギリスのオーケストラはドイツのそれに比べて、色彩感はありますが、ゆとり、重厚さにかける。まさに、そんな感じの音です。線の硬質なクリアーな音。オーケストラを聴く場合は、もう少しゆとりが欲しいと思います。
井上 英国系らしい、中域から高域にかけての硬質な部分を、いかにコントロールするかが使いこなしのポイントです。相性のいいトランスを選んでやれば、硬さがとれて力が出てくると思いますが、ちょうどいいのが手元になかった。そこで、ゴムでダンプされたオーディオテクニカのAT618で、中域のメタリックさを殺した上で、プリアンプの位置を動かしてみました。
大村 最初のアンプの位置ですと、リズミックな表現がやや単調になっていたのが、前に引き出したところ、反応が速くなり、反対に後ろにすると、穏やかになる。また、ヒンジパネルを開けると、音がすっきりするんですね。
井上 注意してほしいのは、開けたパネルが台に触れないようにすること。台との間にフェルトを敷けば、よりすっきりします。アンプの位置ひとつで、音が変わることを頭にとどめておいていただきたい。

AKG P100LE v.d.h. II

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 SME3009SIIIと組み合せる。標準針圧では、柔らかい低域と、ややきらめく中高域がバランスした広帯域型の音だ。低域は予想よりも甘く、少しつまり気味。音場感は奥に拡がり、パースペクティブな再生は水準を超える。オーケストラのトゥッティでは、弦セクションが少しメタリックに響き、ハーモニーも薄いタイプだ。
 針圧1・2gで、中高域のきらめきが薄らぎ、反応は少し穏やかにはなるが、不足していた安定感が十分にあり、これが平均的にはスタンダードな音であろう。低域は柔らかいが、少し粘った印象で音源は少し遠いタイプ。長時間聴くために好適。
 針圧1・0gでは、広帯域型ならではの軽くサラッとしたプレゼンスの良さが特徴。低域の反応がややぎこちなく、自然さに欠けるのは、アームのメカニズム的な問題もあるかもしれない。
 最良点を標準針圧以上でチェックしてみる。針圧1・2g、IFC量1・1で、低域の厚みもある安定感のある音でありながら、IFC量1・2のときのような、安定感はあるが少し面白くない面がある点が解消され、音のエッジも適度に張り、プレゼンスも豊かで、良い意味での硬質な音の魅力である、冷たさ、メタリックさがあり、適度に渋さもある大人の音が聴ける。
 ただし、基本的なチューニングに使った幻想交響曲は、シカゴの演奏のために、音色的な傾向が、ややカートリッジ本来のものと異なり、線が細く、音色が沈み気味な点は、むしろAKGらしい特徴だろう。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[スメタナ「わが祖国」/クーベリック]
大村 『幻想』でやや気になった、中域の硬さとメタリックなところが、このスメタナの音楽のもつ、同じような性格にのっかってきて、輝きがきつすぎるという感じがします。
井上 そこで針圧とインサイドフォースを0・1ずつ増やしてみると、全体に穏やかになり安定してきますが、ややソフトフォーカス気味で、ホールの天井が低い感じの音になった。今度はインサイドフォースだけを1・1にしてみました。
大村 安定感もあり、音場感も出てきましたが、まだホールの後ろで聴いている感じで、スメタナの音楽の重要なファクターの中域が細身になっています。
井上 反対側のアームの根元にオーディオテクニカのスタビライザーをのせてみると、メタリックなところがとれて、低域の安定感、密度感がぐっと上がります。このままですと、フローティングベースの水平が少し崩れますので、もう一方に軽めのデンオンのスタビライザーを置くと、音場感が見えてきて、穏やかな感じの音になります。
大村 この状態は、ブリティッシュサウンドがかったJBLという感じで、スメタナの音楽には、もっと中域のエネルギーが欲しいような気がします。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、ナチュラルな帯域バランスと穏やかで安定した音を聴かせるが、一次試聴時のような安定感、重厚さが感じられない。垂直系でダイレクトにスタイラスがコイルを駆動する独自のメカニズムをもつだけに、リジッドな構造であう、かつ十分な質量があるターンテーブルとダイナミックバランス型のトーンアームがこの製品には必要であろう。フローティング構造と平均的な慣性モーメントをもつTD226とSM3012Rの組合せは、あまり好ましくない例であろう。
 針圧を増し、本来のダイレクトさを追いかけてみる。針圧2・8g、IFC2・8では、反応が鈍く、針圧2・75g、IFC2・5でかなり密度感が出てくる。針圧2・65g、IFC量2・3が、このプレーヤーでのベストサウンドだ。厚みある充実した低域をベースに、密度感のある中域、素直な高域が程よくバランスし、安定したリッチな音を聴かせる。反応は基本的に穏やかなタイプで、重量級MC型独特の彫りの探さと、このタイプ独自の音溝を忠実に拾う印象の音が個性的である。
 なお、垂直系振動子をもつカートリッジは、一般的なタイプに比べ、アームの水平度は正確に調整する必要がある点を注意したい。また、振動系がフリーな構造をもつために、ヘッドシェルの傾きにも敏感だ。
 簡単に誰でも使えるカートリッジではないが、針圧とIFC量を細かく組み合せて追込めば、これならではの音の魅力が判かるだろう。個性的な手造りの味だ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
大村 いかにもダイレクトな感じの音ですね。強勒で、音が生き生きしている。小編成のものを非常にリアルに聴いてみたい気もしますが、ブラームスの第4番の三楽章の、魂の乱舞が、どれだけの表現の幅をもって鳴ってくれるかに興味が向いてしまった。ただし、ややミスマッチな感じで、重厚で、陰影の濃い音というより、きつい音です。もう少し穏やかになれば、ものすごくよくなる気もします。
井上 針圧とインサイドフォースはすでに、ベストのところに合わせてあるので、トランスの置きかたで調整します。トランスは置き台の影響と同じくらい、その向きで音が変わる。地磁気の影響のせいだと思いますが、ひどく音が濁ることもあるのです。トランスをいろいろ動かしいいポジションを見つけたところで、XF1の下に2枚折りした厚手のフェルトをひいてみました。
大村 フェルトも、1枚よりも2枚の方が穏やかで、非常に音が静かに聴こえます。
井上 このくらいのカートリッジになると、アームはダイナミックバランスを使いたいところです。3012Rならオイルダンプを併用してみるのもひとつの手です。全体に音が穏やかになり、針圧、インサイドフォースの調整も少しは楽になるでしょう。

