Category Archives: 菅野沖彦 - Page 29

KEF Model 105 SeriesII

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 建築制限を受けて建てられたマンションのような形をした独特なシステムで、30cmウーファー、11cmスコーカー、5・2cmトゥイーターの3ウェイ3スピーカーシステム。各ユニットの位相を合わせるためのスタイルだが、あまり美的とはいえない。リスニング・ウィンドー・インジケーターがついていて、聴取位置にユニットの方向を正しく合わせるようになっているなど、いかにもマニアックな考慮がふんだんに払われた製品だ。音は立派なものである。エネルギーバランスは全帯域が落ち着いたバランスにまとまり、オーケストラの響きは堂々たるもの。各楽器や音楽の性格も大変よく再現し、雰囲気の豊かな生き生きとしたプレゼンスが得られる。気になる点は、ヴァイオリンの音がややきつく耳を刺す傾向のあることだ。ごく高い倍音領域の再生に精緻なきめの細かさが不足する。弦の高音が刺激性をもっていながら、細かい音色の味わいがなく、大味なのである。高音域の質感がより自然になれば、個人的にも好きになれるだろう。

総合採点:8

エリプソン 1303X

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 フランス・エリプソン社のユニークな製品群の中では最もオーソドックスなデザインといえるシステムだが、それでも十分ユニークだ。3ウェイ3スピーカーをトールボーイの密閉型に収めていて、ウーファーは17cm、スコーカーは13cmのそれぞれコーン型だ。トゥイーターは1・9cmドーム型。このユニット構成からもわかるように、フロアー型の形状ではあるが、内容としてはむしろ中型ブックシェルフの域を出ないわけで、大型システムの再生能力を期待すべきではない。実際の音も大変可憐な雰囲気で、軽やかに美しい響きがそよ風のように流れ出す……といった風情であった。ヴァイオリン・ソナタは、ちょっと他のスピーカーでは聴けない清楚な演奏になって興味深かった。このしなやかな美しさは魅力的だ。しかし、あまりにもその性格が強いため、もっと重厚な響きや鋭い刺激を要求する音楽では全く物足りない再生音に終ってしまう。また、能率が低いことも、ジャズやロックを聴きたい人には使いやすいとはいえない。

総合採点:7

ヤマハ FX-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 ヤマハのフロアー型の2作目で、第1作のFX1のシリーズモデルだが、実際の内容はむしろブックシェルフ型のNS1000の系統といえるだろう。36cmウーファーをベースにドーム型のスコーカーとトゥイーターを組み合わせた、3ウェイ3スピーカーのシステムで、エンクロージュアはバスレフ型。フロアータイプとしての音のまとまりは、FX1よりこなれていて、バランスのよい耳あたりの快い音に仕上っている。何を聴いても十分プログラムソースの特質を再生してくれるし、リニアリティも高く、繊細感からスケールの大きな迫力まで余裕をもってカバーする。一口にいって柔らかく暖かい美しい音であるが、いくつか気になったことがあった。その一つは、オーケストラのトゥッティで中低域にこもる帯域があって、これはドラムでも不自然な共振音のように感じられた。また、音像の輪郭がもう一つ明確ではなく、音の切れ味に不満がある。多彩な音色の綾が、もっと明解に再現されて欲しいという気がするのである。

