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ラックス C-5000A, M-4000A

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 ある種の雰囲気をもったどちらかというと内政的な音で、中高域の冴えがなく中低域以下が豊かだ。風格のある充実した音だが、音楽の内容によっては、もっと明るく、張り出した響きが欲しい。ワイドレンジで力もある音なのだが、少々しぶ味がある感じ。

デンオン PRA-2000, POA-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 デンオンが、その技術を結集して完成したセパレートアンプの最新作である。このところ、セパレートアンプの分野において、デンオンには特に注目されるモデルがなかっただけに、今度の製品にかけた情熱と執念は相当なもので、内容・外観共に入念の作品が出来上ったことは喜ばしい。どの角度から見ても、現時点での最高級アンプと呼ぶにふさわしいものだと思う。
PRA2000の特徴
 PRA2000は、コントロールアンプの心臓部ともいえるイコライザーアンプに、現在最も一般的なNF型を採用せず、CR型を基本とした無帰還式の回路を用いているのが技術的特徴である。リアルタイム・イコライザーと同社が称するようにNFループをもたないから、過渡歪の発生が少なく、高域の特性の安定性が確保され、イコライザー偏差は20Hz~100kHzが±9・2dBという好特性を得ている。従来からのNF型に対してCR型イコライザーのよさは認められてはいたが、SN比や許容入力、歪率などの点で難しさがあった。しかし、今度、PRA2000に採用された回路は、ディバイスの見直しと選択によって、CR型イコライザーの特性を飛躍的に発展させている。構成は新開発のローノイズFETによるDCリニアアンプ2段を採り、初段のFETはパラレル差動させSN比を大幅に改善、カスコード・ブートストラップ回路により高域における特性を確保し、電源の強化とハイパワー・ハイスピード・トランジスターと相まって広いダイナミックレンジを得ているのである。イコライザーアンプの出力はバッファーアンプを介さず直接、DCサーボ方式のフラットアンプに送られるが、このフラットアンプのローインピーダンス化によりSN比の改善、スルーレイトの悪化等による特性劣化も防いでいる。10kΩという低いインピーダンスのボリュウムが使われ、フラットアンプの出力インピーダンスは、100Ωという低い値である。独自のサーボ帰還回路により専用サーボアンプを持たせることなく、安定したDC回路と高いSN比を得ているのである。電源部は、五重シールドの大型トロイダルトランスで50VAの容量をもつものだ。シンメトリカルの内部コンストラクションは、細かいところにも入念な構成がとられ磁気歪や相互干渉の害を避けている。22石構成のローノイズ・トランジスターによるMCヘッドアンプも安定化電源をヘッドアンプ基板内に備え電源インピーダンスを小さくおさえるなど、専用の独立型ヘッドアンプ並みの手のかかったものである。
 フォノ入力3回路、チューナー、AUXなどの入力ファンクション切替えスイッチなどはソフトタッチの電子式リードリレーであるが、プリセット機構と連動し、パワー・オンの時には優先選択機能を果すし、スイッチ切替え時はワンショット・トリガー回路の働きで、一時的に出力が遮断されるので、きわめてスムーズで安定した操作が楽しめる。これらのスイッチ類は、すべて開閉式のサブパネルに装備され、常時パネル状に露出しているのは、パワースイッチとボリュウムコントローラーだけである。そのため、使い易さもさることながら、デザイン上も、きわめてシンプルな美しさをもち、木製キャビネットの仕上げの高さと共に、普遍的な美観をもっていると思う。
PRA2000の音質
 音質は明晰で、鮮度の高いもので、大変自然で屈託のない再生音の感触が快い。POA3000との組合せでの試聴感は後で記すが、このコントロールアンプ単体で聴いた感じではやや低域の力強さに欠ける嫌いもなくはない。しかし、これはパワーアンプやスピーカーとのバランスで容易に変化し、補える範囲のもので特に問題とするにはあたらない。
POA3000の特徴
 パワーアンプPOA3000は定格出力180W/チャンネルの高効率A級アンプである。スイッチング歪を発生しないA級アンプ動作であるが、その無信号時に最大となる電力ロスを独自の方式で改善を計り、高効率としたものだ。パワートランジスターのアイドリング電流を入力信号に応じてコントロールするもので、動作としては、きわめて合理的なA級アンプである。最大出力時には純A級アンプと同じ電力ロスだが、無信号時のロスはゼロとなるようになっているので、変動の大きい音楽の出力状態においては、大変合理的なパワーロスとなる。アイドリング時にも若干の固定バイアス電流を流し、バイアス電流を常に信号電流より先行させるようにコントロールして、トランジスターのカットオフを生じさせないというものだ。1000VA容量の大型トロイダル電源トランスと10000μFの大容量コンデンサーの電源とあるがこのトランスのLチャンネル/Rチャンネルは別巻で前段にはEI形のトランスを持っている。大型ピークメーターをフロントパネルの顔としたデザインは特に新味のあるものとはいえないが、その作り、材質の高さから、高級アンプにふさわしいイメージを生んでいる。
POA3000の音質
 POA3000は低域の豊かで力感溢れるパワーアンプで、PRA2000との組合せにより、きわめて優れたバランスのよい品位の高い音質が聴かれた。透明な空間のプレゼンス、リアルな音像の質感は自然で見事だ。ヴァイオリンの音色は精緻で、基音と倍音のバランスが美しく保たれる。ピアノの粒立ちも明快で、輝かしい質感の再現がよかった。演奏の個性がよく生かされ、私が理解している各レコードの個性的音色は違和感なく再現されたと思う。ハイパワー・ドライブも安定し、ジャズやフュージョンの再生は迫力充分だし、小レベルでの繊細感も不満がなかった。
 MCヘッドアンプは、やや細身になるが、SN比、質感は大変よい。

テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 前号に引き続き、セパレートアンプを試聴した。セパレートアンプ全体にいえることであるが、パワーアンプに優れた製品が多いのに比較して、コントロルアンプが劣るという傾向は相変らずであった。今回はコントロルとパワーがペアで開発されたものを7種類、単独のものを、コントロールアンプ1機種とパワーアンプ10機種の試聴であった。このように、数の上でも、パワーアンプに対して、コントロールアンプは少ない。ペアのものは、その組合せで試聴し、単独のものは、リファレンスにコントロールアンプはマッキントッシュのC29、パワーアンプにSUMOの〝ザ・パワー〟を私は使った。ステレオサウンド誌の試聴室において前回と同様のプログラムソースを使って試聴したが、実際には、他の機会に、これらの製品を試聴した時の体験も折りまぜてリポートする形となったと思う。特にペアのものについては、コントロールとパワーの組合せを変えることによって、評価が変ることもあり得るので、本当は、ありとあらゆる組合せをやってみて評価を決めることが、セパレートアンプについては必要かもしれない。しかし、限られた時間ではとても無理な作業なので、一応、こういう形をとったことをご了承願いたい。ここで、そうした別の機会に試聴した体験を少々書き加えることによって、私の短い試聴メモの補足とさせていただこうと思う。
 面白いことに、ペアで開発された製品のほとんどが、その組合せをもって最高としないことである。これが、セパレートアンプの面白さと意味合いの一つであるともいえるだろう。デンオンのPRA2000とPOA3000、パイオニアのC−Z1とM−Z1はよく組み合わされた例といえるが、それでも、私の体験だと、POA3000はマッキントッシュのC29で鳴らしたほうがずっといいし、C−Z1はSUMOの〝ザ・パワー〟で鳴らすと、また格別な音を聴かせてくれる。もちろん、PRA2000はいいコントロールアンプだし、M−Z1は抜群のパワーアンプで、これらには、きっと、別のベストな組合せをさがすことが出来るだろ。オンキョーのP306というコントロールアンプも、〝ザ・パワー〟とつないで鳴らした時に大変素晴らしく、本来、M506とのペアでのサーボ動作まで考えて開発されたものでありながら、別の使い方で、さらに生きるということがおこり得るのである。
 今回の試聴でびっくりするほどよかったのがマッキントッシュC29とオースチンのTVA1の組合せであった。パワーこそ70W+70Wと大きいほうではないが、その音の充実感と豊かなニュアンスの再現は、近来稀な体験であったことをつけ加えておきたい。スレッショルドの〝ステイシス1〟というアンプの美しい音に惚れ込んだけれど、このアンプを鳴らすには、どうやら、C29以外に、より適したコントロールアンプがありそうな気がしたのである。まだ試みていないから、なんともいえないが、〝ステイシス1〟のもつ、どちらかというと贅肉がなく、きりっと締って繊細に切れ込む音像の見事な再現はC29とは異質なところがあると感じるからだ。しかし、こればかりは、実際に音を出してみなければ解らないことなのだからオーディオは面白く厄介だ。
 アンプの特性は、まさに、桁違いといってよいほど向上しながら、このように、音の量感や色合いに差があって、音楽を異なった表情で聴かせるということは、今さらながら興味深いことだと、今回の試聴でも感じた次第である。

スレッショルド STASIS 1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 キメの細かい、繊細なテクスチュアーを美しく再現して聴かせる品位の高いアンプだ。ヴァイオリンの響きの可憐な風情が、このアンプで聴いた時だけ印象に残った。透明感と解像力の高い音といってしまえばそれまでだが、加えて、本機には感覚の冴えがある。

マッキントッシュ C29

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 マッキントッシュの代表的なコントロールアンプが、このC29である。現在同社は、この他にC32とC27という合計3機種のコントロールアンプをラインアップしているが、価格的に見ると、このC29は、その中間に位置するものだ。しかし、C32は、エキスパンダーなどの附属機能をもったり、帯域分割型のトーンコントロールなどにコストがかかっており、本質的なプリアンプ、つまり、イクォライザーアンプとフラットアンプ部に関しては格差のないものといってよい。同社によれば、C32はまったく新しい製品の出現であり、C29が従来のC28の発展したものという。
 C29は、現在のテクノロジーでリファインした、マッキントッシュの伝統的製品といってよく、使用パーツや回路技術は最新の技術水準をもったものである。機能はきわめてオーソドックスなもので、MCヘッドアンプも持っていない。例によって、中味の詳細は発表されていないから、特性のデータ競走をする姿勢は全くもってない。しかし、その音質の素晴らしさ、信頼性の高さ、作りの入念さ、品位の高い製品としての質感は、まさに高級機たる風格と魅力に溢れているといってよい。新シリーズになって、デザインに若干の変更を受け、両サイドパネルのエッジは、従来の峰型から、すっきりとした直線型に変った。そのため、以前のC28などからすると、やや小型に見えるようになり、さっぱりした印象になっている。人によっては、従来のデザインを好む人もいるようだが、実際使っていると、このほうが美しいと思えるようになる。赤、緑、ゴールドのイルミネーションパネルは、全く同じ精度と仕上げの高さをもつものだし、スイッチ類の感触と信頼性は明らかに向上している。入力切替えなどは全くノイズレスでわずかなタイムディレイのかけられたスムースなものになっている。欠点といえば、わずかに出る電源オン・オフのクリックノイズ(現在は改良された)と、このプッシュボタンの色合いの品位に欠けることぐらいだ。
 なによりも、その明晰で豊潤な音質は、あらゆるコントロールアンプの中で傑出したものであろう。旧C28と比較すると、明らかにワイドレンジとなり、解像力が上っている。それでいて、決して冷たい感触や、ギラギラとした機械的肌ざわりを感じさせず、あくまで、音楽の人肌への共感の情緒を失うことがない。マッキントッシュが常にもっている重厚な安定感は、ここまでワイドレンジ化したC29においても、いささかも失われていないのである。最近のアンプのもっている、冷徹さや、人工的な音の輝きなどとは、次元を異にするヒューマンなサウンドである。音像の立体的な再現、そのアタックの向う側まで見通せるような透明感、ホールのプレゼンスを生き生きと伝える空間感のデリカシーも見事で、オーソドックスなステレオフォニック・レコーディングならば、音はまさに空間に浮遊しながら、音源の楽器はぴたりとステージの上に定まっている。
 レコード音楽を楽しむものにとって、このアンプをコントロールして音楽を演奏する醍醐味を味わうことは至福であろう。決して、コントロールは繁雑ではない。マニアックな知識を必要とするものでもない。むしろ、誰にでも扱える簡易なコントローラーである。一例として、そのローカットフィルターとハイカットフィルターは、一つのスイッチにまとめられ同時におこなうように簡略化されている。人によっては、この簡略化を嫌うかもしれない。しかし、実際使ってみると、こんなに実用的で効果の上からも妥当なものはない。使いもしない複雑なフィルターがついているより、はるかに親切で効果は大きいのである。こうした実用的な一般性をもちながら、高い品位を失わせないところにマッキントッシュの大人の風格がある。2台のセパレート・モノ・プリアンプをコントロールすることに喜びを感じる人とは無縁の完成品なのである。いい意味でメーカー製らしいバランスのとれた製品といえるだろう。クォリティと生産性の調和という難問を見事に克服している専門メーカーらしい貴重な存在といえるだろう。

アキュフェーズ C-240, P-400

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 キメの細かいスムースな音は、きわめて洗練された品位の高いものだ。暖かい肌ざわりをもっているし艶のある、粘りのある音は、美音といってよい次元にまで高められている。しかし、反面、素直さ、自然さの面で少々不満がある。荒さは荒さとして聴きたい。

オーレックス SY-99, SC-88

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 音の感触は、ややウェットで粘り気がある。ピアノの粒が重くなる傾向だし、ヴァイオリンも、やや響きがにぶい。低音が堂々と力強く豊かでいいが、中高域の魅力に、もう一歩、洗練された磨きが欲しい。大音量での音くずれは少ないが、小音量ではやや冴えない。

