井上卓也
ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より
大阪ケーブルから発売された低インピーダンス型の鉄芯巻枠採用のMC型カートリッジは、ラウンデールリサーチという耳慣れないブランドのメーカーで製造された製品である。このメーカーは某宝石メーカーで長年にわたりMC型力−トリッジ製作の実績をもつエンジニアを中心として独立した新メーカーで、その技術的水準は定評の高い既存メーカーに一歩も譲らぬものがあるといえよう。
MODEL2118は、最適針圧を2・5gとする。いわゆる重針圧設計で、コイル巻枠に磁性体を採用しているため、出力インピーダンス4Ωで、0・25mV/3・54cm/45度と出力電圧の高さが特徴だ。
カンチレバー材料は、選択性CVD法によるボロン棒とアルミニュウム合金の複合材で、剛性の高さと異種材料による適度な制動作用を活かした材料選択で、かなり手慣れた設計者の手によるものである。
カートリッジボディはフェノール系の合成樹脂を採用したタイプで、見るからに雑振動の発生や耐振性に優れた処理である。
規格上の針圧2・5g±20%と発表されているために、SME3012R−ProとマイクロSX8000IIシステムに組み合わせて試聴を始める。なお、昇圧にはデンオンPRA2000Zの内蔵トランスを使った。
針圧2・5g、インサイドフォースキャンセラー2・5の条件が出発点だ。聴感上の帯域バランスは程よく伸びたナチュラルなタイプで、重針圧型としては、よく伸びたレスポンスを聴かせる。音の表情は穏やかで安定感があり、適度に丸みをもつ音の味わいは、バランスの巧みな音を聴かせる。スクラッチノイズの質は抑えられており、安定した好ましいノイズ成分である。かなりスタンダードな音で、少し表情は抑え気味だが安心して聴けるあたりが魅力になると思われる。プログラムソースの対応の幅も広く、適度に博学多才型の音だ。
針圧2・75g、IFC2・75に増す。音に安定度が加わり、表情の抑えもとれて、穏やかさが前面に出た音である。音場感は少し奥に引込んだ拡がりを見せるが、プレゼンスはナチュラルといえよう。外附昇圧トランスの相性を試みるためのオルトフォンT2000を使う。聴感上で少しナローレンジ型に変わり、表情は抑え気味の安定感最優先型の音だ。表現を少し変えればDL103の安定した業務用サウンドと一脈通じる印象がある音だ。これまでは、オーケストラをプログラムソースとしたが、ポップ系のリズミカルなプログラムを試してみよう。適度に力強さとリズムの粘りがあり、このタイプとしては予想以上に快適なサウンドである。音像定位もナチュラルでエコー成分もキレイに回わり、これなら、かなり広範囲の音楽が楽しめるだろう。
基本的な内容が充分に高いことを前提として、音の表情を抑える面を、いま少し手綱をゆるめてほしいものだ。一説によればJBLにマッチした開発と聞いていたため端子接続の±を逆にして聴いてみる。音は一転してメリハリ型の明快な音に変わる。測定はしていないが、これはEMTなどと同様に逆相接続の製品と推測した。
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