総合採点:7

SUMO The Power

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

「ザ・パワー」とはよくつけた名前である。設計製作者のジム・ボンジョルノは、かつて、アンプジラを、テァドラを世に出した男で、アンプ作りの天才ともいわれるが、そのネーミングのセンスの奇抜さからも想像できるように、きわめて個性的な発想の持主だ。エンジニアとして型破りのスケールの大きな人間味豊かな男である。音楽好きで、自ら、ピアノを弾き、アコーデオンを奏でる。その腕前はアマチュア域を越えている。そして大変な食い道楽であり、ワインには滅法うるさい。話し出したら文字通り口角泡を飛ばして、止まるところを知らない情熱家だ。
 その彼が、新たに設立したスモ・エレクトリック・カンパニーから発売した一号機が、この「ザ・パワー」である。400W/チャンネルの大出力アンプであるがその内容もユニークだ。フォア・クォドラント差動平衡型ブリッジ回路という、このアンプの構成は、スピーカーをつないで鳴らしてみれば納得せざるを得ない。今までにない強力なパワーアンプなのである。スピーカーというものの実体を正しく把握して、スピーカーを勝手に動作させない……つまり、あくまで、スピーカーに与えられる音声エネルギーに忠実にスピーカーが動くように、いわば強制的にドライヴするアンプといってよいだろう。そのインピーダンスの周波数による変化や、振動板の動きから生じる慣性に影響されることなく安定して動作するアンプが、ボンジョルノの開発のポイントであった。アンプ内の回路構成はバランス型で、入力から出力まですべてブリッジアンプ構成とし、その4隅から同時にフィードバックをかけることにより、スピーカーをプラス側だけからドライヴするのではなく、マイナス側からもドライヴするべく、スピーカー端子にプッシュプル・フィードバックをかけるという考え方である。新開発のパワートランジスターをはじめ、使用パーツは入念にセレクトされ、そのほとんどが、米国軍用規格適合品を使い、シャーシはユニークなモノコック構造で組み上げられている。4組の独立電源部と10組の安定化電源、電圧・電流値・位相・温度の変化を自動検出し、異常時には100ナノセカンドの高速で回路をシャットしてアンプを保護する保護回路などを装備した超弩級のアンプである。かなりの大型のボディだが、重量は比較的軽く36kgである。大胆な外観からすると内部の作りは緻密で美しい。設計者自身、理屈より音だという通り、この「ザ・パワー」の音が、何よりも雄弁に、その名前の正当性を証明してくれるであろう。
音質について
 このアンプの音は、ひかえめにいっても、今までに聴いたことのない力と豊かさに満ちている。しかも、決して荒さや、硬さを感じさせるものではない。音としては、妖艶といってもよい。脂の乗った艶と輝きをもち、深々とした低音の魅力は他に類例のないものだといってよい。試聴に使ったJBL4343は、まるでブックシェルフの小型スピーカーのように手玉にとられ、アンプの思うように自由に鳴らされる、といった感じである。この、かなり個性と主張の強いスピーカーが、名騎手に乗り馴らされた荒馬のように素直に整然と鳴らし込まれてしまうのである。他のチャンスにアルテックのA5を鳴らした時もそうだった。あのA5から信じ難いほどの太く豊かで、深い低音が朗々と鳴ったのである。今回の試聴でも、ベース奏者が、他のアンプで聴くよりずっと指の力が強く、楽器を自在にコントロールしているように聴えた。中域から高域にかけても、常に肉のついた豊かさと血の通いが失せない。ヴァイオリンの高域のデリカシーということになるとやや大把みだが、しなやかで暖かい。

JBL 4333A

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 最もオーソドックスな3ウェイモニタースピーカーだ。音はあくまで精緻で正確無比、それでいて音楽の味わいを聴かせてくれるところが、やはりJBLの持っている良さである。

SAE Mark 2600

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 大掴みには立派な音で、明解な音像の鳴らし分け、ワイドレンジのスケールの大きなハイパワー再生と、豊かな能力をもった優れたアンプである。細かく聴くと、弦楽器に、どこか不自然な質感があること、ピアノの粒立ちがもっと細やかで冴えてほしいとこと。

マランツ Model Sm1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

特徴
 マランツといえば、その名は泣く子もだまるオーディオ界の名門。ソウル・マランツの手を離れ、広くバラエティに富んだ製品が、このブランド名の下で作られるようになった現在だが、トップエンド製品では、その血統を受けついだ優れた製品が作り続けられていることは喜ばしい。パワーアンプも、♯500、♯510は長くリファレンスアンプとしての信頼を維持してきたことは御存知の通りである。そのマランツから今度新しく発売されたSm1000は、現時点での新しいテクノロジーにより、400W/チャンネルのステレオパワーアンプで、同社のプレスティッジ製品としての力の入れようが理解出来る力作といえる。マランツの名声を受け継ぐことは名誉であると同時に重荷でもあるはずだが、この製品、決してそうした期待を裏切るものではない。もともと、ソウル・マランツはインダストリアルデザインに手腕を発揮した人だけに、そのデザインイメージの継承も、現在のマランツ・メンにとって大きな負担であるだろう。ゴールドパネルを基調とした高いクォリティは、往年のオリジナルモデルと同種の品位は感じられないにしても、よく、マランツのイメージを活かしていると思う。
 このSm1000は、オーソドックスなパワーアンプといってよく、その構成は、かつて、二台のモノアンプをドッキングしてステレオ構成とした♯15などのオリジナルにならい、左右独立構成をとっている。800VA容量のカットコア・トランスと20000μFの大容量コンデンサー2本をそれぞれのチャンネルに使った信頼感溢れる電源部を基礎に、全段プッシュプル構成のパワーブロックは透明で暖かいサウンドクォリティを保ちながら400Wの大出力をひねり出す。NF量も比較的少なくして、これだけのクォリティを得たことにも、音質重視の設計思想が理解できるだろう。スピーカー端子もダイレクト・コネクトで、保護リレーは使っていない。スピーカー保護は、一側フューズを切断する方法である。よく選び抜かれた素子やパーツを使い高い安定性を確保したDCアンプといえよう。
音質について
 音質は、大変ウォームな肌ざわりを持ったのだ。ゴールドフィニッシュの外観からは、もっと華麗な音が想像されるが、鳴らしてみると、しっとりと落着いた柔軟な音に驚かされる。ピアノには、もう一つ、しっかりした芯のある粒立ちが欲しいという気がしたが、しなやかなヴァイオリンの魅力にはうっとりさせられた。甘美な個性ととれなくもないが、決して、その個性は癖というほど強いものではない。むしろ、これは、レコードの個性を素直に再現した結果と思われる。とかく、冷たい、ガラスを粉々にしたような鳴り方になりがちな大聴衆の拍手の音を聴いてみたが、このアンプでは決してうるさくならず、自然な拍手の量感が得られた。オーケストラもウィーン・フィル特有の繊細で艶のある、滑らかな弦の音がよく生きて楽しめた。
 ジャズでは400W/チャンネルの力感を期待したが、それは、やや肩すかしを食った感じであった。JBLの4343が、どちらかというと、きれいに鳴らし込まれる方向であった。ベースは明快によく弾むのだが、もう一つ豊かさが出てほしいし、チャック・マンジョーネのブラスには、もっと輝きのあるパンチの利いた音が欲しかった。400Wを量的に期待した話ではなくその音質面での力感が、少々物足りなかったのである。「ダイアローグ」のベースとドラムスのデュオにおける、バスドラムのステージの床に共鳴するサブハーモニックス的量感ももう一つ大らかにどっしりと、床の広さを感じさせるような響きが欲しかったと思う。