オルトフォン MC2000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、柔らかい低域にやや硬質な中高域がバランスした、いかにもアナログディスク的な好ましさがある音だ。音場感はほぼ妥当な線だろう。
 針圧を1・7gに増すと、安定感は増すが、音の角が少し丸くなり、音源が遠く感じられ、雰囲気型のまとまりとなる。1・6g程度で、適度な密度感がある、いわゆるオルトフォンらしさが出てくるが、やや反応が抑制気味であり、伸びやかさ、リッチさが欲しい感じも残る。ここで、IFC量を1・5に下げると、このあたりは改善されるが、まだ追込めそうだ。
 逆に、針圧を軽くしてみる。1・3gで低域は少し軟調傾向となるが、スッキリとしたイメージが出てくるのが好ましい。そこでさらに、IFC量を1・2に下げてみる。音場感的なプレゼンスがサラッと拡がり、鮮明な音の魅力もあり、爽やかで抜けの良い音を狙ったときには、このあたりがひとつのポイントとなるだろう。
 さらに、オルトフォンらしいイメージを追ってみよう。再び、1・6gとし、IFCを調整する。1・5で、音場感情報が増し、一応の満足すべき結果となるが、中高域の輝かしさをもう少し抑え、一段と内容の濃い、リッチな音を目指して、木製ブロック上に乗せてあるT2000昇圧トランスの下に、柔らかいポリッシングクロス状の布を敷いてみる。キャラクターが少し抑えられ、一段と音場感的な奥行き方向のパースペクティブや音像のまとまりがナチュラルに浮び上がり、これは見事な音。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[シェエラザード/コンドラシン]
大村 『幻想』のときは、音の密度感が高く、音の抜け、拡がりもあり、かなり満足のいく音でしたが、『シェエラザード』になると、色彩感が欲しくなりますし、ソロ・
ヴァイオリンが耽美的なまでに、華やかになってくれたら、とも思います。
井上 その不満は、ふたつの曲の違いからくるものでしょう。『幻想』は華やかさはあるものの、全体にはマッシブな音楽なのに対して、『シュエラザード』は非常に絢爛豪華な音楽ですから。
 そこで、針圧とインサイドフォースを0・1gずつ軽くして、音の抜けをよくして、それから、T2000を置く位置を変えてみたわけです。
大村 針圧の変化よりも、トランスの置きかたの違いの方が大きいですね。音の鮮度感と色彩感が出てきて、ソロ・ヴァイオリンが艶やかでしっとり鳴ってくれ、これで充分という感じです。
井上 普通、トランスはいいかげんなところに置きがちですが、必ず水平に、プレーヤーの置き台と同等の安定なところに置いてください。その差は予想以上です。堅いウッドブロックの場合、くっきりしすぎたときは、フェルトを敷いて台の固有の音を殺してみるのもひとつの手です。