ダイヤトーン DA-P15S, DA-A15DC

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 細かい音色のニュアンスを再現しきれないので品位の高い再生音とはいいにくい。全体に、音の汚れが耳につく感じで、それぞれの楽器の固有の魅力を味わいにくいアンプだ。派手で、効果のある音ではあるが、セパレート型としての品位の点では物足りない。

スレッショルド SL10, 4000 Custom

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 カリフォルニアのサクラメントにあるスレッショルド社は、高級アンプの専門メーカーで、いわゆるアンプ界のニューウェイヴとして我が国でも注目されているメーカーの一つである。こうした新しいメーカーの製品は、それぞれに、技術的特徴をもち、エレクトロニクスのニューテクノロジーを標榜しているが、中でも、スレッショルド製品は、ひときわユニークな存在である。
 スレッショルド社は、ルネ・ベズネとジョー・サミットという二人のオーディオ気違いが、遂に趣味の領域を脱して、高級コンポーネントを自ら創り出すことの止むなきに至り、若いエレクトロニクスエンジニアのネルソン・パスという人物と出合って会社を創立したという背景をもっている。パスは天才的なエンジニアといわれ、完璧主義、ベズネはデザイナーとしてこれに協力しているらしい。サミットはもっぱら資金面を担当しているらしいが、自身も大変な音好きで、この三人がとことん満足のいくものが出来ないと、製品として登場してこないという、いかにも専門メーカーにふさわしい体質を持っている。
 SL10と4000カスタムは、現在、同社を代表する新しい機種であるが、それぞれ、スレッショルドらしい特徴と技術的個性をもった興味深い製品であるとともに、そのデザインや仕上げの完成度が、こうした小規模な新しいメーカーのものの中では際立って優れていて、製品としての完成度が高い。
SL10の特徴
 SL10は、DCアンプ構成のハイスピード・プリアンプで、入力端子から出力端子までの信号の伝達速度は10ナノセカンド、つまり一億分の一秒、スルーレイトは150V/μsecという応答特性をもっているという。加えて、大量のアイドリング電流によるAクラス動作となっていて、ユニークな補正回路の採用で、DCアンプの安定化を計っている。使用パーツも厳選され、抵抗、コンデンサー、スイッチ、レベルコントローラーには高精度の高級パーツが使われている。操作、機能はきわめてシンプルなもので、余分な機能を一切排除し、信号系路の純度を確保している。ユニークなデザインはパネルの色調、表面のフィニッシュ、ツマミの形状などに並々ならぬ個性と雰囲気を備えていて、オリジナリティを強く感じさせる高級品にふさわしいものだ。
4000カスタムの特徴
 4000カスタムのほうも、これに劣らずオリジナリティをもったパワーアンプである。スレッショルド方式といわれる効率のよいAクラス動作は、すでに国産アンプにもいくつかの亜流を見出すことが出来る。同社独特の回路によるものだ。全段カスコード接続、クラスA動作のDCアンプ構成で、200W+200W(8Ω)の出力をもち,ブリッジ動作でモノーラルアンプとして使えば700Wの大出力を得ることができる。同社の技術思想のバックボーンともいえる、ハイスピードのコンセプトはここにも見られ、ライズタイムは1μsec、スルーレイトは50V/μsecと発表されている。LEDによるピークレベルとアベレージの2段表示パネルを中心に、いかにもパワーアンプらしいデザインは重厚感と、スタイリッシュな感覚がよくマッチした、個性的で美しいフェイスである。このパワーアンプは、単独でよく使う機会があるが、音質は大変優れていて、一種の粘りのある、弾力性に富んだ質感は、人の感覚に快いものだ。力感は溢れているが、荒々しさがなく、音像の立体感も豊かで、実感のあるプレゼンスが魅力的だ。
SL10+4000カスタムの音質
 今回のテストでは、このSL10、4000カスタムという同社の組合せで試聴したわけだから、これこそ、スレッショルドの主張する音と考えてよいだろう。
 前述した4000カスタムの弾力性のある粘る音の特質は、この組合せにおいても同じ傾向であったが、SL10とのコンビでは、それが、やや、好ましくないほうにいくようだ。とういよりも、これがスレッショルドの志向する音の方向なのだろうが……。私個人の好みからすると、もっと明解で鮮烈な響きであってほしい気がする。たしかに、キメの細かく、スムースな、艶と柔軟性をもった品位の高い音ではある。ヴァイオリンの音が、やや、ウェットで、擦過音が押えられ、少々太い響きだし、ピアノの音も丸みがあるのはよいのだが、鋭いタッチの輝きが、甘く重いムードになる。アカペラのコーラスを聴いたが、本来の明晰な軽やかなソノリティが、重厚で深々としたものになった。こういう音の質感、色彩感といった領域になると、もう完全に個人の嗜好の問題といわざるを得ない。音のように無限の表情、質感、色合いをもつものは、単純に、ある素性だけをよしとするわけにはいかないと思う。しかし、数々のレコードを聴いて、そのどれにも、ある種の癖らしい固有の質感があまり強くつきまとうというのは感心出来ないのである。
 スレッショルドのアンプは、パワーアンプのほうが好ましいというのが私の結論である。4000カスタムについては、第一級のパワーアンプであることを認めよう。しかし、SL10プリアンプのほうは、同列に評価するには抵抗があった。それにしても、不思議なことに、ハイスピードを標榜するアンプの多くが、一様に、眠たい、もやっとした傾向の音を聴かせるのはどういうわけだろう。ライズタイムやスルーレイトだけを追求する立場からは、それが本物の音だという主張が生れるであろうけれど、それは音を理屈で云々することになりはしないだろうか。立上りと立下りのバランスによっても、音の傾向は変ってくる。バランスをくずしてまで、立上りがよくなってもいけないようだ。

オンキョー Integra P-307, Integra M-507

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 ふっくらとした情緒勘のよく出るアンプで、音の質感はウォームでスムーズなものだ。鮮烈でパルシヴなソースに対しては、もう一つ明るく、抜けのいい再現が望まれる。ワイドレンジがいたずらに耳につくことなく、しかもレンジの狭さは全く感じない。