サンスイ AU-D907 Limited

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 オーディオ専門メーカーとしてのサンスイの評価には、その知名度の点でも、信頼性の点でも、確固たるものがある。俗にオーディオ御三家と呼ばれる、トリオ、パイオニアとともに、日本の伝統的なオーディオメーカーとしてファンの信頼も厚い。そのサンスイの製品のラインアップの中で、最も好評なのが、プリメインアンプの分野である。逆にいうと、他の分野が、サンスイらしからぬ、といえるほどだ。御承知のように、アンプの最高ランクとしては、セパレートタイプであって、プリメインアンプは一般に中級ランクの製品として認識されている。しかし、ププリメイン型が中級ランクとして止まらざるを得ない限界があるわけではなく、現在のアンプ技術をもってすれば、プリとパワーを一体にすることによって、どうしても達成できない難問は、大きさと重さ以外にはないといってもよいだろう。したがって、プリメインアンプのステート・オブ・ジ・アートが誕生しても、何の不思議もないのであるが、どうしても、先に書いたプリメインアンプの市場で位置づけが、この分野から、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれる製品の誕生を阻む傾向にあるようだ。その意味でも、今回、サンスイのAU−D907リミテッドが、ステート・オブ・ジ・アートとして選ばれたことは喜ばしいことといえるであろう。
 AU−D907リミテッドは、その名の示すように、AU-D907の限定モデルであって、詳しい数字は知らないが、多分、1000台ほどに限って生産されるモデルであるという。メーカーの商品というものは、市場での競争力もあって、こうすればいいとわかっていても、コストの制約で妥協せざるを得ないという要素が多い。特に、プリメインアンプのように、その商品性が、比較的、一般性のある価格帯のものについては、この傾向が強いと思われる。AU-D907も、高い評価の確立したプリメインアンプであったが、そのよさを、もう一歩、徹底させた製品を作り出したいという技術者の情熱が、このモデルの誕生の背景になったと推測出来るのである。このアンプは、いかにも、物マニアックな心情を満たしてくれるに足りる、密度の高い個体として完成した製品で、ひょっとしたら、AU-D907のファンこそが、もう一台欲しくなるような製品だというような気もするのである。サンスイのプリメインアンプに傾注してきた技術が凝縮したアンプとして魅力充分な製品に仕上っている。細かいことをカタログから引写せばいくらでもあるが、それは興味のある方にメーカーへカタログ請求していただくことにしたい。
 一つのものが、時間をかけて、愛情をもって練り上げられると、不思議に、そのものの個性が磨きをかけられて、強い主張として、見る者、触れる者に訴えかけてくるものである。このAU-D907リミテッドには、そうした熟成した魅力がある。例えは悪いかもしれないが、新製品にはどこかよそよそしい、床屋へ行きたての頭を見るようなところがある。きれいに整ってはいるが、どこか、しっくりこないあれだ。AU-D907リミテッドにはそれがない。刈ってから一〜二週間たって自然に馴染んだ髪型を見るような趣きをもっている。中味を知って、音を聴けば、一層、その観が深まるであろう。
 しっかりした腰のある音は、サンスイの特色ともいっていいが、それが、しなやかな二枚腰とでもいいたいような粘りをもった、深々としたサウンドである。音の輪郭は明確だが、決して、鋭いエッジとしてではなく、立体のエッジとしてのそれである。奥行きのプレゼンスまで豊かに再生するので臨場感があって音楽の空間に共存するリアリティを感じることが出来る。
 木枠に収ったブラックマシーンだが、その肌ざわりは暖かく重厚で中に音楽がぎっしりつまっているような錯覚の魅力。これが、このアンプの個体としての魅力なのではないか。オーディオの好きな人間は、そうした心情を製品に感じたいものなのではないだろうか。

マランツ Ma-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 パワー感は充実し、信頼性の高いハイレベル再生が可能で、大掴みには堂々たる再生音だ。Aクラスでは良いのだが、ノーマルなBクラスでは、高音域のキメの細かさに欠ける。中域に一種の癖が感じられ、ボコボコした出張りのように印象づけられる。

