マランツ Model Sm1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

特徴
 マランツといえば、その名は泣く子もだまるオーディオ界の名門。ソウル・マランツの手を離れ、広くバラエティに富んだ製品が、このブランド名の下で作られるようになった現在だが、トップエンド製品では、その血統を受けついだ優れた製品が作り続けられていることは喜ばしい。パワーアンプも、♯500、♯510は長くリファレンスアンプとしての信頼を維持してきたことは御存知の通りである。そのマランツから今度新しく発売されたSm1000は、現時点での新しいテクノロジーにより、400W/チャンネルのステレオパワーアンプで、同社のプレスティッジ製品としての力の入れようが理解出来る力作といえる。マランツの名声を受け継ぐことは名誉であると同時に重荷でもあるはずだが、この製品、決してそうした期待を裏切るものではない。もともと、ソウル・マランツはインダストリアルデザインに手腕を発揮した人だけに、そのデザインイメージの継承も、現在のマランツ・メンにとって大きな負担であるだろう。ゴールドパネルを基調とした高いクォリティは、往年のオリジナルモデルと同種の品位は感じられないにしても、よく、マランツのイメージを活かしていると思う。
 このSm1000は、オーソドックスなパワーアンプといってよく、その構成は、かつて、二台のモノアンプをドッキングしてステレオ構成とした♯15などのオリジナルにならい、左右独立構成をとっている。800VA容量のカットコア・トランスと20000μFの大容量コンデンサー2本をそれぞれのチャンネルに使った信頼感溢れる電源部を基礎に、全段プッシュプル構成のパワーブロックは透明で暖かいサウンドクォリティを保ちながら400Wの大出力をひねり出す。NF量も比較的少なくして、これだけのクォリティを得たことにも、音質重視の設計思想が理解できるだろう。スピーカー端子もダイレクト・コネクトで、保護リレーは使っていない。スピーカー保護は、一側フューズを切断する方法である。よく選び抜かれた素子やパーツを使い高い安定性を確保したDCアンプといえよう。
音質について
 音質は、大変ウォームな肌ざわりを持ったのだ。ゴールドフィニッシュの外観からは、もっと華麗な音が想像されるが、鳴らしてみると、しっとりと落着いた柔軟な音に驚かされる。ピアノには、もう一つ、しっかりした芯のある粒立ちが欲しいという気がしたが、しなやかなヴァイオリンの魅力にはうっとりさせられた。甘美な個性ととれなくもないが、決して、その個性は癖というほど強いものではない。むしろ、これは、レコードの個性を素直に再現した結果と思われる。とかく、冷たい、ガラスを粉々にしたような鳴り方になりがちな大聴衆の拍手の音を聴いてみたが、このアンプでは決してうるさくならず、自然な拍手の量感が得られた。オーケストラもウィーン・フィル特有の繊細で艶のある、滑らかな弦の音がよく生きて楽しめた。
 ジャズでは400W/チャンネルの力感を期待したが、それは、やや肩すかしを食った感じであった。JBLの4343が、どちらかというと、きれいに鳴らし込まれる方向であった。ベースは明快によく弾むのだが、もう一つ豊かさが出てほしいし、チャック・マンジョーネのブラスには、もっと輝きのあるパンチの利いた音が欲しかった。400Wを量的に期待した話ではなくその音質面での力感が、少々物足りなかったのである。「ダイアローグ」のベースとドラムスのデュオにおける、バスドラムのステージの床に共鳴するサブハーモニックス的量感ももう一つ大らかにどっしりと、床の広さを感じさせるような響きが欲しかったと思う。

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