Lo-D HCA-9000, HMA-9500

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 日立のLo−Dのオーディオ製品は常に日立らしい技術開発の精神に立って、素材の開発から手がけ、新製品らしい新製品を発表している。その規模と技術の層の厚さは、いうまでもなく日本のメーカーの中でも飛び抜けた存在であるから、中途半端な製品開発は出来ないのが当然だ。スピーカーをみても、アンプをみても、必ず、そこには注目すべき、新しい技術が生かされている。基礎研究の力は、大いに信頼に足るメーカーであることは、ここで、改めて断るまでのこともない。要は、この技術力が、いかにオーディオ的に生かされるかにあって、人の心情や感性を対象としたオーディオ機器にあっては、高度なテクノロジーが即、これに対応できるものとはいい切れない。この辺りが「技術の日立」の最大の課題であろうと思われる。しかし、それも、このところ、同社なりに豊富なノウハウを蓄積してきているようで、音楽を楽しみ、音を味わうことの出来る製品作りのコツを心得てきたようである。音キチといわれるように、高級オーディオ機器のユーザー達は、音に関して、きわめて集中的かつ求心的な関心の持主であり、音に関わる機器に求めるものは単に機械としての存在を超えた形であり、触感であり、雰囲気であり風格である。しかも、それは人それぞれの嗜好によって、様々な要求があるところに、オーディオ製品の趣味性が生れていることは読者諸兄がもっともよく御存知のはずだ。
 音楽の感覚的な娯楽性や精神的な芸術性に共感し、評価する、その心に同次元の印象や感動を与え得るモノの存在は並大抵のものではない。最高級オーディオ機器を生み出すことは、この点で、決してイージーなものではないのである。研究所、開発設計室、生産工場、営業宣伝といった常識的なメーカーのプロセスの中で、はたして、どこで、どうしたら、そのクォリティを付加することが出来るのだろうか。これは頭でだけ考えてシステム化できるような問題ではあるまい。Lo−Dの製品に接して常に感じること、考えさせられることはこのことである。世界的な大企業である日立製作所のオーディオ製品が、この点で全く欠けているとはいわないが、前述した「製品作りのコツ」という同社への賛辞は、同時にまた、同社製品への不満でもある。つまり、要領は巧みに心得てきたといえるが、それが、強烈な個性と、製造者の情熱が生みだす創造性、心情性という面で、まだ一つ、物足りなさを感じさせるのである。
 たまたま、Lo−Dの製品の項で、このような私の考えを述べさせてもらったが、これは、他のメーカーにもいえることであって、Lo−D製品に限ったことではないことをつけ加えておく。
 Lo−Dのアンプの中での最高級機種といっていい、セパレートアンプ、HCA9000とHMA9500は、以上述べた性格を過不足なく備え、数々の技術的フィーチュアや、製品の特性には、最新最高のテクノロジーの生きた優秀なものであった。
HCA9000の特徴
 HCA9000プリアンプは前段ICLのDC構成をとり、出力段のコンデンサーにも周到なセレクトのおこなわれたもの。その選択と使い方には音質との兼ね合いが十分配慮され、アンプ作りのコツの一端をうかがい知ることが出来る。ボリュウムは連続可変で、クリックのないところが気に入った。音楽ファンにとって、音をカチカチと段階的に増減するという感覚は抵抗があって不思議ではない。4連ボリュウム採用で残留ノイズは耳につかない。出力インピーダンスは40Ωと低いから、スピーカーを近づけて使いたい人には、ラインレベルでコードを延ばすのに好都合。電源は全段独立安定化電源を採用し音質へのキメの細かい配慮をおこなっている。MCヘッドアンプはS/Nのよいもので、パネル面で切替えが出来る便利なもの。薄型のデザインは率直にいって、それほど高級感があるとはいえない。かなりこった作りではあるが、その割に効果が上っていないようだ。
HMA9500の特徴
 HMA9500パワーアンプは、日立が開発した新しいデバイスの誕生によって実現したもので、技術的なオリジナリティを持った製品だ。コンプリメンタリーパワーMOS−FETという素子がそれで、オーディオ用のパワー素子として優れた特徴をいくつかもっている。大きな電力ゲインをもっているため、複雑なドライバー段を必要とせず、比較的シンプルな構成で、高いリニアリティをもった音声出力を得られる。回路構成は、左右独立電源のDCアンプで、NFBループにコンデンサーは使用していない。
HCA9000+HMA9500の音質
 HCA9000とHMA9500の組合せによる試聴では、透明感のある繊細な音の粒立ちはよく生かされたが、豊かな力強さの点で、少々不満があった。ヴァイオリンは、線がやや細く硬目の響きだが、芯のしまった音で、演奏の毅然とした精神性がよく表現された反面、柔軟でしなやかな遊びの雰囲気といったものが希薄であった。ピアノの質感は高く、響きが冴える。オーケストラでは、弦合奏の高域が時々とげとげしくなる傾向があったが、弦のプルートの数がだんごになってしまうようなことがなく、分離が大変よく聴こえた。トゥッティでのエネルギーバランスとしては、やや高域が勝って聴こえたがこれは、ジャズのビッグバンドでの低域の図太さの再現不足とサックス群のハーモニーの厚みの再現不足と共通したイメージであった。しかし、こうしたバランス上の問題は、スピーカーや部屋のコントロールで補える範囲でのことであり、それほど大きな不満とはいえない。MCヘッドアンプ使用の音は、癖のない、おとなしいもので、歪感がない好ましいものであった。総合的に、緻密で明解な音は、音量によって音色変化の少ない使いよいアンプであった。

QUAD 44, 405

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 全体にナローレンジの傾向をもつ、聴きやすい音だ。節度と品位のある鳴り方で、音楽の重要な骨格はきちんと聴かせてくれる。特性のよさが表に出た機械的な感触の音よりもはるかにいいとはいえるが、現代的な音楽では物足りなさが残る。