GAS Godzilla A

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 クラスAの〝ゴジラ〟は、なめらかで明るいサウンドを満喫させてくれる。ヴァイオリンはなめらかで細かい音もよく出る。中域にややかげりがあるが、ピアノの音も美しい。大振幅でパワーにやや不足を感じるが、音の力感は充分。4343を牛耳る。

マイケルソン&オースチン TVA-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 細やかな音色も明解に、ニュアンス豊かに再生し、ほどよい帯域バランスが、なにを聴いても安定感のあるウェルバランスを感じさせる。それだけではなく、このアンプの音は実に魅力的で音楽の愉悦感を感じさせてくれる。暖かく艶のある血の通った音。

アムクロン M-600

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 全体に感じられる音の感触は、大変ホットな感じ。華麗で力強い高音域は、やや無機的だが、目がさめるような鮮かさを聴かせる。その反面、細やかなニュアンスや瑞々しさには欠けるようで、柔らかいグラデーションは期待できない。低域は豊かだが重い。

ビクター M-7050

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 よくまとまったアンプだ。シェリングのヴァイオリンの音色も妥当だし、美しさの中に、時折、垣間見せる毅然とした一種の厳しさも出る。鮮烈な高音域も冴えるし、丸味のあるソースでは柔らかい響きもその通り再生する優等生。ジャズの力強さも大丈夫。

Lo-D HMA-9500MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 HMA9500もいいアンプだったが、その特性をさらに一ランク上げた製品。しかし、ヴァイオリンでは、やや高音が刺す感じ。そしてピアノも、もう少し明解な粒立ちが欲しい。バランスのいいワイドレンジの高品位な音ながら、いま一つ魅力に欠ける。

オーレックス SY-Λ88

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 オーレックスはSY88でコントロールアンプの評価を確立したが、その後、SY99という、こりにこった製品を発売し話題となった。そして、今度、SY88のニューモデルとしてSY−Λ88を発売したのだが、このコントロールアンプは、デザインこそ、SY88を受け継ぐものといえるが、中味は全く新しい、別機種と見るべき製品だと思う。パネルデザインや、モデル名からは、つい、SY88のマークII的存在として受け取られてしまうだろうが、オーレックスの意図がどういうものか? SY88の好評の上に展開したかったのだろうが、私には少々納得しかねる部分もある開発姿勢である。それはともかく、この新しいSY−Λ88は、コントロールアンプとしての追求の一つの徹底した姿を具現化した製品として注目に価する内容をもっている。現在のDCアンプの隆盛は、DCアンプなるが故の諸々の不安定要素を、電子的なサーボコントロールによって高い安定性をもつように補正しているのに対し、このΛ88は、その複雑さを嫌いサーボレスのDCアンプとしたのが特色である。信号系や接点を極力減らすことにより、よりピュアーな伝送増幅をおこなおうという思想が、この製品のバックボーンなのである。そのため、アンプ段数も、3段直結とし、レコード再生系の接点もMMイコライザーアンプの入出力部に並列接続された2接点の切替スイッチだけとなっている。こうした考え方は、全体の構成、パーツにも及び、出来る限りストレートに信号がアンプ内を通過するよう配慮がゆき届いている。Λの名称が示す通り、回路の要所にはふんだんにラムダコンデンサーが使われるなど、使用パーツにも細心の注意をはらって完成されたアンプといえるだろう。コンストラクションとしては左右チャンネルの干渉を嫌ったモノーラルアンプ構成をとり、電源トランスも左右独立させ、同社の発表によれば、10kHzで90dBという値で、これはSY88より10dB以上の改善であるという。ファンクションとしてはフォノ2系統で、うち一つはMCヘッドアンプとなっている。シンプルにまとめられているが、コントロールアンプとしての機能にも不足はない。価格ほどの高級感溢れる魅力的なデザインかどうかは疑問だが、仕上げはていねいだ。地味ながら、充実した内容をもったコントロールアンプといえるだろう。
音質について
 ところで音のほうだが、一口でいえば、素直でおとなしいよさはあるが、特に魅力的なフレーバーも感じられない。歪の少ない、きれいな音がする。しかし反面、もっとカラッと明るく抜けた鳴り方をすべきレコードにも、どこか内省的で、豊饒さの足りない響きに止ってしまうところがある。中低音の厚味や、朗々とした響きに欠けるのである。そのために、ヴァイオリンなどはしなやかで繊細な美しさがよく再現されるが、ピアノの左手になると物足りない。特に試聴したモーツァルトのソナタのように、左手が中低音から中音の音域を奏でるものではこれが目立つ。ジャズ系のソースでは鮮烈な響きがもう一歩満足させるまで出てこないので、一層、物足りなさを感じる。トーンコントロールがないのでこうした傾向を簡単に補正して聴けなかった。MCヘッドアンプは、少々神経質な高音が気になった。SN比は大変いいし、明快なオーケストラの分解能も聴かせる優れたアンプだと思うのだが、もう一つ、強く印象づけられるものがなかったのはSY99と好対照的だ。あの力強さと艶のある音が、このアンプからも聴けることを期待したのだが……。しかし、刺激的な音が絶対に出てこないし、かなりのハイクォリティ・アンプにはちがいない。弦楽器の好きなクラシックファンには受け入れられる製品だろう。

