井上卓也
ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より
●本質を見きわめる使いこなし試聴
標準針圧では、一次試聴とは異なり、適度にメタリックな魅力のある、シャキッとした雰囲気のある個性型の音である。この爽やかさを一段と引出すために、針圧を軽く1・6gとするが、低域の質感が曖昧な軟調傾向を示し、中高域も浮き気味で、ソフトフォーカスの軽い音となり、これは好ましくないバランスだ。
逆に、針圧を増し1・9gとすると、反応が鈍い傾向を示し、押しつけられたような重い表情が気になる音だ。このカートリッジは、組み合せるトーンアームやターンテーブルのキャラクターを素直に引出すのが特徴で、当然のことながら、最適針圧とIFC量もそれぞれ異なる点に注意してほしい。
1・8gに針圧を下げる。標準針圧時の音に少し安定度を増した低域が好ましい。ここでIFC量を変えて、音場感的な情報量を引出してみる。変化量は穏やかなタイプで、針圧対応の1・8でもさして問題はないが、ややIFC量を減らした1・7でサラッとしたプレゼンスのある良い音が得られた。
次に、プレーヤー置台上でプレーヤーの位置を移動してみる。置台の中央、前端で、しなやかさのある音場感的なプレゼンス豊かなバランスとなる。これでもう少し、反応の速さ、音の鮮度感があれば、かなりの水準の音になるはずだ。そこで、コントロールアンプC200Lを置台上の中央から一番手前に引出す。これで、音に軽快さが加わり、これがベストだ。
●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ファリャ:三角帽子/デュトワ]
大村 最初の音は、乾いていて、音のしなやかさ、拡がりの不足した、とてもロンドンの録音とは思えない鳴りかたでした。ところが、レコードをターンテーブル上で回転させただけで、まったく別もののように聴こえました。
乾いた音から、聴きやすい、雰囲気のある音になりました。これだけで、充分という感じです。
井上 『幻想』のときとくらべると、あまりにもひどすぎるので、カートリッジの以外の要因があるとにらんで、レコードを回転させてみたわけです。原因はレコードのオフセンターです。オフセンター量が多いと、カンチレバーが左右に振られ音場感情報が出にくくなる。20度ほどズラしただけで、ものすごく音が変わる。必ずしも、よくなる方向に行くとは限りませんが、ベストポジションの音は、音楽の躍動感が出て、音場の拡がりもひときわ見事です。実際、これだけで、見違えるように雰囲気が出てきましたし、前後の楽器の配置もホールの感じも実によく出てきました。
同じレコードで、音が違うのはブレスのせいにされてきましたが、むしろオフセンターのせいだと思います。このことは、CDにも言えます。
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