オーレックス SY-Λ88

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 オーレックスはSY88でコントロールアンプの評価を確立したが、その後、SY99という、こりにこった製品を発売し話題となった。そして、今度、SY88のニューモデルとしてSY−Λ88を発売したのだが、このコントロールアンプは、デザインこそ、SY88を受け継ぐものといえるが、中味は全く新しい、別機種と見るべき製品だと思う。パネルデザインや、モデル名からは、つい、SY88のマークII的存在として受け取られてしまうだろうが、オーレックスの意図がどういうものか? SY88の好評の上に展開したかったのだろうが、私には少々納得しかねる部分もある開発姿勢である。それはともかく、この新しいSY−Λ88は、コントロールアンプとしての追求の一つの徹底した姿を具現化した製品として注目に価する内容をもっている。現在のDCアンプの隆盛は、DCアンプなるが故の諸々の不安定要素を、電子的なサーボコントロールによって高い安定性をもつように補正しているのに対し、このΛ88は、その複雑さを嫌いサーボレスのDCアンプとしたのが特色である。信号系や接点を極力減らすことにより、よりピュアーな伝送増幅をおこなおうという思想が、この製品のバックボーンなのである。そのため、アンプ段数も、3段直結とし、レコード再生系の接点もMMイコライザーアンプの入出力部に並列接続された2接点の切替スイッチだけとなっている。こうした考え方は、全体の構成、パーツにも及び、出来る限りストレートに信号がアンプ内を通過するよう配慮がゆき届いている。Λの名称が示す通り、回路の要所にはふんだんにラムダコンデンサーが使われるなど、使用パーツにも細心の注意をはらって完成されたアンプといえるだろう。コンストラクションとしては左右チャンネルの干渉を嫌ったモノーラルアンプ構成をとり、電源トランスも左右独立させ、同社の発表によれば、10kHzで90dBという値で、これはSY88より10dB以上の改善であるという。ファンクションとしてはフォノ2系統で、うち一つはMCヘッドアンプとなっている。シンプルにまとめられているが、コントロールアンプとしての機能にも不足はない。価格ほどの高級感溢れる魅力的なデザインかどうかは疑問だが、仕上げはていねいだ。地味ながら、充実した内容をもったコントロールアンプといえるだろう。
音質について
 ところで音のほうだが、一口でいえば、素直でおとなしいよさはあるが、特に魅力的なフレーバーも感じられない。歪の少ない、きれいな音がする。しかし反面、もっとカラッと明るく抜けた鳴り方をすべきレコードにも、どこか内省的で、豊饒さの足りない響きに止ってしまうところがある。中低音の厚味や、朗々とした響きに欠けるのである。そのために、ヴァイオリンなどはしなやかで繊細な美しさがよく再現されるが、ピアノの左手になると物足りない。特に試聴したモーツァルトのソナタのように、左手が中低音から中音の音域を奏でるものではこれが目立つ。ジャズ系のソースでは鮮烈な響きがもう一歩満足させるまで出てこないので、一層、物足りなさを感じる。トーンコントロールがないのでこうした傾向を簡単に補正して聴けなかった。MCヘッドアンプは、少々神経質な高音が気になった。SN比は大変いいし、明快なオーケストラの分解能も聴かせる優れたアンプだと思うのだが、もう一つ、強く印象づけられるものがなかったのはSY99と好対照的だ。あの力強さと艶のある音が、このアンプからも聴けることを期待したのだが……。しかし、刺激的な音が絶対に出てこないし、かなりのハイクォリティ・アンプにはちがいない。弦楽器の好きなクラシックファンには受け入れられる製品だろう。

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