オーディオリサーチ SP-6A, D-79

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 独特の粘りのある音で、モーツァルトのソナタが艶っぽく肉体的な響きで鳴る。シェリングがこんな脂の乗った音で聴こえたことはかつてない。往年のフーベルマンの音のようだ。ジャズのベースも重々しく図太い響きで、これはこれで個性的な音の魅力がある。

ヤマハ HA-2 + C-2a, BX-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 非常に鮮度の高い音で、ヴァイオリンの細かい音やピアノの粒立ちを克明に聴くことができる。音全体の感触にエネルギッシュで肉厚な充実感がある。解像力がいいが、決して弱々しい繊細な音ではなく、高音にもしっかりした肉付きを感じる。ジャズも血が通っている。

テクニクス SU-A4, SE-A3

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 柔らかい音だが、やや、もたつきも感じられる性格。ヴァイオリンのボーイングの細かいタッチがよく出ないし、音像の角が丸くなってしまう傾向がある。どうも、コントロールアンプにこの傾向が強く、パワーは仲々力強く弾力性のある堂々とした音だ。

パイオニア C-Z1, M-Z1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 NFBという素晴らしい回路技術のおかげで、オーディオアンプは大きく発展してきた。まるで、マジックともいえるこの回路のもたらした恩恵は計り知れないものがある。特にトランジスターアンプにおいては、このNFB回路なしでは、今日のような発展の姿は見られなかったであろう。出力信号の一部を入力段にもどし、入力信号と比較して、入出力信号波形を相似にするという、このループ回路の特効を否定する人はいないだろう。位相ずれによる不安定性も発振の危険の可能性は常に指摘されていることだが、巧みな回路の使い方をすれば、事実、現在のような優れたNFBアンプが存在するわけだし、その音質も充分満足出来るものになっている。オーディオに限らず、ものごとすべて、表裏一体、メリットもあれば、デメリットもある。要は、そのバランスにあるといえるだろう。目的に沿ってメリットが大きければ結構。メリットと思えても、その陰に、より大きなデメリットがひそんでいたら要注意というものだ。オーディオ機器が、ここまで進歩して、微妙な音質の追求がなされてくると、ありとあらゆる問題点を解析して、細部に改善のメスが入れられて、よりパーフェクトなものへのアプローチがおこなわれるようになる。そして、その姿勢もまた大変重要なことなのだ。これで充分という慢心こそは、最も危険であり悪である。
 パイオニアが発売したC−Z1、M−Z1というセパレートアンプは、まさに、この姿勢の具現化といってよいだろう。思想としては、NFBを否定したわけではないだろうが、たしかに、その問題点ゆえに、ノンNFBアンプを開発したからである。入力信号とNFBループ進行との時間差によって発生する諸々の動的歪が現在大きな問題として議論されている中で、このループを取り払って、裸のアンプを商品化してくれた事は、かなりショッキングなことにちがいない。今までになかった試みでは勿論ない。しかし、ここまでの特性のノンNFBアンプは商品として初めてである。その鍵は、きわめて独創的な発想によるスーパー・リニア・サーキットと同社が称する新回路の開発にある。簡単にいってしまえば、もともと、半導体素子のもっている固有の非直線性を、逆特性の非直線性により完全に吸収して優れた直線性を得る回路である。トランジスターの非直線性が見事にそろっていることを逆手に利用した興味深い回路に、これが大いに活かされている。このノンNFBアンプのメリットは、いうまでもなくNFBループに起因する問題は全くないし、安定したNFBをかけるために必要とされる複雑な回路も必要がないことだが、それだけに、基本的に良質のアンプを作らないと、パーツや構造の問題が率直に音に現われてくるものだろう。ガラスケース電解コンデンサー、非磁性体構造、ガラスエポキシ140μ厚銅箔基板などの採用は、こうした観点から充分納得できるものだ。
C−Z1の特徴
 C−Z1は、ユニークな縦長の、M−Z1と同形のコントロールアンプで、フロントパネルにスモークドガラスが使われ、内部の素子が透視出来るというマニアライクなもので操作スイッチ類はフェザータッチの電子式によるもの。スイッチ切替えの雑音発生は全くない。機能は簡略化され、コントロールアンプとしてユニバーサルなファンクションは持たないが、トーンコントロール、サブソニックフィルターなどの必要最少限のものは備えている。MCヘッドアンプも内蔵していない。当初から高級マニアを意識した開発ポリシーである。先にも述べたように、負荷抵抗値の変化で利得が変るノンNFBアンプの特性を利用した独特なCRタイプのカレント・イコライザーも興味深い。このアンプの形状は、パワーアンプと違って、コントロールアンプとしては必ずしも好ましいとは思えない。無理にパワーと同形にすることもなかったような気がする。
M−Z1の特徴
 M−Z1パワーアンプは、前述したノンNFBループの60WのオーソドックスなモノーラルA級アンプで、入力から出力まで全段直結回路で構成されているという純粋派の代表のような製品である。コントロールアンプ同様、中点電圧の変動はダブルロックド・サーボ・レギュレーターで二重に安定化が計られている。電源部はインピーダンスを低くとるため2個をパラレル接続して使われている。アルミ・ブラックパネルのヘアーライン仕上げという、最近のパイオニアの高級機器が好んで使い始めたフィニッシュが、フロントパネルのみならず全体に使われているというこりようだが、個人的にはあまり好ましいフィニッシュとは感じない。こったほどには品位の高さが出ないように思う。コントロールアンプ同様、フロントパネルにはスモークドガラスが使われているが゛何が見えるのかと思ってのぞくと、なんのことはないトランスケースにプリントされた結線図だった。20ポイントのLEDによるパワーインディケーターは、数秒間ピークホールドして見やすいものだ。
C−Z1+M−Z1の音質について
 ところで、このC−Z1、M−Z1の音だが、まず感じることは、音の密度の高いことだ。まるで粒子の細かい写真をみるように緻密なのである。楽器の質感が、出過ぎるほどリアルに出る。そのために、プログラムソースの長所も弱点も、余すことなく出てくるという感じで、荒れたソースが適度にやわらかく丸く再現されるというような効果は期待できない。60Wとは思えないパワー感で、音が前面に貼り出してくる。曖昧さの全くない、骨格と肉付きのしっかりした充実したサウンドだ。