マッキントッシュ C29, MC2205

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 製品としての完成度の高さの点で、現在、マッキントッシュのアンプの右に出るものはないといってよかろう。デザインのオリジナリティと、そのクォリティ、コンストラクションなどの総合的なバランスのよさは、まさに、専門メーカーとしてのキャリアと風格を証明し、アマチュアに毛の生えたような製品の多い昨今、ますます、その存在が輝きを放っている。仕上げの高さ、創りのよさといった見地からみると、アンプに関して、いまや国産の高級機を凌ぐ外国製品の数は、それほど多くはない。前述した、アマチュアに毛の生えた程度の作りの粗さや未熟さは、メーカー製にはあってはならないものだろう。真に価値のあるものは、中味にふさわしい外観、外観にふさわしい中味の各々相まって然るべきである。音さえよければそれでいいという考え方は未熟である。それも、買い手がいうのならまだしも、作り手や、売り手が口にすべきことではない。ましてや、作りの粗さや雑なところが、いかにも専門メーカーの小量生産品らしくてよいなどというのは、詭弁以外のなにものでもない。外観の風格は、中味の充実からくるものであるし、その品位と重みといった雰囲気は一朝一夕に出来上がるものであるはずがない。マッキントッシュの製品は、こういう観点から見た時、真の一流品、高級品といえる数少ない現役製品のひとつだ。
 このC29、MC2205という製品は、現在のマッキントッシュのラインアップのなかでは最も新しい設計による矢野で、一貫したマッキントッシュの風格は、その外観にも音にも堅固に生き続けている。
C29の特徴と音質
 C29コントロールアンプは、価格的にみればC32の下のクラスということになるが、必ずしもC32の普及モデルというのではなく、むしろ、C28の新型が、このC29で、C32は新しいコンセプションによるニューモデルと考えるのが妥当であろう。それは、コントロールアンプとしての機能や、音の上からも肯定できるところであって、C32の豊潤な艶は、従来のマッキントッシュのサウンドとはやや異質だし、コントロールアンプとしてはコンセプトの異なるものだ。また、多分割のバンド型トーンコントロール機能も、マッキントッシュ伝統のものとはいえない。その点、このC29はオーソドックスで、シンプルなコントロールアンプで、必要なファンクションは完備したマッキントッシュ伝統のコンセプトを反映しているものである。グラスパネルのイルミネーションは、いまさらいうまでもなく、ユニークで美しく、機械の精度の高さをよく表現し、かつ、マッキントッシュのガウ社長のいう「エモーショナルレスポンス・フォー・ミュージック」を感じる心に豊かに呼応するフィーリングである。従来の同社のコントロールアンプは、いわゆるS(スイッチ)付ボリュウムを使っていたが、新シリーズから、パワースイッチとボリュウムは分けられ、プッシュ式の角型スイッチで電源のオン・オフをおこなうようになったのは好ましい。S付ボリュウムというのは、たしかに普及品のイメージに連なることは否定できない。パワースイッチにふれたついでだが、このプッシュボタンの色は、あまり好ましいとはいえない。新シリーズの出始めの頃は、他の一群のプッシュボタンと同じ、黒であったが(私が現用しているC32はそれだ)、見分けにくいということで、現在の色にしたらしい。しかし、この赤茶のような透明感のない色の質感は、マッキントッシュにしては、少々不満なクォリティであると思う。
 そして、音は、充実した質感……いかにも中味がつまっているといったソリッドネス……力と重みのある堅固な造形感をもった音像再現の見事さといった、マッキントッシュ・サウンドに、明るい陽光が射し込んだような、透明さが一段と冴え渡るようになったフレッシュなものなのである。
MC2205の特徴と音質
 新しいマッキントッシュのアンプに共通していえることだが、コンストラクションの確かさは、その精選されたパーツとのコンビネーションで最新のエレクトロニクステクノロジーをオーディオ的に洗練し、見事な再生音楽のリクリエイトに成功している。その伝統ゆえに、古い世代のアンプという偏見をもつ人がいるが、愚かな認識である。確かに、マッキントッシュは、実験的な突飛なパーツや回路は採用しないが、これは、同社が、製品の信頼性と、音楽の豊かな情緒的再現を重視しているからである。ポルシェが、市販車にターボチャージャーを装備したのは、大変な実験とレース実績の積み重ねをしてからであった。BMWが、それより先にターボチャージャーを装備した車を売り出し、そのレスポンスのタイムラグや故障のために生産を中止した事実とは対照的である。マッキントッシュのプロダクションの考え方には、これと一脈通じるものがある。やれDCアンプだ、サーボアンプだと大さわぎをしてはいるが、はたして音はどうなのだ? はたしてオーディオにとって本当に有効な技術進歩かどうか? そんなことは半年やそこいらで結論が出るものではないだろう。往年のマランツやマッキントッシュほどのものになると、10年前の製品でも、オーディオ機器として最新の製品と堂々と比肩する性能をもつものである。人によっては、昔のもののほうを高く評価するという事実もある。
 MC2205は、こうした音とテクノロジーの関連を、マッキントッシュらしい慎重さと、豊かな想像力で検討し、有能なエンジニア達が、古くからの体験に基づき、よいものを大切に、新しいテクノロジーの中から厳重に選択したポイントを盛り込んで作り上げられただけあって、外観も、お供、まさに威風堂々の充実感を覚える力作である。これらのすべてが、今回のテストで改めて如実に確認できた。

マークレビンソン ML-6L, ML-3L

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 優秀な特性による品位の高い音だとは思えるけれど、どうも、音楽の表現にゆとりがなくなる。大らかな歌い方、暖かく、やさしいニュアンスといった雰囲気が十分ではなく、どこか、ギスギスした、せせこましい印象の音であった。ダイナミックな力もいま一つ。

GAS Thaedra II, Godzilla AB

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 品位の高い再生音。つまり、あらゆるプログラムソースの特徴を見事に再生し分ける。ヴァイオリンのデリケートな音色から、パルシヴなドラムスの音まで、それぞれに生き生きとしたリアリティをもっている。質感は弾性的で肌ざわりのよいものだ。

アムクロン DL-2, SA-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 たくましい明るい音で、ロックやジャズには圧倒的な再生音を聴かせる。その反面、デリカシーやニュアンスを要求すると、やや不満もある音で、弦楽器の高音は、少々粗く、しなやかさに欠ける嫌いがある。大音量で実力を発揮する傾向をもったアンプだ。

ヤマハ C-2a, B-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 音に勢いのある、明解な再生音で、低音もよく締り密度が高いし、中高域の冴えた再生音も美しい。パワーアンプのプロテクションが、やや安全度の見過ぎか、公称パワーの大きさの割には、低域の大出力に余裕が欠けるようだ。充実した高品位の再生音。

