オーディオテクニカ AT-ML180

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 新世代のVM型を標榜するオーディオテクニカのMLシリーズは、新針先形状のマイクロリニアスタイラスを初めて採用したAT160MLを出発点とし、AT−ML170に続き、MLシリーズのトップモデルとして、今回、AT−ML180が新製品として登場することになった。
 さすがに、トップモデルだけあって、VM型での長期にわたる技術蓄積をベースに、時代の最先端をゆく高級素材が憎しみなく投入された開発が見受けられる。
 振動系のカンチレバー材料は、直径0・4mmのボロンパイプ表面に金を蒸着した、耐候性と制動作用を併せもつタイプで、0・08mmMLスタイラスチップは、シリーズ中で最小の素材を採用し、MLスタイラス独特の長時間にわたり音満との接触部の曲率半径が非常に小さく高域特性が劣化しないメリットをもつものだ。
 無共振思想を置くために既にAT−ML170でマウントベースにファインセラミックスを採用しているが、今回さらに、カンチレバーとマグネットを支持するマグネットモールドにも同じ材料が使われた。
 発電系は、LC−OFCコイルと6層ラミネートのコアを組み合わせたパラトロイダル方式で、コア素材は、従来の約5倍の透磁率をもつスーパーパーマロイ採用で、発電効率が高く、コイル巻数を下げることが可能で、低インピーダンス化を果している。
 なお、FCS方式と呼ばれる、発電コイルの内側に独立したコイルを設け、相互誘導による高域での磁束変化を利用して高域共振を抑える手法や、スタイラスノブとカートリッジボディを包むシリンダーにウイスカー強化複合素材を新採用し、共振を抑え剛体構造とするなど、その内容は実に豊富であり、カッターヘッドと相似形を標傍するVM型・MLシリーズのトップモデルに相応しい新製品である。
 最適針圧1・25g±0・3gと発表されているため、針圧とインサイドフォースキャンセラーを、この値として試聴を始める。聴感上の帯域バランスは素直に伸びたスムーズな印象のものであり、柔らかで豊かな低域をベースとしたバランスは、僅かに中高域にキラメキがあるが、安定感のある落着いた音である。音場感は、スピーカーの奥深く拡がるタイプで、音像定位は小さくまとまるが、輪郭の線は柔らかくソフトなタイプである。音のクォリティは充分に高く、表情も穏やかなため、長時間音楽を聴くファンには好適のサウンドキャラククー。
 針圧1・5g、IFC1・5に増加する。やや、ソフトフォーカス気味のパステルトーンの色彩感が、鮮度を増し、フォーカスがピタリと合った音に変わり、音の芯がクッキリとし、適度の深みのある立派な音だ。オーケストラの低弦の音は、深々として丸みがあり、弦のユニゾンの音の芯も明快である。音場は標準的に拡がり、プレゼンスはかなり見事だ。中域で薄くなりがちな傾向は認められず、密度感の高いサウンドは、如何にもテクニカ製品らしい好ましさで、ゆったりと落着いてクラシック音楽を楽しむためには、クォリティも高く、さすがにMLシリーズの頂点に立つ実力である。

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