ステート・オブ・ジ・アート選定にあたって

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「Hi-Fiコンポーネントにおける第2回《STATE OF THE ART賞》選定」より

 昨年にひきつづき、第二回の〝ステート・オブ・ジ・アート〟の選定に参加した。第二回は、第一回選定以後発売されたものから選ぶことになるので、その数は少なかろうと予想したのだが、実際には、かなりの数の製品が選ばれることになった。とはいうもの、第一回が、それまでのすべての製品からの選定で、今回は一年間の製品が対象だから、比較すれば1/3以下の数量である。海外と国産とが半分ずつという結果になった。結果は、それぞれの選考の個人推薦と総意とバランスが、まずまず妥当なところにまとまったように思われる。私の場合、ノミネートした製品で、選定にもれたものを再考してみると、それなりに理由が納得できて、〝ステート・オブ・ジ・アート〟とするからには、このぐらい厳選されてしかるべきだと思えてくるものが多かった。強いていえば、ケンウッドのL07Dプレーヤー、Lo−DのD3300Mカセットデッキの2機種が選外になったことが惜しまれる。かといって選に入ったものについては、とりたてて文句のないものばかりであるからいたしかたない。
 第一回(49号)でも述べたことなのだが、〝ステート・オブ・ジ・アート〟という言葉通りに厳選するとなると、ごく少数の製品しか入らない。そして、この言葉の定義そのものが人によっても違うだろうから、選定の基準というものを明確にして、これ以上は入選、以下は落選というボーダーラインはひきにくい。私個人としては、この言葉をかなり厳しいニュアンスで受け取っているのだが、実際アメリカ雑誌などで使われているニュアンスは、お買徳優秀品程度のことでがっかりさせられるような製品にまで、この栄冠が与えられているようだ。本誌の〝ステート・オブ・ジ・アート〟は、それからすると、はるかに高い次元で厳選されていると思う。そして、そのレベルを上げることがあっても、下げることはないものと確信している。技術の先進性と同時に信頼性、ある種の普遍性にまで高められた個性的主張、つまりオリジナリティ、最高の品位をもった作りと仕上げ、こうした条件は、そのメーカーの技術力と精神性を厳しく問われることになる。そして、商品としてユーザーの信頼に応え得るものでもなければならないだろう。今は消え去った往年の名器を選ぶのとは意味が違う。商品としてユーザーの信頼に応え得るものとは、製品のクォリティのみならず、それを販売する流通経路のクォリティも問題だ。そしてもちろん、アフターケアーがこれに伴う。このような総合的見地からの〝ステート・オブ・ジ・アート〟の選出となると慎重にしすぎて、しすぎることはない。しかし、そこまで責任はもてないまでも、選者としては、まず自分がほれ込める製品化どうかということは純粋に一つの尺度にしているつもりだ。いうまでもなく、オーディオ・コンポーネントのあり方というのは多極性をもっている。スペシフィケイション、データで示される数字は、その足がかりになっても、ほとんどそ既製品の何ものをも語ってくれない。ましてや、質や性格といったものは、きれいに刷られたカタログ写真に及ばない。「ステレオサウンド」誌式のテストリポートで(今号でもセパレートアンプについて、私も担当しているが)、できるだけそれを読者に伝えようという努力をしているが、この〝ステート・オブ・ジ・アート〟の選考は、いわば、そうした姿勢を通して、真に推薦に足りると思える製品を厳選し、これだ!! と決めつけるわけだから、かなり荷の重いことにちがいない。第一回で選ばれた49機種に、この第二回の選考を通過した17機種を加えた中で、さらに個々の読者によって好き嫌いのはっきりした製品が選り分けられるほど、いろいろな傾向のものが入っているのは曖昧だともいえるし、オーディオ機器のあり方の複雑さと難しさを物語っていそうで興味深い。