トリオ L-07C II, L-07M II

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 トリオは、アンプのハイエンド製品の開発には、主張テーマを明確に標榜し、そのテーマにもとづく物理特性を測定限界にまで追求することを開発のバックボーンとしているようだ。忠実な伝送増幅を目的とするアンプにおいて、この姿勢は絶対に正しいといえるだろう。しかし、オーディオの録音から再生までの複雑なプロセスにおける、相互的な複雑な依存性は、あたかも、人生における、がんじがらめのしがらみにも似て、これをトータルな音としてスピーカーから効果を上げることをことを考える時にはそう単純に、一元的にテーマを追求してすむものではないし、時としては部分的独走に終る危険性すらもっている。現在のようにコンポーネント各部が専門的に開発される情況においては、この傾向が時として総合的な音の効果を損ねることに連なるといえるだろう。また、コンポーネント相互の相性などといわれる問題の発生の要因となることも考えられるであろう。そしてまた、リスナーの嗜好との相性がこれにからんでくることを思えば、問題はますます複雑になるのである。専門メーカーとして長いキャリアと豊富な蓄積をもつトリオのことだから、この辺は先刻承知のはずで、そこを、試聴に重ねる試聴によって、試聴者の個性と感性と知性の限界はあっても、出来得る限り普遍性をもった「美しい音」の具現で埋めようと努力しているはずだ。現在のようにエレクトロニクス技術が高度に発達した時点でさえ、アンプによる音の違いがあるという原因の背景は、こうした事情によるものとしか思えない。素子と回路の追求やパーツの選択、配線やコンストラクションのちょっとした違いで音が変るという事実の上で、音の審美と価値感の決定にたずさわる人間の存在の重要性は、今後も失われることはないであろう。
L07MIIの特徴
 L07CII、L07MIIの標榜する技術テーマは、同社の、この数年来の追求テーマであるハイスピードアンプの実現であり、それは、100V/μs以上の波形の立上り傾斜、1μs以下のライズタイム、信号の正負両方向のレスポンスの同値と出力の大小による悪影響を受けないこと、リンキングなどの波形の乱れがないことなどである。これによって、全帯域にわたってアンプのダンピングファクターを出来るだけ一定化することにより、良質の音を得るというのが、主張の要旨である。こうして、L05M以来、スピーカーをダイレクトにドライブするという思想、その結果、当然2台のモノーラルアンプという形態のパワーアンプが登場し、それが、そのまま、このL07MIIにも受けつがれている。
L07CIIの特徴
 コントロールアンプL07CIIは、左右を極力独立したコンストラクションとし、出力インピーダンスは10Ω以下と低くとって、優れたトランジェント特性を持つ薄型のコントロールセンターである。L07CIIは、この他にも、MM、MC各独立型のイコライザーを内蔵し、各部品は高級なものを選び、細部にも徹底した神経の行き届いたマニアライクな製品となっている。必要な機能は完備したコントロールアンプではあるが、信号系路は音質重視設計でシンプルに構成されている。入力セレクターは、2イコライザーであるので、イコライザー通過後のフォノ1、2をチューナーやAUX端子とスイッチし、微少レベルでのスイッチ接点介在の害を防いでいるし、ボリュウムの選択や使い方にも細かい配慮がなされている。ミューティングリレーで出力をオン・オフにするスイッチを採用しているのも実用上合理的である。使い勝手のよいコントロールセンターといえる。
L07CII+L07MIIの音質
 その、ふくよかな音質も、品位の高いものだ。このコントロールアンプは、今回のテストでは単独では試聴しなかったが、すでに、いろいろな機会に単独試聴しているが、プレゼンスの豊かな、良質の再生音を聴かせてくれた。音像の定位や立体感の再現は、そのアンプのクォリティを物語るものといってもよいのだが、このL07CIIの再現するステレオフォニックな空間感覚は、まさに、そのハイクォリティを感じさせるものだ。
 ところが……ここからが、前述した、オーディオのしがらみになるのだが、今回の試聴では、どうしたわけか、♯4343をL07MIIでドライブした音からは、L07CIIのよさが、あまり感じられなかったのである。この稿では、あくまで、今回の試聴を中心にした音の印象記を述べなければならないのであるが、あまり、好結果は得られなかったのである。全体に、やわらかい、ソフトタッチの音のよさは感じられたけれど、率直にいえば、むしろ、もったりとした眠い音で、鮮烈な冴えのある音が出てこなかったのである。エネルギーバランスも、中高域に落ち込みが感じられ、拍手の音などが不自然であったし、ヴァイオリンの音色にも、冴えた鋭敏なところがなく、ハーモニックスの成分が、ずいぶん、常識的なバランスを欠いた響きであった。ジャズのビッグバンドのサックスセクションも前へ出てこなかったし、ベースも少々鈍重で、迫力を得るために、つい音量を上げると、響きがやかましくなるといった具合であった。日頃の試聴感と、今回のテストで、かなり大きく違いが出たことにあるが、このアンプは、どうも、コンポーネント相互の組合せによって結果が大きく変るような傾向があるらしい。

パイオニア Exclusive C3a, Exclusive M4a

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 エクスクルーシヴはともともパイオニアの最高級品につけられたシリーズ名だが、いまや、そのラインアップが独立して、販売経路も独自のものとなった。しかし、その製品開発のバックグラウンドは、まぎれもなくパイオニアである。このメーカーは、オーディオ専門メーカーとして伝統に輝く名門であるが、企業規模が驚異的に拡大し、大量生産大量販売の態勢をとらざるを得なくなった。そこで、小規模の専門メーカーとして、少数のオーディオマニアとのコミュニケイションを大切にしようとする心意気と、最高級品を開発しテクノロジーの水準を高め、それを量産品にフィードバックしようとする好ましい考え方、プレスティッジ商品を持つことによる有形無形のイメージアップなど、利口なパイオニアなら当然考えるであろう政策から生れたのが、エクスクルーシヴ・ブランドなのだ。そして、このC3a、M4aの前身であるC3、M4、そしてM3といったセパレートアンプが5年あまり前に、このブランドで初めて登場した。今、その製品群はプレーヤーシステムにまで拡大されるに至ったが、おそらく、近々全ジャンルの製品群が顔をそろえることになるのだろう。同社によれば、最新のテクノロジーとクラフツマンシップのバランスの上に立って、「音楽に陶酔する」ことを目的としたロングセラーのハンドメイドの最高級品をエクスクルーシヴ・ブランドの主旨としている。確かに趣味の対象としてのオーディオ製品は当然こうあらねばならないが、この姿勢が単なる政策に終らないように祈りたい。パイオニアがなくなってもエクスクルーシヴだけは残ったというような世の中にでもなったら最高だ。半分冗談、半分真面目にである。これだけの多くの電気メーカーがあるのだから、各々、それぞれ特徴をもち、存在の必然性に支えられて反映すべきだと思うからだ。パイオニアのオーディオ製品作りの実力を見せつけられたC3、M4は5年前から魅せられ、特に、M4については、絶賛し、愛用し続けてきたかのであるが、今度、そのマークIIとでもいうべきa型の登場には、一抹の期待の不安の交じり合った気持をもっていたものである。
C3aの特徴
 どちらの製品も、デザイン的には大きな変更はなく、内容的に従来のものを基本として現時点でリファインした製品だ。C3aは豊富な機能を持ったコントロールアンプで、そのオーソドックスなコンセプトは、マランツ♯7に基本を置いたコントロールアンプのクラシックといってよい機能レイアウトを持っている。入力端子は豊富で、フォノ2回路とライン3回路はロータリースイッチで切替式、別にレバースイッチで、フォノとチューナーが切替えて使えるようになっているから、フォノは3回路ということになる。しかし今流行のMC用ヘッドアンプは内蔵していない。C3からC3aになって、ちょっとしたらMCヘッドアンプでもつくのかと思っていたが、それをしなかったことに、私はむしろ好感を持った。これでMCヘッドアンプを入れることになったら、相当な設計変更を要するし、とってつけたようなヘッドアンプ追加なら、しないほうがよいと考えたのであろうオリジナル尊重の気持を感じたからである。パーツ、配線などの地味なリファインにとどめてくれたことはよかったと思う。真の高級品には、頑固さがあるものだ。
M4aの特徴
 M4aも同様、細部のコンストラクション、線材、パーツのリファインなど、そして、電源の強化といったベイシックなポイントに手を入れたと聞くが、今流行のDCアンプ構成でも、サーボアンプでもない。たぶん、今回試聴したアンプの中では、もっともオーソドックスなものであろう。このアンプの音を聴くと、いったい、DCアンプのどこがいいのか? という疑問が涌くほどである。A級動作のアンプで、パワーも50W×2だが、その力のあること! 下手なオーバー100Wクラスのアンプに勝るとも劣らぬパフォーマンスを示したのであった。スピーカーのエフィシェンシーが93dBのJBL4343でなら、強烈なダイナミックレンジをもつプログラムソースを十分なラウドネスで鳴らしても、低音のピークが全く安定しているのには驚いた。
C3a+M4aの音質
 しなやかで、ふくよか、艶のあるヴァイオリンの音の美しさは、ちょっと他のアンプでは得られない次元の異なる緻密さであり、美しさであった。音色の分解能は秀逸で、ごく微妙な楽器の音色ニュアンスをはっきりと再生し分け、音の粒子の細やかさは魅力的というほかはない。その力感については先に述べた通りだから、あらゆるプログラムソースに品位の高い再生音を聴かせてくれることになる。M4との差を強いていうならば、M4の持っていた中音域の豊麗さが、ややコントロールされてしまったために、その色気の魅力が少々薄れたといえるかもしれない。しかし、全帯域のエネルギーバランスは、M4aのほうが明らかに充実したといえるだろう。この辺はもう好みの領域といってよいもので、普遍性をもって、どちらがよいかをだんていすることは私には困難である。M4の中域の特徴がやや好みに合わない人にはM4aは明らかな改良であろうし、私のように、M4の中域の甘美な、とろっとした魅力が好きな人間にとっては、正直なところ、もう、どっちでもよいという気持である。その分、M4aが、全帯域が高密度化しているからである。M4aのほうへの賛辞が多くなってしまったが、C3aとM4aは、明らかにM4aのほうが魅力がある。唯一の欠点、冷却ファンの音がやや耳障りな点を除いては、そのシンプルなデザインも品がよくて大変好ましいからだ。C3aのデザインは、先にも書いたようにオーソドックスで特に悪さもないが、オリジナリティに欠ける。ツマミ類のバランスもいいとはいえないし、質感と風格にも欲をいう余地があるからだ。

テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 セパレートアンプを16通りの組合せで試聴した。本来、セパレートアンプというのは、コントロールアンプとパワーアンプが別々のものだから、単独で試聴し、それぞれについてリポートする方法を本誌ではとってきた。今回のように、同一メーカーの組合せだけで音を評価するという試みは初めてであると同時に、一つの組合せ機種について、かなりの字数で述べるというのも、今までにない方法である。したがって、記述内容は、個々の製品について、かなり深く詳しくならざるを得ないと同時に、ただ音の印象だけではなく、製品自体、あるいは、それを作ったメーカーのコンセプトやバックグラウンドについても主観的意見を述べさせていただく結果となった。
 私の担当した記述は、エクスクルーシヴC3a+M4a、Lo-DのHCA9000+HMA9500、ソニーのTA-E88+TA-N9、トリオのL07C+L07MII、マッキントッシュのC29+MC2205、スレッショルドのSL10+4000カスタムの6機種について詳述し、あとの機種については音の印象を短くコメントするものであった。本当ならば、この詳述した6組合せ機種については、読者が、製品を目の前にして、あたかもいじっているような気持になる具体的な報告にすべきなのかもしれないが、私としてはそれ以上に、その製品を通して、それを作ったメーカーのコンセプトやバックグラウンドについて私見を述べることのほうが意味があるように思えたので、テストリポートを期待する方には少々、勝手のちがったものになったのではないかという不安がある。何故このような記述になったかというと、セパレートアンプというものは、当然、高級アンプで、そのメーカーの全技術力や音への感性の水準を示すものと解釈出来るし、それを使うユーザーは、プリメインアンプやレシーバーとは違った関心の持ち方であろうと考えたからである。つまり、そのサウンドロジーへの共感があってこそ、わざわざ、セパレートアンプを使う意味もあるのではないかと考えるのである。現在の技術をもってすれば、プリメインアンプで高度な再生を可能にするのになんら不都合はないはずだ。1台数十万円もするセパレートアンプのレーゾン・デートルは、最高度のテクノロジーと、余裕と無駄という犠牲を払っても十分な価値観の充足を得ることのできる素晴らしいぜいたくさにあるといえるであろう。こういう本質を満たす製品は、ただ金をかけただけで作り出せるはずはないだろうし、ましてや、形だけをセパレートにしたというのでは、あまりにもイージーで、お粗末であろう。確固たるフィロソフィーがオリジナリティをもった創造力によって具現されたと感じられる製品でなければ、セパレートアンプの本質にかなったものとはいえないと考えるのである。無論、その理想が完成したものは数少ない。否、未だ皆無かもしれない。しかし、少なくとも、そうした理想の方向にあるかないかは、こうしたハイエンド製品にとって重要なことではあるまいか。リアリストにとっては無縁の存在といってもよい尊いものなのだ。
 こういう考え方から生れる、セパレートアンプへの要求は、当然、かなり厳しくなるし、主観的にもなる。また、作るほうも同じように、きわめて個性的な方向へ向くことにもなるだろう。こんなわけで、前述した6種類の組合せについては、かなり勝手なことを述べさせていただいたのである。
 今回、16組の、内外のセパレートアンプを試聴して感じたことだが、国産のものと、海外のものとが、まるで、大メーカーの製品と小メーカーの製品という言葉に置き替えてもいいような雰囲気が、そのデザインに、作りに、そして音に現われていたことだ。国産のものは実に手馴れた作りと、キメの細いフィニッシュで、ある意味では完成度が高く、海外のものは、どこかに強い癖があって、武骨で不馴れな作りとフィニッシュのものが多かった。もちろん、それぞれに例外もある。例えば、海外製ではマッキントッシュ、国産ではサンスイのCA-F1、BA-F1がそうだ。マッキントッシュのC29とMC2205は、海外製品の中では抜群に完成度の高いフィニッシュであり、サンスイの二機種は、小メーカーのアマチュア的作品といった未完成さが感じられる。はっきりいって、この二機種は、AU-X1というプリメインアンプの水準を上廻るものとはいい難く、セパレートアンプとしてサンスイのラインアップの中での存在の必然性はどれほどのものなのだろうか。また、ダイヤトーンのDA-P15Sというコントロールアンプも、私の考えるセパレートアンプとしての本質をもっているとはいえない雰囲気であったし、あのマーク・レビンソンのML6のようなモノーラル・プリアンプの不便でエキセントリックな強烈な個性の製品が、あれほどの高価格で商品性を持っているという現実とのひらきの大きさには驚かされる。因みにダイヤトーンのDA-P15Sは7万4千円で、マーク・レビンソンのML6はペアで、98万円である。この価格のひらきを正統化する価値の差をなんと説明したらよいだろう。前述した、私の考えるセパレートアンプの存在の必然的理由で納得していただけるだろうか。
 今回試聴した組合せの中で、最も好ましい音で鳴ってくれたものは、国産ではエクスクルーシヴのC3aとM4a、海外製品ではマッキントッシュのC29とMC2205であった。おもしろいことに、C3aとM4aは、日本のオーディオ界では時代遅れ? といってよい非DCアンプであり、C29とMC2205は保守的で古いと一部に評きれるマッキントッシュ製品であった。この音のよかった国産と海外の2組合せ機種は、作りと仕上げの美しさでも、今回の製品群の中でトップクラスであったことは、はたして偶然といい切れるのであろうか。
 先にも述べたように今回は、コントロールアンプとパワーアンプのペアで音を評価したために、どちらかが好ましくないものは他方が損をする、という結果になっている。セパレートアンプは、その組合せによって、かなり音がちがってくるから、その本来の性格からすると、今回の方法に不備な点も認めざるを得ない。単独で評価をすると、また、違った結果が出てくるものもあるはずだ。しかし、それは、今回の評価の好ましくなかったものについて特に言えることで、今回、推薦とした組合せについては、コントロールアンプ・パワーアンプ、それぞれ単独でも、高品位で価値の高いものといってよいと思う。
 求心的に音を探求し、真に価値あるものを求める読者諸兄にとって、なんらかの御参考になれば幸せである。

