シュアー ULTRA500

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 シュアーのカートリッジは、ステレオ初期から常にトップランクの座を維持してきたが、今回モデルナンバーを一新したULTRAシリーズ、ULTRA500、ULTRA400、ULTRA300の3モデルが発売されることになった。
 大量生産モデルと一線を画したカートリッジを作り上げたいというエンジニアの夢を実現したULTRAシリーズの製品は、従来のV15シリーズでの成果である、マイクロウォール・ベリリュウムカンチレバー、マイクロリッジスタイラス、ダイナミックスビライザーなどの技術を受継いでいるが、基本的にはハンドメイドで、丹念にクラフトマンシップに基づいて作られている点で一線を画するものがある。
 トップモデルのULTRA500は、音場感的な奥行きや安定感を追求した結果、ボディには、アルミブロックから作った剛性の高いタイプが新採用され、ヘッドシェルとコンタクトする部分の研摩仕上げなど従来の製品には見られない細部にわたる見直しが行われ、音質面での効果も絶大とされている。これらの結果、重量は9・3gと重くなり、重量級のトーンアームで使うことが推賞されている。
 針圧1・2gが規格であるため、まずダイナミックスタビライザーを使わずに音を聴いてみる。組合せトーンアームは、SME3012R−Proであり、プログラムソースは、ベルリオーズの幻想交響曲のグラモフォン盤である。
 聴感上の帯域バランスはナチュラルに伸びた準ワイドレンジ型であるが、中域は少し薄い傾向がある。低域は柔らかく雰囲気の良いタイプだ。音色は、少し暖色系に偏り、音場感はスピーカーの奥に引込んで拡がるタイプだ。
 針圧とIFCを少し増し1・25gとする。音の変化は、MC型的にシャープであり、抜けの長い見通しの優れた音である。とくに、音の鮮度感は僅かの針圧変化で急激に向上するが、全体の音のスムーズさは変わらない。スクラッチノイズの量、質ともに第一級であり、ディスクのキズにはソフトに反応を示す。中高域に適度の華やかさがあるのが、いかにもシュアーらしい。
 ダイナミックスタビライザーを使い針圧とIFCを1・75gにセットする。全体に聴感上でのSN比が向上し、低域の量感、安定度の向上は見事だ。ただし、音の輪郭の線は少し丸みを帯びた穏やかな面を見せる。しかし中高域には適度の硬質さがあり、いかにもディスクを聴いているという雰囲気が好ましい。音場感情報は豊かで、プレゼンスに優れ、基本クォリティの高さはさすがにULTRAシリーズと名付けられた新製品だけのことがあり、V15系とは一線を画した見事さ。だが、使い手にややデリケートさが要求されるようだ。
 ポップス系のソースとしてスパイロジャイラを聴いてみる。まろやかだが充分に力感のある音であり、エコー処理などの録音テクニックがサラッと聴き取れる。鮮明さを求めてIFCをOFFにする。音にエッジが効いたリアルな音に変わるが音場感は少し狭い。スタビライザーを上げる。反応は早いが表面的な音で実体感不足。

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