オンキョー Integra P-306, Integra M-506

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 大変きれいな音色で、解像力もいいし、プレゼンスも豊かに再現される。透明感もあるし、音像の立体感も立派だ。欲をいうと、ひとつ湿った感じがソースによって気になることだ。荒々しさが、美化されてしまう傾向といってもよい。いつも濡れた艶がつきまとう。

ラックス C-5000A, M-4000A

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 ある種の雰囲気をもったどちらかというと内政的な音で、中高域の冴えがなく中低域以下が豊かだ。風格のある充実した音だが、音楽の内容によっては、もっと明るく、張り出した響きが欲しい。ワイドレンジで力もある音なのだが、少々しぶ味がある感じ。

デンオン PRA-2000, POA-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 デンオンが、その技術を結集して完成したセパレートアンプの最新作である。このところ、セパレートアンプの分野において、デンオンには特に注目されるモデルがなかっただけに、今度の製品にかけた情熱と執念は相当なもので、内容・外観共に入念の作品が出来上ったことは喜ばしい。どの角度から見ても、現時点での最高級アンプと呼ぶにふさわしいものだと思う。
PRA2000の特徴
 PRA2000は、コントロールアンプの心臓部ともいえるイコライザーアンプに、現在最も一般的なNF型を採用せず、CR型を基本とした無帰還式の回路を用いているのが技術的特徴である。リアルタイム・イコライザーと同社が称するようにNFループをもたないから、過渡歪の発生が少なく、高域の特性の安定性が確保され、イコライザー偏差は20Hz~100kHzが±9・2dBという好特性を得ている。従来からのNF型に対してCR型イコライザーのよさは認められてはいたが、SN比や許容入力、歪率などの点で難しさがあった。しかし、今度、PRA2000に採用された回路は、ディバイスの見直しと選択によって、CR型イコライザーの特性を飛躍的に発展させている。構成は新開発のローノイズFETによるDCリニアアンプ2段を採り、初段のFETはパラレル差動させSN比を大幅に改善、カスコード・ブートストラップ回路により高域における特性を確保し、電源の強化とハイパワー・ハイスピード・トランジスターと相まって広いダイナミックレンジを得ているのである。イコライザーアンプの出力はバッファーアンプを介さず直接、DCサーボ方式のフラットアンプに送られるが、このフラットアンプのローインピーダンス化によりSN比の改善、スルーレイトの悪化等による特性劣化も防いでいる。10kΩという低いインピーダンスのボリュウムが使われ、フラットアンプの出力インピーダンスは、100Ωという低い値である。独自のサーボ帰還回路により専用サーボアンプを持たせることなく、安定したDC回路と高いSN比を得ているのである。電源部は、五重シールドの大型トロイダルトランスで50VAの容量をもつものだ。シンメトリカルの内部コンストラクションは、細かいところにも入念な構成がとられ磁気歪や相互干渉の害を避けている。22石構成のローノイズ・トランジスターによるMCヘッドアンプも安定化電源をヘッドアンプ基板内に備え電源インピーダンスを小さくおさえるなど、専用の独立型ヘッドアンプ並みの手のかかったものである。
 フォノ入力3回路、チューナー、AUXなどの入力ファンクション切替えスイッチなどはソフトタッチの電子式リードリレーであるが、プリセット機構と連動し、パワー・オンの時には優先選択機能を果すし、スイッチ切替え時はワンショット・トリガー回路の働きで、一時的に出力が遮断されるので、きわめてスムーズで安定した操作が楽しめる。これらのスイッチ類は、すべて開閉式のサブパネルに装備され、常時パネル状に露出しているのは、パワースイッチとボリュウムコントローラーだけである。そのため、使い易さもさることながら、デザイン上も、きわめてシンプルな美しさをもち、木製キャビネットの仕上げの高さと共に、普遍的な美観をもっていると思う。
PRA2000の音質
 音質は明晰で、鮮度の高いもので、大変自然で屈託のない再生音の感触が快い。POA3000との組合せでの試聴感は後で記すが、このコントロールアンプ単体で聴いた感じではやや低域の力強さに欠ける嫌いもなくはない。しかし、これはパワーアンプやスピーカーとのバランスで容易に変化し、補える範囲のもので特に問題とするにはあたらない。
POA3000の特徴
 パワーアンプPOA3000は定格出力180W/チャンネルの高効率A級アンプである。スイッチング歪を発生しないA級アンプ動作であるが、その無信号時に最大となる電力ロスを独自の方式で改善を計り、高効率としたものだ。パワートランジスターのアイドリング電流を入力信号に応じてコントロールするもので、動作としては、きわめて合理的なA級アンプである。最大出力時には純A級アンプと同じ電力ロスだが、無信号時のロスはゼロとなるようになっているので、変動の大きい音楽の出力状態においては、大変合理的なパワーロスとなる。アイドリング時にも若干の固定バイアス電流を流し、バイアス電流を常に信号電流より先行させるようにコントロールして、トランジスターのカットオフを生じさせないというものだ。1000VA容量の大型トロイダル電源トランスと10000μFの大容量コンデンサーの電源とあるがこのトランスのLチャンネル/Rチャンネルは別巻で前段にはEI形のトランスを持っている。大型ピークメーターをフロントパネルの顔としたデザインは特に新味のあるものとはいえないが、その作り、材質の高さから、高級アンプにふさわしいイメージを生んでいる。
POA3000の音質
 POA3000は低域の豊かで力感溢れるパワーアンプで、PRA2000との組合せにより、きわめて優れたバランスのよい品位の高い音質が聴かれた。透明な空間のプレゼンス、リアルな音像の質感は自然で見事だ。ヴァイオリンの音色は精緻で、基音と倍音のバランスが美しく保たれる。ピアノの粒立ちも明快で、輝かしい質感の再現がよかった。演奏の個性がよく生かされ、私が理解している各レコードの個性的音色は違和感なく再現されたと思う。ハイパワー・ドライブも安定し、ジャズやフュージョンの再生は迫力充分だし、小レベルでの繊細感も不満がなかった。
 MCヘッドアンプは、やや細身になるが、SN比、質感は大変よい。

テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 前号に引き続き、セパレートアンプを試聴した。セパレートアンプ全体にいえることであるが、パワーアンプに優れた製品が多いのに比較して、コントロルアンプが劣るという傾向は相変らずであった。今回はコントロルとパワーがペアで開発されたものを7種類、単独のものを、コントロールアンプ1機種とパワーアンプ10機種の試聴であった。このように、数の上でも、パワーアンプに対して、コントロールアンプは少ない。ペアのものは、その組合せで試聴し、単独のものは、リファレンスにコントロールアンプはマッキントッシュのC29、パワーアンプにSUMOの〝ザ・パワー〟を私は使った。ステレオサウンド誌の試聴室において前回と同様のプログラムソースを使って試聴したが、実際には、他の機会に、これらの製品を試聴した時の体験も折りまぜてリポートする形となったと思う。特にペアのものについては、コントロールとパワーの組合せを変えることによって、評価が変ることもあり得るので、本当は、ありとあらゆる組合せをやってみて評価を決めることが、セパレートアンプについては必要かもしれない。しかし、限られた時間ではとても無理な作業なので、一応、こういう形をとったことをご了承願いたい。ここで、そうした別の機会に試聴した体験を少々書き加えることによって、私の短い試聴メモの補足とさせていただこうと思う。
 面白いことに、ペアで開発された製品のほとんどが、その組合せをもって最高としないことである。これが、セパレートアンプの面白さと意味合いの一つであるともいえるだろう。デンオンのPRA2000とPOA3000、パイオニアのC−Z1とM−Z1はよく組み合わされた例といえるが、それでも、私の体験だと、POA3000はマッキントッシュのC29で鳴らしたほうがずっといいし、C−Z1はSUMOの〝ザ・パワー〟で鳴らすと、また格別な音を聴かせてくれる。もちろん、PRA2000はいいコントロールアンプだし、M−Z1は抜群のパワーアンプで、これらには、きっと、別のベストな組合せをさがすことが出来るだろ。オンキョーのP306というコントロールアンプも、〝ザ・パワー〟とつないで鳴らした時に大変素晴らしく、本来、M506とのペアでのサーボ動作まで考えて開発されたものでありながら、別の使い方で、さらに生きるということがおこり得るのである。
 今回の試聴でびっくりするほどよかったのがマッキントッシュC29とオースチンのTVA1の組合せであった。パワーこそ70W+70Wと大きいほうではないが、その音の充実感と豊かなニュアンスの再現は、近来稀な体験であったことをつけ加えておきたい。スレッショルドの〝ステイシス1〟というアンプの美しい音に惚れ込んだけれど、このアンプを鳴らすには、どうやら、C29以外に、より適したコントロールアンプがありそうな気がしたのである。まだ試みていないから、なんともいえないが、〝ステイシス1〟のもつ、どちらかというと贅肉がなく、きりっと締って繊細に切れ込む音像の見事な再現はC29とは異質なところがあると感じるからだ。しかし、こればかりは、実際に音を出してみなければ解らないことなのだからオーディオは面白く厄介だ。
 アンプの特性は、まさに、桁違いといってよいほど向上しながら、このように、音の量感や色合いに差があって、音楽を異なった表情で聴かせるということは、今さらながら興味深いことだと、今回の試聴でも感じた次第である。

スレッショルド STASIS 1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 キメの細かい、繊細なテクスチュアーを美しく再現して聴かせる品位の高いアンプだ。ヴァイオリンの響きの可憐な風情が、このアンプで聴いた時だけ印象に残った。透明感と解像力の高い音といってしまえばそれまでだが、加えて、本機には感覚の冴えがある。