トーレンス MCH-II

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、穏やかで安定した音だ。全体に線が太く、低域は軟調で、高域は抑え気味、音源が遠くホール後席の音だ。針圧上限は、重厚さは魅力だが、反応が遅く、音場感も狭く、中高域は硬質である。やや軽い針圧で探すと、針圧2・3gでひとつのポイントが得られる。低域の質感も適度で、ゴリッとした印象があり、高域は抑え気味だが、一応のバランスだろう。
 ここで、新製品として登場以来のMCHIIの変遷を簡単に記す。最初のサンプル的製品は、位相は正相で、EMT/XSD15とは位相のみ異なり、これがCOTYに選出された。次に、高域補正が施され、位相は逆相、補正用に並列にコンデンサーが入ったタイプとなる。これが、一次試聴とこの頁の前半でリポートした製品である。
 次に、最新の製品はこの高域補正用コンデンサーが除かれ、結果としてEMT/XSD15と同等の基本設計となったが、ブランドが異なるため、振動系設計の変更が予測され、サウンドバランスもやや穏やかな印象がある。
 最新型は、針圧2・75g、IFC量2・5でベストポイントがあり、柔らかで豊かな低域をベースに、引締まった中域から高域が特徴的な音だ。基本的に、MC型としては高出力型であるだけに、昇圧トランス使用では、場合によってはイコライザーアンプでの過入力が気になる。試みに、オルトフォンT2000を組み合わせてみたが、適度な帯域コントロールの効果があり、質的にも緻密で充実した音が得られた。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ/シェリング、ヘブラー]
大村 ベートーヴェンの曲のもつ力強さと、ヴァイオリンのしなやかさがストレートに出てきてますし、歪の少ないフィリップスの録音のよさを、針先が違うせいでしょうか、EMTよりもよく出してくれる感じを受けました。
井上 輪郭をくっきり出す、コントラスト型のカートリッジです。それほど神経質になることはありませんが、使いこなしで注意してほしいのは、出力電圧がMC型としては高いことです。場合によっては、ヘッドアンプやイコライザーアンプが飽和してしまうことがありますから。MMポジションでも十分鳴るくらいですから、昇圧手段は注意して選択してください。今回はデンオン、トーレンス、オルトフォンの三つを試しましたが、その中で、いい結果を示してくれたのは、ローインピーダンス専用のT2000でした。
大村 T2000との音はいいんですが、味という形容が使いにくい音に思えます。もとが深情け型のEMTですから、ぼく個人としては、オーディオニックスのTK2220を使ってみたいです。ちょっと過剰気味に思えるくらい、音の艶を出して、楽器のまわりにただよう雰囲気みたいなものを、積極的に出してみたいのです。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 使用アームは、SME3009SIIIである。標準針圧では、素直な帯域バランスをもつ、柔らかく細やかで、滑らかな音だ。スクラッチノイズは安定しているが、表情が表面的に流れ、奥に拡がる音場感だ。
 0・9gで音に焦点が合ってくる。粒立ちが細やかで、軽く柔らかい低域と少しメタリックな中高域がバランスした、デジタル的なイメージをも持つ近代的な音だ。
 0・7gにする。スクラッチは少し浮くが、予想よりも爽やかで0・9gと対照的なバランスだ。フワッと奥に拡がる音場感は独特で面白いが、実用的ではない音。
 0・85gで、0・8gよりも僅かに穏やかで安定した一応のバランスが得られる。音場感も標準的で針圧はこれに決める。
 IFC量を変え1・0とすると、音が少し硬質となり、レコードらしい印象にはなるが、少し古い音に聴こえる。0・9に減らすと、穏やかさが加わり、好ましいが、IFCを調整する糸吊りの錘のフラツキが定位感、音場感に悪影響を与えることが確認できる。これは、いわゆるSME型で、軽針圧動作時に気になる点である。
 逆に、IFC量を0・7に下げる。スクラッチノイズの質、量ともにかなり優れた水準にあり、広帯域型で、やや中高域にメタリックさがある。軽量級ならではのクリアーさ、プレゼンスの良さが活かされた極めて水準の高い音である。
 このメタリックさは、トーンアーム側のヘッドシェル部、指かけ、パイプ材料とも関係があるが、現状ではこれがベスト。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイドン:六つの三重奏曲/クイケン]
大村 軽くて、細身で、すっきりと見通しのいい音ですが、この曲だと、ちょっと軽すぎるように思います。イタリアン・バロックといえるくらいに軽い。少しひなびた感じが欲しいです。
井上 スタビライザーを試してみたわけですが、その効果がPL7Lの場合と多少異なります。スタビライザーをのせることでフローティングベースの重量が変わるため、スタビライザーの材質の音の他にスタビライザーの重量が大きく効いてきます。
大村 いろいろと試した中では、いちばん重量のあるマイクロがよかった。安定感がぐっと増して、軽すぎるところが気にならなくなりました。ただ、マイクロのメタリックな音がやや気になりますけど……。
井上 メタリックな感じは、カートリッジとシェルの間にブチルゴムをひとかけらはさんでやれば、消えるでしょう。TD226で注意してほしいのは、フローティング型だからといっていいかげんな台に置かないでください。フローティングの効果はすべての周波数に対してあるわけではありませんから。今回は、試してみませんでしたが、ヤマハの台の上に3mm厚くらいのフェルトや5mm厚くらいのコルクを敷いてやれば、相当効果はあるはずです。