ソニー TA-E88, TA-N9

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 ソニーのTA−E88とTA−N9は、同社のオーディオ技術の現時点での粋をこらした製品といってよい。そこ、ここに、ソニー独自の新しい素材や、技術が生かされていて大変に興味深いアンプである。新技術の製品への導入の速さは、確かに同社の力を示すものであるし、数々の功績として評価して然るべき貢献を残してきているが、これらの高級機種からも感じられるソニーへの不満は、それらの新技術が、じっくりとオーディオ的に煮つめられることなく裸で出てきてしまうといった印象である。新しい素材や、テクノロジーは、それまでとは違った音を生むことは確かであるが、それが果して、人間の感性や心情にとって、より高い次元の感動に連なる音の美しさや愉悦感であるかどうかといった問題が残ると思われる。現状でのディジタル録音が感じさせる音の例が、最も端的にそれを物語ると思うのであるが、ノイズがなく、あくまでシャープで輝かしく、明解であることと引替えに置き去りにされたような、豊かな陰影と雰囲気、滋味溢れる感触や、模糊とした風情など……。情緒に訴える、従来は得られていた音の情報が、惜し気もなく払拭された音を、その手段であるテクノロジーの先進さだけ故に、首を前に突き出して、つんのめるが如く、突進することが、音の文化にとって正しい姿勢であるかどうかは再考の要があるだろう。冷たい、機械的だと感じさせる何ものかが、その音に存在することは、音を目的としたテクノロジーである以上、人間中心に考えて、なんらかの反省と、さらに技術の熟成を計るべきだと考える。率直にいって、このTA−E88とTA−N9に、ディジタル録音ほどでは勿論ないが、どこか、それに連なるイメージの音の質感が感じられるし、その機械としてのデザインも、そうした体質を彷彿とさせる雰囲気をもっていると感じたのである。つまり、これほどの高度なテクノロジーをもっていながら、そのまとめに、人間的なウォームネスがやや欠けるという印象があるので、それが伴ったら再考のものになるだろうなという欲張った要求をしてみたくなったというわけだ。いいかえれば、それほど、このTA−E88とTA−N9は技術的に魅力のある製品であって、実に優秀な、高性能プリアンプであり、パワーアンプであるということになる。
TA−E88の特徴
 TA−E88は、まず一見して外観からも、極めてオーソドックスに、イコライザーアンプとしてのコンストラクションを追求し、潔癖なまでに信号系路を最短距離でインプットからアウトプットに導くという思想が明白に見てとれる。このユニークなコンストラクションは頭で考えることは容易だが、現実化は、それほど容易ではないはずだし、ここまで簡潔化を計って、それを結果に反映させるには、精選されたパーツと、ごく細かいところにまで神経を使った仕上げ、優れた回路技術をまたねばならなかったはずだ。それは、アッテネーターやバランサーに使われている高精度のボリュウム、各端子の金メッキ処理、銀クラッドのスイッチ類、そして金属皮膜抵抗や無共振コンデンサーなどのパーツ類、トーンコントロール回路やヘッドフォン端子をはぶきながら、コントロールアンプとして必要な機能を合理的にまとめあげた、安定性の高い全段DCアンプ構成、左右独立の4電源などの仕様に裏付けられている。インプット端子はユニークな配列のため初め少々とまどうが、ひんぱんに抜き差しするところではないので、慎重に理解してからおこなえば問題はなかろう。ダイアル式の
カートリッジロードのアジャスターなどのこりようはマニア泣かせのサービスである。パネルレイアウトは、すっきりしすぎるほどすっきりして扱いは全く容易だが、この辺りのフィニッシュはもう少し風格と味わいが欲しいところ。このクラスの製品だから、強烈に好まれるか、拒絶されるかは覚悟すべきで臆病になるべきではないと思う。
TA−N9の特徴
 TA−N9は、堂々450Wのモノーラルアンプで、Aクラス動作をさせることによっても80Wの出力を得る超弩級パワーアンプである。技術的な特徴をあげつらねればきりがないほどであるが、おもな点はパルス電源搭載のDCアンプ構成で、パワー段はMOS−FETの5ペア・パラレルプッシュプルといったところだ。MOS−FETの特質として、入力インピーダンスが高くハイゲインであるため、ドライバー段は高域特性の優れた小型のトランジスターによる比較的小規模なものですんでいる。大電流が流れる出力段の放熱にはヒートパイプを活用し、電磁波の影響をなくすなどユニークな構成もみられる。少々、ヒステリックにプッシュプルのスイッチングディストーションが喧伝されている昨今だが、よりデリケートな音を望む向きにはスイッチの切替えで、同ゲインでA級動作として使うことも可能である。このアンプにおいては、A級に切替えた時の音の違いは比較的はっきりと聴き分けられ、弦などはぐっとなめらかになる。
TA−E88+TA−N9の音質
 TA−E88とTA−N9の組合せによる試聴のメモをここに引き写すと緻密でウェイトのかかった充実した音だが、ややつまり過ぎといった生硬さがあり、おおらかな響きと雰囲気が出にくい。しかし臨場感は豊かで音のスケールは大きく、オーケストラでのブラスの輝きや、ジャズのビッグバンドでのサックスの脂ののったこくのある響きの再現はなかなかよかった。TA−E88は磨きのかかった……まるでクロームメッキの極上のバフ仕上げのような輝かしく、つるつるした感触の音という印象を他の機会に聴いてもっていたが、TA−N9との組合せでは、それがやや薄れる。しかし、パワーアンプをA級動作にすると、その感じがよく出てきたのが興味深かった。

サンスイ CA-F1, BA-F1

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 音のまとまりは大掴みにはとれているが、緻密とはいえない。ヴァイオリンやコーラスには少々荒さがあって雑然とした響きである。音の品位、魅力という点では、セパレートアンプとして、もう一つ、磨きをかけてほしいと思う。

KEF Model 103

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 いかにも英国の代表的スピーカーの音という感じの、輪郭の明快なサウンドが得られる2ウェイシステムだ。私の感覚ではちょっと小骨っぽいという印象だがそれだけ芯がしっかりしているともいえるわけで、むだなたるみのないすっきりとした端正な音が聴かれる。英国のオーケストラのサウンドにも共通するものといえる。

セレッション UL6

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 先ほどの分類からすれば後者に当る。本格的ホーンシステムの小型版のような音をもっている。ユニークな設計がなされたもので、音にもたつきがない。

ビクター S-W300

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 30cmウーファーと38cmドロンコーンを使ったスーパーウーファーで、別売のアクティブフィルターとの併用により豊かな超低域再生が可能なものだ。