ゴールドリング Electro IILZ

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、一次試聴とは異なり、適度にメタリックな魅力のある、シャキッとした雰囲気のある個性型の音である。この爽やかさを一段と引出すために、針圧を軽く1・6gとするが、低域の質感が曖昧な軟調傾向を示し、中高域も浮き気味で、ソフトフォーカスの軽い音となり、これは好ましくないバランスだ。
 逆に、針圧を増し1・9gとすると、反応が鈍い傾向を示し、押しつけられたような重い表情が気になる音だ。このカートリッジは、組み合せるトーンアームやターンテーブルのキャラクターを素直に引出すのが特徴で、当然のことながら、最適針圧とIFC量もそれぞれ異なる点に注意してほしい。
 1・8gに針圧を下げる。標準針圧時の音に少し安定度を増した低域が好ましい。ここでIFC量を変えて、音場感的な情報量を引出してみる。変化量は穏やかなタイプで、針圧対応の1・8でもさして問題はないが、ややIFC量を減らした1・7でサラッとしたプレゼンスのある良い音が得られた。
 次に、プレーヤー置台上でプレーヤーの位置を移動してみる。置台の中央、前端で、しなやかさのある音場感的なプレゼンス豊かなバランスとなる。これでもう少し、反応の速さ、音の鮮度感があれば、かなりの水準の音になるはずだ。そこで、コントロールアンプC200Lを置台上の中央から一番手前に引出す。これで、音に軽快さが加わり、これがベストだ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ファリャ:三角帽子/デュトワ]
大村 最初の音は、乾いていて、音のしなやかさ、拡がりの不足した、とてもロンドンの録音とは思えない鳴りかたでした。ところが、レコードをターンテーブル上で回転させただけで、まったく別もののように聴こえました。
 乾いた音から、聴きやすい、雰囲気のある音になりました。これだけで、充分という感じです。
井上 『幻想』のときとくらべると、あまりにもひどすぎるので、カートリッジの以外の要因があるとにらんで、レコードを回転させてみたわけです。原因はレコードのオフセンターです。オフセンター量が多いと、カンチレバーが左右に振られ音場感情報が出にくくなる。20度ほどズラしただけで、ものすごく音が変わる。必ずしも、よくなる方向に行くとは限りませんが、ベストポジションの音は、音楽の躍動感が出て、音場の拡がりもひときわ見事です。実際、これだけで、見違えるように雰囲気が出てきましたし、前後の楽器の配置もホールの感じも実によく出てきました。
 同じレコードで、音が違うのはブレスのせいにされてきましたが、むしろオフセンターのせいだと思います。このことは、CDにも言えます。

B&O MMC1

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧からスタートする。素直に伸びた帯域感と、適度にしなやかで伸びやかさのある表情が好ましい音だが、全体に少し抑えられた印象があり、低域の質感も今一歩、軟調気味であり、中高域も少し華やかである。針圧1・1gに増してみる。低域のクォリティが高まり、安定度が増し、中高域とのバランスもナチュラルになる。IFC量を1・0とすると、音場感がスッと拡がり、見通しの良さが出てくる。
 ここで、ヘッドシェルの指かけの共振が気になり、少量のガムテープで制動してみる。中高域のキャラクターが少し抑えられる。安定度を重視したバランスを狙えば、針圧1・2g、IFC量1・1あたりが広範囲なプログラムソースに対応できる音。
 B&Oらしいイメージを追い、再び針圧を調整する。当然、軽い方を狙い、再び標準の1gにもどす。中高域の附帯音が減ったため、全体にスッキリとしたサウンドになるが、低域の質感は相変わらず軟調傾向で、悪くいえばモゴモゴとしたイメージがあり、オーケストラのスケール感やホールの残響の豊かさの点では問題が残る。
 低域を少し引締め、MMC1独特の中高域のキャラクターとバランスさせれば、一応の水準で、この問題はクリアーできるだろう。それには、スピーカーのセッティングを変えるのがベターである。JBL4344を3点支持しているキューブの中で後側の1個を半分内側に入れた状態から3/4入れた位置に変えて低域をコントロールする。低域の質感が向上し問題は解消する。

●照準を一枚に絞ったチュンアップ
[モーツァルト:ピアノソナタ/内田光子]
大村 MMC1の、細身の音はいいんですが、ややヒステリックなところは、このレコードには合わない気がします。モーツァルトらしく、柔らかで透明に鳴ってほしい。
井上 この録音は、ちょっと距離をとることでホール感を出し、モーツァルトらしい透明なイメージをつくっていますので、スタビライザーで附帯音をのせることはやらないほうがいい。そこで、プレーヤーのつぼと言えるアームの根元にスタビライザーを置いてみたわけです。
大村 かなり音が変わります。マイクロのように重たいものは、音がしっかりして、力強くなる。見通しもよくなりますし、輪郭がはっきりしてくる。オーディオ的には非常にいい音だと思いますが、内田光子のモーツァルトのイメージとは違う。女性らしさから遠ざかります。そこでデンオンを試したところ、ほどよい柔らかさと女性ピアニストらしい感じはそのままに、ヒステリックなところがなくなり、ゆったりと音楽が響いてくれます。もし、レコードがグールドだったら、迷うことなくマイクロにしますが、内田光子の場合は、デンオンのカです。このクラスのカートリッジになってくるとプレーヤー自体の透明度を要求したくなります。

デッカ Mark 7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、バランスは良いが、伸びやかさ、拡がりに欠け、硬い音だ。針圧を増して傾向を試すと、次第に音場感情報が減り、高域も抑え気味で、反応が鈍くなり、一次テストのときとは異なった傾向を示す。逆に、軽い方の針圧での変化を調べると、針圧1・3g、IFC1・2でひとつのポイントがあり、少しスクラッチノイズが浮いた印象はあるが、かなり広帯域型のレスポンスと、スッキリと音の抜けが良く、硬質でクリアーな音を聴かせる。
 1・4gでは安定して穏やかなバランスだが、低域が少し軟調傾向だ。1・5gでは、低域の質感が1・4gよりも向上し、弦の浮いた印象もなく、適度に帯域も伸びたスタンダードな音となるが、音場感的な前後方向のパースペクティブな表現に不足があり、IFCを変化させて追込んでみることにする。結果は、針圧対応値より少し減らした1・4。音場感がスッキリと伸びた好ましい音になるが、いわゆるデッカらしいサウンドイメージには今一歩、不足感がある。
 プレーヤー置台上の位置を変えて音の変化を試すと、右奥でクリアーに抜けが良くなり、中央、前端でしなやかさがある音になるが、音像は少しソフトで、大きくなる。位置を右奥にし、金属製重量級のスタビライザー、マイクロST10を使い、エッジの張った、クッキリとした音を狙う。結果は、適度に金属的な響きが加わり、輪郭がクッキリと描き出され、独自の垂直振動系の魅力が感じられる音になった。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[孤独のスケッチ/バルバラ]
大村 このパルバラのレコードは、ヴォーカルとピアノ、アコーディオンだけの小編成ですから、できるだけ生々しく聴きたいのですが、ちょっとソフトフォーカスぎみに感じます。
井上 デッカの、シャープで鋭利な音のイメージが穏やかになって、スタジオ録音がライブ録音のように聴こえ、もう少しすっきりした感じが欲しく、スタビライザーを試してみました。それからプレーヤーの置きかたも変えてみました。
大村 ST10の金属的で重量感のある音がうまい具合に作用してすっきりしてきましたし、プレーヤーを前にもってきたことで、反応が速くなったように感じます。定位もセンターにヴォーカルが浮かび上がってきて、その後ろにピアノとアコーディオンがいる。けれども、もうひとつ満足できないといいますか、デッカのカートリッジならば、というところに不満があります。
井上 確かにデッカのカートリッジらしくないところがあります。これは、アマチュアライクなやり方ですが、ボディの弱さを補強するために、取り付け台座にブチルゴムを米粒ほど貼りますと、音がはっきりしてきて、デッカらしいイメージが出てきます。